ちゃぷんちゃぷんという波の音と
時々通りがかる小船が波をかきわけるざざざという音が
じっと目を閉じていたバージルの耳に勝手に入ってきます。
船での長旅の後、ここへ担ぎ込まれたはいいものの
それ以後ずっと勝手にし続けるその音に最初は殺意さえわいたものですが
体調も回復し慣れてしまった今となっては子守歌に近いくらいです。
彼の今いるのはとある村の小屋の中。そう豪勢ではない簡素なベットの上でした。
しかしそこは小屋というにも風通しが良すぎ
家と言うにも床に隙間がありすぎて家としてどうよと思う場所でした。
それは村に来た時に借り受けたハンターのための拠点なのですが
海に柱を立て粗末な板を適当にわたし、申し訳ていどに屋根をつけただけなそこは
船酔いでグダグダだった彼には最初なんの嫌がらせかと思われる場所で・・
「はいただいまー。・・って、まだ寝てるし。
そろそろ起きない?いい加減セーブしたいしさ」
とか思いをはせているとドカドカと遠慮ない音が戻ってきて
近くにあった箱の前でどさどさと荷物の整理を始めます。
それは船酔いでダウンしていた自分を置いて
さっさと近くの散策に行ってしまっていたハンターさんです。
いえ別に回復するまで待っててくれてもいいじゃないかとか
1人で行くなんてズルイじゃないかとかそんなんじゃないのですが
帰ってくるたび何かを大量に持って帰ってきたり
いい釣り場があっただの近道を見つけただの楽しそうに言われると
それにつられて起きたように思われるのもなんとなくイヤで起きづらくなるというか
起き出すきっかけが掴めなくなってしまっているというか
「えや」
とブツブツ考えているとなんか上から変な声がs
ごぎゅむ
「ぅごぉ!」
と思った直後、寝ていた上からまともに何かに潰されました。
それが何なのかは考えるまでもありません。
というかそのレイダという名のハンターさん、ちょっと前まで軽装だったのに
いつの間にかちゃんとした鎧をがっちり着込んでいたうえに
背面から思いっきりジャンプしてきやがったので重さも痛さもまともです。
ぴんろりんろりろんというセーブの音を聞きながらバージルはそこから這い出し
粗末な床板から下の海面が丸見えな床にべしょと落ちました。
「い・・っ!・・・いきなり何をする!!
」
「セーブ。あといい加減起きないと干物になりそうだったし」
あっさりそう言い切ってベットから降りたハンターさんに
バージルは猛烈な勢いで何か言い返そうとしましたが
しかし確かにこのままふて寝、じゃなくて休息をとっていたのでは
こんな辺境くんだりまで来た意味がありません。
それにちょっと見ない間にハンターさんの装備はいっぱしのハンターらしくなっていて
腰にはやはり何で作ったのか分からない無骨な鈍器があり
それがどんな経緯で作られたのかもちょっと興味がわきます。
「・・・・装備を変えたのか」
「あぁ、意外と最初の素材でいいのが作れるみたいだったからね。
これがここでのハンター装備一式なんだって」
そういってハンターさんは華麗というより粗野でたくましい鎧をばしとはたきます。
仕草的にまったくもって女らしくありませんがバージルはもう慣れっこです。
「あとこれ簡単に作れるのにスキルがなかなかよくってさ。
しばらくはこれで通すつもり」
「・・・・」
「ところでそろそろ出かけない?そっちが寝てる間に色々と歩いてたんだけど
さすがに1人でウロつくにも退屈してきてさ」
「・・・・・」
「あ、それといつも散策に使ってた森にちょっとした大物が出るようにもなったから
それの手助けもかねて同行お願いしたいんですけど」
「・・・・・・・」
しかしバージルは黙って立ち上がった後
服についたホコリを軽くはらって不機嫌づらをするだけです。
レイダは少し考えて言い方を変えてみました。
「でね、今回海の中にいるちょっと大きめの魚も取れるようになってて
ある程度攻撃してこのモリで突けばしとめられるようになってるの」
「かせ」
どうやらそれで正解だったようです。
差し出した捕獲用のモリをむんずと掴んだバージルはそれをしげしげとながめ
了解もとらず黙って自分の装備に入れました。
「・・地味に魚好きなのねぇ。
今の職がなんなのか知らないけど今から漁師に転職してみたら?」
