アライチの仕事は大雑把には地球を守ること。
つまりこの地球外から来た問答無用で巨大なやつらを
全部残らず倒して地球を防衛することだ。
ここが地球かどうかまではまだ確認していないが
その巨大生物が目の前にいるのならば、場所がどこであれそれを討つまでだ。
アライチはそれなりに広いはずの通路をみっちり埋め尽くし
かさかさと大きいのに結構な速さでせまってくる巨大アリを撃ち散らしながら
実に冷静に前を見据えていた。
こんな状況、彼にすればよくある話だ。
むしろひらけた場所で空飛ぶ円盤や巨大アリに完全包囲され
円盤のレーザーとアリの出す酸の雨にのまれるよりは楽な方だ。
しかし楽だからと言ってのんびりしているつもりはない。
おそらくこのアリ達はどこかに巣穴を作って
そこから大量に出てきているのだろう。
多少見知らぬ土地だがやることはいつも通り。地道にやるか。
そう思いながらアサルトライフルの弾を撃ちつくし
ミサイルランチャーをかまえようとした時だ。
「アライチさんストップ!」
急な声に思わず足を止めると
なぜか前の地面で光の円のようなものがふくれあがり
アリを大量に飲み込んでいっぺんにそれらを焼き尽くした。
あれ、そんな武器持ってきてたっけとか思っていると
背後から聞いた足音がやってきて隣に並んでくる。
それはさっき別れたと思っていた不思議なもようのある少年と
そのボディガードらしい背の高い赤い男だ。
背の高い男の方は2つ持っていた銃を回し抜いて発砲をはじめ
少年の方は手を振り上げ、奥から来た追加分のアリに
風の刃みたいなものをたたきつける。
「・・君達」
「悪いな、邪魔するぞ」
全然悪いと思ってない様子の男が隣で銃を撃ち
はずしようのない大きな標的の急所だけを正確に撃ち抜いていく。
だが大きいとは言えあちらの増殖力はケタはずれだ。
倒れてひっくり返るアリの向こうから倍くらいの数のアリが押し寄せて来て
男はそれでも撃つ手を止めないまま慌てず騒がず。
「・・チッ、時間稼ぎにもならないな。相棒!」
「わかってる!」
答えた少年の手には何もない。
だがかざした手の先の地面から光のようなものがわき上がり
その範囲内に入ったアリを全て残らず蒸発させ、アライチはちょっと感心した。
「凄いな。新型の兵器かなにかか?」
「まったく違いますけど説明してるヒマがないので後でお願いします!」
「了解だ」
確かに今はそれより目の前の敵を押し返す方が先決だ。
なにせ相手は質より量と大きさだ。
アライチ1人の時ならともかく議論している時間はない。
「しかし君達なぜ戻らなかった。もうここは見ての通り奴らの領域だぞ」
「ウチの御主人様はこういった時の割り切りがよろしくなくてな。
目を付けられたら最後、どうがんばっても振り払えないからあきらめろ」
「言い回しが不吉で人聞きが悪すぎる!
