気付いたときにはもう遅い。
あぁしまったな、とのんきに後悔する自分を
見慣れた金の目がギラリと音が出そうなほど睨んでくる。
その周囲から急速に光が失われ
一点に収縮されていくのはさっきと全く同じ。
おそらく次の動作もそうだろう。
「・・・・ダンテさんの・・・・・」
暗闇に浮かぶ金の目が
まっすぐこちらを見た。
「ぶわかーーー!!!」
ビーーーーー!!!!
目を焼かんばかりの光と衝撃をおみやげに
バカのレッテルを貼られたデビルハンターは
今までにない強烈な形でストックに強制送還された。
「・・・それで?今度は何があったのかな?」
ひとしきり襲いかかってきた天使のたぐいを素手で片付け
ぱんぱんと手をはたきながらフトミミが後にいた主を振り返ると
タトゥーの入った少年悪魔は地面にささったヨスガ勢の天使の物だろう槍を
げんと乱暴に蹴り倒している所だった。
ジュンヤは何か気に入らないことがあると
アサクサに来てヨスガの悪魔を狩るのが恒例行事になっている。
しかもその原因の大半がダンテとのケンカなのがまた笑えるのだが。
「マーッタク、毎度毎度オマエラモアキネエヨナ」
「・・・・・・・好きでやってるんじゃない」
拗ねたようにそっぽをむくジュンヤの横をマカミがひらひら舞う。
普段なら定位置である頭上から垂れてくるのだが
ジュンヤの機嫌が本当に悪い時にはマカミもそれなりに遠慮するらしい。
同じく召喚されていたブラックライダーだけは
相変わらず無言のまま黙って街の奥を見つめていたが
少し間を置いた後、ジュンヤが拗ねたように口を開く。
「・・・大体・・・ダンテさんが悪い」
コッと軽く蹴飛ばしたはずの石はノンバウンドで通りの向こうへ消え
かわりになんだか野太い悲鳴が返ってきた。
おそらく運悪く軌道上にあったヴァーチャーか何かに当たりでもしたのだろう。
「・・・人の気も知らないで・・・あんなに笑って」
「何ヲ?」
ジュンヤ、今度はかなり間を置いてぽつりと言った。
「・・・・・・・至高の魔弾」
「・・・あぁ、なるほど」
「・・・ヤリソウダナァ」
「・・・」
鬼神と神獣が納得し
黒馬に乗る魔人が空洞の視線をポトリと地面におっことす。
それは最近ジュンヤが習得したスキルで
威力はおそらく全攻撃スキルで最高レベルになる万能属性の攻撃だ。
が、しかし発動モーションにちょっとばかし
問題があるのが難点で・・・
「だってひどいじゃないか!!
俺だって好きで顔からビームなんてださないよ!
使わないと物理反射もってる悪魔倒せないのに!
なのにその物理攻撃ばっかりなダンテさんが笑うんだよ!」
がつと地団駄をふんだ地面がぐらりと軽くゆれる。
身なりは細身だがこの中で最もレベルの高い魔教皇の力はハンパではない。
「なにもあんなに笑うことないじゃないか!
顔からビームかよ!フェイスビーム?HAHAHA!だって!?
