ダンテは時々テンションが高い。
悪魔を狩ってる時は言うまでもなく高い。
なんせ本業でありステイタスでもあり
趣味と言っても過言ではない・・・かもしれない。
ジュンヤも一応そこらへんをわきまえて彼を雇ったつもりなのだが
普段クールでニヒルな男が銃を乱射し、やたら楽しそうに悪魔を狩る姿は
元狩られそうになった身としてはあまり楽しいものではない。
頼りになるが頼りにしてはいけない男
それがジュンヤのダンテに対する印象の1つだ。
そんな彼にとある出来事が起こったのは
マカミと最近生まれたビャッコの成長もかねて
アマラ神殿周辺をウロウロしていたときの事である。
広い砂の大地の上に、ぽつんと赤い物がひとつ落ちている。
そこから少し離れたところに模様の入った人影。
そのそばには布のような影が浮いていて
人影をはさんで反対側には白い猫科の影がひとつ落ちていた。
遠くには大きな逆三角形が浮いていて
時々残像のようなものを薄く光らせる。
そこはアマラ神殿の外。
人影は言うまでもなく人修羅ジュンヤで
布と猫科はマカミとビャッコ。
そして赤い物は・・・
なぜか砂に胡座をかいて座り込み
横に剣を突き立て背を向けたまま黙りこくってしまった
ふて腐れ『ほっといてくれクソ』モードのデビルハンターダンテだ。
「・・・・・なぁ」
「ヤメトケ」
もう何度目かになるセリフに
同じく何度目にもなるマカミのセリフが重なる。
「・・・・・でも」
「ストックニシマエ」
いいかげん何度目かになるやり取りにも飽きてきたビャッコが
ジュンヤの横で苛立ったようにぴしりと長い尾で地を打った。
「滅多ナイ機会ダ。アノママシマッテオケバイイ」
「・・・でもさ、さすがにあのままほっとくのは気が引けて・・・」
「自業自得ダロウ。ホッテオケ」
スキルの大半が冷気系で構成されているビャッコは
性格も冷たいのか実に興味なさげだ。
「いやそれにしてもあれはちょっと・・・
多分・・・俺でもしばらく立ち直れないだろうし」
「・・・アンマリ見事デ笑ウ間モナカッタカラナァ」
いつもなら他人の不幸をからかいたがるマカミも
今度ばかりはそんな気力も起こらないのか
ふらふらせずにジュンヤの横で普通に浮いている。
「・・・ダカラストックニシマエバイイダロウ」
「でもそれはそれで・・・ちょっと可哀想だろ?」
たとえ元イヤなヤツとはいえ
非常に珍しく落ち込む魔人を強制退去させることなど
仲魔を大切にするジュンヤにできるわけがない。
「・・・どう声をかけていいかわからないって
きっとこうゆう時のことなんだろうなぁ・・・」
まいったなぁとばかりにその場に座り込むと
背もたれのつもりなのかビャッコが背後に身を寄せてくる。
少し冷たい白い毛並みを撫でながら見つめる先には
まだ動きそうにない赤い背中が、何とも言えない妙な哀愁をただよわせていて
ジュンヤはタトゥーの入った頬を、同じく模様の入った指で
困ったようにポリポリかいた。
それは少し前の戦闘。
いつも通りの何の変哲もない戦闘で
相手はアマラ神殿では大して珍しくもない、三体のスパルナだった。
まず最初はマカミの火炎攻撃で始まった。
神獣としては低位になるマカミも、御魂合体を繰り返してかなり強くなったので
計算では次に誰かが全体攻撃をすればそれで済む戦闘のはずだった。
問題は
ローストチキンだと笑いながら
ダンテの次に放ったワールウインド。
この時ダンテは知らなかったのだ。
スパルナが衝撃反射するという事を。
普段そこいらの悪魔の攻撃ではびくともしない魔人だが
自分の力がそのまま跳ね返ってくるとなると話は違ってくる。
そしてダンテは・・・
自分の攻撃を三体分、そのままモロに跳ね返された。
「ダンテさん!!」
ジュンヤが驚愕の声をあげるのと同時に
跳ね返された衝撃は全部ダンテに命中。
いつも何があっても微動だにしないはずの赤いコートは
強烈な衝撃に耐えきれず、砂の上にはじき飛ばされ・・・
一瞬後、見事なまでに体勢を立て直した。
「・・・甘いな」
いつもは人を小馬鹿にしたような態度と違う
不敵な表情にジュンヤは思わず見惚れる。
そう
ジュンヤはすっかり忘れていたが
ダンテのスキルにはまだ、たとえ即死級のダメージをくらおうと
一度だけHP1で耐えきることができる「ネバーギブアップ」が残っていたのだ。
「ダ・・!」
ダンテさん大丈夫!?
