今日のような寒い日には、いつのまにか長い時間
意味もなく物思いにふける傾向がある。
動植物達があまり活動しないがために、静寂の時間が多くなるからだろうか。
それとも日の出る時間が少なくなってしまうからだろうか。
今私の部屋にある音と言えば、薪の燃える小さな音と
緋竜の筆が動く音がわずかにあるのみ。
・・・そういえばこの子が字の教えをこいに来てから、一体どのくらいの時間がたったのだろうか。
昨晩からの冷え込みで部屋の窓という窓を閉めきっているので
こもりきりではどうにも時間が掴みにくいのだが・・・。
・・・・・・、
ふと筆の音が止まる。
閉めきった窓から視線をもどすと、少し得意げに書いた字を差し出す緋竜がいた。
「・・・できたか」
受け取って赤い墨で間違いを正していく。
まだ覚えたての字が多く、当然間違いも多い。
しかし覚えが悪いわけでもない。この子は気弱な性格とは裏腹に意外と向上心は高いのだ。
私のあいた時間をうまく見計らい、こうして字や言葉を学びにやって来る・・・のだが。
「・・・はは、また線が一本多いな。これも点は五つもいらないぞ」
「・・・・」
「しかし大分間違いは減っている。もう少し頑張りなさい」
「・・・・(うなずく)」
頭を撫でて次の課題を渡すと、そこで再び静まり返った部屋の中に
薪の燃える音と筆の音だけがする静かな時間が始まった。
本当に静かな時間だ。
つい昨日まで呉と赤壁での軍事会議で激論を交わしていたなどとは
とても思えないほどに穏やかな時間だ。
雲が切れたのか窓からやわらかい日差しが差し込む。
まぁこんな時間も悪くはない。
むしろこのような静かな時間が長く続けばいいと思ってしまう。
そう思っている所、私は少しこの戦乱に疲れてしまっている証拠なのだろうな。
この子はそれを知っていて私の所へ来るのだろうか?
事実兄者の話によると、超過労働で疲れていた兄者の元に
外でつんだのだろう野の花と、茶菓子をかかえた緋竜がひょっこりあらわれ
黙って花を部屋中に飾り、茶菓子を分けて話し相手になり
その変わりに疲れと憂鬱な気分を持ってふらりと帰ってしまったと聞いた事がある。
諸葛亮殿が兄者と水と魚の関係であるのなら、この子は我らにとってはなんなのだろうか。
あいにくここ最近情緒というものに無縁だったので、良いたとえは思い浮かばないが
今の私にとってはちょっとした心休まる時間を運ぶ使者であることは確かだ。
ぼん
その時急に静寂の中に鈍い音が入ってきた。
何だ?外から何かが窓にぶつかったような音だが・・・。
立ち上がって見に行こうとすると、緋竜の方が先に立ち、しっかり施錠してあった窓を
開け方がわからないながらもなんとか開けて外を・・・
バス!
・・見た瞬間、何か白いものを顔面に直撃させた。
「げ!?なんで緋竜が出てくるんだ!?」
外から来る慌てたような声はおそらく翼徳のものだろう。
顔をふって白いものを落としている緋竜のそばに寄って外を見ると
昨日まであった外の景色が一面の銀世界に変わっているではないか。
・・・そうか、随分冷え込むと思っていたが、昨夜のうちに雪がふったか。
「こら翼徳、何をする」
「え?いや・・だって兄者の部屋から緋竜が出・・・っで!!?」
緋竜の頭に残っていた雪を落としながら、外でバツ悪そうに頭をかく翼徳を少しにらむと
言い訳を始める前に別方向から横っ面に豪速球が炸裂。
見ればいつからいたのか、馬超が忙しそうに次の玉をかき集めているではないか。
「貴様!!関羽殿をねらったあげく緋竜にまで害をなすとは何事か!!」
「だからわざとじゃねえ!俺はただ兄者に身体をあっためる方法を教・・ぐわ!?」
投げられた玉はほどよくしっかり固められているらしく、直撃しても真っ二つにしかならなかった。
「・・ってぇな!!