ふざけんなバカ!!物理以外はスカートめくり(ワールウインド)と
電気ブーメラン(ラウンドトリップ)と中国雑伎大道芸(ショウタイム)しかできない分際で!」
がんと次に蹴った石はやはりノンバウンドで道の彼方に消え
今度は少々カン高い悲鳴をもって返ってきた。
おそらくヨスガのドミニオンにでも当たったのだろうが
こんな状況でもマネカタの復興させた街に傷1つつけない心意気はさすがだ。
「・・・まぁ彼も悪気があったわけではないのだから・・・」
「あってもなくても悪いもんは悪い!」
「デモオマ・・ギャ!?」
何か余計な事を言いかけたマカミのシッポに
ブラックライダーの黒馬がぱくりと噛みついた。
「ッテエナ!ナンダヨ!」
「・・・話がこじれる・・・」
言いながら宙を浮く黒馬を主の元へよせるブラックライダーは
まだしかめっ面をしているジュンヤに向かい、こんな事を言い出した。
「・・・主よ・・・目には目を・・・と言う言葉・・・知るか?」
「・・?何だよ急に」
「・・・知るか・・・否か・・・」
ジュンヤは少し考えた。
「・・・知ってる。目を傷つけられたら相手の目を傷つけて
歯を折られたら相手の歯を折るって言う・・・」
そこまで言ってジュンヤはハッとしたように黒衣の騎士を見上げる。
黒いフードの下にはいつも通り表情のない頭蓋骨がのぞくだけだが
その時なぜかジュンヤには、その顔がかすかに笑っているように見えた。
「・・・ブラック、もしかして・・・」
冷気と魔力を呼ぶ天秤が、答えるようにキィと乾いた音をたてる。
ブラックライダーは何も答えなかったが
フトミミもマカミも無口な魔人が何かしようとしているのを薄々感じたらしい。
「・・・あぁ、何か良からぬ事を」
「ア、オマエナンカスル気ダナ?」
不安と期待、それぞれの思いをよそに
黒衣の騎士は再び、ゆっくりと口を開いた。
一方ストック内。
至高の魔弾をくらった傷は、覚えたてということもあってかまだ威力がなかったので
たまたまコートのポケット残っていた魔石で回復した。
残る問題は依頼主の機嫌を激しく損ねてしまった事の回復なのだが・・・
ストック内から主に干渉できないわけではない。
しかしあの様子ではこちらからコンタクトしても口をきいてくれそうもないし
他の仲魔が入れ替わる中、自分だけが呼ばれる気配のないところを見ると・・・
「・・・飼い殺し決定か」
言いながら凄腕のデビルハンターはその場にごろんと横になる。
戦いのないストックではスタイリッシュのスの字もないらしい。
とはいえ、ダンテも反省していないわけではなかった。
ミカエルにひとしきり凝視された後、軽ーく鼻で笑われても
事情を知ったトールに小一時間ほど説教されても
ケルベロスに後足でけっけっと砂をかけられても
マザーハーロットにこれでもかと言わんばかりに大爆笑されても
普段なら弾丸20発消費して制裁するところを
ヘルズアイできそうな気合いのこもる視線で睨むだけで耐え抜いたのだ。
本当なら全員まとめてショウタイムで一掃してやりたいところだが
これ以上主の機嫌を損ねると永遠にここから出られなくなるのは必至。
そしてダンテには珍しく、これでも少々反省しているのだ。
ダンテは生まれたときから半魔だが、ジュンヤはつい最近まで人間だった身。
戸惑いもあったろうし、辛いときもあるだろうし、まして彼はまだ多感な10代だ。
それがわけもわからず望まない力をいきなり押しつけられ
なおかつそれを元敵だったヤツに大笑いされていい気分でいられるなら
それは超ド級の馬鹿か、原始動物なみの無神経だろう。
「・・・とは言え・・・」
しつこいようだがダンテには珍しく、反省して謝罪をしようとは思っているのだが
今こちらからジュンヤに接触するのはかえって逆効果になりそうだし
ストックに放り込まれてそれなりに時間が経過している所を見ると
温厚なジュンヤも今回は相当頭に来ている事は想像がつく。
かりに外に出たとしても、ダンテは今まで自分から謝ったという記憶がほとんどない。
うまく相手を逆なでしない言葉が出ればいいが
下手をすると口を滑らせて余計に嫌われるような事態になる可能性もある。
さてどうしたものか、とバリバリ頭をかいていると
ふっと音もなく、赤い影のような物が目の前で見慣れた形をとった。
「・・・なんだ、今度はバイパーがお説教か?」
身を起こしながら皮肉混じりにそう投げかけても
この赤い邪神はダンテの言葉にあおられた試しは一度もない。
「いえ、ジュンヤ様に頼まれて様子をうかがいに参りました」
