とある天気の良い日。
たまたま全能力が90代であったため軍師に抜擢された三国志界万能超人曹操の元へ
戦闘と文通のプロ(?)朱羅がふらりとやって来た。
朱羅には親しい武将がやたら多く、朱羅の元を訪れる人物は多いが
その分朱羅からたずねて来る事はそれなりに珍しいので
曹操が何気に期待しつつわけを聞くと・・・。
「・・・住所名簿のあいうえお順で目に止まりましたので」
と、あっさり真顔で淡い期待を一刀両断にぶち斬られた。
ともあれ君主についで多忙を極める軍師になってから
人と話をする機会のなかった曹操は
いつも通り鎧兜フル装備でやって来た物々しい朱羅を客間に通し
朱羅の持参した馬鹿に甘い菓子を二人でつつく。
しかしふと朱羅がじーと顔を見ているのに気付き
顔に菓子くずでもついているのかと頬をなでてみるが
何もついている様子はない。
「・・・朱羅、わしの顔に何かついているか?」
思いきって聞いてみると、朱羅は何か難しそうな顔をして変な事を言い出した。
「・・・軍師殿、御身体は丈夫でしょうか」
「・・・は?」
朱羅がまとを得ない質問をしてくることは珍しい事ではないが
たとえ知力政治能力90代あってもやはりこの女武将についていくには
それ相応の経験が必要になってくる。
曹操は少し考えて質問の意図を推理してみた。
「・・・丈夫とは・・・病に対して抵抗力がある丈夫と言う意味か
外傷に対しての耐性を意味するのと、どちらの話だ?」
「・・・前者ですが」
もうちょっと整理してわかりやすく翻訳すると
風邪などひいてませんかと言いたいのだろう。
「そうだな・・・格別に丈夫というわけでもないが
今のところ大した病はわずらってはおらん」
「・・・左様ですか」
言いながらお茶を一口して話はそこで終わらされた。
「こら、一人で納得するな。
なぜそのような事を聞くのか理由を説明せぬか」
「・・・必要ですか?」
「質問の真意を知らねば答えた甲斐がなかろう」
朱羅、顎に手を当ててちょっと黙りこんで
「・・・それを説明すると少々長くなりますが、かまいませんか?」
「ん?・・んん、まぁ、かまわんが」
「・・・では話は黄巾の乱までさかのぼります」
そういいながら湯のみを手に遠い目をする朱羅。
といっても普段からどこを見ているかわからないような目をしているので
曹操にはあまり変わったようには見えなかったが。
「・・・私と父は黄巾の乱の際、祖国にて挙兵し戦乱へ身を投じたのですが
その乱の首謀者たる黄巾党の張角はどうなったのかご存知ですか?」
「あぁ確か・・・・・乱もそぞろに早々と病死したと聞いているが」
朱羅はうなづいてさらに続ける。
「・・・話は変わりますが呂布殿をご存知ですね」
「あぁ、知らぬ方がおかしいだろうなあの男は。
今で言うおぬしのごとき抜きん出た武をもつ豪傑だったが」
「・・・はい。私もあの方と何度か手紙のやりとりをした事があるのです」
「ほう?」
それは初耳だ。
というか武一辺倒の呂布とこの呑気な朱羅の性格が
意気投合するのもあまり想像できないのだが
やはり脳みそが筋肉で構成されている者同士・・
・・・もとい、一騎当千の豪傑同士、通じるものがあったのだろうか。
「・・・何度目かの手紙で手合わせの話も出たのですが
しかしそれから呂布殿は一月もしない間に病没されたのです」
「・・・・」
その時曹操の脳裏に、朱羅と呂布の対決を見たいという思いと
朱羅が何を言わんとしていたのかが同時に浮かび
最近深酒してないかとか、運動不足ではないのかとか
健康に関するあらゆる心配事などが突然もりもり沸いてきた。
そこから整理するに、つまり朱羅が言いたかったのは・・・
「・・・そこで私は思うのです。
私が目指そうとした方、つまり乗り越えようと目標とした方は
なぜか私と槍を合わせる前に病で逝ってしまわれるのかと。
もしや私の槍には前に立つものを呪い殺してしまう力でもあるのではないのかと思い
日ごろから何事もそつなくこなし、私の目先の目標たる軍師殿の身にも
もしや何か悪い事でもあるのでは・・・と少々心配に思いまして」
曹操、この時なぜか静かに語る朱羅の背後に死神が見えた・・・ような気がした。
「・・ば、ばバ馬鹿を申せ、そのような事あるわけがなかろうが」
カラ笑いと一緒に持っていた湯のみがカタカタと小刻みに震える。
・・・やりかねん。
こやつの槍は一振りで数百の兵をなぎ倒すとまで言われるものだ。
たかが人の人の一人や二人、戦う前から葬り去るなど造作もないかもしれん。
仲間内で敵に回してはいけないと暗黙の了解ができていた馬彩桂朱羅。
この時から目標にされても命が危ういという奇怪なジンクスが成り立った。
「・・・いや、そもそもだな、軍師におさまったわしなど目標にしてなんとする。
そなたほどの武と人望があるのなら一国の主を目指すべきだろうが」
などと言う曹操のこの時の心境は、虎ににらまれたネズミ
もしくは勝てない相手と武術大会で対戦するハメになった
武将の心境に似ていたとかなんとか。
「いっそ反乱でも起こし国をのっとるのが妥当ではないか。
おぬしの人望なら不可能な事でもあるまい」
「・・・・」
朱羅は考えた。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
ぽん
と手をひと打ち。
「・・・なるほど。それは気が付きませんでした」
「まてまてまてまてーーい!!!」
曹操、机をひっくり返しそうな勢いで立ち上がり
お茶をすすろうとしていた朱羅をびし!とさして大声を上げた。
「間に受けるな!!冗談!冗談だジョ・ウ・ダ・ン!!」
「・・・そうですか?軍師殿はよい案を出してくれたと思ったのですが」
「国とわしの顔を平然と同時につぶすな!!」
「・・・それは残念。ではまたの機会に・・」
「またでもやめーーい!!」
ちょっと残念そうに言う所を見ると
本気で謀反をおこし国を乗っ取る気でいたらしい。
しかも軍師が言うんでなんとなく。
・・・馬鹿って怖い・・・。
曹操、本日の朱羅についての新たな教訓が生まれた。
書くたんびにちょっとアレになっていく朱羅姉。
これも実話が元になってます。
張角討伐前に病死、呂布手合わせ前に病死。
まぁ楽っちゃー楽だったんですけど・・・なぜに。
ちなみに失敗するのが怖いので反乱はしてません。
弟の武将は横山○ック似のくせして呂布から国をぶんどったそうですが。
イロモンのくせに