とある場所でとある戦いをしていたその人物は
その時ある大仕事を終えたばかりだった。

しかし大仕事とは言ってもそれは彼の感覚の話であって
常識的に見ればそれは『大』と言うにはあまりにも大きすぎ
目はおろか頭の中までも疑わんばかりの大仕事だった。

彼の職業は平たく言って軍人。仕事内容は敵の殲滅だ。
だがその時の相手たるや、とにかくめったやたらとデカくて多くて
殲滅するつもりがいつの間にかどんどん味方の方が殲滅されていき
味方ももうダメなんじゃないかなと思っていたのだが
まぁ短くまとめてしまうと色々ありつつもなんとかなった。

いや、正確にはもうダメじゃないかと思っていたのは彼の味方だけで
その絶望的な戦況を地味な努力でくつがえした彼だけは
唯一そう思っていなかったというのが正しいだろう。

味方のやられていく無線をBGMに彼は黙々と仕事をこなした。
群がるハエのごとくな敵の数はいつものこと。
武器は人の作ったものだが当てれば一応普通に効くし
雨あられのような敵からの弾幕はよければいいし
多少当たってもアーマーがそこそこ頑丈なので問題はない。

とにかくいろんな意味で状況は絶望的だったが
彼は文句を言う前に黙々と仕事をこなすタイプだったので
黙って仕事をしている間にいつの間にかなんとかなったというのが彼の感想だ。

で、その仕事をなんとか終えたと思った時
撃墜した大仕事の相手がゆっくりこちらに落ちてきた。

それはちょっとした大型ドームほどあったかも知れないが
一応今まで何かにぶつかって死んだことはないので
彼は一応直撃しないように距離をあけながら、気楽にそれが落ちるのを待つことにした。

そしてマザーシップと呼ばれていた都市1つはあろうかというそれが地面に落ちた。

重たい爆音、振動、目を焼くほどの炎や閃光。
その騒々しい光景がおさまれば長くて絶望的だった戦闘も終わり
いい加減に持ち飽きてきた武器類もようやくおろせるだろう。

彼はその時そう思っていたのだ。

だがしかしこの時運命の女神様とやらがほんの少しの気まぐれを起こしてしまい
火や爆発やらでまぶしかった視界が元に戻った時
彼は今までいた場所とまったく違う場所にいる事に気がついた。

まず足元が砂だ。
撃墜の衝撃でそこら中が焼かれたのかと思ったが
よく見るとさっきまであった空がなく、かわりにあるのはなぜか逆さの地面。

彼はしばらくそれを眺め、そこでようやく『あれ?』と思った。
この状況、さっきの墜落の衝撃で破壊されたにしては何かおかしい。

周囲を見回してみる。
まだ残っているかと思った他の敵がまったく見当たらない。
どれだけ戦闘に巻き込まれてもちょっとは残っている街や建物もほとんどない。
そもそも街が天井になるほど暴れたつもりは
・・いやちょっとはあるけど、そこまでやったつもりはあまりない。

もしかするとさっきの衝撃で地形がバグったのかと思っていると
砂の大地の向こうで何かが動いているのがちらりと見える。

大きさからして彼の今まで戦ってきた相手ではない。
でもそれは遠目で見て人の形をしていない。

彼はちょっと考えてそれに近づく事にしてみた。

それは今まで戦っていた相手ではないので
ここがどこであるかくらいは聞けるかなと思ったからである。

けれど彼はまだここがどういう場所であるかまったく知らず
それと同時にこの世界全体も、この彼がどんなヤツであるかを
まだ誰も知ることはできないでいた。






「ところでボウヤ聞いた?近頃このあたりでウワサになってるニンゲンの話」

そのあまりに何気なくて凄げなウワサに
売る物と売らない物を選別していたジュンヤの動きがびくりと止まった。
それはまるで近所のウワサ話のようなノリだったが
極端に人間の少なくなったボルテクスでは驚愕の事実だ。

「人間って・・!まだ人間が残ってたんですか!?」
「あら、その様子だとまだ聞いてなかったのね。
 アタシは実際に見たことないんだけど、お店仲間から聞いた話なのよねこれが」

なんでもそのまったく同じ顔で各街で店をやってるのも同じという
実は同一人物じゃないのかと思いたくなるオカママネカタ達の情報によると
そのニンゲンらしき人物はある日突然このボルテクスに姿をあらわし
ニンゲンであるにも関わらず、この世界の悪魔をものともせずに
あちこちで出没してまたこつ然と姿を消すらしい。

