「おのれぇ!すばしっこい昆布めどこへ行きおった!!」
「マカミマカミマカミ!マーカーミーーー!」
「ヘヘーン、ホラホラドウシタ、ソンナンジャ遅イッテーノ!」
見つけてもまったく追いつけず悔しがるトールの声を遠くに残し
飛んで追いかけてくるフレスベルグを器用にかわしながら
マカミは長くてあまり変化のないアマラの通路を素早く飛んでいた。
そこはあまり隠れる所がないが逆に言えば飛び回るには不自由しない場所だ。
素早く角を曲がり、騒ぎを聞きつけ走ってきていたケルベロスの頭上を飛びこし
出会い頭何かしようとしていたサマエルの間をすり抜け・・。
「・・おや」
「!オットト・・!」
しかし不意に扉から出てきたフトミミには急停止をかけ
さっとUターンをして逆方向へ逃げる。
フトミミは飛べないが突然何をしてくるかわからない部分があるので
なるべくなら近寄りたくはないのだ。
ブラックライダーやマザーハーロットも同じような部類に入るが
あれらはまだ空気を読むので主が本気を出さなければ大丈夫だろう。
あと注意すべきなのは応用のきく金ピカ鎧ぐらいだが
大型との複合で来ない限りはそうそう簡単には・・
などと考えつつ飛んでいたマカミは
なぜか突然急ブレーキをかけ、一瞬ちぢんだゴムのようになった。
それは通り過ぎようとした通路のはじ。
なんの変哲もない場所にぽつんと置かれた妙な物が視界に入ったからだ。
それはあまり派手ではなかったがこのアマラ深界に存在する物ではなく
小さくて地味ながらそこそこに目を引いた。
それは四角くて横に何かの文字の書いてある物で
真上にある部分が中途半端にぱかりと空いている。
マカミは首をひねる。
別にあんなただ置いてあるだけのものにかまう必要はない。
というか今はそれどころではないはずだ。
しかしマカミは飛び去らず、さらに首をぐりんとひねる。
いやでもだ。何であんな所にあんなものが置いてあるんだろう。
見た感じなんかのワナか?いややっぱワナだろう。
でもあんなあからさまなワナもなんだし・・でもなんか気になるんだよな
何よりあんな風に置かれちゃ無視するにも難しいし・・。
などと思っている間にもフラフラと無意識に身体がそちらに動き
マカミは水面を流れる布のように流され、無造作に置かれていたそれの上で止まり
開いていた上からちらりと中をのぞく。
そしてマカミはしばらく固まった後、今度は迷うことなく行動した。
そして数分後。
サマエルからの報告でそこにやって来たジュンヤは
ただそこに置かれていただけだった段ボールの前に無言で立つ。
そう、それは別になんの変哲もないただのダンボールだ。
強いて言うなら横に『みかん』と書かれているくらいで
別に仕掛けがあるとか中から何か飛び出してくるような物ではない。
そしてジュンヤはそれに黙って近づくと、おもむろにずぼと手を突っ込む。
そして次に手を出した時その手に握られていたのは
口を丸くふくらませ、ビリビリにやぶかれた雑誌ゴミまみれになったマカミだった。
その口からちょっとはみ出ているのは
エサとして箱に仕込んでおいたマザーハーロットのおつまみピーナッツ。
なぜそこから出なかったのかというと、実はマカミ
巣を作るワケでもないのにこういったせまくて何か詰まった場所が好きなのだ。
「・・・お前な」
「シャアネェダロ。悪魔ッテノハ誘惑ニ弱ェモンダロガヨ」
ぼろぼろ口から中身をこぼしながら
捕まえにくいけどせまい所とピーナツが好きなたぶん神獣は
清々しいほどあっさり開き直った。
こんなのに引っかかるマカミもマカミだが
これを考えたマザーハーロットもマザーハーロットだ。
「・・しっかし何というか・・お前達はいつからそんな奇妙な性格になったんだろうな」
「ヒャッヒャッ!ソリャ今度マデノ宿題ニシトクカァ?ふぎゃ!」
おまけにどっかの赤い誰かさんに似てきた犬の鼻先をつまんで黙らせ
オーロラ色のテカテカしたリボンを首に手早く結んでやる。
あまりに派手なので誰に付けようか迷っていたが
元がおもちゃみたいなマカミにはぴったりだ。
