あれから・・・
そうだな、だいたい一ヶ月くらいたったかな。
俺はボルテクスから東京に戻って来た。
いや、正確には再生された東京に戻って来た。
俺はあれから魔教皇ジュンヤっていう悪魔から、ただの高槻純矢に戻り
最後に上った塔で死んだはずの友達と何事もなかったように
先生のお見舞いへ行って、何事もなかったように学校へ行っている。
元通りになった友達、いや正確には受胎前の友達と
俺は毎日学校へ行き、どうでもいいバカな話をしたり、将来の心配をしてみたり
でも帰りには何もかも忘れてのん気に寄り道してゲーセンへ行ったり
朝起きて学校へ行ってまたバカな話をしたり、そんな生活を繰り返す。
みんなにとってはごく当たり前の生活が
ボルテクス界経験者の俺にとってどれだけ懐かしくて
どれだけ嬉しいものだったのか、普通に話すと変人扱いされて
語れないのはちょっと残念な気分ではあるんだけど・・
ともかく俺は今、ボルテクスという世界から東京という世界を再生させ
何事もなかったように、普通の高校生として生活していた。
今俺の上には青い空が広がっている。
かつての砂の大地はもうどこにもない。
俺が今いるのは、すべてが始まった東京衛生病院の屋上だ。
先生はちょっと前に退院してここにはいない。
でも何の変哲もないこの場所が、俺にはかなり思い出深い場所で
こうして1人で来てぼんやりするにはうってつけの場所だったりする。
東京がねじ曲がっていくのを見たのがここ。
丸く生まれ変わったトウキョウを最初に見たのもここだ。
・・・・・・・よく考えたらロクな思い出ないよな。
そんなことを考えながらフェンスに手をかけて下を見ると
名前も知らない人達がアリのように列をなして歩いていくのが見える。
みんな忙しそうで他人のことなんて気にしてられないって感じだ。
もちろん誰も東京があんなことになったなんて思わないだろうし考えもしないだろう。
今までもこれからも。
俺と先生以外にはきっと誰も。
しかし・・・こうして見ると、あの砂と悪魔ばっかりのボルテクスが
まるで夢の中の出来事だったように思えてなんだか変な寂しさが・・・
・・・・・・・寂しい?
思わず掴んだフェンスがギとにぶい音を立てる。
・・・冗談じゃない、寂しいわけあるか。
あんな砂漠ばっかりで悪魔ばっかりで
あんな死と隣り合わせの世界。
「・・・冗談じゃない」
軽く鼻を鳴らして目を閉じると
目蓋の裏に青い空のない、空の変わりに地面の見えるボルテクス界がうつる。
・・・多分これって
・・・離れてわかる良さってやつなんだろうな。
そう割り切って目を開けると、目には再び青い空。
そこでまた俺は思い直した。
・・・いや待て
良さなんてあったか?
歩いてるだけで悪魔に襲われ
仲の良かった友達が豹変していき
人間らしさをかけらも必要としないあの世界に。
見上げると空には大地と変な太陽もどきがあって
どこにも出口のない、巨大な牢屋のようだったあの砂の世界に。
・・・でも・・・
・・・まぁ、強いて上げるなら・・・
「・・・みんな・・・だよな」
数少ない人が人でなくなっていき
意志の強さが世界を変えたあの世界で
自分を助けてくれた異形の悪魔達。
うっとおしいほどの光の下で別れは告げた。
でもやはり生死を共にした者たちとの別れは、今の世界には存在しない。
「・・・・」
無言で握るフェンスの形が軽く音を立てる。
その音で背後で扉が開いたのに、俺はうかつにも気付かなかった。
・・・しょうがないよ。
いくらなんでもこの平和な世界に
邪神や鬼神、まして魔人なんておっかないのを置いておけないし
ただの人間に戻った俺に、みんなを従わせるわけにもいかない。
それに銃刀法フル違反、見た目も中身もアレで
問題が服を着て歩いてるようなあの人なんてなおさら・・・
・・・・・・。
あれ?
