多少礼儀に欠ける挨拶じゃったが、それでも孫権殿は事情を察してくれたらしく
怒る事なく少し表情をゆるめてこう言うて下さった。
「兄上を発見して捕獲に協力してくれたそうだな。礼を言うぞ」
「・・・・」
・・・ありゃ、またわしの背後に逃げ込んでしまいおったか。
「あ!・・これこれ!・・・すみませぬのう。気弱な上に照れ屋なものでして」
「・・・・・・え?・・・あぁ、いや、私は別にかまわない・・・」
む?孫権殿、何やら様子がおかしいが・・・。
わしの横から顔だけ出しとる緋竜をじーーっと見とる。
まだ見とる。
しかも顔が少し赤い。
・・・・・・・・・。
もしや・・・・。
「お、なんだよ権。気に入ったのか?」
わしの考えを兄がそのまま口に出してくれた。
「!!あ・・兄上!!」
「そっかー!お前その手の事には無関心だと思ってたけど
そのくらいおとなしい子が好み・・・」
「ちっ違います!!別にそうゆうわけでは・・・!」
「てれんなよ!クソ真面目な太だってその子にホの字なんだぜぇ?」
「っ!!?若!!何を根拠にそのような!!」
「ほー?お前否定すんのか?おーい緋竜!こっち来い!」
などと呼ばれて素直によって来た緋竜を突き出しながら
先程の様子はどこへやら、水をえた魚のように楽しげに尋問を始める長男坊。
「ほれ!お前ウソつくのヘタクソだろ!いいからキリキリ自白しやがれ!」
「え!?いや!ですからその!ホの字とか好きとかの問題ではなく・・・!
権様がみそめられたのなら、私としては身を引く次第で(まきぞえの墓穴)・・・・」
「ちょっと待て太史慈!!私はそこまで言っておらん!!」
「あ、じゃあ権様、太ちゃんに取られてもいいんだ」
「だから取るとか取らぬとかみそめるとか・・・ぬあぁ!!会ったばかりの娘だというのに
早々色々勝手に決めつけるな無礼者ーーーー!!」
弟君逆ギレ。
堅実な次男坊も色恋沙汰には弱いと見える。
青いのか青くないのか、老けた見た目ふくめて微妙なお年頃じゃのう・・・。
「あ、言っとくが呂蒙も候補に入ってんだぜ。
なんたって今んとこ一番気に入られてるのは呂蒙なんだからな」
「「何(ですと)ー!?!」」
その一言で今の今まで傍観を決め込んでおった呂蒙殿に矛先が向く。
「呂蒙!今の話はまことか!?」
「呂蒙殿!そなた一体いつの間に!?」
「・・・いえ、私はとくに皆様の期待にそえるほどの仲とまではゆきませぬが
その子からはよく背後をついてまわられる事は多々あります」
「「それはつまり好意を持っていると?!」」
「・・・いえ、ですから期待されるほどのものなのかは、その子も幼いがゆえ私にも
おそらく本人にもわからぬものでして・・・」
「あ、ずるーい!呂ちゃんはぐらかしてる!」
「よし権!今のうちだ!この中で身分はお前が一番上だから
今のうちに手つけとけば誰も文句いえねぇぞ!」
「ですからどうして今会ったばかりの娘にそこまで話を飛躍させるのですか!?」
「負けるな太ちゃん!高嶺の花になる前にぱぱっとめとっちゃえー!」
「んなっ!?小喬様!!何をそのような勢いにまかせて・・めと・・めとるなどと・・・!!」
「・・・小喬様、孫策様。少々からかいが過ぎますぞ」
「馬鹿言え呂蒙!俺は真剣だ!!な!権もまんざらじゃ・・ねえだろ!!(背中ぶったたく)」
「っつ・・!!兄上ーー!!
」
・・・・・・。
・・・・あ、なるほど。今わかったわい。
小喬のやつめ、緋竜を呉の誰かと結ばせて手元に置いておく魂胆じゃったな?