「でもお前、そのかっこで箱から飛び出てきたらびっくり箱そのものだよな」
「オ?ソウカ?ナラ今度アイツト一緒ニドッカノ箱ン中ニヒソンデテヤロウカ?」
「うんわかった。その時は閉め直してヒモでぐるぐる巻きにして
重し付けてからギンザ大地下道の水路に放流してやるから」
「・・・ホンノ冗談ダロ。イイ笑顔デ処理法ノベンナヨ」
「ま、それはさて置き本題に入ろう。
ダンテさんはどこにいて何をたくらんでるのか、吐いてもらおうか」
しかしそう言ってつんと鼻先を押されたマカミは
ちょっと驚いたように首を伸ばす。
「ア?オイ待テヨ。アリャおれノ管轄ダッテノカヨ」
「だって数かぞえてる間一緒にいたってフトミミさんから証言が出てるし
一緒に何か企んでるとしたらお前しかいないだろ」
「・・ンナコト言ワレタッテ知ラネェヨ。ソリャムシロおれガ聞キタイクライダ」
「嘘、冗談、紛らわしい、その他誘導は受け付けないからな」
「ほんとダッテーノ!最初ハおれモあいつガ何ヤラカスカ気ニナッテ
一緒ニ行クカ後ツケルカスルツモリダッタンダヨ。
デモ始マッテスグ角1つ曲ガッタ途端モウマカレチマッテ・・」
「?途中まで一緒に行動してたんじゃないのか?」
「ソウスルツモリダッタンダガ今回あいつ妙ニ行動ガ素早クテヨ」
「・・・・ほんとか?」
「うそナラモウチョット楽シイうそツクダロガ」
平たい前足でこりこり耳をかきなら困ったようにそう言う所を見ると
どうやら嘘ではないらしい。
ジュンヤは少し考えて再度全員に連絡をし
第3カルパ内を全員で捜索をしてみる事にした。
しかしいくら時間をかけて念入りに全員で探し回ってみても
なぜかダンテの姿だけがどこにも見つけることができなかった。
「いないなぁ・・もうこれで全部探したはずなんだけど・・」
「まさかあの男、飽きて1人で帰ったのではあるまいな」
声色は怖いがリボンで迫力が半減しているトールが
ジュンヤよりもかなり高い位置で周囲を見回し
捜索にあきてその肩にとまってうつらうつらしていたフレスベルグとちょっとぶつかって
ギィと迷惑そうな声を出される。
しかしダンテの性格からしてこういった事を途中で放り出すとも思えないし
かといって昔ここを1人でウロウロしていた奴が誰かにやられたとも考えにくい。
「高槻、もしかしてはしゃぎすぎでうっかり下層へ落ちたとは考えられないかな」
「いえ一応第3カルパからは出るなとは言ってあるし
もし出たらその時点で解雇してやるとも脅しかけてあるから
大・・じょう・・ぶ・・・・だとは・・思うんですけど・・・・」
「ジュンヤ様、自信をお持ち下さい。
どのみちあの魔人に良識や常識は通用しません」
「・・・・(それ・・フォローのつもり?と思ってるブラックライダー)」
「?待て。その前に皆に確認するが、誰かこの中でこの遊びが開始されて以後
逃走中の悪魔狩りを一度でも見た者はいるか?」
しかしそのミカエルの問いに答える者は誰もいない。
ということはつまりそれぞれに散ってジュンヤが探し始めてから以後
ダンテは誰にも発見されていないという事になる。
「?オッカシーナ。アイツノコトダカラモウチョットナンカ仕掛ケテ来ルカト思ッテタノニ」
「こうなるとわかっていれば最初からマークはしていたのですが
何分私やトールなどは自分の事だけで手一杯でしたので・・」
「・・・すまぬ主」
「いや別に気にする事じゃないって。
マカミでも後つけられなかったんだからさ」
少し残念そうに首を下げるサマエルの横でトールも同じく申し訳なさそうに身を縮める。
ブラックライダーはいつも通りに沈黙を守っているが
何も言ってこない所を見ると打開策がないのだろう。
「一応下層ヘ行ク穴付近ノニオイモ確認シタノダガナ・・」
「形跡なしなのか?」
「ウム、ソレドコロカコノ周辺ヲ歩イタ痕跡ヲホトンド残シテイナイ」
「・・不気味ですね。彼がかつてここを熟知し
ジュンヤ様を追い回していた時の事を考えると
何かしら仕掛けていそうな気はするのですが・・」
「・・そうだね。彼のあの性格からして
