よく晴れた青空の下広い平原の上を
ある不思議な組み合わせが歩いている。
白い馬とその手綱を引いてゆっくり歩く鎧の騎士。
その手を握って少し忙しそうに歩く子供。
その隣には腰に斧を下げたかなり体格のいい男がのんびりついて来ていた。
一見して何の関連性もないこの組み合わせ。
これでもこの土地に来てから増援対処に編成された立派な軍なのだ。
隊長は機動力と統率力の高い聖騎士アラン。
部下はなぜかクラスチェンジもしないのに尋常ならざる強さになった戦士バーツと
同じく普段は普通の子供だが変身後は攻撃の要になるチキ。
本隊は別に敵本隊と交戦中で、三人はそれとは別に敵増援にそなえるため
本隊から離れた場所を少しづつ警戒しながら進んでいる真っ最中。
ちなみに機動力はアランが一番長けているのだが
チキの歩みが遅くて置いて行くには危険なため馬を降りて手を引いていた。
「・・に、してもだだっぴろいっすねえ」
何もない平原をたった三人で歩いているのが退屈になったのか
それとも長い沈黙に耐えきれなくなったのか
斧を持つ体格の良い男バーツがどこまでも青い空を見上げ額に手をかざし
大きくのびをしながら、前を歩いていたアランに声をかけた。
しかしそれにアランはすぐ反応せず
かわりに袖をつかんでいたチキが振り返った。
「バーツおにいちゃんつかれちゃったの?」
「はは、まさか。チキだって疲れてないのに俺がバテてどうすんだ。
ただちょっとあんまり広い所をこんな人数で歩いてるもんだから
ちょっとばかり心細くなっただけさ」
言いながら自分の半分もない高さにある頭をぽんと軽くはたくと
黙っていたアランが遠くを見るようにぽつりと一言。
「・・・お前の口から心細いなんて言葉が出るんだな」
何もないのにバーツがコケっとけつまづいた。
「・・・あのね、俺をなんだと思ってるんすか」
苦虫をつぶしたような顔をするバーツにアランは少し考えて。
「・・・オグマの部下で通称青い死神、首ちょんぱの青鬼
脳天カチ割り勇者殺しというのもあったな。他には・・・」
「いい!いい!もういいです縁起悪!!」
指折り数えるように平然かつ無表情に口から出てくる物騒な通り名をさえぎると
そこでようやくアランが振り返り、ちょっと間を空けた後。
「・・・冗談だ」
くるりと振り返った顔は、いつも通り血色の悪い真顔。
「・・・・、・・・・すんません。アランさんが言うと全部冗談に聞こえません」
げんなりした様子のバーツに
アランの変わりにチキが笑い声を立てた。
「バーツのおにいちゃんやっぱりつかれてる」
「・・・いや体力的にはなんともないんだがな」
クソ真面目な人に急に冗談をふられるとリアクションに困るんだよ。
と、百戦錬磨の戦士は口には出さず、心の中でのみつぶやく。
バーツとしては行軍暦は軍の中ではそれなりに長い部類なのだが
途中入隊したアランとの付き合いは長いわけではない。
しかも今まで最前線で戦ってきたため
こうして小人数で別行動するなど初めてなわけで・・。
まぁチキがなついてる所悪い人じゃないんだろうが
愛想いいわけでもないし、無口だし、いつも難しい顔してなんか顔色悪いし
・・・でも・・・まぁ冗談くらいは言うんだよな。
笑えないけど。
「・・・ーツ、バーツ?聞いているのか?」
「・・え!?はい!なんすか!?」
あれこれ考え事をしていて呼ばれたのに気がつかなかったのか
バーツは慌ててだらしなく耳をほじっていた手を背後に隠す。
「見通しはいいが気を抜かない方がいい。
数にものを言わせられるとこちらが不利になる」
「あ、すいません、ちょっとぼーっとしてて・・」
素直に頭を下げるとアランがほんの少し怪訝そうな顔をした。
「私は新参者なのだから、そう卑屈になる事などないだろう」
「え?そうですか?でもオグマ隊長には初心を忘れるなって言われてるんで・・・
・・・あ、気になるんなら直しますけど?」
アランはちょっと意外そう目を瞬いて
「・・・いや」
短く返して少し笑った・・・ように見えた。
ただの気のせいかもしれないほどわずかな変化だったが
袖を掴んでいたチキがにこにこしている所を見ると、笑ったんだろう。
多分。
おそらく。
つーかこの人笑える・・のかなぁ・・・。
「・・・バーツ?」
「わっ!
