「・・さて・・と、いざ分散はしてみたものの・・
この広さで1人というのも、少々面倒な話ではあるな」
息子達とわかれた王様は森の入り口を見上げつつ腕を組んで考えます。
なんとなく来てしまったもののよく考えればこんな広くて深そうな森を
1人で何かを探して歩き回るというのはとても時間がかかりそうなのです。
・・そうだ、上からなら様子はよくわかるだろうから空から探してみようか。
そう思って上を見上げたその時
丁度その広い空を黒い戦闘機が飛んでいくのが見えました。
そう言えばここへ来るまでにそれらしい軍事基地があったのを思い出します。
今の戦闘機はこの森を横断していたようなので
情報を聞けば少し手間と魔力をはぶけるかもしれません。
「・・よし」
王様は1人うなずいて方向を変えると
少し回り道をしてまず情報から集めることにしました。
少し歩いてたどり着いた基地はそこそこな広さがあるものの
さっき見た戦闘機は真っ黒でとても目立つのですぐに見つかりました。
ちょうどそこから人が降りてきたようなので王様は声をかけてみます。
「もしもしそこの君」
「・・ん?」
黒い戦闘機から降りてきたのはまだ若い青年で
その青年は王様を見るなりちょっとびっくりして首をかしげました。
「・・?ここらに貴族の別荘なんてあったか?」
「いやいや、私は少し遠くから来た旅の者だ。
ところで君は今、あちらにあった森の上を飛んできたのだな」
「あぁ、単なる通り道だけどあそこはたまに通る。
多少レーダーの効きは悪くなるが、それ以外はいたって静かだからな」
「では森以外に何か確認した事は?」
青年はヘルメットを片手に少し考えました。
「森の真ん中に古びた城みたいなのがあるが・・
何年もずっとあのままらしいから廃墟じゃないか?」
「そうか。ではやはりあるのだな」
「?・・なんだよ。あんたそこに行くつもりか?」
「何もないのなら仕方がないが、あるというのならそのつもりだ」
「ふーん、でもなんか万年氷付けみたいだし
森のかなり奥だし道もないし、人の足だとそこそこかかるぞ?」
「目算ではどのくらいになる?」
「ここからだとざっとで三日だな」
だとすると王様の翼でも一日がかりの道のりです。
王様はなんだかめんどくさくなってきました。
「無駄とは思いつつ一応聞いておくが・・交通手段は?」
「あるわけねぇだろ。つか思ってるなら聞くなよ」
「いやもしかしてとは思ったのだが・・しかしだとするとどうするかな。
息子達にあぁ言った手前、1人で帰るわけにもいかんだろうし・・」
などと真面目に考え込んでいてもちょっとズボラな事も考えている王様を見て
青年は頭をぼりぼりとかいてからこんな事を言いました。
「・・なぁあんた、身体は丈夫な方か?」
「?・・まぁ人よりはかなり頑丈な方だが」
「高所恐怖症とかは?」
「いやまったく」
「だったら1ついい方法がある。
今すぐ出来て問題の城に一瞬で行ける方法なんだが・・どうする?」
王様はちょっと考えました。
ですが王様は赤の王子同様あまり長々考え事をするタイプではありません。
「・・ではお願いしてみようか」
「わかった。じゃあちょっと待ってな」
そしてそれから数分後。
・・・・ ゴゴォォォォーーーーーーー
バシュ!
ドゴーーーン!!