この!何しやがる馬鹿超!!」
「黙れ酒樽!緋竜の仇だ!このくらいですむと思うな!」
「ったくいちいち固ぇ野郎だな!やんのかコラ!!
」
「もとより貴様の理不尽な言い訳なぞ聞く耳持たん!!勝負だイノシシ男!!
」
「やってやらぁドハデ野郎!!
」
・・・・まったくこの二人は。
寒かろうが暑かろうがケンカをするにはおかまいなしか。
凄まじい勢いで雪の投げ合いを始めた五虎将二名に、私は白いため息をつく。
部屋の外でああも騒がれていては学問どころではないのだが・・・。
「・・・しかたない。緋竜、今日はここまでにしよう」
「・・・・。・・・・?」
うなずいた後、袖を引きながら外を指して首をかしげる。
・・・そういえば・・・緋竜はここへ来て雪を見た事がなかったな。
「これか?これはな、雪というものだ。
冬の寒い時に空気中の水が・・・・・・いや、雨の変わりに空からふってくるものだ」
説明してやると戸口から恐る恐る手を出して、積もっていた雪に手を触れ・・・
「!!?」
いきなり触れて冷たかったのか、びっくりして飛びついてきた。
「ははは!冷たいか。しかしそれは初めだけだ。
雪は雨とは違い服を濡らすことはないし・・・こうして手に持つことができるのだぞ」
「・・・・・」
そう言って一握り手渡してやると転がしてみたり臭いを嗅いだり
日にすかして見たり物珍しげにいろいろやって・・・
ばご
「ぐぬッ!!?」
「あ!
兄者わりーわりー!!」
「おのれ!またしても無関係な者に害をあたえるか!!」
「だーらわざとじゃねえっての!あたるかタコ!!」
「うるさいヒゲグマ!!」
・・・意識して投げる分にはほとんど命中せず
どうして流れ玉だけこうも見事に顔面に直撃させられるのだ翼徳よ。
「・・・・・」
「・・・はは、大丈夫だ。冷たいだけで痛くはない」
心配そうな緋竜の頭を撫でてやると
「お!なにやってんだ張の旦那!!」
などと大きな声で呉の斬り込み隊長、甘寧殿がどうにもよくない時に
騒ぎを聞きつけたのか姿を表す。
「おう!ちょうどよかった興覇!手伝え!!」
「よっしゃあ!なんかよくわからねぇが引き受けた!!」
さすが酒に酔って殴りあうだけの事はある(?)。
短いやりとりでもう徒党を組んで息のあった応戦を始めてしまった。
「なっ!?貴様ら!二対一とは卑怯ではないか!!」
「先にしかけてきたのはてめえだ!文句言うな馬鹿超!」
「馬鹿が馬鹿と軽々しく言うな!」
「オラオラ!どんどんいくぜぇ金色!!」
「俺は馬超だーっ!!」
・・・うぅむ。なにやら翼徳が二人になってしまったようにも見えるが
このままでは馬超が劣勢だな。
よし。
「緋竜、こういった日にする遊びに雪合戦というものがある」
「・・・?」
「頭を低くして雪で・・このくらいの玉を作り私か馬超に渡すのだ。できるな?」
少し考えてうなずいた緋竜を連れて、私は息も景色も白い世界へと足を踏み出した。
静かな時間も悪くはないが、たまには童心に返るのも悪くはないだろう。
「馬超、援護しよう。緋竜も手伝う。存分にやれ」
「おお!かたじけない関羽殿!」
「あ!てめぇずりいぞ兄者味方にしやがって!」
「先に増員を行ったのはそちらだ!!」
「ゆくぞ翼徳!手加減せぬぞ!」
「おっしゃあこれで対等だ!甘興覇いっくぜぇ!!」
「・・・・(馬超と関羽を交互に見ながらいそいそ雪玉を作ってる)」
そこから先は・・・実の所あまりに熱中していたのでよく覚えていない。
木や庭石を防護壁に緋竜の作った玉を、あちらの攻撃の合間に投げる。
飛んできた玉から隠れる。さらに投げかえす。隠れる。
この繰り返しだ。
ただそれだけの単純作業だというのに、たまに当たるあちらの攻撃になぜかムキになり
同時に久しく忘れていた無意味な楽しさというものがふくらんでいく。
しかもここには様々な方々がおられるゆえ、こういった事に加わる人員には事欠かない。
「あ!甘ちゃん何してるの?まーぜてー!」
「おう!いい所に来たな!玉作ってくれ玉!大至急!」
などと小喬殿があちらに加わったと思えば・・・
「おっ、なにやら懐かしい事をやっとりますなぁ!」
と、通りすがりの黄蓋殿もこちらに参戦。
さらに・・・
「あ!ずるいぞお前ら!俺抜きでおもしろそうな事しやがって!まぜろ!!」
「若!!またそのような事にかまけておられると都督殿が・・・!」
「よし太!お前むこうだ!権!周泰!お前らもあっちでいい!
