バチッ!バチバチバチ!!
ドン!
「いてっ!!」
「うぉっ!?」
何かが放電するような音と一緒に
ジュンヤは突然どこかに放り出されて何かに叩きつけられ
それと同時に前の方から聞き覚えのない声で何か驚いたような悲鳴が聞こえてきた。
ハッとして閉じていた目を開けると
そこはまったく見覚えのない、見たこともまったくない
身体がようやく少し動かせる程度のやたら狭い場所だった。
叩きつけられたのは何かの座席のシート。
だがそれはただのシートではない。
前には自分の座っているのと同じだろうシートがあり
横には複雑そうな計器類がびっちり並んでいて上や横には透明なガラスがあり
なのにその窓から地面や景色らしい景色がまったく見えず
その代わりに目に入ってくるのはボルテクスにはなかった青い空。
だがそこから見える空の景色はただ見えるというだけのものではなかった。
右を見るとどういったわけか遙か下に模型のように小さな地表が見え
上を見ると驚くほど間近を見知らぬ戦闘機が飛んでいき
さらに左に目をやると白線を引きながらミサイルがかすめ飛んでいく。
しかもその全てが尋常ではないスピードでキリキリと変化し
上に地面があったかと思ったら今度は横
目の前に戦闘機がいたと思ったら今度は頭上をミサイルがかすめ
機体が振動したかと思えば自分の真横から発射されたミサイルが
近くにいた戦闘機に着弾して黒煙を上げさせる。
それはつまり、映画とかテレビでしか見たことのない
戦闘機同士が空中戦を繰り広げる、ドッグファイトのど真ん中だ。
「うーーわーー!!?」
「おいなんだなんだぁ!?なんなんだ一体ーー!?!」
とりあえず叫んでみても狭いその場所からは
前にいるのだろう誰かのびっくりしたような声しか返ってこない。
しかもそうする間にもジュンヤの紛れ込んでしまった戦闘機は
きりもみ回転しながらミサイルを避けたり旋回し
敵やミサイルをまくのにかなり忙しい。
『おい!どうした少年!』
その時なんとかストックに放り込めたらしいダンテから
悲鳴を聞いたのか慌てたような声が飛んでくる。
『どうしたブービー!なんか機体が一瞬光ったぞ!トラブルか!?』
だがそれとほぼ同時にこの戦闘機の味方のものだろうか
よく通る声の男の声での通信も飛んできた。
「え・・!あ!ダンテさんこそ大丈夫なのか!?」
『オレはなんともない!それより今の声・・うお!?』
『主!どうした!?またこの男が何かしでかしたか!?』
「あ・・ミカ」
「いや違う!トラブってんのは確かだが機体の方じゃない!」
『隊長!さっき後部席が赤く光ってましたけど大丈夫ですか!?』
『ブレイズ!右後方に敵機!かわせるの!?』
「わかってるけど今それどころじゃねぇ!誰か援護しろクソ!!」
と、前の座席にいるパイロットだろう男が苛立ったように怒鳴り
機体を急旋回させ、ベルトをしていないはジュンヤがその遠心力で
ぎゅうと強化ガラスの窓に押しつけられる。
しかし押しつけられたガラスの向こうには
こちらを後から正確に追尾してくるミサイルが見え、ジュンヤは仰天した。
「うそッ!?なんで!?」
悪魔とか変なハンターからは追われることはあっても
猛スピードでせまって来るミサイルに追いかけられた事はさすがにない。
『おいブービー!トラブってる所悪いが
さっきから援護要請の通信がおかまいなしに鳴りっぱなしだ!』
「今それどころじゃねぇって言ったろが!!
