ともあれ、なんの因果か仲良く(?)一緒に遊ぶことになった三名。
老将の養女と五虎の騎馬将軍と文武両道の名将という
わけのわからない組み合わせでまず始まったのが・・・
なわとびだった。
まず片方を木にくくり、片方を誰か一人が回す。
最初は呂蒙が回す役をかって出て、緋竜と馬超が一緒に飛んだ。
「♪〜♪♪〜♪、♪♪♪〜♪♪〜〜(郵便屋さんのテーマ)」
その時緋竜が何か歌のようなものを口ずさんでいたが
歌詞はないのか知らないのか、緋竜はただ音だけを口ずさみ
一緒に縄を飛ぶ金色の将も楽しそうな緋竜につられて
ちょっとだけ楽しそうに縄を飛んだ。
しかし横で縄を持ちながら見ていた呂蒙にはちょっと心配な事があった。
錦馬超、いつもの鎧フル装備。
飛ぶたびにがっちゃがっしゃと重たげな音が鳴り響き
最初は元気よく飛んでいた馬超の顔が
回数が増すにつれて徐々に怖くなっていき
ぜんそくのようにゼエはあと息が上がってくる。
しかし男の意地があるのか絶対つまづくまいと必死になる馬超に
緋竜が少ししてふと気がつき、飛ぶのをやめて心配そうに顔をのぞき込んできた。
「・・・へ・・ゲフ!きだ・・・いいっ・・運動・・・なる・・・しなッ・・・」
強気になるのは得意だが、嘘をつくのは苦手らしい。
緋竜は馬超の背中を押して縄を持たせ
かわりに呂蒙の手を引いて縄の中にいれた。
が、悪気はないのだろうがこれがいけなかった。
呂蒙も馬超と同じく武装していたのだが
馬超が息切れを起こしたのを見ているので
そうなる事を考えたペースの配分や呼吸の仕方などを考え
呂蒙は慎重に縄を飛び結果、馬超の倍近く長くとんで
緋竜の鼻歌が終わるまできっちり飛んでいられたのだ。
まぁつまり、立場上馬超の負けとなったのだ。
それに呂蒙が気付いたのはちょっと休憩しようと
三人で座りこんで息を整えている最中の
馬超のやたら鋭い視線に気付いた時だった。
・・・あ、しまった。
と思っても闘志ギンギンの目は鎮火不能なほど燃え盛ってしまっている。
嫌な予感を感じて冷や汗を流す呂蒙に向かって
馬超がその予感を裏切らない低い声でこう切り出してきた。
「・・・呂蒙殿」
「(目ぇそらしながら)・・ん?」
「・・・勝負しましょう」
「・・・勝負?」
問いかけではなくすでに決定事項を言っているあたり
断わっても再度一騎討ちを挑んでくる夏口の甘寧のような強引さである。
「将たる者、長期戦に耐えうる持久力にも長けていなければなりません。
よい機会ですから一度蜀呉の将で勝負してみようではありませんか」
言ってる事は間違ってないが・・・
後から出てきて緋竜になつかれている奴を見返してやりたいのが本音だろう。
・・・断わったらまた妙な反感をかうだろうし
勝った場合もさらに対抗意識に火をつけるだろうし・・・。
と、なると残る最良の選択は
勝負して相打ちか、あちらの納得のいく負け方をするかの二つ。
「・・・そうだな。やってみるか」
「よし!では緋竜、審判を頼む!耐久戦だ!」
そんなわけで、鼻息の荒い蜀の五虎将と
げんなり顔をした呉の知勇兼備の名将
・・・いや、蜀の熱血漢と呉の苦労人の縄飛び対決が始まった。
がっちゃ。がっちゃ。ぎっち。ぎっち。
「♪〜♪♪〜♪、♪♪♪〜♪♪〜〜」
緋竜が鼻歌と一緒に回す縄を
鎧を着こんだ武将二人が、鎧をきしませる音を立てつつ真顔で飛ぶ。
がっちゃ。がっちゃ。ぎっち。ぎっち。
「「・・、・・、・・、・・、・・」」
見た目ちょっと怖くて異様な光景だったが
緋竜は2人ともかなり真剣なので、楽しいのだとのんきに解釈して
大して気にせず縄をぺそぺそ回した。
二十、二十五、三十・・・
鼻歌と鎧の音と荒い息づかいがまざってからしばらくして・・・
がつ、ぐしゃ。
息の上がりかけていた馬超がこけた。
「・・・あ」
呂蒙、ころあいをみてやろうとした事を先にされてしまう。
呂蒙の飛び方を見ているので少しはペース配分を考えるかと思ったのだが
さすがというかなんというか、気合と根性で乗りきろうとしたらしい。
馬超、一敗。
呂蒙が片手を出そうとしつつ声をかけにくそうにしていると
馬超はむくりと起きあがって付いた土をはたきながら・・・
「・・・負けましたな」
とあっさり言った。
もう一回!と食い付いて来るかとおもいきや
