上空を飛んでいると分からないものだが
地上スレスレを飛ぶと戦闘機のスピードというのは身近かつ恐ろしいもので
まさに飛ぶかの勢いで景色がすっとび、まばたきする間ないほどの勢いで
正面のそれが近づいてくる。

本当に冗談抜きでぶつかるかと思った。
ぼがんとぶつかって天使のお迎えが来る間もなしに終わるかと思った。

「ぬおぉうりゃーーー!!」

だが砲台の並んだ鉄の塊に激突するかと思った瞬間
砲弾をかいくぐっていた黒い機体から、いらない気合いと一緒にミサイルが放たれ
命中させると同時に乗っていた機体は再び空へと舞い上がった。

「・・ち、さすがに2発じゃ沈まないってか」

だがそんな事などまったく気にしていないその様子に
声も出せなかったジュンヤが仰天した。

「ちょっと!まさかまだやる気ですか?!」
「当たり前だろ。完全に沈めないとミサイルの撃ち損になる」
「だからってあんな水面スレスレで危なげな飛び方しなくていいじゃないですか!?」
「ん?そうか?なら・・」

そして敵の戦闘機をかわしつつ空を舞っていた黒い機体は
突然戦艦上空で失速・・・したかと思ったらいきなりそこから90度下に向かい
えんぴつをすぽんと真っ直ぐ下へ落とすみたいな落下を始めた。

「ちょっとーーー!!!」
「水面近く飛ぶなって言っただろうが」
「だーかーらーっーてーーー!!」

遊園地にはこんな風な落下感を楽しむ乗り物もあるかもしれない。
だがこれは安全装置のたぐいが何もない、失敗したら確実に死ねる
ある意味棺桶以外のなにものでもない物騒な乗り物だ。

そして密閉されたコクピットでエコーをきかせながら
高速棺桶が空から直角に戦艦へと落下していく。

「ぅわーーーーーッ!?」
「あら
よっと!

だが戦艦に突き刺さると思った寸前、黒い機体はぐんと機首を持ち上げエンジンをふかし
そのほんの一瞬の間にミサイルを甲板に突き刺していく。

それは本当に激突ギリギリの荒行だったが
それを苦にしない行為はさすが伊達に悪魔などとは呼ばれていない。

そして追突寸前だった機体は何事もなかったかのように
次の攻撃のため砲弾の飛んでくる空を旋回し始めていた。

「しかし地上物は固ぇな。こんな事ならファルケン持ってくるべきだった。
 ・・おーい、ところで大丈夫か坊主。さっき首絞められたみたいな声出してたろ」
「聞こえてたならあんな無茶しないで下さいよ!!」
「だって水面近く飛ぶなっていったのはおま・・」

ビビーー!

「うおっと!!」

何かの警告音が鳴り響き、ブレイズが慌てて操縦桿を動かすと
窓のギリギリを後から飛んできた追尾ミサイルがかすめていった。

「2・3・・4機!?クソ、まだこんだけ残ってやがったのか」

それは敵戦艦の護衛機らしい。
気が付けば周りは敵だろう戦闘機が数機こちらに向かって飛んできている。

コクピット内がビービーという警告音でうるさいのは
それらが全てこちらを狙ってロックをかけている証拠だろう。

「うるせぇなあ・・・邪魔すんなら落とすぞコラ!!」

ぐんと機首が旋回し、黒い機体が戦艦から敵戦闘機へと目標を変える。

しかしそう動かない戦艦とは違い、ドッグファイトというのは
とにかく機体が飛行機と思えないほど激しく動き回るため
飛行機慣れしていないジュンヤにとっては悪い意味でたまらない状況だ。

「・・・あの!ずみまぜん!できたらもうちょっど!ゆっくり!飛んでもらえまぜんか?!」
「無茶言うな!んなコトしたら速攻ミサイルの餌食になるだろうが!
 つってもコイツはミサイルの1・2発くらいじゃ落ちないが・・うわった!?」

ドンドン! ゴウ!

