それはダンテが観光に来て・・・
というか純矢の家に居着くようになってから
それなりの日数が経過したある日のこと。
「・・いや気持ちはわかるが、オレにだって事情ってものが・・
あ、おい待て待て待て切るな。いいからもうちょっとオレの話を・・」
夕食後にいきなり電話を貸してくれをと言うものだから
家にあった今では珍しいダイヤル式の黒電話を貸すと
ダンテは気にもせず慣れた様子でダイヤルを回し
さっきから誰かと何やら込み入った話を続けている。
純矢はそれをテレビを見つつ時々ながめていた。
一体誰となんの話をしているのか
ダンテは珍しく困った様子で話している相手のご機嫌と
地味で懸命な格闘をしている。
「だからもう少し待て。そんな今すぐチケットも取れないし
今日とか明日とかなんて無理に決まっ・・ぅぐっ!?」
受話器の向こうの相手が怒鳴りでもしたのかダンテが慌てて耳を押さえた。
それは純矢のところにまで聞こえるほどの大声で
何を言ったのかまではわからなかったが
声からしてどうやら相手は女の人らしい。
ダンテは耳を押さえつつ、再度受話器に向かって何か言おうとしたが・・
「・・・切りやがった」
どうやら交渉は失敗したようだ。
盛大なため息をつきながらダンテは受話器を戻し
疲れたように純矢の正面に座り込む。
「・・何?彼女?」
「・・違う。前に話した店番を頼んだ女だ。
オレがいない間にゴミが増殖して迷惑してるから
さっさと帰ってきて掃除しやがれ、だとさ」
「・・・ダンテさんの店ってそんなに汚いのか?」
ダンテはちゃぶ台にのっていたピーナツをつまみながら顔をしかめた。
「・・・あのな、ゴミってのはオレの周辺に出る悪魔の事だ。
オレの今まで狩ってきた悪魔ってのはオマエらとは違って
放っておけば勝手に増えるし、どこからでも沸くし
知能はないくせに数だけは多くて人の都合はおかまいなし
そりゃあもうヘドが出るほど・・」
「まぁつまり、ダンテさんの性格がそんな見事にねじ曲がるくらい
タチの悪い生き物なんだ」
「・・間違ってないがその物言いはちょっとムカツクぞ少年」
「でもその人が困ってるなら早く帰った方がいいんじゃないか?
帰国予定はいつって言ったんだよ」
「そのうちだ」
メモを取ろうと立ち上がりかけていた純矢がずっこける。
「こら!そんないい加減な事言って出てきたら怒られるに決まってるだろ!」
「いられるだけいて適当に帰ろうと思ってたんだよ」
「・・そんな無計画でよくここまでたどり着けたね」
「オマエに会えばどうとでもなる」
「えばんな」
すっぱり斬り捨て、さっきまでダンテが使っていた受話器を取ると
純矢はサマエルに連絡を入れた。
「あ、サマエル?今から航空チケット取ってくれるかな。
・・うん、できるだけ早いやつ。・・ダンテさん!どこ行き?」
「・・オレは家出してきたガキかよ」
多少ムッとしつつもダンテが行き先を言うと
純矢はさらに何度か言葉を交わし受話器を置いた。
「出来るだけ早いチケット取ってくれるってさ」
「まさか鼻血が出るほどの速さでぶっ飛ぶ戦闘機とか
ミサイルにくくりつけて飛ばす方法なんて取らないだろうな」
「サイバースは軍事関係の事はしてないから大丈夫・・・だと思う」
「・・・・・わかった。ハイジャックして帰る」
「冗談だって。ちゃんと割安の飛行機とってくれるってさ」
この男、いりもしないのにいつもの銃2つと大きな剣を
銃刀法厳しい日本に持ち込んでいるのだからそれくらいは平気でやらかしそうだ。
「でも今からだと明日一日あけて
その次の日の朝か昼の便になるかもしれないって」
「・・そうか」
つまり純矢のそばにいる期限は明日明後日まで。
そう思うと今までなんとなくすごした日々が軽く見え
それと同時に明日一日が急に重たく感じられ、ダンテは黙り込んだ。
「おみやげとか荷物の整理は?」
「・・いや全然」
「直前になってバタバタしないように今からちゃんと整理しといた方がいいよ。
かさばるならフトミミさんに頼んでまとめて送ってもらうから
送る物とそうじゃない物とかも分けておいた方が・・」
そこでふと、純矢はダンテがちょっと沈んでいるのに気がついた。
「あのさ、別にそんな顔しなくても永久にお別れになるわけじゃないんだから。
明日は盛大に・・とまではいかないけど
何か悔いの残らないもの食べさせてあげるよ」
「・・・そんな都合のいい食い物があるのか?」
「あるよ。でもそれは明日のお楽しみ。
でも俺は明日学校があるから夕方になってからだ」
