高槻家は都心から少し離れた静かな場所にある。
少し古くなったがまだ十分住める、少し古くて味のある日本家屋。

だがその中のとある一室。
一番広い和室になぜか多数の人影や動物がひしめいていて
なんだかこれから隠し芸大会でも始まりそうな雰囲気をかもしだしていた。

一見それらは人や動物に見えはするが
実は家人ふくめて全員この世界に反する生き物だということは
おそらくまともな常識をもつ者なら想像もしないだろう。




仲魔達がひっそりと自分との生活のため努力してくれたのは嬉しかった。
しかし多少の例外をのぞいてボルテクス生まれボルテクス育ちの悪魔が
人間の真似をするにはやはり色々と無理があったらしく。

それはミカエルの言った通り個体差があり・・というかありすぎて
それはもう呆れるのを通り越して笑いがとれそうなほどの状態になっていた。


まずミカエル。顔立ちや体格は元のままだがその姿は一体何を参考にしたのか
黒の外車と銃撃戦が似合いそうなダンディかつハードボイルドな格好。
けしてスクリーンから出てきてはいけないような物騒な姿になっていた。

次に完成度の高いと言われていたサマエルは・・確かには人間には見えた。
ただミカエルとペアで立っていてもおかしくないようにと配慮したつもりなのか
その姿は外国の裏世界、男をダース単位であしらえそうな黒髪の美女になっていて
吸い込まれそうな青い目や妖艶なデザインのカクテルドレスが
やはり東京・・・どころか日本にすらまったく似合わず
ミカエルと並べるとまるでヤバイ組織の幹部とその愛人のようだ。

そしてこの中で一番大きなのはやはりトールだ。
一見褐色の肌をした30代前後のラテン系の男にみえるのだが
やっぱりあの巨体を人サイズにまとめるのは苦労したらしい。
身長は2メートルを軽くこし、ガタイも何喰ったらそんなになるんだというくらいデカイ

そして一番人間世界と縁遠いブラックライダーとマザーハーロット。
マザーハーロットはハナっからやる気がなかったのか、それともふざけてるのか
ステージマジックでも始めそうな派手かつ破天荒な服装をしていて
顔に肉はついたのだが、美人なのに顔立ちがやたらとキツイ。
一瞬どこのス○リップバーで新人イビリをしてるお姉さんかと思うほどだ。
しかもその尻の下にはあの赤い獣の成れの果てがいて
これもまたふざけているのかやる気がなかったのかまた凄い。
赤っぽいワニだのイヌだの蛇だのヒョウだの怪しいケモノ類が計七匹
首輪に鎖というスタイルを共有しつつ、ごそごそガサゴソそれぞれ蠢き
総合的に見ると変化前よりこっち方がはっきり言って怖い。

ブラックライダーはというと、比較的特徴のない初老の男に姿を変えていて
黒いスーツには黒い文字盤のついた銀の懐中時計と小さい鍵をさげていた。
おそらくいつも乗っていた黒馬と天秤がそれなのだろう。
まぁそれだけならどこかの金持ちの執事か何かだと思えるだろうが
元が骨なのが悪いのか、それともその性格の影響か
その顔色が異常なまで悪い。
まるで二日前死んだ死体か今墓場から出て来たあの世とこの世の境目の人に見え
気の弱い人が夜道で遭遇しようものなら卒倒される事間違いなし。

しかしどうゆう理屈か知らないが
魔人という種族は人を怖がらせるのが好きなようだ(含むダンテ)。

で、ケルベロスやフレスベルグ、マカミという獣の面々は人になれなかったらしい。
いや正確にはならなかったと言う方が正しい。
理由は簡単。人になったら撫でてもらえないし、飛んで飛びつく事もできないし
巻き付いてからかったり・・などととにかくベタベタすることが出来なくなるからだ。

そんなわけでケルベロスは白くてふさふさの大型犬に。
フレスベルグは形そのままでオウムサイズにおさまっていた。

しかしケルベロスはやはり番犬とあって目つきが非常に悪く、眼色も金色。
犬種を聞かれて雑種と言うにはかなり苦しい。
フレスベルグは一見水色の鳥だが、冷気の制御がうまくいかなかったのか
止まる場所そこかしこを手当たり次第に凍らせるため
定位置が氷結の効かないブラックライダーの肩ときめられてしまっていた。

