悪魔には色々な姿をした奴がいる。

人型、獣、鳥、蛇、馬、猿、モヤみたいなのや液体みたいなの
骸骨やハエ、ロボみたいなのもいればどう見ても人間なの
とにかくボルテクスの悪魔は悪魔と一口に言っても
とにかくいろんな奴がいる。

中には経験を積んでまったく違う姿になるものや
悪魔合体でしかその姿を現せない者もいる。

人修羅ジュンヤもその悪魔という分類の一種だ。
形としては人型。種族はマガタマの関係で時々変動するので
そう言った意味ではちょっと特殊な存在だ。

だがその姿は悪魔として最初に歩き出した時からほとんど変わらず
どれだけ強力な力をつけようとどれだけスキルが変化しようとも
その見た目は最初からほとんど変わってはいない。

その事でジュンヤには最近、少々思うところができていた。





じーーーー〜〜

と音が出そうなほどのしっかりした視線が
ストックから出されていた3体の悪魔達の間をうろうろと往復する。

元東京だった砂漠の中、歩き残しがないかそれぞれに散策していた
金の大天使と黒の魔人と赤の女帝が、それぞれにその視線を感じつつも
気づかぬふりをして周囲を見回している。

さて今日は何を言うつもりだろう。

乗っている黒馬のブラシがけをしようとでも言い出すか
浮いてばかりいると運動不足になるからたまには歩けとでも言い出すか
それとも赤い獣の尾に怖さ緩和のためにでっかいリボンでもつけようと言い出す気か。

この主は時々害はないが変な事を気にし出すので
それは仲魔内ではちょっとした楽しみというか興味の対象になっていたりする。

「何じゃ主。まぁーた何を楽しげな事を考えておるのじゃ?」

そうこうしているうちに我慢できなくなったのか
答えを聞く前から楽しそうなこと決定な問いかけを
マザーハーロットが地面をぼりぼり掘っていた獣の上から投げかける。

「・・え?いや俺別に・・」
「ホォーッホッホ!ウソを申すでないわ!
 先程から口数も少ない、思い詰めた目で人の背中ばかりジロジロ無言で見よる。
 それで何もないとでも言うつもりかえ?」
「う・・うーん・・」

ちらと残りの2体に目をやると
ミカエルもブラックライダーも同意のつもりか無言でこちらを見るばかり。

・・まぁいいか、別に隠すほどの事でもないしとジュンヤは話し出した。

「・・いや・・大した事じゃないんだけど・・ちょっと気になった事があって。
  なぁミカ、槍ちょっとだけ貸してくれないか?」
「?どうするつもりだ?」
「いいから」
「?」

少し怪訝そうにしながらも持っていた槍を渡すと
それは思ったより重く大きく、浮いているミカエルならまだ扱えるだろうが
地面に立っているジュンヤの身長でそれを振り回すことは出来ない。

ジュンヤは礼を言ってそれをミカエルに返し
今度は黙って事の成り行きを見ていた黒ずくめの騎士に向き直った。

「ブラック、ちょっと前に乗せてくれ」
「・・・・」

寡黙な騎士は何も聞かず黙って身体をずらし
馬を少し地面に近づけて引き上げてくれた。

だがそうして見るとわかるが馬の上というのは安定が悪く
あまり激しい動きや動作ができる場所ではない。

ジュンヤはまた礼を言ってそこから飛び降りると
今度は合計8つも視線がのっかっているマザーハーロットの方を・・

「・・や。やっぱそこはいいや」
「これ、わらわだけのけ者にするでない。もっと絡まぬか」
「わ!おいこら!」

ぎゃあがあ騒ぎ立てる獣にくわえられ
いつもマザーハーロットがいる前あたりへぽいと放り投げられる。

しかしそこは遠目から見ていてもわかっていたが
予想通りその場所は鱗や鬣があってとんがっていて
人の座る場所としては最悪だった。

「・・それで・・主は一体何を考えていたのだ?」

げっげっと意地悪そうに笑う獣から飛び降り尻をさする主人にミカエルがそう聞くと
ジュンヤは色々やってみた面々を見ながらこんな事を言った。

「・・・一応確認しておくけど、この中でレベル一番高いのって俺だよな」
「そうだが」
「でもみんなの方が俺よりはるかに外見的には強そうだよな」
「そ・・うなのか?」

