「ピッチ、ライトマ。あ、それとちょっと休憩するからエストマも」
その言葉からちょっと遅れて暗かった周囲が急に明るくなり
さらにそこかしこにあった悪魔の気配が遠ざかっていく。
それと同時に今まで見えなかった神殿の内装
召喚されていた仲魔が見え、ほのかに発光していたジュンヤのタトゥーも
明るさに沈黙するかのように元の色合いに戻っていった。
気まぐれで来てみた黒い神殿だが
こうして見ると色彩的に案外落ちつく内装をしている事に気がつく。
「じゃあちょっと休憩しよう。誰かケガしてる?」
「オレは何ともない」
「平気平気!オレ平気!」
「私もだ」
そんな空間で遠足のような雰囲気をかもしだしているのは
ジュンヤとダンテ、フレスベルグにクロトの四名だ。
「に、してもクロトのヘルズアイ凄いなぁ。成功率もそこそこだし」
「・・・ほう?お前がそんな事を言うとは少々意外だな」
「え?なんで?」
不思議そうにするジュンヤにクロトはどこか楽しそうに微笑んだ。
「相手を目で殺すような戦いがしたいのだろう」
「・・ちっ、違うって!
ただ何度も殴らなくてすむから楽だなって思っただけで・・!」
「ジュンヤ!ガンビームガンビーム!メンタンキリキリー!」
「しないってば!てかどこで覚えたんだそんな言葉!?」
おそらく良くてミカエル、悪くてダンテあたりから聞いたのだろう。
そうしてひとしきり騒いだ後、そこでふと妙な違和感が生まれる。
それはこの場に一番入ってきてちょっかい出しそうな人物
つまりダンテが黙りこくっている事にあるのだろう。
ダンテが黙っている大抵の場合、機嫌が悪いか
その場とは全く関係のない別のことを考えているかのどちらか。
さっきまで悪魔を狩りまくっていたので前者はないだろうから
あるとすればおそらく後者。
「・・・どうしたのダンテさん」
また変な事を考えていたりしたらあんまり関わりたくないが
ほっておくとロクな事がない場合も多いので一応聞いてみると
ダンテは何か考えるように腕を組み直しながらこう切り出した。
「少年、前から思ってたんだが・・・ピッチってのは一体なんだ」
「え?」
ピッチ。それは仲魔の内の一体で、おもに集魔と退魔
光源と浮遊などのフィールド系魔法を担当している幽鬼のことだ。
本名はピシャーチャといって、身体の大半が牙のずらりと並んだ大きな口でできた
ちょっと見た目には怖い悪魔なのだが・・・
見た目はホラーなものの、戦闘に向くスキルをほとんど所持しないので
表に出ることはほとんどなく、ストックでずーっと根を張っている
ちょっと変わった仲魔なのだ。
「ストックで見なかった?」
「見てないな」
「変だな・・・ひょっとして怖がって隠れたんじゃないかな」
「オレは・・」
「何もしてないっていっても
時々殺気がダダ漏れしてるんだよダンテさんは」
「・・・職業柄だ。しょうがねぇだろ」
他の仲魔なら少なくとも一度くらいは一緒に戦闘を経験したり
ストックで見かけるなどして実力や能力などはだいたい把握している。
しかしジュンヤの呼ぶ悪魔の中で、唯一ピッチという名の悪魔だけが
ストックから魔法をほどこすばかりで姿を見たことが一度もない。
ストック内をきちんと探せば見つかるだろうが
戦闘能力の低い悪魔をわざわざ探す気力はダンテになかった。
「で?なに、気になるの?」
「・・・いや、前にオマエがアマラで衝動買いしたって言ったろ。
販売されてたっていう悪魔ってのがどんな奴なのか、少し気になってな」
「・・・ふーん」
そういえば「見覚えの成長」があって勝手にレベルが上がるので
わざわざ召喚する機会というのもほとんどないが
たまには虫干ししてやらないとカビか生えるかなと
ジュンヤはちょっとズレた事を考えた。
「じゃあたまにはちょっと出そうか。今エストマしたから安全だろうし」
言ってストックの気配を探してみると、それはすぐに見つかった。
いつも通りストックのすみの方でじっとしていて
時折思い出したかのようにうなり声を上げ、何かを寄こすちょっと変わった気配。
「ピッチ、外に出すけど大丈夫か?」
少しして
『・・・ヴ』
幽鬼とは基本的に会話はできないが
イエスかノーかくらいの事ならジュンヤにもわかった。
うなずいたような気配もあったので肯定したのだろう。
「いいみたいだ。じゃあクロトかフレス、どっちか交代で・・うわ!?」
「ジュンヤジュンヤ!オレ残る残る残る!ジュンヤといるいるいる!」
「わ、わかったってば!よせよもう!」
ぐりぐり頭をすりつけてくるフレスベルグの爪から
破かれそうになるハーフパンツを懸命に防御しつつ
ジュンヤは笑いをかみ殺していたクロトに言った。
「じゃクロト、ピッチと交代し・・・ってコラ!やめろったら!」
「ははは、まぁ精々頑張るがいい。
ただ退魔が解けてからゴグマゴグには気を付けろ」
主のこんな様子にもなれたのか、この中では一番新参者になるクロトは
あまり心配する様子もなく一応の忠告だけを残し、笑いながらその場からかき消えた。
そして一瞬後。
ドン!