こっちだってトラブってる最中にロックされまくってて忙しいんだよ!!」
『どうした主!外に敵か!?』
「いやあの!そりゃ確かに敵には違いないんだろうけど・・!」
『だからしまわない方が利口だったんだ!おい少年!さっさと出せ!』
「無理!状況的にも相手的にも無理すぎる!」
『無理じゃありませんよ隊長!いつもの事ですけどオレ達がやらないと!』
「今のは俺じゃねぇよ!!いいからちょっと待てって!少しは俺の話を・・」
『ちょっとブレイズ!そこに誰かいるの?!』
「あ!ちょっ!ダンテさん無理矢理出てくんな!ここをどこだと思って・・!」
ドッグファイトの混戦の中で味方の通信とストックとの会話がこんがらがる。
そして敵側にロックオンされたけたたましい警報音まで加わって
狭いコクピットがなんだか大変な騒ぎになった。
『隊長!後方に2機!ロックされてます!』
『何があったの!?答えてブレイズ!?』
『おい!聞いてんのかよブービー!?』
『主!一体外で何があった!?』
『いいから出せ!おいジュンヤ!』
ぶつ
2つあった堪忍袋の緒が同時に切れた。
「「いっぺんに喋んなーーーー!!!」」
その絶叫と一緒に機体の鼻先がぐんと天へ向き
後方にあったエンジンから最大出力の炎が吹き出て
機体にロケットの打ち上げ時のような強烈なGがかかる。
しかしそれをしたパイロットはそんなことには慣れていて
ジュンヤも悪魔の身なためかシートに押しつけられはするが大したダメージではない。
重要なのはとにかくミサイルも通信も飛んでこない上空に行って
ちゃんとした状況確認と落ちついた会話をすることなのだ。
ゴゴゴゴという音と一緒に見えていた空から雲が消え
だんだんと周囲の景色が青くなる。
おそらく大気圏に近くなっているのだろう。
そして敵の追撃がやんでようやく周囲が静かになったころ
ジュンヤの前にいたパイロットがもごもごとこちらを見ようとして身体を動かす。
けれどしっかりベルトをしているのでちゃんとした確認はできずに
ちらとヘルメットごしにこちらを見ただけで諦めたのか
ふうという疲れたようなため息を酸素マスクの下でついた。
そのパイロット、隙間のないしっかりしたヘルメットと
色のついたバイザーで顔は一切見えなかったが
声からしてそう歳のいった男でないことだけはジュンヤにも分かった。
「・・・・・・おい」
「・・・はい」
通信で隊長だのブービーだのブレイズだの
めったやたらといろんな呼ばれ方をされていた男が
振り返ることを諦め、前を見たまま口を開く。
「・・どこから来たのかとか、何もんだとか、どうやって入り込んできたのかとか
なんでそんな格好してんのかとか、聞きたいことはそれこそ山ほどあるが
さっき聞いて見ての通り、オレは今死ぬほど忙しい」
何をやっているのかは分からないまでも確かに忙しそうだった。
実際ミサイルで撃墜されて戦闘機を棺桶にして死ねそうなほどに。
「簡単に聞いとくぞ。乗り物酔いはするか?」
「・・いえ、大丈夫な方・・ですけど・・」
「戦闘機に乗った経験は?」
「・・全くないです」
「けど今のGには耐えきったな」
「身体は頑丈なんで・・」
「・・ならそこで大人しくしてろ。そこらへんの装置にも触るなよ。
多少うるさいが・・すぐ終わらせる!」
言うなり前で何か音がして、ぐいんと機首が完全に真下を向き
まるで無重力落下のような急降下を始めた。
その遊園地のフリーフォールさながらな落下感にジュンヤは叫びそうになったが
大人しくしていろと言われたので口をふさぎ、悲鳴だけは無理矢理我慢した。
しばらくすると見えてきた雲の合間からは
いくつもの戦闘機と撃墜されておきる爆発などが見えてくる。
「あぁ!それともう一つ!」
横にあった機械類を手慣れた速さでいじりながら男が言った。
「戦闘の経験はあるか!?」
「・・え・?あ、あります!でも生身でですけど!」
「よっしゃ上等だ!!」
90度降下をしていた機体がぐんと機首を立て直し
一番近くにいた戦闘機にすれ違いざまのミサイルを撃って
まるで早業か曲芸のような勢いで撃墜した。
どうやらこの男、隊長と呼ばれているあたり
戦闘機乗りとしての腕はかなりのものらしい。
などと思っていると高度差で切れていた無線がつながり
さっき聞いた声が割り込んできた。
『オイコラブービー!この忙しいのにどこ行ってた!!!』
「やっかましい!!文句苦情は後にしろ!救援要請はどっからだ!?」
『さっき片付けた編隊以外ほとんど全域です!』
「ちぃ!相変わらず他力本願な連中だ、たまには自力でなんとかしろってんだ!