どこか楽しそうにそう言って、純矢は台所の方へ走っていった。
おそらくその食べ物、ダンテにとっては最後の晩餐なる夕食について
ブラックライダーと相談するのだろう。
1人残されたダンテは広い部屋でしばらく
純矢の走っていった方向をぼんやり眺めていた。
まさか未練のご本人に叩き返されるハメになろうとは
なんだかちょっとやりきれない気分だ。
「・・オウ。帰ルンダッテ?」
しかしいくらもしないうちに隣の部屋からマカミがふんわり飛んでくる。
おそらく盗み聞きでもしたのだろう。
ダンテの向かいにひょろりと降りて、上半身をべにゃりとちゃぶ台にのせた。
「・・・オレの意見も聞かずに勝手に決められた。明後日だとさ」
「ウォ、ソレマタヒデェ上ニツレネェ話ダナオイ」
ダンテは黙って肘鉄を落とそうとしたが、マカミは予想していて言ったらしく
平たい上半身は肘とちゃぶ台に挟まれる前にさっと横へずれた。
「デモ今スグ帰レトカ言ワレルヨカましナ話ダロ」
「・・馬鹿言え。一日もあったら余計に未練がたまるだろうが」
「フーン、ソンデ?オメエハ一体ドウスルツモリダ?」
ダンテは真剣な顔をしつつピーナツを1つ取り
マカミの鼻先にそーっと置いた。
「勝負は明日から・・」
言いながらもう一つ。
「大人としては未練がましい事はしたくないが・・」
さらにもう一個。
「アイツは色々と例外が多すぎて・・」
そして次に取ったピーナツは
「オレとしたことが少々参ってる」
びしと指に弾かれ宙を舞い、それはマカミの鼻先に来た瞬間
3つ置かれたピーナツもろともしゅばっと開かれた平たい口の中に消えた。
これはダンテが開発した鼻パクトリプル。
2人一緒に怒られて2人一緒に隔離されたとき
ヒマのあまりに2人で開発した無意味な芸だ。
「マァツマリ・・別レ際ニ渋イ言葉ノ1ツガ言エルカドウカ自信ガネェンダナ」
そんなもん言ってどうするという気もするが
なにせ変な事に意地の強いダンテの話なので
別れ際に主導権を握れるかどうかはかなりの重大問題だ。
マカミはピーナツをもにゅと飲み込むとふわりと浮き上がり
そのままふよよ〜と部屋の天井を大きく回る。
これはマカミが真面目に考えているときの行動だ。
しかし真面目と言ってもそれは本当に真面目なときもあれば
悪知恵をめぐらせている時も結構ある。
ダンテは黙ってそれを見守った。
この変な悪魔、性格に多少難アリでたまにケンカもするが
何体もいるジュンヤの悪魔の中で唯一きちんとダンテに味方してくれる悪魔なのだ。
しばらくするとマカミはひょろんと戻って来て
平たい前足でこいこいと手招きする。
飛べるんだから自分で来いよとか思いつつも
ダンテは膝立ちになってその鼻先に耳を寄せた。
が。
れろん
何を言うのかとすました耳が、おもいっきり舐められた。
一瞬総毛立ったダンテは瞬時にその細い胴体部分をふんづかみ
エキスパンダーよろしくうぎーと伸ばす。
「・・・人が真剣に聞いてやろうとしてるのに何しやがる」
「ンギャー!ナンダヨ!オマエダッテ前人ガ寝テル間ニ
耳ニせんたくばさみトカイウノツケテ遊ンダダロガ!」
その時に外し方がわからずギャーギャー暴れ回り
指さして笑われたのを根に持っていたらしい。
「それがもうすぐいなくなるヤツに対する態度か、あぁ?」
「ウルセー!オレヤラレタラヤリカエス主義ナンダヨ!」
「ならオレがやり返しても文句は言えねぇな」
「イデデデデ!テメ!ソノろうそくミテェナ頭燃ヤスゾコラ!」
「オマエこそリベリオンの拭き布にでも転生させてやろうか?」
などと胴体を引っぱったり髪に噛みついたりして
2人ともしばらくジャレているのか遊んでいるのかわからない変なケンカをしていたが
途中でバカらしくなったのか、それぞれ手を放し口を放し元の位置に落ちつく。
いつもやっていたバカ騒ぎだが
出来なくなると思うとなんだが張り合いがない。
「・・・やめだ。もっと建設的に話をしよう」
「・・・言エテンナ」
「で、何かいい考えは出たのか?」
「出発ノ時間ハマダ決マッテナインダナ?」
「今バイパーが手配してるとは言ってたが・・」
「フゥン」
マカミは何か思案しているのか前足でけっけと喉にあった模様をかく。
その変な身体にある模様自体は悪魔時のジュンヤに似ているが
形が形なのでマカミの模様はどこから見ても変に見えた。
「ナラチョットソコニ小細工ガイルナ。連絡先ハワカルカ?」
「ボスならわかるだろうが、あいにくオレは・・」
ジリリリリリリ!