そしてマカミは・・・変わっていなかった。
マカミは元々日本古来の神獣なので
その気になれば姿を消すことが出来るため、化ける必要がないのだ。

唯一まともと思えるのが元疑人のフトミミ。
髪を後に結い直し、おそらくミカエルの指導だろう剣道着を着てはいるが
元から黒髪だしそれくらいなら服を変えればすむ話だ。

そして最後にピシャーチャだが
彼は相変わらず地味ーに、部屋のすみのほうにゴロンと転がっていた。
・・・そう、転がっていた。

それは30pくらいの石だ。
元々言語能力もなく知能も高い方ではなかった彼は
どうやら有機物にすらなれなかったらしい。
退化してどうするという気もするが
なにせ元が元だけに下手な変化をするよりは賢明だったろう。
灰色の中にちょっぴりオレンジ色のスジが混ざっているのが彼なりの精一杯


とにもかくにもそんな連中を前に
純矢は長ーーーーい沈黙を置いて

静かに言った。



「・・・・・・・・・・
ごめん


「「「何が??」」」



開口一番で意味不明なセリフに何人かの言葉が重なる。

「いかにした主よ。何か我らに不備があるのか?」

どうがんばっても視界に入ってしまう大きなトールの問いかけに
困った純矢は視線を四方八方に視線をさまよわせ

「・・・・・いや・・・その・・・ある奴にはあって、ない奴にはあるんだけど・・・」
「・・・意味ワカンネェヨ」
「ホォーッホッホ!何を迷うておるのかは知らぬが
 聞くところによるとこの世界の連中は他者にはまるで無関心であるそうじゃ!
 多少の歪みなど気にするにあたいせぬ」
「・・・いや高槻が気にしているのはそうゆうことではないのでは?」

ボリボリボリ

「・・・うぅむ、やはり独学で人の風習を学ぶのがいかんのか」
「私としては自信があったのですが・・・
 ジュンヤ様がお気に召さないのなら仕切直しですね」
「ダカラ我ハ主ニ相談シテカラノ方ガイイトイッタノニ」

ボリボリボリボリ

「何を言う。主の手をわずらわせていては今回の計画は成り立たぬだろう」
「ソレニシタッテオマエノデカサハドウカト思ウケドナ」
「・・・う・・・」
「よせよマカミ。自分だけ楽して他のみんなの事どうこう言うのはよくな・・」

ボリボリボリボリボリボリ


「やかましーーッ!!」


ブン! べき

純矢の投げつけた醤油せんべいはありえない速さで飛び
ピザ味ポテチをむさぼり食っていたダンテの頭を直撃して2つに割れた。

「・・・・痛ぇな少年」
「人が困ってるときに何やって・・ってちょっと待って!それどこから!?」
「そこらへんで拾った。喰うか?」

ひょいと無造作に差し出された買い置きおやつの中身は
もうすでに粉しか残っていない。

「・・・」

フトミミが無言で立ち上がり
無言で不思議そうな顔をするダンテを隣の部屋へ引きずって行った。

少しして。


  ・・ゴッ


鈍い音の後、フトミミはなぜか額についた返り血をぬぐいながら1人で帰ってくる。

ツッコミ所は多々あれどもとりあえずは静かになったので
純矢はそれ以上の追求をしないことにした。

「・・・で、話を元にもどすけど、一口に人間って言っても色々あるんだ。
 えっと、たとえば鬼神でトールやフトミミさんみたいな差があるように・・・・・」

それから純矢は雑誌や新聞の写真、世界地図や教科書なども動員して
人間とは何か、どんな種類があるのか、どんな文化があるのか
そしてこの東京にとけこめる人間や浮いてしまう人間
その理由などを仲魔達に簡単に説明した。

そうして説明し終わって少なからずショックを受けたのは
一番完成度が高いはずのミカエルとサマエルの裏社会コンビ。

「・・・申し訳ありませんジュンヤ様。私がシジマのころの知識を引用してしまったため
 ジュンヤ様のみならずミカエルにまで害をなしてしまいました」
「・・・いや、主の世代を考えず行動を起こした私にも責任の一環はある。
 すまぬ主よ」
「・・・・え・・・いや・・・まぁ・・・」