一瞬同意しかかった言葉が疑問に変わる。

確かにストックに入れない分、ジュンヤのレベルはこの中の誰よりも高いが
しかしその反面外見だけは今も昔もまったくほとんど変化がない。

「だが強そう弱そうとかいう外見の問題はさておき
 攻守のバランスは我らの中で主が最も優れている」
「それはそうなんだけど・・俺ってひょっとして見た目って言うか
 外見で損してるんじゃないかって思ったんだ」
「?」

なんだそりゃとばかりに顔を見合わせる髑髏や天使に
人型の悪魔は自分の胸に手を当てさらに言った。

「俺、みんなと比較してもまったく強そうに見えないし・・ストックに入れないだろ?
 だからやたらと他の悪魔に目つけられたり襲われたりするんじゃないかな・・って」
「・・それは・・そうだが・・」

言われてみれば確かにとミカエルがいつもより数倍増しの難しい顔をする。

確かにジュンヤは悪魔としての外見的には弱そうだし
1人で歩いていたらこの厳しいボルテクスでは真っ先に襲われそうな外見だ。

だからといって自分達は戦闘で力を貸す事はできても
その弱そうな外見をどうにかできるものではない。

しかしそのささやかな不安をいつも通りにマザーハーロットは笑い飛ばした。

「ホォーッホッホッ!また何を言い出すかと思えば
 また無駄かつ愉快なことを言い出しおるわ」
「無駄って・・俺は結構気にしてる事なんだけどな。
 みんなはどんどん強そうになっていくのに、俺1人だけ取り残されてるみたいでさ」
「まぁ確かに見た目で損得をするという観点からすれば
 貧弱、カモりやすそう、闇夜で目立つ、尻から(ブブー)したいなどなど
 おぬしの外見はこのボルテクスで利点となる事など1つもないかも知れぬのう」
「・・・あの・・今最後に聞いちゃいけないような言葉どさくさで混ぜこまなかったか?」
「気のせいじゃ」

マザーハーロットは何事もなかったかのようにさらりと言うが
そうじゃない事は硬直してどすと直立不動のまま地面に落ちたミカエルでわかる。

しかしそんな事などまったく気にせず実はこの中では一番怖そうな女帝は
ゆらゆらと優雅に杯を揺らしながらさらに言った。

「しかしの主よ。そのおぬしのマイナスと思うておる素質がなければ
 わらわ達はここに存在せぬのじゃぞ?」
「へ?」
「何を呆けた返事をしておる。
 そもそもおぬし、わらわ達が何で構成されておるか忘れたのかえ?」
「あ・・」

そう言われてみれば。

やたらいろんな事に巻き込まれているうちは気がつかなかったが
こうして仲魔が増えたり合体で新しい仲魔ができたり
本来敵でしかなかった魔人などという特殊な種族と一緒にいたりと
そんなのは絡まれやすい体質がなければ出来なかった関係だ。

「確かにおぬしはあまり外見的には得はせぬじゃろうが
 ただ損というだけでは終わらせぬのもおぬしの特徴じゃて」
「・・そういうものなのかなぁ」

確かにかつての敵が味方になってくれるのも
仲魔が強くなってくれるのも嬉しいことだが
やはり外見的に置いてけぼりをくらうのはジュンヤ的にどうにもスッキリしない。

「なんじゃ、まだ得心いかぬか?では少々説明の仕方を変えてみるか」

と、そう言うなりマザーハーロットはどこからか一冊のスケッチブックを出し
手慣れた様子でそこに何かをさらさらと書くと
持っていたペンごとぽいとブラックライダーの方へそれを放り投げる。

それを受け取った騎士は空洞の目でそれをチラと見て
そこへ無言で何かを書き足し、今度はそれをミカエルの方へすっと差し出した。

受け取ったミカエルは最初なんだというような顔をしていたが
それを見るなりあからさまにという表情を浮かべ
それとジュンヤを交互に見てからしぶしぶそこにまた何かを書き足し
仕方なさげにジュンヤの方へ差し出してきた。

なんだよ、みんなして何書いたんだと思ってみると・・

書いてあったのは走り書きにしてはよく書けている自分

・・の手から枝分かれした獣の首
下半身は馬。
背中に翼。

「・・・・・・・・・・ゴメン。俺が悪かった」

ジュンヤはしばらくそれを凝視した後
半泣きみたいな声でそれをマザーハーロットに返した。

ミカエルが何か言いたそうな目で女帝を睨んだが
表情のわからない顔でおそらくにこにこしているだろう魔人は
『ほう、天使長は意外と線が荒いのじゃのう』などと言うだけだった。