たった今までクロトのいた場所に
オレンジ色の幽鬼が出現する。
のだが・・・
「・・・・・・え?」
「・・・・」
「??」
ジュンヤが目を丸くし
ダンテがほぼ条件反射で剣の柄に手をのばそうとし
フレスベルグがジュンヤの様子に不思議そうな顔をした。
姿形はわかっている。
一度見れば忘れられないような色と
ひょろりとした体格に身体ほとんどをしめる牙の並んだ大きな口。
そして頭から長く伸びた二本の触手の先には
きちんと機能しているかどうか怪しい目が一つづつ。
それはジュンヤも知っていた。
アマラ深界で物だと思って買った時
ストックにこの姿を見て心底びっくりしたのを今でも覚えている。
ただそれはかなり前の話で
ストック内で姿を確認した時の話であり
今の状況とはまた違う時の話であって・・・
・・・まぁ何を言いたいのかというと・・・
「・・・ヴ?」
思っていた以上にでかかったのだ。
ピシャーチャの身体のほとんどは口でしめられているとはいえ
手も足も人と同じであり、二本足で直立していてフォルムは人間に近い。
ユウラクチョウ坑道のヴェーダラも似たような形をしているので
大きさもそのくらい・・・つまり人よりちょっと大きいくらいだと
ずっと思っていたのがそもそもの誤算だった。
しかし実際の大きさは・・・
その腕の長さはほぼジュンヤの身長くらい。
身長は2メートルは軽く越している。
その気になればそこそこ大きいフレスベルグも丸飲みできそうな大きさで
どうしてこんななりで戦闘に向かないのか不思議なほどの大きさだ。
「・・・・・なぁ・・・ピッチ」
「?」
声に反応して、古い火星人を連想させる長い目が一つふらりとこちらを向く。
「・・・・育っ・・・たか?」
「・・・・・ヴーゥ」
枯れたような声で思わずそんなことを言ったジュンヤの言葉に
大きな手が左右に振られる。
勝手にレベルが上がるので最初はうなり声のトーンだけでしかわからなかった意志も
最近ではジェスチャーもまじるほどに成長していたりする。
しかもおそらくボルテクスで最も戦闘経験豊富な人修羅の配下を長い間やっていると
いくら戦闘に不向きとはいえ、身体能力だけならダンテにも劣らなくなってくる。
したがって・・・
ガチャ
「わ!?ちょっとダンテさん!!」
ほぼ無意識に銃口を向けてしまうのも
グロテスクな相手に銃口を向ける職業柄しかたないかもしれない。
「なにしてるんだよ!ピッチは補助要員だから無害なんだぞ!」
「・・・職業病だ。気にするな」
「とにかくやめろよ!フレス!ダンテさん止めて!」
「・・!バカ!そいつにそんなアバウトな命令・・!」
妖獣というのは基本的に知能があまり高くない。
どちらかというと本能を主体にした行動を取ることが多く
戦闘中こちらから会話をしても、外道ほどではないがあまり通じない。
妖獣では最高位にあたるフレスベルグもまたそうだった。
止めろと言われれば何をどう止めるかなど考えもしないし
相手が凄腕のハンターであろうと何であろうと知ったことではない。
つまりは・・・
「っ!こら!加減しろチキン!」
「止める止める止めるダンテ止める!」
以前つい油断して不覚にもむしられた髪と
最近狙われそうになっているコートのはじっこを
爪とクチバシの連続攻撃からリベリオンでガードするダンテ。
フレスベルグには物理攻撃は効きにくい。
かといってスティンガーで反撃してしまうとジュンヤの逆鱗に触れる。
容赦がない、というのは時と場合によっては厄介な代物だ。
「わかったわかった!やめるからコイツをやめさせろ!」
「・・・ホントに?」
「嘘言ってオレにメリットがあるか?!」
「フレス!ストップだ」
その一言にマシンガンのごとき猛攻がぴたりとやんだ。
「・・・・・・タチの悪いトリだ」
「条件反射で仲魔に銃口を向ける方が悪質だと思う」
言いながらジュンヤは飛ばずにてってと鳥ジャンプで寄ってきた
フレスベルグの頭を撫でてやった。
「ジュンヤジュンヤ!オレえらいえらいえらい?」
「うん、えらいぞ。ありがとフレス」
釈然としないのはダンテだ。
大体ごっつい鬼神やおっさんみたいな天使
元敵だった死神みたいなのやあんなグロテスクなものまで大事にしたがるジュンヤが
どうして自分に限りあぁも態度が違うのか。
あれから色々助けてやったんだから
そろそろなついてくれてもいいんじゃないかと
大の大人はそれを嫉妬と思いもせずに1人心で息を吐く。
「ともかくダンテさん、ピッチは大人しいんだからむやみに銃口向けないように」
「じゃあそのナリと口は何のためのものなんだか」
「・・・だーかーら、大丈夫だって言ってるだろ。
ほらこんなに大人し・・・」
がっぷ
長細い身体を叩いていたジュンヤの上半身が
言葉の途中、すぐそばにあった口の中へ消えた。
「ギャー!!ジュンヤ喰われた喰われた喰われた!!」
「言ってるそばからそれか!!」
言い忘れていたがピシャーチャは愛情表現が下手だ。
なにせ大好きな主人は自分よりはるかに小さい。
まぁつまり・・・甘噛みのつもりだったのだ。
しかしあんまり知能の高くない妖獣と
ホラーなものばかり狩ってきたハンターにそんな事わかるわけもなく・・・・
その後、ジュンヤごとブフダインしたフレスベルグと
リベリオンで斬りかかってジュンヤの足で白刃取りされたダンテ
あといきなり主を喰ったピシャーチャ含め
エストマの効果が切れるまで、ジュンヤ説教会が開催された。
マニアクスやってる人は大体持ってる・・・かもしれないあの子。
気まぐれで出してみるとそのデカさに驚愕な話でした
でも吸血使えるのでまったく戦闘できないというわけでもありません。
実際これ書いてる時点でダンテよりパラ高いですし。
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