「・・・うっわ、またなんか変なことしてる」
「・・人を見るなり失礼な物言いだな少年」

夕方学校から帰ってきた純矢が見たのは
床にありったけの駄菓子と食い散らかしたゴミをぶちまけ
大きな身体をまるめてピンクの練りアメをねってる変な人だ。

しかもそのバラまかれた菓子のほとんどが赤いかイチゴ味のつくものばかりで
いくら好きだからと言っても似合わないにもほどがある。

「これから帰国するいい大人の外人さんが
 なんで1人イチゴ祭りを開催してるんだ?」
「荷物持ちの報酬にもらったんだよ。
 ところでコレ、いつになったら食っていいんだ?」
「・・・もうそのくらいでいいと思う」

そう言ってやるとホ本来スタイリッシュでカッコイイはずの大人は
割り箸で練っていたピンク色の水飴を口に突っ込む。

純矢はもう割り箸口に突っ込んでる姿が格好わるいを通り越し
馬鹿みたいになってると言う気力すら沸かなかった。

「そんなにお菓子ばっかり食べてると、夕ご飯食べられなくなるぞ」
「心配しなくてもそれくらい配慮するさ」
「・・あ、でも今日の場合はその方が好都合かもしれないな」

チューブ入りチョコ(イチゴ味)を空けようとしていたダンテの手が止まる。

「・・好都合?」
「今日の夕ご飯はちょっと形式が違うんだ。詳しいことはその時教えるけど
 あんまり間食してると損するってのは確かだから」

そう言って踵を返そうとした純矢の足首は
後から伸びてきた手にいきなりがしと掴まれ
危うく前にあったフスマと正面衝突しそうになった。

「なんだよ!?」
「隠し事はよくないな少年」
「別に隠してない!その時になってから説明しないとわかりにくいから
 後でやりながら言うって事!」
「ホントにそれだけか?オマエ何か隠してるだろ」
「してないって!もー!離せってーのー!」

などとやりながら純矢は割り箸くわえたでっかい男を
片足でずりずり引きずって逃げようとする。

カバンでぶん殴ってもよかったのだが
割り箸が喉にささると危ないので無意識にしなかったのはさすがだ。

「オ?マタ何ヤッテンダオマエラ」

だがその時運の悪い事にどこかへ行っていたマカミが戻ってきた。

こういった状況でこの2人がそろうと
大体ロクでもない事になるのを純矢は知っていた。

「マフラー!コイツ何か隠し事してやがる、吐かせるぞ!」
「オ、ヨクワカランガ合点!」
「うわ!ちょっと!お前らーーー!!?」

マカミにがんじがらめにされダンテに首を絞められていたところは
騒ぎに気付いたケルベロスとフレスベルグが助けに来てくれたが
純矢はダンテに拳骨、マカミにチョップを喰らわせると
怒って自分の部屋から出てこなくなった。


「・・・ヤブヘビだったか」
「・・・インヤ、アイツかんガイイカラ、コレデイインダヨ」

ケルベロスの歯形がついた腕に傷薬をぬりながらダンテが聞くと
凍ったシッポをお湯につけていたマカミが静かにつぶやく。

実はこの時隠し事をしていたのは純矢の方ではなく
この縁側にいる奇妙な組み合わせの方だった。





グツグツグツグツ・・・。

そして夕飯時。
ダンテの目の前には今何か音を立てていいにおいを漂わせている物がある。
いつもはにぎやかな食卓は今日は物が少なく
ある物といえば各自に小鉢皿1つづつに、野菜の盛られた大皿
肉の盛られた大皿、あと玉子ののったボールなどがあるくらい。
そしてその食卓の中心にあるのはさっきから音を立てている
肉と野菜のごた混ぜに入った黒く平たい鍋。

「・・・少年、なんだこれは」
「スキヤキって言うみんなで食べる鍋料理」

全員に玉子を配っていた純矢はそう言って
最後にダンテの小鉢に白い玉子を1つ入れた。

「味付けは鍋の中でもうできてるから
 鍋から好きな物をとってその玉子にからめて食べるんだよ」
「全員でか?」
「うん全員で」

確かどこかで同じ釜のメシを食うとかいう話は聞いたことがあるが
まさか実際にやらされるとは思っていなかったダンテは
しばらく白い玉子とにらめっこしてしまう。

「・・え、まさかダンテさん玉子われないとか?」
「バカ言え。ガキじゃあるまいし」

ちょっと憮然としつつダンテは玉子を片手で持ち、ぱかと器用にわった。

「・・あ、意外と器用」
「意外とは余計だろ。オレだって料理の1つや2つ自分でする」
「3ツハ無理ダガナ」

その直後、あぐらをかいたダンテの足の上にいたマカミに向かって
素早くげんこつが振り下ろされるが、それは到達する寸前に
しゅっと食卓の下に潜り込まれて不発に終わる。

