そうして我々が防衛線から離れ各自で移動していたころ
相手方陣地ではこのような会話があったらしい。


孫策  「・・あれ?なんだか急に静かになったな。さっきの一斉投下が効いたのか?」
張飛  「そうかぁ?さっき馬超が何かわめいてやがったから、やり返してこねえはずねえんだが」
甘寧  「くそ!あんのそり込みオヤジ!直接ブチ当ててやらねえと気がすまねぇ!!」
劉備  「ははは、皆元気だなぁ。私などはもう腕がだるくなってきたから明日は筋肉痛だな」
呂蒙  「あまりご無理をなさらぬよう。たまに小喬様と玉作りを交代して下さい」
小喬  「ねぇねぇ趙雲さん。さっき何か固そうな物投げなかった?」
趙雲  「気のせいですよ気のせい(・・と言いつつ雪玉に何かつめてる)」
黄忠  「こりゃ甘寧!あまりゴソゴソ動くでない、位置がバレる!」


・・・・よし、見た所休戦状態のようだ。

しかけるなら今か。


「翼徳!!勝負のつかぬ攻防戦にも飽きたであろう!!
 正面から尋常に勝負といこうではないか!!」


物影から飛び出し一声上げると、聞きつけた翼徳が
ためらうことなく庭石の影から飛び出してきた。

おうよ!コソコソ隠れるのも飽きてきたところだ!行くぜ兄者ぁ!!

よし、まず一人目。

次に同じく隠れていた孫堅殿が声を上げる。


策!ちょうどよい機会だ!この父に思う所あらば、存分にぶつかってまいれ!!」
「おっ!オヤジもいるのか!こりゃおもしれえ!」

黄蓋殿は声をかけるより先に甘寧殿が気付いた。

「あ!おいコラそり込みオヤジ!!さっきはよくもやりやがったな!」
がははは!!あれしきよけれられず何をほえとるか若僧めが!」
「言いやがったな爆弾魔!
その口叩けないようにしてやらぁ!


孫策殿と甘寧殿も乗ってきた。

あと残るは・・・。


「・・ご老体、よもやこのような形であいまみえる事になろうと・・うわッ!!?」
ぶぅわかもん!!何度も言うがわしゃまだまだ現役じゃ!!
 四の五の言わずかかって参れ青二才が!!」
「・・・っ、承知いたした!太史慈、参る!!」

・・・黄忠殿、自分より年下(つまりここにいる者全員)はすべて
青二才の3文字でくくられてしまうのだな。

ともかく、四名おびき出し成功。


そもそも姜維の考えた作戦というのはこうだ。


『・・・えぇと、まず一ヵ所に固まるとあちらも攻撃地点をしぼりやすいので
 こちらは全員散開して挑発にのってきそうな方、張飛殿、孫策殿、甘寧殿
 黄忠殿ものってきそうですので、この四名を敵陣から孤立させます。
 残るは殿と趙雲殿に呂蒙殿に小喬様ですが、まず攻撃力の高い前者を
 防衛線から引き離し・・・』


「援護攻撃ーーー!!」

「のわッ!!?」

派手な動作で転がり出てきた馬超の放った一撃が、見事翼徳に直撃した。

「げ!馬鹿超!?てめぇどっから出てきた!?」
「笑止!敵をあざむくにはまず味方からだ!!」


・・・・馬超、使い方が違うぞ。


「・・悪く思うなよ翼徳。この勝負・・・早々に決着させてもらう!」
「うわっ・・!こ、この!はめやがったなーー!?」


それはそうだ。そのために二人一組になったのだからな。


「・・いって!?え!?権!?お前なんで!?」
「・・・兄上、確か思いきり来いと言われたのを覚えておいでか?」
「ははは!無礼講だ権!遊びに兄も弟も父もあらず!いざゆくぞ策ーー!!」
「ひっでーー!?だからって二人がかり・・ぎゃーー!?


どわっ!あ、周泰!?てめぇ何してんだよ!?」
「・・・・援護」
「がははは!あいにくこちらにも計を練る若僧がおっての!ちとはめさせてもろうたわい!」
「へっ!二人がかりだろうが何だろうがそんなもんでこの・・」


ごす


と、強がろうとはしたものの、周泰殿の投球は異様に早く
黄蓋殿の作る玉はやたらに大きく、反撃する間も強がる暇もあたえられない。

甘寧殿、悪く思うな。これはあくまで遊びなのだから恨みっこなしである。


「ぬ!?こら何やっとるか緋竜!?」
「・・・・・・・(太史慈見てから)お手伝い」
「将軍、ここは戦場ではありませぬが父と娘、この際関係なしですぞ!!」
「ぬぬ・・!」

残るは兄者、小喬、趙雲、そして・・・


ばこ


・・・っ!?

