それはちょっと昔に見た、ちょっと気持ち悪いもようをした丸い形の扉の前。
前にそのれを見たのは時間的にそう前ではないが
随分と昔の事のように思えてしまうのは、やはり今とそのちょっと昔で
仲魔の状況がかなり違っているからだろう。
などとどうでもいいことをつらつら考えながら
ジュンヤは1人突っ立ったまま誰に言うでもなく
いや、強いて言うならこれから開けるべき扉に向かって言葉をもらしはじめた。
「・・まぁ今回はヘンな人が追いかけてこないから、そう危ないって事もないだろうし
念のためにピッチが残ってくれてるから安全面でもまぁいいとしても・・
またここに来ちゃう俺も・・・俺な気がするなぁ」
扉の前で1人頭をかくジュンヤに対し
ストックに唯一残された幽鬼から困ったような気配だけがくる。
そう、ジュンヤが今立っているのは第3カルパの地下2階、階段を下りてすぐの扉の前。
つまりかつてダンテと2度目に会った場所そのものだった。
昔何気なく来て思いがけず仲魔共々ヒドイ目にあったあの時とは違い
この先にはもう追いかけてくる者もいなければ、当然犠牲になる者もいない。
そう思うと気が楽なことは楽なのだが
やはりここにはロクな思い出がないのは確かなことだ。
やっぱり断るべきだったかとも思うが
最初につぶやいた通り、それを承諾して来てしまったのは自分なのだ。
口から勝手にもれた呆れたようなため息に
今度はストック内にいた幽鬼が・・ヴとだけ、かすかにうなった。
事の始まりは今より少し前のブラックライダーの地味で唐突な意見からだ。
とは言え彼は極端に無口なので事の経緯を話してくれたのはミカエルだった。
「・・へ?気分転換?」
「そうだ。先日ストック内にて我ら全員で話し合って決めた。
主は他の追随を許さぬほどの強力な力と組織力を持つ悪魔に成長したが・・・」
「あ、ごめん。ミカの話むずかしそうだから簡単にたのむ」
「・・・つまりあまり悪魔との戦いばかりに明け暮れていては
主の精神がまいってしまうので、たまには気分転換になる事をしないかと
黒騎士が提案してきたのだ」
「え・・」
そのお気遣いはありがたいし嬉しいが
ブラックライダー発案というのがちょっと気になる。
いや別にやり方や発案が誰かさんのように無茶苦茶だとかいうのではない。
判断は的確だしさりげに気が利くし、そう無茶らしい無茶もしない。
ただちょっと、時々何を考えてるのか分からないような事をするので
それがいきなり何を言い出すのかと言われればさすがに不安になるからだ。
「・・で、そのブラックは何をしようって言い出したんだ?」
「その事についてだが・・私としては当初反対した。
案としては悪くはないが、安全性に問題がある上場所と実行する内容の・・」
「ごめん。だから簡単に」
「・・・・・・。つまりそれは主の使っていた事例で言うならば・・」
「俺がオニの・・オニゴッコねぇ・・」
ぺちと目の前にある丸い扉を軽く叩いて
ジュンヤはまた誰に言うでもなく1人でつぶやく。
ブラックライダーの提案というは別に警戒する必要もなくいたって簡単
第3カルパを使って行う、仲魔を追いかけるオニゴッコだ。
まずジュンヤがスタート位置で数を数え、数えきったら追跡開始。
捕まえた仲魔は捕まえただけ自由に使っていいことになっているが
仲魔達ができるのは追い込みまでで、捕まえる役はあくまでジュンヤ。
最初は苦労するかもしれないが仲魔を捕まえれば捕まえただけ楽になる
かつてここであった事が嘘みたいになる気楽なゲームだ。
そして今ジュンヤの保持しているのは安全のためのピシャーチャ一体のみ。
他の連中はこの扉の向こうのどこかで隠れているか
隠れるのが無理か面倒かで移動しているかのどちらかだろう。
「相手は11・・いや、ピッチが抜けてるから全部で10体か。
オニゴッコする数としてはちょっと多いけど・・」
今度は追われる方ではなく、探して捕まえて数を増やす方。
追いかけられるのは嫌いだが、追いかけるのは嫌いではない。
それに仲魔を増やすというのはこの世界へ来てから覚えた
生きることを楽にする手段なのでむしろ好きな方の部類だ。
「ま、考え方によっては楽しそうだし
みんなが考えてくれたんだからいいか。ピッチ、エストマ頼む」
『ヴォウ』
それにせっかくみんなが気を遣ってくれたんだから
あんまり考えるのも失礼だし、気分転換というなら思いっきりのってやろうと
ジュンヤは難しく考えるのをやめ、最初の扉を勢いよく上げた。
さてどこから探そうか。
この場所の構造はそれなりに記憶しているし
仲魔の行動パターンもある程度理解しているつもりなので
そう迷ったり見失ったり裏をかかれたりする事は・・
などと考えながら扉を開けて歩き始めた直後
いきなり地面をにらんでウロウロしていた何かと遭遇する。
青いモヤのようなものをゆらゆら引きながら
何かを探すように地面を歩いていたそれは間違いなくフレスベルグだ。
・・あれ?確かさっきルール説明はちゃんとしたよな?
