むかしむかし、ここではない世界のとある場所に
たくさんの悪魔が暮らす国がありました。
しかし悪魔の国と言ってもいたって平和で
余裕なのか興味がないのか、そこは他国との戦争も侵略もなく
入ってくる人間も悪魔もある程度なら拒まなかったという
悪魔の国だというのにそんなのんきな国がありました。
そんな国にある日1人の悪魔が生まれました。
いえ、生まれたと言うよりも作られたと言った方が正しいかも知れませんが
とにかくその悪魔は人に似た外見をしている
今までにない可能性と未来を持つ、とても珍しい悪魔でした。
いつも車いすに乗っていてあまり強そうに見えない
でも実はとても強い悪魔の王様は、その悪魔に『姫』という愛称をつけました。
いえ、本当はジュンヤという名の男の子だったのですが
その方が面白そうだという迷惑な意見から
彼にはそんな愛称が付けられたのです。
まぁ実際これ以後姫は王子と言うよりも
本人の意志に関係なく確実に姫的な立場になっていくのですが・・
それはともかく、その姫の誕生日のお祝いに
国屈指の力を持つ7人の悪魔達が招かれ姫にお祝いを与えることになりました。
まず金色の大天使は膨大な魔力を
真っ赤な蛇の邪神は破魔や呪殺の即死魔法に負けない耐性を
大きな鬼神は何者にも負けない強力な力を
空を飛び回る氷の妖獣は大空のような広い心を
純白の魔獣はどんな攻撃にも耐えうる強靱な身体を
人間そっくりの鬼神はどんな困難にも屈しない精神力を与えました。
ですがこの時、悪魔の王様はある悪魔の存在を忘れていた事に
まったく気がつきませんでした。
というのもその悪魔、本来この席に招いてもよい強い悪魔なのですが
とても気まぐれで脳天気でいつもフラフラ遊び歩いているため
すっかりその存在を忘れていたからです。
そして7人目の黒い悪魔が最後の贈り物をしようとしたその時
8人目になるはずだった悪魔が突然あらわれてこういいました。
「ホォーッホッホ!なんじゃなんじゃ楽しそうな事をしておるではないか。
こんな楽しそうな余興にわらわを呼ばぬとはなかなか無礼であるのう!
そうじゃ、その腹いせといってはなんじゃが
わらわからもかの者へ1つ愉快な呪いを献上しようぞ!」
まったく腹いせとも呪いとも聞こえない楽しそうな様子で
悪魔は持っていた杯をかかげ、呪いと言うよりイタズラのノリで
姫にある呪いをかけました。
「さて、これはこの者がすこやかに成長した未来
ミシンの針で指をさし、そのまま永遠の眠りにつくという呪いじゃ。
死にはせぬが永遠に目を覚ますこともなく笑うことも話すこともかなわぬぞ。
そうなるとここの者らどういった反応を見せてくれるのかのう!ホォーッホッホ!」
そう言ってイタズラ好きな悪魔は乗っていた獣ごと
地面にずぶずぶと消えてきました。
なんで糸車ではなくミシンなのか、なんで死なずに寝るだけなのかとか
ちょっと微妙な呪いではあったものの、とにかくその場は騒然となりました。
何しろあの悪魔はいい加減に見えてもかなり力のある悪魔なので
そう簡単に呪いを解くことはできないのです。
ですがその時まだ贈り物をしていなかった
7人目の黒衣の悪魔が静かに前に進み出てきてこう言いました。
でもその悪魔、あまり喋る数が多くないので
とぎれとぎれでやたら短い説明を簡単にまとめるとこうでした。
あの悪魔の呪いは完全に解くことは不可能でも
100年ほど時間をかければ永遠の眠りにはならない。
私はそのために力を使う事にしよう。
まぁつまりはこんな感じでした。
ですが悪魔の王様は念のために国中へおふれを出し
国中のミシンを集めて厳重に保管する事にしました。
何で捨てたり燃やしたりしなかったのかというと
今はリサイクル法で捨てるにも処分するにも色々と面倒があったからです。
そしてそれから数年の月日が流れ
姫は悪魔達からもらったものを大事にし
強くてたくましくてでもちょっと華奢で優しい少年に成長しました。
しかしやはり姫と呼ばれるにはちょっと抵抗があるようでしたが
とにかく姫はたくさんの悪魔に囲まれながらとても幸せに暮らしていました。
そんなある日のことです。
姫がお城のお庭でガーデニングにいそしんでいると
どこからか聞いたことのない音が聞こえてくるのに気がつきました。
その規則正しく何かが動くような音は、古くなった城の塔から聞こえてくるようです。
姫が不思議に思ってその塔をのぼってみると
塔の一室で赤いローブの女の人が何かの機械を動かしています。
それは姫の見たことのない機械で
とても短い時間と動作の間に、布を見事に縫い上げていくではありませんか。
好奇心旺盛な姫はとても興味を持ち、それが何かと女の人に聞くと・・
「ホォーッホッホ!これはこの国に2つとない魔法の機械じゃ!
