「・・・あ。そう言えば忘れてた」
天までとどく高い高い塔の中。
各種族のトップクラスを片手で片づけていた主の口から
そんな意味不明な言葉が出たのは実に唐突な事だった。
ボルテクスが静天になるころ
ジュンヤは全ての仲魔をヨヨギ公園の広場で解放し
空を見上げ、目視でタイミングを計る。
「3・・・2・・・1・・・ピッチ」
「・・ゥイ・・・オァアアァ・・・」
そばにいた幽鬼が大きな口を震わせ音を紡ぎ出す。
それは戦闘には不向きだがその幽鬼だけができる魔除けの呪文だった。
「じゃ、次の静天まで自由行動。
何もないだろうけど何かあったらすぐ呼ぶから」
「承知」
「アイヨー」
「わかりました」
「自由自由!ジュンヤ自由!」
しかしそうやってそれぞれうなずいたり嬉しさにバタバタする仲魔の中
一人不思議そうな態度を取る魔人がいた。
「・・・少年、質問」
挙手したのはワケのわからないまま事を進められていたダンテだ。
「はいダンテさんどうぞ」
「今の今までバカ高い塔の中で、上級悪魔を片手で丸焼きにしてきて
それを突然こんな下級悪魔しかいない所で退魔のスキル使って
一体何をしようってのか、まったくもってオレには理解できないんだが」
ジュンヤはそう言われて少し考え、あぁそうかと頭をかいた。
「あ、そっか。そういえばダンテさん合体できなかったっけ」
「?」
眉をひそめるダンテにサマエルが横から長い首を伸ばしてきて説明を始めた。
「我々のほとんどは以前からジュンヤ様に従う悪魔が合体を繰りし
姿を変えて再度生み出された悪魔達。
ピシャーチャのような例外もいますが、皆ジュンヤ様の今から行われる行為を
合体時の記憶継承や口頭などで理解しているのですよ」
「ダンテさんより後に仲魔になったトールも知ってるんだよね」
「無論だ」
珍しく有利な立場になったトールがちょっとだけ誇らしげにうなずき
その代わりにダンテの機嫌が降下する。
「・・・ほぉ?つまりオレだけがのけ者か?」
「そんな大したことじゃないって。ただの昼寝だし」
「ひる・・」
この世界からすればあまりにのんきでそぐわない単語に
ダンテの言葉が途中で切れた。
「ボルテクスに夜はないから、いつ寝ても昼寝だろ?」
「・・・・・・ちょっと待て少年」
ダンテ再び挙手。
「はいダンテさん」
「オマエ悪魔だろ」
「そうだね。今のところ」
「デビルハンターのオレが言うのもなんだが・・悪魔ってのは寝るのか?」
「寝ないと思う。みんなそうだし」
「で、それでどうして昼寝なんだ?」
ダンテが仲魔になってからそれなりの時間は経過しているが
ジュンヤは眠るどころか、あくび一つもらしたためしはない。
「だって俺、眠らないんじゃなくて、眠れるから」
「・・・・」
あまり答えになってない回答をするジュンヤに
ダンテはしばらく考えて・・・
「・・・あぁ」
と、ようやくなんとなくだが納得する。
ジュンヤは元人間だ。
見た目と能力は悪魔の物だが
それはマガタマという生き物の寄生によって得る力であって
このボルテクスで悪魔と分類される生き物としてはかなり特殊な存在になる。
もし多少なりとも人間の部位がマガタマに浸食されずに残っているなら・・
必要ないにしろ睡眠という人間の行動ができても別に不思議はない。
「悪魔になりたてのころ、よくターミナル部屋で横になって寝たし
ずっと起きてても平気だから、別に寝るのが必要ってわけでもないけど・・・
たまにはぐっすり眠ってみたり、たまには夢でも見たいと思うんだ」
人間だった頃みたいにね
とジュンヤは少しだけさみしそうに付け加えた。
「じゃあ俺寝るから。ダンテさんもしばらく自由行動ってことで」
「・・も?この連中をバラすのか?」
「だってみんなに張り付かれてたら寝るに寝れないだろ?
それにみんなもたまには自由な時間がほしいだろうしさ。
だから寝るときはエストマかけて護衛を一体だけ。それがきまりだからね」
「キマリッツーカ協定ダロ」
ぺろんとジュンヤの上からマカミがのれんのように垂れてきた。
「ドイツモコイツモ保護欲強クテ離レタガラネェカラナ。
ドイツカ一体ニシボットカネェトユックリ寝ルドコロジャナインダトサ。
マーッタク、イツマデタッテモコンナなりシテモッテモテ・・」
「・・・こーらマカミ」
手を上げると布のような神獣はひょろりと手の届かない所まで舞い上がる
・・が、ブラックライダーの黒馬にシッポをぱくっと噛まれて変な悲鳴が上がった。
確かにジュンヤはめったやたらと仲魔に好かれる。
本来凶暴なフレスベルグにも、一辺倒なトールにも、堅物ミカエルもしかり。
見た目にはわかりにくいがピシャーチャにもなつかれているし
おまけに戦闘中やたら言葉の通じないはずの外道になつかれる習性まである。
そんなジュンヤと2人きりというのは彼を敬愛する者にとっては
確かに魅力的な話なのだろう。
・・・ま、実の所、オレもその手のたぐいなのかもしれんが。
そんなことを考えているダンテをよそに
ジュンヤは昼寝用の護衛を選ぶため、多くの仲魔達を見回した。
「えっとそれじゃあ今日は・・・」
これ以後はRPGっぽく選択式で。
一応ボルテクス時代の話なので父と兄はなしの方向で
仲魔と場所とかを変えつつ1対1の話を書く予定。
管理人の気分で増えたり増えなかったり増えなかったりします。
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