とは思うもののそれはやっぱり見間違うことなくそこにいて
地面を見ながら鳥歩きでウロウロし
しばらくしてこっちに気がついた。
で。
「ジュンヤジュンヤジュンヤーー!!
」
バサササーーー!!ズガギン!!
喜び勇んですっ飛んできたその勢いでアイアンクロウをかまし
飛び退いた背後の扉がざっくり爪形にえぐれた。
「こらこらフレス、危ないだろ?」
いつもの事なのであまり怒りもせずのんびりそう諭すと
べしゃと勢い余って激突して落っこちた大きい鳥は
めげもせずぴょんぴょん跳んで来ていつも通り元気に騒ぎ出した。
「ジュンヤジュンヤジュンヤ!おおおれフレスベルグフレスベルグ!
なにかないかさがしてる!ないかないかさがしてるないか!
ででもジュンヤいたいた!ジュンヤでいいジュンヤジュンヤ!」
「・・・あ、そゆこと」
そのわかりにくい連続単言葉から訳するに
この鳥さん、ゲームの説明を一応は聞いていたが
ジュンヤの姿が見えなくなった途端それを全部綺麗に忘れてしまい
そのかわりジュンヤにあげられるものがないか、ここでウロウロ探していたらしい。
そして今最優先事項のジュンヤが見つかったのでそれもどうでもよくなり
オニゴッコの話などもう頭に残ってないだろう。
「・・フレス、そんなんじゃまたダンテさんにトリアタマとか言われるぞ。
いや実際鳥なんだけどさ」
「おおおれおーれ鳥じゃないじゃない鳥ー!
フレスベルグでジュンヤのフレスベルグベルグフレス!」
「いたた・・わかったわかった。わかったから一緒にみんなを探そうな」
ぼこぼこ頭突いてくるのをなんとか押しとどめ
ジュンヤはともかく一体目の仲魔を捕まえ・・いや出会い頭に再会して回収し
スタートからいきなり出鼻をくじかれた気分で歩き出した。
そしてそれから見つかるからあんまり騒がないようになとフレスベルグに注意をし
なるべく足音を立てないように歩いていると
曲がり角の向こうからチャッチャッという小さな足音が聞こえてきた。
ジュンヤはしめたと思った。
あれは仲魔内で一番鼻が効くが、おそらくエストマの方が効いているのだろう。
それは気付く事なく真っすぐこちらに近づいてくる。
ネコ科だったならもっと足音を忍ばせられたろうが
生憎あれはライオンに見えるものの犬科なので足音は消せない。
ジュンヤは口の前で指を立て、フレスベルグにさがっているように指示を出すと
足音がすぐそこまで来た瞬間、角から飛び出した。
「ケルベロスみっけ!!」
地面を嗅ぎながら歩いていた魔獣はビクッとして一瞬きゃいんと鳴きかけたが
きの所でギリギリふんばり、ダッと身をひるがえして逆方向へ走り出そうとする。
しかしそれよりも一瞬だけジュンヤの指示が早かった。
「ケル!ふせ!」
ガッ ずざざ〜
主人の命令に条件反射を発動させた番犬は、その言葉通り勢いよく地面にふせ
追いついてきた主人にぼすと飛び乗られてしまった。
「ケルベロスつーかまーえた」
「・・・主、ズルイゾ」
眉間にシワをよせる忠実な番犬に
とうの主は悪びれる様子もなく笑ってその頭をわしわし撫でた。
「だって俺の足じゃ走ってるケルになんて追いつけないだろ?