手加減すんなよ!がんがんいくから思いっきりこーい!!」
「なっ!?ちょっ・・兄上!なぜこのような時にだけ統率力を発揮されるのですかー!?」
「・・・・(止めても無駄だと思ってるので流れ玉から権を守ってる)」
などと騒ぎながらも孫家の御曹司たちと近衛の者らまで参加してしまう。
あげくの果てには通りすがりの兄者に・・・
「・・・お前達、また多人数で一体何を・・・つっ!?」
ぬぉ!?よりによって拙者の玉か!?
「あ!すまぬ兄者!危険ですので頭を下げて下され!」
「よっしゃ!こっち来い兄者!雪辱戦だ!かまうこたねぇ!やっちまえー!!」
「・・・はは、ようし!雲長!かりは返すぞ!」
とうとう我が国の主まで参戦してしまったではないか。
何やら知らぬ間に大騒ぎに・・・痛・・・なってきてしまったな。
そしてさらに・・・
「え!?殿に・・関羽殿?何をなさって・・・??」
「ほほう!若僧どもがなにをしとるかと思えば」
「子義、周泰、お前達まで一体なにをやってる・・・」
騒ぎを聞きつけて現れたのは蜀呉の仲裁役趙雲と呂蒙殿。
そして将軍内で最年長の黄忠殿だ。
「お!呂蒙いい所に来た!突っ立ってないでこっち来い!上司命令!」
「・・・孫策様、蜀の君主を巻き込んで一体・・・たッ!?」
・・・あ。また拙者の投球。
あてずっぽうに投げたのに見事に当たってしまったな。
うぅむ・・・しかも呂蒙殿、しっかりこちらに気付いてしまったようだ。
「・・・えぇい、やむおえん!」
呂蒙殿、素早く判断して孫策殿の陣に参戦した。
原因は・・・どうやらまた拙者のようだ。
・・・わざとではない。わざとではないが・・・・・・
その気もないのに周囲を巻き込む兄者に似てきてしまったのだろうか?
「・・・ふむ。わしは張飛らの元へ行くが、趙雲、おぬしはどうする」
「え!?私も参加義務があ・・」
どが!!
っ!?
誰だ!あんな大玉(スイカくらい)を投げつける奴は!?
「子龍!!そんな所に立つな!!邪魔だ!!」
・・・・馬超、おぬし親友に向かってなんという・・・。
「かっかっか!決まりじゃな!友軍と合流じゃー!!」
黄忠殿が倒れた趙雲を引きずって敵陣へ持っていかれるが・・・
うぅむ、仲間内で妙な溝が生まれねばよいのだがな。
「・・・よろしいのか馬超殿?かのお二方は親しい方なのでは・・」
「かまいません!障害になるのなら味方であっても倒す!これぞまさに臨機応変!!」
「そ・・そうゆうものでしょうか?」
・・・・・・騙されとりますぞ太史慈殿。
「がははは!!若いもんは元気があってよいですなあ!
孫権様、もう少し気張って投げてはどうじゃ、こん・の・よ・う・・・に!!」
ぶん
そう言って黄蓋殿の投げた一抱えはあろうかという玉は
放物線をえがきながら見事あちらに届き
ついで何か蛙のつぶれたような悲鳴と鈴の鳴る音が聞こえてきた。
犠牲者はおそらく甘寧殿だろう。
「うお!?気をつけろ!黄蓋だ!!あいつ普段から物投げなれてるぞ!