高槻にちょっかいをかけてこないというのが一番気になる」
「くくく、これは面白くなってきたぞえ。
あやつめ一体どこに隠れて何を企んでおるのじゃろうなぁ〜?」
「うわよせ。昔のトラウマが出てきちゃうだろ。
というかお前、あの時ストックにいた部類じゃないかよ!」
「ホーッホッホ!そう言えばそうじゃったかのう!」
しかしトラウマはともかくとして、これだけいる仲魔の捜索網をかいくぐり
なおかつ下層には行っていないとすると・・一体どこにいるのだろう。
「・・とにかく、もう一度手分けして探し直すしかあるまい。
各階各方角に再度手分けして当たろう」
「・・まったく、まだ発見もしていないのに迷惑なハンターさんだ。
では高槻、次の集合場所もここということでいいかな」
「・・あ、うん。それじゃ次の静天にここにもう一度集合ってことで」
「では聞いた通りだ。私とフレスベルグ、ケルベロスはB4階。
サマエルとブラックライダー、フトミミさんマカミはB3階。
マザーハーロットとトール、そして主はB2階を再度確認だ」
「しかしさっきから思うにおぬし、ヘタな仮装パーティーに呼ばれ
半端な衣装を無理矢理着せられたSPか何かのようじゃのう」
「以上散開!散れ!!」
言われてみればそんな風なミカエルがリボンのついた槍を振りまわし
やっぱりリボンのついたカラフルな連中を牧羊犬よろしく追っぱらう。
ブラックライダーが一瞬ぷすっと音をもらしたような気もしたが
とにかく残されたジュンヤは再度最初に探し始めたフロアの確認に・・
「・・・ん?」
そこでふと思い出す。
みんなが隠れるまで数を数えていた扉の後ろには上へ行く階段があった。
そこから上の階は禁止にしてあったが、確かそこへ行くまでの通路には・・・・
その仮説に達した時、ストックに残っていたピシャーチャが
同意するようにヴとひかえめに声を出した。
「?これ主、どこへ行くつもりじゃ」
「ゴメン、先に行っててくれ。ちょっと思い出した事があるんだ」
「む、主、1人で大丈夫か?」
「ピッチもいるから平気だ!集合時間には戻る!」
そう言いながらひときわ身体の大きな仲魔達をそこに残し
ジュンヤは今までまったく気にしていなかったある場所へ向かって走り出した。
最初数を数えていた扉を開けて歩くこと少し。
そのまままっすぐ行けば上への階段だが、少し横に道をそれると
何のためにあるのかコの字型をしたロータリー状の通路がある。
そこは以前最初正面から来たダンテをまくのに使った通路だ。
まさかと思いつつもそこへ向かってみると
それはまるでここに来るのが最初からわかっていたかのように
堂々と壁にもたれてそこにいた。
だが少しヒマだったのかその手には宙を舞っているコインが1つあって
歩み寄るとパシッと乾いた音を立て黒いグローブに握り込まれる。
「・・遅かったな」
その先にゴールして待っていたかのような台詞に
ジュンヤは怒るよりもまず先に呆れてしまった。
「・・遅かったな、じゃないだろ。
みんなで一生懸命探してるってのに、なんでこんな地味な所にいるんだよ」
「逃げ回るのは性に合わないんでな。
それにアイツらの事だ。どうせ最後にはオレをよってたかって集中攻撃したがるだろ」
「・・それは否定しないけど・・でもわかっちゃいたけど協調性ないよなぁ」
「疲れ果てたように言うなよ、失礼なヤツだな」
「そのまんまの事実だろ。
・・まったくもう、みんなで探し回る甲斐がないったらありゃしない」
呆れたようにそう言うとジュンヤはダンテと同じようにして壁にもたれかかる。
探した甲斐なく堂々とくつろいでいた赤いコートはそこを動こうとせず
そのまま首だけこちらに向けてきた。
「その様子だとオレが最後か」
「そうだよ。さっきマカミを捕まえてダンテさんが最後」
「それで?オマエとしては楽しかったのか?」
「・・まぁそこそこに。でもダンテさんを追い回せなかったのはちょっと残念かな」
「ここであった事のリベンジってヤツか」
「そうとも言うな」
「だったら今から少しやってみるか?