「余計な世話だ。それより案内しろ」
「ハイハイ。・・あ、それと・・」
見た目にはわかりませんがちょっとテンションが上がったバージルが
幕のかかった入口から外に出たのとレイダが何か言いかかったのはほぼ同時。
そして出てすぐ鉢合わせした人物を見るなりバージルはびきと固まりました。
「ん?あぁ、ようやく起きたのか。
几帳面なお前にしては遅いお目覚めだったな」
そこにいたその人物、海の村にとっても似つかわしくないブルジョワな服装をしていて
映像の一時停止みたいに固まったバージルの頭に白い手袋をした手を伸ばしてきて
何の躊躇いもなくぽんぽんと数度、やわらかくはたいてきました。
「まぁ体調が戻ったのならそれでいい。では夜になる前に出かけるとし」
ぶん がし
バージルが高速で振り下ろした漁獲モリは
白い手袋をした手にあっさり受け止められました。
「・・こら、いきなり何をする」
「・・それはこちらの台詞だ!ごく普通に何をしている!」
「何と言われてもただの観光だが」
「真面目に答えろ!」
ぐぎぎと入口付近で妙な攻防をしていると
たぶんこの父の事を言おうとしていたのだろうハンターさんが出てきて
みりみりと音のしていたモリをひょいと無造作にどかしました。
「こらこら、また何かする前からおとっつぁんとまでケンカしないでよ」
「どうしてこれがここにいる!発端、経過、結論を理解できるように説明しろ!」
「えーと、ヒマそうにしてた。声かけた。ついてきた。おわり」
これとはなんだ失礼なとか言う父スパーダの横で
バージルはせっかく回復した頭が倍くらいに痛くなってくるのを感じました。
ちょっと前に別れた弟でなかっただけマシかも知れませんが
なんでよりによって一体どこでこんなのを拾ってきて
こんな辺境の土地で父兄参観みたいな事になるのでしょうか。
いや別に空気読めとかそんなんじゃないんだけど、よりによって身内って何だよとか
バージルはまだモリを手にしたまま頭をかかえ始め、レイダにぽんと肩をたたかれました。
「まぁいいじゃない。家族間のことはともかくとして人手は多い方がいいんだし」
「そうだぞ。三人寄ればもんじゃの知恵とも言うだろう」
「・・・・・文殊だ」
「高速増殖炉だったか?」
わかりにくいボケはともかくとしてレイダの追加説明によると
ヒマで拾われた伝説の父もこれから近くにあるモガの森という所へ同行するつもりらしく
バージルはやっぱりもっと寝てればよかったとか心底思ったそうです。
「えー、じゃあ今からモガの森へ出発します。
と言っても心配することは特になし。
モガの森にはクエストとかにある時間制限も死亡制限もまったくないから
いくら長居しようが死のうがペナルティは一切ないから安心してオッケー。
ただお腹はちゃんと空くから食料は各自で持ってね」
はいはいと渡されてくるこんがり肉を受け取りながらバージルは眉をひそめました。
死のうがペナルティなしってなんでしょうか。
あいにく死んだことがないのでわかりませんが
この人は大事な事の言いこぼしが多いので絶対に安心はできないと思いました。
「あ、そうだ。おとっつぁんは武器なに持ってる?
まだそう強いのはいないだろうけど水の中で戦う事もたまにあるからね」
「そうだな・・息子達にいろいろ譲ってしまったので今はこれだけだ」
そう言ってスパーダが出して見せてくれたのは接近戦用の篭手イフリート
ダンテと似たタイプの双銃のルーチェとオンブラ
爆発系火器グレネードガンと水中用のニードルガン。
どこにそんだけ持ってんだという重火器や武器類をバージルはしばらく凝視しましたが
しばらくしてある素朴な疑問に突き当たりました。
「・・・・・・・剣は?」
「だから譲ってしまった。お前も持っているだろう」
そういえば今バージルが持っている閻魔刀も元はといえば父のです。
そしてもう一本の剣は弟が所持していたはず。
つまり今父の所有する武器は篭手、銃二丁、爆発系火器、水中銃。のみ。
伝説の魔剣士 剣 不携帯。
「?・・ちょっと、なに出かける前からげっそりしてるの。
もう船酔いがぶり返してきたとか?」
「いやいや、若いので色々と悩むことが多いだけだろう」
「・・ふぅん。でも外出て歩けば気分も変わるんじゃない?
