本当は海釣りから入るつもりだった釣り好き半魔と野次馬の悪魔と
一応人間だけどたまに忘れがちな人間のご一行ですが
色々あって先に海での行動あれこれから覚える事になりました。
まず基本的かつホントかよと疑うような話ですが
この海にはどんな重装備をしていようが何も外さずそのまま飛び込みます。
それは常識的に見ると自殺行為にしか見えませんが
ここの海は流れや波がほどんどなく浮力も高めなので
息継ぎにさえ気を付けていればそうそう危なくはありません。
そうやって一通りの基本動作を教わりもぐったり泳いだりして
3人はざぼんと海面に出てきました。
「どう?基本はこれで大体だけど何か質問は?」
「・・動きにくい。おまけに距離感が恐ろしく掴みにくい」
「そうだな。私の武器も大半は水中で使えないようだし
先程のような敵と水中で遭遇するとなると厄介だ」
「それは今のところ大丈夫じゃないかな。
一種類小物扱いでも大きめな水トカゲがいるけど今はいないし
動きもそう機敏じゃないから動きをよく見てれば大丈夫だと思う」
「ではそちらの方面は君とバージルに任せていいだろうか。
私の武器はどれも水中との相性がよくないようなのでね」
「うーん、と言ってもあたしもまだ水中戦には慣れてないのよね。
ハンマーの射程もそう長いわけじゃないし」
「む、となると・・」
などと消去法で残った人に視線が集まり、残ったバージルはぎくりとしました。
確かに彼は水中で使えない火器を所持していなければ攻撃範囲もまぁ広めです。
けれど彼はまだ完全な水中での戦闘をしたことがありません。
え、ちょっといきなりそんな事言われても、と軽く狼狽えるバージルをよそに
レイダはいつも通りにのんきに笑って手を振りました。
「いいっていいって。ここはそんなシビアな状況に追い込まれないだろうから。
もしそうなったとしてもいきなり戦えってのは私的にオススメしないしさ」
「・・では用心と先のために聞いておくが
もし突然厄介な生物に遭遇した場合の対処方は?」
「距離に気をつけて逃げる。
でも慌てず慎重に、かつ相手の正面に位置しないように逃げること。
この中にそんな事する人はいないだろうけど
相手がどんなヤツかわからないのにいきなり殴りかかったりしないようにね」
「・・・」
「ね」
スパーダが歳不相応に『え〜?』とばかりな顔をしましたが
有無を言わさない笑顔と一文字でぎゅっと押さえ込まれ
弟のパターンとなんか激似なのはともかくバージルはある意味感心しました。
「あ、それともう一つ。息を吸うには水面に上がるのが確実なんだけど
水の中にも息継ぎできる場所があるの」
「「?」」
「実際に見せた方が早いかな。ついてきて」
などと言うなり一番重装備なハンターさんは慣れた様子で潜っていってしまいます。
残された親子は軽く顔を見合わせましたが、すぐもぐって後に続きました。
泳いで案内された先は岩の転がるなんの変哲もない海底です。
しかしその周辺からは断続的にぽこぽこと下から空気の上がっている場所があり
レイダはその近くまで泳いでいくとそこでこいこいと手招きしてきます。
まさかと思いましたがそのまさかのようで
半信半疑でその場所まで行くと、上に上がって息を吸うのと同じくらいの効果がありました。
『どう?わかった?』とジェスチャーするレイダに対し
バージルは『・・・金魚の気分』とやりたかったのですが
あいにくそういうジェスチャーの仕方を知らないので何もできずじまいです。
そしてその横で『口移しで息継ぎできたら面白かったのに』とか
父が真面目な顔して考えていたのは誰にも知られる事はありませんでした。
知られていたらいたらでいろんなものが複数の意味で
真っ赤に染まっていたかもしれませんが。
さて息継ぎを覚え泳ぎ方も慣れてくると、海の中というのも案外快適なものです。
地上では飛ぶか壁を蹴るかしないと行けない高さは水中ではまったく関係なく
あまり速くは移動できませんがどんな所にも自由に行く事ができ
どんな所からも落っこちたりしません。
そうしてゆっくり時間が流れているような世界で
岩壁にあったむき出しの結晶から鉱石をとったり
海の底に残った骨の残骸からサンゴに似た石や真珠をとったりと
やってる事は海女のようですが時間がたつにつれバージルは楽しくなってきました。
あ、でもそういうのは悟られないようにしないと
何考えてるかわからない父が何をやり出すかわからない。
と思って振り向くと、さっきまでそこにいた問題の父が見当たりません。
『?』と思ってあたりを見回そうとするとふいにぽんと肩をたたかれます。
なんだそっちにいたのかと思って振り向くと
すぐそこに片方の鼻の穴にサンゴに似た石(ベニサンゴ石)をつっこみ
すごく真面目な顔をしている伝説の父。
そしてそれがシリアスな顔のまんま、ぷん!と空気の線をひいて
鼻血石・・じゃなくサンゴ石を鼻から吹き飛ばしました。
こっちの顔面に向かって。
ぶごぁ!
