ジュンヤとトールとファントム。それにシャドウとグリフォンを加えて
最初は2人だけだった散策が、知らない間になんだか突然大所帯になった。
しかし数が増えたと言ってもファントムとグリフォンは小さく
シャドウはトールの影に沈むようについてきているので
あまり増えたようには感じられない。
いやそれよりも、ジュンヤ達には今現在困ったことが1つあった。
「あーもー!気持ち悪いな!どこからこんなに沸いてくるんだ・・よッ!!」
「主!そちらに行ったぞ!」
「泣きごと言うなチビ!こいつら全部低級だ!遠慮なくぶちのめせ!!」
ファントムの警告通り、日が沈んでからというもの
変な人形だの最初に会ったトカゲだのが
次から次へと沸きだしては襲いかかって来るのだ。
幸いどれも強くはないが、トカゲ(ブレイドというらしい)は動きが素早く
人形の方(マリオネットというらしい)は
見えない糸につられるようにカタカタと奇怪な動きをし
時折思いがけない動きをするので心理的に気味が悪い。
だがこちらにはそれを打ち消すほどのちょっと変わった助っ人がいた。
シュ! ガツ! ドカ!
それはあまり見ているヒマはなかったがかなり不思議な光景だった。
シャドウはその名の通り、影のような身体を自在に変化させ
時には大きな口のようなものになり、時には長い槍やナイフのような形状に変化し
次から次へ、ためらうことなく悪魔達を排除していく。
しかもその身体は物理的攻撃を受け付けないのか
時々飛んでくる人形のナイフや半月刀などをものともしていない。
あれで魔法系統が使えたら完璧なのになぁ・・。
「主!!」
などと考えているとトールが緊張したような声を上げた。
はっとして後ろを見ると、ほとんど目の前にブレイドの爪。
「ガァアアーー!!」
しかしその爪がジュンヤに到達する寸前
頭にいたファントムが身体を真っ赤に発熱させると
ブレイドの顔めがけて飛びかかった。
軌道をそらされたブレイドは真っ赤に焼けたファントムを顔に付けたまま
しばらく地面を転がり回り、地面から伸びてきた針状のシャドウに
しつこいほど串刺しにされ動かなくなった。
「油断するなバカチビ!!」
「ごめん!ありがと!」
ブレイドの死体の上で怒ったように跳ねていたファントムは
その言葉に一瞬動きを止めた。
なにせ今まで謝られた事も礼を言われたことも
悪魔の、しかも凶暴で位の高かった彼にはなかった事。
しかしそれがいけなかったのか
何匹かいたブレイドの一体がファントムに矛先を変えた。
ジュンヤが気付いて慌てて回収に走ろうとしたが、それより先に赤く光る何かが
ファントムに飛びかかろうとしていたブレイドに激突し、軌道をそらした。
「オマエ・・!」
ぱささとかわいい羽音をさせ、全身に赤い色の電撃をバリバリさせているのは
サイズは縮んだがまぎれもなくグリフォンだ。
悪魔だったときの記憶はないが、かつての同士がわかるのだろうか
グリフォンは小さい爪でファントムをはっしと掴むと、ちょっと重そうに持ち上げ
ぱたたと飛んでジュンヤの頭の上に戻した。
「・・・こいつめ!昔はこんな事しなかったくせに!」
わかっているのかいないのか、グリフォンはピヨと鳴くと
少し大型のブレイドと格闘しているトールの所へ戻っていく。
「畜生!オマエはホントに面白れぇなチビ!!」
「・・え?あ・・うん。ありがと」
なんだか嬉しそうな声でそう言われ
ジュンヤはマリオネットにシッポを掴んだブレイドを叩きつけつつ
戸惑ったような声で返事をした。
ともかくそう強くはないが、フォローをしてくれる元魔帝の腹心達と
淡々と確実に敵をしとめていくシャドウ。
さらに他に仲魔がいないため俄然やる気になっていたトールのおかげで
しばらくすると無限かと思われた敵の勢いは少なくなり
トールが叩き潰したマリオネットを最後にその場から敵の気配がようやく消失した。
ただ倒した所にあの気色悪い宝石が転々と浮いていて
よく見るとあんまり気持ちいいものではなかったが
それは遠目に見れば大丈夫だし、時間がたつと自然に消えるようなので
そのまま放置しておけばいい話。
しかしこの宝石、使用用途を知らなければやっぱりただの嫌がらせだ。
「・・なんか後味悪いけど・・もう大丈夫かな」
「あれだけ放出したんなら・・しばらくは打ち止めだろうな」
「・・・ふぅ、よかった」
さすがに連戦が効いたのか尻餅をつくジュンヤのそばに心配したトールが駆けつけ
シャドウが様子をうかがうように影の中に潜り込み、赤い目で見上げてくる。
「主、大丈夫か?」
「・・うん平気。夜に戦ったことって今までなかったからね」
ボルテクスができてジュンヤが悪魔になって以来
あの世界での太陽、つまりカグツチは沈んだ事はない。
そんな中でずっと戦闘をしていたのなら夜間の戦闘は
確かに視界が悪く、よけいな神経も使い疲労する。
「・・・まぁちょっと意外な助っ人がいたのは嬉しい誤算だったけど」
そう言ってジュンヤはこの島の悪魔達を見回した。
ファントムは熱で少し発光しているし、グリフォンも電撃を発生させると赤く光るので
ライトのないこの場所ではいい明かりになっている。
そして何よりうまくシャドウがフォローしてくれたので
ケガらしいケガも負っていない。
見る人によっては目だけが光るモヤ状の生き物というのも気味が悪いだろうが