全機散開!エッジ!アーチャー!戦車隊の掃除手伝って川沿いあがれ!
チョッパーは北側の施設を援護しろ!」
『了解ブレイズ!それと・・』
「わかってる!事情は後で全部話してやる!とにかく一端切るぞ!」
ブツという音と一緒に騒がしかった通信が切れた。
どうやらこのパイロット、今話をしていた連中のリーダーで
何かの援護をしている最中だったらしい。
「・・・あの・・すみません」
意識してやったわけではないけれど
厄介な所に飛び込んできてしまったのは確かなので
ジュンヤは申し訳なさそうに身を小さくして謝るが・・・。
「確かにこのクソ忙しい時に迷惑な話だが・・
でも見た所、わざとじゃないんだろ?」
そう言って、前にいる顔の見えないパイロットは
気にすんなとばかりに声で笑って手をあげてくれた。
「何もんなのか知らねぇが、こんな所じゃ叩き出しも降ろしもできやしねぇ。
とにかくさっさとベルトしな。俺の運転、荒っぽいぞ」
「は・・はい」
通信時の口調は荒かったが
さっきされたこちらを気遣うような質問にしろ今の対応にしろ
そう口調ほど怖い人物でもないらしい。
『・・・少年』
そのやり取りがストック内にまで伝わっていたのか
ダンテがいくらかホッとしたような声を出す。
ジュンヤは大丈夫だという気持ちだけをストックに送り
ともかくいきなり乗り込んでしまった戦闘機の座席でシートベルトを探し
慣れない手つきでそれをしめた。
あまり見慣れない形をしていたので手間取っていると
前にいた男が口頭で使い方をちゃんと説明してくれる。
いきなり狭い空間に押し込められいきなりドッグファイトに巻き込まれ
トラブルにはなれていたジュンヤもさすがに最初は混乱したが
その混乱の最初に出会った男が意外と親切だったことだけは
ジュンヤにとっては何よりの救いだった。
男が目的地とする場所につくまでの間
味方の援護にてんてこ舞いしているというやたらと呼び名の多い男は
ジュンヤにいくつかの話をしてくれた。
まず自分はコールサインをブレイズといい
ある島の航空隊で、前の隊長が行方不明になったため
繰り上げで隊長にされてしまった即席隊長だと説明してくれた。
最初は彼もただ辺境で訓練をしていた新米だったのだが
ところが今戦争をしている敵国が戦争上手なのか自国の連中がバカなのか
あれよあれよというまに平和だったはずの国の戦況は悪化。
田舎島の即席隊長だった自分は必死になって防衛やなにやらをこなしている内
いつの間にか最前線のエースになっていて
いつの間にかこんな風なてんやわんやの仕事ばかり押しつけられるようになったのだとか。
軍人とはもうちょっと寡黙なものだと思っていたが
さすがに即席隊長と自分で言うだけあってか
男はそんな愚痴を聞きもしないのに色々べらべら話してくれた。
そしてさっき通信していたエッジという女の人やチョッパーという男
ちょっと若いアーチャーという男も自分と同じ田舎島の出で
要領がいいのか悪いのか、今や自国指折りのエース達となり
今もこうして役に立たない味方の援護を必死でしているのだとか。
ちなみに呼んでいた名前は全部コールサインという偽名みたいなもので
自分もブレイズというコールサインがあるのだが
最初の隊長がブービーというあだ名をつけてくれたので
仲間の1人が今でもそう呼ぶ事があるのだとか。
「・・えーと・・それじゃあブレイズさん、でいいんですか?」
「ブービー(どん尻)じゃなけりゃなんでもいいぜ。
そんでそっちのコール・・・いや、名前は?」
「ジュンヤです」
「ジュンヤ?変わった名前だな。日系か?」
「・・え?えぇ、まぁ一応日本人ですけど・・」
「はっは!そうかそうか!こんな所でそんなもんに遭遇するとは思わなかったな」
などと平和な会話をしている間にも乗っている戦闘機はかなりのスピード
つまり通常ではありえない速度で殺風景な大地を下目に
通常ではありえないような速度で飛ぶ。
ノーヘルノーマスクでこんな弾丸のようなスピードに耐えられるのは
やはり悪魔の身のおかげなのだろう。
『上空の味方機聞こえるか?!
