ざっくりした話になるが、大元の使命がタイ●パトロールな刀剣男士達には
平和的なイベント、つまり戦以外の催しというものがあまりない。

年始の挨拶程度はなんとかあるが、催しの大体は戦場関係。
節分でまく豆をなぜか戦場で調達し
夏は戦場でなぜか敵と水をひっかけ合い
月夜の季節になぜか戦場で団子を集めたりし
気まぐれに行われる城の地下調査で小判を集める。

正月休み、バレンタイン、新学期、エイプリルフール、こどもの日
花見、ジューンブライド、夏祭り、水着、七夕、ハロウィン
クリスマス、年越しまたはカウントダウン。
ちまた界隈には多数のイベントが存在するものの
そういった平和なイベント類はここにはほとんどない。

まぁ元々全員が古い武器の付喪神なのだし
刀の本分なのだから仕方ないといえばそれまでだが
鎧兜や弓矢刀がそろうこどもの日にすら何もないという手抜k
・・もといストイックな生活に突然の一石を投じたのが
未だに自分の事を審神者と言えないこの本丸(とも言えてない)の主、千十郎だった。

「二日後の夜に近所で祭りがあるらしい。
 強制じゃないし希望者だけ集めてのぞきに行くから
 行きたい奴は軽装の準備をしておけよ。 
 行くなら小遣いも配るから財布も忘れずにな」

などと言い出したものだから、理由や理屈はさておき
戦事以外に興味のない者をのぞいた男士達はいっせいに騒がしくなった。

まず祭り好きの愛太(愛染)は言わずもがなだが
夜戦で活躍する短刀たちも戦い以外で外に出る事はほぼないので
興奮してなぜか当日の道や順路の確認をし、周辺地図をまとめたしおりを作り
夜あまり出陣しない薙刀や槍達と当日の予定などを話し合ったりする。

他の刀達はそれぞれに行くつもりでその話にのったり独自に準備をしたり
興味なし、もしくは人ごみ嫌いという者は留守の間の何をするかを考えたりし
ともかく色々な思惑を交えつつ時間は流れ、祭りの当日の夜となった。

何人かは居残りを希望し留守番となった分をのぞいても
参加する男士達の数もそこそこになり、ちょっと目立つ様相になったが
一応軽装を参加条件としているので人混みにまざってしまえば問題ないだろう。
ちなみに主も一応それなりな服装をしていて
お乱(乱藤四郎)に『中途半端な舞台役者』と言われたのはどうでもいい蛇足だ。

「よし、じゃあここからは各自で自由行動だ。
 当たり前だが人様に迷惑かける行為は禁止。
 定時に花火が始まるらしいから、それが終わったらここに再度集合だ。
 ただしチビ達(短刀)は迷子と防犯のために最低二人一組で行動。
 とくにお乱は防犯上5、6人で囲んどけ。いつき(一期一振)」
「はい、ここに」

何となく予想していたらしい当のいつきが
たくさんの短刀たちに囲まれたまま挙手した。

「そのあたりの統括はお前にまかせる。
 やくけん(薬研藤四郎)を副長に、伝令にいまけん(今剣)と
 目印にいわし(岩融)も連れていけ」
「えー?ぼくもですか?」
「小回りが利くから報告要員だ。
 何かあった場合だけでいいから、わしかいつきに報告をたのむ。
 それ以外は自由にしてていいからな」
「はーい」
「まぁ管理側でないならかわまんか」

背が高いので目印替わりにされたいわしも
面倒事を押し付けられないなら特に異論はないらしい。

ちなみに今回男士達には小判が一人につき1000枚小遣いとして渡されていて
おかしくないかと数人に指摘されたが主からすれば使う機会があまりないし
自主性の育成だと思えば安いという事で話はついている。

「あと槍と薙刀は集合場所を頭に入れておいてくれ。
 目印になるから皆迷ったらどっちかを見つけて合流しろ。
 ざっくりした決まりはそれくらいとして、問題の愛太だが・・」

そして今回の問題とされる愛太はというと
腰にリードのような紐をつけられ目に見えてそわそわしまくり
その紐の先にはぼんやり突っ立っているタコ(明石国行)と
その横で同じく紐につながれ緊張感なくそのそばにいるほた(蛍丸)が。

「本来ならこのメンツで回らせるのが定石なんだろうが
 今回はこの人混みだし自由行動だし祭りジャンキーがいるし
 そして何より、同伴がびっくりするほど頼りない」
「えろうすんませんなぁ」
「罪悪感も謝罪感もねぇただの返しをどうもアリガトウ。
 一応言っとくが皮肉だからな」