森の城の上を飛んでいた黒い戦闘機が一発だけミサイルを発射し
それは真っ直ぐ城へ飛んでいって窓から飛び込み
分厚かった壁に激突して派手な音を立てました。
しかしそれは爆発する部分が抜いてあるので壁に突き刺さっただけで止まります。
『こちらブレイズ。おいミスター・・あ、いやSだっけか、生きてるかオーバー?』
そしてもうもうと上がる土煙の中からそんな通信が聞こえてきました。
よく見ると爆発しなかったミサイルにはなんと人がしがみついていて
それは少しして死んだ虫のようにぼてと落ちました。
少しして起きあがったそれは、自分で頑丈だと言って
あまり詳しいことを聞かずに青年の案にのってしまった紫の王様でした。
王様はゴホゲホせきこんで起きあがり
持っていた通信機に口を当てちょっと憮然としたように話します。
「・・・・・こちらS。恐ろしいことに無事に到着した・・」
『お、そうか。もしかしていけるかと思ったがホントにいけたか』
「・・・部外の者で実験をするのはいささかいただけないな。
しかも安全装置と言って渡す物がこれか」
そう言って王様が片手にぶら下げたのは、ちょっと水で濡らした手ぬぐいでした。
『ま、職人の知恵ってやつだ。素手でしがみつくよりはマシだったろ?』
「それはそうだが・・しかし君もこんな冗談を本気で実行するなど人が悪い」
『いや俺は完全に冗談のつもりで
まさか本気でやるとは思わなかったんだが』
「・・・・・・・」
『・・・・・・・』
ごんと近くにあった立派な絵が落ちて新しい土煙があがりました。
『・・ま、無事だったならいいか。ところで帰りはどうする?』
「・・ここまで時間が短縮できたのなら帰りは徒歩にしよう。
また何かあればまた連絡する」
『了解。じゃあ切るけど気をつけてな』
ぶつっと通信が切れて上空を旋回していた轟音が遠ざかっていきます。
面倒見がいいのか無茶苦茶なのか馬鹿なのかよくわからない青年でしたが
王様は結果オーライだと思ってあまり考えないことにしました。
ともかく王様はかなりのショートカットをして目的地にたどり着き
バタバタとホコリをはらって身なりを整えると
ちょっとだけ壊れた城の中をゆっくりと歩き出しました。
あんな無茶を平気でやらかしたにもかかわらず
ブレイズと名乗った青年の射撃は正確かつ緻密だったようで
城の中は最初に突っ込んだ場所以外はまったく壊れていません。
それにブレイズはある程度の目安をつけて打ち込んでくれたようで
王様はすぐその城の重要だと思われる部屋にたどり着くことができました。
なぜ速攻でそんな部屋と分かったのかというと
その部屋の扉にはデカデカとこう書いてあったのです。
あかずのま
王様はそれを見て、ごく普通に扉を開けました。
だって開かずの間というのは開けるためにあるのです。
あとどうしてひらかなで書いてあったのかと言うと
王様はまだ漢字に弱いので『ひらかずのあいだ』と読んでしまう可能性があったからです。
それはともかく王様が中に入ると
そこは冷蔵庫に近いくらいの冷気と特殊な魔力が充満していて
王様は何かの罠かと思って一瞬足を止めました。
しかし何も起こらないのを確認して再び歩みを進めると
部屋の中央にあったベットに見たことのない人型の悪魔が1人
静かに寝入っているのが目に入りました。
ですがその見たことのない人型の悪魔の姿形は
王様の記憶にちょっとだけ該当するものがあります。
「・・これは・・そうだ。確か100年ほど前に聞いた事がある」
それは少し前、とある悪魔の王様が作り出した
未知の可能性を持つ人型の悪魔の話です。
その悪魔はたった数年しか存在が確認されておらず
どこかに隔離されたか封印されたという噂があったのですが・・。
そう言えばこの城の古び方もちょうどその年代と一致していそうですし
こんな辺境の土地に封印されていたのでは見つからないでしょう。
となるとこれは一体どういった事なのでしょう。
何かの事情があって姫がここへ封印されたことは間違いなさそうなのですが
その理由が王様には思いつきません。
何らかの理由で暴走でもしたのか。
自分と同じく反逆の罪でここへ押し込められたのか。
ですがあれこれとその理由を考えていた王様は
ふいにこの状況と自分達家族の事を照らし合わせ
ある悪魔の存在を思い出しました。
それは王様と同じく長い時間を生きていて、そこそこに力のある悪魔なのですが
時々思いがけないイタズラを仕掛けては楽しんでいる
気まぐれで楽天的な悪魔のことです。
そしてその悪魔のちょっとした趣向とこの状況と自分達の存在・・
王様は腕を組んだまま考えていましたが
やがて何かを思いついたようにぽそっと言いました。
「・・マザーハーロット。君か?」
すると王様の前の地面がいきなり大きな範囲で黒く染まり
中から大きな赤い獣に乗った女の悪魔が出てきました。
「ホォーッホッホ!さすが紫王!目敏い上に察しがよいのう!」
「察しもなにも・・こんな物好きな事をしそうなのは君以外にいないだろう」
「ホォーッホッホ!まぁよいではないか!」
実はこの悪魔と王様、ちょっとした顔見知りで
紫の王様もこの悪魔の手口や趣向をある程度知っていたので
何となく自分や息子達がここへまとめてやってきたのも分かってきました。
「・・また君は妙な趣味を出したのか。しかもこんな手の込んだ手工をこらして」
「仕方あるまい。いくら悪魔と言えどウン千年生きておれば退屈もする。
それに手工をこらす遊戯の味は普段とはまた格別なのでな」
「退屈という事にはいくらか同意はするが・・
しかしそれにしてもこんな子供を巻き込まずともいいだろう」
「ふふ・・なんじゃおぬし、そやつがただの子供に見えるか?」
「?」
表情のない骸骨の顔で何やら怪しげな笑みを作る悪魔に
王様は怪訝そうな顔をします。
この悪魔、イタズラ好きですが意味のない事はしないタイプなので
そうなるとそこにいる悪魔はただの悪魔ではない事になります。
「それは一体どういう意味だ?」
「ホォーッホッホ!それを言うてしもうては面白うないじゃろう!