は・はい!なんすか?!」
「大丈夫か?気分でも悪いのか?」
考え事をしていて上の空になりぎみなバーツを
なにやら本気で心配しはじめたアラン。
バーツは慌てて不自然なひきつり笑いを作って手を左右に振りまくった。
「いえいえいえ!滅相もない!気のせいでござりまんがな!」
「・・・語尾がおかしいが」
「バーツおにいちゃんやっぱ・・」
「・・・だから!
」
・・・・・・。
「・・・・・いや、今ちょっと疲れた・・・」
あまりついた事のないため息をもらすとチキがはいと傷薬を差し出してきた。
平気だと笑って頭を撫でてやり、自嘲ぎみに自分で頭をこつんと叩く。
やれやれ、斧ばっか振り回して暴れてたら人付き合いが悪くなってたってわけか。
・・・いけねえいけねえ、これじゃホントに死神になっちまうなぁ。
そんな事を考えていると少し間をあけた後
思い出したようにアランがぽつりともらした。
「・・・前線を離されたのが気になるか?」
「・・・へ?」
どうやら考えていた事が顔に出てそれが別の解釈をされたらしい。
もう何度目かになる間抜けな声に、アランは笑うこともなくあきれるでもなく
静かな目を向けてきていた。
「お前は一軍のエースだったのだろう。
突然前線から外され別働隊に配属されて不満はないのか?」
あまり表情に変化のないアランだが、その時の表情にわずかな違和感があり
バーツは少し首をかしげながら歩調を落とす。
頭の中を整理して質問の答えを探したバーツは
少し間を置いてなんだそんな事かと言わんばかりに笑ってこう答えた。
「はは!何言ってるんですか前線だろうとこんな地味な偵察も
れっきとした任務じゃないですか」
アランの目が少し驚いたように開くが
バーツは気付かず片手でジェスチャーをまじえながらさらに続けた。
「一軍だろうが二軍だろうが、強くても弱くても、俺ら立派な一個人なんですよ。
俺もアランさんもチキだってそう。そいつに代わる奴なんていやしなんですから」
そう言って分厚い胸をどんと一つ叩く。
「どんな任務だって自分のできる事をきっちりするまでですよ。
俺は俺のできる事を。アランさんはアランさんのできる事を。
チキはチキのできる事をがんばればいいってな。なーチキ」
「なー」
よくわかっていないのだろうがチキが無邪気に同意するが
バーツは少ししてはたと笑うのをやめて・・
「・・・あ、俺プライドないですかね?」
と突然自分の発言に疑問を感じたのか急に情けない顔になった。
しかしアランはしばらく凝視した後
「・・・いや、参考になった。ありがとう」
そう言って今度は確かに微笑み
いろんな意味でバーツの目を白黒させた。
「・・う?・・え?俺なんか礼言われるようなこと言いました?」
「言った」
「どこらへんが?」
「言ってやらん」
「えー!?なんですかそれ!?よけい気になる物言い!」
「気にするな」
「そう言われるのが一番逆効果!!」
いつのまにかしっかり会話をしている二人。
それをきょろきょろ見回していたチキがなにやら言いたそうに両方の手を引き
「チキも」
と言った。
なんだかよくわからないけど仲間に入れてほしいらしい。
「よし!じゃあチキは俺側な!
何に対してありがとうなのか、教えて下さいって言うぞ!」
「?・・ださいだ?」
「ちがうって、んーと教えて下さい」
「おしえてください」
「そうだ、それを・・・ってあ!逃げた!」
身をかがめて変な事を吹き込んでいる間
アランはいつのまにか騎乗して前を走っていた。
「にゃろう逃がすか!チキ乗れ!」
「うん」
もはや偵察任務などころっと忘れ、バーツはチキを肩車して全速力で走り出す。
「待って下さいよアランさん!!言い逃げなんてずりい!!」
「ずりいー」
そんな声を聞きながらアランは馬を止める事はなく
それでも追いかけてくる二人から距離があかないように保ちながら馬を走らせた。
その表情がいつになく柔らかいものであったのに
彼の上にある青空以外、気付くものは誰もいない。
なんとなくアラン組。
どこかのマップで結成されたアラン組。
誰も使ってなかろうマイナーバーツが出張ったアラン組。
書けて満足。
以上、自己満足劇場でした