役に立つかはどうかはかなり怪しいところだが
一応リボン無しの誰か、つまりまだ捕まえてない仲魔の誰かを見つけたら
追い込むか場所を教えるかしてくれと言い聞かせ
白リボンでもっさり感がアップしたマザーハーロットと別れ数分。
「主!ふとみみダ!下ノ階ノ円周通路!」
地道にあちこち嗅ぎ回ってくれていたケルベロスからの報告で
残ったメンツの中で唯一捕まえやすそうな鬼神の情報が転がり込んできた。
確か下の階は見張りに立てているトールの前を通らないと
上へも下へも行けないはずだ。
ジュンヤは階段をおりてすぐ十字路で見張りをしていたトールに聞いた。
「トール!フトミミさん見なかったか!?」
「あぁ、先程挨拶をしてそこを曲がって行かれたが」
?
「って、お前、今おっかける側なのに普通に見送っちゃったのか?」
「・・・・・・。おお!」
そういや今追っかけてる側だっけと今頃思い出したのか
緑のリボンをつけたうっかり鬼神は同じく緑の目印がついたハンマーを持ったまま
ぽんと1つ手を打った。
「お前・・まさかその調子で他のも全部見逃したりしてないだろうな」
「い、いや断じて!見かけたのはフトミミ殿とミカエル殿のみで
マカミと悪魔狩りはここを通っていない!」
「・・・ミカも通しちゃったのかよ。いや、それよりフトミミさんはさっきで
ミカはいつごろ通ったんだ?」
「・・確かここへ来てすぐの時だ。
主の居場所と捕まった人員の名だけ聞いて去ってしまわれたが」
「・・あのな、堂々と見逃してるうえに情報漏洩までしてどうすんだ」
「?何かまずかったか?」
「・・・・。や、もうすんだ事はいいや。
とにかく今度誰か見かけたらできるだけ引き留めるか
ダメな場合は他のリボンつけた誰かに伝言を頼む」
「承知した」
「あ、それと再度言うけどダンテさん見つけても攻撃しないように」
「ぐぬ・・」
トールは素直で真面目で忠実だがダンテの事となると話は別だ。
しつこく念を押しておかないと突然通路いっぱいにマハジオダインが起こりかねない。
そうしてちょっと納得いかなそうな鬼神を残してしばらく歩くと
今度は赤いリボンをしたブラックライダーが音も立てずにすーっと寄ってきた。
誰か見つけたのかと思って言葉を待とうとすると
すいと手にあった天秤が近くの扉を指し示してくる。
それはそのフロアに3つある部屋の扉の1つだ。
各部屋に扉は1つづつしかないのでそこに誰かが隠れているのだろうか。
そう思ってジュンヤは扉を開けようと手をのばしかけたが
その前に開けようとしていた扉の方が先にみききと嫌な音を立てて開いた。
「あれ?」
「あ」
そしてそれと同時にこちらと同じ立ち格好でいたフトミミと
お互いちょっとびっくりした顔で鉢合わせした。
一瞬後、我に返ったフトミミは慌てて逃げようとしたが
ジュンヤの方が一瞬早く、服のはじっこを掴むのに成功する。
「っと!フトミミさんアウト!」
「な・・・しまった・・失敗。少し油断しすぎたか」
フトミミはさすがに無駄な抵抗もせずあっさり降参のポーズをとったが
そうされた所でジュンヤの方がなぜかちょっと複雑な顔をし、肩を落とす。
「・・?どうかしたのかい?」
「・・いや・・そう言えば普通オニゴッコのつかまえ方って
こんなだったなーって今思い出しただけで・・」
「??」
まぁとにかく一番普通な捕まり方をした鬼神には
黄緑色のリボンを目印として渡す事になった。
フトミミは他の連中と違い、あまり派手ではなく色彩に富んでいる箇所もないので
急に色を加えるとちょっとした違和感があったが
本人は若草色だと喜んでいたのでよしとした。
「・・・でもその付け方って病気のお殿様とか
酔っぱらいのサラリーマンがネクタイでする結び方ですよね・・」