などとミサイルに気を取られていると下の戦艦からも砲撃が飛んでくる。

そもそもたった一機の戦闘機でこんな事をする事自体に無茶があるのだが
その無茶を今までやって来たからこそ、この男は悪魔という通り名が付いているのだろう。

だが再度言うが飛行機慣れしていないジュンヤにはたまったものではない。

有り得ない速度とミサイルを回避するため回転運動に胃を何度もひっくり返されそうになり
平衡感覚がマヒしてくるのにそこは空中で逃げ場もなく
入っているのは頑丈な棺桶なため、さすがに悪魔であってもどうもできない。

だがちょっとやそっとでねをあげないジュンヤがめげそうになっていると
どこかでちらりとだが、何かがうなるような声がした。

働かなくなってきた頭でその声の元を探すと
それはいつもストックの深部にいて、こちらから声をかけない限りは
滅多に自分から行動しない、言い換えると大人しくて引っ込み思案なピシャーチャだ。

ピッチ?

ヴゥ〜。

言葉の話せない幽鬼は何か言いたそうに
ストックとこちらの境目でいつもより少し高めの声でうなる。

どうやらこちらが困っている様子を見かねて手を貸したいらしいらしいが
戦闘ではまったく非力な幽鬼に今こんな激しいドッグファイトをどうにかできるとも思えな・・

・・いや待て
そうとも言い切れない。

出来るかどうかは分からないが、やってみる価値はある。

ジュンヤは素早く判断して1つの命令を下した。


「ピッチ!エストマ!」


ヴォアオォ〜・・


ガガッ!ザリザリ!ザザッガッピー!

「なッ!なんだぁ!?」

聞き慣れた声と同時に周辺にあった計器類が一斉に変な音を立て
ブレイズが突然効きにくくなた操縦桿を必死で制御する。

だが同時に今までうるさいほど鳴り続けていたロック警告音が
突然1つもしなくなった。

『おい!どうなってる!レーダーからラーズグリーズが消えたぞ!?』
『何言ってる!じゃあ今俺達の目の前にいるのは一体なんだ?!』
『目視で見えてレーダーに補足できないだと?!』
『ミサイルロックにも反応しない・・!?
 ちくしょうめ、奴は正真正銘の悪魔だっていうのか!?』

ぱったりとミサイル攻撃のやんだ空をそんな通信が交差する。

エストマはこちらの気配を周囲の悪魔に悟らせないようにするためのスキルだが
ちゃんと飛行機のレーダーとミサイルの追尾装置にも効いてくれたらしい。
ほっとするジュンヤの前でブレイズが首をひねりながら頭を整理し

「・・お前、ひょっとして・・なんかしたな?」

おそらくこの異常と混乱と好機の原因である少年に
疑問と確信の入り交じった声をかけてきた。

「・・・えと・・すみません。迷惑でしたか?」
「・・いいや!助かる!」

さすがに気味悪がられるかと少しは思いはしたが
大方の予想通り、この大雑把で大胆な男は細かいことを気にしなかった。

即座に混乱している敵部隊の中に舞い戻り
実に手際よく敵機を撃墜していく。

「ところでさっきのピッチってのはなんかのおまじないか?」
「え?えっと・・・色々助けてくれてる友達の名前・・なんですけど・・」
「ふぅん?理屈はよくわからんが、その友達に礼は言えるか?」
「あ、はい一応」
「じゃあどこの誰だかどうでもいいがありがとよ。
 おかげでちょっとばかし静かなひとときを過ごせそうだ」

ブレイズはストックのこととか悪魔のこととか
スキルのこととかその他もろもろの事をまったく何も知らないはずなのに
それはまるでそこにピシャーチャがいて直接話をしているかのような言い方だった。

この人・・・ピッチがわかるのかな。

そんなはずはないのにと思っていると
ストックの中のオレンジ色の巨体がちょっと縮んだ気配がした。

「・・・照れてますよ」
「ははは!そいつは謙虚なこった!
 上で無茶な命令ばっかり飛ばしてる連中に見習わせた・・」

チュイン!ガガガガガガ!