「ト、言ウコトハ我ラモ主ニ不快感ヲ与エテイルコトニナルノカ?」
「は??」

休憩のソファにしていたケルベロスがそんな事を言い出したのは
あれからしばらくたってからの休憩時間でのこと。

ジュンヤは上を見てしばらく考え
ようやく何のことかを思い出し、ぽんと1つ手を打った。

「・・あぁ、ハーロットから聞いたんだな。
 でもそれは元人間だった俺の視点からしての話で
 別にみんなに全部不満をもってるわけじゃないって」
「ソウナノカ?」
「そうだ。だって確かにケルも俺より大きくて強そうだけど
 俺はそれを不満に思った事なんて一度もないし
 むしろこれくらい大きい方が包容力あっていいと思ってるくらいだしな」

ぎゅうと強すぎない程度の力で抱きつかれて
いつも鋭い金色の目が細まり、強力な爆炎を作り出す喉がぐるると鳴る。
それを聞いてジュンヤの足下で丸くなっていた布
・・いやマカミが首を持ち上げ、けっけっと首の裏をかいて呆れたような声を出した。

「マータ変ナコト気ニスルンダナオメェハ。
 大体生キ物ナンテノハミンナ可愛イノハ最初ダケデ
 大キクナルニツレテドイツモ勝手ニ可愛クナクナルモンダロガ」
「そうかなぁ・・」
「ホレ、思イ出シテミロヨ。オメェガ最初ニウロツイタ建物トカソウダッタロ」
「・・あ、そう言われてみれば」

そう言えば最初に出発した衛生病院やその周辺には
自分より小さい悪魔やあまり悪魔に見えない可愛い悪魔もいて
倒すのにもちょっとした罪悪感にかられたものだが
考えてみれば悪魔全書を思い出してみても
各種族の原種というのはそうそう迫力が・・

「ん?ちょっと待てよ?
 ・・マカミ、お前たしか元は魔獣だったよな」
「オウ」
「で、今は神獣だよな」
「ソウダゼ?」
「・・でもお前、その両方の種族内でどっちとも初期ランクの所にいなかったか?」

絵の具で描いたような顔がちょっとゆがんで、ふふんという含み笑いがもれた。

「ダカライッタロ。可愛イイノハ最初ダケダッテ」
「・・ったく、呆れたヤツだな」
「・・ソノワリニ性格ハマッタクモッテ可愛クナイガナ」
「イインダヨ。コレデオメェミタイナオ堅イおつむジャ釣リ合イガトレネェシナ。
 ソレヨカオメェコソ、ンナごつい図体ト中身ジャ愛想マクノモ難シインジャネエノカ?」

敬愛する主人の足に巻き付いてイヤな笑いをもらすマカミに
ケルベロスはヴ〜と低くうなって牙をむく。

「おいおいお前達、そんなアンバランスな犬同士でケン・・
いでぇ!?

などと見た目にはとても不釣り合いな犬二匹の仲裁に入ろうとした瞬間
騒ぎを聞きつけたのかそれともただ散歩にも飽きたのか
その辺をトリ歩きでウロウロして時々地面をつついていたフレスベルグが
ばささと飛んでき・・もとい、
どーんと全力でつっこんできた。

「ジュンヤジュンヤジュンヤー!おれもおれも!あそぶあそぶー!」
「遊んでない遊んでない!・・ってコラ引っかくな!いててて!」

などと平和にじゃれてはいてもやはり被害が一番大きいのは
物理耐性もなく身体をうまく変形させて逃げたりできないジュンヤだったりする。

「こらこらこらお前ら!元気がいいのはいい事だけど
 少しはその間にはさまってる俺のことも考えろ!」
「ンダヨ。サッキ不満ナイッテ言ッタノハオメェジャンカヨ」
「言ったけどそれとケンカとは別問題だ!ほらとにかくみんなちょっと離れる!」

そう言うと条件反射で姿形のバラバラな獣たちは
獣の特性かぴしと横一列になって待機状態になる。

それを見てきっちり躾しようと気合いを入れていたジュンヤの頬が少しゆるんだ。

「?・・ナンダ主。何カ我ラガ可笑シイカ?」
「・・いや、でもお前達はお前達で可愛いから
 今のままの方がいいなーとか思っただけだ」
「ナンデェ、ホンジャオメェ結局ドッチデモイインジャンカヨ」
「だから場合によりけりだって。
 少なくとも今の俺は今のお前達が大好き・・うわあ!」