ともかく後はまかせたぞ!精々わらわを楽しませてたもれ!」
そんな事をたたみかけるように言い残して
底の見えない変な悪魔は出てきた時と同じく穴の中へと消えていきました。
王様はしばらくそこを見ていましたが
考えた所で仕方ないのでとにかく今は自分の出来る事をしようと思いました。
「・・さて、どうしたものか」
あの悪魔の性格を考えた場合、この少年型悪魔を起こす方法は1つしかないでしょう。
しかしそれなら簡単なことなので息子達にも可能です。
おそらく自分達一家をここへ招き入れたのは
ど・れ・が当ったるーかな〜的なクジ感覚での事でしょう。
そして今この瞬間もあの悪魔はどこからか様子をうかがっているに違いありません。
王様はベットの横に立って考えました。
楽しませるとかそういうつもりはまったくないけれど
あの悪魔がそんな細工をほどこした少年悪魔の素性というのもちょっと興味があります。
王様はちょっと迷ってからそっと身を折って
姫の前髪をかき上げると、そこに軽くキスをおとしました。
する場所としてはどこでもよかったのですが
さすがにでっかい息子が2人もいる身分で、しかも初対面の相手の唇を奪うなど
紳士な王様はしませんでした。
「・・・・・ふわ・・・よく寝た・・あれ?」
そして少しして姫がふっと目を開け、大あくびをしたあと
少し離れて事の成り行きを見ていた王様を見て目を丸くしました。
「・・?えっと・・・どちら様ですか?」
警戒心が薄いのか、それとも元からそんなものがないのか
その寝ぼけたようなのんきな言い方に思わず吹き出しかけた王様は
なんとか笑いをかみ殺し、軽く会釈をしました。
「初めまして。私はここから遙か北にある小国の王、スパーダという者だ」
「あ、どうも・・初めまして」
まだ眠いのか目をこすりつつ
それでもちゃんと頭を下げてくる姫に王様は苦笑しました。
「・・ところでその王様がどうしてここに?」
「いやどうしてというほどの事はない。散歩がてらに君をここで見つけてね。
何やら私に封印を解いてほしそうな知り合いの悪魔がいたので
ものはついでに君を起こした、というわけだ」
「・・は??」
何が何だかワケがわからんという顔をする姫を
王様はあ、ちょっと可愛いなとか思いつつ
いたずら好きの悪魔のこと、この城と姫が長い間眠っていたことなどを
簡単にわかりやすく説明しました。
「えぇえ!?じゃあ俺1日どころか100年も寝てたんですか!?」
「100年も・・と言われても、我々にとってはそう長い間でもないだろう」
「長いも長い!長すぎですよ!俺まだ生まれてから20年もたってなかったんですよ!?」
「え?」
今度は王様がびっくりしました。
だって姫が持っている魔力は普通に見ているだけでも息子達よりも強いし
潜在能力はヘタをすると自分よりも強そうだというのに
まだたった20年も生きていないと言うのですから。
しかしそれだと悪魔としての力はあっても
まだ言葉や態度が初々しいという理由はわかります。
だとするとこれが眠らずにずっと活動していたのなら
今頃どんな強力な悪魔になっていたのかちょっと恐ろしい気もしますが
そんな王様の心配をよそに姫は頭をかかえて大きなため息をつきました。
「はあぁ・・俺寝てる間に青年期飛び越していきなり骨董年齢なのか?」
「・・まぁそう気にすることではないだろう。
君はまだ悪魔としては若いのだし、寝る子は育つというのだし」
「・・いやそれはまだ生まれたてとか赤ちゃんとかそういうレベルの話で・・」
などと妙なツッコミを入れようとした姫の動きが途中ではたと止まります。
「・・・?ちょっと待ってください。
そう言えば俺って100年も寝てたのにどうやって起こされたんですか?」
「ははは。寝ている者を起こす方法は昔から決まっているじゃないか」
そう言って王様が自分の口を指すと
姫は10秒ほど考え込んで、突然真っ赤になりました。
「・・!!あの!それってまさか!?」