「でも料理はしても、こうやってたくさんの人数で食べたことってのはないだろ?」
「・・・まぁな」

確かにこれはこれで純矢の言った通り
色々と経験ができて悔いの残らない食べ物だ。

そしてこの一見して人間のようで実は悪魔だったり
悪魔でもまったく悪魔らしくない連中とこうして同じ食卓を囲むのも
おそらくこれで最後になる。

これがこれから後にいい思い出になるかどうかはまだ分からないが
こうして全員で騒いでいた事は記憶にはしっかり残るだろう。

「さてと、じゃあ始めようか。ほんとはここでダンテさんの挨拶とか
 みんな各自でお別れ言葉とか言うのが一般的なんだけど・・
 ダンテさんもみんなもそういうのしたくないだろ」

その場にいた全員が満場一致でうなずく。

「ならもう細かいこと抜き。今日は一緒にご飯食べて明日の・・朝?」
「夕方だ」
「うん、夕方に見送ってそれで終わりにしよう」

それはそれで何だかそっけない気もするが
しかし本格的なお別れカグツチの下ですませたようなものなので
今さら誰も文句は言わなし、ダンテとしてもその方がありがたい。

「とにかく始めようか。細かい事はやりながら教えるから
 今日はハメをはずさない程度に騒いでも可だ」

ハメをはずせ、とハッキリ言わなかったのは
言ってしまった場合本当に収集がつかなくなるほどの大騒ぎになりそうだから。

「ホォーッホッホッホ!中途半端な物言いじゃのう!
 飲むならとことんまで飲み、騒ぐなら大いに騒ぐ!それが宴の醍醐味じゃろうが!」

その筆頭になるのがさっきから片手にごついワイングラス、片手に日本酒の一升瓶という
どこか間違った状態でうずうずしていたマザーハーロットだ。

「だめだ。ハーロットがいつも騒いでる所はいいかもしれないけど
 ここは普通の家なんだから近所迷惑になる行為は禁止。
 一応ミカに結界をはってもらってるけど・・・」
「ホォーッホッホッホ!ならば問題ないではないか!
 地味に飲む酒など嫁と険悪になっている男や
 うっかり保証人のハンを押して一切合切を押しつけられた・・」
わーーーっ!!いい!もういい!!
 そんな話を大声でしちゃいけません!!」

どこで覚えてきたのか生々しい話に花を咲かせようとするハーロットをさえぎり
純矢はジュースの入ったグラスを手にした。

「えー、とにかくダンテさんの帰国の無事を願ってかんぱーい!」
「「「かんぱーい」」」
「オイ、ちょっと待て!無事ってなんだ?!」
「ちゃんと帰れるようにってのと
 帰りの飛行機がトラブったりしませんようにって意味だよ」

熱い物が苦手なフレスベルグとピシャーチャに
生肉と野菜を取り分けてやりながら純矢は笑った。

だがダンテは相棒のカンからして
それは絶対飛行機の方心配してんだと確信して
軽くブルーになった。




そして最後の晩餐は始まった。
しかしこのスキヤキという食事、誰でも経験したことはあるだろうが
好きな物を取っていいというルール上どうしてもちょっとした騒ぎになる。

まぁそれが純矢の狙いでもあったのだが
最後とあって多少は大人しくしてくれると思っていた全員が全員
ものの見事に期待を裏切ってくれたのはちょっとした誤算だったかもしれない。

あーもー!やると思ってたけど少しは野菜食べるとかしろよダンテさんは!」
「何だ?コレにはそんなルールでも設定されてるのか?」
「ルール以前のマナーの問題だ馬鹿者!
 しかも貴様日本の伝統食スキヤキに向かって
 フォーク二刀流とは貴様一体何・・あ!」

などとミカエルが説教している間に
横から平たい顔が伸びてきて手元にあった物をごっそり盗んでいく。

「(はふはふしながら)へメェ・・説教シテフ暇ガアッハラ・・ハシ動ハヘッテーノ」
「・・く、手癖の悪い獣め!
 悪魔狩り!こやつは貴様の管轄だろう!」
「オイオイ、いつの間にオレがそいつの飼い主になっ・・
 ・・あ、コラ、なんでそんな物入れやがる」
「肉が追いつかないからちょっとは野菜も食べる!」
「ネギは嫌いだって前に言ったろうが」
「ダメ!今入れた分食べないと次取らせない!」
「・・チ」