いつも通り、平然とした口調で平然とした内容を返され
挑発したダンテの機嫌の方が逆に降下した。
この邪神は元静寂の組織とやらにいたせいか
どんな時でも冷静で、どんな挑発にも乗ってこず、ただ淡々と自分の任務を遂行し
おまけに発砲すれば弾丸がそのまま戻ってくるというやっかいな体質をもつ。
こいつに比べれば何でもかんでも笑ってすまし
からかうのに飽きたらさっさと姿を消す女魔人の方いくらかマシだろう。
赤い色はそれなりに好きだが、その赤を基調としたサマエルとマザーハーロットが
ダンテにとってあまり好ましくない仲魔というのも皮肉なものだ。
などと内心イライラしているダンテなどお構いなしに
邪神サマエルはダンテの前まで来ると、多くある翼を巻き込まないよう
器用にとぐろを巻いてその場に居座った。
「何だ、まだ依頼主様はご立腹か?」
「それについてはお答えできません」
「・・・そりゃ怒ってるって意味だろうが」
「ご想像にお任せします」
色素のうすい青の目が、五つある深い青の目を睨みつける。
「・・・だったら何しに来たんだオマエは」
「最初に言った通りですが」
相変わらず淡泊な調子に怒る気力も消え失せて
ダンテは疲れたようにため息を吐き出した。
「・・・ジョークの通じないヤツだ」
「ジョークと言うものは笑える物であって、笑えない物はただの暴言もしくは中傷の・・・」
「あぁわかったわかった。オレが悪かった。
悪かったからアイツに会わせろ」
くどいようだがダンテにしては珍しく謙虚な態度と思いきや、横暴な態度は変わらない。
しかしダンテもジュンヤに関わるようになってからかなり丸くなった方だ。
以前のダンテなら悪魔に譲歩など一切しなかったろうし
会話がどうのという以前に姿が見えた瞬間引き金を引くか
手向けの言葉をいくつか贈って、容赦なく引き金を引くかのどちらかだったろう。
いつからこんな事になってしまったのか
雇用関係が原因なのか、ジュンヤの人柄かはてまたカリスマか
腐れ縁なのか、なりゆきなのか、ダンテの甲斐性がないだけなのか
どれにせよダンテは深く考えないのでどうでもいい話だ。
「それは謝罪の意志と見てよいのですか?」
「・・・・オマエがそう思うならそうだな」
「ではそのままごゆっくり」
「待てクソッタレ」
ふわりと浮き上がりかけた尻尾をむんずと掴むと
物理反射で足首に掴まれたような感触が走る。
しかしこの際かまっている場合ではない。
サマエルは長い首を後にめぐらせ
無言のダンテを相変わらず表情のわからない目で見た。
「なんでしょう」
「・・・・・」
ダンテは答えない。
しかしサマエルはしばらくして
ぽいと放された尻尾を引いて長い身体を整えると、納得したように頭を低くした。
「わかりました。ではそのようにお伝えしましょう」
そして今度こそ、長く赤い身体は軽く宙に浮き上がり
来た時と同じように音もなく姿を消した。
ダンテはしばらく黙って虚空を見つめていたが・・・
「・・・悪魔に腹を読まれるなんざ、オレも落ちたもんだ」
自嘲じみた独り言を吐き、再びその場に腰を下ろす。
そうしてしばらく待っていると
ほどなくして予想通り、独特の浮遊感がやって来て
彼の姿は久しぶりにストックの中からかき消えた。
軽い浮遊感の後、急に開ける視界。
久しぶりに視覚へやって来る光に目を細めながら
ダンテがざっと周囲に目を走らせると・・・おかしな事に気がついた。
いつもなら外に出ればまず目の前に召喚主がいるはずなのだが
まず目に入ったのは、白い巨体とそのそばにいる細い人影。
しかも出てきた場所はどこかの部屋の中で
ジュンヤの姿はどこにも見当たらなかった。
「・・・・・・1つ聞いていいか」
あまり色よい返事は返ってこないだろうと予想しつつ
とりあえず目の前のマネカタ・・もとい今は鬼神という種族になる男に声をかける。
「アイツはどうした」
「外にいるよ」
渋られるだろうと思っていたが
細身の鬼神からは意外にもあっさり答えが返ってきた。
しかし・・・何かがおかしい。
ダンテのハンターとしての感がそうささやく。
温厚なフトミミはともかく、主人に対する無礼には短気な
ケルベロスがうなり声一つ立てていないのだ。
それにここは確かアサクサの部屋の内のどれかで
エストマを使用しているのか周囲に今の所、悪魔の気配はない。
室内
見当たらない主
そしてこの組み合わせ。
その事柄を整理する内、ダンテはあることに気がついた。
フトミミ、ケルベロス。
ちょんまげにわんころ。
・・・・・・・・・・。
はっ!!?