その大好きというところで我慢できなくなったのか
ケルベロスが眉間にシワをよせたまま体当たり(甘えてるらしい)をしてきて
顔を一回だけ思いっきりなめられた。

「ジュンヤジュンヤ!おれもおれも!」
「うわよせ!ストップストップ!いっぺんに来る・・
 うわ!こらマカミ!変なとこ触るな!ぷははは!」

しかし大きくなっても可愛いのはいい事なのだが
その形や図体で、しかも複数で甘えてくるのはどうかと
姿形のバラバラな連中と団子になったジュンヤは思った。





で!それを別としてもなんか納得いかないのが
 お前らだーー!!

おわぁあ?!なんだなんだ何事かーー!?!

まったく身に覚えのない事で怒鳴られつつ後ろからいきなり飛びつかれたトールは
ワケも分からず背中にジュンヤをぶら下げたままそこら中をドタドタ走る。

たまたま外に出していたピシャーチャが
『何?何?どうしたの』とオロオロ手をさまよわせて目だけでそれを追いかけ
サマエルがさらにそれを見つついくつもある青い目を細めた。

「・・あの・・ジュンヤ様、何がどのようにして納得がいかないのか
 順を追って説明していただかないと、私どもとしても対処できないのですが」

かっ  
ズシーーン!!

と言ったところで何もない所でけつまづいたトールが豪快な音を立てて倒れ
ピシャーチャが大きな身体でひゃあとのけぞる。

そうしてその背中に乗ったままのジュンヤは
どこかふて腐れたような声でこんな事を言い出した。

「・・もうストックのみんなから聞いてるかも知れないけど、俺はいま見た目の事で
 色々悩んだり納得したり和んだりやっぱり腹が立ったりしてる」
「はぁ」

もしかしてパニックなのかなという確認のつもりでウロウロ首を伸ばしつつ
サマエルはとっても気のない返事を返す。

「俺が見た目に弱そうなのは仕方ないとして
 そんでみんなが見た目通りに強いのもよしとしても
 強そうでかわいいってのもまぁよしとしてでも
 何だかお前達だけは納得がいかない」
「??」

詳しく説明されてもやっぱり意味が分からず
サマエルは本気で小首をかしげ、ついでに出していた舌も引っこめた。

「ひときわでっかいのとごっついのと怖そうなのが
 神経弱いし電気に弱いし火に弱かったり攻撃力に乏しかったり
 武人らしいかと思えば気が弱いし、紳士的かと思えば毒舌だし
 人くらいのサイズだと思ってたら見上げんばかりのロングサイズだったり!!
 
あてつけか!?それは小さいくせに攻撃力あって顔からビームが出て
 マガタマ次第でなんでもかんでも無効化する俺に対する
あてつけかーー!?
うぉおお!?待て!主!ノーノー!ギブアップ!
 ロープ!タオル!場ー外ーー!!

やけっぱち気味にむぎーとツノを引っぱられ
トールが思いつくかぎりの降参言葉を並べてだしだしと地面を叩く。

それはとてもマントラ軍で2番目をやっていた悪魔には見えないが
トールと同じく2番目だった大きな蛇はポリポリと翼についた爪で頭をかき
とりあえず推測を質問として口に出してみることにした。

「えぇと・・つまり、今ここにいる我々の能力と見た目が
 うまく比例していない事に苛立っておられるのですか?」

その途端ジュンヤの動きがぴたりと止まる。
と言うことはそれで正解らしい。

しかし考えてみれば仲魔達の中で一際大きな自分達は
他の仲魔に比べるとスキルや能力的にはちょっと微妙な部分がある。

しかしこういった微妙なスキルを持つように仕立てた・・
いや妥協したのはその本人なのだし
ピシャーチャにいたっては元からそんな体質なのだし
そんなことを今頃になってガタガタ言われも困のだが・・。