それシジマのセンスなのか?と思いつつ純矢は頭をかく。

中身は蛇と天使とわかっていても
マフィアとその愛人に頭を下げられた所で対応に困るのだ。

しかし自分のために、たとえ空回りでも密かな努力をしてくれたけなげな仲魔に
怒ったり文句をつけるほどジュンヤは薄情ではなかった。

「でもまぁ・・・組み合わせ方によっては変じゃなくなりそうだし
 今のままでもいいんじゃないかな」
「「え?」」
「ミカもサマエルもそのズレた服を変えればなんとかなるし
 トールもホームステイに来た人で何とかごまかせるだろ。
 ブラックは夜中に出歩かなければ父さんの知り合いでいけそうだし
 ハーロットは・・・・・・まぁ東京に1人ぐらいはいるんじゃないかな。
多分

すらすらと並べられていくフォローに
マカミが床の上でにんまりと笑う。

「フレスとケルは家で飼ってるって事にして、フトミミさんは俺の知り合いで
 マカミは見えないように注意すれば問題ないし
 ピッチは・・・あ、そうだ。生け花と一緒に床の間に飾ると違和感ないかもな」

臨機応変な対応はさすがにボルテクスであらゆる事態を乗り切ってきた人修羅だ。

だがしかし・・・

「しかし・・よいのか主?
 それでは主の知人らをあざむくことになるが・・・」

大きな身体で相変わらず心配性なトールに
純矢はいつも通りに微笑んだ。

「ホントは嘘はだめだけど、ついたほうがいい嘘だってあるよ。
 それにせっかくみんながんばってくれたんだ。俺もその分努力しないとな」

そう言って笑う純矢にその場がしんと静かになった。
これは仲魔が心を一つにした時よく起こる現象で・・・

「少年、冷えた飲みものないか。デザートも付けて」

それを台無しにするものこの男の得意技だ。

額に血をはりつかせたままドスドスと戻ってきたダンテに
その場の和やかな空気が一瞬にして四散する。

しかも・・・

?!・・ダンテさんその服!?」

それはいつ着替えたのか、ダンテはいつものコートから
ジーンズにシャツというごく普通の服にかわっていた。

「着替えた。さっきそこのマゲが頭突きで頭をカチ割ってくれたおかげで
 かなり血が付いたんでな」

そう説明されてもまだ何か言いたそうに口を開けたまま固まっている純矢に
ダンテは少しして何を言わんとしているかわかったらしい。
おどけたように手を広げてさらに言った。

「・・・おいおい、オレだって年中あの格好してるわけじゃないし
 手ぶらで海を越えるなんて真似はしてない」

とたんに純矢の目がすっと半目になる。

「・・・・・・じゃあなんで最初から普通の服にしないんだよ」
「HA、そんなことか」

ジーンズのポケットに手を突っ込みながら前髪を掻き上げるその姿は
男の純矢から見てもかっこよくてサマになるのだが・・・


「そんなもの、オマエを驚かすために決まってるだろ」


出てきたセリフは
大人しい純矢の堪忍袋を一発でブチ切るほど
幼稚かつ馬鹿馬鹿しいもので・・・。


ミカエルとサマエルが気配に気付いてあわてたように立ち上がり
ケモノ達が慌ててピシャーチャを拾い上げたトールの影に避難し
ハーロットが楽しそうな笑みをクスリとを浮かべ
フトミミとブラックライダーが黙って耳をふさいだ。


そして一瞬にして全身を変貌させたジュンヤの目が

カッ!という擬音がつきそうなほど強烈に光った。






高槻家は都心から少し離れた静かな場所にある。
少し古くなったがまだ十分住める、少し古くて味のある日本家屋。


その家が
某長寿アニメのエンディングのように
みしりとななめにゆれた、そんな一日目。








11使徒、適応・・・してるつもりな適応編。
家は某長寿アニメの家をちょっと大きくしたくらいを想像して下さい。


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