「じゃあそれって・・悪魔と戦える人なんですか?」
「そうみたいなのよ。そんな強そうに見えないっていうのに
 どんな悪魔の攻撃も回転1つでのりきって
 結構カッコよかったってウワサなのよねぇ」

その途端、ドキドキしながら聞いていたお話のレールの上に
ごつんと大きめの石がのっかる。

「・・・あの、話の腰折って悪いんですが・・回転ってなんですか?」
「ん〜そのあたりは実際に見てないからわからないんだけど
 こう、頭からころっと一回転して起き上がるみたいな?」
「・・・・」
「まぁ一種の回避行動ってやつみたいよ?
 大抵の攻撃はそれでかわして、こう細長い鉄の道具で戦う・・
 あ、そうだ。お連れのハンサムさんと似たような武器、銃っていうの?
 アレを使いながら回転しながら戦ってて
 『アグレッシブで惚れそうだったわ〜』とか言ってたわよ」
「・・・・・・・・」

ジュンヤの中で『生き残りへの期待』がずしんと減り
かわりに『危ない人との遭遇確率』がごいんと上がった。

いやいやいや待て待て待て。
このせまいボルテクス内にダンテさんみたいな人が2人もいやしないだろうと
聞かなかった事にしたくなる気持ちを無理矢理押さえつけて
ジュンヤは一応その続きを聞いてみる事にした。

「・・えと・・その人ってどこに向かったのか、わかりますか?」
「回転しながらイケブクロの方へ行ったって聞いたわよ。
 でも大丈夫かしら、あのあたり昔よりはマシになったけどまだ危ないんじゃない?」

いやたぶん今の説明とか回転がどうとかって話からして
それ、絶対何があっても大丈夫なタイプだ。

とか言いたくなるのをやっぱり押さえ込んで礼を言うと
ジュンヤは手早く買い物を済ませ、ちょっと微妙な気持ちでジャンクショップを出た。

・・・探すべきだろうか。
受胎の生き残りとあらば会って話をしてみたいが
オカママネカタの記憶の仕方が特種だったとしても、話がなんか変だ。
でも悪魔と戦う力を持っているというのは興味あるし
まだダンテみたいな危ない奴だという確証もない。

・・いやでもさすがにあんなのと一度遭遇したら
後は何が出てきても平気な気もするが・・。

コンコン

とか考えごとをしつつ歩いていると、離れた所から壁を小突く音がする。
見るとそこから少し離れた曲がり角でダンテが待っていた。

強くて怖い物なしに見える彼だったが、唯一ここだけは近寄りたくないらしい。

「・・遅い。なに長々と話し込んでやがる」
「長々もなにも・・そんなに時間たってないだろ。
 大体ヒマならそのへん歩いてくればよかったのに」
「オマエが騒ぎを起こすなってしつこく念を押してくれたんで動けなかったんだよ」
「・・アンタは問題を起こさず普通に歩く事ができないんですかい。
 いや、今そんな話してる場合じゃない。今からイケブクロに行こうと思ってるんだ」
「?何だオマエ、確かあそこはオレとの楽しい思い出があるから
 毎日でも行きたいなとか言って・・」
全!逆!イヤな思い出あるからできるだけ行きたくないと思ってたけど
 ついさっき状況が変わった!」

そうして中で聞いた話を説明すると、ダンテの方はそういった事例に慣れているのか
あまり驚きもせず肩をすくめただけだった。

「・・銃器を持ってて回避ができる相手・・か。
 心当たりはいくつかあるが、そういうのは大体友好的でも社交的でもないからな」
「うん、それはもう骨身に染みて経験済みです。
 ・・で、ダンテさん、回転して回避するってのは・・」
「?あぁ、こうだろ」

そう言ってダンテは少し跳んで前転で転がり、しゅぱっと体勢を立て直した。
・・まぁ確かに回避行動だが、それやりながらどこかに行ったというのは何だろう。
ダンゴムシの親戚か何かだろうか。

考えれば考えるほど普通の人間から遠ざかっていくその人物(推定)に
ジュンヤの期待は減り続け、不安の度合いだけがもりもり上がっていった。

「?何だヘンな顔して。角度がまずかったか?」
「・・・いや、やり直さなくていいから。いいから!
 とにかく会う前から不安になっててもしょうがない。
 正直行きたくないけど行ってみよう、イケブクロ」