残像が残せそうなほどの速度で思わず左上を見上げると
画面左上に燦然と輝くカグツチと、FULLの文字。
長い間のストック生活で身体がなまったのか
それとも珍しく他人に気を使おうとして脳が麻痺したのか。
銃を抜くより速く、ダンテの目に飛び込んできたのは
細身に似合わない強烈な雄叫びをあげたフトミミと
普段の倍の力で飛びかかってきたケルベロスの大きな顔面だった。
一方ジュンヤは困惑しつつ心配しつつ驚愕していた。
ブラックライダーから簡単な説明を受け
フトミミとケルベロスを個室に召喚したまではいい。
しかしそこから先は仲魔内でしか話し合いがされていないので
ジュンヤはただフトミミに言われた通り、ダンテを部屋の中へ召喚して
ひたすら待つしかなかった。
だが実際そうしてみると部屋の中から聞こえてくるのは
何か争うような重たい音と暴れる音。ごくまれに打撃音。
いくら煌天時だとはいえ四対一で互角だった相手に何をしているのか
心配でないわけがない。
大丈夫だろうか、ケガしないだろうかフトミミさんもケルも。
と、ダンテの身の上など毛ほども心配せず待っていると
室内での騒音がぴたりとやみ、少し間をおいてフトミミが出てきた。
何があったか知らないが、服をぼろぼろにしてホコリまみれになり
結い上げた髪が今にもばらけそうな有様だったが。
「っ!?大丈夫フトミミさん!?」
「・・・あぁ、心配ないよ。雄叫びを交互に使用したし
召喚前にタルカジャをありったけ重ねがけしたからね」
そういえばダンテは敵側の補助魔法を解除するスキルを持っていない。
言ってる事は事も無げだが、やってる事は強烈な力押しで
ある意味ラスボスよりあくどいかもしれない。
「ま、ともかく入るといい。努力のかいがあるといいんだが」
「?・・は、はぁ?」
盛大な疑問符を散らし、背中を押されながら
ジュンヤはわけもわからず今まで妙な音を出していた部屋に入っ・・・
「・・・ぶっ!ははははは!!
あはははは!!
何それダンテさ・・ッははははは!!
」
そこにいたのは
おそらく飾りだろう首元の金具と
いつもは開いている胸元のファスナーをきっちり閉められ
コートの裾を腰巻きのごとく結ばれ
頭の半分だけオールバックにされた長身の・・・
平たく言えばスタイリッシュな赤サカハギもどきが
もの凄く憮然として突っ立っていた。
「・・・・・・気が済んだか少年」
ひとしきり笑い転げてようやく落ちついたジュンヤだったが
いくらかくぐもった声に顔を上げ・・・
再び爆笑。
片方だけ全開になったデコに
殴り書きの字で『 ワ ル 』と書かれていたのが目に入ったのだ。
「・・・ヨカッタナ。主ヲココマデ喜バセタノハ、オソラクオマエガ初メテダ」
「・・・小刻みに震えつつ顔そむけながら言われても
説得力もへったくれもないなイヌっころ(棒読み)」
ちなみにフトミミと共同作業していたケルベロスも
同じようにホコリだらけのボロボロで、魔獣というより野良犬のような姿になっていたのだが
そんなのはサカハギダンテの足元にも及ばない。
一方いきなり襲いかかられてこんな姿に仕立て上げられたあげく
遠慮なしに笑われるダンテとしては、非常に不本意なことこの上ないのだが
そこは大人として我慢のしどころ。
なにせ先に笑われたくないことを派手に笑ってしまったのは自分なのだ。
ここで耐えなければ大人の顔台無しである。
一瞬以前首もとの金具でじゃれていたマカミの発案かと思ったが
マカミはこんな手の込んだ悪さは面倒なのでしないだろう。
マザーハーロットは自分で手を汚して悪さをするほど労力を使いたがらない。
残る仲魔でこんな事を考えそうなのは・・・。
・・・・・・あの骨、天秤で悪知恵を計ってやがるのか。
脳裏に浮かぶ骸骨が、カタカタと笑った
・・・ような気がした。
普段無口な黒馬の魔人は
ああ見えて奇妙なボキャブラリーを持っているようだ。
「・・でっ・・・も・・それ・・・ぷっ!」
「・・・・・・・笑いきってから喋れ」
ワルなダンテから親切な忠告を受けたジュンヤ。
それからケルベロスに寄りかかったまま笑いが収まるを待った。
おさまったのはたっぷり五分くらいしてからのことだ。
金具とチャックは定位置に戻した。
コートは少しシワになったがそのうち元に戻るだろう。
ただ額の字は油性で書かれたのかどれだけこすっても完全に消えないので
しかたなく前髪でごます。
咄嗟だったとはいえ素直にあやまることのできなかった代償は
ハンターのプライドとかメンツとかを微妙に削り、そこそこ高くついてしまった。