それで今日婿候補を物色させるために、わしと緋竜を引っぱりまわしておったのか。
じゃが残念ながら元々その策略は成功するものではない。
なぜかというとじゃな・・・・。
くいくい
すっかり置いてけぼりになって戻ってきた緋竜が袖を引き、こんな事を聞いてきよる。
「・・・・ちちうえ、めとるって・・・なに?」
こんな事を真顔で聞いてくる娘をおいそれと他国へ嫁に出せるわけなかろうに。
「・・・そうじゃな、その答えはお前にはちと早い。
もう少し人のイロハを学んでから教えてやろう。それまで誰にも聞いてはならんぞ?」
「・・・・・」
「むずかしく考えんでもよい。ようはあとで聞いてのお楽しみじゃ」
お楽しみ、というのが気に入ったんじゃろうな。
緋竜は少し考えた後、嬉しそうにうなずいた。
・・・それにしても長ーい口論じゃのう。
一応呂蒙殿が仲裁に入っておるが、たきつけ役が二名おる上に
ご本人も話題のネタ上にあがっておるので馬鹿騒ぎはなかなかおさまりそうにない。
しかたないので唯一騒ぎの外に出されておった周泰殿に頭を下げる事になる。
「いやはや・・・申し訳ないですのう。
お忙しい所火に油をそそぐような事になってしもうたようで」
「・・・・いえ」
あきれてものも言えんのか、それとももうなれてしまっておるのか
返された言葉は極端に短いものじゃった。
しかしその次にちょっと意外な言葉が相変わらずの無表情から放たれる。
「・・・・しかし・・・よいと思います」
「ん?」
「・・・孫権様は・・・呉のため、部下のため、お家のため、いつも数えきれない事に
気をはらっていらした。・・・・・だから・・・・・あれも良い事だと思うのです」
少々わかりづらいが・・・ようするに孫呉という大きな旗の事を忘れて
たまにはああして兄弟で大騒ぎするのもいい事だ、と言いたいらしい。
ぎゃあぎゃあ騒ぐ兄弟、その部下、幼な妻を見るその時の周泰殿の横顔は
・・・わしの気のせいかもしれんが、短い付き合で見る内で最も穏やかな表情をしておった。
「あ!そうだ緋竜!お前、別名カタブツ殺しってのはどうだ!!」
「兄上!!」
「若!!」
「・・・孫策様」
いきなりふって沸いた長男の提案に、当事者お三方の声が見事に同調。
・・・というか・・・自覚があるのか?孫権殿、太史慈殿、呂蒙殿。
っとと。・・・んん?どうした緋竜?なぜわしにしがみつく??
「・・・え?どした?気に入らなかったのか??」
「・・・あぁ、孫策殿。この子はおそらく『殺し』の部分が本当に人を殺すと思うたのでしょうな」
「いっ!!?」
などと言う間に緋竜はわしの服に顔をつけて、ぎゅーと抱きつく力を強めてきおる。
「あーー!!策様泣かしたーー!!」
「ちょ、ちょっと待て小喬!!俺はそんなつもりで言っ・・!」
むおん
慌てて弁解にかかる孫策殿のむこうで、臭って来そうなほど強烈な怒気が立ち昇る。
発生源は言うまでもない。
いつのまにやら虎撲殴狼を持ち、光を収束させ無双ゲージをためとる太史慈殿に
抜き身の剣(皇狼剣)をさげ、もはや弟とは呼べぬほど恐ろしい形相をした孫権殿じゃ。
「・・・若・・・あなたという方は・・・女子を傷つけるほど落ちぶれましたか!?」
「・・・あーーにーーうーーえーーッ!!」
「んなッ!!?ちょ!ちょっと待てお前ら!!なに殺る気満々のかまえとってんだよ!!?」
「「問答無用ーーー!!!」」
気合と同時に重装の近衛と孫呉御曹司は次期呉王に飛びかかる。
「どぉわッ!!?あぶねーー!!」
しかし腐っても孫家長男(失礼)。
すんでの所で手加減ナシの同時攻撃を回避し、続けざまの連続攻撃を
二人相手にもかかわらず、運動能力があるのかうまく流して逃げておる。
「やめんか子義!権様も落ち着いてくだされ!!」
「ちょっと!策様死んだらおねえちゃんが悲しむーー!!」
さすがに危険と感じたか呂蒙殿と小喬が止めに入るが、鬼神2名は我を忘れており
孫策殿は逃げるのに手一杯なのでなかなか止める事ができんようじゃ。
・・・・まぁ確かにカタブツ殺しじゃな。
・・・・別の者も殺しそうになっとるが。
付け方はまちごうてはおらんな。うちの馬超は確かに堅物じゃ。
太史慈殿も真面目で孫権殿も確かに堅い所があるようで
呂蒙殿も多少柔軟じゃが・・・やはり堅いやもしれん。
しかし緋竜、何も殺しと付いただけで泣く事なかろうに。