本音がちょっともれてしまったが
会いもしないうちから嫌がっていては話は前へ進まない。
ジュンヤはそう思って歩き出そうとしたが。

「会ってどうする」

その最初の一歩もいかないうちに、冷たくて現実的な言葉に動きを止められる。
それは冷静になって考えれば当然の話だ。
その人物とやらは人間とのウワサだが
それが悪魔と戦えるとなると色々話は変わってくる。

「悪魔やその他のバケモノと戦える人間は何人か知ってる。
 だが悪魔と戦えるって事は当然オマエと戦う可能性も大きくなるって事だ」

それはかなりの確率で当たりそうな話だ。
実際ここでは元々仲の良かった友達でさえ敵に変わる世界だ。
ましてなんの面識もない、しかも悪魔相手に戦える相手となると
なおさら敵に回る可能性は上がってくる。

ジュンヤはしばらく沈黙したが、あまり迷わず結論を口にした。

「・・・けど・・会ってみたい」
「オマエが望むような結果にななかったとしても?」

最後の確認として投げかけた言葉に
ジュンヤは少し仕方なさげな笑みを返し。

「・・そんなのもう慣れたよ」

そのどうしようもなく、でも何かを捨てきれていない表情に
ダンテは少し片眉を上げて手を伸ばし、その頭をぐしゃと撫でた。

「?なんだよ」
「いいや?ウチの御主人様は健気かつたくましいなと感心しただけだ」
「・・・・」
「なんだその微妙なツラは」
「いや、ダンテさんがそういう事言い出すってことは
 これから俺にとってよろしくない事が起こりそうだなっ・・て!」

撫でていた手がぼこんとグーで落ちてきた。

しかしこの時冗談半分、本音半分でジュンヤのもらした言葉が
後々で半分当たって半分はずれる事になるのだが。





そしてターミナルを経由してイケブクロへ移動。
まずはざっと周辺を捜索して思念体などにも聞き込みをしてみたが
それらしい人物は発見できず、情報も得られずで
あと残るはダンテの落ちてきたマントラ軍の本陣前とその上くらいになった。

「あと残ってるのはここくらいだけど・・ここはあんまり・・」

近づきたくないなぁと思いつつ本陣前の階段を上がりきろうとすると
少し後ろを歩いていたダンテがなぜか無言で手を掴んできた。

え?何?と思ってジュンヤは振り向こうとしたが

ドガン!

その刹那、あと数歩で通るはずだったその場所に大きなガレキが落ちてきた。

それは上で壊れていた破片がたまたま落ちてきたのかと思ったが
それはたまたまとかいう話で終わらなかった。

ズジン! ガダン! ズドン!ドンドンドザザー!

1つだけかと思った外壁は次々と断続的に落ちてきて
ダンテの時ほどじゃないにしろジュンヤはびびる。

「うえぇえ!?なんだ!?なんだなんだぁ!?」
「誰だ、オレの思い出の場所でオレより派手な事しやがって」

地震か何かで建物が崩壊してるのかと思ったがそんな予兆はなかったし
あとあるとすればダンテの言うように上で誰かが何かをしているとしか思えない。

そしてようやく落下物がおさまったと思ったその時
最後の仕上げのようにそれが来た。

 ふぉおん ダスッ

風をきるような音をさせ、ガレキの最後に落ちてきたのは
なんとなく予想はしていたが1人の人間だった。

しかしその落ち方たるや膝丈くらいから落ちたのと変わりないくらいの衝撃で
音も小さく衝撃を殺した様子もないあっさり加減だ。

そしてその重力をものともしていない人間。
まず第一印象、格好がおかしい

白と赤を基調とした特種なデザインのSF風スーツ。
頭にはこれまた特種な形をしたヘルメットをしていて顔は半分見えないし
手にはそこそこ大きめの、しかも軍隊でしか使わないような立派な銃器が1つ。

まぁそれは簡単に言うと●ルトラマンの変身前の人だった。

それはほとんど体勢を崩していなかったが
持っていた大きめの銃をチャキッと間髪入れずこちらに向けて
・・いや、正確には同じく銃を抜きかけていたダンテの頭のさらに上あたり
つまりまったく何もない所に銃口を向けてきた。

なので反射的に銃を向けようとしていたダンテの反応がちょっと遅れる。
そして未来風の特種兵な男はしばらくその何もない空間を銃で狙っていたが
やがてそこに何もない事に気付き、その後やっと2人の存在に気がついたのか
まず背の高いダンテ、そしてジュンヤの方を確認し
2人を不思議そうに交互にチラチラ見たあと銃をおろした。