こちら陸戦部隊、敵の抵抗激しく立ち往生中だ!航空支援至急頼む!』
だがしばらく戦闘機でするものではないような世間話をしていると
いきなり味方のものだろう通信が入ってきてブレイズが軽く舌打ちした。
「・・ち、高速で移動してる間しか休憩なしとは泣ける話だ」
パチパチパチとスイッチを上げる音がして
装備が変えられでもしたのか機体が少しだけ揺れる。
「そんじゃ、お喋りはここまでとして・・お仕事するか!!」
ボウ!!
機体後部から加速の音が響く。
ジュンヤの位置からは見えなかったが
機体は何かを目指すように地面へと降下し
地面に接触するかしないかというギリギリのラインを飛び・・
チチチチチ・・・ピピッ!
小さなロック音と共に横に見えていた翼の下からミサイルが発射され
それを確認する間もなく次のミサイルが反対側の翼から飛んでいく。
ジュンヤは首をひねってその着弾する瞬間を見た。
狙っていたのは地上にあった倉庫らしき建物と
停泊していた大きな爆撃機だ。
その向こうに見えていた数台の戦車はこちらの味方だろうか
機体はそのまま低空飛行で地面スレスレを飛び
砦のような建物にあった砲台や敵戦車だろう物に
次々とミサイルと機銃をたたき込んでいく。
狙っているのはどれも地上物ばかりで、なんで地上部隊がやらないのかとも思うが
空からやったほうが移動効率もいいし損害も少ないのだろう。
「こちらダックス1、地上施設の制圧はほぼ完了した。
的確な支援に感謝する!」
そうしてしばらく地上物を撃破しているとさっきの部隊から礼の通信が入ってきた。
ブレイズはそれには答えずもう次の目的地に向けて機体を上昇させ始めている。
『さすがにサンド島。恐ろしいほど正確な支援だな』
『おい、上を飛んでるのがあのラーズグリーズだってほんとか?』
地上が遠くなる前、通信機がこちらの味方のものだろうかそんな会話を拾う。
それだけならジュンヤも気にしなかったのだが・・
『ラーズグリーズ・・・敵にとってはまさに悪魔だな』
その何気ないような台詞を聞いた時
せわしなく周囲を見回していたジュンヤの動きが止まった。
そのラーズグリーズというのが何なのかは分からないが
悪魔という部分だけはやたらと耳に残る台詞なのだ。
「・・・あの・・ブレイズさん、今いいですか?」
「ん?なんだ?」
「ラーズグリーズって・・なんの事ですか?」
ブレイズは機体を上昇させてレーダーを見つつ少し考えるような気配を見せた。
「さっき聞いたろ、悪魔の事だよ。
つっても本物の話じゃなくておとぎ話の中の悪魔の話なんだがな」
「おとぎ話?」
「あぁ、最近になって戦場での知名度がバカ高になった
ある意味ちょっと哀れなおとぎの国の悪魔のことだ」
次の目的地までの間、ブレイズはその悪魔の話をしてくれた。
ラーズグリーズというのはこの世界にあるおとぎ話に出てくる悪魔で
歴史が大きく変わる時にその姿を現す、漆黒の悪魔なのだそうだ。
それは北の海からやって来て
その力をもって大地に死をふりそそぎ
やがて死に、しばしの眠りの後再び姿を現すという
おとぎ話の悪魔なのだという。
「んで、敵さんからすりゃ俺らはそのラーズグリーズだって話なんだと」
などと言いつつも出会い頭の敵戦闘機に
2発のミサイルを命中させ、地上にいた戦車にも機銃攻撃があびせられる。
「じゃあ・・本物の悪魔じゃないんですか?」
「当たり前だろ。そりゃ俺らがやってることは敵から見れば悪魔だがな」
その強さから敵から悪魔と称され恐れられ
味方からはラーズグリーズと賞賛される。
それがこのブレイズの部隊の特徴らしい。
「しかし一見カッコイイかと思ってたんだが、これも結構キツイ称号だぜ?