なんか・・・忘れてないか俺。
そう言えばあの人・・・マッカの事ドルって言わなかったっけ。
コツ・・コツ・・・コツ・・・
ドルって・・・アメリカの通貨だよな。
しかもあの人、時々ストロベリーサンデーがどうとか・・・
「Bang!!」
「ぎゃあー!?!」
絶叫してしがみついたフェンスに顔がめり込んだ。
どくどくと脈打つ心臓と顔をおさえ、ぶんと風を切りそうな勢いで振り返ると
目の前には銃の形を作った黒い皮手袋。
さらに目をやると清潔な病院にあるまじき強烈な赤と黒。
そしてきわめつけ、口の端だけで笑う人をくったような独特の笑み。
そんな特徴のありすぎる個体は見間違えるわけがない。
「・・だ・・・ダ・・・ダンテさん!?」
見事なまでに裏返った俺の声に
赤と黒の色が毒々しいスタイリッシュな悪魔狩り師。
ぶっと吹き出してから盛大に額を押さえて笑い出した。
「ッHAHAHA!想像以上のリアクションだ相棒!!」
「・・え?えぇ!?なんで!?どうして!?」
「ッククク・・なんて顔してやがる。
お前が望んだ世界にオレがいたら不都合なのか?」
いやそうゆうわけじゃないけど・・・でもなんでデビルハンターなんて胡散臭い・・
・・もとい物騒な職業のダンテさんが日本の東京の衛生病院の屋上に出現するんだ!?
・・・というか・・・いつまで笑ってるんだよ毒色素!
「・・ダンテさん、ねぇダンテさんてば!。
笑ってないでわかるように事情を説明してよ!」
「・・・OKOK!そうせかすな!あー腹痛ぇ・・!」
そう言って曲げた身体を元に戻すと
その背にはいつもの大剣は背負われていなかった。
「オマエ、トウキョウを・・・いや、世界を元に戻したいって言ったな」
黙ってうなづくと、ダンテさんはいつもの余裕と優越の入り混じった
俺にとっていい思い出のまったくない表情になる。
「ならオレがここにいたって問題ないのさ」
「・・え?」
「オレがジジイの依頼を受けて最初に来たのがこの東京だったからな」
・・・・あ!
そういえばそうだ。
この人マッカをドルって言ったし
母親は人間だって言ってたし
ストロベリーサンデーが食いたいとか駄々こねてたし・・・!
それに初対面のインパクトが強すぎて気が付かなかったけど
悪魔だらけのボルテクスに、悪魔退治を請け負うデビルハンターなんて
よく考えれば確かにおかしい。
あ然とする俺をよそに
ダンテさんは心なしか楽しそうにさらに続けた。
「あの玉っころを壊した後、気付いた時オレは自分の店にいて
ジジイの依頼を受ける直前の状態に戻されてた。
つまり・・・お前の望んだあのゴタゴタが起こる前にもどされたのさ」
そうだ。
俺はただ、変わり果てた東京を元に戻す事だけを望んだ。
それ以外の事は何も望まなかった。
こっちの世界のダンテさんが
俺みたいにあの後元いた場所に帰されても別に不思議は・・・
・・・ん?待てよ?
まさかと思い、手に視線をやると
それに答えるように、あの黒とエメラルドのタトゥーが
さあっと音もなく浮かび上がる。
「・・・・・・嘘」
さらにまさかと思いつつ、手を突き出して気合を込めると
見なれた様子で光が収束して・・・
「ぅわっ!?」
慌てて手を振ると破邪の光弾は使い出してから初めて
ぶしゅんと情けない音を立て不発に終わった。
・・あ・・危ない危ない。
あんなの撃ったら大騒ぎになるところだ。
また派手に笑い出したダンテさんをなるべく無視してため息を吐き出し
あらためて自分の手を見下ろすと・・・
見慣れ過ぎた悪魔の模様は手や足にくっきり浮かんでいて
恐る恐る首にのばした手には、人にはないはずの硬質の感触。
・・・・・・・やっぱり。
不思議と驚きはなかった。
この身体になれ過ぎたからか
それとも今ダンテさんが目の前にいるからなのか。
そんな俺を見るダンテさんは
なんださっきほど驚かないのか、とちょっとつまらなそうな顔をした。
「・・・つまりだ少年。お望み通り、東京は受胎前に戻った。
お前の悪魔の力も、お前と一緒にいたオレの記憶も所在もそのままにしてな」
「・・・そのまま?」
「アバウトすぎたんだよオマエは。
ま、そのおかげでオレ達の悪巧みは成功するわけなんだがな」
悪巧み。
ダンテさんが口にすると不吉さ倍増の言葉に俺が眉をひそめていると
そんな事はおかまいなしに、何か芝居がかった様子でダンテさんは続けた。
「まぁともかくだ。オレがまた日本に来たのには理由があってな。
お前がいつまでたっても呼ばないから、その事に気付いてないんだろうと思って
わざわざ来てやったのさ」
・・・え?