だがそんなのんきな会話をしてると
ミサイルは諦めたのか今度は機銃砲が窓の外をかすめていく。

「お、古風な攻撃してくるなぁ!」

しかしやはりブレイズはまったくひるまず
黒い機体を器用に操り、一機、また一機と敵を確実に撃墜していく。

しかしジュンヤもぼんやりしている場合ではなくなってきた。
なにせこんな激しい空中戦などやったことがないので
さすがに頑丈な悪魔の身とはいえ気持ちが悪くなってくる。

気を紛らわすため景色を見ようにも、周囲の景色の変化は凄まじく速くて
あまり見ていると余計に酔いが回りそうだ。

最近ものを食べた記憶はないが
こみあがってくる何かを押さえ込みつつジュンヤが視線を巡らせていると
ふと真横を敵の戦闘機が飛びすぎていくのが見えた。

気は進まないが今は自分が出来ることをしていないと
このままじっとしているだけではコクピット内が大変なことになりなねない。

「ブレイズさん・・!あの戦闘機って脱出装置、ちゃんとついてますよね」
「?あぁ、大体の機体にはついてるぜ」
「・・わかりました」

相手はかなりの速度で飛んではいるが
近くに来た一瞬に狙いをさだめればなんとかなる。

ジュンヤはドーム状になっている強化ガラスの片方側にへばりつき
金色の目をぐっと細め、めまぐるしく変化する周囲の景色ではなく
空を自在に飛んでいる人工物に意識を集中した。

そしてそれが窓の外に来た一瞬を狙い
使い慣れた真空刃を喚ぶ。

ガツ!ボン!

それはなんとか横をかすめ飛んでいった戦闘機の翼に当たり
失速して落ち始めた戦闘機のコクピットから何かが飛び出す。

どうやら脱出装置があるのは本当らしく、ジュンヤはほっと胸をなで下ろした。

「ん?一機撃墜って・・もしかしてお前か!?」
「・・すみません。ただじっとしてると酔いそうなんで・・」
「はっは!そうかそうか!そりゃ言えてるな!」

さすがに気味悪がられるかと思ったが
さっきと同様、ブレイズはまったく気にする様子がない。

だがかなり人間離れした事をしているのにこうも平然とされると
逆に気味が悪くなってくるものだ。

「あの・・ブレイズさん、気にならないんですか?」
「なにが?」
「俺、さっきから変なことばっかりしてるんですけど・・」
「そりゃ空の上でいきなり出てきた時点で変なことには変わらないだろうが」
「それはそうですけ・・
どー!?

ぐいんといきなり機首を変えた操縦にジュンヤはうめき
その声と感覚が伝わったのだろうか
ストック内でもピシャーチャがヴェア〜と変な声を上げる。

「それにお前の常識範囲じゃそれで普通なんだろ?
 だったら俺がどうこう言う筋合いはねぇ」
「でも・・」
『おいブービー!まだ生きてるな!』

何か言いかけたジュンヤの声は
援護を終えて合流してきたのだろうチョッパーの声に遮られた。
見るとそれぞれカラーの違う戦闘機が3機
周囲の敵を蹴散らしながらこちらに向かってきていた。

虎ガラは先程見たチョッパーのもので
あと2機の純白の機体と白とグリーンの機体は
おそらくエッジという女性とアーチャーという新米兵士の機体だろう。

『隊長遅くなりました!』
『ブレイズ、砲撃はまだ始まってないの?』
「お!来たな!幸いまだ間に合ってるが大元がまだ叩けてない!
 取り巻きが残ってるから援護しろ!」
『了解!ブービー!』
『ところでブレイズ、レーダーがちょっと不鮮明なんだけど・・何かあったの?』

