不思議なことなんだが・・・その直後、急に頭が冷静さを取り戻し
なぜか無意識に返すべき言葉が口からすべり出てくる。


「・・・あぁ・・こんにちは」


それが俺と緋竜の最初の会話。

今思えばなんともそっけない会話だが、そこからすべてが始まったのも確かなことだ。

「俺は・・聞いたかもしれないが名を馬超、字を孟起という」
「・・・・」
「すまんな・・妙なところを見せて」
「・・・・」

俺の言葉になにも答えず、緋竜は首を縦と横にしか振らない。
しかしなぜかそれだけでも意志は伝わってくる。

なぜかはわからない。
ただ気持ちが仕草一つ一つにこめられている、そんな感じだった。

「・・・子龍、どいてくれ。・・・もう大丈夫だから」
「・・・そうか」

今まで馬乗りになっていた子龍が素直にどいてくれる。
が・・しかし・・・

「・・・しかし・・お前、強引な所があったんだな」
「はは、こうでもしないと永久に悩んで、緋竜を見るたびに錯乱して逃げ回りそうだったからな。
 少々の荒療治も必要だろう?」

そう言って笑う子龍がちょっと恐ろしく見えたのは俺の気のせいだろうか?
・・・いつも温厚な分、時折みせる強さというのも何か怖いな。

くいくい。

ふと横から袖を引かれる。

見れば緋竜が俺の背後を見ながらなにか困ったような顔をしている。

・・・・・・・・・・・・・・。・・・・はっ!!

なぜだかわからないが全身が緊張し、全神経が背中に集中する。

直後。

「いようこの色男!昼間っからナンパかーー!?」


どご!


「うぉ!?!」

力加減のいっさいない強力な蹴りが背中に直撃。
緋竜がなにげに教えてくれたので転倒こそしなかったが、鎧がなければ
骨にヒビの一つも入っていたかもしれん。


・・・こ・・・こんの男は!!


「いっ・・・つ!・・貴様!!何度言えばわかる!少しは加減しろ!!」
「なぁにいってやがる。戦場じゃ敵は手加減なんざしてくれねぇんだぞ馬鹿超」
「俺は馬超だ!!だいたい貴様いきなり何をしに来た!俺のことをまんまと言い当てて
 それを笑いに来たのか!」

信じられんが殿と関羽殿の義弟にして、歩く酒樽、迷惑酒乱男、張飛翼徳。
一瞬毛虫のような眉をひそめ目を丸くした後、意外な事を言い出した。

「なんのこった?」
「・・・は?」
「なんだよ、お前なんか俺に笑われるような事したのかよ」
「・・・だ・・・だから・・」

なにか言おうとする前に子龍がわって入る。

「将軍、少しおうかがいしますが・・・先日馬超と言い争ったさいの事、覚えておいでですか?」
「あ?俺こいつとなんか言い争ったっけ?」

・・・・・・・・。

・・・こ・・こいつ!!人を殺しかけておきながら、綺麗さっぱり完全に忘れおって!!

思わずくってかかりたくなるが、子龍がやめておけと静かに目で制してくる。

「俺こないだ遠征から帰ったばっかりでよ、満足に酒が飲めなかったからって
 ハメはずして飲みまくってたからなぁ。ここ最近なんか記憶がとぎれとぎれなんだよ。
 ・・・で?俺がなんか言ったのか」
「いえ、大した事ではありませんよ。なぁ孟起?」
「・・・・うぐ・・む・・ぅうむ」

・・・く、多少釈然としないがほれ見たことかと指をさして笑われるよりは百倍マシだ。
殺されかけたことは水に流すしかない・・・か。

「ふーん、なんだか知らねぇがま、いいや。・・・ところで馬鹿超!」
「だから・・・!」

くってかかろうとする俺に、酒樽はいきなりそばにいた緋竜のえりを
ネコのごとくむんずと掴んで、あろうことか投げてぽいとよこしてきた。

「んなっ!!?」

とっさに受け止めるが、受け止めたその軽さとやわらかさに顔の温度が急に上昇する。

「き・・貴様!いきなり何をする!?」
「あ!赤くなったな!って事はお前、そいつにほれてやがるな!」

!!!!

ははははは!その顔は図星だな?だろうなぁ!お前根が単純だから
 たぶんそうだろうと思ってたんだが、やーっぱりそうか!がはははは!」

指をさしながら遠慮なく笑い、肩をばしばしはたいてくる酒樽。

子龍がハッと息をのみ、俺の手から緋竜を慌ててうばっていく。

「しっかしよぉ、おめえもすみにおけねえってのか?あ?
 いっつも近くにいる姜維ですらそんな気おこさねえってのになぁ!おい!」

長々つづく嘲笑も途中から耳に入らなくなり、握りしめた拳に魂が宿った。

そして・・・。

「・・・ち・・・」
「ん?なんだよ」

畜生おぉおおぉーーーー!!!

「お!やんのか馬鹿超!おもしれえ!かかってきやがれ!!

「関羽殿ーーっ!!関羽どのぉーー!!」




「おやおや、まぁた喧嘩かいあの二人は。相変わらずいきがいいねぇ」
「・・・トメンノカ?」
「やりたいようにやらすのが健康と元気の秘訣さね。あぁ緋竜、あっちでお茶でもするかい」
「・・・・(ちょっと考えてうなずく。ついでに魏延の袖もひっぱる)」
「・・・・ワカッタ」


そこから先はよく覚えていない。
気がついたときには俺も酒樽もボロボロになった状態で、数人がかりで押さえつけられていて
駆けつけた関羽殿から小一時間ほどがっちりおしかりを受けてしまった。

俺はこの男とは一生仲良くできない。その日心の底から思った。

しかし・・・いくらからかわれようと笑われようと、緋竜という名の娘に対する・・
・・・・まあ・・つまり・・・好意というものは消せないのだ。

なおらぬ病とはよく言ったものだが・・・だが不思議と悪い気はしない。
そうだな、たとえて言うなら・・・・。


・・・・・・。

・・・・・・・・・・?


・・・なんだ?どう言うんだ?思いつきそうで思いつかん。
ぬあぁ!すぐそこまで出かかっているのに!気になる!

子龍!教えてくれ!こうゆうのはどんなたとえがあるんだ!子りゅーーう!!




−追伸−
        その後、問い詰めすぎて蹴りをもらった。








ファンの人すみません。私のとこの馬超はこんなんです。


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