大人しくしていれば数分はもつ空気がぜんぶいっぺんに口から漏れ
死ぬ気で水面まで泳いだバージルは顔を出すのと同時にげほげほ咳き込みました。
そして後からのんびり追いかけてきた父に『何をしている!!』と怒鳴ると
その父いわく。
「そんなに怒る事はないだろう。ただのかわいいユーモアなのに」
「かわいいユーモアで溺死させられてたまるか!」
「いや別に殺すつもりはなかったんだが
どういう反応をするかなと思って試してみたら
思いのほか楽しい反応が返ってきたので私的にはとても満足・・」
ばしゃん!どぷん。
正確に頭を斬りつけるもののあっさり潜ってかわされました。
まったくもうなんなんだあのオッサンオヤジは。
まさか魔界を裏切った時もあんなノリじゃないだろうなとか思いますが
とにかく水の中でジタバタしても空振りが多いので
後でまとめて返上しようと思い直し、バージルはしぶしぶ海中に戻りました。
そうして気を取り直し海底の採掘場所から鉱石や真珠をほり
途中やたらにでかい真珠がとれ『?』と思ったりもしましたが
それはそこそこにレアな物だったらしく、レイダが嬉しそうに頭を撫でてきました。
バージルはムッとして『撫でるな』と振り払おうとしましたが
それより先にあったかそうな目でこっちを見ていた父が目に入り、幻影剣を数発発射。
しかしさすがに魔力でできた剣も水中では速度が落ちるらしく
それは到達する前に止まってへにょと落ちてしまいました。
『はっはっは、まぁ無理はするな』とばかりに若干ムカツク手振りをする父に
バージルはギリギリと空気をもらしながら歯ぎしりをしていると
ふいに後ろからつんつんと肩をつつかれます。
なんだと思って振り返ると、両手の指をフル活用し
目鼻口の原型がどうだったのかわからないくらいに
ユカイな顔してるハンターさん。
ぼごぁ!
再度空気をいっぺんに(不本意に)なくしたバージルは
近くに酸素の補給ポイントはあったけど気が動転していたのか
なぜかとっさにそのハンターさんの腕をひっつかんで
凄いスピードで海面にどばんと飛びでました。
そして激しく咳き込み開口一番。
「貴様もかぁ!!」
「え?も?」
なんだ、じゃあおとっつぁんもやってたんだ
とか残念そうにする柔軟脳天気(バージル内罵声)に対し
お前ら人を遊びで溺死させに来たのかとぶち切れそうになりましたが。
「ゴメンゴメン。おわびに水中での魚のとり方教えたげるからさ」
とか言われて驚くほどあっさり引き下がりました。
実はそれ、最初から予定に組み込まれていた事なのですが
魚と新しい事好きの彼を冷やすにはちょうどよかった事なのでしょう。
いつの間にかすっかり読まれていると言えなくもありませんが
とにかくようやく持ってきた(とういかほぼ強奪した)モリが活躍する時が来たようです。
しかし教えると言っても水中での魚捕りのやり方はとてもシンプルでした。
「・・・・」
教えてもらった事を頭の中で繰り返しながら水深のそう深くない所で止まり
バージルは群れをなして近くを回遊している魚をじっと凝視します。
それは大体同じルートを通るので先読みして待っていれば仕留められるとの事なので
その読みさえ間違えなければ大丈夫なはずです。
ここへ来る前借りた(強奪した)漁獲モリを手に彼はじっと待ちました。
レイダとスパーダはそれをちょっと離れた所から観察です。
そしてじっと見ていた魚の群れがくるりと円をかくようにして回遊し
こちらに向かって泳いできます。
来た。距離約10、8、5、2、1。
ここか!
