「・・・こちらアラ・・いや、ストーム1。
応答願う。繰り返す、こちらストーム1」
するとしばらく回線をいじるような音が聞こえ
おそらくあの最後の戦いの生き残りだろう味方達の通信が
どっといっぺんに入り込んできた。
『ストーム1!?本当にストーム1なのか!?』
『すげぇ!やっぱり生きてやがったのか!』
『おいストーム1だ!ストーム1確認!ストーム1生存確認!!』
『待て、各員少し落ち着け。こちら本部。ストーム1、現在地はどこだ』
「・・座標指定はできませんが、おそらくそちらに向かえる場所にいます」
『そうか、とにかく無事なのは確かだな』
「はい、それでその・・・1つ質問を」
そう言ってちらとアライチがこっちを見てきた。
ジュンヤはちょっと不安げだったが
フトミミは微笑んでいるしマカミとダンテは面白そうにしていて
ダンテにいたっては『ほらさっさと言え』とばかりに手をふってくる。
アライチは少しだけためらってから思いきって口を開いた。
「先程こちらで巨大生物の残党と交戦し、撃破しました。
そしてそちらでは巨大生物、およびそれを送り込んでいたフォーリナーも殲滅。
おそらく巨大生物の驚異はもうないかと思われます」
『・・あぁ、そうだな』
「・・それで俺は・・・奴らを上回るほどのバケモノである俺は
果たして帰ってもよいのでしょうか」
『は?』
アライチが聞く限りではいつも落ち着いていたその声が軽く裏返り
そばで聞いていたジュンヤが『うわ、ホントにシンプルに聞いちゃったよ』と
人ごとながらに心配した。
だがほんの数秒後、向こうから返ってきたのは
やたらと混雑した勝手バラバラな、でもまったく同意見の声だった。
『バッキャロー!!あいつら以上のバケモンがこの世にいるかってんだよ!
いいからとっとと帰ってこいコラ!!』
『そうだ!あいつらを全部追い払った今
お前がこれからバケモノ呼ばわりされる事なんかないんだ!』
『俺達の英雄の事を悪く言うヤツは俺達がまとめて相手してやるぜ!』
『帰ってこい!生きてるならこっちに帰ってこい!』
『ここはお前が守った場所だろ!そこにお前がいなくてどうする!』
『帰ってこい!ストーム1!』
そこから後はストーム1!ストーム1!の大合唱だった。
かつて激しい銃声と共に聞こえていた味方の突撃の怒号、最後の言葉、断末魔。
いつも絶望的な通信をよこすだけかと思っていた味方の声が
これほど頼もしく聞こえた事はない。
アライチはしばらく動けず何も言えなかった。
そういえば今までずっと戦うことにばかりに集中していて考えもしなかったが
自分が今まで守ろうとしていたものは自分の命だけではなかったのだ。
何か急に世界が変わっていくような感覚になっているアライチに
姿の見えない司令官が呆れたような顔をしたのが声だけでわかった。
『・・そういうわけだ。ストーム1。妙なことを考えていないですぐに帰還しろ』
「・・・ストーム1、了解」
『それとこちらからも質問だ。帰還後、何か食いたいものはあるか?』
「?・・・食いたいもの・・」
ジュンヤ達が思わず顔を見合わせる中、アライチは考えた。
そんな事今まで聞かれた事も考えた事もなかったが
それは意外なほどぱっと浮かんできて素直に口から滑り出た。
「・・あべかわ餅です」
そのぽろりと出てきた庶民的な感覚にジュンヤは思わず吹き出しそうになった。
こんなSF風な格好をし、巨大アリと生身で勝負して
銃を乱射してミサイルをまき散らすような人が
きな粉と砂糖のかかったおもちときたもんだ。
あぁやっぱりこの人は人間なんだ。
自分の事をちゃんと知っていて、待っていてくれる人もちゃんといて
人としての心や感性もある、立派な人間なんだ。
そう思うとジュンヤは嬉しくなった。
こちらに来てからというもの人間に関してろくな思い出はなかったが
こんな形でこんな人と出会えたのは、経過とかはどうあれ
思いがけない収穫だと意識しない中で思う。
『よし、わかった。ならイヤというほど用意しておいてやる。
余計な事を考えていないで早く帰還しろ。以上だ』
「・・了解。ストーム1、これより帰還します」