あくまで言葉の使い方というか、もののたとえであってでなぁ・・・・・・
ぼそ
なでてやろうとした緋竜の頭に、横からわしの物ではない大きな手が落ちてくる。
見ればいつからおったのか、手の届くぎりぎりの範囲に周泰殿が立っておるではないか。
緋竜を克服したのかと思いはしたが、緋竜が顔を上げた際に少し身を引いた所
どうやらそうでもないようじゃ。
しかし頭にのせた手はそのままとどまっておるので少しは進歩したといえるかのう。
「・・・・殺しはしない」
低く重い、しっかりした声が緋竜のはるか上から出る。
「・・・・言い方が悪い。・・・・命をとるのではなく・・・心をとらえるという意味だ」
少し難しいのか首をかしげる緋竜から手をどけ、何を思ったか周泰殿は
鎧についておった朱色の飾り羽を一本とって差し出す。
「・・・・つまりは・・・・好かれやすい」
「・・・・・」
差し出された朱色の羽を受け取り、緋竜はかなり高い周泰殿の顔を見上げる。
周泰殿、今度は引く事はなかった。
朱色の羽が風に吹かれて小さくゆれる。
「・・・・それだけだ」
周泰殿はもう一度緋竜の頭に大きな手を置くと
まだ走り回っておる連中の方へゆっくりを足を向けた。
太史慈殿は呂蒙殿と小喬が取り押さえたが、孫権殿はまだ兄を追い回しとる。
おそらくそれを止めにいくつもりじゃろう。
残された緋竜は少し赤くなった目で小さな羽を凝視しておったが
ふいにわしの方を見上げ、首をかしげた。
「・・・そうじゃな。おぬしは確かに好かれやすい」
「・・・・・」
「じゃが迷惑か?」
「・・・・・」
「嫌な事か?」
「・・・・・」
どちらの問いにも首は横にふられる。
「ならばよいではないか。おぬしが命を取らぬ事は、わしがよーうしっとるからな」
「・・・・・」
それは以前城が奇襲された時の事じゃ。
その時たまたま皆がおらん時の強襲だったので、緋竜はわしと共に退路確保のため
やむなく弓に矢をつがえておったのじゃが・・・。
押し寄せる敵兵に気が動転し、半泣きになりながらも放っておったこの子の矢は
敵兵の身体には一発たりとも命中しておらんかったのじゃ。
もちろんそれは悪い意味ではない。
命中したのはすべて身体意外の部位。
つまり兜の飾り、肩当て、剣、槍、戟という当てる方が難しそうな場所ばかりに当て
しかも武器類に関しては歯の部分だけを破壊し、使い物にならなくするという
妙技をみせておるのじゃ。
無意識か、それとも腕のなせる技なのか、結局この子はあの混乱時に
誰一人傷つける事無く、そしてほとんど矢を無駄にすることなくのりきったのじゃ。
あの状況下でそのような芸当ができる子に、人の命など奪えるわけがないじゃろうて。
「なぁに、気にする事はない。孫策殿はほめてくれたのじゃよ。
おぬしは心の堅い人の心を取る・・・つまり好かれるやつじゃとな」
「・・・・・」
「それに周泰殿ががんばってはげましてくれたというのに
おぬしがそのような顔をしていてよいわけなかろうが、ん?」
「・・・・!」
ぐりぐりと頭を撫でると何を決心したのか、緋色の目が強い意思を表す。
そして緋竜は朱色の羽をにぎりしめ、まだ逃げ回っておった孫策殿の元へ
一直線に走って行き・・・。
「うおっ!!?っと!?」
走った勢いそのままにその背中に飛びつきおった。
「え!?なんだなんだ??」
「ぬおおーー・・・っつ!?」
「・・・・・・」
その勢いで孫策殿は急停止したが、それと同時に背後にせまっておった孫権殿は
周泰殿が横から身体ごと捕獲した。
・・・やれやれ、ようやくおさまったか。
緋竜はまだ孫策殿の背中にぶら下がったまんまじゃが。
「・・・へ?何?なんでお前があやまるんだよ?」
「・・・・」
「いや・・・その・・・俺の方が悪かったって。ごめんな、さっきのは俺が悪い」
「・・・・・・・」
「はは!いいっていいって!お互い様って事だ!」
・・・これは驚いたのう。
孫策殿、物言わぬ緋竜と会話を成立させておるではないか。
あぁして目も合わさずに緋竜の無言から何を言わんとするかを感じ取るのは
わしらの中でも魏延ぐらいにしかできぬというに。
おうてから日の浅い者には、とてもできる芸当ではないのじゃが・・・・。
・・・・・・・・。
ひょっとして何も考えとらん馬鹿・・・・いやいや、無心というやつなのじゃろうか?