渾身の力をこめ突き出したモリは見事魚に命中。
狙いがよかったのかたまたまなのか同時に2匹しとめる事ができました。
レイダが『おぉー!』と手を叩くリアクションをしてそこから素材を剥ぎ取り
『上手い上手い』というジェスチャーをくれました。
バージルはちょっと考え『それほどでもない』とやりたかったのですが
やっぱりやり方がわからないのでなぜか持っていたモリを背後に隠しました。
それは照れ隠しにしか見えませんでしたが本人は無自覚なので
とっさに口を押さえた父の口からぶぶっと空気がもれていきます。
釣りもある程度の駆け引きが必要になりますが
こうして直接魚を狙うというのもなかなかに新鮮な経験です。
なので熱中しすぎてまた窒息しかかったのはのは見なかった事にしてあげて
何匹かの魚をモリでしとめ、その場所での採集もだいたい済んだので
一度水面に出て次のエリアでの作戦会議となりました。
「さて、これから行く次のエリアなんだけど
下が深くなっててちょっと大きめの魚もいる場所になってます」
「・・聞くが大きめとはどのくらいだ?」
「えーっと、サメってわかる?」
「わかるが・・それは少々危険なのでは?」
大体サメというのは人を襲う魚の代名詞で
生身でタイマンしかけて仕留めるようなものじゃない気もしますが
ウン十メートル級の大怪獣みたいなのに原始武器で殴りかかるハンターさんは
1ミリたりとも動じません。
「いやアレはかなり深い所にいて動きはそう速くないし
こっちから近づかない限りはゆっくり泳いでるだけだから。
ただ仕留めて剥ごうとするならちょっと厄介かな」
「・・貴様の『ちょっと』という尺度は凄まじく当てにならん。具体的に説明しろ」
「えーと、簡単に言うとサメは大きくて他の魚より頑丈だから
ただモリで突くだけじゃ仕留められないの。
ある程度ふつうに攻撃して最後のトドメにモリで一撃しないと
攻撃が強すぎると逃げられるし、弱らせてないと固くてモリがはじかれる」
「つまり駆け引きが必要になる、と言うことでいいのかな?」
「それを採らなきゃ生きていけないってワケじゃないんだけど
そういう妙な手順を踏まされると逆に・・」
と言いつつちらとモリの所有者を見ると
その魚好きな漁師・・じゃなかった魚好きで負けず嫌いな半魔さんは
不敵に笑ってモリを握りしめ。
「・・やってやろう」
と、どこか楽しそうにそう言ってどぶんと潜っていってしまい
残されたハンターさんが感心したように笑いました。
「いや〜、やっぱりあの子漁師か何かの方が向いてるんじゃない?」
などと言いますがスパーダとしてはちょっと複雑です。
そりゃ好きで熱中できる事ができたのはいいことですが
伝説の魔剣士の息子が剣も戦いもできるのに突然漁師とかどうなのでしょう。
でも今までが今までなので確かにそういう職につくのは
悪い事ではないかも知れませんが・・。
「いや、しかし・・あの子が決めるのならば・・仕方ない・・のか。
でもせっかく強くて美形に産んだのに・・」
「アンタ産んでないでしょ」
などと名残惜しげにハンカチで目を押さえるオバ・・もとい悪魔の父に
びしゃと軽い波しぶきののったツッコミが入りました。
さてギャラリー皆無の漫才はともかくとして
そのエリアの海はそこそこに深くて岩壁が近いので薄暗く
もぐって奥へ進むと岩の下へ入りこむような少し不安な構造になっています。
そしてその深くて暗い場所を大きめ魚がゆっくりと泳いでいるのが見えました。
魚にしては大きくそして独特のフォルムをしたそれは間違いなくサメです。
まさか海に潜ってサメを採るハメになるとは思いませんでしたが
バージルはまったく悲観せずむしろ新しい本を読み進めるような気分で暗い海中を泳ぎ
サメの正面に回らないように用心してまず背後から一度斬りつけてみました。
しかしさすがに普通の魚とは違いサメはそれだけでは動きを止めず
ちょっとひるんだものの方向を変えてまた泳ぎ出します。
あと何撃くらいでいけるだろう。体力ゲージがあれば楽なのだが・・。
そう思いつつ追いかけようとした彼の視界にまた別の魚影が入ってきました。
それは別の魚かと思いきや、今追っているのと同じくらいの大きなサメです。
もう一匹!?