アイツらがいればどんな困難もなんとかしてくれるって・・なと!」
ロックオンの警告音がし、後方から来たミサイルを器用にひねってかわすと
ガラスごしに見える翼から白い軌跡を残しつつ機体が旋回する。
そう言えば外を見るとこの機体の翼、他の戦闘機と比べてカラーが黒い。
「だから機体が黒色なんですか?」
「まぁな。相手をビビらす一種の威嚇だ」
カチとボタンが押される音がしてミサイルが敵機を撃墜する。
そう言えば自分も全身にこんな模様があるので
普通ではないと威嚇するという点では似ているかもしれない。
「サンド島の4機、ラーズグリーズ、今オレ達がやってる戦争の中で
これらは一種核並の脅し文句になっちまった」
「・・・・」
「ひでえ話だ。オレらはたった4機、しかもただの人間だってのに
あっちこっちにかり出されてはケンカの手伝いをさせられるのにてんてこ舞い。
それでも悲しいかな、オレらは間抜けな味方さんを助けずにはいられない」
撃墜した戦闘機の爆煙が頭上をかすめていく中、ジュンヤは目を見開いた。
それはほとんど自分と一緒だ。
元はただの人間なのに、たった1人悪魔にされて
あちこちを歩き回って、残されていた人間をただ助けようとしていた自分と。
「あの・・!」
『ブービー!こっちは片づいたぞ!』
何か言いかけた言葉は通信機から飛んできた言葉に遮られた。
どうやらさっきの味方の内の1人が仕事を終えて合流してきたらしい。
見ると黄色と黒の虎カラーという変わった戦闘機がすっと横に並んできた。
その声はさっきの通信内で隊長であるブレイズの事をブービーと呼んで
友人のようなため口まできいていた男のものだろう。
陽気な口調に呼応するかのように
戦闘機のカラーが黄色と黒の虎ガラだったりするのが少し笑える。
「ご苦労さんよ!だがこっちはまだだ!手近なやつから当たってくれ!」
『あいよ了解!ところでお前・・さっきチラッと見えたが後部座席に何のせてんだ?』
「後で話すっつってんだろ!!いいから行けボケ!!!
尻からSAAMフルパックで叩き込むぞ!!」
『ひぇー怖ぇ怖ぇ〜!』
などとあんまり怖がってなさそうな声を残し
並んで飛んでいた虎ガラの戦闘機は離れていく。
なんだかあまり戦闘をしている気がしない緊張感のないやり取りだが
彼らの中ではこれは日常的なやり取りらしい。
「今の人・・・部下なんですか?」
「立て前上はそうなってるがな。だが俺もあいつもそんな事あんまり気にしちゃいない。
んで?今さっきなに聞こうとしてたんだ?」
「・・え?・・・・・・あれ?なんでしたっけ?」
「はは、そそっかしいな。まぁ無理もないかこんな状況じゃ」
などと平和な会話をしている下では
敵の間でこんな通信が交わされていたりする。
『なんだと!?ラーズグリーズが来てるだと!?』
『あの黒の機体だ!こちらの切り札を2度も破壊した化け物だ!