「まぁ皆様、見当たらないと思えばこんな所にお揃いでしたか」
ふと水の流れるような静かで涼しげな声がやって来る。
見ればいつ来られたのか丞相夫人の月英殿が
いくつかの書簡をかかえて静かにたたずんでおるではないか。
「孫権様も孫策様も召集時間はとっくに過ぎていますよ。どうかなさいましたか?」
「はっ!?しまったぁ!!?
」
今の今まで兄を追い回し、周泰殿にはがいじめにされ暴れておった孫権殿が
真っ先に我に帰り、緋竜をぶら下げておった孫策殿の腕をひっつかんだ。
「幼平!太史慈!呂蒙!行くぞ!孫家直系じきじきに遅刻したとあっては末代までの恥だ!」
「・・・・・・は」
「・・え!?あっ・・はい!」
「・・・やれやれ」
「・・・?・・・」
「へ?何?俺も?」
・・・気のない返事の上に緋竜がまざっとるぞ。
そう言えばまだ孫策殿の背にくっついたままじゃったな。
「・・・あ、すまないがおりてくれ。兄上はこれから大事な話し合いがあるのでな」
「・・・・・(素直におりる)」
「その・・・なんだ。いろいろすまなかったな。兄上が迷惑かけたようで」
心底すまなそうな孫権殿に緋竜は静かに笑って、さっきもらった羽を
指で回しながらこんな事を言いおった。
「・・・でも・・・いい人・・・」
「・・え?」
「・・・ここの人、みんないい人・・・怒らないで・・・いいと思う・・・」
ぽつりぽつりとごくまれな緋竜の声が、短いながら言葉をつむぐ。
「・・・だから・・・一人じゃないから・・・みんなと・・・がんばって」
孫権殿が驚いたように兄を掴んでいた手を離した。
それはおそらく・・・・あまり一人で何もかも背負おうとしないで
周泰殿や呂蒙殿、太史慈殿や周瑜殿、呉にはいい人材がたくさんおるから
皆の力をかりて皆でがんばれと言いたいのじゃろうな。
こやつめ、初対面でこの次男坊の苦労を見ぬいて心配しよるか。
・・・まったく、それじゃからおぬしは好かれやすいんじゃ。
ほれみろ。孫権殿、完全に見る目が違ってきておるではないか。
「な、権。いい子だろ?」
「・・・・兄上」
「ばーか!からかって言ってるんじゃねえよ。
こいつ会ったばっかりだってのにお前の苦労よーく見て心配してやがる」
「・・・・」
「ついでに言っとくと俺も前にこんな事言われたんだぜ。
『・・・あせらなくても・・・その人はその人にしかならない』ってな。意味わかるか」
「・・・兄上は父上にはならない。兄上は兄上にしかならない。
あせらずにゆっくり・・・孫呉を守れ・・・という事ですか?」
「ま、そうだな。精神年齢が子供の考えることには思えねえが・・・悪かねぇよな?」
「・・・・当然です」
「素直じゃねえな!このやろ!」
「うわ!?」
しかし・・普段別行動が多いので気付かんかったが
あぁして肩を組んでじゃれておると、確かにあの二人・・・兄弟じゃな。
緋竜は兄弟の前で心なしか嬉しそうに笑うとるが・・・
あの子の見えない力というか行動力には、いまだに不思議なものを感じるのう。
「お?そういやお前何大事そうに持ってんだ?」
弟の首根っこをかかえこんで顔をつねっていた兄が
緋竜の手にしていた朱色の羽に気がつき、その体勢のままずるずるよっていくと
緋竜は少し嬉しそうに羽をゆらす。
「・・・羽?そんなもんどうしたんだ?」
「・・・・もらったの」
「誰に?」
黙って目を向けた先にいたのはもちろん、先程から静かに
事の成り行きを見守っておった周泰殿じゃ。
「え”!?周泰が・・・物やったのか!?」
「幼平お前・・・!?」
「周泰殿!?」
「・・・・・・はぁ〜」
・・・・う、まずいのう。また余計な騒ぎが始まってしまいそうな気配がしよる。
太史慈殿も何か言いたそうじゃし、呂蒙殿は額押さえてため息ついとるし・・・。
・・・周泰殿、周泰殿。目だけそらしとらんで、なんとか言って下され。
「あの・・・お取り込みの用事ができたのなら、欠席の意は私が伝えておきますが」
おぉ!神様仏様月英様!今まで黙って見ておったのはともかく、ようゆうて下さった!