確かにダンテのペースは速くてこの人数では無理が出る。
どうしていいかよく分かっていないトールなどは
フトミミにフォローしてもらってようやくありついている感じだし
箸が使えず純矢に取ってもらっているケルベロスも元から肉食だ。

ちなみにブラックライダーはまったく食べもせず黙々と鍋奉行にいそしみ
マザーハーロットは時々トールやサマエルにからみつつ、イカの足しか食っていない。

ダンテは素早く視線を走らせ
ちょうど自分の近くで口を動かしていたマカミをとらえた。

「おいマフラー」
「ア?・・モガ!?

ダンテはひょいとこっちを向いたマカミの顔をむんずと掴むと
いきなりその口の中にノルマでもらっていたネギ類をごっそり全部流し込んだ。

「こら!!ダンテさん何やってんだ!!」
「タマゴくれ少年」
「・・ゴ
っヘ!クォラテメェ!!
 何ヒトヲシレットごみばけつ代ワリニシテヤガンダ!!」
「説教してるヒマがあるならハシ動かせって言ったろ」

かぱ べちゃ

しかしすっと横から出てきた玉子を何気なく掴み器にぶつけて割ると
中から出てきたのはほどよく半熟にゆでられた温泉玉子だ。

はっと気付いてタマゴの出てきた先を見ると
黙々と奉行をしているブラックライダー。

ダンテはかなりムッとしたが
文句を言う間に行動した方が速いと思い、それを一気にかきこんだ。
温泉タマゴは嫌いではないが、肉にからめて食えない。

そして視界にあったタマゴを素早く掴んで・・

がん

割ろうとすると、今度は固い音を立てて弾かれた。
見ると当てた部分にひびが入ってそれで終わっている。

ゆでたまごだ。

誰だコラ!と思って手を伸ばした直線上を見ると
はははと言わんばかりのとってもさわやかな笑顔をしたフトミミと目があった。

・・・この鬼マゲ野郎!!

とは思っていても、やっぱり文句を言う前に行動した方が速いと思ったダンテ
もうほとんどヤケクソ状態でカラをバリバリむきはじめる。

「・・何をしているのですか?」
「畜生、固いなオイ!むきにくくて泣けてきそうだぜバイパー!」

カラ付きのまま再びマカミの口に突っ込めばいいのだが
それをすると似たような報復が来ると学習しているのか
ダンテは何でスキヤキしてるのにゆでたまごむいてんだと
不思議そうにしているサマエルに向かって妙な事をわめいた。

しっかりゆでられたそれは言った通りよーくゆでられていてとってもむきにくく
ズルをした分のタイムロスはしっかりとみんなに消費された。

そしてしばらくして戦いは再び始まる。

「こら悪魔狩り!まだ生のものにまで手を出すな浅ましい!」
「Tバックこそ、ブタしか食わないようなもの(タマネギ)なんざよく食えるな」
「食えるから入っているのだ!食えぬ物を主が選別するか!」
「トール!右だ!」
「ぬぉ!?」
「ウォット危ネ!」

ミカエルの指摘で気付いたトールは
その体質を生かしてどこからでも入り込んでくるマカミを慌てて追い払う。

「・・・何かあまり落ちついて行えない食事ですね」
「まぁただ食べるだけが食事はないという話もあるし・・
 これはこれでいいんじゃないかな高槻」
「・・そうですね・・って
こら!フレス!ケルの肉取らない!
 それタマゴついてるから共食いになる!」

だからといって、ここまでうるさくスキヤキをする場合もそうはないだろう。
しかしこの中に1人で食べる事が多かった純矢含めて
誰もそんな常識的な事を考える者はいなかった。

「ホォーッホッホッホ!良きかな良きかな!
 これでこそ魔教皇ジュンヤとその下僕共のあるべき姿ではないか!」
「・・ハーロット、それはちょっと言い方悪す・・うっわ!酒くさ!?
 どうやったらそんな消毒液並のアルコール臭がただよってくるんだよ!?」
「何を言うか。これくらいで騒いでおっては夜の(ブブー)や(ピー)を徘徊・・」
ぎゃー!!もういい!やめろ!!
 ハーロットは無闇に怪しげな経験談を語るな!!」
「ホォーッホッホッホ!この際じゃておぬしも大人の世界と接触でもしてみるか?」
「いい!いらない!大人なんて自分で言うのはダンテさんだけでまっぴらだ!」
「・・・オイコラ少年、どういう意味だ」
「うぇ!ダンテさんもなんだよそのすごい臭いのする液体!?」
「そこらにあったビンを適当にチャンポンしてみた。結構いけるぞ」
バカ!あやまれ!酒造会社の人にあやまれ!
 あと変なところ触んな!!」

