そこは何年も誰も入ったことがないのか
とても鬱蒼としていて道らしい道もない自然の森でした。
しかも立っている木々もあまり見たことのないものばかりで
そのくせ生き物の気配がほとんどしない、なんだか不思議な森でした。

そんな中を青の王子は1人でずんずん歩きます。
普通道に迷うとか遭難するとかいう心配をしそうなところですが
王子達の一家はそんなくらいで死にはしませんし
むしろ身体を串刺しにされたって死なないくらいしぶといので
まったく気にせず森の中を突き進みます。

しかし青の王子はこれといって行く先に当てをつけていません。

何かあればそれでよし。何もなければ弟を探して適当に闇討ちして
父に会ったのなら勝てる勝てないは別として
やっぱり闇討ちしようと思っていました。

つまり家族内では比較的良心的にみえる青の王子も
頭の中はオンリーワンなのです。

「!!」

バガン!!

そしてどうやって身内を仕留めてやろうかと黒い考えを巡らせていたその時
いきなり王子のそばにあった木が弾け飛びました。

王子は弟か父の先制攻撃かと思い飛び退いて身構えましたが
よく見ると木に当たったのは大型の弾丸で
弟の物とも父の物とも違うようです。

「・・・・・あれ?ウソ!?間違えた!」

ならば誰だと思っていると、木の間から弟でも父でもない
ごっそりした身なり人が出てきました。

それは変な材質をしたスーツのような鎧のような
とにかく変なものを着こんだ人間でした。
上半身はダイバースーツのようなものを着ていて
腰には短めのスカート、足と手には魚のヒレがついた鎧のようなもの。

そしてそんな身なりの人が手にしていたのは
やはり見慣れない皮や金属で加工されて銃身補強のロングバレルのついた
巨大なボウガンのようなバズーカのようなランチャーのような・・
とにかく知識はそれなりにある青の王子が初めて見る武器をもっていました。

「あっちゃあ・・ごめんごめん。
 青いんでランポスと勘違いしちゃった。大丈夫?」

がちゃこんとその武器を折りたたんでしまいながらその人が言います。
声からして女の人のようですが、それにしても見慣れない上に物々しい姿に
青の王子は一体どこの破壊工作員かと思います。

しかし様子からして悪魔ではなさそうなので王子は一応聞いてみました。

「・・なんだ貴様は」
「いやホントごめんね。
 あたしはたまにこの一帯をうろついてるハンターなんだけど・・」
「・・・ハンター?」

弟と同じ職業を聞いて王子は一瞬眉をひそめましたが
それにしては片手で足りるような持ち物だけしかない弟とは
ずいぶん装備や見た目が違います。

それはおそらくこの女の人が自分達と違ってただの人間だからでしょう。

「見知った得物と色が似てたから、つい撃っちゃった。
 あとこんな森の中だから人なんかいないと思ってたし、ホントごめんね」

てへと舌を出すその様子にはあんまり謝罪感はありませんでしたが
青の王子は多少ムッとしつつもあまり細かいことは気にしません。

「・・では貴様、この周辺の地理に詳しいのか?」
「え?うんまぁそれなりには」
「この先の地形はどうなっている」
「えっと・・ここから先しばらくずーっと森だけど
 ずっと進んでると先になんか古い城があったかな」
「城?誰のものだ?」
「いや、随分前からある城なんだけど、誰か出入りしてるのは見た事ないなぁ」
「では廃墟か」
「や、どうなのかな。遠目には何度も見たことはあるけど
 中がどうなってるのかまでは・・・って事はあんたそこへ行くつもり?」

しかし王子は答えず背を向けて歩き出します。
ということはやっぱり行くつもりなのだと女の人は思いました。

「ねぇ大丈夫?変なものはいないと思うけど、あんまりいい予感しないよ?」
「根拠は」
「カン」
「・・・・・」

足を止めて心底胡散臭そうな目を向けてくる王子に
女の人はひらひらと手を振りました。

「あー怒らない怒らない。
 それにほら、女のカンってバカにできないってどこかで言われてるじゃない」

その言い回し自体でバカ丸出し確定だと思いつつ
王子はさらに無視して先に進もうとしましたが
その直後、後ろから何か投げられたような気配がしたので
振り返りざま刀を一閃させました。