呂蒙!なんか策考えろ!趙雲はまだ起きねえのか!?」
「若大将そいつ貸してくれ!無理にでも起こす!甘!趙雲!起きろ!寝てる場合かコラぁ!!」
翼徳、また無茶をするつもりではなかろうな。
頼むから味方内で溝を深めることは避けてもらいたのだが・・・。
「いよぉーーし!!
次いってみよーう!!」
「・・・黄蓋殿、一応兄者もおられるので手加減していただけまいか?」
「ははは!こんなもので怪我をするやわな連中などおりませぬわい!」
では次の投球・・・」
「うああーー!!?
黄蓋殿!!それはなりません!!」
せっぱ詰まった太史慈殿の声にふと見れば
黄蓋殿がまさに今投げようとしていたのは雪ではなく・・・
例の黒い物体。
「幼平ーーー!!」
孫権殿の大声と同時に周泰殿が素早く反応し、電光石火の勢いで
黒い物から火種の部分だけを間一髪で斬り飛ばした。
「黄蓋ーー!!
それを味方陣内で持ち歩くなと申したであろう!!」
「いやはや、イカンイカン!ついいつもの癖で」
「そのいつもを改めぬか!幼平が何度誤爆に巻き込まれたと思っておる!」
「ははは。そういえば不思議と黄蓋は周泰と行軍する事が多くて
しょっちゅうコゲては呂蒙になぐさめられておるからなぁ。おい権、私にも玉をくれ」
「あ、はいどうぞ・・・って、何をしているのですか父上ー!?」
そこには一体いつまぎれ込まれたのか、呉の総大将孫堅殿がおられるではないか。
「何を、と言っても・・・これだけ騒いでおいて何をしているも何もないだろう。
仲間に入れてもらった・・おっと!だけだが?」
「一国の君主たる者がごく当然のごとくこのような事に参加なさ・・・わ!なんだ幼平!?」
「・・・護衛対象が増えました。・・・防ぎきれませぬので頭を下げて下さい」
かく言う周泰殿も拙者同様体格がよく、孫権殿の護衛に専念していたので
実は誰よりも被害が大きかったりするのだが・・・。
ゴキ
・・・ん?
何か今雪玉以外の激突音がしたような・・・。
「あ・・・あの!関羽殿」
なにやら困ったような唖然としたような声で太史慈殿が指した先には
倒れて緋竜に肩をつつかれている馬超が。
「・・・どうした、何があった?」
そう聞くと緋竜はそばにあった何か小さな物を指差す。
そこにはカチカチに固められた雪と、中心に・・・
毒玉(LV3)。
・・・・・・。
・・・・さては趙雲だな。
「・・・緋竜、つねって起きないようなら雪を顔に思いきりまいてみなさい」
「はははは、五虎将筆頭は荒っぽいのだなぁ」
「何分荒っぽい連中ばかりなのでしかたありませぬ」
「なるほど・・・おっと!権!なにをしている応戦せんか!」
「・・・太史慈・・・」
「・・・申し訳ありません孫権様。・・・もはや私の手には負えませぬ」
「・・・・・(孫権優先で孫親子護衛中)」
「がははは!しかしさすが黄忠殿の玉は正確ですなぁ!」
「・・・・・(馬超の顔をつねってる)」
しかし外見は堅固実直な呉の国も
水面下の事情というものは様々なようだな。
子供のようなケンカをし、つまらぬ事で騒ぎあうのは
我々だけの事だと思っていたが・・・
「か・か・・・・かんうどのぉ〜〜!」
・・・誰だ情けない声を出すのは。
ん?飛び交う速球の下をヤモリのようにズルズルはって来るのは・・・姜維ではないか。
「どうした姜維、こんな所へ」
「それは私の台詞です!皆様見当たらないと思えばこんな所・・・
あ!
緋竜!鼻に指をつっこんだらダメですメッ!!
あーあーしかもこんなに雪だらけになって・・・ぬれたままで運動すると風邪をひきますよ!?」
しかしこやつ、自分では母ではないと一生懸命否定するくせに
叱ったり顔を拭いてやったり、やっている事はどう見ても母親なのだがなぁ。
・・・・ん?
