「ん?どうした雲長、顔色が悪いぞ?」
「・・・・いいえ、なんでもござらぬ(相当無理な作り笑い)」
「それにしても緋竜は面白いな。ほとんど口をきかぬのに
 誰にも好かれ周囲をにぎやかにしてしまう」
「・・・そうですな」
「のう雲長、あの子は・・・嵐を呼び、雨を降らせ、命の源たる水を与えてくれる
 その名の通り、緋色の目をした竜なのかもしれんな」


嵐を呼び、水を与える・・・か。

・・・それでは姜維が名づけたままだが
しかし・・・あながち冗談とも言いきれぬ表現だ。


「はいはーい、安全地帯到着。あ、関羽さんも蚊帳の外だったんだ」

桃饅を片手にしていた緋竜の手を引いて、尚香殿が騒ぎから抜け出してくる。
どうやら揉め事にまき込まれぬよう避難させてくれたようだ。

「さてと、楽しそうな人達はほっといて先にお昼にしましょ」
「え?しかし・・・よろしいのですかな」
「いいのいいの!先に席につかないとおかずの取り合いになっちゃうし
 劉備さんも関羽さんも緋竜ちゃんも争奪戦て苦手でしょ?」
「ははは、ごもっとも。よくご存知ですな」
「笑い事じゃないでしょ劉備さん。しっかりしないと戦場で甘寧にはねられたり
 策兄様チャージ1のまきぞえになっちゃうわよ?」


・・・やられかねん、兄者なら。


ん?緋竜が・・・こちらへ来る。


少しためらった後、いつものように少しだけ袖を掴むが
掴むだけでやはりこちらを見ようとはしない。

私は先程感じた思いをまとめると、目線を緋竜に合わせ頭を撫でた。


「緋竜、先程私の先を・・・最後を見たのだな」


緋色の目が驚いたように見開かれ、直後うっすらと涙がたまる。


この様子からして緋竜の見た拙者の最後、あまりよいものではないようだな。


「何を見たのかは聞かぬ。だがな・・・私は兄者や翼徳、軍師殿や五将の面々
 皆と出会い共に生きてきた事を嬉しく思う。もちろん、おぬしも含めてな」
「・・・・・」
「人は遅かれ早かれいずれ最後の時が来る。
 だから私はいずれ来る最後に悔いを残さぬように今を作らねばならん。
 それに・・・おぬしの見た先はあくまで先の話なのだ。
 よいか緋竜。先という未来は可能性の一つにすぎぬ」


少し難しいのか首をかしげる緋竜だが
なんとなくわかるのか目は真剣なものだ。


「だからそう悲観する事ではない。むしろおぬしが不安そうな顔をすると
 逆に不安にかられる者が増える」
「・・・・・」
「緋竜、今を大切にせよ。そして見た先が暗雲ならばそれを悲しむ前に
 そうならぬがために今できる事をするべきだ。よいな?」


少し難しい話だったかとは思ったが、緋竜は目をごしごしこすり
わかった、とばかりにしっかりうなずいてくれた。


拙者の行く末、どうやらあまりよいものではないと見える。
だが教え子にああ言ってしまった以上拙者としても
無様な最後を見せるわけにもいかなくなってしまったな。


今を大切にし、今できる事をするべき・・・か。


ふふ、なにやら拙者の方が勇気付けられる言葉を教えてしまったな。


「関羽さん、何してるの?早く着替えないと風邪ひくわよ」

尚香殿の声にふと我に返ると、兄者と尚香殿が拙者らを階段のそばで待っている。

「・・あ、すみませぬ。ただいま参りま・・」


ぴん


歩き出そうとすると袖が動かない。
見れば緋竜が兄者らを見たまま少し呆けたような顔をしておるではないか。

「緋竜、どうした。ゆくぞ」
「・・・・・」

?・・反応がない。

何か遠くを見るような目で兄者らの方を・・・

・・・!

よもやまた!?


「緋竜、早く来なさい。風邪をひいてしまうぞ」


兄者が手を差し出して緋竜を呼んだ。


と、次の瞬間緋竜は拙者の袖から手を放し小走りに二人の元へ行き
なぜか兄者と尚香殿の手にしがみつく。

「え?なに?どうしたの?」
「はは、何だ、何かいい事でもあったのか?」

兄者の言う通り、緋竜は何か嬉しそうに二人を交互に見るだけで
何も言わず手も放さなかった。


・・・緋竜、もしや兄者と尚香殿の先を・・・。


「ま、いっか。ほら関羽さん!早くしないと争奪戦にのまれちゃうわよ」
「・・・あ、うむ。只今参ります」


あの子は先を見るが、見る先を自分では選べない。
悪い先もあれば良い先も見る・・・ということか。


あの様子から察するに、兄者と尚香殿の先は悪いものではないと見える。

だが未来は現在の行動によって作られるものだ。


兄者らの先を守るため。

拙者の最後を悲劇で終わらせぬため。


どうやら拙者は今より2つの先を考えて行動せねばならぬらしい。

・・・まったく、困った教え子をもったものだ。

ま、困った教え子を持つのもそれまた一興か。

そう思いながら拙者は今だ騒ぎ続ける蜀呉の面々を背に
仲良く手をつなぐ兄者達の後を追って歩き出した。









・・・すみません、私が悪うございました(血涙)。
人数増やし過ぎてもうわけがわかりませんでしたよな話でした。


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