それはばしゃんと音がして真っ二つになって地面に落ちましたが
多少のニオイと変な色が刀に付いていたリボンに付着し
王子は元から怖い目をさらに怖くします。

「・・邪魔をするつもりならこの場で斬り捨てて行くが」
「違うってば。それはまた誤射しないための用心なの。
 それでしばらくこっちに位置だけはわかるから」
「・・・・」
「ホラホラ、そんなに睨まない。お詫びにこれあげる」

そう言って今度は正面から放られたのは、何かの調合された玉でした。
王子は思わず受け取ってしまいましたが
それはよく見ると衝撃を受けると割れる仕組みになっているようです。

無言でなんだこれはというような目をした王子に
女の人は説明してくれました。

「閃光玉。目のあるヤツならしばらく動きを止められるから」
「必要な・・」
「でも絶対にいらないって事も言い切れないでしょ?」

王子は『バカのくせに理屈こきやがって』というような顔をしましたが
でもやっぱり無言でそれをしまい込み、無言のまま歩き出しました。
反論しなかったと言うことは女の人の言い分を多少でも認めたのでしょう。

女の人はあまり強そうにも賢そうに見えないのに
王子は結局なぜだか最後まで逆らえませんでした。
この場に父か弟がいればさぞ盛大にからかってくれたでしょうが
今この場に自分しかいなくて心底良かったと王子はこっそり思いました。

「あ、それとあたしまだこの辺うろついてるから、もし何かあったら言ってね」

もしそんなことがあっても絶っ対に言わん。

そんなことを心の中で力説し、王子は1人森の中へと消えてい
・・こうとしましたが、一応『ついて来んな』という威嚇のつもりで女の人を睨み
足元を見てなかったのでちょっとけつまづいたりして
今度こそ深い森の中へ消えていきました。

普段は家族のツッコミ的立場にいる青の王子も
1人になるとちょっと属性が変わるようです。

「・・でも・・黙っててもなーんかしそうな気がするのよねぇ、あの子」

と、根拠も理由もまるでないのに、残された女の人は頭をぼりぼりやりつつ
ほとんど予知同然な事を1人してつぶやきました。

もちろんその予想はしばらくして全的中する事になるのですが。




変な女の人と別れた王子が静かな森を進んでいくと
少しづつ周囲の温度が下がってきて
同時に何かの魔力のようなものを感じ始めます。

それは歩くにつれて強くなり
普通の雑魚悪魔なら近づけないほどの魔力を肌に感じるようになったころ
それは途切れた森の中にふっと姿を現しました。

それは氷と時間の中に閉じこめられたような1つの城でした。
水晶の中のように完全にとまではいかないものの
これほどの規模の氷を形成するにはかなりの魔力が必要です。

そしてこれほどまでにして封印を施すというのなら
この中心にあるものはさぞ凄い物に違いありません。

最初乗り気でなかった青の王子は俄然やる気が出てきました。
見たところ父も弟もまだ到着していないようなので
先に何か強力な力でも見つけられれば好機です。

多少氷で歩きにくくなっている城の中に入ると
所々にここにいたらしい悪魔が目に入ります。
しかしそれらは城と同じ時期に封印されたのか
死んでいる気配も動く気配もありません。

「・・争った形跡はない。城を丸ごと封印したというのか」

そんな大がかりな仕掛けをする意味はわかりませんが
あちこちを見て回っていた王子の足がとある部屋の前で止まります。

その扉には張り紙でこう書かれてありました。

入るなバカ

キン 
バゴン!!

王子は無言で扉を真っ二つにたたき割りました。

彼は命令されるのが大嫌いで
バカというのは弟に対してだけの専門用語だったからです。

それはさて扉を叩き割って踏み入ったそこは寝室のようでした。
しかしよくよく気配を感じると、この城の異常の中心はそこにあるようで
部屋の真ん中にあったベットからは特殊な魔力が漏れだしていました。

王子はそれに近づこうとしました。
しかしその直後、何かの気配を感じてばっとその場から飛び退きました。
すると飛び退いた場所にいきなり穴が空き
赤い獣の首が数本出てきてげっげと変な声を立てて笑います。

しかし王子は慌てず騒がず、それに向かって刀を一閃させました。

バシン! ドガ!!