これはどうした事だ、攻撃が・・・やんだ?
黄蓋 「はて?一時休憩ですかな?」
孫堅 「それはおかしい。あちらには策がいるというのに攻撃を止めるわけがなかろう」
孫権 「父上、そろそろ戻らねば皆が心配しませんか?」
周泰 「・・・・(嫌な予感がするので警戒中)」
姜維 「え!?殿や黄忠殿や趙雲殿とまで戦っておられるのですか!?」
関羽 「・・・いや、そんなつもりはなかったのだが、いつのまにか(私が)巻き込んでしまってな」
太史慈 「馬超殿!馬超殿!起きて下され!早く起きねば緋竜にイタズラされますぞ!」
緋竜 「・・・・(馬超にかける雪を集めてる)」
などと攻撃のない間にそれぞれ話をしていると
突然緋竜がはっとして上を見、次に周泰殿が同じく何かに反応して上を見上げる。
何かと思い私も上を見ると
上空からこちらに向かって無数の点がだんだん大きく・・・
・・・・。
・・・まさか!?一斉投下か!?
「ふせよ!!」
頭を守り、横にいた姜維を頭を地面に押し付けた直後・・・
ぼだたたただばただぼだだたーー
それはもう例えようのない音があたり一面に響きわたり
背中、肩、腕、所かまわずこれでもかと言わんばかりに鈍い衝撃が
ボコボコぼこぼこ立て続けに襲い掛かる。
・・・なるほど。攻撃の手が止まったのは防護壁を越える玉を一斉に投げ込むための準備か。
おそらく先程孫策殿が言われた呂蒙殿の策であろう。
しかし・・・・・・効いたぞ今のは。
「・・・っははは!これはこれは、なかなか思い切った事をするものだ」
「ぬぅ・・・しかし考えてみれば、あちらには元気印が多いですからなぁ!」
孫堅殿は鎧を着込んでおられるし、黄蓋殿は鍛え方が違うのか
さして何事もなかったように雪の中から出てこられた。
「よ・・幼平!大丈夫か!?」
「・・・・・・・・問題ありません」
「・・・いっ・・・たたぁ・・・鼻に入った・・・・」
孫権殿をかばっていた周泰殿も、相当被弾して雪まみれになってはいたが
君主と同じく鎧のおかげで事無きを得ているようだ。
姜維も私の横で顔から雪を落としているが大した被害は・・・・
・・・・は!
緋竜!?緋竜はどうした!?
あの子は我らと違い戦事に無関係な完全な一般人だというに!?
「緋竜!どこにおるか緋竜ー!!」
「・・・・・こ・・・ここにおります」
その苦痛まじりの声がしたのはすぐそこにあった白い盛り上がり。
そこからゆっくりと赤い鎧が起き上がり、その下からほぼ無傷の緋竜が
少し驚いたような目をして出てきたではないか。
どうやら近くにいた太史慈殿が、とっさに身を盾にしてかばってくれたらしい。
「太史殿、無事であったか?!」
「はは。なぁに、俺は見ての通りの重装備ですからな。これくらい何ともありません」
「・・・・・」
「よしよし、心配せずとも平気だ。お前こそ怪我はないな?」
緋竜はうなずいてから太史慈殿の雪をはらおうと手を伸ばそうとしたが
はたと何か思い出したような顔をし、近くにあった小山を凝視する。
・・・?はて、そこに何か・・・
「・・・・・ぐっはーーーーッ!!?!?」
・・・あ、そういえば馬超を放置したまますっかり忘れていたな。
おそらく顔面に連続直撃弾をくらったあげく、生き埋めになりかけて目がさめたのだろう。
顔を押さえて立ち上がり、頭から湯気が出んばかりに怒声をあげ始める。
「
誰だーーッ!!人が気絶している間に攻撃して
あげく生きたまま土葬にしようとした奴は!!」
・・・誰・・・と言われても、あちらの布陣全員の攻撃だから特定できんぞ。
しいていうなら、おぬしが先程邪魔だからとなぎ倒した趙雲が
直接の原因なんだが・・・・・ま、あえて言うまい。
「おんのれーー!!この恨みはらさずにおくべきかー!」
「こらこら若僧、やみくもに出ては集中攻撃にあうではないか」
「しかし黄蓋殿!!」
突進しようとした所をつかんでくる黄蓋殿に馬超は何かいいたそうな顔をするが
横から孫堅殿がぽんと肩を叩き、落ち着ちついた様子でこう切り出される。
「計略に対して力で対抗するのは上策ではない。
計略は時として感情をも逆手に取り足を切断する刃となる。
我ら武人は今までそれを嫌と言うほど思い知らされてきたでのではないのか?」
「ぐ・・・」
・・・?孫権殿と太史慈殿、何か遠い目をしておいでだが
何か思い当たるフシでもあるのだろうか。
(周泰殿は緋竜との距離を取ろうとしていてそれどころではない)
「よし!あちらがその気ならこちらにも考えがある!
