その国には武術大会というものがある。

年に一度、武に自信のあるものを集めて一対一の勝負、つまり一騎打ちをする大会の事だ。

ただそれだけの事なのだが、普段槍を交えることのない仲間と戦える数少ない機会でもあり
優勝者にはそれなりの恩賞が送られるということも加わって
筋肉馬鹿・・・もとい腕に自信のある武将らはこの時を楽しみにしている者も多い。

参加不参加は任意。
なので武力に長けた者にはその意思を確認するため使者が行く。
一般武将、太守、誰であろうと武力が高ければ使者が行く。

そしてその使者が向かったその屋敷の武将は断ることはほとんどない性格で
参加もあっさり承諾した。

国内一の武力に加え、戦場では負け知らず。
包囲攻撃も効かず一騎打ちも水上戦もこなすというまさに戦の達人だった
・・・・のだが・・・・。

ただ一つ問題があるとすれば、その武将が女であるということだった。





「・・・げ!一回戦から朱羅かよ!?」

トーナメント式大会の一回戦、対戦場の石橋の向こうにいた馬に乗る人物を見たとたん
今まで勝つ気満々だった張飛の顔色が一変する。

そこにいたのは戦場ではいつも先陣を切り、仲間内で決して敵に回してはいけないと
密かにささやかれている別名死を呼ぶ紫朱雀、馬彩桂朱羅。

「・・・私ではいけませんか?」
「・・・いや、そうゆうわけじゃねえんだが。なんか一緒に戦してて戦い方見てると
 お前と一騎打ちして勝てる気しねえんだよなぁ・・・」
「・・・戦う前から弱気になるのは武人としてあるまじき行為です」

言って朱羅は無表情で愛用の直槍をぶんと一振り。
屋敷にいる時は普通の女性である彼女も、ひとたび鎧を着て馬にまたがると
全身からすさまじい気迫がにじみ出る闘神に変わる。

「わ、わかったわかった!やる!真剣勝負だな!」
「・・・わかれば結構です」
「しっかし・・・真剣にやらなけりゃ殺されそうだな」
「わかれば結構です」
「超強気かよ!?」


朱羅、あっけなく一回戦突破。
守る事は一切せず攻撃のみ(別名ごり押し)で押し切った。

「・・・しかし・・・お前なんでそんな細身で俺と張り合えるんだよ」
「・・・さぁ、考えた事もありませんけれど、不自由ないのであればそれでよいのでは?」
「・・・・・・。・・・・わかった。ま、それがお前なんだろうけどな」
「・・・?・・・はぁ」

二まわり以上大きな手を引いて、まともに落馬した張飛を助け起こしながら
朱羅は不思議そうに首をかしげた。




二回戦、許チョと対戦。

「・・・まさかこんな所で女と対峙する事になるなんてなぁ・・・」

戦いとなると活気付くはずの許チョが、めずらしくげんなりしたように頭をかく。

「・・・私も以前政治の指南をした方と対峙するとは思いませんでしたよ」
「だが・・・悪く思わんでくれよ彩桂殿。わしは戦うのが生業なんでな!」
「・・・お気になさらず。負ける気はありませんので!」

双方強気な態度で一騎打ちを開始した両名。
力量ではほぼ互角だったが戦術では朱羅がまさっていたため
その勝負は朱羅の勝利に終わった。

しかし試合を終えて馬を降りた二人を見る限り、どう見ても大熊と鷹。

それほどに二人の体格は違いすぎ、朱羅の外見はこの場に似つかわしくない存在
つまりムキムキの筋肉集団の中で妙に浮いた存在だった。



だがそんな事はおかまいなしに試合は決勝戦。
対するは許チョとほぼ同じ武力を誇る、悪来の別名をもつ典韋だ。

「・・・こいつは驚いた、決勝戦で女と当たるか」
「・・・皆様そう言われますが・・・それは油断のあらわれですか?」
「・・・・・いいや。今はそれはない。
 はたから見てもわからなかったが、こうやって真正面から対峙してみると
 そうゆう甘い考えは死を招きかねん。戦でつちかってきた感がひしひしとそう言う」
「・・・・・・」

朱羅は無表情をはりつかせたまま直槍をすっと前に出し
静かに口を開く。

「・・・なら結構。参ります」

「ようし!こいやあー!!