「タトゥーが消えてたのはこっちの世界に適応するためだろうな。
オレの知ってる悪魔のたぐいにも人間社会に解け込むために
そういった芸ができる奴がいた」
言いながら黒い手袋が俺の手をちょいちょいと指し示す。
それが何を意味するのかは
短い間だったけど一緒に死地を乗り越えてきた俺にはわかった。
火や雷撃を呼び出すのと同じように、消えろと軽く念じてみると
とたんに手の上の悪魔の印は音もなく消え去る。
首の後に手をやると、角も綺麗に消えていた。
「・・・適応ってすごい」
呆れと感心、半々なつぶやきにダンテさんが大げさに肩をすくめた。
「・・・HA、キングオブなんとかだな」
・・・相変わらずムカッとする物言いだけど、言い返せない自分もちょっと憎い。
みんな元に戻った嬉しさに平和ボケしてて
自分がどうなったかなんて考えもしなかったからなぁ。
「・・・さて、ここからが本題だ少年。
お前もオレも、あのクソッタレ界にいた時の状態のまま再生された世界にいる。
オレはイレギュラーとしてストックから元の場所に戻されたが
お前の力は戦闘関係以外に・・・確かもう1つあったな」
もったいぶったような言い方だったけど
その言葉が一体何を意味するか知った俺は
そのからかうような言い回しに腹を立てるのも完全に忘れた。
「オレがお前の所に来てやったのは
あの連中がお前が事の次第に気付かなかった場合の保険のためでもある。
・・・ここまで言えば、わかるな少年?」
心臓の音が自分でもわかるほど早くなる。
「そこでだ、デビルハンターが忠告しておく。
ここはボルテクスでも魔界でもない。悪魔にも銃にさえも無縁な東京だ。
出すならまず結界を張れる奴を出せ。
そうだな・・・バイパーは邪気が強いだろうから頭の固いボスの方がいい」
聞いているうちにどんどん心臓が高鳴ってくる。
ダンテさんが言いながら笑いをこらえるような顔をしてるってことは
俺のある予感は良くも悪くも多分的中してる。
はやる気持ちを押さえつつ、自分の手の平に目を落とすと
意識する前にタトゥーがすっと浮かび上がってきた。
俺がこの身体でできたこと。
悪魔を倒すいくつかの力ともう一つ。
前は大して意識しなかった召喚が
今は心臓が潰れそうなほど緊張するものなんだから不思議だ。
ともかく俺は短い間だったけど、長い間呼ばなかったような一つの名を
宙に向かって半信半疑ながらも、そっと呼んでみた。
「・・・・・・・ミカエル?」
おそるおそる呼んだ名に反応して
屋上の白いコンクリートにざぁと光が走り
何のためらいもなく見慣れた魔方陣が浮かび上がる。
そしてほんの少し閃光の後、次の瞬間現れたのは
金の鎧に大きな槍と翼を持つ、三体の天使から生まれた体格のいい大天使。
もう会う事もないと思っていた、その神々しくも懐かしくて頼もしい姿に
その時俺は一体どんな顔をしていたんだろう。
「・・・久しいな、主よ」
ばさりと広げられた朱色にも金色にも見える大きな翼が
軽く風をおこして髪が少し乱れた。
その時いつもお堅いミカエルの顔がすごくしてやったりって顔してたのに
もうちょっと早く気付いてればよかったんだけど・・・。
「・・・・・・・うそ・・・本物?」
「主以外に私を召喚できる者は存在しないが」
そう言われてもいまいち実感がわかず
横に回って恐る恐る手をのばし大きな羽に触れてみると
それは物珍しさに触らせてほしいと言って困ったような顔をされながら
べたべた触った時とまったく同じ感触。
あの時の感触は今でも覚えていたから間違いない。
本物だった。
本物のミカエルだった。
頭が確認したと同時に俺は思わず金の鎧に飛びつき
宙に浮いた身体がかくんとちょっとだけ地面に近づいた。
「ミカエル!ミカエルだ!