来派というくくりになるらしいこの組み合わせ、見た感じは平和そうなのだが
今そのほんわか要素は不安要素でしかなく
加速だけはいっちょまえなスポーツカーに
温和なおじいちゃんおばあちゃんを乗せているのと同じだ。
しかも主はその対策を紐でつなぐだけという原始的な方法でどうにかしようとしていて
おいもうちょっと何とかしろとお叱りを受けそうなものだが
残念ながら今現在ここの最高責任者はその当のヘボ主だ。

「しかしお前、せっかくタコって呼んでるんだから
 手か足が八つあればかなり便利だったんだがな。
 実物はさらに脳九つと心臓三つあるらしいが、そこはいらん」
「いやふつうにバケモンですやん」
「ま、とにかくお前は一応愛太とほたを見てろ。
 どのみち今の愛太をどうにかできる気もしないからな。
 だが一応の補助として・・・そうだな。メ助(不動行光)。お前がつけ」
「・・・・・・・。は!?」

まったく思いもしない方面からの任命宣言に
ぼんやりしていた当のメ助が心底驚愕した声を出す。
ちなみにメ助というのは最初本人が自分の事を『ダメ刀』だと言うので
主がそのまんま呼ぼうとしたらさすがに周囲に止められ
ダメからダをとってメ助と呼んでいるらしい。

「お前も一人で歩かせるとフラフラして危なげだし
 こういったのと組むと酔いがとんでいい経験になりそうだからな」
「??・・へ?いや、ちょ」
「心配しなくても何かあってもお前のせいにしたりしないし
 連帯責任どうのとか問うつもりもない。
 ま、何かあった時の目印的なものになってくれればそれで」

あれ?それ要するに噛ませ犬とかふせんのたぐいなんじゃないの?
と思っても口には出さなかったほたをよそに
主は流れるように愛太とメ助の腰を紐で結んでつなげた。

その時、メ助の脳裏に道を歩いていたらなぜか気性の荒い野犬と遭遇し
わんわか追い回されて尻を噛まれる光景が浮かんだ。

そして主がぱんと手を一つたたいたのが
メ助の試練、もとい引き回し開始の合図となった。

「じゃ、散開!各自楽しんでこい!」
「いぉっしゃーー!!」

びーん

「おぅ」
「わぁ」
「ぅぐえ!?」

雄叫びと共に愛太は三人もくくりつけているのもかまわず
元気に人混みにどどどと走りこんでいった。
祭りの力もあなどれないが、それをあんな状態で野に放つ主もどうかと思うが
まぁ主なので仕方ない。

「じゃ、終わるころにここに集合だ。
 先に帰りたいなら誰かに伝言入れて帰ってもよしだからな」

と言いつつふらりと人混みに紛れようとする主にへせべ(長谷部)が慌てた。

「お待ちください!主はどうなさるおつもりですか?」
「そうだな。特に当てもないし、まずは一人でフラフラする」
「?護衛もおつけにならずにですか?」

今まで外に出るなら誰かしら一人は連れていたのにと
槍組に混ざっていた蜻蛉(蜻蛉切)も心配するが
主は主でいつも通り気楽な調子で。

「まさかこんな日に山賊行為に走るやつもいないだろうし
 わしもお前達も主従関係から解放される日もあってしかるべきだ。
 ・・と、いうのが建前で、本音は野外で70人近くも面倒見てられるか
 後は自主的かつ勝手にしろ、というやつだ」
「・・両方口に出すな両方を」

まんば(山姥切国広)がぼそりとツッコミを入れるものの
そのバカ正直なところはこの主の良い所の1つなのでそれ以上は何も言えない。

とは言え、今は祭りや自主性、自由行動よりも主の方が心配な側近三名
(まんば、へせべ、蜻蛉)は内心慌てた。
確かに主も主の前に一人の人間なのだから言いたい事は多少わかる。
だがしかしだ。この人混みでこの微妙に頼りない主を一人にするのはどうなのか。

迷子にならないだろうか一人でこけて怪我でもしないか
ヘンな輩に絡まれる可能性もゼロではないだろうし
それに何より、主従関係をぬきにしても主に対して主以上の感情を持ち合わせているこの面々が、大事な人を一人で送り出せるはずもない。

「じゃ、お前らも適当に楽しんでこい。暗いからけつまづいてコケるなよ」

おまけにそんな事を言った本人が人混みにまぎれる寸前
何かに軽くつまずいて苦笑いをしながら人の波にのまれる。

迷っている時間はない。ここは・・。



まんばが後を追う
へせべが保護に向かう
蜻蛉が声をかける





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