単機で挑むな!集中してかかれ!』
などと敵の間で言われているところを見ると
このブレイズというのは相当敵側に損害を与えている存在らしい。
そして通信内容を裏付けるかのように複数の戦闘機が見えてきて
その全部がいっぺんに機首を向けて来るのが見えジュンヤはあせる。
だがブレイズは慌てず騒がす、エンジンをふかして力強く叫んだ。
「フォックス2!!」
機体がミサイルを発射した音と共に軽く振動する。
真っ直ぐ飛んでいた機体がぐんと旋回し
飛行機とは思えないほどの機動力で攻撃をかわしつつ敵機の後を追い回す。
中からでは分かりにくいがブレイズの狙いは正確だった。
無駄弾を使うこともなくタイミングを見計らい確実に敵を減らしていく。
しばらく見ていて分かったのだが今搭載しているミサイル自体にはあまり追尾性がないため
ブレイズは敵の機体が方向を変えようとする一瞬を狙って撃っているらしい。
「おい!」
「へ?」
ぼ〜っとそれに見とれているといきなり声をかけられ
ジュンヤはちょっと間抜けな声を出してしまう。
「なんか喋れよ!誰か後にいて黙ってられるとよけい気になる!」
「ぅえ?!っでも!こんな時になに言えばいいんですか!?」
「なんでもいいって。適当な世間話・・とか!?」
敵のロックをかわして横向きになった機体が何かの滑走路の上スレスレをかすめ飛び
格納庫だろう施設に機銃をあびせかけ、後から迫って来た敵機の背後を宙返りで取り
ミサイルを2連発でおみまいする。
なんで爆撃とドックファイトの真っ最中にそんな事言い出すのかと思うが
しかし喋りながらでもブレイズの腕と狙いは衰えず
敵戦闘機を撃墜し、時には地上にある爆撃機や施設などを
機銃もふまえて次々に破壊していく。
ジュンヤとしては地面に激突しそうな危ない飛び方まであるのに
何か喋れとはかなり無茶な注文だ。
「え・・えーとえーと・・・・!あ、そうだ
さっき通信で話してた人って・・どんな人なんですか!」
「あ?チョッパーか?そうだな・・オレの隊で一番口数が多い、ロック好きの阿呆だ」
「・・あ、阿呆なんですか?」
「けどアイツがいなけりゃ俺軍隊やめてたかもしれねぇな」
「え?」
「だってこんな少人数でややこしい任務ばっかり押しつけられて
上層部に愚痴ろうにも上の連中は下っ端の意見なんざ聞きやしねぇ。
アイツと一緒に上の文句言うだけが今の俺のストレス解消法なんだよなぁ」
「・・じゃあ愚痴り友達って事ですか」
「お、それ適切だな!」
嬉しそうな声と一緒に機体が景色をまわしつつ旋回し
放たれたミサイルが追跡して来ていた戦闘機を撃墜する。
『くそ!悪魔にいいように食い荒らされてるぞ!』
『悪魔め・・今度はどこを狙ってくる?」』
成る程、こんなのんきな会話しながらも撃墜数を上げられるなら
確かに敵にとっては悪魔にも見えるだろう。
ジュンヤはそんなことを考えながらさっき通信で大騒ぎしていた時
女の人の声が混ざっていたのを思い出した。
「それと最初の通信で・・女の人もいませんでしたか?」
「あぁ、ありゃエッジ・・つってもこれもコールサインだが
あいつは前の隊長の下にいたやつだ。見た目は大人しいがやることは恐いぞ?