とにかく!こんな状況でたった1人置いていけるわけないですし
案内しちゃった手前なので最後まで付き合います!」
そう言って飛んでくる酸をよけながら衝撃破みたいなのを飛ばす少年に
アライチは一瞬どうしたものかと考えるが、考えたのは一瞬だった。
この巨大生物との戦いに関してはこちらの方が上手だが
今いるこの世界についてはこの2人の方が詳しいだろう。
それにこの2人、この量と大きさにひるみもせずちゃんと対応しているのだし
向こうが物量で来るのなら人手は多い方が確実にいい。
「・・では君達はあまり前へ出ず、リロード間の援護を頼む」
「?援護ですか?」
「弾は無限にあるがリロード中に攻撃ができない。
その間の判断はそちらに一任する。では開始」
「うええ!?」
それはミサイルを撃ち尽くした後、流すように説明されたが
早い話が弾こめの間はこっちに丸投げということだ。
しかしちょっと待ってと思う間もなくアリの軍団は奥からどざざざと大量に
しかも巨大なくせに結構な速度でこっちに来る。
「寝るな!応戦しろ!」
だがビビっているヒマはもちろんない。
ダンテの声に我に返るのと同時にジュンヤは黒いなだれの中心に狙いをさだめ
メギドラオンを発動させる。
さすがにそれで生き残るような頑丈なアリはいなかったが
その後から何事もなかったかのような数が押し寄せてくるのがまた怖い。
だがそんな状況おかまいなしなのはアライチも同じだ。
飛んでくる酸やアリの攻撃を回転してかわしてかわしてかわしまくり
たまに酸に当たってもやっぱり気にせずかわし続けながら
実に器用かつ冷静に弾丸を装填していくので
ダンテが迎撃を続けながら感心した。
「しかし人間ながらに大したヤツだ。・・というかアイツ本当に人間か?」
「失礼な事言うな!人間に決まっ、・・・・て・・る・・・・・のかなぁ?」
断言してはみたかったが、見れば見るほど思い出せば思い出すほど
人間離れしている彼の行動に、断言が途中で疑問系に入れ替わる。
そう言えば登場の仕方がダンテと同じだったし
ワープフィールドの障害物に激突しても無事だったし
何よりこんな状況をたった1人でしのいでいるというのも
人間という言葉で表現するには無理がある気がする。
しかしそんな話とは関係なくアリはどんどこ奥からやって来て
そのカオスな様子にジュンヤはメギラオドンと真空刃を使い分けながら
同じくアサルトライフルとミサイルランチャーを使い分けていたアライチに聞いた。
「あの・・!つかぬ事をお聞きしますが
アライチさんって変身して巨大化するとかできませんか!?」
「?こちらの基準では可能なのか?」
「いやこっちでも無理ですけど!出来そうなかっこしてますし・・!」
「確かにできれば楽だったろうが、あいにく無理だ。
攻撃用の歩行型マシン、戦車、戦闘ヘリなどは扱えるが今ここにはないし
あったとしても小回りがきかず扱いが難しい」
「じゃあアライチさんって今まで・・」
「月並みかつ残念な話で申し訳ないが
信頼できるものは己の身1つのみとなっている」
つまりこの生身のくせにやたら器用で頑丈で回避の上手な防衛隊員さん。
今まで仕方なしに1人でこんな大量の、かつデカイ敵と生身で戦っていて
こんなタフさとか素早さとか器用さとかが勝手に身に付いたらしい。
あぁ、そういや同じようなノリでデタラメな強さしてて
それと引き替えに常識とかなんとかが欠落してる人(半魔)が近くにいたなぁ
半径2m以内に。
と思ってると突然ぱさっとアライチの方の銃声がやんだ。
「リロードだ。頼む」
「わあぁぁあぁ!!」
突然弾丸を補充しだすアライチにジュンヤは絶叫し
ダンテが黙ってワールウインドで洪水のようにやってくるアリの大軍を押し返す。
いや、本当は押し返したかったのだが数とか質量が圧倒的で
押し返すと言うより押しとどめるのがやっとだ。