「いやいや、いくら私とて寝ている間に唇を奪うなどという無粋な事はしていない」
「いやそれでも・・!やっぱりそういう起こし方・・したんですよね?!」
「あの悪魔はそういった方法、つまり思考を好むのでね」
事も無げに言ってくれる王様に姫は頭を抱え
腰掛けていたベットの上でごろごろしました。
「うわー!恥ずかしー!ってかさっきから聞いてれば何なんですかその悪魔は!?」
「何と言われても・・私もあの悪魔については全て把握はしていない。
かなりの力を持つが色々と気まぐれで楽しいことを好み
害があるようであまり実害的な事はない、そんな悪魔だ」
姫はゴロゴロしていた動きを止めて起きあがり、なんだか複雑な顔をします。
「・・詳しく説明されてもなんなのかさっぱりわからない悪魔ですね」
「うむ、私も未だにそう思う。・・だが確実に1つわかっているのは
その悪魔がある意図をもって君をこんな目にあわせたという事だ」
「?どんなですか?」
「口で説明するには少々難しいのだが・・かまわないか?」
「?はぁ、長くないのなら」
よくわからないままそんな素直な返事を返してきた姫に王様は1つ笑って
「簡単に説明するなら・・つまりこういう事だ」
とんと姫の肩を軽く押し、その上に普通に覆い被さりとてもさわやかに言いました。
姫は2・3度まばたきした後、思いっきり目を見開いて何か言おうとしましたが
あまりの展開に脳がついていけないのか、そこから声らしい声はまったく出ませんでした。
しかし今置かれている状況を冷静に見ると
2人ともベットの上だし2人きりだし押し倒されてるし逃げ場は王様の後ろだし
これはもうどう見ても書いても想像してもヤバイ以外の何者でもありません。
「ははは、やはり君は若いからこういった事には慣れていないか」
「・・あ・・あ・・!当たり前ですよ!!何ふざけてるんですか!!」
ようやく声を出せるようになった姫が慌てて王様をどかそうとしましたが
王様は何を思ったのか急に真顔になってその手をがしと掴み
くんと確かめるようににおいを嗅いでからかぷと噛みました。
「ーー!!」
姫は一瞬そこから爆炎を発射しそうになりましたが
いくらなんでも初対面の人の顔を消し炭にするわけにもいかないので
ギリギリでふんばります。
しかしそんな姫の努力をよそに、王様は軽く歯形の残った跡をじーーーっと見て
何やら難しい顔をして考えていました。
王様は元々あの悪魔のたくらみにのるつもりなどまったくなかったのですが
この少年、なんというか素直だし若いし初々しいし反応が一々可愛いし
思わずかじってみた肌も甘くて柔らかくて脳に直接くるような香りがするし・・
うーん、参ったな。これは確かにあの悪魔の言った通りだ
息子達の手前あまりこういった事はするべきではないのだろうが・・いやしかし・・
などと王様が1人で色々考えているうちようやく手が離れたので
姫はそーっと王様の下から抜け出して・・
「ぐえ!?」
・・ダッシュで逃げようとした所を背中から押しつぶされ
潰されたカエルのような声を出しました。
姫が慌てて首をひねると、すぐ近くに王様の顔が見え
その王様はとても人のいい笑顔のままこんな事を言いました。
「・・よし決めた」
「へ??」
「せっかくの御厚意だ。ここは男として取るべき行動を取らせてもらおう」
?ちょっと待て、何を楽しそうに言って・・と姫が思っていると
横からすいと腕が入り込んできて腹を撫でられ
実にさりげなく服をたくし上げられます。
「うわ・・!な!ちょっと!」
姫は必死で抵抗しましたが何しろ対格差やうつぶせのままと言うこともあり
どう頑張っても進行を阻止するくらいのことしか出来ません。
しかも王様は必死で逃げようともがいている姫にすりすりと頬ずりして
ため息のような声をしてこんな事まで言いました。
「・・まったく参った・・逃げる仕草も反応の初々しさも・・
・・ホントにもうおじさん辛抱たまらないぞ」
にぎゃああああーー!!SUKEBEオヤジーー!!