その言葉にジュンヤは一瞬ギクリとするが
ブレイズはまったく気にする様子もなく。

「後で説明する!とにかく援護頼む!」

それだけ言って素早く無線のスイッチを切り
味方のまざって騒々しくなってきた空から高度を下げると
ターゲットである戦艦へと機首を変えた。

『畜生!悪魔が来るぞ!』
『護衛機は何してる!このままじゃたった4機に1艦隊まとめて沈められるぞ!』

そんな通信の中、少し複雑な気分でそれを聞いていたジュンヤに
前から何気ない声がかかる。

「なぁ坊主、いいこと教えてやろうか」
「え?」
「俺はこんな風にラーズグリーズだとか悪魔だとか色々呼ばれたりするが・・
 そんなもん一々気にする神経を持ち合わせてないんだ」
「・・へ?」

こんな特攻前に何を言い出すんだと思ったが
よくよくその台詞を整理して考えると、それは確か乱戦の中
さっき自分がこの男に聞こうとしていたことだ。


『同じ人間から悪魔なんて呼ばれて・・イヤだとか思わないんですか?』


それはまだ問いかけてもいないはずなのに
ブレイズはその答えをこんな状況下で話そうとしているらしい。

でもどうしてそんな事がわかるんだと言いたげなジュンヤに
酸素マスクごしの声が少し笑ったような声に変わった。

「その声からしてなんで言いたいことが分かるんだって顔してるな?」
「・・あ、はい」
「ちらっと見えただけだったがそんな不思議なナリしてるし
 さっき何か言いたそうにしてたし、そうじゃないかと思ったんだよ。
 それに空の上でいきなり出てくるわジャミングはするわ魔法じみた事はするわで
 行動から何からどう考えても人間離れしてるってのに
 なぜだか俺と人間くさい会話しやがる」
「・・・・」
「けどな坊主、俺はお前が成層圏の超常現象だろうが
 ハイになった時見える幻覚のたぐいだろうが本物の悪魔だろうがかまいやしねぇ」

照準を戦艦にあわせてロックをかけながら
ブレイズという名の悪魔はヘルメットの下で不敵に笑う。


「何しろそいつが何者なのかって事は・・」

 
距離1500、1300、1000


射程圏内に入り、ロックオンの音が鳴った。


「俺でも他の誰でもない、
そいつ自身が決める事だからな!!


弾丸のように飛んでいた機体からミサイルが発射され
まるで白い槍が放たれたかのような軌跡を引く。

それは迷うことなく河を進んでいた黒い戦艦に着弾し
今度はその船体から大きな爆発を発生させ
あれだけ攻撃しても進むことをやめなかった移動砲台は
黒煙を上げてゆっくりと進行をやめ、その船体を河の中へと傾斜させ始めた。

「一丁上がり!!」

黒い機体はその煙の中を突きっきり
味方の歓声のあがる空の中を急上昇で飛翔した。

『ヒュウ!さっすがブービー!戦況ひっくり返しのハイパーエース!』

黒煙を上げる戦艦の上を飛ぶ黒い機体に
チョッパーが賞賛の通信をよこしてくる。

『・・やっぱり隊長はすごい。俺なんかまだ足元にもたどり着いてない』
『でもその足元を守るのも私達の大事な役目。・・そうよねブレイズ』

「・・だな」

目標物を撃破したことでいくらか低速になった機体の中で
マスクごしのどこか安堵したような声がした。

かなり状況は違うがそれはジュンヤと仲魔の関係に似ている。

知らない間に悪魔になっていた事も
とにかくただ必死になっている間に強くなった事も
そしてそんな自分を守ってくれている存在がいることも。

だからブレイズはジュンヤの素性がなんとなくだが分かったのだろう。

そしてこの男の強さは悪魔と称されるほどの腕があるだけでない。
何と呼ばれようが自分の意思を貫き通す、そんな強さがこの男にはあるのだ。

もしかしてあの暴走ターミナルはそれを知っていて
ジュンヤをこんな場所に放り出したのだろうか。

それが偶然か必然なのかは分からない。
しかしジュンヤがこの男から自分を見つめ直す機会と
いくらかの勇気をもらったというのだけは確かなことだ。

その心中が分かったのかヴ〜と少し嬉しそうな声を出したピシャーチャに
ジュンヤはうんとうなずくような気持ちを返し
こちらを遠巻きに見るように飛ぶ色とりどりの味方機を見た。