「!」

しかしその攻撃は首をはね飛ばす前に何かのバリアに弾かれ
王子のコートと腕を軽く裂き、背後にあった壁をごっそり削ります。
どうやらその変な獣、こちらの攻撃をそのまま弾き返すらしく
とっさに身をかわしていなければ腕の一本くらい危なかったかも知れません。

「・・攻撃を反射するか。面白い」

と言いつつあんまり面白そうな顔もせず、王子は構えを変えました。
攻撃が反射されるなら空間ごと切断すればいいと思ったからです。

すると赤い獣は慌てたように首を引っ込め
かわりに今度はどこからかこんな声が聞こえてきました。

『ホォーッホッホ!なんじゃ誰かと思えば紫王のせがれ上はないか!
 ふむ、少々予定はくるうてしもうたがまぁよいわ』

それは何やらいい加減な物覚えの仕方ですが
こちらの事を知っていてなおかつ自分に不意打ちをかけられるとなると
口調はアレでもそれなりに力のある何者かだということはわかります。
王子は軽く緊張しつつ刀に手をかけたまま声の出所をさぐりました。

『では王のせがれの上よ、その者おぬしの気転で目覚めさせられるか?
 できねば他の者が実行するまでじゃがまぁ精々努力するが良いぞ!』

しかしどこから出てくるかと思っていた声の主は
そんなワケの分からない独り言を残して勝手に気配を消しました。

なんだか詳しいことはわかりませんでしたが
そこにいる悪魔を起こせばここであった事が何かわかるのでしょう。

王子はしばらく周囲の気配をうかがっていましたが
完全に誰もいなくなった事を確認してからかまえを解いて
改めてそれに近づきました。

一応さっきの事もあるので用心しつつ慎重に近づいて見ると
そこにいたのはちっとも強そうに見えない少年型の悪魔でした。

見た目は自分と同じような人間型で、全身にくまなく模様があり
あれだけ甲高い笑い声がしたのにもまったく気付かず
横向けに丸くなってぐうぐう寝こけています。

まぁこんな城ごと封印されているのですから
あれくらいでは起きないのでしょう。

「・・目を覚まさせると言ったな」

行動の乱暴で考えるのが苦手な弟とは違い
青の王子は気転をきかせるのは得意です。

王子はしばらく考え、とりあえず刀の鞘を使って
眠っていた姫の肩をつついて押してみました。

さっきの変な獣とは違い姫自体には防御壁のようなものはなく
普通に押すこともできて反射もしませんでしたが
それくらいで目が覚めるなら苦労はありません。

次に王子は姫の使っていた枕をすぽっと取ってみました。
もちろんそれくらいでも姫は起きません。

これが弟なら次に首めがけて刀を突き刺すところですが
王子は黙ってそこから距離をとったかと思うと
持っていた刀を一瞬だけ引き抜き、ぱちんとおさめました。

するとその直後、姫の寝ていたベットの足が全部斬れ
ベット全体がごとんと一段低くなり、近くにあった装飾品や天幕
何かの呪詛になりそうなものが全部綺麗にバラバラになりしました。

けれど姫はそれでも起きる気配がありません。
部屋にある物のどれかが関係しているかと思ったのですが
どうやら当てが外れたようです。

しかしこの様子だと城ごとたたき斬っても起きそうにないので
王子は物理的方法がダメなのかと思い、考え方を変える事にしました。

「・・おい貴・・」

そうしてとり合えず声をかけてみようとした青の王子は
あらためて見た姫の寝顔に硬直します。

今の今まで気がつかなかったのですが
こうまで無防備に寝ていられるとなんだかとても
・・いえ、正直複雑な王子の心理状況を書くにはちょっと説明しにくいのですが
簡単に説明するとドキドキするのです。

全身にある模様も綺麗だし子供みたいに丸くなって寝ているのも可愛いし
そのまつげの下の目は一体どんな目をしていて
どんな声をしていてどんな風に笑ってくれ・・

「!!」

と、何やら色々想像していた王子は急に我に返り
瞬間移動で後ろに下がってちょうど後ろにあったソファにつまづき
ぼすんと腰を下ろしてしまいました。

・・・・俺は今・・何を考えた?