その時ちょうどいいタイミングで古風な電話が音を立てる。
ダンテはとっさに受話器を取り耳を当てて
いつもの調子で店の名前を言いそうになったが・・
『もしもし、ジュンヤ様ですか?』
聞き慣れた冷静な声にマカミの方を振り返ると
いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「・・ジャックポットだぜ、バイパー」
受話器の向こうから不審そうな気配がただよってくるのもかまわず
ダンテはマカミを手招きし、再び口を開いた。
そして話は飛んで次の日の朝。
「なに!?今なんと言った悪魔狩り!?」
勢い余って吹き出たご飯つぶを
たまたま横にいたブラックライダーがおひつの蓋でガードする。
「何って・・聞こえなかったのかボス。
明日の夕方の便で国へ帰るって言ったんだが・・
天使様の耳にもガタが来ることがあるのか?」
イチゴのミルクがけハチミツ付きをかきこみつつ
ダンテはいつもながらの言い方をしたが
ミカエルは侮辱された事にまで気が回らなかったらしい。
漬け物ののったご飯を手に何やら難しい顔をした。
「・・また新手の冗談か?」
「いいや、バイパーに手配してもらったから間違いない」
「本当なのかサマエル?」
「はい、ジュンヤ様づてに依頼を受けましたので」
いつの間にか帰ってきてあくびをしていたマザーハーロットも
メザシの取り合いをしていたケルベロスとフレスベルグも
チーズを盗もうとしたマカミを見つけて怒鳴ろうとしていたトールも
たまたま全員がいた騒がしい朝の食卓が一瞬にしてしーーんと静かになる。
「・・・と言うことは今宵は祝いの宴になるのか主」
「うん、だから今日はみんな早く帰ってくるようにしてほしいんだけど」
「・・オイコラ、祝いってのは余計だろうが」
「ホォーッホッホッホ!良いな良いな!宴の席か!
ならさぞ盛大な宴にしてたもれ!何を祝うのかは知らぬが宴は何でも歓迎じゃ!」
なんだかよくわからないけど宴会と聞くと喜ぶマザーハーロットは
飲んで騒げればなんでも無条件に飛びつくお祭り好きのオヤジのようだ。
「随分と急な話だけれど、一身上の都合かい?」
「・・・まぁな」
「・・・おぬし・・また何をやらかした」
「だから帰るだけだって言ってるだろうが」
フトミミとトールの間で使われる一身上の都合というのは
大体ヘマをやらかしたときにごまかす単語として使用されている。
まぁヘマというほどのものではないが、間違っているとも言い難い。
「とにかく今日みんなで送り出し会するから
みんな出来ればでいいから夕ご飯の時間までには帰ってくるように」
「わかりました」
「叩き出し会だな」
「・・・・・撃っていいかボス」
「うぅむ、主がそう言うなら」
「わかった。何とか都合をつけてみよう」
「ならばわらわは今日のところは外出すまい。
その代わり酒を用意できうる限りわらわの方で用意いたそう」
とは言ってもマザーハーロットが働くのはもっぱら自分中心の事なので
自分が好きな日本酒類を山ほど用意し、ほぼ全部自分で飲む気だろう。
「・・それにしても俺のテスト期間中に帰るなんて言い出すんだもんな。
慌ただしいったらありゃしない」
「帰れって言い出したのはオマエだろうが」
「ちゃんと計画立ててこなかったダンテさんも悪い。
帰ったらちゃんと留守番してくれた人に謝るんだぞ」
「・・・だからオレは家出してきたガキかよ」
帰りを待つ親もいないのに
帰る家に待つのは悪魔ばかりで
こうして食卓を囲む家族のような存在もないのに。
そう思うとダンテは目の前のでふりかけご飯を食べている純矢が
いきなり親のように見えてきた。
「・・ん?何ダンテさん、まだ砂糖?」
そういえばコイツここにいる連中の育ての親みたいなものなんだから
その中にいるなら自然と感化されるのかもな。
「・・なぁ少年」
「?」
やっぱりオレと来ないか。
「やっぱりオマエいい嫁になるな」
バン
自分の意地っ張り加減に感謝すべきか