とジュンヤは珍しく
やたら頑丈な、殺しても死にそうもない悪魔狩り師に
気遣いの声をかけようとした
・・・のだが。
ズドン しゅっ
次の瞬間
スパルナが放った衝撃魔法(単体用)で
ダンテの身体はあっさりその場からかき消える。
それはまさに
声を上げる間もない出来事だった。
普通どんなピンチでも相当なレベルを誇るこのメンバーでは
大抵の場合はしのげるものである。
ましてダンテは魔法にも物理攻撃にも耐性があり
状態異常にもかからないという凶悪なまでの頑丈ぶりと
死を一度だけまぬがれるという、ヒーローさながらなスキルまで持っている。
それがあんな間の悪さで
普段ならかすり傷程度な魔法で
しかも他にも狙う連中はいたのにHP1のところをピンポイントで狙われて
もうありえないような形で初戦闘不能になったプロのハンターの胸中は
誰にも計り知ることはできない。
いやひょっとしたら、その一部始終を見られていたことが
ダメージを倍増させていた要因なのかもしれないが。
ともかくストックで赤字になっていたダンテに道反玉を使い
蘇生させてからジュンヤがディアラハンで全回復させてはみたものの
以後、ダンテの調子はあのまんまだ。
「・・・ハーロットを出してなかったのが唯一の救いだなぁ・・・」
「・・・ソリャシャレニナンネェ」
「・・・・・・(ジュンヤの靴ひもにじゃれている)」
もしあの現場にマザーハーロットがいようものなら
ゲラゲラゲラゲラ濁声でしこたま笑われまくり
制裁しようにも銃も剣も跳ね返され、電撃も吸収されるのでるので
死亡原因になったワールウインドで攻撃し、またイヤなことを思い出し
またゲラゲラ笑われ邪神の蛮声で体力を吸収されたりして
またワールウインドで攻撃してまた傷を深めるという
地獄の悪循環になっていただろう。
「・・・で、どうしようか。
あのままあそこに居座られると俺たちも動けないんだけど」
その問いに白い毛並みの聖獣はいい加減に同じ事を言うのも飽きたのか
何も言わずにジュンヤの肘に鼻をすりつけて甘え
変わりにマカミがポリポリと背中を掻くようなしぐさをして口を開いた。
「・・・ショウガネエ。ホトボリサメルマデ入レトクシカネェカ」
「でも・・・」
「マ、最悪骨ノ旦那(ブラックライダー)ガナントカシレクレルダロ」
「・・・・」
マカミの言うとおり、ストックにいるブラックライダーは
普段から言葉少ないが的確な助言をくれる魔人で
同じ魔人のマザーハーロットにも少なからず影響力を持っていた。
ダンテも馴れ合うわけではないが、それなりに一目置いている存在でもある。
このまま外にずっと出しておくより
彼のいるストックへ戻す方が状況はいいかもしれない。
それでもまだ心配そうな顔をするジュンヤの頭を
マカミが肉球のついた前足でぺそぺそ叩いた。
「ンナ顔スンナ。別ニオメェガ悪イワケジャネエダロ。
マ、コンナ事モアルッテナ」
「・・・うん」
ジュンヤはごふぁと大きなアクビをするビャッコから立ち上がり
なるべく刺激しないようにダンテの背後にそっと立つ。
「・・・じゃあダンテさん、ストックに戻すよ」
返事はないが、勝手にしろとか、知るか、とか思っているのか
白銀の髪が顎をしゃくるようにわずかに横に振れた。
ジュンヤは困ったように頬をかいて、その手を横に振ろうとしたが
「・・・あ、それと」
何か思い出したように手が止まる。
「こんな事言うのなんだけど・・・
ちょっとホッとした」
白銀が「・・・何が」と言わんばかりにほんの少し振り返る。
「ダンテさんも失敗することもあって
ちゃんと人っぽい所があるんだなって・・・ホッとした」
「・・・・・」
「ゴメン、それだけ」
振りかけていた手を再び一閃すると
赤い背中はすっとその場からかき消える。
しかし消える一瞬、黒い革手袋が軽く上げられたのを見て
ジュンヤはようやく、安心したように微笑んだ。
そしてしばらく後。
ダンテは戦闘に復帰した。
以前を上回るテンションで。
「HAHAHA!!