それとももうちょっと逃げてみたかったか?」
「・・ムゥ」
確かにいくらルールだからと言って
主人から逃げ回るのはケルベロスの本意ではないし
何より主人のそばを離れるのは番犬としてもただの犬としても好きではない。
しかしそれにしたってこんな捕まり方はないだろう。
それにまだ開始から時間もたっていない初期の状態で・・
「ジュンヤジュンヤジュンヤー!おれもおれもおれもーー!!」
などと眉間にシワをよせて軽くうなっていると
何か勘違いしたフレスベルグが爆弾のような勢いで落ちてきて
ケルベロスは乗っていたジュンヤもろともどぎゅと潰され
今度はちゃんときゃいんと鳴いた。
そしてそれからむやみに突撃してきてはいけませんと注意したフレスベルグと
ギリギリと音が出そうなほど眉間にシワをよせたケルベロスと一緒に歩く事少し。
外周通路には誰もいなかったので、今度はスイッチ部屋のある
フロア中側の大きな部屋へ・・
「・・・あれ?」
扉を開けて入った瞬間、何か違和感を感じジュンヤは眉をひそめた。
2つある扉のどちらから入ってもスイッチのある小部屋はすぐそこだ。
だがその部屋うちの1つ、透明な壁から見える中に何か白いもの居座っている。
近づいてみるとそれは一体どうやって入ったのか
ようやく入りきる小さな部屋で体育座りして丸くなり
ケルベロスが様子見で壁越しにカリカリ引っ掻いても
フレスベルグが扉越しにコンコンつついても微動だにしない。
ジュンヤは2匹と顔を見合わせ、とにかく扉を開けてみることにした。
中にいた巨大なものは扉をあけるとさすがに少し身じろぎしたが
それは大きな体で丸くなったままやっぱり動く気配がなかった。
「・・・え〜・・トール、つかまえた。でいいかな」
手先でちょんとつっついてそう宣言してやると
それはようやく肩の荷が下りたかのごとくごはーと全身でため息をもらした。
どうやら逃げるとか隠れるとかいうあまり慣れない行為を命じられ
どうしていいのかわからず取りあえずここに隠れてみたはいいが
それから先どうしていいのかやっぱりわからず
結果それ以上動けなくなってしまったらしい。
ジュンヤはその巨体を黙ってストックに戻すと
横で見ていた2匹に何も言わないようにとのジェスチャーをし
努めて何事もなかったかのように歩き出した。
なんだか大した苦労もしないうちにあっさり3体も回収できてしまったが
オニゴッコというのはこんなノリでよかったのだろうか。
もうちょっと探したり追いかけたり見失ったりして
ドキドキ感を味わうものじゃなかったっけ。
放っておくとギャアガウ騒ぐ2匹をストックに入れ
そんな事を考えながら1人で歩いていると
今度はふいに角の向こうから赤くて細いものがすいと出てきた。
それは音も気配もまったくしなかったが、隠れる場所を探していたらしく
きょろきょろしつつ長い全身を半分ほど出し切り、そこでようやくこちらに気付いた。
「サマエル!」
叫ぶのと同時にサマエルは少し慌てた様子で長い身体をぐるんと反転させ
反対方向へ飛び去ろうとする。
しかしジュンヤは慌てず走りながらその先に意識を集中し
素早く腕を振りかぶった。
「なんの!」
ヴォン ぱっ
「!?」
「うおッ!?」
どべぐしゃ!