さてどう言いくるめ・・もとい説得しようかとサマエルが考えていると
今までオロオロしていたピシャーチャがのっそり動き
つんつんと大きな手でジュンヤをつついて。

「・・ウオヴ」

ごめんねというつもりなのか、巨大な身体をゆっくり前に折った。

ジュンヤはそれとサマエルと下敷きにしていたトールの間で視線を往復させ
はぁと息を1つついて頭をかいた。

「・・・そうだよな。よく考えてみればその図体と中身が釣り合ってたら
 俺・・真っ先に喰われてるよな」

おお、それが最も適切だとサマエルは素直に感心する。

ピシャーチャはダンテと同じく悪魔合体を経由せず
しかもアマラ深界で購入されたというちょっと特殊な悪魔だが
その凶悪な姿に似合わず戦闘にあまり向かないせいか
それとも売られていたという特殊な環境下にいたせいか
こういった時の対応は言葉が話せないのに妙に上手い。

とにかく冷静になったジュンヤはようやくトールから降り
寄ってきたピシャーチャの目を1つ撫でてやった。

「ごめんな。ちょっと色々考えてるうちに混乱したっていうか疲れてたっていうか・・
 変なことに気がつくとなかなかスッキリしないっていうか・・
 ・・えーと・・それとトール。俺クマじゃないんだから死んだふりしなくていい」

その途端、地面と同化しようとしてがんばっていた鬼神がむくと顔を上げる。

直後サマエルがぷすと変な声を出したが
おそらくそのずっこけてぶった顔が面白かったからだろう。

「えーと・・トールもごめん。それとサマエルもごめんな。
 よく考えれば元々みんなを作ったのは俺なのに
 その俺がみんなに不満をもらしたりして・・」
「いえ・・確かに私どもも完璧ではありませんので多少の不備は存在します。
 ご不満に思う箇所があれば・・遠慮なくお申し付け下さい」
「・・・サマエル殿、それはともかくとしておいて
 目をチラチラをそむけつつ小刻みに震えるのはどうにかなりませぬか?」

などとやっている横から言葉は話せないけど気の利く幽鬼が
『とりあえずそのヒゲみたいに顔面で絡まった髪なおそうよ』と
大きな手をおずおずと差し出してきた。






「・・と、みんなの事で納得はしても、なーんか釈然としない事が多いんですよね。
 フトミミさんと並んでてさえ俺の方が弱そうに見えるし・・」

アサクサの地下街のとある一室で
アイテムの整理をしつつもらしたジュンヤの言葉に
彼のスニーカーを器用に縫って修理していた鬼神は
手を止めないままに笑みをもらした。

「うん、確かに君はあまり外見で威嚇するには向いていないし
 余計な苦労をしているというのも否定できないな」
「・・ですよね」
「しかし君のもう一つの名は人修羅というのだし
 人は苦労を重ねてこそ大きくなれるのだから
 あまり外見の事は気にしなくてもいいのではないかな」
「そう言うもんですか?」

と、どこか腑に落ちない顔をするジュンヤに
フトミミはいつもの笑みを向け、ぎっぎと糸を引き絞って仕上げをすると
元人であり擬人であり今は立派な悪魔でもある
実はジュンヤよりも複雑な経緯を持つ鬼神は
少し真面目な目をしてこんな事を話し出した。

「それに思い出してみなさい。
 君の知る友人達は力を得て姿を変えてはいるが
 彼らはその姿を変えるのと同時に、その心も変えてしまっている」
「あ・・」

言われてみれば確かに。
仲のよかったはずの友達は元は自分と同じ心をもつ人であったはずなのに
いつしかその外見と共に内面も姿を変え
最後にはどれも自分の知らないような何者かになっていた。

「確かに君はこの世界からすれば人と悪魔
 その両方に取り残されたような存在に見えるかも知れない。
 けれど君がその状態からあまり変わらず、ずっと人に近い外見のままでいるのは
 君の本質的なところが人のままでいるためだと、私は思うよ」

そう言って修理された靴を手渡されたジュンヤは
ふとその自分の手と裸足だった足に視線を落とす。

洗ってもけして落ちない変な模様のついた手も足も
最初にこの世界で目を覚ました時からほとんど何も変わっていない。

だがそれは言い換えると
その手はどれだけの血にまみれ、どれだけの屍を積み上げたとしても
その形が元の人のままで変わらないからこそ
自分もまだ人の心を持っていられるのかもしれない。

「それに君は弱そうに見えるかも知れないが
 どんなに強くて巨大な悪魔を目の前にしたとしても
 いつも目をそらさず真っ直ぐ立っているじゃないか」
「そ・・そうですか?」
「そうだよ。君に自覚はないだろうけど
 そこの奇人変人と最初に会った時もそうだったろう」
「オイコラ。なに人をさらっと変人扱いしてる」