ドゴン!ズびーーーム!!
などとオヤジ丸出しなセリフに姫が心の中で絶叫したのと
部屋の扉が吹き飛んだのは同時でした。
ガンガンガンガンドカドカドカガシャーーーン!!
その2つのビームみたいな攻撃は
姫を抱えてとっさに飛び退いた王様のいた場所に大穴をあけ
さらに追い打ちで銃弾と青白い剣を雨あられのようにふらせてようやく止まりました。
王様はワケがわからず悲鳴を上げる姫を抱えたまま、それを全部器用にかわし
少しムッとしたように赤と青という対照的な色を持つ乱入者達を見ました。
「・・危ないな2人とも。実の親に向かってイベント用の同時攻撃はないだろう」
「ざっけんなクソオヤジ!!
こんなデカイ子供がいる分際で
そんなガキに本気で襲いかかるのは親って言わねぇんだよ!!」
「・・やめておけダンテ。あの状態の父はもう何を言っても無駄だ」
そんな風にまったく逆の態度をとりつつも
部屋の温度が2・3度上がりそうなほどの怒気を同時に放っているのは
王様によく似た2人の青年でした。
態度や言葉遣いはまったく違いますが、子供とか親とか言っているあたり
この2人はそれなりにデカいけど王様の息子で兄弟なのだと
なんだかわけがわからないままの姫にも理解できました。
そしてこんな事はいつもの事だと言わんばかりに冷静な青いコートの青年が
ぽいと赤いコートの青年の方へ銃を返しながら、持っていた刀をすらりと抜きました。
「だがこの父が何かした後の不始末は十中八九俺達に回ってくる。
となれば今俺達がここでする事は・・わかるな?」
「こういう時に同意見なのはありがたいなバカ兄貴!」
「バカは余計だ」
え?何?一体なんの話を・・と姫が思うヒマはほんの一瞬しかありませんでした。
次の瞬間2人の姿が消え目の前に来たかと思うと再び地面から足が離れ
信じられないような速度で視界が切り替わり
周囲の物がすっぱり斬れたり弾け飛んだり
たまにどこかが爆発したり金属を弾くような音がしたりで
姫はもう王様に抱えられたままあっちへ逃げこっちで攻撃にかすりかけたりで
もう抗議の声すら上げられません。
起き抜けにもかかわらずこんな人外ドンパチに巻き込まれるハメになった姫は
もう100年か1000年か、もしくは永遠に寝てればよかったと本気で思いました。
「こらこらお前達、家庭内の抗争に他人を巻き込んではいかんだろう」
「そう思うんならとっととそれ置いて逝け!クソオヤジ!!」
「それはできんな。こんな美味しそ・・いやもとい良い子を置いてどこへ逝こうと・・」
直後、ぶんと音がして王様の背後にあった窓が
真っ二つになって飛んで派手な音を立てます。
姫はもう勘弁してくれと思いましたが
しかしそれはこの家族にしてはまだ手加減している方です。
おそらく2人とも姫がいなければこの城ごと王様を吹き飛ばしていたでしょう。
「・・ほう、何事も躊躇しないお前が加減するとは珍しいなバージル」
「その抱えているものに何かあれば、国際問題になる事くらいはダンテでもわかる。
それをふまえ息子であり良識ある来訪者として忠告する。
・・・それを放せ」
「断る」
それは地を這うような怖い声で、とても親に向けてのセリフとは思えませんでしたが
王様はまるでご近所の人に挨拶するみたいな笑顔であっさり返しました。
元々言うことを聞くとは思っていなかったのか、それともこれがいつもの事なのか
青の王子はその反応には無言のままいきなり周囲に魔力の剣を複数作ると
全部まとめて王様に向かって寄越してくれました。
「なっ・・った!うわーー!?