進行方向にいきなりトールを出されたサマエルは突然の事に急ブレーキをかけきれず
指てっぽうで飛ばされた輪ゴムのごとくトールとぶつかった。
「よし、サマエルもつーかまーえたっと」
そして追いついてきたジュンヤに尻尾をつままれ、あえなく御用となった。
ちなみにつまんだのは物理反射があって掴むと痛いからだ。
「・・・成る程、そのような手がありましたか」
飛べるし物理反射もあるからそう大胆な事はしてこないと油断していたのか
長い身体をこんがらがせた赤いヘビは素直に感心する。
「じつは今さっきまでどうやって捕まえようか悩んでたんだけど
とっさの思いつきでどうにかなっちゃうもんだな」
「・・そう言われてしまうと私としては立場がありません。
ですが私の身では隠れる場所を探すにも苦労していたところですので
これはこれでよかったのかも知れません」
「はは。そりゃ言えてる。あ、そうだトール、ありがとな。助かったよ」
などと言われても何が何だかわかっていないのか
サマエルとごっちゃになったトールは?を飛ばしまくる。
だがしばらくして誉められたという事だけはわかったのか
それ以後ストックで体育座りはしなくなったとか。
「・・さてと、次は誰が見つかるかな。
見つけやすそうなのは体積と色彩からしてハーロットかブラックだろうけど
2人とも元神出鬼没な魔人だからなぁ」
『それを言うのなら悪魔狩りの彼もそうなりますが』
「・・・そう、一番の問題はそれなんだよ。
ダンテさんはここについては一番詳しいだろうし
今度は俺が追いかける側になってるにしろ
1人にすると何たくらむかわかんないし」
『デハ我ラガ手分ケシテ悪魔狩リカラ探スカ?』
「ん〜・・いや、やっぱりバラバラになると不安だから
ちゃんと確実に1人づつ回収していった方が・・あ」
などと1人歩きながらストックに入れた仲魔達と話していると
突き当たりの通路を赤くて大きいものがゆっくり横切った。
それはどっしどっしと歩く重量感あるかたまりで
逃げるとか隠れるとかいう事を一切考えていなかったのだろう。
その赤くて大きいのはただ悠然と歩いてだけのマザーハーロットだった。
「あ!ハーロット!」
思わずそう声をかけると上に乗っていた主人がおやという風にこっちを向き
乗っていた獣の首が4本ほどこっちを向き、ぎゃっとかぐわとかいう声を上げた。
「ホォーッホッホ!そぅら見つかったぞえ!はよう走らぬか!」
しかしその上の主人はまったく他人事な調子で
その赤い背中を足で行儀悪くけっ飛ばす。
赤くて無駄に首の多い獣はそうされて慌てたように方向転換し
どでどでとかなり不格好に走り出した。
しかしそれは走ってはいるものの明らかに遅いので問題なく追いつけそうだ。
だいたい首が7つもある上にさらに誰かが乗っていて速いわけがない。
というかそれが走ったのをジュンヤは初めて見た。
とにかく一生懸命走ってるつもりなそれに向かってジュンヤは走った。
トールでもう一回肉弾通せんぼしてもいいが
あまり連続して使うと『・・我、風呂釜の栓・・』とか言って凹みそうなのでやめておく。
そしてそれは予想通り、あまり苦労もせず距離をつめる事ができ
追いつくと同時に手を出して一本だけある尻尾の先を・・
ぎゅぼ
「わッ!?」
掴もうとした瞬間、いきなり地面の感触がなくなってすぽんと真下へ落下した。
そんな仕掛けはないのになんでだと思っていると
落ちる寸前、獣の上にあったガイコツがこっちを見て笑ったように見えたので
それは間違いなくソイツの仕業だ。
ぼすん!