勝手にドキドキしだした心臓を上から押さえ
王子は姫を遠くからですが穴が空くほど見つめます。

物理的には問題ないかと思っていたのですが
どうやら精神的に何か働きかける術か何かが施されていて
それで精神が錯乱するようにできているとか・・

などと王子はそれらしいけど完全に的が外れている分析をしましたが
実際に姫にそこまで手の込んだ事はされていません。
ただ早い話が王子にこういった免疫がないだけの話で・・

「おーい!誰かいねぇのかー!ちょっとは出迎えろー!」

バーン!ガチャーン!ドゴーン!

しかし王子が顎に手を当ててうなりながら1人で狼狽えていたその時
下の階から無遠慮な発砲音と破壊音とよく知った声が聞こえてきました。

「・・こらダンテ、綺麗な城なのだからあまり壊すのはよくないぞ」
「だってこれだけ立派なくせに
 出迎え1つもないなんて失礼にもほどがあるだろ?」

人様の城に勝手に上がり込み
人を呼ぶのに破壊行為をしている方がよっぽど失礼なのですが
そんな話し声が近づいてくるのを聞いた王子はがばと立ち上がり
音速で部屋を見回して慌てました。

このままでは見つかる。

そう思った王子はとっさに今まで慎重に扱っていた姫を抱き上げ
普段はけしてしませんが近くにあった別のドアを足で蹴り開け
廊下を全力で走り、階段を飛ぶように駆け上って
意味も目的も考えず、とにかく必死で走って走って走りました。

しかし丁度行き止まりになっていたバルコニーに出て
そこでようやくはたと我に返ります。

よくよく考えてみればどうして逃げる必要があるのでしょう。
しかもこんなずっと寝てるだけの得体の知れない奴を抱・・

「・・・
!!

そしてそこでまた、王子は自分が何をしていたのか気づき
一瞬抱えていた姫を放り出しかけて慌てて持ち直し
思いっきりガニマタになってかなり間抜けな体勢になってしまいましたが
今はとにかくそんな事を気にしている場合ではありません。

下からは騒々しい音を立てて弟と父がやってきます。
自分でしでかした事とは言え今すぐこの状態をどうにかしなければ
イメージ的、プライド的、立場的、とにかく自分的に色々大変です。

「おい!起きろ!寝ている場合か!」

さっき物理的なことは効かないとわかったばかりなのに
ちょっと錯乱した王子はかまわず姫をガタガタゆすったり叩いたりしますが
姫はやっぱりぐうぐうのんきに寝たままです。

どうする?落ち着け、冷静に考えろ
ここは冷静に円周率を25桁まで数え元素記号をアルファベット順に並べ
夏季オリンピックのあった都市を1964年から順にのべて・・!

などと王子は普通に錯乱していましたが
ちょっと冷静に考えれてみれば姫をここに放置して逃げるなり
そこから投げ落として何食わない顔をしていればいいだけの事なのに
姫を抱えて色々と混乱していた王子はそこまで考えが回りません。

そしてそこでふと、王子は運悪く唐突にある伝承の一説を思い出しました。

それは昔子供のころ何度か聞いた話の中のにあった
寝ている者を起こすというある簡単な動作のことです。

まさかとは思いましたが、今他に試せる方法はそれしか思いつきません。

・・まさか・・それを俺にしろと言うのか!?

今の2人の体勢からすれば王子がダッシュ後姿勢である以外
そんなのごく当たり前にしか見えませんが
何しろ青の王子は真面目なのでそう言った経験がほとんどありません。

それはそれで青い話で笑えますが、その青い王子は迷いました。
生死も関わってないのに究極の選択のごとく盛大に迷いました。

しかそそうこうしているうちにも弟と父の気配は近づいてきます。

1人で勝手に絶望的状況に立たされた王子は
腹をくくって気合いをこめて決断しました。

大丈夫、誰も見ていない、一瞬の事だ。
一瞬、一瞬、一瞬、一寸一秒、一撃必殺・・!

