それは山の中に急に現れる意味ありげな丸い荒地で
地図上でも非常に目立つ形をしていた
何があるのか興味はあるが、そこへ行くまでの間にはゴブリンの集落があり
出歩けば必ず襲撃されるため、わざわざ行きたがる者もあまりいない。

だが好奇心旺盛な冒険者は例外だ。
ゴブリンの数は多いが比較的弱いモンスターなので
それなりに力のあるパーティーなら問題なく通ることができるだろう。

だが最大の問題はそのゴブリンの道をぬけた先。
地図上で丸くくりぬかれたようなある場所にある。
クロン大陸に数いる冒険者でもこの中心部にたどり着いて無事でいられたものは
今現在、たった五人しかいない。


過去の戦いにおいて窪んだ危険地帯。
その土地の名をゼロポイントと言った。




だーー!!うっとおしい!!
 弱いくせに次から次へと学習能力ねぇ連中だな!!」

フレイラーが最後のゴブリンを切り倒し、愛用の大型のフランベルジュを
がつ!と地面に突き立て、心底いら立ったように吐き捨てる。

周囲には彼のいら立ちの原因たるゴブリンの死体が
山になりそうなほど落ちていて少し異様な光景をかもしだしていた。

「この程度ならば何も問題はござらん。問題はあの領域の先にあるゆえに
 怒りはそちらにぶつけられるとよかろう」
「ちっ・・・」

ナカザワの言葉にフレイラーはちょっとだけ冷静さを取り戻し
いら立ちを太い腕にこめてがっちと組んだ。

「ごめんねフーちゃん魔法節約中で」

自分の身長半分くらいのサディナが少ししょげたように見上げてくる。
普段ならゴブリンぐらいなら彼女の砂塵の魔法一発でカタがついてしまうのだが
この先にあるものには彼女の魔力が必要不可欠なので
無駄な魔力消費をさけるため、ゴブリンは肉弾戦でのみの撃破になったのだ。

「・・・いいって別に。お前の魔法ないとあそこは致命的だからな」
「わかっているなら怒鳴るだけ無駄だろう。
 貴様もゴブリンの事を言えた学習能力か?」

アルリカの何気ない一言に巨漢の騎士の顔色が変わった。

「ってめえなぁ!!」
「はいはい、ケンカしない」

いつものように止めに入るのはリーダーエイリスの役目だった。

ちなみにパーティーの男子はリーダーに頭が上がらない。
フレイラーもナカザワもエイリスに命を助けられた恩があり
なおかつ普段おっとりしていてもいざと言う時の決断力と行動力は
まさにリーダーと呼ぶにふさわしいからだ。

「ナカザワさんの言う通り、元気はゼロポイントまで取っておいてください。
 大事なのは戦いに勝つ事。なにより生き残る事。単純ですが大事な事ですから」
「・・・うぃーす」

納得いかなそうな目をしながらもおとなしくなる巨体は
まるでしかられる荒くれ生徒と保健教師の図である。

そんなやりとりをする横で黙っていたナカザワがためらいがちに挙手した。

「・・・少しよろしいか?」
「はい、ナカザワさん」
「これから我らの向かうゼロポイントには
 まず進入を妨げるためのバリアを通らねばなりますまい」
「そうですね」
「その次に足を踏み入れた時、放射能が身体をむしばむ・・・と表示されるのでござるが」
「はい、その直後エレメンタルとの戦闘で大変ですね。・・・それが何か?」
「・・・前々から思っていたのでござるが・・・拙者の記憶違いでなければ
 放射能というのは人体に悪影響を与え後遺症も残るものと
 どこかで聞いたのだが・・・まことでござるか?」

ゴブリンからジェムとゴールドを回収していたサディナの肩が
ぴくっと動いて動揺した。

「・・・悪影響ってなんだよ」
「拙者もあまり詳しくは知らぬが・・・髪が抜け落ちたり寿命が縮んだりするとか」
「マジか!?」
「あぁ、その話なら私も耳にした事がある」

魔力の封じられた剣を鞘におさめていたアルリカが口を開く。

「使い方によっては国一つを死滅させ、神を冒涜する邪悪なものだと聞いた。
 ・・・とはいえ、あくまでただの噂話にすぎんがな」
「ちょっと待てお前ら!!なんでそんな大事な事
 知ってて今まで言わなかったんだよ!?」