「ソレデ、少シハ気ガオサマッタカ?」
「・・・うん、みんなごめん。変な手間かけちゃった」
「気にすることはない。私もなかなか楽しかったしね」
・・・・・・オレに対する謝罪はナシかおまえら。
垂らした前髪の下に青筋が浮かぶ。
加えてワルの文字が半端に消え、ノレの字が額に刻印された魔人は
おそらくかれ彼の人生で最も長いだろう我慢を続けていた。
しかし見た所不機嫌絶頂だったクライアントも
屈辱の甲斐あってかいつもの表情に戻っていたのが救いだろう。
だが
「・・・あ、それとダンテさんもごめん」
本来自分がもっと前に言うべきだったセリフをさらりと言われてしまい
ダンテはなんだか急バツの悪い気分におちいる。
「・・・・・・オレのセリフを取ってどうする」
「でもサマエルがちゃんと謝ってたって言ってたから」
・・・畜生、あのクソ蛇。
ダンテは頭をかきむしり、自分と赤い邪神を同時に呪った。
直接言えなかった事を代返されると、なんだかよけいにいたたまれないのだ。
ふとその時、ダンテの脳裏に今は亡き母の顔が浮かぶ。
まだ自分が幼い頃、色々悪さをしてしかられた時
悪いことをした時はどうするべきか。
教えてもらってはいたものの、あまり実行したことはなかったが・・・
「・・・少年」
ケルベロスを撫でていたジュンヤがこちらを見る。
「・・・・・・・・・、・・・・・・・悪かったな」
それは凄く今さらな言葉だったが
それはジュンヤもダンテも、お互いにいろんな事を水に流せる魔法のような言葉で
今までの経験とダンテの性格上、そんな言葉が聞けるとは思っていなかったジュンヤは
一瞬あっけにとられたような顔をして
「・・・うん」
短く返して笑う。
その笑顔はダンテが今まで見た中で一番素直で嬉しそうな年相応の少年のもので
ダンテは内心で頭を抱えた。
「・・・・・・デビルハンター形無しだ」
「?・・・なにか言った?」
「いや、別に」
悪魔も泣き出すこのオレが、こんな子供に振り回されるなんてな。
声に出さずにつぶやいて、ふところにある形見に手をやると
冷たいはずのそれはまるで微笑んだかのように暖かくなっていて
ダンテは知らずにふと苦笑した。
「・・・そうだ少年、ストックライフで身体がなまったリハビリと
仲直りの祝いもこめてアサクサのターミナル前でヨスガ狩りなんてどうだ?」
ジュンヤは一瞬物騒な言い回しと血なまぐさい提案に眉を寄せたが
たまにはこの男のペースに乗るのも悪くない。
「・・・そうだね。じゃあカグツチ一周だけ」
「決まりだな」
「でも町並み壊すのはだめだから」
「相変わらず律儀なヤツだ」
と背を向けたダンテに何か言いかけたジュンヤは・・・
「・・・!」
盛大に吹き出す寸前、横から伸びてきたフトミミの手に口をふさがれた。
扉に手をかけている赤いコートの背中と尻に
でっかい犬型にくきゅうの跡がでかでかとついていたからだ。
「・・どうした?」
「・・あ、いや別に・・」
ダンテは一瞬怪訝そうな目をむけてきたが
さっさと狩りに行きたかったらしく、すぐドアを開けて出て行った。
ワンちゃん印の赤コートを颯爽とひらめかせて。
「アサクサだそうだ」
「アサクサダト」
始終無言だったフトミミとケルベロスが口を開く。
その声色はなんだか楽しそう。
どうやらそれを気付かれないように今までずっと黙っていたらしい。
「主、イクゾ」
「・・あの・・でも・・」
「細かいことは気にするな。彼の好きな言葉じゃないか」
フトミミが微笑みながらぽんと肩をたたき
ケルベロスがせかすように鼻っ面を押しつけてくる。
ジュンヤとは仲直りしたが
どうやら仲魔にとってはそれと主の侮辱罪とは別問題らしい。
ジュンヤは複雑な顔をしたまま
ほんのちょっと申し訳ない気持ちでその部屋を後にした。
そしてアサクサで元気に悪魔を狩りまくったダンテが異常に気付いたのは
それからカグツチ三周半後、ストックに帰ってマカミに教えてもらってから。
怒る気力はもう沸かなかったらしく
ダンテはカグツチ2周分ほどイケブクロの空き部屋に引きこもり
マントラ軍の残党に相当嫌な顔をされたとかされなかったとか。
ダンテハミゴ計画は一部の仲魔をのぞいて地道に進行している。
相当前からほったらかしてたブツ。
・・・ってそんなんばっかりだよココ。
この時点でダンテの味方はマカミ。
ところによりブラックライダーとピシャーチャだけです。
しかし自分で書いといて何ですが、我ながらウチのダンテさんはカッコ悪い。
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