畜生め!!
・・・って1人でぼやいたところでしょうがねぇんだが、ああくそっ!!
近くにいた兵に殿の事をたのんで門を外から閉めたはいいが
いったいどっからこんだけの兵が沸いてきやがるんだよ!!
確か中には許チョと徐晃がいたはずなんだが
合流しようにもこう数が多くちゃ前に進めやしねえ。
よく考えりゃこんな目立つところで立ち回るのがまずかったんだろうが
殿から敵の目をそらすにゃ他に方法がなかったからなぁ・・・。
・・・とにかく今は耐えるしかねえ!
うまく伝令が動いてくれりゃ夏候惇か張遼あたりが援軍で来るはず・・なんだが・・・。
にしても斬っても斬っても斬っても減らねぇぞくっそ!!
いいかげんあきらめて迂回しろってんだよ!!
「弓兵隊!前へ!!」
げ!?やべ!?
こんななんもない所で!?
慌てて牛頭を前に出して矢を防ごうとした時、わしの後ろで変な音がした。
ヒュン、カチ、ブン、カチャ。
小せえ音だったから瓦か何かが落ちたと思ってたんだが
次の瞬間、遠くに見えてた弓兵隊が1人残らずばたばた倒れやがったんだ。
・・・あれ?なんで何もしてねぇのに・・弓兵だけ・・・。
それによく見るとまわりにいた敵兵どもがわしの後ろにある門の上を見上げて
なにかざわつき始めてやがる。
・・・なんだ?何見てやがるんだ。
攻撃の手がやんだのを見計らって振り返って見るとそこにいたのは
月を背景になんでかかがみ込んで門の上の瓦を拾ってる文官風の変な女だった。
ん?そういやあの髪の短い女、どっかで見たことあるような・・・。
「・・・あ、やっぱり見つかりましたか」
そう言いながらちっとも驚いた様子もないその女。
両手に砕けた瓦を持ちながら、なぜかわしの方に向かって頭を下げてきた。
「ごめんなさい典韋。本当は塀づたいに近道をしようとしただけなのですが
見覚えのある後姿(言い換えると目立つハゲ)だったのでつい手をだしてしまって・・」
「は?・・いやそりゃ別にかまわねぇが・・・・って、あ!?」
そうだ思い出した!この女たしか夏候惇の遠い血縁だとかいって殿が連れてきた女だ!
張コウを素手ではり飛ばし(本当)、司馬懿と真っ黒い火花を散らし(半本当)
甄姫様と城内の生活科を牛耳り(ウソ)徐晃を下僕にしてこき使ってる(真相不明)って
変な噂だけ飛び交って、実際姿を見るのはこれで2回めくらいだから
すっかり忘れてたんが・・・・。
「・・・あ・・あんた何してんだそんなとこで!?あぶねぇからさっさと逃げろ!!」
てゆうか!んな目立つ所にいたら・・・!!
わしの悪い予感はすぐに的中した。
新しく増援で来た弓兵どもが、まるで当ててくれと言わんばかりの場所にいた
文官のねえちゃんの方に一斉に狙いをさだめる。
・・!! バカ!!
声に出せず叫んでももう遅いし、こんだけ囲まれてちゃどうにもならねぇ。
一斉に放たれた矢はほとんど、ざっと十発以上が門の上にいた変な女に命中して・・・
命中して・・・・
して・・・
・・・・・・・した・・・・・・・だけか?!
・・・そう、命中しただけ。その女、一瞬よろけただけで倒れねぇんだ。
つーか・・・なんで矢が全部刺さりもしねぇで下に弾かれて落ちるんだ!?
「・・・、・・やり・・ましたね」
・・・ぞくり。
さっきの声と打って変わった冷たい声に一瞬背中が凍りつく。
「お返しします」
フォン、カチ、ヒュウン。
この音、さっきの変な音だ!
何をどうやったのかは早すぎてよく見えんかったが
そいつはとても文官にゃ見えん鋭い動きで瓦を次々に投げていく。
それから矢がぱったりやんだってことはおそらく投げた瓦が全弾命中したんだろう。
・・・なんちゅう女だ。
いやちょっと待て!それ以前になんであんだけの矢をまともに受けて
一本たりとも刺さりもしねえ?!
「・・・おいあんた!?」
「平気ですよ。こう見えても頑丈な・・・」
ドッ!
言ったそばから今度は投げられた槍がわき腹に命中。
ところがそいつも刺さらず足元、さらにわしの近くにガランと落ちてきた。
「しつこいですね!」
そしてさっきと同じように何事もなかったようにお返しを食らわしてやがる。
おいおいおい!頑丈どころの話じゃねぇぞ!?