元気出してほら!」
べちーんと背中をひっぱたかれバージルはうぐおとか思いましたが
なぜかそれでちょっと元気が出るのが本当に不思議です。
「・・、少しは加減しろ!この太陽力!」
「?相変わらず不思議な罵声ねぇ。
まぁいいや。暗くなる前にとっとと出発しよう」
とか言いつつ背中をぎゅうぎゅう押してくるハンターさんに
バージルはもう抵抗するのも悩むのもやめました。
慣れたというのもありますが、なんというか
こういうのも別に悪くないとか思ってしまっ
「いやいや、話には聞いていたが実際に見てみると何とも初々しい事だ」
ぶん がし
何気ないその一言を素早く聞きつけたバージルは再度モリを振り下ろし
やっぱり難なく受け止められました。
「はっはっ、ムキになるところはまだ子供だな」
「五月蠅い!剣不所持のインチキ魔剣士!」
「・・だから何かする前からケンカしないでってば」
などと騒ぎながら3人はその村から少し離れたモガの村に向かうことになったのです。
そこは村と自由に行き来ができて時間制限もなく何度力尽きても大丈夫な場所でした
が、その自由さと引き替えにとある厄介な条件も一緒についていることを
この時まだ1人しか知りませんでした。
一応ことわっておきますが漁獲モリは武器ではありません。
書き終えてから気付いたけどボケ2にツッコミ1はキツイか。
なんのかんのしつつも村を出て歩くこと少し。
3人がたどりついたのは振り返ればまだ遠くに村が見える
少し小高い丘の上でした。
そこから見える景色は人の手がほとんど加えられていない谷や山。
倒れた木がそのまま残っている平原や、そこにまばらにいる鹿のような生き物
そして遠くに見える透き通った綺麗な海。
その全てはおそらくずっとずっと前からそこにあって
誰が支配するわけでも誰が手を加えるでもなくそこに自然と広がっていたのでしょう。
でもちょっと前までこんな場所とまったくの無縁だったのに
それが一体どうしてこんな所に立つハメになっているのか。
そう思ってバージルがちょっと遠い目をしていると
隣にいた父が少しまぶしそうに額に手をかざしながら言いました。
「広大だな。閉塞感と重圧に満ちた魔界とはまるで真逆の世界だ」
「・・・・」
「私はかつてその世界しか知る事ができなかったが
こうして別の世界を知る事ができたというのは・・ある種幸運ではあるな」
それに関しては否定はしません。
ですが何だかこの父に言われると素直に同意できません。
なにせ今までのゴタゴタは元をたどれば全部この父のせいですし
かといってこの父が人の世界を知らなければ自分はここに立って存在していません。
などとこの伝説な父の立ち位置を決めかねて少し怖い顔をしていると
問題の父は急にこんな事を聞いてきました。
「時にバージル、お前はこの光景を美しいと思うか?」
その唐突な質問の意図はよくわかりませんでしたが
バージルはしばらく考え、こう言いました。
「・・この光景は遙か太古から誰の意思にも関係なく自然に形作られたものだ。
俺が賞賛したところで何も意味もない」
「ふむ、では以前いた場所とこちらではどちらが好きだ?」
何の話かまだよくわかりませんが、バージルはまた考えてこう返しました。
「重要なのは景観や個人の好みではなく
それ以後の行動ないしその先の結果だ。それに・・」
草の香りののった風に髪を撫でられながら
バージルは軽いため息をつきました。
「・・俺はもう現にここにいて、どこへ行くこともできない。
それはもう変えようもない事実で今さら好き嫌いを言える次元でもないだろう」
と、かなり仕方なさげに言ったというのに父はなぜかうんうんと満足げに微笑むので
バージルはイヤな予感をさせて眉をひそめました。
「・・・・・・なにを笑う」
「いやなに、お前は少々固く育ち過ぎたと思っていたが
お前にもそういう父さん似の所があったのだな、と思っていただけだ」
そう言って父がこそっと指したのは
地図を見ながら何やらむずかしい顔をしている怪物ハンターさん。
それはつまり、おとんも昔は頭固かったけど
人間1人のためにガラリと世界観が変わったっけなぁとか
難しいこと言ってるけど要するにアレだろう、とかそんな意味なのでしょう。
数秒後、その推測に達したバージルは
てめぇもあらゆる事すっ飛ばしてそこに直で行き着くのかよ!