短気な錦馬超は意外とすんなり負けをみとめた・・・
・・かと思ったが。
「では次の勝負とまいりましょうか!」
「・・・え?ま、まだやる気か?」
「もちろん!呉の名将と一対一の邪魔の入らない勝負など
そうできるものではありませんからなぁ!!」
さわやか、かつ鼻息あらげにそう言いきる馬超を見て
呂蒙はこの時悟った。
これは自分が納得するまで何が何でも食い付いて来るタイプだと。
しまったと後悔しても後の祭。
勝負なれしているのか馬超はそれから後も・・・
「ではどちらが先にあの木を登りきるか勝負!」
「どちらが先にあそこまで走れるか勝負!」
「どちらがうまくあのまとに石を命中させられるか勝負!」
「どちらが長く水に顔をつけていられるか勝・・(以下略)」
どうしてそこまでと思うほどあれやこれやと
とても一騎当千の武将がする勝負とは思えない低レベルな勝負をするのだが・・・
木からずり落ち、全力疾走でけつまづいて派手にすっ転び
はね返った石に直撃され、窒息しかけて緋竜に腹をふんづけられ蘇生し・・・
・・と、まぁどれもこれも呂蒙がそれとなく負けようとする前に
勝つ気合いが強すぎて自滅するその見事なまでの空回りぶりは
呂蒙の知略がどうとかいう域をとっくに越えてしまっていた。
・・・要領が悪いにもほどがある。
ひょっとしてあの物々しい鎧は
彼のヘタレっぷりを補うために装備されているのではないかと
変なかんぐりを入れてしまいたくなるほどだ。
呂蒙、呆れと感心3:7くらいの心境でため息をつく。
さてここで問題です。そろそろ日も暮れてきました。
そろそろ帰らないと蜀の人も心配しているだろうし後輩の事も心配です。
ですが今帰ると言い出すと、血気盛んな若者は勝ち逃げされたと思い
これからずっと嫌われるかもしれません。
さてどうしますか?
1 土下座してあやまる
2 気合い入れて次の勝負で負ける
3 誰かにさりげなーく助けを求める
4 問答無用で逃走
5 手っ取り早く、しばいて帰る
1、4、やっぱり恨みを買いそうなので却下。
3、今頼れそうな人員がいない。
5、問題外。
となると残るは2しかない。
何が悲しゅうて負けるための算段をねらねばならんのだと
非常に悲しい気分にもなってくるが、ともかくこれから共同戦線をはる武将に
妙なわだかまりを残すわけにはいかない。
つんつん
さていかにわざとらしくなくさりげに敗北するか・・と変な頭の使い方をしていると
横から緋竜が腕をつついてきた。
「ん?・・・何だ?」
緋竜は呂蒙をじーっと見てから何を思ったのか
馬超の手と片方づつ取ってひっぱろうとする。
「え?なんだ?どうした?」
「・・・お、おいおい」
二人してわけもわからずついて行くと、緋竜はなぜか資材置き場へ行き
二人をおいて何かごそごそ探し出す。
しばらくすると板を三枚と縄を探し当て、何か変な物に細工して
はいとよこしてきた。
それは縄付きの板。としか表現できない物で
何に使用するのか呂蒙にも馬超にも見当がつかなかったが
緋竜はさらにハシゴを持とうとして・・・
「うわ!い・いい!無理するな!俺が持つから!」
かなりあぶなっかしいので馬超が持つことになった。
それで準備はできたのか、緋竜はそれから板を片手に歩き出す。
縄のついた板、そしてハシゴ。
この二つを持って緋竜が向かった先は・・・。
「「・・・・・・」」
「・・・・」
ほんの少し
いやちょっと
もといそこそこ
訂正かなり
誤訳、ちょっとシャレにならない場所に到達。
そこはけっこうな高さのある傾斜のついた屋根の上。
遙か下にはほどよく積まれた大量の飼い葉の山。
そして手には板。
つまり。
すべって落ちろという事だ。
「・・・・・・緋竜」
心なし青い顔をした馬超が腹の底から出したような声でつぶやく。
「・・・・・・誰に教えてもらった?」
緋竜、少し首をかしげて。
「・・・わかとひにい」
呂蒙と馬超が顔を見合わせ、同時に重々しく頭を下げた。
「・・・すまん」
「・・・いえ、こちらの蛮人も関与しているようなのでお気になさらず」
屋根の上で板を片手に頭を下げ合う変な二人をよそに
緋竜は早くやろうと両方の袖を引く。
「・・・本当にやる気か?」
一応の問いかけに緋竜は当たり前のようにうなづき
片手でグーを作ってふりだした。
おーとーこ!おーとーこ!