これはこれでちょっと意外だ。
普通銃を向けるならそのまま緊張状態が続くものだが
この男、拍子抜けするほどあっさりとこちらを敵でないと認識したらしい。

でも最初にやたら上を狙ったのは何だろう。
視力かかぶっているヘルメットに何かの問題があるのかと思ったが
そうしてしばらくこっちを見ていた男がようやく口を開き。

「・・失礼」

それは短い言葉だったが、あきらかに敵意のないごく普通の謝罪の言葉だ。

で、続けて出てきたのはとても意外でとても素朴なもの。

「ところで・・・ここはどこだろうか」

・・・・・・・・・・。

「え?」

いやその前に、こっちの方が聞きたい事がもりだくさんだってのに
その前からそんな素っ頓狂な話題から入るんですかこの人は。

その男との出会いは誰かと同じで突然だったけど
危機感とか緊張感のからっきしな状態から始まる事となった。





それからその未来風の男と簡単な会話をした結果
ダンテの勝手に主張する思い出ビルから
重力を無視して普通に落ちてきた未来風の男はEDFのストーム1と名乗った。
もちろんこれは本名ではなく、彼の所属していたEDFという組織の
コードネームか何からしい。

彼は少し前、ある任務を終えて帰還するつもりだったが
その任務の最後、撃ち落とした敵の爆発に巻き込まれて
気がついたらここにいて、現地情報を確認しようにも話しかける相手が悪魔しかおらず
話しかけるたび襲いかかられ応戦してウロウロしている間にここに来て
今に至るとの話だった。

そして珍しく話を最後まで聞いていたダンテがかなり怪訝そうな顔をする。

「・・しかしアンタ、ここがイケブクロだってわかったとしても
 それから先はどうするつもりだったんだ?」
「いや、まずは現状確認するのが先決だと考え、その先は考えていなかった」

迷いなく言い切るストーム1にさらにジュンヤが首をひねりつつ聞いた。

「・・っていうかどうして最初かその次くらいで
 この状況がおかしいとか思わなかったんですか」

するとその一見SF風の、でもなんかちょっと抜けてるストーム1は
逆に『?』というような顔をした。

「?俺が何かおかしい事をしただろうか」
「・・・いや、その・・ストーム1さんのいた場所って
 今まで遭遇してたみたいな悪魔って生き物、いましたか?」

ストーム1、顎に手を当てて上を見ること数秒。

「そう言えば存在して・・いたか?いや・・なかったような・・
 そうだな。確かにあんなものはいなかったな」

あ、この人天然だ。
目の前の事に熱中してるとその他の事を綺麗に忘れる
アミ持って蝶を追いかけていたらいつの間にか迷子になって
さっきまで何やってたかも忘れるタイプの天然だ。
とジュンヤとダンテは同時にまったく同じ事を思った。

しかしいくら天然とは言えこの世界での最低限の常識は覚えてもらわないと
自分達も一応悪魔なのでそれなりに困る。

「・・・ええとですね、先に説明しておきますと
 この世界のあぁいった悪魔っていう生き物は、この世界の大半をしめてまして
 大体人間を軽視してて、普通は話しかけてもちゃんと答えてくれるものじゃないんですよ」
「そうなのか?」
「コイツはまだ例外だが、ここらの悪魔は大体そうだ。
 もちろん実力行使が悪いワケじゃないが
 先にその事を頭に入れておかなかったのもどうかと思うがな」
「・・そうだったのか。道理でだれも教えてくれないわけだ」

いや地名を聞けたところで帰り方がわからないんじゃ
会話ができた所でどのみち一緒だろ、とか二人して思うが
冷静さが度を越してバカの領域に入っているストーム1に一々説明するのも面倒だ。

「・・と、とにかくストーム1さん、1人で歩き回るのは危ないし効率が悪そうですから
 情報収集もかねてその・・俺達と一緒に来ませんか?」
「?それは協力要請を頼めるという事か?」
「お役に立てるかどうかはまだわかりませんけど
 多少の手助けくらいはできると思いますよ」

するとストーム1はちょっと意外そうな顔でこちらを凝視し
ちょっと照れたように首の後ろをかいた。

「・・・では・・頼む」

それは多分、単独行動が多くてあまり人の手を借りたことがないのだろう。
天然で危なっかしいが怖い人ではなさそうなのでジュンヤは少しホッとした。
そしてそれと同時にダンテの方が素朴な疑問を口にする。

