その日、朱羅の屋敷を孫堅が訪ねてきた。
朱羅はやって来た人間を拒むような事はどれほど忙しくてもほとんどしない。
いつものように客間に通し、いつものように何気ない話に花が咲く。

「・・・そうですか。孫策殿は貴方に似てきましたか」
「ははは、政治より先に武を好むところ完全に私似だ。
 権の方はどちらかというと私と反対に内政向きなのだがな」
「・・・ところで孫堅殿」
「ん?」
「・・・孫権殿は確か・・25でしたね」
「ああ、そうだが?」
「・・・貫禄がおありなのですね。・・・立派な白髪まじりのお髭で」

ぶぼ

孫堅は飲みかけたお茶を思いっきり吹き出した。

「・・・先日資料で初めて拝見しましたが・・・あなたの家系は少し変わっているのですね。
 ・・・なぜか息子さんの方が年配に見えて、歳が若くなるに連れて貫禄が・・・・」
「ぐ・・・げっは!そ・・そおだ朱羅どの(裏声)!来月の上党攻めの件のことだが!
 まだ軍師殿からなにか要請は届いておらんか!?」

孫堅は胸を叩きながら必死に話をそらす。
朱羅は少し首をかしげるが、あまり追求する性格でもないので話はあっさり切り替わった。

「・・・いいえ。私の所にはまだですが」
「そうか・・・(安堵のため息)。おそらくそなたにも徴収がかかるだろうが、用心されよ。
 我が国も大きくなったとはいえ、追いつめられた他国の力というのはあなどれんからな」
「・・・そうですね。でもこちらには関羽殿や張飛殿、徐晃殿もおられますし
 何より軍師には曹操殿がおられるのですから。そう心配する事もありませんよ」
「そうかもしれん。しかしな、そなたは知らんだろうが・・・我が国の大半の武将は
 戦では何よりそなたを頼りにしているのだぞ?」
「・・・私・・・ですか・・・?」

あいかわらず自分の事にはてんでうとい朱羅に孫堅は苦笑した。
彼女は他人の事となるとよく気がつく反面、わが身の事となると
重要な集まりに出た時に名乗る自分の階級を忘れてしまうほど無頓着なのだ。
そんなのん気な所が彼女の友人が多くなる要因なのかもしれないが・・・。

「まぁともかく来月はまた忙しくなりそうだな」
「・・・そうですね。ゆっくりご飯が食べられなくなります」
「・・・そうゆう問題か?」
「・・・そうゆう問題です」

しかしこののんびりした性格が、この後ちょっとした珍事を引き起こす事になろうとは
茶柱を見つけて孫堅に報告したりしている朱羅本人を含めて、誰も知る事はなかった。




そして次の月。


上党への行軍の最中、数ある部隊の中でとある一部隊が
そんなつもりはないのだろうが、異様なまでに人目を引いて・・・
早い話、周りから思いっきり浮いていた。

「・・・なぁ兄者、あれって朱羅の部隊・・・だよな?」
「・・・・・・・」

張飛の問いかけに関羽は何も答えない。
近くにいた孫堅も何か言いたそうにしているが、そこまで勇気はわかないらしい。

ただし朱羅の実の弟である馬超だけは違った。

「姉上ーー!」

いつも通り元気に馬を寄せ、嫌がる馬をなだめながら
なぜかかなり上を見上げる。

「・・・あ、馬超。あなたは騎馬なのですね」
「はい!いつも通りです!姉上は今回新しい兵科になられたのですね」
「・・・いえ。なった・・というか、いつからこんな兵科になったのか
 私にもよくわからないのですよ」

そう言って朱羅は乗っていた鼻の長い生き物の頭をポンとたたく。

それは地上最大の哺乳類。いわゆる象だった。
ほとんどの部隊が馬に乗る中、朱羅のひきいる部隊だけがなぜか巨大な軍用象。
これで目を引かないほうがおかしい。

「軍師殿から変更の伝令はなかったのですか?」
「・・・えぇ、まったく」
「では兵科の変更は・・・」
「・・・つい先ほど知りました。妙に視線が高いので・・・気にはなっていたのですが
 ・・・私はいつ兵科がえをしたのでしょう?誰かに聞いてみましょうか?」

首をかしげる朱羅を見ながら張飛が怪訝そうに口を開く。

「・・・なぁ兄者、朱羅って・・・天然なのか、馬鹿なのか、一体どっちだ?」
「・・・それはわしが聞きたいくらいだ。わしも今だにそれだけはわからん」
「・・・うちの親子の事を言えた義理でもないな朱羅殿」

戦前だというのに彼女の関係者は妙な事でひそひそ話をはじめてしまう。
そんなことはつゆ知らず、三国最大の武力とボケっぷりをあわせもつ馬彩桂。
そこらへんの枝を取ってもそもそ食べ始めた自分の象をさして気にする様子もなく
のんびりその頭を撫でた。

「・・・まぁ・・・でも乗れないものでもありませんし、別によいのですが」
「さすが姉上!適応力がおありですね」
「・・・乗り物は得意ですから。
 ・・・ところで馬超、私の進路は森をぬけて西回りですが・・・あなたは?」
「私は川沿いを正面突破です。うまくゆけば敵を包囲できるやもしれませんね」
「・・・しかし敵は森にも川にも存在します。待ち伏せには十分注意なさい」
「はい!ではお互いに!」
「・・・無理をしないようにね」

そう言いながら何不自由なく象をあやつり朱羅は進軍を開始する。

「・・・では皆様、御武運を」

パオォーーン。ベキ、バリ、メリメリメリドーーン!

落ち着いた口調とは裏腹に、派手な破壊音と、誰も遭遇したことのない威圧感をひっさげ
朱羅の部隊は森に消えて・・・いや、森を遠慮なく切り崩していく。

「・・・・姉上・・・凛々しゅうございます!」

尊敬とあこがれの眼差しで見送る馬超に、まわりにいた武将達の脳裏に
ほぼ同一のセリフが浮かんだ。


『だめだこりゃ』





それから戦も1時間ほど経過したころ・・・

「馬超!いきますよ!」
「姉上!一網打尽です!」

ゴンガゴンガドーーーン!!

その後、森の中から馬姉弟の包囲攻撃による大音量が広範囲にひびきわたる。


「・・・彩桂殿、ますますわしらを引き離されてお強くなられますな」
「なんつーか・・・もうバケモンの域にたっしてきやがったなぁ・・・
 次の武術大会、あいつと当たるやつ死んじまうんじゃねえか?」
「・・・たとえ一国を敵に回したとしても、あれだけは敵に回したくはないな。
 息子らにも言い聞かせておく必要があるな。・・・はぁ・・・」


その音は敵よりもなぜか味方の武将をふるえ上がらせたそうな。








実話がネタ元です。
ある日出陣したら、なぜかいきなり象に乗っててびっくり。
しかも歩くの激遅でまたびっくり。
馬超との包囲攻撃も迫力満点でした。

・・・いろいろ印象に残りまくった戦だったのは確かです。

ちなみに孫権の話はマジな話です。
顔グラフィックが1枚しかないのはわかりますが・・・しかし・・・
25であの顔ってのはどうかと思うんですが・・・・。



                         逆年齢サギですか?