攻撃!?どこからだ!?

翼徳から視線をはずし見回すと、赤い鎧と無造作に纏め上げられたクセの強い髪が目に入る。
そこには今しがた何か投げたような構えに不敵な笑みをうかべた呂蒙殿が。

「・・・注意力が散漫しておいでだが、この程度の策で慢心でもされたのかな?」


むかっ


「・・・心配めされるな、この程度酒に酔った翼徳を
 取り押さえるに比べれば・・たやすい!!」
「あまり過信されておると足元をすくわれま・・せんか!!」
「ご忠告・・感謝する!!」

おたがい投げてはかするきわどい攻防が続く。

・・・それにしても妙であるな。
何かこの呂蒙殿。べつに話の合わぬ仲でもないのだが
不思議と意味のない敵対心が、心の中で消えぬ火種のようにくすぶるのだ。

翼徳で言う所の「なんとなくいけ好かない野郎」・・・というわけでもないのだが・・・
ともかく翼徳は馬超にまかす事にして、予定変更!

「よかろう!関雲長、お相手しよう!!」
「呂子明、参る!!」

と、言ってはみたが、双方持っていたのはいつもの武器ではなく
片手で固めただけの雪の塊。あまり様になるものでもない。


いい年の大の男が持つにはむしろ変だ。


だが!この関羽雲長!五虎将筆頭、遊びとは言え負けてはおれぬ!

参りますぞ無精髭殿!! (←ささやかな悪口・・・のつもり)



そこからまた記憶が途切れる。

後で兄者や小喬と貧相な攻防戦を行っていた姜維の話によると

まず力のぶつかり合いとなった甘寧殿と黄蓋殿の対決は
冷静で執拗な周泰殿の援護によってやむなく(ヤケクソ気味に)甘寧殿が降服。

黄忠殿と太史慈殿の勝負は、補助をしていた緋竜がなぜかやたらに流れ玉に当たり
それを太史慈殿が守るのに必死になってしまったため勝負にならず
結局の所太史慈殿が降服を宣言。

それを知った馬超が逆上して猛攻撃を開始し
翼徳もさすがにこれ以上は体力の無駄と感じたのかようやく降服。

だがその直後、馬超今度は烈玉入りの雪を直撃させられ陥落。
首謀者と見られる趙雲もそれを期に戦線離脱を宣言したそうだ。

孫家のお方々は・・・これまたまるで子供のようだと姜維は語った。

何分長男は部下が心配するほどに元気がよく負けず嫌い。
父は父とて江東の虎、当てられれば倍にして返せ!とばかりに走り回る。
次男も父の教えを忠実に守り、普段の威厳はどこへやら
衣服を雪で白くしながら当たらないまでも、かなり粘り強く抵抗を続けていたそうだ。

その間、お付である太史慈殿は、声をかけると巻きこまれかねんと無言を通し
小喬は姜維を追い回していて、周泰殿は大笑いする黄蓋殿や甘寧殿の横で
静かになりゆきを見守っておったそうだが・・・。

最後には父子弟取っ組み合いでぎゃあぎゃあ言いながら服の間に雪を詰め合い
最終的に勝利したのは協力者であったはずの次男をも屈服させた父だったそうだ。


そして残るは我らのみ。


・・・しかし呂蒙殿、なかなかに手強いのう。
もう手元の雪も底をつきそうだというにあきらめの悪い!

「・・・呂蒙殿、もう降服なされては・・・どうだ!?
 髪がバサバサで落武者のようですぞ!?」
「そちら・・・・こそ!ご自慢の髭が雪まみれで、まるで妖怪ですが!?」


ぐぬぬ・・・先程からさりげなく気にしている事をズケズケと!


「往生際が悪いですな呂蒙殿!!」
「お互いさまですぞ関羽殿!!」

む!また外したか!