わぁわぁと歓喜の声をもらし続ける通信機をアライチはいったん切り
なんとなく事情が飲み込めたらしいこちらの援軍達と向き合った。
「話の内容はサッパリだが、その様子だと上手くいったんだな?」
「・・あぁ。少し怒られたがな」
「でも無理を押して送って来たかいがあった、って事でいいんですよね」
「・・そうだな。俺もそこまで考えていなかったが
君達には色々と感謝するべきだと思う」
「マァ細ケェ事ハサテオキ、丸ク収マルンナラ文句ネェヤ。
ケドモウ虫ノ大軍ハ勘弁シ、むぎ」
余計な一言をもらそうとしたマカミの口をフトミミが黙ってつまんだのを見ながら
アライチはほんの少し、照れたようにこんな事を言い出した。
「・・俺は・・君達を少しうらやましく思っていた」
「・・え?」
「俺にも共に戦うチームはあったが、敵との戦力差が激しくてな。
一人で戦っているうちに皆いつの間にか脱落して
俺はずっと一人で戦っているものだとばかり思っていた。
だが・・」
ヘルメットで隠れている目がふと何かを思い出すように閉じられ
唯一表情がわかる口元がそうだとわかるくらいに苦笑した。
「俺はただ・・目の前の事に気を取られすぎて
背後を振り返っていなかった。それだけの事なんだな」
その時の彼はちょっとずれた感覚を持つ、適応力満点な軍人さんではなく
ちょっとうっかり気味な一人の人間に見えて
ジュンヤはなぜか自分の事でもないのに嬉しくなった。
「じゃあその今まで振り返ってなかった分
これからちゃんと取り返してきて下さいね」
「・・俺にできるだろうか」
「できますよ。だって食べたいもの、あるんですよね」
ここで悪魔というものに分類されていて
人間ではないという変わった姿の少年は自信たっぷりにそう言ってくる。
それは根拠も理屈もまったくない話だが
そう言いきられてしまってもなぜか大丈夫に思えるのが不思議なところだ。
「・・ではその言葉を信じ、帰るとしよう。色々と世話になった」
「はい!お気を付けて!」
「モウへんナモン連レテ来ンジャネェゾ」
「貴重な経験だったけれど、確かにあれはもう勘弁だ」
「いやオレとしてはもっと狩りがいのある悪魔の方・いて」
最後に余計なことを言いかかったダンテが
ずどとリーダーから肘鉄をもらうのを見届けて
アライチは最後にびしっとした軍式の敬礼をしてから
うすく煙を上げていた穴の中へと飛び込んだ。
穴はそこそこに深かった。
だが落ちるにしたがって下に見えてきたのは穴の底ではなく
かなりボロボロになりはしたが、人の住んでいた街並みと
そこにちらばっていた自分と似た格好をしたチーム達の姿だ。
それがこちらに気付いてわらわらと集まってくる。
巨大アリや謎の飛行物体たかられた事は山ほどあるが
こうやって味方が集まってくるのは初めてだなとアライチはのんびり思った。
すたんと着地した大地にもうあの巨大生物達はいない。
したがって自分が転がり回って銃やミサイルを撃つ事ももうないだろう。
これから自分はどうなるのか。
どうするべきなのか。
そんな不安がないわけではない。
でも別れ際のあの少年の事を思い出すと
大体のことがなんとなくで乗り越えられそうな、そんな気がして
アライチは今落ちてきたばかりの青い空を見上げて少し微笑んだ。
アライチの飛び込んだ元巣穴はどういった理屈なのか
そこで役目が終わったかのような発光し、ただの土の山になった。
彼が向こうでどうなったのかはわからないが
おそらく仲間の元に戻り再会をはたした後
嫌がらせなくらいに好物をどっさりと押しつけられでもするのだろう。
もう土の山でしかないそれをジュンヤはしばらく見ていた。
さっきまでえらい事に首つっこんじゃった状態だったが
いざそれが過ぎ去ってしまうと随分と清々しいものだと不思議に思う。
それはきっと、別れ際に彼が満足そうだったおかげだろう。
それに自分はこちらに居残りになっても
人の世界に戻れた人間が一人でもできたのだ。
この先自分がどうなるかはまだわからないが
今はそれでいいとジュンヤは素直に思った。
「うらやましいかい?」
そう思いながらただの土の山になったそこを見ていると