「ははは。まぁ細かいことは気にしない」
細かいとは思えないほどそれは妙な目立ち方をしていたが
目印としてはそこそこに役に立っているようなので
どこでそんなの覚えたんだとかいう追求も含め
ジュンヤはそれ以上何も言わないことにした。
「そうか。難しいかと思っていたけれどそうでもなかったのか」
などと納得しながらフトミミはジュンヤの横をほとんど同じ歩調で歩いてくれる。
こうして並んで歩いていると本当にただの人間のようだが
それでもトールと同じ種族で殴る力も同じくらいだったりするのが
この世界の不思議なところだ。
まぁこんなのにももう慣れてきたジュンヤはあまり気にもせず
ピシャーチャに追加のエストマ指示を出してから小さいため息を吐き出した。
「・・それはそれで今の俺としては助かりますけど
俺がいない時にまた前みたいな目にあったら、みんなどうなるかちょっと心配で・・」
一番ヒドい目にあった自分を差し置いてやっぱり心配するのはそこからか。
特徴的なリボンの巻き方をしているフトミミは心の中だけで苦笑し
歩きながら自分の胸をとんと軽くはたいた。
「心配ないさ。私も含めた皆はただ単独だから頼りなく見えるだけで
君と行動して個々に培ってきた力というのはバカにはできない。
それは私も皆も胸を張って保証できるよ」
「そういうもんでしょうか・・」
「そうだとも」
フトミミは自信満々にそう言ってくれるが
自分の事にはちょっとうといジュンヤは首をひねるばかりだ。
ドーーン
と、そんな会話をしながら歩いていると
少し向こう側の通路からちょっとした爆発音が聞こえてくる。
少し遠いが音からしてプロミネンスだろう。
そのスキルは確かサマエルとケルベロスが使えたはずだが・・
そう思いつつ音のした方へ向かうと
別れ道でキョロキョロしていたケルベロスと遭遇した。
「ケル!今の音は?」
「・・ム、スマン主。みかえるヲ見ツケテ足止メヲシヨウトシノダガ
意外ニ素早クテ今シガタ逃ゲラレタ」
「ってことは、さっきの爆発音はお前か?」
「奴ニ魔法ハ効カヌノデ、遠慮ハイラントさまえるガ言ウノデナ」
「・・いや、そりゃそうだけど・・」
いくらあの大天使に魔法全般が効かないとは言え
サマエルも仲魔相手に大胆な事をする。
ということは早く見つけないとマズイかも知れない。
サマエルは比較的良識のある邪神だが、所持しているスキルがちょっとばかり凶悪だ。
プロミネンスは元より冥界破にデスカウンター
マハンマオンとマハムドオン、果てはメギドラオンと貫通まで持っている。
別にジュンヤがそう綿密に調整をしたわけでもなく
ただこれでいいかなと軽く思っていた状態でそんな事になったのだが
ともかくそんなデッドオアライブなのが遠慮しないとなると危険でしょうがない。
「サマエルは無茶しないとは思うけど・・急ごう。
ケルはそっちから回って途中でハーロットかブラックを見たら
一緒に追い込むように言ってくれ」
「承知シタ」
「それとフトミミさんはどうしますか?追跡とか無理なら階段で見張りの役とか・・」
「あ、高槻、彼じゃないのか?」
「へ?」
唐突にフトミミが指した方を見ると、そこから風を切るような音が近づいてきて
軽い羽音と共に金色の何かが通路の角から飛び出してきた。
おそらく別の誰かから逃げてUターンしてきたのだろう。
それは天使にしては目立つ色合いをしているミカエルだ。
そしてそれは急ブレーキをかけてこちらを確認すると
彼にしてはめずらしいどこか不敵な笑みを浮かべた。
「・・主か」
それはまるで数年ぶりに再会したライバルのような口調だったが
ジュンヤも思わず似たような笑みを返し、気付かれないようにそっと距離をはかった。
「・・もう半分以上捕まえたけど、ミカはまだ捕まる気ないんだろ?」