」
しかしそれはどれもギリギリの所でかわされ
王様は下もまったく見ず、破壊された窓から姫ごと宙に身を躍らせていました。
「大丈夫だ、しっかり掴まっていなさい」
いやあんたといる時点で大丈夫の単語が勝手に大騒動に変換されてる!
とか姫が思っていると、、空中で一瞬落下が弱まり木の枝をいくつか折って
2人は無事に着地する事ができました。
しかしそれで終わりではありません。
王様はその勢いのまま走り出し、後ろからも似たような着地音がして
まだ銃弾とか剣とかが飛んできます。
人1人を抱えたまま速度の変わらない王様は
軽く舌打ちしてさっきしまった無線を出しました。
「あー・・こちらS。緊急事態が発生した。至急応答願うオーバー」
『・・んお?・・とっとと、こちらブレイズ。なんだ、何かあったのかミスター』
「いや、大したことではないが少々やっかいなものと交戦してしまってね。
援護か爆撃をしてくれると助かるのだが位置はわかるかな?」
『OK、ちょっと待ってな。対地上兵器使うけど大丈夫だな』
「よし、この際だ派手に頼む」
「ちょっとおぉーー!?
」
簡素なくせにとてつもなく物騒だというだけ事は理解できる怖い会話に
姫の絶叫が森の中に響きました。
「・・チッ、腐ってもオヤジだな。人1人抱えててもあの速さか」
「・・・(急に足を止めてダンテの銃を押さえる)」
「?・・なんだよ」
「・・何か聞こえる」
「ん?・・そういやなんか・・聞き慣れない音が・・」
と、赤の王子が青の王子とそろって空を見上げたその時
白い尾を引き空を横切っていた何かがくりっと2人の頭上で方向を変え
2人めがけて垂直に飛んできました。
ドゴーーン・・
「お、当たったか」
走っていた王様は遠くで聞こえた轟音に足を止めとても普通に言い放ちます。
何に当たったのかは姫は怖くて聞けませんでしたが
この王様とさっき話していた相手の人が、とてもヤバイ人だというのは凄くわかりました。
『・・ん?こちらブレイズ。目標がまだそっちに移動してる。
当たったと思ったんだが気のせいか?』
「いや、あれはミサイルの一発や二発で死んだりはしない。
それに一方はバカではないだろうから次から当てるのが難しくなるぞ」
『了解、じゃあ引き続き援護続ける』
などと息も乱さず平気な顔でやっている王様に
姫は精神的にぐったりして死にそうな声で言いました。
「・・だからなんで・・俺がこんな事に巻き込まれて・・・」
「ははは、こういった事は障害があればあるほど面白いと言うだろう」
「・・・すみません、お願いですから人の話聞いて下さい」
などとやっているいくらか後方では
黒い爆撃機にウロウロ上を飛ばれている息子達が王様を追いかけつつ
垂直に落ちてくるミサイルから必死に逃げていました。
「くっそぉ!いつからオヤジは航空兵器を召還するようになったんだよ!」
「知るか!文句を言うヒマがあるなら走れ!対地上戦兵器は狙いが正確だ!」
「うおぉ!?また来たー!?」
キュゥーーン・・ ドカドカドカーーン!!
そうして長い間静かだったその森は
黒い戦闘機(A−10A)がXAGM(高機能対地ミサイル)の雨を降らせ
なんとか大空襲のような大騒ぎになったのですが・・
その後、わけのわからないままお持ち帰りされた姫や
気まぐれで戦争みたいな騒動を巻き起こした王様
あと爆撃された王子達がどうなったのかはその本人達以外
・・いえ、本人達とその一部始終をどこからか見ていて大爆笑していた悪魔以外
だれにもわかりませんでしたとさ。
・・もうパロどころの話じゃない上にとっても危うかった話。
ちなみにA−10は初代エスコンから私が愛用する地上戦向け戦闘機。
デザインは古いけどそこそこにお気に入り。
とにかく色々とごめん。
でも隠してあるからまぁいっか。
もどる