ナカザワとアルリカは顔を見合わせた。

「・・・何分真実味のない話である上に拙者達が今まで何事もなかったので
 話してもいたしかたないかと思った次第で」
「実害例がないので私は信じないからだ」
「ッかーー!!この冷血漢ども!てめぇらの血は何色だ!?」
「何言ってるのさフーちゃん。
 今までさんざん行ってるのに今さら心配してもしょーがないでしょ」

様子からしてサディナも知っていたらしい。
そう言えばこのノームは古代語の解読もするほどなのだから
知っていても何の不思議もない。

「え!?お前も知ってたのか!?」
「うんゴメン」

あっけらかんとした態度に謝罪感はゼロだった。

「って・・・リーダー!まさかリーダーまで知ってたのか!?」

一人大騒ぎするフレイラーに荷物を整理していたエイリスが
手を止めて静かに微笑む。

「いいえ?私は初耳ですよ」
「え?そうなのか?」
「嘘をついてもしかたありませんが」
「え・・いやしかし・・・けどよ、どうするリーダー?
 なんかこいつらの話が本当だったらゼロポイントってのは
 そこそこ身体に悪い危険な場所なんだろ?」
「あら、そんな事ですか」

大した事でもなさそうにエイリスは笑って
バックパックから何かを出して全員に配る。

「はい、みんな一つづつ。これがあれば万事大丈夫です」

それはパーティーの必需品、全員の体力を中回復させるしっぷやくだった。

この世界、確かにこれがあれば即死しないかぎり死ぬ事はない。
だがいかに放射能の知識がない世界でも、しっぷやくで放射能に対抗するなど
考える奴もちょっとなんなのだが・・・。

「・・・確かにこれがあれば手前のバリアもエレメンタルの集団もしのげるけどよ
 でも・・・寿命が縮むって話はどうするんだ?」
「サラキン洞窟の若返りの泉があるじゃないですか」

間違っているのかいないのか、リーダーの打開策はどれも微妙だ。
しかしそれは怪力と反比例した知能を持ち合わせるフレイラーには
ちょうどよい案だった。

「しっぷで回復して泉で寿命は縮まないから後遺症なし。
 昔の戦いにはなかった事を私達はできるのですから問題ありません」
「・・・なるほど、さすがリーダーぬかりねぇな」
「はい。到達するまでに少し苦労しますが、苦労につりあうだけの報酬はあります。
 がんばってくださいねフレイラー」
「おうよ!!」


さすが戦闘専門職。男女例外なく馬鹿なのか。


しっぷやくを握り締め活気付く騎士二人を見ながらアルリカは変な納得をした。

「ナカザワ、忍びのお前はどう思う?」
「・・・拙者、経過はどうあれ主の命に従うまででござる」
「アルリカちゃんは別に平気なの?」
「エレメンタルから得られる膨大な経験値には魅力があるのでな。
 それに私は根拠も実例もない話は信じないことにしている」
「ふーん」

などと適当なあいづちをうつパーティーで最も博識なサディナも
ゼロポイントの危険性を前々から一番知っていた。

知っていて黙っていたのは彼女が自分がパーティー唯一のノームであり
人間の常識は通用しないもーん、と能天気にたかをくくっている事が一つと
ゼロポイントで見つけた超強力古代魔法を思い切り使いたいのがポイントだった。



そんなこんなで、それぞれの思惑をもつ冒険者達は
今日も放射能で骨まで焼かれ、それをしっぷで回復しつつエレメンタルと戦い
膨大な経験値を得てレベルを上げる。

この後、放射能危険地帯ゼロポイントを
しっぷで乗りきる非常識・・・もといタフな冒険者達は
このポイントとサラキンの泉を往復し、やがて竜の王や死神をも倒し
クロンを救う事ができるまでに成長したとか。



冒険者よ、タフであれ。








自己満足シリーズU。
物騒な場所ですが倒した敵の経験値はメタルキング以上。
ゼロポイントを制する者はこのゲームを制します。
即死攻撃例外で。


だいたい集団即死攻撃なんてされたら強さの意味なんて(以下略)・・・