「それがルールであるならば答えはその通りだ。
そして主がこの遊戯を望むのならば、私は全力でそれに応えるまで!」
そう言うなりミカエルはかなりのスピードでジュンヤ達の頭上を飛び抜けた。
普段はただ宙に浮いているだけだと思っていたが
その速さたるや普通の鳥が飛ぶのと変わりないくらいだ。
魔法が効かないので牽制用に真空刃をしかけようと思っていたが
あの速さだと間に合うかどうかわからない。
だがその時ミカエルの飛ぶ先にあったワープホールから長くて赤い物が飛び出し
その進路をふさぐようにいくつもある翼を広げるた。
それは先回りしていたのだろうピンクのリボンを付けたサマエルだった。
しかしそれもあらかじめ予想していたのか
ミカエルは実に器用な身のこなしで大きな蛇の隙間を飛び抜けると
慌ててブレーキをかけて方向転換したサマエルを残し
その勢いを殺さずワープホールに飛び込んで姿を消した。
「・・・さすが。読まれてしまいましたか」
サマエルがいくらか残念そうにそうもらすが
その首にはピンクのリボンがゆれていていまいち迫力がない。
しかし考えてみればミカエルは飛べる上に頭も回るし
大柄でもないので捕まえるとなると難しい部類に入るだろう。
「そう言えば・・問題のちょいワルコンビで気が回らなかったけど
ミカもマカミほどじゃないけど小回りがきくみたいだし
見つけてから対処してたんじゃ間に合わないか」
「私の冥界破なら少し足止めになるかと思いますが、いかがいたしましょう」
「・・・いや、物理は効いちゃうからそれはちょっと・・・」
冷静な口調で怖いことを言い出すサマエルにストップをかけ
ジュンヤはざっと考えて作戦を立て直すことにした。
「・・よし、フレスとトールを見張りからはずして追撃に当てよう。
サマエルはここの外周通路の巡回をたのむ。
ケルはさっき言った通りどっちかと合流して
階段付近の通路を重点的に見回ってくれ」
と指示を出している間になぜかフトミミが感心したようにこっちを見ているのに気がつく。
「?なんですか?」
「・・いや、やはり私達は個人で別々に動くよりも
高槻の指示に従っている方がしっくりくると思ってね」
「そうなんですか?」
「そうだとも」
しみじみそう言われてもよくわからず、その横にいたサマエルに目をやると
同意するようにいくつもあった青い目が細まり
ケルベロスを見ると少し誇らしげに黒い尾をゆらす。
とは言えその重要性というのは本人にはわかりにくいらしく
おまけに悪魔数十体の主人という自覚等がからっきし抜け落ちているジュンヤは
どうもと言って頭をかくだけだった。
「ところでジュンヤ様、捕獲の方法はどうなさいますか?
正面からでは突破されてしまいそうですし
マザーハーロットを探して私と同時に壁を作るという手もありますが」
「・・そうだな。2人がかりでなら何とかなりそうだけど
もう一方を誰で塞ぐかが問題だな」
面積としてはブラックライダーとトールが適任だが
あの速さと機動力で間に合うかどうかはちょっと疑問だ。
さてどうしようかと考えていると横で何やら考えていたフトミミが進言してきた。
「高槻。差し出がましくないのなら1ついい方法があるんだが」
「?いえ、いい方法があるなら試してみたいですけど・・
でもどうするつもりですか?」
フトミミだってジュンヤ同様飛べないし
戦闘でもどちらかと言えば補助担当なのでそう便利なスキルがあるわけでもない。
けれど黄緑色の酔っぱらい結びとさわやか笑顔
あと時々起こす行動のギャップが激しい鬼神は事も無げに言った。
「いや物は試しに彼の習性をちょっと利用してみようと思ってね。
今度彼を見つけた時に手を貸してくれないか」
「?攻撃スキルですか?」