さっきも言った通り逃げるのは性に合わないが
クライアントがお望みなら少しくらいサービスでつきあってやる」
ちょっと横暴な言い方をしつつもダンテはそう言って銃を片方差し出してきた。
しかしジュンヤはそれを見てあまり迷わずに首を振る。
「・・やめとく。そんな事してスッキリするのはきっと最初だけで
後から急に後味悪くなりそうだし。それに・・」
「それに?」
「・・俺、そういう誰でもすぐ使える武器は嫌いだ」
ダンテは少しだけ意外そうな顔をしたが
すぐに『そうか』と納得し、銃を元あった位置にすとんと戻した。
もっと絡んでくるかと思っていたのでそれはそれで拍子抜けだ。
「?妙にあっさり引き下がるんだな」
「それはそれでオマエらしい答えだと思ってな。
それをわざわざひっくり返したがるほどオレもヒマじゃない」
「・・・・・・・昔ここで人を尻から無遠慮に撃ってきた人のセリフとは思えない」
「そう言うな。オレもまだあの時オマエがどんなヤツか知らなかったんだ」
「じゃあ知ってたらやめてたのか?」
「まさか。そんな失礼なマネ出来ると思うか?」
「・・・・・」
「コラ待て。黙って去るな」
殴るのも怒るのダンテの思うツボのようなので
黙って放置してやろうとすると慌てたように前に回り込んでくる。
どんなお叱りやスキル攻撃にもこたえないダンテだが
さすがに無視と放置は困るらしい。
「いやいや俺こんなヘンな人に知り合いませんからノーセンキュー」
「なに言ってる、雇うって言ったのはオマエだろ」
「あの時はここまでヘンな人だとは思わなかったんだよ!」
「ならそれでおあいこだ。違うか?」
つんと軽く額をつっつかれ、悪びれる様子もなく肩をすくめられて
ジュンヤはあらゆる意味で閉口した。
だから黙って置いていこうとしたのに
いつの間にかやっぱりダンテのペースに巻き込まれてる。
しかもそういうのにもだいぶ慣れて
悪くないとか馴染み始めている俺も俺なんだけど・・・。
「・・だから人の顔見て疲れはてたような顔するなよ。
ティーンのくせに老けたヤツだな」
「そっちこそいい歳いってそうなのに何でそんな・・
・・いや、やめよう。こんな事で不毛な言い合いしてても仕方ない」
それより早く戻ってみんなに知らせてやらないと延々探させてしまうし
今妙に機嫌のよさそうな彼に何を言い返しても全部無駄になるに決まっている。
そう思って歩き出した横をダンテが同じ歩調でついてきた。
「それより捕まえないのか?あとはオレだけだろ」
「今つついたじゃないか」
「オマエが捕まえてないなら無効だ。ほら」
などとオニゴッコのルールもへったくれもなく堂々と差し出された手に
ジュンヤは呆れも含めて黙り込む。
その手を捕まえれば今回のゲームはクリアとなるが
この男がそうあっさり事を済ませてくれるだろうか。
従順なフリをしてまた何かたくらんでいるのではないだろうか。
たとえば掴んだ瞬間投げ飛ばしてくるとか
掴もうとしたらさっと手を引っ込めるとか代わりに銃か剣が出てくるとか。
しかし色々考えてじーとその手を睨んでみても
ダンテの方はそれ以上何もせずただ黙って待っているだけ。
どうやらこちらから行動しないと始まりそうもないので
ジュンヤは思い切ってその手をはっしと捕まえてみた。
するとそれは逃げもせず何かとすり替わる事もなく
あっさりと手中に収まってくれる。
え?というような顔をして見てもダンテは少し楽しそうな目でこちらを見るばかりで
どうやら純粋にどうするのか観察していただけらしいが・・。
「・・何ヘンな顔してやがる。
まさかもっと色気のある捕まえ方の方がよかったか?」
「違うわバカ!!あまりにあっさりし過ぎて気味悪がってるんだよ!」
「捕まったら大人しくするってルールなんだろ。だったらそれでいいさ」
というのは半分ウソ。
本当ならもうちょっと遊んでやってもよかったのだが
まず最初にジュンヤが見つけてくれそうだというあてがダンテ的に大当りだったので
機嫌のいいまま終わるよう抵抗しなかっただけだ。
それが顔に出ていたのかジュンヤはしばらくダンテをにらみ
甘いカレーを食べたようなかなり微妙な顔をした。
「・・・やっぱりヘンな人だよな。ダンテさんて」
「オマエこそ、今まで見た悪魔の中じゃダントツだ」
「誉め言葉になってないし一緒にするな!