心の中でそんな間違った気合いの入れ方をして
王子はぎゅうと目をつぶって息を吸い込み、寝ていた姫に口を押しつけました。

でも勢いをつけた上に目を閉じてやったので
触れた先は幸か不幸か口ではなくて目の下です。

しかし思い切った決断だけあってかそれが正解だったようです。
おそるおそる王子が目を開けたのと同時に
今までずーっと寝ていた姫の目蓋が動いてゆっくりと目を開・・

「・・?・・・あいて

・・た直後、瞬間移動で後ろに逃げた王子の腕からぼてんと落っこちました。

「・・?・・あれ?俺・・なんでこんな所で寝てるんだ?」

と放り出された姫は寝ぼけまなこで辺りを見回し
変な体勢で固まっていた王子と目があって首をかしげました。

はじめて見たその目は丸くて金色をしていて想像以上に綺麗だったので
王子は音が出そうなほど刀を握りしめたまま硬直します。

「・・えと・・どちらさまですか?」

姫はしばらく不思議そうな顔をしていましたが
とりあえずそんなもっともで基本的な質問をしてきます。

しかし王子は答えません。いえ、正しくは答えられません。
というか寝ていたところをさらって走って逃げて
キスして起こした人だなんて口が核爆発してでも言えません。

「何か・・会った事があるような気がするんですけど・・
 いや、でもそれって夢の中の話かも知れないし
 あれ?そう言えばこれもまだ夢なのかな・・あ」

などと頭をかいて首をひねっていた姫の目が
ふと王子の腕の所で止まります。

そこはさっき変な獣に斬りかかって反射されたかすり傷なのですが
姫はそれを見て急に目を真剣にしたかと思うと
立ち上がってポケットをさぐり、ハンカチと傷薬を出して
ずーっと固まっている王子に簡単な手当をしてくれました。

「・・これでよしと。大したケガじゃないみたいですけど
 あとでちゃんとした手当はしてください」

なんとかこの状況から脱しようとしていた王子の冷静な頭脳が
深部からガラガラという音を立てて崩壊しました。

何しろ王子の家族は力はあるけどかなり物騒で殺伐としていたため
こういった優しさとか施しには免疫がないのです。

「えーと、それであらためて聞きますけど
 お兄さん一体どこのどちら様で・・ぅわ!?」

と、姫が本格的な質問をしようとした時、
ずっと固まっていた王子はものも言わずにいきなり魔人化し
飛行能力もないのに高いバルコニーからしゅばっと飛んで
すぐすとーんと下へ落ちて見えなくなりました。

姫はあわてて下をのぞきましたが
姿の変わった青い人は地面になんなく着地すると同時に
Bダッシュで森の中へと消えていきました。

「・・あ!おいバージル!どこ行くんだよ!?」
「こら待ちなさい、そんなに急いで一体どこへ・・」

などと下の方でそんな声がして赤と紫の人影がそれを追いかけますが
森に入ったそれらは少しして強烈な閃光とにぶい破壊音をさせ
続けざま木が2本ほどめりめりと倒れていきました。

残された姫はワケが分かりません。

しかしもし仮に誰かに事の詳細を説明されたとしても
やっぱりワケがわからなかったでしょう。

「・・・なん・・だったんだ?一体?」

動き出した自分と城の時間の中で
姫はとにかく首をひねることしかできませんでした。

わかっているのはあの青年が自分を起こしてくれた事
あとこんな所で寝ていた理由を知っている人というぐらい。
それと武器をもっていたのに自分に一度もそれを向けなかった事で
悪い人でない事だけは姫にもなんとなくわかりました。

しかしとにもかくにも目が覚めたら変な人が目の前にいたと言う印象だけは
姫の頭の中にしばらく、いえかなり後々になるまで残りました。



そしてそのころ王子は全速力で走っていました。
追いかけてきた身内に思わず閃光弾を投げつけて
ついでに空間をも斬る一撃をも叩きつけてきてしまいましたが
そんな事は今問題にすべき事ではありません。

王子はとにかく走りました。結論としては照れ隠しで走りました。
後ろから身内達が何か言いながら
いえ、たまに銃声をさせながら追いかけてきますが
当然止まってやる気はまったくありません。

だって止まって何かを聞かれたら
そこで自分の人生が終わりそうな気がするからです。

とにかく王子は走って走って走りました。
そしてようやく魔人化が切れて姿が元に戻ったその時・・

「ハイそこの子!なに?その様子だとやっぱりなんかあった?」

唐突に聞いたことのある声に王子は一瞬ギクリとし
思いっきり足をもつれさせスライディングのようにすっ転びました。

強打した鼻を押さえてそちらを見ると
さっき見た物騒な身なりの女の人がいて
撃てるよう組み立てられた大きな大砲
(タンクメイジというヘヴィボウガン)を抱えています。