「・・・おーいおっさーん、一体いつまで続ける気だぁ?」
「知らん!関羽殿に聞け!」

甘寧殿の声にややヤケ気味に怒鳴る呂蒙殿。

そう言えば呂蒙殿、昔は粗暴であったと聞いた事があるが・・・

「もしや昔の血が騒ぎますかな!?」
「はは!そうかもしれませんな!」

粗暴な性格にはまず間違いなく負けず嫌いというものがついてくる。
よってその勝負なかなかつかず、ただお互い体力だけを消耗するかに見えたのだが・・・

ちょっとそこのオッサンども!
 どっちもいい大人なんだから、もう引き分けにしたらどうなの!?」

戦場となっていた庭ぞいの渡り廊下から飛んで来た高めの声。

む?あれは・・・孫尚香殿ではないか。
しかも珍しく前掛けなどをしておられるが・・・

「よお!なにやってんだよ尚香!仮装大会でも・・うおわッ!?
違うわよ!!大喬がみんなして騒いで遊んでるから
 お腹すかすだろうと思ってお昼作る手伝いしてたの!!」
「わ・わかったわかった!わかったから麺棒を投げるな!な!」

・・・しかし噂には聞いていたが、少々乱暴な姫君だ。
実の兄に物を投げ、自分より大きな男連中に臆する事無く声を荒げるのだから。


・・・しかもオッサンどもか?


私は頭をかきながら同じように困ったような顔をしていた呂蒙殿と
同時に苦笑いをした。

「・・・どうやらここは、引き分けておいた方がよいかな」
「・・・ですな。姫様を怒らせては、それこそ遊びではなくなりますからな」

「あ、そうだ兄様達と父様、さっきから中で周瑜がお待ちかねよ。
 かなりしぶーーい顔してたけどね」
「げ!?」
「兄上!!」

おぉ、さすが兄弟。兄を捕らえる行動がじつに素早い。

「勘弁してくれ権!俺こないだあいつにしぼられたばっかりなんだぜ?!」
「なりません!元はといえば兄上がまいた火の粉ではありませんか!」
「ははは!まぁ久しぶりによい汗をかきよい合戦をして私も楽しかった。
 少しなら取り成してやるからそう怯えるな策」
「けどよぉ・・・」

それでもまだ不安げな孫策殿に、なぜか今までおとなしくしていた緋竜が寄って行き
手をつつきながら身振り手振りで何かやってみせる。

「・・・え?今度は周瑜も入れてやれってのか?」
「・・・・・」
「そっか。ま、口うるさいのも心配してくれてるんだろうな。
 わかってるって、おいてけぼりになんてしねえよ。安心しな」

・・・噂には聞いていたが、確かに不思議な光景だ。
魏延との場合は双方ほぼ無言であるがゆえ大した違和感はないが
孫策殿はもの言わぬ緋竜に対して元のわからぬ言葉を一方的に放つ。

黄忠殿が言うには「馬鹿だからわかるんじゃろう」との話だが・・・。

「・・・兄上、何も言っておらぬのになぜわかるのですか?」
「んー、いや別に。なんとなくそうなんじゃないかなーって思うだけだ」

なんとなく・・・か。

そう言えばその言葉、緋竜や魏延からもまれに聞くことのできる言葉だな。
理由もない、根拠もない、非常にあいまいな言葉だというのに
緋竜のまわりにあるそのあいまいさ、不思議と真実味を増してくるのはなぜなのだろうな。

「ま、いーじゃねえか!わかってりゃーな!」

そう言いながら孫策殿は、緋竜を持ち上げ赤子をあやすように高く上げた。

「兄上!乱暴は・・!」
「孫策様!赤子ではないのでおろして下さい!」

孫権殿と馬超が止めようとするが、当の緋竜はというと嫌がりもせず楽しそうだ。

それに気をよくしたのか、はてまた慌てる弟君と馬超がおもしろいのか
孫策殿、阻止しようとするのをうまくかわして・・・・。

「よっしゃ!黄蓋パス!!」


ぶん


ぬぉ!?投げた!?


「兄上ーー!?」


孫権殿の絶叫と共に緋竜は軽々と宙を飛び
言葉通り黄蓋殿にしっかり受け止められた。

だがそれですめば苦労はしない。

どっしゃー!ほれ張飛!!」

間髪入れず今度は翼徳の方へ投げられた。

・・・まったく、いくら軽いからとはいえ物ではないのだから
ぽんぽんと投げて回すのはどうかと・・・

おっしゃ!ほれ次そこのでっかいの!!」

これこれ、翼徳もあまり悪乗りが過ぎると・・・

・・・・。

・・・でっかいの?


でっかいの(張飛より大きい者) = 拙者   周泰殿


・・・周泰殿!?


「翼徳!やめ・・!」
「酒樽・・!」

馬超と声が重なるがすでに遅かった。

元々軽い緋竜は翼徳の怪力で空高く飛び、ぼーっと突っ立っておられた周泰殿の方へ。

確かに体格からして受け止められぬ事はないが
だが黄忠殿の話によれば周泰殿は・・・!