それとも口の悪さに感謝すべきか。
喉まで出かかった言葉はまったく違うものにすり替えられ
頭におぼんの一撃をもらってその朝の漫才は終了した。
さて、純矢が学校へ行きミカエル達も仕事に行ってしまうと
家は急に静かになった。
そんな中でダンテは荷物の整理をし
横でマカミが平たいシッポを振りながらそれを見ている。
元々あまり物を持ち歩かないタイプなので
荷物らしい荷物もあまり無く、その大半は日本で買ったおみやげや
菓子のたぐいばかりで整理にもあまり時間はかからなかった。
ちなみにどうやって持ってきたのかわからない銃器のたぐいは
企業秘密のルートを通して持って帰るのだとか。
そうして荷物整理していると
どこからともなく血色の悪い初老の男が何かを手にやって来た。
「・・・これもだ・・・」
そう言ってブラックライダーが持ってきたのは
洗ってきちんとたたんだダンテ用の寝間着。
それは上なしとか普段着そのままで寝るなとか言って
純矢が無理矢理に押しつけてきたものだ。
それはサイズを探すので精一杯だったのか
デザインがちょっとオッサン臭い。
「オレは・・」
「・・・持っていけ・・・」
仕事上あまりこんな物は着ないのにと思いつつ
まぁ着る着ないは別としてこれも思い出の1つになるだろうと
ダンテはそれをバックに詰め込む。
ともかく私物とおみやげを分けるだけの、かなり適当な荷造りはすぐに終了した。
しかし見ると私物よりもおみやげの量の方が多い。
「・・・まぁいいか」
荷物は少ない方がいいとダンテは小さなバックを閉じる。
しかしふと横を見ると、さっきまでそこにいたはずのマカミがいなくなっていた。
いつもなら『アキタ』とか何とか一言断ってから行くのに
黙っていなくなるなんて珍しい。
そう思って視線をめぐらしていると
財布を持ったブラックライダーが戻ってきた。
「・・・済んだか?・・・」
「あぁ、これでいい」
「・・・ならば・・・付き合うか?・・・」
手に財布を持っているということはおそらく買い物だろう。
ダンテはぎょっとした。
何しろブラックライダーは無口なのは元より
あまり人に干渉したことがない、いわゆる何に関しても無関心なタイプの悪魔だ。
それがいきなり買い物に付き合えなどとは
珍しいを通り越して恐怖さえ感じてしまう。
まるで飛びかかってきそうな犬を見るような目で見るダンテに
当の魔人はぴらりと何かを差し出す。
それは折りたたみの買い物袋。
買い物袋ご持参キャンペーンがどうとか言いそうなやつだ。
「・・・荷物持ち・・・」
その言葉で納得すると同時に
ダンテは知らずと沸いて出ていた冷や汗をぬぐった。
そして付き合ってみてわかったのだが
ブラックライダーはすぐ近所のスーパーではなく
少し離れた専門店の並ぶ商店街を愛用しているらしい。
なぜ愛用しているのが分かるのかというと・・・
「おっ、高槻さん!今日タマネギ安いよ!」
「高槻さん、今日いいエビ入ってるよー!」
「あぁクロウさん、探してた料理酒入ったよ」
と、こんな血色の悪い元骸骨に向かって
これだけ愛想のいい声が頻繁に飛んでくるなど
ここを愛用しているという他に理由が見当たらない。
「おや、そっちの外人さんはお客さんかい?」
「・・・あぁ・・・。その白菜を・・・」
「おっ、今日は珍しい人連れてるね。ホームステイか何か?」
「・・・まぁ・・・。・・・それを・・・一カゴ包んでくれ・・・」
デカイ外人さんと血色の悪いおっさんという組み合わせは
それなりに色々と人目を引きはするものの
ブラックライダーの人徳が先行してか、怪しむ人がいなかったのは幸いだ。
しかし行く先々でダンテの事を聞かれるのにもさすがに面倒になってきたのか
ブラックライダーはしばらくして急に立ち止まると
近くの店からダンボールの切れ端とマジック、あとビニールヒモをもらい
何か書いてヒモを通し、ダンテによこす。
「・・・下げろ・・・」
「?なんだ、何を書いたんだ?」
「・・・いいから下げろ・・・」
