それはある宴会の、張飛の他意のない一言から始まった。


「でよぉ、前から思ってたんだが緋竜の一番好きな奴って誰だ?」


びし


部屋の空気が部分的に突然真空状態に変わった。

場所的には点心をほおばって趙雲によく噛めと注意されていた馬超と
ゆで卵のむき方を魏延にあーだこーだとウンチクこいていた黄忠の辺りが一番激しい。


「・・・これ翼徳」

横にいた関羽があわてて止めようとするが
その横に火に向かって水の変わりにガソリンをぶっかける
悪気ゼロのファイアーメンがいるのをすっかり配慮し忘れていた。


「そういえば・・・その場にいる面々で順位は変わるが
 ここの全員で誰が一番かはハッキリしていないな」


兄ーーぢゃーーーー!!


と顎がはずれそうな顔をする関羽の前で
おかわりのお茶を持って歩き回っていた緋竜が
会話の中に出てきた自分の名前に反応してきょろきょろ周りを見回している。


「だよな。俺達兄弟だと殿の所に寄ってくし」
「私と黄忠だと黄忠の方へ寄っていくしな」
「そういや俺と魏延の時は魏延だったぞ」
「私と雲長と姜維なら姜維の所へいくようだが・・」

楽しげに話す2人をよそに
姜維の顔がリトマス紙のようにすーっと青くなり
ぽろりと箸から芋のにっころがしを落下させた。

そして最も恐れていた一言が張飛の口から発射される。


「で?緋竜、お前この中で誰が一番好きなんだ?」


君主と酔い虎以外の時間が見事に止まった。


緋竜は誰にでも好かれている。

その緋竜の一番となることは、すなわちその全員を敵に回すも同じ。


その方程式を知る者には禁句とされる言葉を、この蜀主力メンバー全員いる場で
あっさり投げかける団子三男を呪うべきか、それともこんな状況を予測できなかった
おのれの浅はかさを呪うべきか・・・。

などと姜維が変な汗をかきながら尊敬すべき師に助けを求めるべく視線を送ったが
横にいた婦人共々、柔らかかつ問答無用な微笑で跳ね返されてしまった。

そんな義母の心配をよそに緋竜はお茶瓶を持ったまましばらく首をかしげていたが
何を思ったのか天井を見た後、魏延を見た。

「・・・」

ゆで卵をカラごとバリバリ食っていた魏延。
ぴたと動きを止め、なぜか矢を3本ほど握りしめていた黄忠の袖を
ぐいと引いて立ち上がった。

「おわッ!?なんじゃ!?」

びっくりする老将を引きずりつつ、今度は後ろを通り過ぎざま
箸を持って固まっていた姜維の襟首をひっつかんだ。

ぐえ!?ちょっ・・!?」

魏延が最年長と最年少を引きずる間、緋竜はお茶瓶を置いて
趙雲と馬超の所へ行って片方ずつ袖を取って引っぱろうとする。

「?・・どうしたんだ?」
「お・おい・・」

戸惑う2人をさらに引っぱって先導しつつ
緋竜はさらに末席で酒の配合をしていたホウ統に
何か物言いたげな目をやった。

ホウ統は魏延のようにそれだけで全て緋竜が何を言いたいのか
理解できるわけではなかったが、なぜだか劉備周辺に集められる人材達を見て
それが何を意味するのかはだいたい推測できた。

「・・・あぁ、そうゆう事かい。相変わらずだねえ」

などと言いつつ席を立ち、同じように席を立とうとしていた軍師のそばへ。

「お前さん、わかったかい」
「えぇ、魏延が動き出したあたりから」
「質問の答えとしちゃ合ってないが・・・あの子らしいじゃないか」
「そうですね」
「・・・孔明様?」

納得し合う軍師達に横にいた月英が不思議な顔をするが
諸葛亮はただ静かに笑うと急に騒がしくなった君主周辺を見ながら
すっと席を立った。

「では私達も行きましょうか」
「え?」
「例外はないようですからね」

言いながら見る先には馬超の背中をぐいぐい押しながら
何か言いたそうな緋竜の視線がこちらに向けられていた。


そうして・・・


君主の周りに集合写真をとるかのようにぎゅうぎゅうに集められ
なんだなんだと不思議がる面々(多少例外あり)を見ながら
少し離れた所からそれをながめ、緋竜はうんと納得したようにうなづき
さらに張飛に向かってこう言った。


「・・・・・・一番好き」


まぁつまり・・・


誰かが一番好きなのではなく。

全員そろっているのが一番好きなのだと

そうゆうことらしい。




劉備が優しく笑い
関羽は疲れたように苦笑し
張飛が豪快に笑い飛ばし
黄忠は何か複雑な顔をして
姜維は安堵のため息と照れ笑いをうかべ
魏延は相変わらず無反応のまま
馬超は感極まっているらしく
趙雲はそれを肘で制し
諸葛亮はただ静かに見守り
月英もみなにつられて笑みをこぼして
ホウ統は帽子の下で目を細めた



こんな当たり前のようでなかなかない
みんな一緒の団らんが




緋竜は誰より何より一番大好き。
















一日で書き上げた奇跡のようなすんげえ一品。
腹黒い自分に反比例するかのような緋竜に
書いてる自分もたまに疑問を感じたり・・。



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