などと両脇をタチの悪い2人に囲まれてもめていたところで
どこからかチンと皿をならす音した。

見るとブラックライダーが片手にフォーク、片手に皿を持って
はいこれ食べる人、と言わんばかりのポーズでたたずんでいる。

皿に盛られていたのはスモークチーズやサラミ、ポテチなどののった
お酒のつまみ豪華盛り合わせ。

悪い大人2名はあっさり純矢を解放し
数種の酒をかわるがわる飲み比べながら
どのつまみがどの酒に合うかなどの議論を始めた。

「・・・助かったよブラック」
「・・・・・」

顔色の悪い元骸骨は何も言わずに水の入ったグラスをくれた。
グラスはよく冷やしてあり、レモン入りなのがまた小粋だ。

そんなこんなでぎゃあぎゃあ騒ぎながらしばらくやっていると
純矢はふとさっきまでダンテと口論していたミカエル
生肉の奪い合いをしていたケルベロスやフレスベルグ
さらにケラケラ笑っていたマザーハーロットの声がしなくなった事に気付く。

ハッとして周囲を見回すと
ミカエルはごーごーオッサンらしいイビキをかいて寝ているし
その枕になっているケルベロスもぐうぐうやっていて
持ってきていた止まり木の上には同じく目を閉じている妖鳥がいた。

「ほれほれどうした?それで終わりか雷帝よ?」
「・・い、いやしかし・・
 あまり飲むと明日に地獄を見るという話を聞いたことが・・」

そしてその原因だろう魔人は今、トールに絡んでいる。

「こらハーロット!トールが困ってるだろ!」
「何を言うか。これくらいの酌が受けられぬようでは
 人との付き合いなどできるものかえ」
「そりゃそうかもしれないけど・・ってわー!!
 なにやってるんですかフトミミさん!?」
「・・いや、これが結構いけるお酒なもので・・」

などとフトミミがやっていたのは一升瓶ラッパ飲み。
しかも見た目に反してその飲みっぷりは
普通に逆さにして出すよりも消費が早いほどのバキュームぶりだ。

しかもよく見るとそのそばにはカラになったビンが5・6本転がっている。

「ホォーッホッホッホ!ほれ見よ。この細い身でこれほどの許容量じゃぞ!
 それがその身でコップ2杯もいかぬとは情けないとは思わぬか?」
「ぐぬぬ・・」

そう言われると同じ鬼神としてはトールも黙ってはいられない。

「なんだTバック、意外とお子様体質だったんだな」

などとよせばいいのにダンテが油を注いだところで
大きな方の鬼神が一気に発火した。

「えぇい!貴様に言われるまでもないわ!!たかが酒の1杯や2杯・・!」
「こらト・・!」

純矢は止めようとしたが一瞬遅かった。
ヤケクソのように掴まれたコップの中身は
あっという間にトールの喉の奥へ消えていく。

しかし人間も悪魔もあまり慣れないことをすると
大体どこかでしっぺ返しがくるもので・・

ずしーん

カラになったコップをだんと置いた直後、トールは音を立ててひっくり返った。
しかもその直後、その姿がアンテナの調子が悪いテレビ画面のようにブレる。

「まずい!!」

純矢が慌ててそれをストックに放り込むと同時に
ストックの中でその姿は元の巨大な鬼神に戻った。

「ハーロット!!ダンテさん!!」
「ホォーッホッホッホ!よいではないか!
 こうなったのがここであったのが幸いじゃ!
 こうなることがわかったのならもう同じ失敗はすまいて!」
「結果良ければなんとかだな」
あのな!確かにあんまり騒ぐなとは言ったけど
 だからってみんなを地味に潰して回るな!」

スキヤキももう終わりかけだったからよかったものの
残っているのは生玉子をわって無言で丸飲みしているサマエルと
まだ酒を飲み続けているフトミミ、食器を片付け始めているブラックライダー
わざとなのかたまたまなのか、仲魔を数体潰したマザーハーロットに
かなり酒臭いのに素面なダンテと、その首から垂れているマカミ
それと残り物のうどんを取ってもらって小さい口からすすってる石ピシャーチャだ。

「まぁまぁいいじゃないか。別に悪さをしたわけでもないし
 たまにはこんな静かな席も悪くない」
「・・・・・あの、すみませんフトミミさん。
 一升瓶両手にしたままなごまれても怖いだけです」