とばかりにケリを入れようと
ゴッ
しましたが、それがかわされるか当たるかする前に
父は後ろからきた何かにまともに突き飛ばされ
蹴ろうとした方よけるつもりだった方、両方ともびっくりしました。
というのもそれはさっきから周囲で草をはんでいた緑色の鹿のような生き物で
こちらを襲ってくるような生き物には見えなかったからです。
しかしその緑の鹿、よく見ると周囲にいるものよりも大きくツノも立派で
草食がいきなり何しやがると思うヒマもなく走っていった先で向きを変え
再びこっちにドッドッドと走ってきました。
「あ!ゴメン!それ無害に見えるけど襲ってくるやつ!」
ぶん ゴッ!
気付いたハンターさんが慌ててハンマーをふりかぶり
明らかにこちらを狙っていた鹿にドゴンと叩きつけました。
そんな華奢な草食動物にまで全力かと思いましたが
何もしてないのに突っかかってきたのはあちらなので文句は言えません。
「ゴメンゴメン、これってそのへんの普通サイズだとただの大人しい鹿なんだけど
これくらいの大きさになると気が大きくなるらしくってさ」
そう言いながらハンターさんは倒した鹿から手早く角を剥ぎ取りました。
が、その大きめの鹿は少しして気がついたようにむくりと起きあがり
そのまま跳ねるように逃げ去っていきました。
あの一撃で死ななかった事も含めてバージルはちょっと驚きます。
「・・殺さなかったのか?」
「うん。この土地のアレ、ケルビっていうんだけど
あれって気絶させてから剥ぐっていう事ができるらしくてさ。
一応連続で当てると殺せるらしいけど、一回剥げればそれ以上の用はないし
無益な殺生はしないに越したことないでしょ。
だからおとっつぁん、戦意喪失の相手に丸焼きはやめようね」
とか言ってる間に向けられていたグレネードガンの銃口を
レイダは無造作にぎゅむと押しとどめました。
「今のは教えてなかったあたしが悪いんだし、今度から気を付ければいいでしょ。
他のよりちょっと大きめでこっち見て走ってくるのがそうだからさ」
「・・ではそうだと判断したのならこちらから攻撃しても?」
「・・・。ミンチと炭にしなければ」
「よし、では気を付けることにしよう」
それはやりすぎないように気を付けるの意味か
見つけたら即撃つつもりだから気を付けるという意味なのか。
どっちにしろあんな形で不意を突かれさすがに腹が立ったらしい父は
殺る気まんまんげにグレネードガンを肩にかつぎ
息子にちょっと別方向での心配をされました。
「じゃあ大ケルビは気を付けるとして、とにかく散策に行くとしますか。
ルートは色々考えたんだけど、森と洞窟の方はあんまり用事がないから
海を回ってここまでぐるっと帰ってくるコースで」
そう言ってびらりと見せられた地図の地形は何だか複雑そうでしたが
指したコースはぐるりと円を描くように戻ってくるだけなので迷うことはないでしょう。
「それと一応確認したいんだけど、2人とも泳げるよね」
「・・・それなりには」
「私も得意というほどではないが、おぼれ死んだ事はまだないな」
「よしよし、なら問題な・・・ん?」
と、その時レイダは何もない所を見て小さな虫を見つけたような顔をしました。
何だと思って親子がそちらを見ましたがそこにあるのはただの空中です。
「・・やっぱりいるのかぁ。まぁ位置さえわかってればどうにでもなるよね」
「?ちょっと待て、一体何の話をしている」
「えーと・・まぁ歩きながら話そう。まず肉食って、それから北へ行こう」
なんだか分からないままず腹ごしらえをし、一行はまず北の海のある方へと歩きました。
途中大きくて草食らしい恐竜に出くわしましたが
それは襲ってこないらしく完全に無視して進みます。
しかしその草食の恐竜が少しして何かに怯えるように鳴き始めたので不思議に思っていると
その理由はそこを抜けた広場のような場所なんとなくわかりました。
「はい、じゃあまずここでの注意点。
あのピンクの連中は例外なく襲ってくる奴らだから気を付けてね」
そこにいたのは人よりちょっと大きいくらいのトカゲの群れでした。
それは小型の恐竜のような姿をし、みなどれも目立つピンク色をしていて
その全てがこちらを確認するなりギャアギャアと鳴きながら走って来ます。
「ほほう、肉食の小型。大きさはないが群れで行動するタイプか」
「えっと確かジャギィ・・だったよね。
そう強くもないし複雑な事はしてこないけど素早いよ。
身体ならすつもりで相手してみて」
「うむ了解だ」
「まずは肩慣らしか」
ぶいん ばし!