「え!!?あ!いいえ!!これからすぐ参るので!!お気づかい感謝する!
・・・幼平!そちらを持て!呂蒙!太史慈!足を頼む!」
「わ!ちょ!ちょっと待て!自分で歩けるっての!」
「ダメです!若の逃走に気をはっていては、権様の精神が会議まで持ちませぬ!」
「一理あります・・・よっと」
「・・・・・・・」
・・・大の男を大の男四人がかりで持っていくつもりか。
まぁあの落ち着きのなさではわからんでもないが・・・。
「こらお前ら!これが兄貴と上司にする態度か!?」
「きちんと職務をなさる上司ならこのようなことはいたしませぬ!!」
「右に同じです」
「・・・・・・・」
「ゆくぞ!!連行ーーー!!」
「待てこら!俺は狩られた熊か!?はーー
なーーせーーー!!」
ガチャ
ガチャダカダカ・・・
わっしょい!わっしょい!
・・・・・・・・・・・・・。
なんというか・・・あれ・・・これから一緒に戦をする連中なんじゃのう。
いや、失礼かもしれんが・・・大丈夫・・・か??
「ふふ、普段堅実な方々なのに、孫策様一人加わっただけで随分賑やかになるのですね」
「・・・あの長男坊、呉を引いていくというより引きずり回しとるようにも見えますなぁ」
「しかし人を引き付ける事は当主にとって大事な要素です」
「・・・まぁ、それはそうですが・・・。
あ、ところで月英殿は会合の時間の方は・・・かまわんのですか?」
「大丈夫ですよ。私は余裕を持って進言しましたので」
「・・・・・・たばかりましたな」
あの様子じゃとあの連中、遅刻はせんが結構な恥をかいてしまいそうじゃな。
「見た所また緋竜がらみでもめごとを起こしたようなので止めに入りましたが
・・・違いましたか?」
「実は・・・・・・そうなのですじゃ」
・・・やはり丞相の奥方。あの状況だけで何があったかお見通しか。
「・・・いやわしも姜維からある程度もめごとを呼ぶとは聞いておったのですが
よもやあのような重鎮まで巻き込むとは・・・くおら小喬!!逃げるでない!!
」
「うえ!?見つかった!?」
このじゃじゃ馬夫人は!さんざん引っかき回しておいて逃げるでないわ!
「今日はそちらの軍師夫人が加担されていたようですね」
「何やら知らぬ間にえらい事になってしまいましてのう・・・。
誘いにのってしもうたわしもイカンのですが・・・・」
「・・・よければ経過を話してみませんか?」
「・・・はぁ・・・それが・・・」
わしは小喬に誘われて緋竜をつれ、あちこち歩き回った経過を手短に話した。
この方はわしや姜維が緋竜について困った時相談にのって下さる御方じゃから
脚色せずにありのままを話す。
ついでに緋竜が周瑜殿の事を孫堅殿の奥方と間違えたり
孫権殿をおじさん呼ばわりした事も話して笑われたが・・・それはご愛嬌と言う事じゃ。
だいたい話し終えた所で月英殿は緋竜の横でバツ悪そうにしておった
小喬に向き直り、少しきつめの声でこう切り出した。
「小喬様、緋竜を妹のように可愛がる事は悪い事ではありません。
しかし物事には順序と限度というものがあります。
過ぎた気持ちと早急な行動は、結果的に大切なものを傷つけてしまう事もあるのですよ?」
「・・・はぁい」
「それに緋竜の心はまだ5・6歳の子供です。夫婦の意味もわからない子供に
夫をさがすというのは・・・客観的に見れば少し残酷な行為ではありませんか?」
「あ・・・」
「この子を本当に愛しく思うのなら、判断はこの子にゆだねるのが最良の方法です。
急がずともこの子ならきっと、自分でよい方をみつけますよ」
「んー・・・・」
腕を組んで考えるほどの事ではなかろう。
月英殿は何一つ間違ったことは言うておらんのじゃから。
などと思っておると緋竜が小喬の前へ行き、同じように腕を組んで考えるマネをしおる。
何を悩んでおるのかはわからんが、一緒に考えるふりだけでもしてくれるらしい。
あまり解決にならんような行動じゃがそれで小喬の考えはまとまったらしい。