しかしそんな中でもアライチは微塵も怯まず
器用に弾を装填しながら回転し、アリと酸の間をかいくぐり前に進もうとする。
なんというか人類ってすげぇと思えるような光景だが、これはあくまで特殊例だ。
人類が全部こんなのだったらもうそれは人類じゃない。
「装填完了。かわろう」
そう言ってリロードを終えた人類規格外な防衛隊員さんは
銃を撃ちながら前進しアリの大軍を地味かつ確実に押し返していく。
「それにしても慣れてやがるな。経験か?武器か?」
「それよりもキリがないぞ!MP尽きたらヤバくないかこれ!」
「その前にオマエ、さっきから気になってたんだが
なんでこんな時に他の連中を喚ばない」
「あ」
そう言えば急のいきなりばかりですっかり忘れていたが
自分にはどんな状況でだって頼れる仲魔達というのが
ちゃんとたくさん存在するのだ。
ダンテがすでに出ているし入れ替えている時間もおしいので
出せる仲魔はあと2体。
この怒濤のような数に対してわずか2体だ。
だが見たまんまの物量作戦だったとしても
こちらの仲魔一体の価値がどれほどのものなのかを
ジュンヤはこれまでの経験で身をもって知っていた。
「アライチさん!こっちで仲魔・・
じゃなくて平たく言うと援軍を呼びますけどいいですか!?」
「そちらの判断なら一任しよう。だがあまり大きなものは避けてくれ」
「?どうしてですか?」
「あまり大きいと敵と誤認して誤射する可能性がある」
あ、そうかとジュンヤは思った。
彼は最初に会った時、なぜか目の前にいたはずのダンテのさらに上を狙っていた。
あの時は視力かヘルメットかなにかの関係と思っていたが
今までこんな大きな相手とばかり戦っていたから
そういう感覚がついてしまっているのだろう。
妙な納得をしつつジュンヤは素早く判断をし
巨大アリの洪水が少なくなったのを見計らって手を振り上げた。
「マカミ!フトミミさん!」
そうして召喚したフトミミの方は、なんとなく予想していたのか落ち着いた様子だったが
マカミの方はさすがに驚いたように宙を後ずさる。
「オイオイ!まじカヨ!?おれラジャ火力的ニ間ニ合ワネェゾ!?」
「文句つける前にさっさと仕事しろマフラー!」
さすがに量が多く銃を撃つにもあきてきたダンテが声を飛ばすと
マカミも観念したのか嫌そうながらも姿勢を正した。
「カーッ!モウドウニデモナリヤガレ!指示クレヤ!」
「向こうを減らそうにもキリがない!マカミはまず目くらましから!
終わったら攻撃と回復にまわってくれ!
フトミミさんはこっちの強化と撃ちもらしをお願いします!」
「アイヨ!」
「了解だ」
それはアライチが聞いても何のことだかさっぱりだったが
援軍だと言われた変わった格好の青年と、あと布のおもちゃみたいなのは
それぞれアリの酸をかわしながら散開し
黄色い霧をはいたり何かの魔法みたいなのを使っている。
それがどういったものなのかは分からないが
急にアリ達の動きが悪くなり、こちらの退治効率ぐんと上がった。
ん?と不思議に思っているとジュンヤと変わった格好の青年がこんな話をしだした。
「すみませんフトミミさん、こんな状況下で引っ張り出して・・!」
「いや、むこうは質より量のようだし、あまり悲観はしていないよ。
それに君はいつもどんな状況下でも、それをちゃんとくつがえしてきたからね」
「・・ソリャ否定シネェガモノニハ限度ッテモンガネェカオイ」
「そのあたりの事はそこの赤い性格異常のおかげで耐性ができたよ」
「ア、ナールヘソ納得」
「聞こえてるぞそこの2匹!!」
こんな騒動の中でも悪口だけは聞き分けるらしく
ダンテがその2匹(正しくは一匹と一人)にかするギリギリでワールウインドをはなち
その向こうにいたアリを吹っ飛ばした。
「ダンテさん!」
「ちゃんと当てただろ。アリに」
「飾リケノナイ白々シサダナオイ」
「高槻、怒っている途中ですまないが数がまだ増えている」