ミカエルミカエルミカエル!本物だミカエルーー!!」
「うむ。うむ。連呼せずとも私だ主」
いつも淡々としていた声が、やけに優しく聞こえたのは多分気のせいじゃない。
「なんで?!どうして!?ここはボルテクスじゃなくて東京なんだぞ?!」
「我々は世界はどうであれ、他の何者でもない主と契約を交わした身。
そなたがどこにいようと、我らは主の呼ぶ所どこへでも参上する」
・・・そう。俺は世界の再生を、東京受胎前の東京を望んだ。
けれど望んだ事はそれだけで、みんなとの契約や悪魔の能力まで破棄していない。
だから別の世界、つまりストックから召喚されているみんなと
別れる事なんてなかったんだ。
あぁ、もう!
どうしてそんな単純な事に今の今まで気付かなかったんだろう!
自分のうっかり加減にあきれてミカエルの鎧に頭をぶつけていると
槍を握っていない方の大きな手が、ぽんと肩を軽く叩いてきた。
「では主、結界を張る。少し離れよ」
「え?」
「皆大騒ぎしていた。少々強力にせねば破られそうだ」
言いながら俺を地面に下ろし
ミカエルは大きな羽をばさりと広げると手にした槍を一振りする。
周囲の空気が少し霞んだって事は、ダンテさんの言った結界が張られて
他からここが見えなくなったんだろう。
「主、いざ」
ミカエルがうやうやしく屋上の大きな場所を指す。
見るとダンテさんも何か楽しそうに腕を組んで俺を見ていた。
その時、俺はハッとした。
まさか・・・。
もしかして・・・。
お別れを言ったあの時、あの場にいた全員
こうなる事を知ってて・・・!
俺は息を・・・限界ギリギリまで思いっきり吸った。
「トール!サマエル!ブラック!ハーロット!マカミ!
ピシャーチャ!ケルベロス!フレスベルグ!
フトミミさーーん!!」
腹の底からあの時いた仲魔の名を
声が枯れそうになるのもかまわず一気に呼ぶと
広い屋上に大小たくさんの魔方陣がばしばしばしばし浮かび上がる。
その全部から、あの時と同じように姿形のまるで違う
けれど俺にとってはあの時一番身近で大事な仲魔達が現れた。
白いマントの大きな鬼神、真っ赤な蛇の邪神、黒い馬や赤い獣に乗る魔人
布みたいな神獣、枯れ木みたいな幽鬼、真っ白な魔獣、青い冷気をまとう妖獣
人に一番近かった元擬人の鬼神。
目の奥がじんと熱くなる。
あの時と同じように。
「やあ、やっと呼んでくれたね」
最初に口を開いたのは、あっちで人に一番近かったフトミミさん。
「ホォーッホッホッホ!鈍い鈍い!ニブニブじゃのう!
その愉快なまでの鈍感さ!あいも変わらず変わっておらぬと見えるわ!」
乗っている七つ頭の獣と一緒になってケタケタ笑うのは
仲魔の中でやたらに目を引いた魔人のマザーハーロット。
「主、待っていたぞ」
「お久しぶりですジュンヤ様」
大きな身体に似合わないうやうやしさで
トールとサマエルが巨体を少し低くする。
「ジュンヤジュンヤジュンヤジュンヤ!ジュンヤだ!ジュンヤ!」
「・・・ウルサイフレス。寒イ」
バタバタ暴れて冷気をまきちらすフレスベルグの横で
冷気に弱いケルベロスがうるさそうに尾をふっている。
「ケッ、遅ェンダヨ鈍感。身体ガ腐ッチマウダロガ」
久しぶりに聞くマカミの悪態。
でもシッポの動きが嬉しいのかすごくふらふらして落ちついてない。
魔人の中で一番付き合いの長かったブラックライダーだけは相変わらず無言で
戦う事は苦手だったけど、いると便利だった全身口みたいなピシャーチャが
何か言いたそうに大きな口から変な音を出した。
・・・あぁ・・・!
・・・ちくしょう・・・ちくしょう!