一体どうゆう身体してんだよ!?
・・とはいえ驚いてる場合でもねぇな。
今ので文官のねえちゃんの方に敵の目が半分それたとはいえ
敵の数はまだ一向に減る気配すらねえ。
聞きたい事は山ほどあるが、今はまず目の前をなんとかするのが先だ!
「おいあんた!聞きてえ事は色々あるが、後にしとく!援護たのむぜ!」
「わかりました。気をつけなさい」
「おうよ!!」
なんだか知らねぇが妙な助っ人が来ちまったが、1人にくらべりゃ百倍心強えぜ!
それにあの文官のねえちゃん、うまいこと遠くにいる弓兵や
牛頭の死角にいる兵なんかを片付けてくれやがる。
・・・なるほどな。殿がうれしそうにひっぱって来たのがなんとなくわかるぜ。
機敏な動きといい的確な判断といい、文官にしとくにゃもったいないくらいだ。
「ひるむな!あの女を叩き落とせ!!」
お、矢も槍もきかねえとなると今度は直接かかろうってハラかよ。
何人かの奴が塀をのぼってねえちゃんの方へ走っていく。
おい・・・今度こそやべえんじゃねえか?
牛頭を振り回しながら盗み見して心配してると
その女、足元まである衣を片側だけ引き裂き、気合一声。
「はぁッ!!」
ゴッ!!
・・・・・・・・。
蹴った!!?
振り下ろされた剣を流しざま、片足で凄まじいまでに鋭利な一撃。
さらに次の奴には流れるように肘を急所に叩きこみ
後ろから斬りつけてきた奴には最小限の動きで裏拳が入る。
しかもあの細身でかなりの威力があるらしく、たった一発でどいつもこいつも
門の上からぽんぽん叩き落されていきやがる。
「・・・・あぁもう!足場の悪いこと!」
しまいにゃ結構高さがあるはずの門の上からためらいもせず飛び降りて
わしの近くに猫みたいな無駄のない着地をしやがった。
その時近くで見てわかったんだが、こいつ槍や矢や剣の当たった所は
服がきっちり破けてるのに、その下のやけに白い肌には血のにじむどころか
青あざ一つすら見あたりゃしねぇ。
「・・・・あんた・・・一体なんなんだ??」
「?・・・そういえば自己紹介はしておいたはずですが」
「・・・へ?そうだっけ?」
・・・いや、わしが聞きたいのはそうゆう事じゃなくてだな・・・
「・・・しかたありませんね。では後ほどあらためて」
言いながら手近に落ちてた兵から布きれを拾い、手にぐるぐる巻き始めやがる。
・・・おい、まさか・・・
「・・・一つ聞いていいか?」
「一つなら」
「体術・・使えんのか?」
「それなりにね」
かかってきた兵に正拳を叩きこみながら言ったその短い言葉に
いくつもの戦や修羅場を乗り越えてきたはずのこのわしが、なぜか変な寒気を感じる。
「あ、私からも一つよろしい?」
「・・・・な・・・なん・・でしょう」
どうゆうわけか自然と敬語が口をついて出る。
「殿や皆には、内緒ですよ」
そいつは火の粉が巻き上がり敵に囲まれた修羅場に似つかわしくねえ
いたずらっぽい笑みを作り、人差し指を口に当ててそう言った。
あたりにゃ色々な物が焼ける臭いと熱気がうずまいてるっていうのに
たったそれだけの言葉としぐさが異様なまでにわしの肝を冷やしやがる。
それが何を意味するのかは、それからしばらくして夏候惇たちが援軍として来たころに
そこにいたわしだけが知る事となった。
「・・・あら、やっと来ましたね」
殴りすぎて完全にボロになった布を無造作に捨てながら
文官のねえちゃんの方が先に遠くに見え始めた援軍に気づく。
あたりにはわしとそこの文官の以外に立ってる奴はいない。
あとはそこらへんに転がってる敵の山、山、山。
・・・しかし・・・助けられたとはいえ・・・なんかえらいもん見ちまったなぁ・・・
「それでは私は戻りますね。こんな所にいると後で色々聞かれますから」
「え?あ!ちょっと待った!」
「はい?」
「・・・さっき・・自己紹介って・・・」
「あ、そうでしたね。志悠といいます。もし今度城内で会う時は覚えておいて下さい」
今気づいたんだがあっちこっち穴だらけになって目のやり場に困る服で
志悠と名乗った女は静かにそう言った。
「では口裏あわせ、お願いしますね」
「・・・あぁ、そりゃかまわねえけどよ・・・ちょっと待てよあねさん」
思わず口から出た言葉に志悠・・・いや、あねさんの目がちょっと驚いたようになる。
わしはその辺に落ちてた旗を引っつかんであねさんをなるべく見ないように押しつける。
「・・・ほら、なんかはおっとけよ。目の毒だろが」
「・・・ふふ、ありがとう」
あ、笑った。思わずいっちまったが笑ってくれたってことは
まぁまんざらでもなかったみてえだ。
・・・ちょっとほっとした。
まぁともかく志悠のあねさんは旗を肩からはおると
助走もつけず門の上へ飛び上がり、城内へ消えていった。
去りぎわも人間ばなれしてやがるが、不思議と違和感がわかねぇ。
・・・なんでかっつーとまぁ・・・あの人・・・
「・・・典韋!?生きていたか!」
・・・お、やっと来たか眼帯のダンナ!