照れたように笑いながら緋竜に抱きついた。
「・・・そだね。私ちょっと急ぎすぎたかもしれないね。ごめんね緋竜ちゃん」
「・・・?・・・」
首をかしげて笑ったという事は、「よくわからないけど別にいい」と思っとるんじゃろうな。
「では私はこれで失礼しますが・・・あなたも私と立場は同じなのですから
次に何か思う事がおありなら私に相談なさい」
「はーい!お願いしまーす!」
そういえばこの二人、軍師の妻同士じゃったな。
というか見た目はほとんど母と娘のようじゃが・・・。
「あぁ、それと黄将軍。そろそろ姜維が大騒ぎするころですから、早めにお戻りを」
あ、いかんいかん。よう考えてみれば何も言わずに出てきてしもうたから
今ごろ心配して必死で探し回っとるじゃろうなあやつ。
「じゃあお母さん(姜維)も入れてお茶にしよう!今日は私がいれてあげる!」
「なぬ?おぬし茶の入れ方なぞ知っとるのか?」
「むっ・・失礼ね!これでもおねえちゃん直伝なんだから!ねー緋竜ちゃん!」
「・・・?」
「わかったわかった。では、お手並み拝見といこうかの」
「はーい!じゃあ帰ろうか緋竜ちゃん!」
「・・・・・うん」
しかし・・なんじゃな、こう若い娘にはさまれておるとちと複雑な気分じゃのう。
誰かが言うておった。
娘は嫁にいってしまうからさびしいものじゃと。
確かに愛娘が自分の手から離れて嫁にいってしまうのは
父にとってはさびしいもんじゃろう。
しかも今時代は乱世真っ只中。わしはその乱世の戦場を駆け回る武将でもある。
今日明日の戦で、この子を残して逝く確率は・・・老いで迎えが来るよりもかなり高いじゃろう。
こうしてこの子がそばにいてくれるのも、短い間の夢なのかも知れん。
あるいは神が与えた、老い先短いわしへの短い褒美なのかも知れん。
「・・・ちちうえ?」
短い夢。短い褒美。
・・・・・・・。
いいや!違うぞ黄忠漢升!!
「短くなどあるものか!人間その気になれば百や二百や生きられるわ!!
この歳で授かった娘を置いてなにをのこのこと逝けるものくわーーッ!!」
「・・・!??・・ー!!?(ヒゲが痛いらしい)」
「ちょ・・!ちょっとおじさん!緋竜ちゃんつぶれるーー!?」
それからわしらはぶつくさ言いおる姜維をまじえて暖かい庭先で
小喬の入れた・・・濃度変化の激しい茶をすすった。
小喬の一方的なおしゃべりに緋竜が静かに相槌をうち
姜維がまだ小言をいいながらも取りに走らされた菓子を食う。
これは夢ではない。緋竜は確かにわしの横におって頭を撫でる事もでき
さっき小喬に扇子ではたかれた頭もジンジン痛むのじゃ。
夢でないのなら努力次第でどうにでもなる!
この子の行く末はわしがいくらでも見届けてやろうではないか!
「のう!緋竜!」
ビタン!
「・・・!?(ほおばっていた菓子を吹き出しそうになる)」
「ちょっとおじさん乱暴!ねえ、さっきからどうしたの?」
「なぁに、ちょっとばかし長生きのコツを見つけただけじゃ」
「え!?まだ長生きなさるんですか将軍!?」
「・・・なんじゃ姜維、長生きするなとでも言いたげな反応じゃの」
「い!いえ!そうゆうわけではないのですが・・・
将軍・・・緋竜を迎えてから若返ったようなので、まだ若返るつもりなのかなーと・・・」
「そう見えるか?」
「・・・・・はい」
「かかか!その分おぬしが老けこんでおるではないか!」
「・・・・え!?」
「しかしおぬしはまだ若い!若いからいくら老けこんでも大丈夫じゃて!」
「・・・・・・ほめてるんですか?それ?」
嫌そうな姜維に小喬が大笑いして背をたたく。
緋竜はよくわかっとらんのか全員の顔にうろうろ視線をさまよわせ
最後にわしの顔をじーーと見て・・・
菓子くずを付けたまま、いつもの嬉しそうな顔をした。
・・・ぜーぜーぜー・・・長い・・・長いよう。・・・なんでこんな事に?
呉を全員出そうとしたのが間違いか?しかも爺と月英の口調は激ムズ。
でも周泰と孫権はすごくおいしい存在なのを発見。
帰る