それよりハイこれ!自分でつけろ!」
そうして怒るように押しつけられたのは最後に残った目印用のリボン。
もうゲームは終了だし付けなくていいような気もするが
一応全員が合流するまでの誤認防止のためだ。
それがただのリボンならダンテもガキの遊びだなとか
クライアントの命令なら仕方ないとかでつけてくれただろう。
だが1つ問題だったのは
最後に1つだけ残っていたそれがダンテにとってだけとても間の悪いことに
見事な青色をしていたのだ。
「・・・・・・・・。オイ待て。まさかよりによって残ったのがそれなのか?」
「?あぁ、サマエルにつけてもよかったけどダンテさんにピンクってのも最悪だろ?」
いやむしろダンテにすればそっちの方が笑い事で済んでいくらかマシなくらいだ。
そう思いつつ渋い顔をしたダンテはその因縁の青色をしたブツを睨みつける。
ジュンヤに悪気はないのだろうが確率11分の1でこれを残すとは
なんてクソガキだと腹が立つのを通り越してダンテはちょっと悲しくなった。
「・・・・・・・確認するがそりゃ本気の話か」
「だってせっかく用意したんだから使わないともったいないだろ」
そんな風に悪気がまったくないってのもある意味恐ろしいなと思いつつ
ダンテはちょっと考えるようにして上を見て、思い出したかのように口を開いた。
「なぁ少年」
「ん?」
「オレはさっきも言った通り、逃げ回るのは性に合わない。
が、それは時と場合と気分により全面撤回する!!」
などと言うなりダンテは突然見たこともない勢いで走り出し
かつてここで追いかけてきた時の倍くらいのスピードで見えなくなった。
「・・・・・え・・・ええぇえ!?
ちょ!こら!それが大人のすることかーー!?」
遠くで誰かの怒声とマハジオダインの音がする。
おそらく真っ先に見つけたトールがやっぱり攻撃を仕掛けたのだろう。
マズイ。一応は捕まえはしたが誤認防止を付けていないので
今誰に見つかっても同じノリで攻撃される可能性が特大だ。
ダンテの安全はどうでもいいが、ほっておくとここが潰れる。
『・・ヴゥ〜』
「わかってるよもう!だからなんでダンテさんは行く先々で問題起こすんだよ!」
言葉が通じないはずの幽鬼に返事をし、青いリボン片手にジュンヤは走り出す。
ゆっくり開くドアの隙間に滑り込み
どたどた走っているトールの背中を見つけて
どこからか聞こえてきたマザーハーロットの笑い声をBGMにジュンヤは走った。
最も苦労するはずのやつを楽につかまえたと思ったら
やっぱりいらない苦労をさせられるハメになろうとは。
しかし走る少年の顔は暗くもなくウンザリもしていなかった。
「だってもう慣れちゃったからな!」
そのかけ声のような台詞にストックでずっと行動を共にしていた幽鬼は
声を出さず、水色のリボンの付けられていた長い目を
微笑むようにちょっとだけ細めた。
それから後、たかだかリボン1つがイヤで逃げ回るダンテと
それがないために追っかけ回す仲魔との間でちょっとマジな追撃戦が発生し
普通なら傷1つつかないアマラの通路がボロボロになり
本来ここに出るはずの悪魔達がエストマもしないのに出現しなくなったらしい。
そしてあちこちを電気や氷や炎やらでボロボロにしたあげく
最終的にダンテはマザーハーロットとサマエルに通せんぼされ
上から落ちてきたブラックライダーに踏まれて捕獲されたとか。
「・・他の・・みんなは・・ともかくとして・・!
ダンテさんがからむと・・やっぱり疲れる・・!!」
「・・だったら!・・ここまでムキになるな!・・・このクソガキ!」
「ダンテさんが逃げるから仕方ないだろ・・!
大体逃げるのは性に合わないなんて・・かっこつけたのどこのどいつだ!」
「そもそもオマエがそんな物持って追いかけて来なけりゃ
オレが逃げる必要は一切ないんだよ!」
「そりゃ俺が昔ここで言うべきセリフだアホ!!」
「・・・(まだ上に居座りながら毎度毎度飽きないなぁと思ってる)」
そして青いリボンがどこに付けられたかはご想像におまかせします。
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