「うわーお!」
「アーくそ忙シイッタラネェナァ!」
平たい犬のような生き物がくるりと回転して吠え声を上げると
上から火の玉が落ちてきてアリをぼんぼん焼いていく。
アライチには何がなんだかよくわからないが
この奇妙な面々はそれなりに連携のとれたチームか何からしい。
「変わった姿をしているが・・それが君達のチームか?」
「詳しい説明ははぶきますが、そっちの人がフトミミさん
そっちの平たいのがマカミです!」
「やぁどうも」
「マ、ヨロシクナ」
「そうか。よろしく」
「・・アンタ異様に順応がはやいな」
「今は目の前の敵を殲滅することが最優先だ。
細かい事を考えている時間が・・あ、リロードだ」
「押し返せーーー!!」
ぱさっとやんだ銃声のかわりにジュンヤの必死な声が響き渡る。
アライチの銃器はこういった連中が専門なのか
急にやめられるとかなりのアリがなだれてきて視覚的に怖い。
きっとアリにたかられてじわじわ死んでいく獲物の気持ちってこんなだろうが
もちろんこの場にいる全員ここで大人しく食べられるつもりなどない。
「アライチさん!これってどうにかして止められないんですか!?」
「発生源はおそらく地面に掘られた巣穴だ。
見つけて巣ごと破壊するのが最善策だ」
そう言いながらもアライチはリロードと回転回避を同時にやり
たまに酸に当たりながらもじりじりと前に進もうとしている。
見れば見るほどやることが人間離れしているが
今それを気にしているヒマはジュンヤになかった。
「高槻たのむ!」
「コッチモアトチョット!」
「オレはあと2発後でよこせ。あとオマエもそろそろ補充だろ」
「はいはいはい!ちょっとお待ち下さーい!」
大忙しのバイトの気分で飛んでくる酸をかわしながら
仲魔にチャクラドロップを投げすきを見て自分の口にも放り込む。
長期戦になるとアイテム係は大忙しで
余計な事を気にしているヒマがまるでない。
「しかし大忙しで実に充実した楽しい気分・・と言いたい所だが
こうも無遠慮で機械的だとさすがにあきてくるな」
「この状況をそういう言葉で済ませられるのは
世界でダンテさんだけだと思うな!くそう!」
「イヤイヤ、ソウ言ウおめぇモ結構楽シソウジャネェカ」
「お前の目は節穴か!いや実際節穴そっくりだけど
目のつけどころがダンテさんに似てるってどんな嫌がらせだ!
はいそこフトミミさん!笑いを下手にこらえな・
一匹来ましたー!」
「よし」
一応の補助をしながら笑いをこらえていたフトミミは
攻撃の合間をくぐってきた巨大アリの顔面を普通に殴り
その巨体をボールのようにぶっ飛ばす。
あちらは大きさと量が主体だが、こちらの場合はその逆だ。
模様のある少年は魔法のようなものを巧みに使い分け
細い布みたいなのは煙幕みたいな煙を吐いたり炎の雨を落としたりするし
赤いコートの男も銃撃は上手いし時々剣を使って風を起こしたりしている。
成る程。これがこちらでの戦い方でチームというやつかと
アライチは戦闘を続けながらも冷静に思う。
彼にも一応チームはあったがなにせこんな巨大で大量な連中に加えて
もっと絶望的な状況下でばかり戦っていたためか
チームで戦っていたという印象はほとんどない。
・・そう言えば、あちらの最後の戦いが終わった後
残った皆は一体どうしただろうか。
かなりの激戦だったため確認しているヒマもなかったが
味方間の通信はまだいくつか生きていたはず。
だがその時アライチはふと思った。
もし自分がここへ飛ばされていなかったとしたら
一体あの後どうなっていただろう。
あちらの戦いは終わり、自分の仕事もおそらく終わりだ。
だがそうなると自分は、戦いに戦いまくって生き残っている自分は・・
「アライチさん!もしかしてあれじゃないですか!?」
だがその1つの現実に行き着きそうになったのを止めたのはジュンヤの声だ。