同じ部屋で銃の手入れをしていた元奇人変人
・・もとい赤いコートの魔人がびしとカラの弾をはじいて攻撃してくる。
フトミミはそれを難なく受け止め、ついでに指2本だけでひねり潰したが
ジュンヤは靴をはきつつ見なかった事にしておいた。

「まぁとにかくそれはそう高槻が気にすることではないよ。
 それは君が今まで従えてきた悪魔達に聞けば
 みな口をそろえて私と同じような事を言うだろうし
 何よりそんな不満があるなら命令を聞き入れたり召還に応じたりはしないだろう」
「・・・・」

そう言えばそうかと思ってジュンヤは頭をかく。
考えてみればフトミミだってダンテだって同じ姿の変わらない人型なんだし
何もそんなのは自分1人で悩むことではないはずだ。

「納得したかい?」
「・・えと・・まぁ・・はい」
「オレへの悪口はスルーか鬼マゲ」
「なんなら存在自体もスルーしてあげてもいいが」
「・・・・・・・」
「・・・あのぅ・・・まっこと申し訳ないんですが
 ケンカをするならメンタルじゃない方向でお願いできませんでしょうか?」

なんか怖くなってきたジュンヤの一言で
その恐ろしげなケンカは無言のままで終了した。

「・・しかしオマエもそうやって年相応にそんな事を気にするんだな、少年」
「・・・・・悪いか?」
「いいや?世間の常識からすればそれで普通だから悪いとは言わないさ」
「じゃあ・・ダンテさんも俺くらいの歳の時、こんな事で悩んだことがあるのか?」
「あるわけないだろう。オレはいつでもどこでもどんな瞬間でも
 誰の追随も許さないクールでスタイリッシュな男だからな」
「・・・・・」

一瞬わいた興味の念は一瞬で四散させられ
どうしようかとフトミミの方に目をやると
『その人は頭の中も普通じゃないから真面目に聞いちゃいけません』
と言わんばかりのにこやかな視線で返された。

「だがな少年、そんな事を気にする以前に
 オマエにはオマエにしかない、いい所が結構あるんだぜ?」
「え?」

しかしそんな後にいきなり意外な事を言われ、ジュンヤは目を丸くする。
そしてあまり他人を誉めないダンテは笑って
1つ1つ指をさしつつ、こう説明してくれた。

「まずその男のくせにやたら細くて後ろから押し倒したくなる背中だろ?
 悪魔と素手で殴り合えるくせにちょっと掴めばすぐ折れちまいそうな細腕だろ?
 何よりそのたった布きれ1枚・・いや2枚か?
 とにかく特にこれといった特徴もないくせに
 エロ本の袋とじみたいに色気と興味をかき立てるその尻・・」



ロッカーフルスイング

 そこら辺にある何の変哲もないロッカーを
 スイングの要領で相手の顔ないし頭に叩きつける人外技。
 直撃すると音が派手で使用後のロッカーも派手に凹む。
 場合によって相手も精神的に凹む。







「・・・前々から言おうと思っていたんだが・・・
 別に命をかけてまで彼をからかう必要はどこにもないと
 私的には思うんだがどうだろうか」

死んでないかの確認のつもりか落ちているダンテを棒でつつきつつ
フトミミは忠告のような疑問のような皮肉のような
なんだかとても複雑な言葉をかけてくる。

ダンテはくの字どころかの字曲がったロッカーをべこんと顔からどかし
ごろりと仰向けに転がり直してごそごそと出した魔石を口に放り込んた。

「・・・からかう?違うな。大人の愛ある嫌がらせって言うんだよ」
「・・どっちなんだそれは?」
「それはアイツの取り方次第だな」
「・・いいのか悪いのかわからない大人だな君も」
「人の事言えた義理か」
「ははは。・・けれど高槻がそうやって思い切りぶつかっていける君は
 私たちの中では貴重な存在だと思うよ」

しかし珍しくこちらを立ててくれたようなその言い方を
むくりと起きあがって首をごきごき鳴らすダンテは真っ向から受け取らなかった。


「・・・アイツが攻撃する寸前に攻撃強化のスキル使っといてか?」

「おやバレた」













なんとなく書いた見た目の話。
なんか後になるにつれてどいつもこいつも巨大になっていきやがるのよ。
さてこうやって書いた中で最もギャップの激しいヤツは誰だ。

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