暗いし目の前に集中していたので気付きませんでしたが
気がつくと別のサメがこっちを狙って突進してきて
ごぶぁん ずどん!
いましたがギリギリの所でレイダのハンマーに叩かれ
そのサメは慌てたようにどこかへ逃げていきました。
どうやらさすがにあの攻撃だと逃げられてしまうようです。
『あとはどうぞ』と手を振るレイダにバージルはうなずいて返し
さっき斬りつけたサメを追いかけて狙いをさだめました。
あの攻撃で逃げられたのならそれ以前の威力で止めないと。
そう思いながら一応の加減をしつつ斬りつけ、見計らってからモリで一撃。
するとサメは急に動きを止め、ぷかりとその場に浮いて動かなくなりました。
『よっしオッケー』とジェスチャーをしてレイダは剥ぎ取りを始め
『おー!こんなの取れた!』と何かぶんぶん振って見せています。
そう言えばこの人、水中でも言いたい事はジェスチャーだけでちゃんと伝わり
どこにいてもあんまり不自由しないヤツだなとバージルはモリを仕舞いながら思います。
・・・。
いや、ただアレの思考回路が単純すぎてわかりやすいだけだ。
べつになんとなくわかるとかそういういい加減な話ではない。
大体それでは俺があの暖色原始人(悪口のつもり)との付き合いが長いみたいではないか。
・・いや短くはないが、なぜ俺があんな薬草採り(上に同じ)の事なぞ理解せねばならん。
わかりやすいだけだ。うん。深い意味などない。
などと腕を組みながらしぶい顔で考え込んでいると
横を通り過ぎながら父がつんと袖を引いてきました。
なんだと思っていると少し奥の方でその問題のハンターさんが
『次こっちこっち』と手招きしています。
あまり考え込むと危ないぞとばかりに頭の横を指す父にバージルはムッとしますが
そのもう片方の手にさっきまでなかった物があったのに気がつきました。
それは父の水中での唯一の攻撃手段であるニードルガンです。
しかし今ごろどうしてそんなのを・・と思ったバージルは
はっとしてさっき剥ぎ終えたサメをよく見ました。
するとその身体の目立たない所に針のようなものが数本刺さっていて
まさかと思って睨むと案の定父はそれをさっと背後に隠し
あらぬ方向に視線を飛ばしました。
バージルは少しムッとつつもそれ以上は追求しないことにしました。
だって今彼の持っている刀も自分の中にある人間離れした力も
元をたどればそこの父からもらったものなので余計な事するなとは言えません。
それに全部を全部1人で出来ないというのも彼の最近覚えた考え方です。
さてさて、その深めのエリアでの採集と狩りも終わり、次にどこへ行くかというと
そのエリアの一番深いところにあった光のもれる穴のような場所です。
そこをもぐった先は洞窟になっていて空気もちゃんとある陸上でした。
しかしそこには先客がいて、それは3人を見るなり咆哮を上げました。
それはふつうのトカゲをちょっとずんぐりさせ巨大化させたようなやつで
おそらくさっきレイダが話していた水トカゲとやらでしょう。
「・・あれが先程話していた水トカゲか?」
「ホントの名前は忘れちゃったけどそのとおり。
でもそう速くないから落ち着いて戦えば平気だと思う」
「よし、では私がやろう。トカゲとは少々縁があるのでな」
「じゃあほどほどに」
とレイダが言い終わるやいなや父は悪魔と戦うのとまったく変わらない様子で
跳び蹴りでつっこみ、続けざま炎を巻き上げつつ拳や蹴りをたたき込んで
突進してきた別のトカゲは素早くグレネードで燃やします。
なんというか水中で手数が少ないだけあってか地上での父はバカ強です。
「ははは、遅い遅い。ブレイドに比べれば止まっているのと変わりないぞ」