はっとして膨大なアリの隙間から向こうを見ると
通路の奥の方に土の盛り上がった何かがあるのが見えた。
「・・あった!奴らの巣だ」
「あれをブチ壊せばこのウンザリ状況はおさまるのか?」
「こちらで奴らのルールが変更されていなければ終わるはずだ」
「じゃあそれにかけるしかない!ダメだったら全力で逃げて
舞台のおじいさん(車椅子の老人)にかけ合ってここ完全封鎖してもらおう!」
「・・というか最初からその選択肢を選んでいた方がよかったのでは・・」
「苦情文句お問い合わせはアライチさんにお願いします!」
もっともなフトミミの意見を力強く横にどかしたのはともかく
ゴールが見えたのならあとは行動あるのみだ。
タルカジャとフォッグブレスは限界までかけてあるので
こちらの攻撃はよく効いて向こうの攻撃はなかなか当たらない。
とにかくこの巨大アリをどけてあの土塊を破壊すればいいだけの事だ。
だが巨大アリの方はとにかく大きくて数が多く
巣穴からもりもりと絶え間なくわき出てきているので
穴に攻撃を当てるより先に出てきたアリの方に攻撃が当たってしまい
なかなか巣を破壊する事ができない。
「・・せまい場所にあるのが逆にあだになったか。
場所があれば広域に拡散させて巣だけ叩けるが・・」
「チッ、面倒だな。まとめて丸ごと焼けないか相棒」
「あっちの追加速度がこっちの火力より下ならいいけど
ちょっと無謀な賭けだと思う!」
そう言っている間にも通路というせまい場所で
押し寄せてくる巨大アリの大軍との攻防が続く。
ジュンヤが上手く回復をしてくれるので押し返される事はないが
あちらも巣穴が近くなため出てくる量がハンパない。
おまけに倒したアリの死体が巣の周辺にどんどん積み重なるため
そろそろどこが巣だったのかわからなくなってきた。
「ウヘェ、コリャ天然ノ煙幕ダナ」
「パワーシャベルで(残酷表現のため削除)できれは楽なんだがな。
どうする相棒」
「・・・・・・」
「・・高槻?」
返事がないのをフトミミが不思議に思っていると
さっきまで補助に徹していたはずの少年が急に声を荒げて怒鳴りだした。
「無益だ!!相手が虫ってわかってても、こんな無益な戦いがあるか!」
「え・・」
「もう怒った!そっちが物量戦で来るならこっちは力技で止めてやる!
アライチさんミサイルダンテさんワールウインド
フトミミさんはメギドラでマカミはマハラギダイン!
俺の魔弾と同時に一斉発射!」
「りょ、了解」
「いいぜ!」
「わかった」
「ヨッシャ」
アライチだけが少し気圧されて返事が遅れるが
ジュンヤはかまわず手際よくチャクラドロップを投げて渡し
巨大アリの向こうにあるのだろう巣穴をぎりりとにらんだ。
「いくぞコラ!通路ごと焼き尽くすつもりでいけ!!」
その号令の声はまだ若く威厳にはかけたが
なぜか不思議と元気とやる気が出るような気がしてアライチは不思議に思う。
おそらくこれが統率力というやつなのだろう。
そう思いながらアライチはアサルトライフルを撃ちながら
タイミングを合わせるために回転をやめて神経を研ぎ澄ませる。
幸いその魔弾というのは予備動作があって
タイミングを合わせるのにそう苦労はしなかった。
「3!2!1!いけぇ!!」
集中していてどうやったのかあまり見ていなかったが
少年から発射された光線みたいなのが通路を一直線に貫通し
それに合わせたミサイルや炎の雨、竜巻、無色の爆発などがいっぺんに重なり
視界が一瞬焼き付いたかのように真っ白になる。
あぁ、俺がいた場所にもこれだけの火力があれば
一人転がり回って戦わずにすんだのに。
などとアライチがぼんやり思っていると
その後急におとずれたのは耳が痛くなるほどの静寂だ。
ついさっきまで銃声や爆音やらでやかましかった通路は急に音がしなくなり
奥でぷすぷすこげてる穴だけを残して
今までの大騒動が嘘だったかのように静かになった。