「おせぇおせぇ!なにやってんだ!」
「すまん!孟徳の方にも手がまわっていて少してこずった」
「ま、その様子だと殿の方は大丈夫みてえだな」
「今許チョと張遼がついている。徐晃は残党のを殲滅しているが・・・・
しかし・・・これはまた派手にやったものだな・・・」
門の前の敵の山を見ながら、殿の血縁であねさんの血縁でもある夏候惇は
あきれたようにため息をつく。
と、言っても大半はわしじゃなくてあねさんの仕業なんだが、それは黙っとくことにした。
・・・いや、この場合は言えねぇって方が正しいかな。
「ちっとてこずったが、まぁなんとかなったぜ。やばかったりもしたがな」
「そうか。・・・・ところで・・・・志悠という女を見なかったか?」
「・・・しゆう?誰だそりゃ?」
すっとぼけて聞き返すと夏候惇の顔が急にくもった。
ってことは心配してんだな。・・・心配するほどやわな人でもねえのによ。
「俺の遠い血縁で内政を受け持っている物腰の落ち着いた髪の短い女だ。
少しでもいい、どこかで見なかったか?」
「・・・知らねぇな。別働隊の連中と一緒じゃなければまだ城内にいるんじゃ・・・」
ねえか?と続ける間もあたえず全力で走り出す夏候惇。
・・・やれやれ。あねさん、こっちはうまくごまかしましたよ。
あとはそっちにおまかせしますぜ。
まぁそんなこんなで、わしはその日、危ない所を助かった変わりに
多分魏では誰も知らない一つの秘密をもった。
火の粉の舞う宛城の門の前を、矢も槍も剣もものともせず、あげく武器も持たずに
自らの拳だけで守りきった鋼の体を持つ女の事を。
その時わしは目の前に・・・妙な話だが・・・敵を振り払い、牙をむいて暴れまわった
白い虎がいたような・・・そんな気がしてならんかった。
もちろんこんな話は話すつもりもねえし、話した所で笑われるだけだろう。
だから今でもこの事は、あの時あそこにいたわししか知らない。
それとあの後、あねさんとちょっとづつだが話をするようになった。
お互い門の前で立ち回った話はしねえが、後で聞いたところじゃ
あねさん、守る事に関してのみあぁして戦ったりするらしい。
それと・・・あねさんはわしがあねさんて呼んでるのを、なんか気に入ってくれたみたいだった。
それはそれでよかったんだが、この前司馬懿があねさんの事を
「キツネの威を借る虎め」
って言われたのを聞いた時、思いっきり吹き出して背中をつねられたけどな。
「・・・ってー!・・・あながち間違ってないじゃねぇですか」
「よけいなお世話です!第一私はキツネの威をかぶったつもりはありません!」
「げ、ちょっと!すねないでくだせぇよあねさん」
「あ〜典韋〜、志悠さまいじめたなぁ〜?」
「バカ!ちげえよ・・ってうおわっ!?バカ!やめ!」
ま、そんなこんなでわしは今でもここにいる。
守るためにしか牙をむかない、強くて優しくておまけに賢い鋼の虎に助けられてな。
志悠のもう一面を書いてみたくてマッハで作ってみました。
設定に書き忘れましたが、志悠もちょっと異質の存在です。
ところでこれを書いてから、宛城を典韋でプレイしてみたんですけど・・・
顔,、すげえ怖いですね。びっくりしました。
甘寧の頭も怖いけど