と言いたいらしい。
そこでふと、呂蒙は気がついた。
これはいわゆる度胸だめし。
馬超なら性格上確実にいくだろう。
こちらはいくとみせかけて途中でブレーキをかければ
怖じ気づいたと思われるだろうから不自然さはない。
板に乗ってすべるだけなら、おそらく自滅もしないだろう。
目をやると緋竜は静かに微笑んでいる。
そこから考えての事なのか、それともたまたまなのかは
うかがい知る事はできなかったが、呂蒙は感謝のつもりでかるく会釈した。
で、馬超の方はというと、そんなさりげないやり取りを気にする余裕もなく
かなり深刻な顔で下に広がる急な屋根の傾斜を
音が出そうなほどぎりぎり睨んでいた。
馬に乗りなれているので高さに免疫がないわけではない。
しかしこの高さと距離と到達するまでのスピードを考えると
怖い怖くない以前に、怖くないやつの方がどうかしている。
だがここで引いては男がすたり
同時に呂蒙に一勝もできないことを認めたも同然。
「・・・・ふ」
正念場に立たされた馬超の口から、あきらめのような自嘲のような妙な息が漏れる。
だが次の瞬間。
「はぁあああぁーーー!!」
ガツ!がりりりりりーーー!!
馬超孟起、真無双乱舞のより気合いのこもった雄叫びとともに
板を置き、縄を握り、板に座って降下開始。
それはもう夢のような光景だった。
なにせ速い。人がすべるように配慮されていない屋根の傾斜と鎧の重さが手伝って
笑えるほどのスピードで金色の後ろ姿が遠ざかる。
そして・・・。
がっ
放物線をかいて錦馬超は・・・
その瞬間、鳥になった。
ー ー ー ぼぐ
そしてほんのわずかな無音を置いて
気の抜けた鈍い音を立てて飼い葉の中に消えてなくなる。
「・・・・・・・・・・・・・・」
呂蒙、心の底から絶句した。
わざと怖じ気づいて見せるつもりだったが冗談抜きで怖くなった呂蒙。
おそるおそる馬超の突っ込んだ飼い葉を凝視し
顔をひきつらせながらようやく声を出す。
「・・・ば・・馬超殿!大丈夫か!?」
返事がない。
急に寒くなった足元の温度がさらに寒くなったような感覚に襲われる。
「馬超殿!!」
さらに呼ぶともぞと飼い葉が動き、腕が出てくるのが見え
さらに見ていると金色の上半身がのろのろと出てきた。
緋竜がぺちぺち手をたたいて絶賛すると
少し間を置いてからこちらに向かって手を振ってくる。
どうやら無事らしい。
・・・そりゃまぁ子供がやれば楽しい遊びかもしれんが
一歩間違えれば自殺だろう。
と、脳裏にこの遊びを考案した上司の顔を浮かべてみると
「た〜まんねえぜぇ〜!!」と無駄に嬉しそうな顔が出てしまい
呂蒙、無意識に想像ではあるが上司に右フックを入れた。
などと屋根の上で半トリップしていると、横からがちゃりと瓦の動く音がする。
見ると緋竜が板を置いてよいしょとまたがっているではないか。
「え!?お前っ・・!」
あれをやる気かと言う間もなく、緋竜はためらいもなく足を浮かせ
がーーと幾分かるい音を立てて傾斜のついた屋根の上をすべり始める。
そう。緋竜はおそらくやったことがあるのだ。怖がるわけがない。
というかちょっとは尻込みしたらどうなんだ
嫁入り前のいい娘が平気な顔でこんな危険な・・・
と昭和な発想をのべていた呂蒙だったが
見ているうちにある事に気がつき思考が中断する。
馬超が飛んだときほど速度が出ていない。
「・・・まずい!!」
最初の勢いと重量がたりなかったらしい。
あのままでは飼い葉のある着地地点まで飛べるかどうか、かなり怪しい。
思った瞬間呂蒙は動いた。
渡されていた板を置いて縄を持ち、サーフィンのフォームで降下開始。
それは体勢と重量が加わって猛烈なスピードで加速し
こころもとない速度で放り出されようとしていた緋竜に追いついて
勢いそのままで緋竜を片手で抱き込むと・・・
そのまま一緒に宙を飛び
空中で一回転してからまとめて馬超の少し手前横へ、ずぼんと落ちた。
「・・・!緋竜!!呂蒙殿!!」
馬超があわてて飼い葉をかき分けると、すぐ中から楽しかったという顔をした緋竜と
その下から放心したような引きつった顔の呂蒙が出てきた。
どっちも草まみれで情けない格好だったがケガはないらしい。
「・・・・は・・・は・・は・・・ははは」
とっさの事だったとはいえ我ながら無茶苦茶だったと思うのと
まさかあれほどのアクションをしておいて無傷だったのと
あの状況で緋竜をかばって下になった自分の保護本能の立派さなど
錯乱してきた頭の中でいろんな思いが交差して
呂蒙は安堵でも苦笑でもない変なカラ笑いをした。
だが馬超はなにやら放心したようにそれを見ていたが
何を思ったのか急に拳を飼い葉に打ち付けて意外なことを言い出した。
「お・・・俺は!何という奴だ!!」
「・・・・は?」
この青年の言動は時々結論が先に出てしまうことがあるらしい。
「目の前の事に気をとられ大切なことを見落とした!