ほぼ同時に互いの馬が走りだし、槍と槍のぶつかる音があたり一面に響き渡る。

二頭の馬の間で激しい打ち合いが続き、典韋の気合の声と朱羅の短くも鋭い声が
あまりの激しい戦いに静まり返った会場に飛び交う。

遠目にもみて強力な典韋一撃を、細身の朱羅はなんなく受け止め、流し、はじき
時には似合わぬ力で押し返しもした。

「ぐっ!ぬうん!おうりゃあっ!!」
「はっ!とぉっ!はあっ!!」

その激しい戦いは長時間続くかと思われたが、典韋が疲労のためか
ほんの一瞬だけ隙を生む。

その一瞬の隙を朱羅は空から森の中のネズミを狙う鷹のごとく見逃さなかった。


「はあっ!!」


がつッ!!


「ぐおっ!?」

目に見えぬほどの速さで繰り出された朱羅の直槍が正確に典韋をとらえ
巨体が地面へと叩き付けられた。


「・・・・勝負・・・ありです」


静かに告げた朱羅の声の直後、大歓声が巻き起こる。


それがこの瞬間、国始まって以来初の女性の優勝者が誕生した瞬間だった。





「姉上ー!!優勝おめでとうございます!!決勝戦お見事でした!!」
「・・・あ、馬超。そういえばあなたも参加していたのですね」
「よお弟!一回戦落ちとはなさけねえな!」
「・・・・っ、そうゆう張飛殿こそ!」
「騒ぐな騒ぐな、しょせんわしらは負け組だ」

君主から優勝の褒美を受け取った後、祝勝会と称した飲み会。

張飛、許チョ、飛び入りで馬超が入り(典韋は治療中で不参加)
いつもは静かな朱羅の屋敷は急に騒がしさを増していた。

「・・・確か夏候惇殿との対戦でしたね」
「だらしねえなまったく。姉貴が出てるんだから死ぬ気で勝つとか思わないのかよ」
「だからそれは・・・!その・・・!」
「・・・かまいませんよ馬超。勝負は時の運とも申しますし
 負けた悔しさを乗り越える事も大事な事なのですから」

そう言いながらお茶をそそぐ落ち着いた女性が、ここにいる男達の誰よりも
いや、この国一の強さをもっているなどとだれも考えないだろう。


「・・・そうだ。私来月は少し暇になりますから武術の師事をしてあげましょうか?」


そのなにげない朱羅の言葉に、なぜかその場にいた男達の表情が凍りつく。

「いっ・・!いえ!!姉上のお手をわずらわせることはできません!!」
「・・・そうですか?大した手間では・・・」
「わしがやっておこう!びしびしやるから彩桂は気にすることはないぞ!」
「・・・許チョ殿が?」
「だよな!朱羅は誰か訪問してくるやつがいるだろうから屋敷にいろ!な!
「・・・・・・はぁ。そうですか」

男達の必死の抵抗に朱羅は不思議そうに首をかしげる。

さすがに女性に、しかも身近な女性に武術の指南を受けるには男として抵抗があるのだろう。
こんな時にだけ性格の違う武力だけの面々は一致団結していた。

「と、ところでよ、優勝の褒美ってなにをもらったんだ?」
「倚天の剣です」


・・・・・・・。


「・・・姉上、確か以前青スの剣を買ったと言って・・・」
「・・・えぇ、それもちゃんと持っていますよ」
「ちょいまち!お前一体能力いくつなんだ!?」
「・・・えぇと・・・」




戦闘   110     ←(史上初)
知力    87
政治    70
魅力    94




「なに戦闘3桁こえてんだお前ーー!?

「・・・あ、本当。いつの間に」

「・・・弟、強く生きろよ。わしは知らん」

「・・・(固まってる)・・・」



半投げやり気味に許チョに肩をたたかれた馬超。

彼は初めて槍を握って戦場に出てからずっと後姿を見てきた尊敬すべき姉を
今日初めて恐ろしく感じた。






直書きです。
戦闘だけ育ててたらどうなるかなーとか思ってたらこうなりました。
なんだか女呂布っぽかったけど、魅力も知力も高いわけわからん人物に成長。
ま、人気者だからいいや。



帰るー!