ナンセンス!!
オレより遅いゴミどもはムシダンゴにされるのが超絶お似合いだぜ!!
Show time!!」
雨のごとく銃を乱射し、かたっぱしからいろんな悪魔を串刺しにして
それでもまだ1人で暴れ回るダンテに心底げんなりした視線を向けながら
ジュンヤは「・・・串団子だろ」と黙ってツッコミを入れた。
しばらく見ないうちに一体何があったのかは知らないが
とりあえず原因のありそうなブラックライダーに目をやると
黒衣の騎士は・・・カラの目をさっとそらす。
間違いなく原因はこいつだ。
「・・・ブラック、何言ったんだ」
ややあって。
「・・・大した事・・・ではない・・・」
やはり視線をそらしたまま
フードに隠れた頭蓋骨からぼそりとした返答が来た。
「・・・ある言葉と・・・意味を・・・教えただけだ・・・」
「・・・なんて?」
ワールウインドのあおりでおこる強風でフードをはためかせつつ
ブラックライダーはどこか遠くを見るように・・・
「・・・・・倍返し・・・・・」
と
心持ち、申し訳なさそうに言った。
ガンガンガンガン
ドガシュ、ズガガガンドシュ
バンバンバンガガガガン
会話の間にも乱射された後の弾がバラバラと足元に転がって来て
そろそろ足の踏み場がなくなりそうだ。
しかも今いるのはスパルナのいないユウラクチョウ坑道なのだが
倍返し中のダンテにとってそんなささいな事は問題にならないらしい。
せまい坑道に場違いな銃声と、悪魔の悲鳴が反響する。
そんな中、まだ成長途中で速さの足らないビャッコが
自分の番が回ってこなくて退屈し、すでにジュンヤの足元で丸くなっていた。
元気づけるにも限度があるんだけどなとは思うものの
元気のないダンテもらしくなくて不気味でもある。
しかしやっぱり無駄にテンション高いダンテというのも
元狩られそうになった身としては気持ちいいものでもなく
だからといって元気のないダンテもらしくなくて不・・(以下略)。
・・・あのテンパリ魔人とうまくつき合っていくスキルなんて
マロガレにもマサカドゥスにも存在しないんだろうな・・・。
と頭を抱えつつ、身をかたむけたジュンヤの横を
何かの遺骸が凄い勢いで飛んでいき
背後の壁で文字にするにもおぞましいグロテスクな音を立てた。
そんなこんなでジュンヤはしばらく
人のなりして実は悪魔の自分より悪魔らしい半魔の背中を
ブラックライダーと一緒に黙って見守っていたが・・・
「・・・ま、いっか。飽きたら落ちつくだろ」
と、あっけらかんと言って
丸くなっているビャッコの所へぼすんと背中を落ち着けた。
実の所、人修羅ジュンヤ
本人に自覚はないが問題の魔人とのつき合いが
どこの誰よりうまくなっていたりする。
そうして待つことしばし
結局手持ちのMPが底をつくまでダンテの乱獲・・・もとい乱殺は続き
あまり働かなかったビャッコがいっこレベルアップ。
しかも働いてないのにギフトをくれた。
くれたのはMP回復のチャクラドロップ。
ジュンヤはそれを黙って
ものすごく複雑な心境を押し殺しつつ
ダンテにバレないようにアイテム欄へ押し込んだ。
ダンテ初死亡事件の実話。
ストックで赤字になった彼を見た時
「あぁ、この人死ぬんだ」と薄情な感心したのもまた実話。
これ書いてる間にダンテは芸人だと本気で思ったのもま・・(以下略)
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