「いや本当に手を貸してくれるだけで十分だ。
あとは私が何とかするから次に見かけた時にお願いできるかな」
「・・?はぁ、かまいませんけど・・」
なんだかよくわからないままにジュンヤは同意してしまったが
横で聞いていたサマエルとケルベロスはその鬼神だけがかもし出す一種独特な空気に
ちょっとイヤな予感をふくらまさせていた。
そしてそれからしばらくした別の通路では
気配もなく突然現れるブラックライダーや
まれに遭遇するマザーハーロットをかわしながら
ミカエルがあちこち自在に飛び回っていた。
一番鼻のきくケルベロスは飛べないのでかわすのに苦労しないし
ブラックライダーも本気で追ってくる気はないらしいので
上手くかわせば逃げ切れないことはないだろう。
残るマザーハーロットは遊び感覚で適当に追ってきているようだが
大きさのあるサマエルと同時に来られるとさすがにやっかいだ。
さてどうするか。
お遊びなのであまりムキになる必要もないが
出来れば上手に長引かせて主を楽しませてやりたい。
などと思いつつブラックライダーを振り切ったところで
前方の角からジュンヤとフトミミが出てくるのが見えた。
「む」
「あ!ミカみっけ!」
こちらを見るなり明るくなった表情に一瞬動きを止めそうになるが
そこはぐっと心を鬼にして素早く方向転換をし・・
「よし、じゃあ手をかりるよ」
「へ?・・わ!ちょっと!」
飛ひ去ろうとする直前、何か妙な様子に振り返れば
ジュンヤの手を掴んで自分を軸にぶんぶん回しはじめるフトミミが見えた。
?ちょっと待て。なぜそこでそんな豪快なジャイアントスイングを・・・
まさか!!
ミカエルがその恐ろしい想像に達するのと同時に
それはいともあっさり実行された。
「それ」
それはまるでボールをかるく投げるようなノリだ。
ふいに手を放したフトミミから強力な遠心力で離れたジュンヤは
それは綺麗な放物線をかき、声も上げずこっちにすっ飛んでくる。
その時ミカエルの頭の中はほぼ真っ白だったが
とるべき行動は身体がちゃんと知っていた。
ガシーン! どっ ぐしゃ!
放り投げられた槍が地面に落ちて派手な音を立て
ほぼ同時に鈍い音が立て続けにおこった。
空いた両手で主を受け止めはしたが、それでも結構な勢いは殺せず
主もろとも地面に落ちるかと思って身を固くするが
いつのまにかフォローに回ってくれていたブラックライダーがクッションになってくれて
ちょっと痛かったが全員大したケガもなく折り重なるだけですんだ。
「うん、さすがに上手だ。忠誠心と経験のたまものだね」
「・・!フトミミ貴様ぁ!!」
などと怒鳴るミカエルの下でクッションになってくれたブラックライダーが
はよどいてとばかりに身じろぎする。
そりゃ確かに性質を利用するってのは間違ってないけど
やっぱりオニゴッコとしては間違ってるだろと
色対比の激しい連中と団子になったジュンヤは他人事のように思った。
「・・まったくフトミミめ。幸い事なきを得たが
仲魔に主を投げつけるなど主従のあり方をなんだと思っている」
ぶつくさ言いながらも全員に回復をかけ
律義に全員に手を貸して助け起こしたミカエルは
最後に自分の羽のホコリをはたき憤慨したようにもらす。
というのもそれを言うべきフトミミが主の状態を確認しているすきに逃げたのだ。
要領がいいというか慣れているというか
ともかくジュンヤは残されたブラックライダーと一緒に・・
いや、黙って聞き役になっているだけの黒騎士と一緒に
『まったく最近の若者は』とか言い出しそうな大天使をなだめた。
「・・まぁ別に誰もケガしなかったんだし
悪気があってやったんじゃないんだからそうカリカリしなくても」
「だから主はどうしてそう身内に甘いのだ!