「・・・・・終わった・・んですか?」
「・・・レーダー、広域にも反応なし、終わったようだ」
「はひ〜・・」
そこでようやく気が抜けたのか、ジュンヤがどてと尻餅をつき
その上から同じく気の抜けたマカミがべちゃと落ちてきた。
「・・ッタク、無尽蔵ニモホドガアルダロ。
ドンダケ長ゲェ連続戦闘ダッツウノ」
「・・私も長期戦には向いているつもりだったが
こんなのはもう勘弁願いたいところだ」
普段あまり様子を変えないフトミミも
さすがに疲れたように服についたホコリをはらう。
同じようにあまり疲れた様子を見せないダンテでさえも
無言のままで銃と剣を定位置に戻し、どすと壁にもたれかかった。
そんな中、唯一平気なアライチが少し申し訳なさそうに頭をかく。
「・・すまなかったな。やはり君達を巻き込んでしまった」
「・・もういいんですよ。元はと言えば俺が勝手にやった事ですし。
それにこういう時ってあやまるよりも・」
ガガッ ガッ ガガピー
だがその時、アライチの装備していた通信機が
突然思い出したかのようにノイズ混じりの音をさせた。
それはこちらに来てから一度も機能した事がなかったが
かなり断片的に誰かの声を届けようとしている。
『・・・・ちら・・・部・・・答・・う・・こちら本部・・』
途切れ途切れなそれはアライチにとって聞き覚えのある声だ。
まさかと思いつつ歩きながら電波を調整してみると
アリの出てきていた巣穴の近くでそれは急にクリアになる。
「?・・どうしたんですか?まさかまだ中にいるとか?」
「・・いや、通信が来た。本部、つまり味方からだ」
「え!?」
「どうやらこの穴、俺のいた場所に通じているらしい」
その証拠に穴のふちに立つと断片的だった通信が完全につながり
やはり聞き覚えのある声や単語が次々と耳に入ってくる。
『こちら本部、ストーム1、応答せよ、ストーム1』
『各ストーム隊に再度通達、ストーム1はまだ発見できないのか?』
『ダメです、敵全滅は確認しましたがストーム1だけが確認できません』
『なぁ、嘘だろ?誰か嘘だって言えよ!?
あれだけの猛攻を1人でしのいだヤツがそんな・・』
『縁起でもない事考えるな!いいからとにかく探せ!
ストーム1!応答しろ!』
それは様子からして敵の母艦を落とした直後からそう時間がたっていない状況で
残った味方がこちらを必死になって探しているらしい。
おそらくこちらが応答すれば向こうも気付くだろうが
アライチはなぜか無言のままなのでジュンヤが不思議そうな顔をする。
「・・?返事・・しないんですか?」
「俺は・・・この通信に答え、そして戻ろうとしてもいいのだろうか」
「へ?」
「こちらにまぎれこんだ巨大生物も、向こうにいた発生源の母艦も殲滅した。
全ての敵を殲滅したのなら俺の役目もこれで終わりだ」
「・・・・」
「君達の思うように俺は人としていささか度を過ぎた部分がある。
それが役に立っているうちはまだいい。
だがそれを生かして戦う巨大生物がいなくなった今
それを上回っていたバケモノは・・一体誰になる?」
その静かで重みのある言葉にジュンヤは思わず息をのんだ。
それは自分にも当てはまる事だった。
強い力というのは身を守るために必要なものだ。
だがそれが必要とされなくなった時、周囲と自分は一体どうなるか。
元々ただの人間だったジュンヤにはなんとなくだが想像はつく。
だがどう言うべきか迷っていると
ダンテが何でもないような調子でこんな事を言い出した。
「だったら帰っていいかどうか、直接聞いてみたらどうだ?
1人で決めるより他の意見を聞いた方が踏ん切りがつく」
え!?ちょっとそんなあっさり加減でいいのかと思ったが
他にかけるべき言葉も見当たらないので
ジュンヤは何か言いたそうにしつつ口をつぐみ
アライチは少し考えたあと、通信機のスイッチを入れた。
4へ