で、もう一匹いた若い奴は・・アーチャーってコールサインで
最近空に上がれるようになったばっかりのひよっこだ」
「そんな人が戦闘機に乗ってるんですか!?」
「あぁ、戦闘経験もクソもなくいきなり実戦投入されたんだよ。
なんせ訓練もそこそこに基地が空襲されちまって
実戦も訓練も言ってられなかったからなぁ」
なんだか軍にもいろんな人がいるんだなぁと思ったが
ジュンヤの所にもそれを上回る妙な人員がひしめいている事を
珍しそうに聞く本人は気付かない。
などとやり取りをしているうちに 味方のものだろうか今度はこんな通信が入ってきた。
『こちらサンダーヘッド。ウォードッグ隊、河川上流部に敵の増援を確認した。
地対地ロケットと・・・バカにしやがって、戦艦だ』
その途端前にいたブレイズが素っ頓狂な声を上げる。
「あぁ!?こんなクソ狭い所にそんなもんが入り込んでやがるのか?!」
それはジュンヤにはなんのことか分からなかったが
戦艦というのはそれなりにこちらの驚異になるらしく
まっすぐ飛んでいた機体が突然速度を上げつつ大きく旋回して方向を変え
飛行機に乗り慣れないジュンヤは重力でちょっとうめいた。
『たはー!ついてないな!オレ達バケモンばかりに大当たりだ!
・・・あなブービー、オレあきらめていいか?』
「ざけんなアホ!!文句たれてないで仕事しやがれ!!
チョッパー!エッジとアーチャー援護して手数まとめて来い!
俺が先に行って砲塔何本かへし折ってやる!」
『うぉう、相変わらず前向きだねブービーは』
「前向きでなけりゃこんな仕事やってられっか!」
ブレイズはレーダーを睨みつつヤケクソ気味にそう怒鳴ると
おそらく指示された河川の方だろう方向へ機首を合わせ
エンジンを限界までフル回転させた。
「あの・・!戦艦って強いんですか?」
「さあな。俺はずっと空にいるからよくわからんが
地上の連中にすりゃそれなりに驚異なんだってよ。
・・っと、これか!2時方向・・いや右方向の河の中!」
ジュンヤが目をこらすと、そこにいたのは河を下ってはいるが確かに戦艦だ。
だがそれは一隻だけではない上に、護衛だろうかその上空には無数の戦闘機が舞っていて
距離を縮めるとそれらが全部こっちへ機首を向けてきた。
『くそっ、ラーズグリーズがこっちに機首を向けた!』
『他の部隊はどうした!?生き残りはこれだけなのか!?』
などと通信からして敵側も必死らしいが
こちらのパイロットはというとそんな事もまったく気にせず
その混乱のど真ん中へ突っ込んでいこうとする。
「あの!なんかすごく敵が目一杯いるみたいに見えるんですけど!?」
「そりゃ俺らは一機しかいないんだからそう見えるだろ」
「えぇ!?ちょっと!ホントに一機であの中に行くんですか!?」
「他の連中は足が遅すぎるんだ。
もたもたしてるとあの上に乗っかってる砲塔に味方が食われる。
かいくぐって突っ込むぞ!遺書は用意したか!?」
「うぇえ?!」
行動も言動も物騒な話だが
けどそれが本気でないのは笑っていたブレイズの声でわかる。
だがたとえ分かっていていたとしても
それはどこからどう見ても無茶無謀以外の何者でもない。
ぐんと機首が下がり、河の水面に当たるか当たらないかスレスレを飛びながら
敵機にロックオンされたけたたましい警告音をBGMにして
ミサイルのような速度で黒い機体が砲塔のずらりと並んだ戦艦に向かって
言葉通りまっすぐ突っ込んでいく。
そういや歴史の勉強をしたとき
飛行機ごと敵戦艦に突っ込んでいく特殊な部隊がいたっけな。
「いやああーー!?!」
「ロックオン!!」
情けない悲鳴と力強い声が見事なまでに重なった。
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