勝負という目先の体裁に目がくらみ本来あるべき任務を忘れるとは言語道断!!」
「・・・え?」
「わかっていたのだ!呂蒙殿が俺より優れていることは!
だがそれをうらやむのではなくそれを超える努力をするべきであったのに!
事もあろうか俺は嫉妬して、緋竜を危険にさらす失態を・・!!」
「・・・あ、その、いやだから」
無駄に取り乱す馬超を目を白黒させて見ていた呂蒙だったが
はたと緋竜を見ると草だらけの顔でほわと微笑んで首をかしげてきた。
おまえ・・・まさか・・・ワザとか!?
そう目で訴えても、のんきな笑みで返されるばかり。
そういえば・・・知将と猛将の間で育っていたんだなお前は。
そんなことを考えながら頭をばりばりかくと
まだ何か言いながら草をぶちぶちむしっていた馬超の肩をかるく叩いた。
「・・・まぁともかく頭を上げてくだされ馬超殿。
今自分を責めたところで利になる物はなにもない。
大切なのは自らの非を自覚し改める努力をすることだ。違うか?」
「・・・呂蒙殿」
その時ちょうどタイミングよく夕日がさしていたため
二人の背後が古い青春ドラマのような真っ赤な夕焼けになり
はたと我に返った呂蒙はちょっとこっぱずかしくなった。
「・・と、ともかく帰ろうか。あまり遅くなるとそちらの方々が心配し・・」
「しばし!しばし待たれよ!」
そそくさと立ち上がろうとした呂蒙を
急に姿勢を正し正座した馬超が止めた。
「本日この馬孟起、貴殿の漢気と配慮の深さ
しかと見届け己の未熟さ痛感したと同時に
緋竜が貴殿の事をしたうに値する真意理解した次第であります」
「・・え?ん?」
難しい言い回しでわかりにくいが、ようするに
あんたはいい奴だから緋竜がなつくのもなんとなくわかる、と言いたいのだろう。
「しかし!俺はこれで敗北したとは断然みとめん!
貴殿が俺の上をゆくのなら、俺はさらにその上を目指すのみ!
よって本日今より!貴殿を我が好敵手と認定する!!」
「・・・・は??」
びしりと指さされた呂蒙、頭の上に?マークを散乱させる。
そりゃそうである。いきなりライバルのレッテルを貼られて
はいそうですかとうなずけるのは同じレベルの熱血漢かバ・・
もとい直情型人間くらいしかいない。
「負けませんぞ呂蒙殿!俺は貴殿の言うとおり
貴殿を越えるための努力を惜しまん!」
「・・い、いや、だから」
「馬孟起!敬意を評する!!」
何か言いたそうな呂蒙の声を大声でさえぎり
馬超は二人のやり取りをじーと見ていた緋竜の手をひっつかむと
ズボズボ足をとられながら飼い葉を下り
来たときとは違う、何やら清々しいさわやかな笑顔でこういった。
「さらばだ!素晴らしき好敵手よ!」
突発的かつ強制的なセリフを残し、夕日の照らす道を
緋竜の手を引き去っていく金色の背中を、一人飼い葉の上に残された呂蒙は
ただただ見送ることしかできず、そして誰もいなくなって少し後・・・
・・・ぱたり
と倒れた。
その後、呂蒙は巡回の兵が見つけるまで
一人飼い葉の上でずーーーっと背景と同化していたという。
シリアスとギャグがごっちゃになってしまった一品。
ちなみに緋竜のお守りは呂蒙をマシな最後にするのに
きっちり役に立ったとご想像下さい。
=戦闘結果=
呂蒙、恋敵から好敵手にレベルアップ!
怨恨度が5ポイントさがった!
からまれやすさが240ポイントあがった!
白髪3本を手にいれた!
あきまへんがな