とは言えその状態で暴れ出さないだけマシだろう。

よく見るとダンテの近くにも同じ酒瓶が転がっていて
今飲んでいるのもまさにその中身だろう透明のものだ。

そう言えば残っているサマエルもさっきからやたらと静かだが・・

「・・え?ひょっとして飲んでないのって俺だけ?」
「いいや?神獣と幽鬼は嫌がって口にせなんだ」

異常状態にならない魔人達はともかくとして
ケルベロスやフレスベルグやピシャーチャにまで
手当たり次第に酒を勧めまくるというのもどうだろう。

しかしマカミが酒を断ったというのはちょっと意外だ。
そういえば口の悪い神獣、さっきからあまりしゃべらず
ずっとダンテの肩からだらんと垂れたまんまだが
やっぱり馬のあった悪友と離れ離れになるのは寂しいのだろうか。

などと思ってじーと見ていると、それをどう取ったのか
ダンテがフォークにさしたチーズと日本酒という
どう見てもおかしい取り合わせでニヤリと笑った。

「なんだ少年、仲間に入れてほしいか?」
「・・・違うよ。大体俺まだ未成年だし、お酒飲んで騒ぐほど働いてない」
「・・ガキのくせに大人びた思考だな」
「誰かさんのおかげかもしれないけどね」
「ほほぅ?じゃあオマエは今ガキなのか大人なのかどっちなんだ?」

それは一見何気ない質問だが純矢のカンからして
それは返答次第ではあまりよろしくない事態になる質問だ。

ガキだと答えればどうなるかは今の所分からないが
大人だと答えれば状況からして、酌の相手をさせられるに決まってる。

「・・・少なくとも大人じゃないとは思ってるけど」
「なるほど?」

あいまいな答え方をしたのにダンテは気にせず小さく笑った。
その様子からしてどちらに答えてもダンテには大した変わりがないかのようだ。

「なら1つお遊びをしないか?」
「・・お遊び?」
「方法は簡単、前にやったコイントスだ。
 オレが勝ったらオマエがオレのささやかな要求を1つ
 オマエが勝ったらオレがオマエの要求を1つのむ。
 ・・子供じみてるが・・大人なお遊びだろ?」

純矢は考えた。
普段なら胡散臭いから嫌だと突っぱねる提案だが
ダンテの目が酒を飲んでいたにもかかわらずやけに真剣なのだ。

それはきっとこれを最後の遊戯とし
この遊びに自分の最後の何かを賭けるつもりなのだ。

「・・・わかった」
「ジュ・・」

唯一素面に見えたサマエルがそれを止めようとしたが
純矢はそれを片手で制止する。

まだ酒をあおっていたフトミミも手を止めていたが
そうされるとそれ以上の行動は起こせない。

「ただ先に言っとくけど、一緒に来いとかいう要求はのめないからな」
「わかってるさ。だからささやかなって言ったろ?」

ささやかな挨拶でためらいもなく銃をぶっ放してきたり
ささやかな仕返しにとある坑道で悪魔を3ケタ近く狩りまくったり
ささやかな贈り物に集魔の笛を渡してくる奴のセリフとしては説得力のせの字もないが
純矢もダンテに要求したいことはあるので黙っておいた。

「で?オマエの方の要求は?」
「そっちが言わないなら俺も言わない。
 大体俺がそっちに聞いたって秘密の方が楽しいって言うつもりだろ」
「ご名答だ」

ダンテは笑ってポケットから出したコインを手に乗せる。

「オレは表だ」
「・・・じゃあ裏で」
「OK、いくぜ」

ぴんと音を立ててコインが舞う。
それは以前やった時よりちょっと高く上がった。


・・・あれ?


それを目で追っていた純矢がふと違和感を感じる。

表の面は何度か見せてもらった事があるが
そのコインの裏がどんなものかを純矢はまだ知らない。


だがしかし、今宙を舞っているコインの模様は・・・


ぱし

軽い音を立ててそのコインはダンテの手に握られた。
開けてみるとそれはいつかと同じ表の面。

「・・表・・だな」

いつもならダンテはここでオレの勝ちだと言わんばかりの
意地の悪そうな笑みを浮かべるのだが
向けられている目には冗談めかした部分がまるでない。


それはきっとこのコインについて気付かれるのを承知していて
ある程度の選択権をこちらにゆだねているからだろう。


純矢はしばらく黙り込んだ後


「・・・ま、いっか。・・それで?要求ってのは?」


それはしかたなさそうな返答だったというのに
ダンテはどこか安堵したような笑みを浮かべた。






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