「・・・なぁ、前から思ってたんだけどよ」

とある酒場、一つのテーブルに陣取っていた五人組のうち
最も体格のいい白い全身鎧の騎士がぽつりともらす。

目の前には今運ばれてきたばかりの料理。
他の四人の前にも料理と飲み物。
どれも食欲をそそるいい臭いをただよわせているのだが
空腹なはずの五人全員、なぜかあまりいい顔をしていない。

なぜかと言うと・・・

「なんで出される食い物って・・・たまーに腐ってたりするんだ?」

鎧騎士の発言に邪魔にならないように金色の髪をまとめていた女性
目を閉じて瞑想していた黒い忍び装束の青年。
剣の手入れをしていた女剣士。
イスの上で足をぶらつかせていた背の低いノームの少女。
それら全員の動きが一瞬止まった。

しばらく妙な沈黙が続き・・・


「ま、しかたありませんよ。腐っているものは」


五人のリーダー格である金の髪の女騎士エイリス。
身も蓋もない事をあっさり笑顔で言い放った。

「しかたありません・・・って、リーダーよぉ・・・」

同じく騎士で最も体格のいい発言者フレイラーは
白い兜も取らない頭を困ったようにバリバリかいて
向かいに座っていた背の低いノームの少女に視線を送る。

「でもお金前払いの料理でお腹こわすのも理不尽かもねー。
 別に食べたからHP回復するってわけでもないしさ」

会話に困った時助け船を出してくれるのは五人の中で唯一の異種族
攻撃魔法の使い手にして弓使いのサディナだった。

一般的にこの世界の酒場のメニューは食べ物、酒
どちらにせよランダムで腐っていて
当たれば毒状態。当たらなければなにも変化はない。
そのちょっといやな結果は食べるまで一切わからず
困った事に当たった時店に文句をつけるというモラルある選択肢は存在しないので
食うか食わないかは気分と自己責任の問題なのだが・・・。

「・・・では食わねばよいだけだ」

こともなげに冷たく言ったのは剣も僧侶系魔法も使いこなし
ちょっときつい物言いをする現実主義者の剣士アルリカ。

「でもよ、横で他人がうまそうに飯食ってて
 それを黙ってみてるだけってのもなんかむなしいんだよな」
「他人がうまそうに食事を取っているのをうらやましがり
 横で真似して運悪く当たっていれば本末転倒もいいところだが」
「・・・う」
「でもさリーダー、なんでみんな一緒に食事取るって決まり作ったの?」

サディナが言い出したのは五人で旅をするようになってからできた決まり。
酒場では必ず全員で何か一品注文するという決まりの事だ。

「え?言ってませんでした?」
「言ってない言ってない。ねえナカちゃん聞いてないよね?」
「・・・左様に」

今まで黙っていた黒装束の忍者ナカザワが
ちゃん付けされたのをちょっと嫌そうな顔をしつつ短く答えた。

「食事はみんなで取ると美味しくなりますし
 それにみんなで当たればこわくないって言いません?」
「言わん」

速攻で切り捨てたアルリカの手には、比較的当たりのないエリキシル。
この事に関しては回復役が解毒魔法が使えないと
教会に行く無駄な手間ができるので
何も言わないというのが暗黙の了解になっていた。

「ふふ、でも考えてみればこれもちょっとした冒険かも知れませんね」
「・・・命かかってねぇけど、なんか笑えねえ冒険だなそれって」

当初の『なぜ腐った料理が出てくるのか』という疑問は
天然リーダーエイリスによってもみ消され
後に残るは見た目には美味しそうな料理だが
ひょっとしたら腐っているかもしれないという
客商売にあるまじきロシアン風味の怪料理。


名前も妖しい。


ゴブリンのピューレ
ファントムプリン
ウルフチップス
てりやきワイバーン
デビルのクッキー
グールのスープ
etc・・・


一応ブタのスープ、グルメディナーBなど普通のメニューもあるにはあるが
ワイン、エールなどの飲み物ふくめ
やっぱりどれもランダムで腐っていたりする。

「ま、ともかく食べましょうか。
 あ、それと敵前逃亡は認めませんから」
「リーダー、さりげに脅迫してない?」

リーダーのエイリス。見た目おしとやかで美人だが
なにせ戦闘のエキスパート騎士。
あらゆる装備を身につけることができ最前線で魔法剣を振り回し
ドラゴンに殴りかかり死霊にケンカをしかける気性はダテではなかった。

「じゃあみんな、食べたらエレメンタルを倒しに行きましょう」
「げ!?またあそこ行くのかよ?!」
「しかたあるまい。レベル上げの効率があきれるほどよいのだからな」
「いいじゃない。暗い地下迷路ウロウロするより
 青空の下でのびのび戦う方が気持ちいいしねー」
「・・・うぉーいナカザワ、なんとか言ってくれ」
「手間と時間を考えると拙者は賛成派でござるゆえ」

などと言いながら全員目の前に置かれた料理に手を付け始め・・・


「・・・・!」


ガダッ!


突然ナカザワが青い顔をして口と腹を同時に押さえて立ち上がった。

「わ!ナカちゃんがヒット!」

デビルのクッキーをつまんでいたサディナが叫ぶと同時に
アルリカが素早く呪文を唱え、片手には魔法に消費するジェムを握る。

わずかな光と共にジェムは消え、ナカザワは顔色を取り戻した。

「・・・・・か・・かたじけない」
「貴様は色々と運の悪い男だ」
「馬鹿言え、俺なんか二回連続当たった事あるんだぞ?」
「そういえばいつかアルリカちゃんとリーダーが当たって
 教会に駆け込んだ事あったよね」
「・・・笑えませんでしたなあれは」
「それもこれも、みんな楽しい思い出ですね」
「楽しくない」

元の席に戻り食事を再開しながら切り捨てるアルリカ。


しかしこの妙な儀式は資金、体力がふえるごとに回数を増し
エイリスの楽しい思い出が仲間の食欲をけずりつつ
積み重ねられていく事をこの時まだ誰も知らない。









誰も知らんだろうスーファミ版マイトアンドマジックBook2の話です。
わかる人いないでしょうが、このゲーム好きな人いないかなぁ。
ストーリーもへったくれもないけど貧乏性にはぐっとくるゲームなんですが・・・。




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