「・・・!!」

一瞬孤刀の柄に手をかけようとした周泰殿だが
思いとどまったのか柄の上で拳を作ってそのまま止まる。

だがそれでは!

誰もが動く事ができなかったその瞬間
ただ一人翼徳が行動をおこしてから冷静に判断して動いた人物がいた。


「周泰!さがれ!!」


力強い檄が飛ぶ。


その人物は硬直する周泰殿と飛んできた緋竜の間に走り込み
うまく緋竜を受け止めると、衝撃を殺すために後へと転がり
さらに横転してさがった周泰殿のすぐ手前で止まった。

「・・・つっ・・・軽いからとはいえ・・・勢いがあるとやはり痛いな」

背中に雪をはりつかせながら身を起こしたのは、先程激闘を繰り広げていた呂蒙殿だった。

「さっすが呂ちゃん!ひりゅうちゃんの危機につよーい!」
「伊達にガキの世話になれてねえな!」
「小喬様はともかく・・・甘寧、お前は自分の事を棚に上げるな」

などと言いながら立ち上がると、呂蒙殿は背後で今だ硬直していた周泰殿の腕を軽くこづく。

「抜刀しなかったのはいいが、身体が固まるのはまだまだなれぬ証拠だな」
「・・・・・・・すみません」
「気にするな。大事にならなかったのだからそれでいい」

緋竜はというと呂蒙殿と周泰殿のやり取りを不思議そうに見るだけで
何事もなかったような様子だった。

「はは、その様子だとこんな事は日常茶飯事か」

そう言って呂蒙殿は緋竜の頭を幾分乱暴に撫でた。


・・・ふう、一時はどうなる事かと思ったが・・・
さすがに都督まで勤められた知将だな。


貴様ぁーー!!度重なる緋竜への粗雑なふるまい!
 今日という今日は勘弁ならん!
そこへ直れ!成敗してくれる!!
「だあぁ・・・まぁーた始まったよ馬鹿超の過保護癖」
「貴様の行動は保護過保護の域をとっくに越えている!!
 そもそも貴様以前に黄将軍から話をきいて大笑いしていたではないか!!」
「へ?そうだっけ?忘れた」
「そんな重要なことを忘れるなーー!!」

・・・馬超、翼徳、頼むから他国の方々の前で恥をさらすでない。
尚香殿が口を押さえて必死に笑いをこらえておるし・・・。

「・・・あ!そういや忘れてたついでに思い出した!
 興覇!ゴタゴタしてあれ作るのすっかり忘れてた!」
「お、そういやそうだな。いやーちょっとおしい事したかもな」
「・・・なんの話をしておるのだ一体?」

そう聞くと翼徳が子供のような笑みを向けてこう答えてきた。

「兄者はガキの時やった事ねえか?ク○入りの爆弾玉」


・・・・・。


「俺はやな奴がいたら絶対やったぜ!まぁ手近なのは馬の○ソなんだが
 犬とか猫とか牛とかもけっこう臭いが残っていい嫌がらせになるんだよな!旦那」
「おう、作るにゃちょっと勇気がいるが、当たった時に・・・」


ごん


「いっでーー!?なんで殴るんだぁ兄者!?」
「ったー!?なにすんだよおっさん?!」

「「多数の高官婦女子のいる前で下品な語源を発するな」」

呂蒙殿と拙者、ゲンコツも同時、叱る理由も同じ。
身体の大きな問題児(?)をかかえるのもまた同じとは、なんとも因果なものだ。

「ぷっはーーー!!もうだめ!耐えらんない!
 あんたたち変!おかしい!
あははははは!!

黙って見ておられた尚香殿がとうとう耐えきれなくなったのか
腹を抱えて大爆笑。


・・・もはや弁解の余地もないな。


「こらこら尚香、そう笑うな失礼だろう」
「だ・・・だって父様!蜀の人って!こっちと・・・おもしろい人!」

笑いをこらえつつの言葉なのでいまいち聞き取りにくいのだが
まぁ何を言わんとしたいのかは大体察しが・・・・


ぎゅう


・・・?