お前達!また会えるって知ってたんだな!
知ってて俺をおどかそうとして黙ってたな!?
「・・・・っ!・・・こっ・・・こ・・この・っ・・この・・!」
言葉がうまくつながらない。
あの光の下で見たときと同じように
いや、むしろもっと楽しそうなみんなの様子に俺は・・・
「こんのーー!!!」
びーーードガン!!!
そっぽ向いて笑いをかみ殺していたダンテさんめがけ
至高の魔弾を力一杯ぶち込んだ。
力一杯だったからクリティカルだった。
不意をつかれたダンテさん
ニ回ほど横回転して受身も取らずに転がってったけど、この際無視。
ネバーギブアップあるんだから死にはしないし
回復できる仲魔はいっぱいいるから万事OK!
「なんだよなんだよ!みんなして!
あの時教えてくれたらもっと早く呼べたのに!」
「・・・申し訳な・・・」
「トールが謝る事ない!誰だ!首謀者!
ハーロットか!マカミか!意表を突いてブラックか!
というかやっぱりダンテさんだな!ダンテさんだろ!そうなんだろ!?」
「・・・・・・真っ先に最強攻撃ぶちこんでおいて・・・今さら聞くような事か」
天使のお迎え一歩手前なダンテさんにディアラハンをかけ
返す手に破邪の光弾発射。
今度はギリギリでよけられた。
「・・・器用に怒るなよ相棒」
「これを怒らずにどうしろって?!」
たぶんその時俺はすごい目をしてたんだろうな。
ダンテさんが後ずさりしてたから。
「・・・ちょ、ちょっと待て、なぁ少年、ラブアンドピースって知ってるか?」
「・・・知ってる。ダンテさんに宇宙一似合わない言葉」
「いや、だからとりあえず落ち着け少年。仲魔はずれにした事は謝るが・・・」
「俺は仲魔はずれが一番嫌いなんだ!!」
自分で言った言葉なのに、急に感情が高ぶる。
あの時みたいに
俺の意志なんて関係なく
みんなみんな、どこか遠くへいってしまうように
俺を中心にめきりと地面がゆれる。
仲魔の何体かが何か叫んだけど
身体に染み込んだ動作を止める余裕なんて・・・
「・・・主・・・人の世界で・・・悪魔の力を使うか・・・」
!!
ぼそりと言われた言葉に強烈な力が一瞬で四散する。
その一瞬後、俺の回りが虹色にぱっと光った。
多分ミカエルあたりが能力を押さえてくれたんだろう。
「・・・・っ・・・・・ご・・・ごめん」
短い言葉で俺を正気に戻してくれたブラックライダーは
無言で手にしていた天秤をカシャンとゆらす。
相変わらず愛想も言葉もほとんどないけど、ここ一番って時に頼りになるのはさすがだ。
そうだよな、ここはボルテクスじゃないんだから
いくら結界があっても地母の晩餐なんてしたら
病院に穴があくどころの騒ぎじゃなくなる。
不発だと安心して思いっきり息を吐き出し
尻餅をついた俺の周りにどやどやと仲魔が集まってきて
広いはずの屋上が急にむさ苦しくなった。
「主!無事か!?」
「ジュンヤ様、私と女帝がいます。物理攻撃はお控え下さい」
「ホォーッホッホ!怒ると見境ない所も変わっておらぬのう」
「・・・・・」
「オマエナァ、イイ加減力加減考エロヨ」
「・・ヴーイィ・・?・・・」
「皆で謀った事はすまぬが・・・ともかく落ち着くがよい主。
いくら私とて主の地母の晩餐まで押さえがきかぬ」
「・・・チッ、爆発力は健在ってわけか」
「ジュンヤ、怒ったか?ジュンヤ?ジュンヤ?」
「怒ルト手ニオエナクナル所ハ相変ワラズダナ・・・マッタク」
「ともかくすまなかったね。驚かした上に嫌な事を思い出させたようで」
・・・・・いっぺんに喋るな。
ていうかそんなに取り囲むな。
・・・みんな・・・・。
・・・みんな・・・!
「嬉しくなるじゃないかーー!!」
「ぬお!?」
ドーーン!!
手近にいたのに飛びついたら轟音がした。
一番図体のでっかいトールだった。
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