これがあればスボンの裾上げ雑巾の作成破損箇所の補修
そのたもろもろの事なども思いのままじゃ」
なんだか魔法の機械にしては庶民用途な上に
口調で速攻正体がばれてしまっていますが
そんな事などつゆ知らず、姫はお約束通りその機械を試しに触らせてもらい
あやまってその針で指をさしてしまい
そのまま呪いによって目を開けることがなくなってしまいました。
油断したな。やはり随時見張りをつけておくべきだったと落胆する王様の前に
あの7人目の悪魔が現れてこう言いました。
「・・・この呪いは強力で・・・我が力をもってしても解除はできぬ・・・
だが100年の年月と力ある者の接触により・・姫は再び目を覚ます・・」
100年というのは永遠にくらべれば悪魔にとっては長い時間ではありません。
ですが念のため王様は姫を深い森の中の城に運ばせ
そして寝ている間に姫が寂しくないようにとたくさんの悪魔をそばに置き
その城を黒衣の悪魔の氷で封印し、誰も入れないようにしました。
そしてそれから約100年の月日が流れました。
しかし100年といても悪魔にしてみればそう長い時間ではありません。
ですがその長くも短くもない微妙な時間の間
姫のいる城から少し離れたとある場所でちょっとした変化が起こっていました。
話せば長くなるので省略しますが
とある悪魔が悪魔を裏切り、人間と結婚して2人の子供をもうけ
小さな国を作ったのです。
その国というのはそう大きくはなかったのですが
何しろその国の王様、たった1人で悪魔の大軍勢を裏切っただけあってとても強く
その息子達も双子で半分人間なのですが、やたら強くて容赦がなく
おまけに全員性格に問題アリなため、あの国にだけはケンカを売ってはならない
道を歩いていて目があっただけでも半殺しになるとかなんとか
周辺の国でささやかれていました。
そしてその国の王様はいつも着ている服の色から紫の王
双子の兄弟の兄の方はいつも青いコートを着て落ち着いているので青の王子。
いつも赤いコートを着て立ち振る舞いの派手な弟の方は
赤の王子と言われるようになりました。
本当の名前はそれぞれちゃんとあるのですが
その名を口にすると三日以内に死ぬとかいう伝説があるので
彼らの呼び名はだいたいどこへ行ってもそれでした。
そしてそんな物騒な悪魔の一家はある日
ふらりと姫の城のある森のそばまでやってきました。
「・・で、それぞれ別々に散歩に出たはずが
なんでまた一カ所に集まってきてるんだ?」
とっても悪趣味な剣を赤いコートの背中にせおい
手にしたショットガンで肩を叩きつつ赤の王子がぼやきます。
しかしここでの散歩と言われているのは普通の人が使う散歩と少しニュアンスが違い
彼らの場合、ケンカを売ってくる悪魔ををぶちのめしながら歩く事を散歩と言いました。
なので横にいた父であるスパーダという名の紫の王様が
ごくごく普通に手にしていたのはグレネードランチャーでした。
「いや、私もこちらへ来るつもりはなかったんだが
どこかで見たことのある道だと思いつつ歩いていたら・・ここへ出てな」
「あれ?オヤジもそうなのか?」
「?なんだ、それではダンテもここが見たことのある場所なのか?」
「あぁ、なんか夢で見たか何かで・・なんか知ってるんだよなぁここ」
「・・・・・・」