と言ったそばからなぜか幻影剣が一本出現し
まったく狙いもさだめず遠くの地面に落下して一瞬妙な沈黙が落ちます。
「?どうした」
「・・・・・」
しかし父がそう聞いてもバージルは愛刀に手をかけたまま目をそらすだけです。
けど以前にも似たような事があったレイダにだけは意味がわかりました。
「・・あー・・今度はこっちの戦い方、忘れたのね」
ふて寝のツケがこんな所に、とか思ってる場合ではありません。
えぇと、攻撃ってどうするんだっけとか思ってる間にも
トカゲの集団はどんどん集まってきます。
バージルは軽くあせりましたがその間に父がさっと割り込んできました。
「・・仕方ないな。しばらく私が援護しよう。その間に思い出しなさい」
そう言って父は一番近くにいたジャギィの横っ面を
ぼがんと篭手のついた拳でぶん殴りました。
その時発生した炎に他のジャギィがひるんだすきに
さらに近くにいた別のやつを回し蹴りで一撃。
その動きはそう速くはありませんが一発が強力なようで
一発殴る蹴るごとにピンクの身体が遠くまでぶっとんでいきます。
おまけにジャギィは火が苦手らしくあまり積極的には襲ってきません。
「うむ、さすがに軽いとよく飛ぶな」
とか事も無げに言いつつ剣を持ってない伝説の魔剣士さんは
殴る蹴るという漢らしい方法でトカゲを排除し
たまにグレネードを発射し爆風で数を散らしていきます。
しかしその有様たるや紳士な見た目とあいまって結構なギャップです。
普通あんな格好をした人は殴る蹴るもしませんし
重火器を至近距離で撃って爆風で何かをけちらしたりしません。
でもさすがに姿形はともかく伝説のなんたら。
戦い慣れているレイダよりも効率よくトカゲの数をどんどん減らしていきます。
「おぉー、おとっつぁん漢らしー!」
思わず見とれてしまったバージルはその声に我に返りぶんぶんと頭をふりました。
いやいや、見とれている場合ではありません。
とっととこちらでの戦い方を思い出さないと
いくら手練れが2人いるとは言え足手なんかごめんです。
冷静に頭を回転させ、昔ここでやっていた戦い方を思い出し
バージルも数分ほどで戦闘に加われるようになりました。
「ほう、いやいやさすがに適応が早いな」
「それが何に関しての感嘆かは聞かん!それより数が一向に減らんぞ!」
「あぁ、この近くに巣があるからね。
このままやっててもキリがないからそろそろ移動しよう。アレも来たし」
「アレ?」
また何の言い忘れだと思いつつとにかくジャギィをまきながらレイダに続いて走っていると
もうちょっとでエリア外という所で何か大きな物がちらりと見えます。
2人がそれを確認できたのはほんのちょっとでしたが
それはジャギィをかなり大きくしたようなデカイ何かでした。
そしてエリア移動し一息ついた所でバージルがそれについて聞きました。
「・・今・・移動の間際に奴らと同色の大型が見えたが」
「あぁ、あれはドスジャギィっていうジャギィのリーダーみたいなやつ」
「む、そうか。群れで行動するならばリーダーも必要になるのだな」
「ではあれを撃破すれば群れはいなくなるのか?」
「いやそれがあのボス格もどこかで量産されてるみたいでさ。
場合によるけど倒してもまた次のがどこからともなく出てきたりするのよ」
などとあっさり言い放つハンターさんにバージルが半目になりました。
「・・俺の記憶が間違いでなけばの話だが
どこかの誰かがここへ来る前『心配することは特にない』などと言った気がするが」
「そりゃアレ自体は取り巻き連れてたりしててやっかいだけど
位置はずっとこっちで知れてるからいきなり出くわしたりはしない」
「?・・そう言えば君は先程からあの大型の事を位置的に把握していたようだが」
その問いに呑気なハンターさんは着ていた鎧(ハンターシリーズ一式)をばしとはたいて
あっけらかんと言いました。
「うんしてた。この鎧とかの装備一式