静かにフトミミが聞いてくるので、ジュンヤはふと照れたように頭をかく。
「・・そうですね。俺の場合は待っててくれる人はいないって
もうちゃんとわかってるつもりなんですけど・・」
それでも少なからずうらやましく思ってしまうのは
はやり自分の中身が中途半端に人間だからだろう。
どうせなら中身も全部悪魔になればよかったのに、とまでは思わないが
こういう時は不便だなと思っている肩にマカミがでろりとたれかかってきた。
「ダロウナァ。『オ家ニ帰リタイ』ッテ顔ニでかでか書イテアルゼ」
「書いてない!てかお前そんなの見たことあるのかよ!」
「見たことはないけれど今見てるのがきっとそうだという確信だ」
「フトミミさんまでー!?」
顔に書いてるほどホームシックにかかってませんとばかりに憤慨するが
今度は横からごつんと頭を小突かれた。
なんだと思って横を見ると、少しかがんで目線をあわせてきたダンテと目があった。
「・・少年、いいこと教えてやる。
帰る場所ってのはなにも固定された場所に限っただけの話じゃない」
「へ?」
「仲魔連中がオマエの近くを居場所にしてるなら
その逆だって成立する。そうだろ?」
少ししてジュンヤはあ、と思い目を見開いた。
そう言えばこちらに来てから色々あって
今やすっかり当たり前のようになっていたが
こんな自分にちゃんとついてきてくれ、色々と助けてくれる仲魔達の存在は
元あった生活や故郷と同じくらいに重みと暖かみのあるものになっている。
戦う事に必死になっていて、帰る場所や人の存在を忘れていたアライチと同じく
自分もこんな近くに居場所があった事を見落としていたらしい。
ジュンヤはそれを認識したとたん、なぜか手を微妙な角度に上げて固まった。
たぶん何かしたいのだろうが
実行していいものかどうか迷っているのだろう。
だが少ししてマカミがその意図を察したらしく
ジュンヤを押してフトミミの方へ寄せると2人まとめてぐるりと巻き付けた。
つまり抱きついてみたかったらしい。
本当なら仲魔全部出してまとめて抱きつきたい気分だったが
数や大きさ的にまず無理だし、今出ているメンツが一番いいサイズだろう。
「ッタク、素直ジャネェナア。
コウイウ時ハ素直ニ甘エリャイイモノヲヨ」
「い・・いいじゃないか別に。
あんまり甘えると・・その・・後がつらくなるし・・」
「確かにそうかも知れないけれど、今は見ての通りこんなご時世だ。
使えるものは全て余さず使っておいた方がいいと私は思うよ」
「・・あんたガ言ウト妙ニ迫力アルナァ、ソノせりふ」
などとやりながらジュンヤがふと視線をずらすと
『オレはなしか?』と目で語っているダンテと目が合う。
抱きつくにも巻き付くにもちょっとでかくて逆に悪さをしてきそうだが
一応発案者だし仲魔だし、それにここで仲魔ハズレというのも気が引けるので
ジュンヤは少しためらってマカミから手を引き抜き、小さく手招きした。
が、その直後ダンテが見せたのは嬉しい時に見せる笑みではなく
悪いこと考えてる時の意地悪い方の笑みだ。
そしてギクッとするジュンヤに向かいダンテは両手を広げ
力強く跳んだ
。
もちろん人サイズとは言え魔人のパワーは強力で
ジュンヤ含む小柄な部類の悪魔3体は
赤いガチムキにぶち当たられ、まとめて地面とお友達になった。
で、その一部始終をどこからか見ていて
そろそろ荒らされたカルパ内をなおしたいなと思っていた老紳士が
それを生あったかい目で傍観していたとか。
というわけでターミナル事件簿逆パターンな地球防衛軍でした。
設定としては3のつもりですが、バツ箱もってないので
アライチ含め武器などの話も大半は想像です。
でも巨大アリとかデカイ敵の大軍にケンカ売られ
敵の大洪水にのまれるのはシリーズ共通なので
だいだいこんな感じかなーとかED後はこんなんがいいなーとか思いつつ。
ちなみにあべかわ餅は私的好物の思いつき。
というかリクして下さった方が結構くわしくスジ書いてて下さったんで
私的にはそこそこラクで楽しかったです。ありがとうございました。
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