そりゃ魔界で作られた戦闘用の兵士と自然界のトカゲを比べればそうでしょうが
スパーダはかまわず数メートルある大きなトカゲをバカスカ殴って倒していき
楽しんでるのを邪魔しちゃ悪いと傍観を決め込んでいたレイダは
一応用心でハンマーをかまえながら感心したように言いました。
「いやー、強いね。見えて当たる敵には」
「?・・見えて当たる?」
「前に一緒に狩りをしたことがあったんだけど
その時の相手(ガレオス)は砂の中で攻撃がなかなか当たらなかったからね。
それからすればあぁして隠れもしないヤツは楽と言えば楽・・おっと」
とか話している最中、レイダはなぜかバージルの袖を引いて少し後ろにさがりました。
なんだと思っていると目と鼻の先にどさーんと大きなトカゲが落ちてきます。
ちょっと待て、こんな大きさのがどこからだと思いつつ上を見ると
洞窟の上に岩だなのような場所があったのでそこから出てきたのでしょう。
「まさかここは奴らの巣か?」
「いやここは無限に出てこないからあと何匹か倒せば終わると思うよ」
などと言いつつハンマーをぶんと振りかぶり、容赦なくトカゲの頭に叩きつけ
レイダは元気に戦っていた父に声を上げました。
「よし、これが終わったら一度休憩しようか。
おーい!おとっつぁん!これ出てこなくなったら休憩ねー!」
「了解した!」
きゅぼん、ドカーン!とグレネードガンの音を響かせながら父が楽しそうに返してきます。
何だか似たもの同士で前の狩りというのが一体どんなものだったのか
想像したくもありしたくもなしな心境ですが
ともかくその大きなトカゲを出てこなくなるまで全員で倒し
そこでいったん休憩となりました。
そこは水中を経由した洞窟であってもそう暗くはありませんでしたが
そこらじゅうがしめった砂や石か骨かサンゴか判別のつかないものであふれていて
休憩するといってもあまり気持ちのいいものではありません。
でもさっきまで海中にいたためそのあたりはあまり気になりませんし
それぞれに適当な所に腰を下ろし作戦会議と同時に休憩です。
「さてと、水に関係するルートはここまで。
あとはさっきの深かった場所から断崖を這い上がって洞窟回りで帰れば終了ね。
一応ここから一発で村に帰る選択肢もメニューにあるんだけど
それだと情緒もなにもあったもんじゃないでしょ」
「貴様の口からそんな単語が出るとは驚きだな」
砥石で愛刀の手入れをしながらバージルがすげなく言い放ちますが
慣れたのか脳天気なのか、いやたぶんその両方なハンターさんはまるで気にしません。
「いやこれだけ人数いるなら色々回って色々集める方が
得だし楽だしいろんな物が集まって楽しいでしょ」
「・・貴様確かハンターではなかったのか」
「そりゃ肩書き上はハンターだけど
ハンターって一口に言っても全部が全部狩り好きなワケじゃないでしょ」
まぁ確かに狩りが好きとか上手いとかいうハンターなら
こんな所で楽しそうに採った物の整理してないでしょうし
戦う方が得意な連中に魚の取り方を教えてたりはしないでしょう。
そう考えるとこの脳天気なハンターは
楽しそうに悪魔を狩る愚弟とは逆になるのだろうか。
だったら別に一緒にいてイヤになったりしないのは自然の摂理。
とか1人で妙な理屈をこね1人で納得していると
スパーダが急に何か思い出したようにぽんと手を1つうちました。
「あぁそうだ、すっかり忘れていた。
今回君にぜひ1つ聞いておきたい事があったのだが」
「?はいどうぞおとっつぁん」
「小細工は通用しないだろうからストレートに聞こう。
君に好みの男性のタイプなどはあるかな?」
すぽん カン!