さっきと違っていきなり撃ってこなかったということは
あの誤射防止とやらの効果があったのでしょう。

王子はそれを見つつしばらくゼェハァやっていましたが
女の人とその大砲を交互に見て、何を思ったのかこんな事を言いました。

「・・・1つ聞くが・・ハンターというものは・・狩りをするのが仕事だな」
「え?うん、時と場合によるけど依頼を受ければそれが仕事になる・・
 ・・・ってことは何?ひょっとして今から仕事の依頼でもする気?」

それを聞いた王子は答えずになぜか笑いをくれました。
その笑い方はあんまり平和的なものではなくちょっと怖かったのですが
女の人はあまり細かいことを気にする性格ではないので
それを無言の肯定ととって腰のポーチから弾丸を出すと
装填していた弾と手早く入れ替えました。

「じゃあ・・簡単に聞くけど対象は?」
「赤と紫」
「捕獲?討伐?」
「生死は問わん」
「おっけー」

それは凄まじく短くしかも軽いやりとりで
とてもこれから身内とドンパチを始めるようには見えません。
しかし半分ぶち切れたような王子も
割り切りのいい女の人も、あまり細かいことは気にしませんでした。



「・・ちくしょ!あの野郎人に目くらましして逃げたと思ったら
 今度は一体何とどっから協力攻撃してきやがるんだよ!」
「・・意図のほどはわからんが
 どうやらこの近辺で活動しているハンターといるようだ」

青の王子を追いかけてきた2人の身内は
いきなりやってきた砲弾や強襲に身を隠しつつ周囲を警戒します。
青の王子だけならともかく、どこからともなく強力な弾で狙撃してくる誰かは
いくら物騒で強い一家とはいえ注意しなくてはなりません。

「チッ・・見た感じはただの人間みたいだが
 散弾使ってくる上にアイツと同時攻撃されると・・うわ!?」

その時とっさに身をかわした赤の王子のいた場所に何かが着弾し
直後ドガーンと爆発がおこって木がめりめりと倒れました。

「ほぉ?徹甲榴弾とは珍しいな。
 どうやらあちらは大型生物専門のハンターらしい」
「なんでそんなもんがここにいるんだ!
 つーかそれを人様に発射するなんざどういう神経してやがる!?」
「ははは、まぁあちらの事情というやつだろうな。
 それとダンテ、一応忠告しておくが今のは当たると・・」
「あー!あー!言うな!そしてイヤな笑い方すんな!
 どうせ内蔵が飛び散るとか骨が粉々になるとか言う気だろ!」

などと言う声を聞きながら木の陰に身を潜め
スコープを調整していた女の人は近くにいた王子に聞きました。

「ねぇ若人、ちょっと確認してもいい?」
「・・なんら」

這いつくばって身を隠し、女の人がくれた攻撃力増強の実をぼりぼりしながら
王子は短く返します。

「さっきから気になってたんだけど
 あれって両方ともあんたに似てるような気が・・」
「(飲み込んで)気のせいと目の錯覚だ」
「・・あっそ。ならいいけど」
「それと言っておくが俺はバージルだ。確かにまだ若人かも知れんが
 貴様にそう言われるほど若輩でもない」
「あぁゴメン。じゃあこっちもレイダでいいや」
「・・『じゃあ』の意味がわからん」
「だってそっちが教えてくれたならこっちも教えるのが礼儀でしょ?」
「・・・・・」

王子は何か言いたそうな目をしてきましたが
やっぱりやめて標的との距離を測りなおし、援護しろと女の人
いえレイダというハンターに目で指示を出してからダッシュをかけました。

それからしばらく静かだったその不思議な森は
爆音とか閃光とか銃声とか木の倒れる音とかががひっきりなし起こる
ゲリラ戦みたいな場所になったとか。



「・・ところでさ、なんか来た時と随分様子が違うように見えるんだけど
 あの城でなんかあったの?」

(回復剤口と鼻から噴出して)・・聞くな!!!」

「うわ汚な!ちゃんと飲んでから怒鳴ってよ!」






・・・よくよく考えたらこの子に甘い話は酷だった。
つかここで書く意味すらなかったような気が・・。

ちなみに姐さんの装備、タンクメイジに鎧トトス腰フルフル
腕と足ガレオス頭はいつも通りクロオビで。
ない身体能力は道具類でカバー。

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