いや身内だけではない、他の悪魔との交渉時でも
明らかにこちらを利用しようという連中にさえも・・」
「わーわー!ほらこれミカの分のリボン!自分でちゃんとつけろよな!」
妙なことにまで話が発展しそうになり慌てて押しつけたのは
一体何に使うんだと聞きたくなる紫色のブルジョワなリボン。
横で見ていたブラックライダーが『あ、結構似合う』と思っている中
ミカエルは一瞬何か言いたそうな顔をしたがルールはルールなので
大人しく受けとって首元と槍に手早く結んだ。
だがそれは手早くだったのであまり綺麗にできていない。
「あ、ちょっと待て。玉結びにしたら後で取れなくなるだろ。
貸してみろ」
そう言って何をするのかと思って見ていると
槍につけたリボンは可愛くチョウ結びにされて戻ってきた。
しかもその次にはためらいもなく首にある分にまで手を伸ばそうとしてきて
ミカエルはあわてた。
「ちょ、ちょっと待て!別にこんなものそこまでせずとも!」
「何言ってんだ。するならちゃんと綺麗にしないとダメだろ」
「しかし首に結ぶのにチョウ結びはおかしいだろう!」
「?なんでだ?サマエルもこうすると可愛くなったぞ」
「なってどうする!!」
「大丈夫。変にならないようにちゃんとするから」
「だからそう言う問題では・・!」
「?む?ミカエル殿ではないか」
などと軽くもめていた所にずしずし足音を立ててやって来たのは
さっき見張り役を解除されたトールだ。
見ればその手にある鉄槌にも頭のツノにも緑のリボンがあり
おっきなチョウ結びが歩くたびゆらゆらしていてミカエルを絶句させた。
「ほら見ろ。トールだってちゃんとしてるだろ」
「ちゃ・・ちゃんとと・・言われても・・」
「?どうしたミカエル殿。何か問題でも?」
「いや問題というか・・問題というほどでもないが・・」
それは自分にとってはそれなりな問題だけど
それが何ともないと思ってる奴に対しては説明のしようがない。
しかもよく見ると高い位置にあるブラックライダーの分も
左右対称できちんとしたチョウ結びになっている。
自分でやったのかやってもらったのかわからないがどいつもこいつも・・
あ、でもホントだ。言われてみれば確かにガイコツでも可愛く・・
いやそうではなくてだな!!
ドゴ!!
「ぬお!?」
「ウゲェ!?」
などと混乱しかかっていたミカエルをよそに
何を思ったのか突然ブラックライダーがトールに体当たりをしかけた。
しかしいきなり何するかと思いきや、直後の悲鳴はなぜか2つ。
その事にその場にいた全員が気付いたとき
トールのマントの下から何か長いものがべちゃと落下した。
それは一体いつからそこに隠れていたのか
今まで声も姿もなかったマカミだった。
「!マカミ!!」
「ギャ!ばれタ!」
ジュンヤがその名を呼ぶのと同時にマカミは慌てて舞い上がって逃げようとした。
だが次に我に返ったミカエルが素早くランダマイザをかけようと手を振りかざす。
しかしマカミもバカではない。
昆布のような身体を器用に使い素早く天井近くまで舞い上がると
通路一杯にフォッグブレスを吐き出し
その煙にまぎれてあっという間に姿が見えなくなった。
「む・・やはり素早いか。
いつから隠れていたのか知らんが悪知恵の働くヤツめ」
「でもブラックよくわかったな。俺全然気がつかなかった」
「・・・・」
ブラックライダーは黙して語らない。
だってマントからちらっと見えていたマカミは
かなり前からそこにいたらしく、ちょっとダレて落ちかかっていたからだ。
しかしそれを話してしまうとトールが凹むので
無口だけど空気を読む賢い魔人はあえてだんまりを決め込んだ。
「しかしうかつだったな。奴の性質ならあまり物のないこの場所でも融通がきく」
「そうだな。あのやり方だとミカの後とかケルの背中とかもいけそうだし・・
あ、それよりトール大丈夫か?」
「・・い、いや・・まさかあのような所にひそんでいたとは・・
まったく気が付けずに面目ない・・」
「・・・だが・・・害はなかった・・・」
いつも通り感情のない声でそう言いつつも
ブラックライダーはすっこけていたトールに手を貸して引き上げる。
それはどう見ても重量負けしていそうな構図だが
浮いたままの片手でもまったく問題なく引き上げている。
それは最古参と新参者のレベル差というヤツなのだろうが少し不思議な図だ。
「これ、何をしておるそこの連中。
今そこを神獣が飛んでいったぞ。追わずともよいのか?」
そしてその騒ぎの中でもマイペースなマザーハーロットが
どしどしと慌てもせず白いリボンを揺らしながら現れた。
「ついさっき逃げられたとこなんだよ。
・・ってか見てたなら止めてくれたっていいじゃないか」
「ホォーッホッホ!何を言う!