「いて!」
だが下の階に落とされたと思ったら
落ちた先は固い床ではなく、比較的弾力のある何かの上だ。
一瞬閉じていた目をあけるとまず目に入ったのは黒。
数度まばたきしても見えるのはやはり黒一色。
あ、もしかしてと思っていると、前にあった黒い固まりがゆらりと動き
黒の中にある唯一の白、つまり見慣れたガイコツがこちらを振り返ってきた。
「・・え〜・・と?ブラック・・つかまえた・・のか?」
いきなり背中にオニを落とされた黒の魔人は
いつも通りにただ黙ったまま馬を地面にゆっくりと降ろし始める。
落とした先にたまたまこれがいたのか
予測して先回りしてくれていたのかは分からないが
とにかくジュンヤは捕まえようとしていたのとは別の仲魔を捕まえ・・
いや、捕まえたとは言いにくい形で再会することになった。
さて、ここで回収した人数も集まってきたので
まだ逃げている最中との見分けがつくように
捕まったというしるしを今いる仲魔につけることにした。
捕まえた仲魔は使用していいことになっているが
仲魔同士では捕まったかどうかの見分けがつきにくいのでその配慮だ。
ちなみにしるしとして使用するのは、いつか何かに使うかなと思い
手芸店で見つけてとっておいた色とりどりのリボンや大きめの布だ。
「・・うーん、と思っていざやってみたはいいものの
あらためて見てみるとちょっとヘンだな。
ケルとかフレスとかサマエルは文句なしに可愛いけど」
「?私もですか?」
「うん、それがないとカードゲームのボスみたいだけど
付けてるとハロウィンのおもちゃみたいで可愛いぞ」
「??はぁ・・」
首元にふんわりしたピンクのリボンを付けられた大きなヘビは
よくわからなそうな声で首をかしげる。
ちなみにケルベロスはたてがみを1ふさまとめてオレンジのリボンを。
フレスベルグは首に黄色いリボンをつけられていた。
ケルベロスは自慢のたてがみにヘンなのを付けられちょっと不快そうだが
可愛いと言われては怒るわけにもいかず
フレスベルグはリボリボリボンリボーン!とワケもわからずむやみ喜んでいる。
相変わらずストックでじっとしていたピシャーチャの片目にも一応水色のリボンをして
トールには鉄槌とツノの片方に1つづつ緑色のリボンをしてもらい
ブラックライダーには乗っている馬共々首に赤いリボンを装備した。
そしてごっつい外見に緑色のリボンという見た目に微妙なトールが
ちょっと複雑そうにツノについた布をつつきながらぽつりともらす。
「・・目印としての意味合いはわかるが・・
何かわけもなく腑に落ちんように感じるのは我の気のせいか?」
「あ〜・・うん、それは言えてるんだけど、ただの目印だしあんまり気にしない。
それに赤よりはずっといいだろ?」
「・・む、それはそうだが」
最初はトールに赤いリボンをしようとしたのだが
とあるハンターの事情で猛烈に嫌がったためブラックライダーと交換したのだ。
ちなみにブラックライダーはそれに関してはまったく気にせず
これで闘牛の牛とか寄って来るのかなとか考えていたりする。
それはともかくちょっとカラフルになった面々を見回し
その場で作戦会議となった。
「・・さて、それじゃこれからみんなには残ったメンバーを捜してもらうけど
あと残ってるのはハーロット、マカミ、フトミミさん、ミカエルと・・
そしてやっぱりダンテさんか」
「・・上げてみると問題のある者が多く残っているような気がしますね」
「そうだなぁ・・ハーロットは目立つけどヘンな小技持ってるし
マカミは変則的ですばしっこいし、何よりダンテさんが一番怖い」
「・・マサカアノ男、ドサクサニ紛レテマタ以前ノヨウナ暴挙ヲシデカスマイナ」
「大丈夫・・・・だとは思うけど、一応注意はしておかないと
警戒するに越したことはないだろうな。
みんなもダンテさんを見つけたら深追いはしないこと。いいな?」
「りょーかい!りょーかい!見つける見つけるー!」
「あ、フレスはウロウロしてると途中で何やってるか忘れそうだから
そこの角のワープ・・いや、そこでうずをまいてるヘンな所の前で待って
こんなヒラヒラがついてない奴が来たら名前だけ教えてくれ。
トールもちょっと動き回るには無理がありそうだから
下の階の十字路でフレスと同じように見張りを頼む」
「わわわーかったわかったー!おれなまえ教えるやつやつ教えるやつー!」
「承知した。・・で、ときに主、悪魔狩りを見つけた場合の攻撃許可は・・」
「出ません。地の利はあっちにあるんだしヘンに悪知恵めぐらされても困るから
ヘタに挑発されてもじっとしてろよ」
「むむ・・」
そうしてちょっとカラフルになった面々を散らそうとした時
ずっと黙っていた赤リボンのブラックライダーが静かに挙手した。
「・・・主・・・」
「ん?」
「・・・散開前に・・1つ提案を・・・」
そしてそれから数分後。
がらんとした殺風景な通路に何か黒いものが落ちていた。
一見して何かわからないそれは知っている者が見ればすぐにわかるだろう。
ジュンヤがいつもはいている黒いハーフパンツだ。
ごば!