姜維!!何か考えろ!!」
「え!?考えがあるなんて言ってどうして私にふるんですか!?」
「ちょうどそこにいたからだー(力一杯指さす)!!」
・・・馬超、その意味も根拠もない自信は一体どこからやって来るのだ。
「関羽殿〜!なんとか言ってくださいよぉ!」
「しかし・・・この中で最も兵法に長けているのはおぬだしなぁ」
「うーむ、こうゆう時周瑜がいればよい案を思いつくやも知れんのだが」
「・・・父上、それ以前に兄上が巨大な落雷にみまわれます」
「そう言えば都督殿、ここ最近会合続きでカリカリしとったようじゃしなぁ・・・」
「姜維殿お急ぎ下され!うかうかしておると第二波が来ますぞ」
「・・・わ、わかりましたわかりました!では皆様お耳を拝借・・・」
作戦会議中。
といっても皆で輪になってうずくまり、はたから見ると
近所の子供が悪巧みをしているような妙な会議なのだが。
孫堅 「・・・なるほど。あちらの人員を考えると無難だな」
黄蓋 「おもしろそうですな。わしは賛成ですな」
馬超 「よし!受けて立つ!よくわからんが!」
太史慈 「そうですな、私も異存ありませぬ」
孫権 「少々荒々しいが・・・兄上や甘寧がいるとなると妥当な線か」
関羽 「うむ、私も異議はない」
周泰 「・・・承知」
緋竜 「・・・(よくわからないけど反対する気なし)」
満場一致か。
これほどすんなり案が通ってしまうのも珍しいな。
「では皆様、何分これは未熟な私が考えた案です。
あちらには経験豊富な呂蒙殿もおられますので、くれぐれも油断なさらぬよう」
「うむ、わかっておる。だが近縁同士で戦うというのもまたとない機会。
勝ち負けなど二の次だ。そうであろう権」
「・・・それは・・・そうですが・・・」
「孫権殿!生返事などされていてはあちらの酒樽に背後から首をしめられます!
気をしっかり持たれよ!」
「さ・・・酒樽か??」
「はは、わが義弟、張飛の事にございます。あやつは何よりの酒好きで
酒に酔っては暴れて馬超と喧嘩しては周囲に迷惑をかけおるもので」
「お、それはまた奇遇ですな。弟君と同じではないですか」
「黄蓋!!」
黄蓋殿の言葉に孫権殿が過敏に反応する。
・・・?翼徳と同じ?
という事は孫権殿、そうは見えぬが・・・酒癖が悪いのか?
「えぇい!余計な話を蒸し返すな!!行くぞ幼平!うまくやれ!」
「・・・・・は」
「ははは、照れる事でもないだろうに。では我らも行くとするか」
「よぅし!ではきりきり参りましょうかな!」
「関羽殿いざ参りましょうぞ!」
「う・・うむ、わかったからあまり大声を出すでない馬超」
「では太史慈殿、緋竜をお願いします」
「わかり申した。姜維殿もお気を付けて」
ともかく我々は姜維の考えた策を実行するため
今まで布陣していた場所を離れ、それぞれの役割を果たすため
各自そっとその場を離れた。
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