「・・いい人達ですね」
「はは、そんな風に言われたのは初めてだが・・悪い気はしねぇな」

そう言って悪魔の部隊の隊長はくぐもった声を出していたマスクをはずし
たった今沈めた黒い戦艦を見下ろす。

だがいくらか落ちついたはずのその空でまた1つ異常が発生した。


・・ウゥヴ〜


「え?」

それはストックでピシャーチャがもらした少し不安そうな声から始まった。
ジュンヤがどうかしたのかと声をかけようとしたが
それと同時に周囲に赤い閃光が走り出し、横にあった計器たちが異常をきたして
妙な音を立てたり針を暴れるかのように左右に激しくふりだす。

まさかと思って自分の手を見ると、赤い光りに包まれ始めていて
それは時間がたつにつれて強まりまるで自分の身体を別の物に変えて
そこから出そうとしているようにも見えた。

それはおそらく元の世界へ帰るための前兆か何かだ。

「・・っと!と!?おい、今度はなにやってんだ?」
「えと・・すいません!たぶん元に戻らないといけなくなったんです!
 機械とか操縦の方大丈夫ですか?」
「・・そうだな・・計器類は変な数値出してるが、それ以外はいたって正常だ」
「あの、ブレイズさん!」

ジュンヤは前のシートに手を伸ばそうとした。
しかしそれはしっかり絞めていたベルトで途中で引き戻されてしまい
それに気付いたブレイズがこちらを振り返ってヘルメットの中
口元しか見えなかったが楽しそうに笑った。

「いきなり来ていきなり帰るなんて、お前もお前で忙しいな」
「すみません!でも・・その・・!」
「あぁ、いいっていいって。ややこしい話はナシだ。けど参考までに言っとくぞ」

何かいいたげなジュンヤをさえぎって
ついさっきまで容赦なく敵を撃墜していたブレイズが
片手で操縦桿を操作しつつ、まるで友人に挨拶するかのような調子で軽く手をあげてきた。

「ラーズグリーズって悪魔は暴れた後に一度死ぬことになってるが
 次に現れた時には漆黒の悪魔じゃなくなってるんだ」
「え?」
「今はちょっと話してる時間もないが、お前ならその通りになりそうな気がする。
 なに、バカの俺がどうにかなってるんだら、お前だってどうにかなるさ」

ジュンヤが何のことだと思ったが、その問いかけをする時間はもうない。

景色も音も遠ざかっていくような感覚の、、赤く染まっていく視界の中で
前にあった軍用のグローブに包まれていた手が力強く親指を立てる。


「じゃあな!元気でやれよ!」


グッドラック! ジュンヤ!


彼のその最後の言葉は
外界と感覚が遮断されると同時に聞こえた、少し遠いもの。

しかしその言葉は何者にも代え難いような力強い言葉だ。

ジュンヤは何か言おうと口を開いた。
だがその言葉が口から出る前に、その身は赤い光と一緒に宙にかき消え
一瞬のうちに機外へ弾き出してしまう。

そして機体の外へ出された時ジュンヤは見た。

まるで風に逆らうような翼の構造をした黒い戦闘機が
翼から白い尾をひき、青い空を弾丸のようにまっすぐ飛んでいくのを。

それは確かに空を切り裂いて疾走する黒い翼をもつ悪魔のようにも見えた。

だがその飛び方はただ単に悪魔と言うだけではもったいないような
とても綺麗でまっすぐで、そして何より無限にある空の中で
小さいながらも悠々と自信と誇りを持って飛ぶ
とても力強いと飛び方をしていた。