すると突然その下から赤いものが飛び出してきて
食らい付くような勢いでそれをくわえ、どずんと表に這い出てくる。
だがその直後、真上から赤い蛇がすっと降りてきて
その首に乗っていた少年が黒いものをくわえた赤いのをつつき、ぼそっと宣言した。
「・・・ハーロット、アウト」
ぐわわ、とつつかれた頭が『あちゃあ』と言うような声を出す。
まさかこんな古典的な罠に引っかかるとは思わなかったが
さすがに意表をつく誰かさんの提案だけはあった。
「・・むむ、まさかこのようなワナを仕掛けてくるとはのう。
ひょっとせずとも黒の入れ知恵じゃな?」
「まぁそうなんだけど・・でもお前色々できるくせに
どうしてこんな罠にもなってないような罠に引っかかるんだよ」
「ホォーッホッホ!愚問じゃな!食いたい時に食い、笑いたい時に笑い
欲しいものが落ちていれば即座に拾う!当然の心理じゃろう!」
などといつも通り根拠のない自信満々に笑うマザーハーロットに対し
サマエルもいつも通り冷静に意見をのべた。
「つまりは欲望に忠実という事ですか」
「ホォーッホッホ!そうとも言うのう!」
「・・・わかったから、早くそれ返せよ」
そうして真っ赤な連中の中バスタオル一丁で居心地悪そうにしていたジュンヤは
さりげなく黒い一張羅を仕舞い込もうとしていた首に向かって手を出した。
そして一張羅を取り返し、プールの授業みたく隠れて着替えて落ち着いたところで
マザーハーロットには白いリボンが装備されることになった。
なぜ白なのかというとマザーハーロットの場合、色彩的にどれを装備しようが
元ある派手さにどの色も負けしてしまうからだ。
あとかなりガサガサしてるので多めに付けないと目立たないし
付ける場所には困らないものの派手なヤツは派手なヤツで
妙な手間がいるから困ったものだ。
「おぉ、もしやこれはうえでぃんぐナントカという装飾ではないか?」
「・・いや、そんな風にも見えるだろうけど
そんな怖そうなウエディングは嫌がらせ以外ではありえな・・いて!
こら!ちょっとじっとしてろよお前らは!」
本当はある程度目立てばそれでいいのだが
不公平はよくないかと7つ全部にリボンを付けようとしたのがいけなかった。
その上にのっかってる主人はもちろん手伝わないので
ジュンヤが全部付けてやるハメになったのだが・・
なにせ1つでいいのに7つもあるので
1つの首にかまっていると残りのヤツらがヒマを持て余し
かじったり小突いたり押してきたりで色々とちょっかいを出してくる。
それをケラケラ笑いながら見ている主人の手首にある1つでいいような気もするが
こういった事は一度やり出すと納得いくまで止まらないものだ。
「だーもー!押すなかじるな笑うな!次!お前もう済んだだろ!
そっちだそっち!そっちのはじっこにいるやつ!こら逃げるな!」
などと一個の胴体に7つも首のあるバケモノとわあわあやっている主を見ながら
成る程こりゃ確かに息抜きだと、つねに息抜き状態で楽観的な女帝と
あまり感情がないはずの赤い邪神は感心した。
中編へ