わらわの腕であの浮遊物を手加減して足止めできると思うのかえ?」
「・・・あぁ、うん、ゴメン」
確かにそう素早くもないのに悪魔の中で突出した力をもつ魔人の彼女に任せたら
足止めとかさせる前にボロ雑巾が1つ出来上がってしまう。
いやこの場合手加減できる奴がいるかと言われればかなり疑問だが。
「でも正直な話、どうやって捕まえようか。
まだ見てないダンテさんの情報だってマカミが一番持ってそうなんだけど
一番逃げ足が速くて捕まえにくい形と性質してるからなぁ・・」
などと悩む中、紫のリボンを半端に装備したミカエルが真面目な顔でこう聞いてくる。
「・・主、確かマカミに電撃は効いたな」
「ダメダメダメ!いくら手加減しても仲魔うちで物騒な行動は禁止!
デスバウンドもマハジオダインもメギドラオンも禁止!
あとしつこいようだけどトールもダンテさんに攻撃しないように!」
「・・・・」
「ぐぬ・・」
全部の攻撃方法を禁止されたミカエルが心のすみで舌打ちし
しつこく念を押されたトールがしつこく悔しがる。
よく考えてみれば最もやっかいなダンテがいなかろうが
手のかかる連中を連れているのには変わりはないようだ。
「ホォーッホッホ!なんじゃなんじゃ天使長も雷帝も
当初渋っておったくせにやる気満々ではないか!」
「・・いやそれは多分残ってる人員に問題があるんだと思う。
とにかくハーロットも無理して足止めしろとは言わないけどちょっとは協力してくれよな」
「ふふん、別にそのような回りくどい手間をかけずとも
わらわとてアレの捕獲の知恵くらいはあるぞ?」
「知恵・・?」
あのダンテと並ぶくらいのひねくれ犬をどうにかできるのかと
ミカエルは心底胡散臭そうな目をするが
元からそんな目など視界に入らない女帝はフフンと鼻で笑い
持っていた杯を意味ありげにふらふらゆらす。
「忘れておらぬか?わらわもあやつも種族は違えど同じ悪魔じゃ。
悪魔の事は同じ悪魔が一番知り得ておるじゃろう。
それに奴は悪魔じゃが動物に近いので習性を利用すれば比較的簡単じゃぞ?」
「・・ふむ成る程」
難しい言葉を並べられ立てられるとそれっぽく聞こえるのか
素直なトールは内容の半分も理解せずに感心し
その横でミカエルが三信七半疑くらいのしぶい顔をした。
「・・それで?一体どう対処するつもりだ。
言っておくが主を囮ないしエサにして捕獲する事は禁止だ」
「ぬ、成る程。そのような手もあったのう」
「ハーロット!」
「ホォーッホッホ!怒るでない、軽いジョークじゃ」
いや違う。今絶対その高笑いしたちょっとの瞬間に
5つか6つくらい俺使ったワナとか考えてただろとジュンヤは直感した。
「まぁよい。用意する物は主ではないがそれはこちらで用意しよう。
そのかわりこの提案、上手くいったあかつきには先程の一張羅を・・」
「ハーロット」
ぴしゃりと拒否られたマザーハーロット。
今度は高笑いもせず軽く舌打ちし、乗っていたケモノがちょっとビクッとした。
それはマジだったらしい。
「あ、それとミカ」
「?何だ」
「首のやつ、ちゃんと結んでおこう。こっちこい」
「ぐ・・」
そうしてうやむやになっていたミカエルの目印は
律義な主人の手によってきっちりと結び直され
結局一瞬後にはマザーハーロットの高笑いが通路にこだまする事になった。
おまけにそれは後々因縁の関係になる紫色だ。
後編へ