そういう大型の位置を自動で認識できるスキルがついてるから
今アレがどこにいて、どっちに向かってるかとかも勝手に見える」
「・・・・」
貴様またそういう大事な事を小出しかと思いましたが
それは別に怒るほどの事でもなく逆に便利な話なのでバージルは黙殺しました。
「ふむ。ではこちらはあの大型に突然襲撃されるという事はないのだね?」
「こっちがその事をころっと忘れてなければね。
あとアイツは海にほぼ近づかないからその点は安心してオッケー」
「・・・・・」
「・・そんな疑惑の目でにらまなくても下調べはちゃんとしてるってば。
あと海の釣り場の近くにはエサが無限に取れる所もあるのよね」
「案内しろ」
わぁ、釣りに釣られてるよこの子とか父は思いましたが
珍しく楽しそうな所に水をさすのもなんなので黙っておいてあげました。
「あ、それと海はすぐそこだけどすぐそこに泥棒猫がいるからダッシュで逃げるよ。
今回まだアジト見つけてないから何か盗られたら取り返す自信ないし」
「・・しかし今回それなりに人員がそろっているというのに
逃げに徹するというのも少々解せない話ではないかね」
「ちなみにどこかの人のいい少年君はネコ好きだから
焼いたり殴ったりしたのがバレたら株が下がるの覚悟してね」
「・・それを早く言いなさい」
出しかけていた銃を素早くひっこめた父に
バージルは完全に操作されてるとか思いましたが
あんまり人のことも言えないので黙っておきました。
ともかく物を盗む黒猫をダッシュでまき
浅い水のはった道を走り抜けるとそこは一面の海でした。
そこは湾になっているのか風がないためか波らしい波がほとんどなく
流れもあまりないようで泳ぐにはうってつけな場所のようです。
しかしバージルはそこをしばらく一望してからある事に気付きました。
「・・砂浜がない。すぐそこは断崖か?」
「お、わかる?ぱっと見た目だとわかりにくいけど
そこからかなりの深さになってるの。
でも潮の流れとかはほとんどないからそう危ない場所でもないのよね。
ちなみに釣り場はあそこ」
そう言って指された場所は広い海のかなりはじっこのすみ
岩場のすぐ近くあたりです。
「なんだ、場所は広いというのに随分とこぢんまりした場所にあるのだな」
「魚とは大抵そういった場所に集まるものだ。それでエサ場はどこだ」
「そこの倒れた木の下でずっと取れるから適当に拾っといて。
あたし先にもぐってヘンなものいないか確認してくるから」
と言うなりハンターさんは急に深くなっているという海に
意外にちゃんとしたフォームでどぼんと飛び込みました。
でも飛び込んだ姿はガチガチの鎧のまんま。
しかも腰にはどう見ても沈むしかない不思議な形のハンマー1つ。
「「・・・・・」」
父と息子はそれを見送った後、しばらく黙って立ちつくしていましたが
先に我に返ったのはやはり付き合いの長い
というか腐れ縁の強力すぎる息子の方でした。
「待てえぇーーーー!!」
めっちゃ慌てたように飛び込もうとし
目測をまちがえて足からずぼんと海に沈んだ息子を
父はすごくかなりぶりにかわいいと思ったとか思わないとか。
「・・だーから下調べはしたって言ってるのに神経質な子ねぇ。
ここ浮力が高いから勝手に沈んだりしないってのに」
「だからどうして貴様はそういう重要な事を事前に説明しない!!」
「?それって重要な事なの?」
「貴様が人間離れしている事は重々承知しているが!
それでも通常の人間の生死に関わる事に関しては多少なりとも断りを入れろ!!」
「?ぅえ?えーと・・ワタシ光合成デキマセン?」
直後、ぶほと笑いを押さえそこねた父が
青白い剣を雨あられのように飛ばされ背中から海に落ちました。
何かする前から遊んでいて話が前にすすまないよくある現象。
ここの海に最初に入る時、その急な深さにびっくりする。
そしてどんな巨大武器だろうがハンマーだろうが沈まないのにまたびっくりする。
2へ