刀を研いでいた石が向こうへすっぽ抜け岩壁に勢いよく当たりました。
もうちょっと手元がくるっていれば手首をアレしてグロテスク表現を含むところでしたが
いきなりそんな事を聞かれたレイダはというと
さすがにちょっと面食らったような顔をしました。
「?また突然不思議なこと聞いてくるのね。どうして」
「いや、近い将来の手助けや参考程度に少しね」
「・・それはいいけど、なんで2人して臨戦状態なのよ」
というのも『それ以上何か言ったらその頭本気で飛ばすぞ』
と閻魔刀に手をかけている息子に対し
『いいから黙ってろやコラ』とルーチェが向けられていたからです。
「いやいや、気にしないでかまわない。ただの反抗期だ」
「??そうねぇ・・でも好きなタイプなんてあんまり考えたことないかな。
最近で言えば前の村にいたムダに元気な教官とか
今の村にいる尻が楽しい村長の息子とかけっこういいかなーとか思うけど」
前者の話はともかく後者の話に父も息子も一緒にうわぁと思いました。
だってその村長の息子というのはここに来る前レイダと簡単な会話をしていた
村の陣頭指揮をとっていたらしい体格のいい男・・なのですが
その民族衣装らしき服の尻の部分、なんでそんな所あいててそんななんだと言いたくなる
いわゆる見せフンみたいなやつだったからです。
一瞬そういうフェチだとか言い出すんじゃないだろうなとか二人して青ざめますが
前者の事をふまえるとただ単に暑苦しさが先行するタイプが好きなのでしょう。
「でもタイプとか好みなんてその時の気分とか性格の組み合わせとかで変わるもんだし
これこれこうだって確かなタイプはわからないかな」
「・・ふむそうか」
まぁ本人も女性ながらにやたらとたくましい所があるので
それ以上に男らしいタイプがいいと思うのは何となく理解できます。
と、ここで話が終わってくれれば問題なかったのですが
もちろん災厄の始祖たる父がそこで話をおわらせるわけがありません。
「ではさらに聞いておきたいのだが、うちのバ」
などといくらか楽しそうに言いかけたスパーダの横っ面に
ノーモーションで魔人化したバージルのロケット頭突きが炸裂しました。
普通なら経験とか場数でよけるくらいはできそうなものですが
彼の火事場の馬鹿力、というかツンデレ力は伝説のなんたらをも越えるようです。
「うちのバアさんは足腰元気でとてもたくましく
風邪のひとつもひかない健康体だったそうだ」
「?へー、そうなんだ」
話の流れが完全に場外にすっ飛びましたが大雑把なハンターさんは気にしません。
『よし、じゃあそろそろ出発しよう』と言いながら吹っ飛んだ父を起こしにかかります。
こういう時に根掘り葉掘り聞いてこないのは助かりますが
バージルはその時ふと、ムダに元気な教官と漢らしい村長の息子とやらを思い出し
眉間に深いシワを作って思案モードに入りました。
大体そんなの個人の好みなのだから口出しできるものではありませんが
よりによってあんな暑苦しいのばっかり選ばなくてもいいのにとか
いやでもダンテみたいなのがいいとか言わないだけ数万倍マシかとか
じゃあそのどれにも属さない俺の立ち位置は今一体どこにあるのだろうとか
1人で色々考えていると目の前でささと手が振られます。
「?どしたの。まーた難しい顔して考えごと?」
「・・う、いや、何でもない。気にするな。絶対するな。
行動に支障をきたさないので頼むから気にするな」
「・・なんか軽く本音がもれてない?」
「はっはっは。若いなぁ。父さんの若い時はもう思い出せないくらい昔の話だが
今のお前を見ていると昔母さんと出会ったころの事を思い出・」
「黙れえええぇーー!!」
「こらこらこら、だからすぐ身内で殴り合おうとしない。
しかもまた青とかサビ色とかに変・・って、もう聞いてないか」
ちなみにその発端がすごく低年齢な魔人化ゲンカ。
唯一の仲裁人が止めるのを面倒がりしばらく放置され
出発するつもりがまた休憩時間に逆戻りしたそうです。
「・・それにしてもまんべんなくケンカの好きな家族ねぇ。
まぁそうでもなければ強くなってないんだろうけど。はい薬草」
「?待ちたまえ。勝った私には元の草(薬草)で
負けたそちらには完成品(回復剤)なのか?」
「見た感じ先にあおったのはおとっつぁんみたいだし
明らかにあっちで転がってる方がダメージくってるじゃない。
おーい、生きてる?うん、生きてるよね。流し込んでいい?」
「!!(残った力をふりしぼってビンひったくった)」
「・・・(さすがにちょっと笑えない父)」
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