よくわからないままダンテはダンボールでできたフダを首から下げる。
あんまり格好良くないが、それ以降あまりダンテの事は聞かれなくなり
買い物は格段にスムーズになった。
「凄いな、どんな魔法使ったんだ?」
「・・・・・・」
ブラックライダーは黙ったまま乾物屋のおっちゃんからおつりを受け取る。
ダンテは読めなかったがダンボールにはこう書いてあった。
『ホームステイ中の外人さんです。
日本語あまり話せません。気性がおかしいので注意して下さい』
そんなこんなでいくらかスムーズになった買い物で
ダンテの両手は何に使うかわからない棒のような長い野菜
焼けばすぐにコゲてしまいそうな薄っぺらい肉やなにやらで一杯になる。
「いつもこんな大量に物を買い込むのか?」
「・・・今日は・・・特別だ・・・」
それぞれの都合であまり一緒になるときはないが
あの家にはダンテ含めて総勢11体の仲魔がいるのだから
それ全部が集まるとなるとそれなりに物がいる。
そこでダンテはふと純矢の事を思い出した。
「そういえばアイツ、悪魔になる前は1人であそこに?」
「・・・父親はいる・・・だが・・・出張が多い・・・」
成る程。
アイツのタフさや仲魔を大事にしたがる性格はそこからか。
しかし今はあのうるさいほどの大所帯状態だ。
だからオレ1人がいなくなろうがどうという事は・・・
「・・・・・」
ないと思うとなんだか気持ちが沈む。
考えてみればたった1マッカの契約だったとは言え
ダンテとしては残していく物が多すぎる。
そりゃあたまには他の連中とケンカしてグーをもらったり
ストックから出してもらえなくなったり正座で説教されたりもしたが・・
背中を預けて戦える事は今まで数えるほどしかなかったし
砂と悪魔しかない殺伐とした世界だったはずなのに
ジュンヤと関わった事でその味気のなさはいつの間にかどこか彼方へ吹っ飛び
どこかクセのあるあまり悪魔に見えない連中とそれなりに楽しくやって・・
それになんのかんの言いながら、時には派手な攻撃をくれたりもした
けれど実はあの世界で一番悪魔らしくなく、一番人間らしかった少年は
半分人間である自分のことを気にかけてくれていた。
「・・・悪魔狩り・・・」
その時ふと気がつくとブラックライダーの声が後から聞こえてくる。
考え事をしていて通り過ぎたらしい。
「・・・なんだ、まだあるのか?」
ごまかすつもりでそんな言葉を吐きながら振り返ると
初老の男が立っていたのは野菜屋でも肉屋でもない
何か色とりどりの物が置かれた不思議な場所だ。
「?・・・何屋だここは」
「・・・駄菓子屋だ・・・」
「ダガシ?」
ブラックライダーは店先にダンテを置いたまま慣れた様子で中に入っていくと
中にいた腰の曲がった老婆と少し話をし、小さいカゴを持って帰ってきた。
そして何を思ったのかダンテの持っていた荷物を片手分だけ取り上げ
そのカゴを渡す。
「・・・好きな物を・・・選べ・・・」
「??」
「・・・駄賃だ・・・」
ダンテはその行動と少ない言葉からその意味を考えた。
「それはつまり・・
荷物持ちのチップに好きな物を買ってくれるって事か?」
「・・・・・」
ブラックライダーはその通りと言うつもりなのか
それとも一々説明するのも面倒なのか
何も言わず店内への道をすっとゆずる。
その先には色とりどりの小さい菓子類が所狭しと置かれていて
ダンテはまるで菓子の家を目の前にしたような気分になった。
「・・ホントに好きな物選んでいいのか?」
「・・・・・」
否定しなかったと言うことはいいらしい。
ダンテは知らなかったが駄菓子の単価はたかが知れているので
大量に買い込んでも財布にはあまり響かない。
「・・・後悔するなよ」
ダンテはニヤリと笑い、まるで腕まくりしそうな勢いで
古風な店内に足を踏み入れた。
けど店内にいた老婆がカゴをもらう前、ダンテの髪を見て
『歳なのに若く見える外人さんだねぇ』と珍しそうに話していたのを
ブラックライダーは黙っていた。
2へ