いきなりしがみついて来たのは・・・・緋竜ではないか。

「どうした、寒くなったか?」
「・・・・」

頭を撫でながらそう聞くと首は横にふられる。

「私はすっかり暖まってついた雪が溶けてきてしまった。
 これでは早く着替えないと風邪をひいてしまうな」
「・・・・」
「しかし部屋にこもるよりは良い運動にはなったな。
 どうだ、楽しかったか?」
「・・・・」

こくこくとこちらの言葉には相槌はうつが、いつもは一生懸命見上げて意志を伝えようとする
緋色の目が一向にこちらを見ようとはしない。


どうかしたのだろうか。元気がないように見えるが・・・。


不思議に思い口を開こうとすると
先に滅多に話さないはずの緋竜がぽつりともらす。


「・・・楽し・・・かった・・・」


それは聞こえるか聞こえないかの消え入りそうな声。


「・・・楽しかった。・・・みんないて・・・遊んで・・・笑って・・・みんな一緒・・・」


しがみつく力が少し強くなる。


「・・・うれしかったの・・・だから・・・先生・・・呂ちゃん・・・だから・・・」


・・・?
緋竜?


呂ちゃん・・・とは小喬の言う所の呂蒙殿の事なのだろうが
何か言いたそうで言えないような物言いをするのはなぜなのだろう。

かと思えば今度は急に拙者の元を離れ、呂蒙殿に飛びつく。

「お、おい」

ただなついているにしては・・・行動が突発的ではあるな。


・・・・・。


まさか・・・。


「呂ぉー蒙殿ーー!!肩にゴミがついておりますぞーーー!!」


すこーーん!


馬超・・・おぬしの嘘はわかりやす過ぎて嘘になっておらん。

そもそも肩にゴミがついておるのに確かな殺気をきらめかせ
顔面に雪を投げつける奴があるか。


「もしもし皆さーん!いつまで遊んでおられるのですか?お料理がさめますよ!」


注意しようかと思うと今度は尚香殿より幾分低い声が飛んでくる。

見れば同じく渡り廊下で呉の若手軍師陸遜が
手伝いをしておったのか前掛け姿で・・・・

・・・・。・・・というか・・・・

「・・・お前、なんでそんなに違和感わかねえんだよ」

おそらくその場にいた全員の気持ちを甘寧が代弁してくれた。

「いいじゃないですか別に。似合わないより似合う方ですよ。ねー呂蒙殿」
「・・・なぜ俺にふる」

呂蒙殿が腕に緋竜を付けたまま顔をしかめる。

「ま、それはともかく皆さん早く中に入ってそのひどい格好を何とかしてから卓について下さいね」
 あ、緋竜さん、桃饅食べますか?」

む、この若者、緋竜を餌で釣る事を学んでおるか。

なぜか持参しておった桃饅で呂蒙殿から緋竜を切り離し・・・
・・た瞬間、馬超が横から緋竜を素早くひったくる。

「ははは、そう心配なさらなくても取ったりしませんよ」
「ッ!
違う!!別に・・・その!何となくだ!!」

言い訳の仕方が子供以下。
いつまでたっても嘘と弁解のヘタな男だな。

「あぁ、そういえば孫権殿や太史慈殿も、緋竜をみそめたと聞いたが本当か?」


兄者ああぁーーー!!
よりによってこの大人数で
最も(隠しておいたのに)言うてはならん事をぉーー!!



「ほぉ?そうなのか権?」
「そうかそうか!これは意外!この朴念仁にも春がきとったとはのう!」
「ち!父上違い・・・!いえ違わなくもないのですが違わぬような・・・(混乱中)!」
「ま!待って下され黄蓋殿!それはあくまでその・・・あれで!ですからでなく(錯乱中)!」
「あらら、取り乱し方が尋常じゃないってことは兄様、部下の好きな子に横恋慕?それとも逆?」
「ぬあぁー!どうして呉の方々はこうも次から次へと!」
「・・・これ趙雲、雷玉は却下じゃ。周囲が迷惑するぞ」
「あ、ばれましたか」
「さーてと!さすがに冷えてきたな、熱いの飲んであっため直すか興覇!」
「お!いいなそれ。乗った!」
「・・・・(馬超が権に乱暴しないように見張ってる)」
「ねねね!姜維さんは太ちゃんと権様どっちがひりゅうちゃんに合うと思う?」
「いえその・・・私に聞かれましても・・・」
「ははは!迷う所だよな!太は融通きかねえがいいやつだし権も固いけどいいやつだしな」
「では間を取って呂蒙殿という手もありますが」
「・・・陸遜、あまり話をかき回すな」


・・・はぁあ。ダメだ。
こうなるとしばらくはわけのわからない口論が止まらない。

この寒い中、半数以上が雪まみれだというに・・・
いっそ騒ぐ連中全員まとめて湯の中に蹴り込んでやろうかという
わけのわからない気まで起こる。

「ははは、皆様楽しそうで良き事だな」


・・・・兄者・・・あなたと言う人は・・・。


悪気がないというのもある意味悪意があるより恐ろしいものだ。





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