「ではその心底不機嫌そうな顔からしてバージルもそうなのか?」
兄弟仲の悪い兄の方はハッキリ言って弟と同じなのは気にくいませんでしたが
青の王子はウソが苦手なので否定せず眉間のシワを3割りほど増加させました。
ちなみに青の王子だけはシンプルな日本刀一本といういでだちなのですが
その刀は一度抜かれると何かを斬らないと戻れないとのいわくがあり
他の2人同様やはり物騒なことに変わりはありません。
「へぇ?一家そろって同じ夢見るなんて珍しいな。
ってことは・・この先にある変な城とかその中にあるものとかも全員同じなのか?」
「いや、私も中にあるものまではハッキリとは覚えていない。
だがその曖昧な部分にこそ・・この偶然の真意がるとみたが」
「・・不本意だが同感だ」
「ふーん?何があるのかは知らねぇが
行ってみないと分からないってのは妙に気になるな」
赤の王子の見下ろす先にはとても広大な森と
その遙か先に見える霞がかった何かがあります。
そこには姫の封印された氷の城があり
目覚めの時をただ静かに待っているのです。
「どうする?今から総掛かりで行ってみるか?」
「いや、ここは1つ分散して調査してみよう。
その方が効率がいいだろうし各自単身の方が動きやすいだろう」
「それはいいけど・・何かあった時はどうすんだ?」
「愚問だ。何かあった場合そこで終わるのならば
それはその程度の力量しかなかったというだけ事」
「・・アンタは相変わらず頭固ぇなぁ」
「貴様が脳天気すぎるだけだ」
「ははは。まぁ何かあるにしろないにしろ
お互いの居場所は魔人化すればすぐにわかるだろう」
「ま、それもそうか」
「ではここから別行動ということだな」
「うむ。あぁ、それと先に言っておくが
ダンテ、むやみに物を壊すのは禁止だ。
バージルもどさくさ紛れに闇討ちなどしないように」
「へ〜い」
「・・・・・」
その返事は聞く気ゼロだったり黙秘による拒否だったりするのですが
王様は元からこの困った息子達がちゃんと言うことを聞くなんて
アリンコの心臓ほども考えてないので問題ありません。
つまりはこの一家、そろいもそろって人の話を聞かないのですが
同じような人が集まるとかえって気付かないものなので
今のところその家族内での問題は内輪的にはありませんでした。
「では行くとしようか。
暗くなる前に帰りたいので日没までにはここへ戻ってくるように」
「それが伝説にまでなった悪魔の言うセリフかよ・・」
「ダンテ、文句があるならお前だけ晩ご飯ぬきだが」
「でぇー!?そんなのアリか!?
しかもその没収したオレの分絶対オヤジが食う気だろ!ピーマン抜きで!」
「・・・・(なんかもうこいつらこの森に捨てて帰りたくなってきた心境の兄)」
そんなこんなで変な家族・・いえ辺境の悪魔の一族は
夢に見た城を目指し、それぞれ別々に深そうな森に入っていきました。
さてあなたなら誰の後を追ってみますか?
思うがままにやってみた話。
若兄弟は老けてる方とどっちなのか迷って
ここで出番のなかった若い方にしてみました。
続きは別パターンで以下の通り。
赤の王子のお話
青の王子のお話
紫の王様の話
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