「しかし少年、これからどうする気だ?
 コイツが外から来たのはわかったが、ここから外へ出た例はまだないんだろ?」
「どうにかなるって保証はないけど、絶対無理っていう確証もないんだ。
 なんとかなるさ。たぶん」

などと言ってる事は自信なさげでかなりのいい加減具合だが
なぜだかどうして説得力があってストーム1は不思議な気分になる。

今まで超がつくほど絶望的な状況ばかり経験してきた彼だったが
この時ようやく運がよかったという気分になったとか。

「じゃあとりあえず情報集めにギンザのバーにでも行ってみようか。
 で、そこでダンテさん・・」
「あぁ、あそこでの発砲、挑発、戦闘、つまりケンカにつながる行為は厳禁なんだろ。
 それくらい知ってるさ。一度出禁になったからな」
「・・だからそういうのは胸はって言うセリフじゃないだろ。
 えと、それじゃストーム1さん行きましょうか」
「了解した」

すたん

そうして行こうかと歩き出したすぐ横を、ストーム1が前転で通り過ぎ
すたっと元の立ち姿にもどる。

あれ?と思ったがストーム1は平然とした顔をしているし
見間違いかなと思ってもう2歩歩く。

すたん

だが見間違いではなかった。
彼はまたしてもその足で歩かず前転してこっちに追いつこうとする。

ジュンヤはしばらく黙り、聞いてはいけないのかなと思いつつも一応聞いてみた。

「・・あの・・ストーム1さん」
「?何かな」
「なに・・・やってるんですか?」
「?何と言われても移動・・・・あぁ、そうか」

そう言ってストーム1は思い出したようにたったったとそのあたりを数歩走り
『今はこれでよかったのか』とかよくわからない独り言を口にする。

恐る恐る事情を聞くと、なんでも彼のいた戦場では
走るよりも回転した方が効果的に移動でき
なおかつ敵の攻撃も回避できるとかいうので、そういった移動のクセがついたらしい。

あぁそれで回転なのかとジュンヤは妙な納得をし
同時にダンゴムシの親戚じゃなくてよかったとかズレた事も思った。

「・・あ、それとストーム1さん。
 さっきから気になってたんですけど、ストーム1さんじゃちょっと呼びにくいから
 これからアライチさんって呼んでもいいですか?」
「アライチ?」
「ストームは嵐で、それの1番目からとってアライチ。
 あ、でもダメならダメでもいいんですけど・・」

それに軍人さんだから本名とか聞いたらマズイかな、と思った末の思いつきなのだが
確かに呼びにくい呼び名の本人は少し考えるように上を向き
半分だけ見えている顔でちょっと楽しそうな顔をした。

「・・なるほど。それは面白い発想だ」

そう言って本来の名がなんなのかわからない
ストーム1という仮の名称を持ち、たった今新しい名をもらった不思議な男は
持っていた銃を敬礼風にがしゃりとかまえた。

「ではリーダージュンヤ。
 ストーム1改めアライチは現時点をもって貴君の指揮下に入る。
 最優先任務は敵の駆逐だが、帰還に関して貴君の助力と護衛を優先させよう」
「え?えと・・・・はい。よろしくお願いします」

急に軍人さんらしくなったアライチにジュンヤはちょっと面食らう。
でもそのストーム1あらためアライチさん。
やっぱりまだ慣れないのか歩き出そうとした最初の一歩が綺麗な前転になって
真面目な顔のまま『失礼』と一応あやまってくる。

しかし効率がいい以前にそんなのでずっと移動してて平気なのだろうか。
まさかそのためのスーツやヘルメットなのかと思いたくなるが
あちらにはあちらなりの事情でもあるのだろう。

というかこの人、事情を何も知らないとただ単にヘンな格好したヘンな行動の人だ。

しかしちょっと変わってはいるが悪い人ではなさそうなのでホッとしていると
つんと後ろからダンテに頭をつつかれる。

「?なんだよ」
「・・なぁ相棒」
「ん?」
「オレの名前は呼びにくくないか?」
「3文字で無茶言うな」

その意味を瞬時に理解した理解力ある相棒は
愛称のかわりに軽い裏手のチョップをくれた。






でも動画とか見てると2ダンテも同じ移動方法してたなぁ。

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