身体が元の場所に帰されていくその寸前まで
ジュンヤはその機体を見ていた。


自分もいつか、あんな風に綺麗で堂々とした
悪魔という恐ろしげな通り名は付くけれど

実はそうではない何者かになれるだろうか。


そんな事を考えながら。






ガガッザザザ・・ピーピー・・ツーーーー


正体不明の赤い光が収まり、異常をきたしていた計器達が元の状態に戻っていく。

ブレイズは再び1人になったコクピットで小さくため息をつき
操縦桿を握りなおして素早く計器のチェックをした。

あの少年が何者だったのかは最後まで分からなかった。
だが何を言おうとしていたのかは大体分かる。

悪魔と呼ばれるパイロットは、操縦桿をぐっと握りなおしてどこまでも青い
けれど自分にとっては庭でもある空を見据えた。

だが感慨にひたる余裕もなくチョッパーから無線が飛んでくる。

『おいブービー!さっきから一体何やってるんだ!?
 お前のまわりだけ突然ジャミングされたみたいになるわ
 今のは今のでこっちの計器も一瞬パニくりやがるし
 敵連中はお前が魔法を使ったとかどうとか言いやがるし、一体何がどうなってる!』
「だーかーら!後で話すっていってんだろが!
 それより地上部隊の援護はすんだんだろうな!?
 手ぇ抜いて来たなら今度はトロピカル柄の旧式機に乗せるぞてめェ!」
『お前が士気上げしてくれたおかげでもう済んだっての!
 だがまだ残党掃討が残ってるから今度はそっちだろ?』
「わかってんならとっとと行くぞ!敵は腐るほどてんこ盛りだ!」
『あ、ちょっと待ってブレイズ!その前にこれだけは聞かせて』

強引に、だが静かに割り込んできたエッジの通信に
ブレイズは何をきかれるか大体予想しつつ口を閉じる。

そして言われた言葉はやはりメンバーの全員が最も聞きたかった言葉。


『あなたさっき・・後に一体何を乗せてたの?』


ブレイズ、隊長、ブービー、ラーズグリーズ
などとやたら呼び名の多い空の悪魔は
からっぽになってしまった後部席をちらとだけ振り返り
小さく笑った。

「・・ラーズグリーズ」
『えっ?』
「・・の
タマゴだよ!!

楽しそうな声と一緒に悪魔と恐れられる黒い機体の後部が加速の火を噴いた。

『は?なっ!おいちょっと待てこら!』
『ちょっとブレイズ!?』
『わぁっ!ちょっと待って下さいよ隊長!』

猛スピードで飛んでいく黒い機体の後を
それぞれ独自のカラーをもつ機体が慌てたように追いかける。

結局あの少年の正体は聞けずじまいで終わったが
ブレイズはそれでもよかったと思っている。

無敵の悪魔の話を聞いてくれたのが
空の上でいきなり出会った、変な模様のある控え目な悪魔なんてちょっと笑える話だが
その悪魔にもちゃんと人間性があって、自分もあんな事を言ってしまったのだがら
こちらも悪魔の名に流されることは許されない。


呼びたいヤツは好きにするがいいさ。

悪魔だろうがなんだろうが

俺は俺の意思で飛ぶだけだ!!


無数にある装置の上を
目にもとまらぬ速さで軍用グローブをした指が駆け抜け
何者をも恐れないその意思は同じ人間に悪魔と呼ばれながらも
迷うことなく機体を大空へと走らせた。


「さぁて!漆黒の悪魔、ラーズグリーズのお通りだ!
 死にたくない奴は道をあけな!!」

その咆哮は外へ聞こえないかわりに
翼の先のから白い雲を引き、青い空を切り裂いていく。

そして北の海ではなく辺境の島から来たとされる漆黒の悪魔は
その日を境にしてさらに強さを増したと噂されるが

それが空の上で突然遭遇した
本物の悪魔と出会った事によるものだと知るものは
この後機密事項扱いされることになる本人と
彼の部下数人以外には誰もいない。










悪魔つながりできまぐれに始めたエースコンバット5のお話でした。
分かる人少数でしょうが自己満足話なのでご勘弁。

ちなみに使用機体は複座式じゃないけど前作と同じ・・と思ってるSUー47の黒カラー。
前から見たとき翼が逆Vの字になってるやつです。

さらに知ってる人向けに蛇足として付け加えると
各員の機体は性能とカラーと趣味が一致したヤツにしてます。

チョッパーは紫の桜ガラとかも似合うと思う。


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