ジュンヤはなついてくる生き物を怖いと思う思考回路を持っていなかった。
「お前もありがとな。助かったよ」
ジュンヤがすっと獣の形の戻った赤い目の上、つまり頭付近を撫でてやると
影でできたケモノは喉・・があるのかどうかわからないが
ともかく嬉しそうに喉を鳴らしたような音を出した。
「しかし主、いつまでもここに留まるわけにはいかぬ。
いつまた先程の連中が群れを成して・・・う」
しかし話の最中にトールは頭にいたグリフォンにコチコチと頭をつつかれる。
「・・なんだ?何用だ?」
「お腹でもすいてるのかな」
しかしグリフォンはピヨと一声鳴いてトールの頭から飛び立ち
いくらか飛んだ所でこちらを振り向きピヨと鳴く。
どうやらどこかへ連れて行きたがっているらしい。
「・・・アイツ、元と違ってバカに気前がいいな」
「おそらく主の人徳であろうな」
「そんなんじゃないよ・・ってわ!」
笑いながら歩き出そうとしたジュンヤだったが
足元が暗かったので瓦礫に足を取られてけつまづき、前のめりに倒れた。
しかし倒れた先にシャドウがいてくれたので瓦礫に顔をぶつけずにすむ。
だがジュンヤはとっさに伸ばした手の先
半分ないような身体の中心に何か丸い物が浮いているのに気がついた。
「あれ?お前・・・身体の中に何か丸いのがある」
「あぁ、それはそいつのコア、本体だ」
「え?これが!?」
ぺたぺたと触ってみるとそれは影に隠れて見えず
ただ丸くて大きい物としかわからない。
「・・変わってるなお前、ネコみたいなのに」
影でできた大きなネコはなんで?と言いたげに軽く首をかしげた。
実はそのケモノの心臓部であるコアに
素手で触れさせてもらえる悪魔も相当変わっているのだが
もうファントムはジュンヤに関しては色々ありすぎて珍しいとは思わなかった。
ともかく夜目のきかないジュンヤはすっかり定位置になった頭にファントムを乗せ
自分も同じく定位置となったトールの肩に乗り、その大きな影に潜むシャドウを連れて
ほんのり発光しているグリフォンの後をゆっくりと追いかけた。
ジュンヤは都会育ちなので電気も何もない夜を歩くのは初めてだ。
それでも明かりが何もないはずの瓦礫の島は
月と星のわずかな光に照らされ、思っていたほどの怖さがない。
ずしずしと歩くトールの肩の上でジュンヤは上を見上げた。
その拍子に頭の上にいたファントムがぽろりと落とされそうになり
慌てて肩に飛びうつる。
「おい、なんだよチビ」
「・・あ、ゴメン。ちょっと星を見てたんだ」
「星?星なんざ夜になればイヤでも見えるだろうが」
「それはそうだけど、俺の最近までいた世界には夜がなかったからね。
だからこんな所を明かりもなしにウロウロすると
星でも見てないと怖いかなとか思ったんだけど・・・」
前を飛んでいたグリフォンがぱたたと戻ってきて、定位置のトールの頭の上にとまる。
どうやらここでいいらしい。
ジュンヤはてってと寄ってきたグリフォンの頭を指先で撫でながら
ほのかに光るタトゥーを笑みの形に変えてこう言った。
「でもトールもファントムさんもグリフォンもシャドウも
みんながいてくれるから全然怖くなかった」
トールの身体がぴしりと固まり
優しい言葉と仲魔内で『悪魔殺し』と賞される微笑みを同時に
しかもこれ以上ないくらいの至近距離で受けてしまったファントムは
ぶしゅうと全身を真っ赤にして軽く後ずさった。
「バ・・ば・・馬鹿かてめぇは!!悪魔が他の悪魔を頼りにしてどうする!!」
「でも俺やっぱりみんながいないとダメだから・・」
「あれだけ色々やらかしておいて今ごろ軟弱な事言うな馬鹿!!」
照れ隠しなのか声を荒げて怒鳴っても
声は所々裏返っているしぷいぷいと肩の上で怒る姿はかわいいだけだ。
ちなみに主の事を馬鹿と連呼されているにもかかわらず
トールはトールで照れたのか、顔を手で押さえたまま動きがない。
その足元では赤い目のついた影からシッポが伸び、嬉しそうにゆらゆらゆれ
グリフォンはわかっているのかいないのか
身体をちょっと丸くして身震いし、くちゅっと小さいクシャミをした。
しかし・・
ゴゴ・・ゴ
ふいに地面の割れる音がして、なごんでいた全員に緊張の色が走る。
地面を進むブレイドかと思ったがそれにしては地面の盛り上がり方が大きい。
ゴゴ・・・・ドゴン!
しばらく見ていると瓦礫でうまった地面を割ってかなり大きな何か出てきた。
それはファントムと似た形をした、トールほどもある巨大なクモだ。
ただファントムと違うのは目が1つであること。
あと身体が赤く焼けていないことの2つくらい。
「・・・ファントムさんの知り合いか親戚?」
「違う!!あんな低級と一緒にするな!!
それといつまでさん付けで呼ぶつもりだ気味悪い!!」
「え?重要なのそっち?」
「こら貴様!主に向かって何という・・!」
などと緊張感のない会話をしていると
その巨大なクモは何を思ったのか瓦礫の中に頭を突っ込む。
ジュンヤはとっさに嫌な予感をさせて
肩にいたファントムをひっつかみ、トールの肩から飛び降りた。
「固まらない方がいい!散開しろ!!」
するとその予感は見事に当たり、トールとジュンヤが互いに距離を置くと
一つ目の大グモは地面からがばと顔を出し
元全員のいた場所に岩の破片を投げつけてきた。
「カンが良いなチビ!」
「そうでないと生きていけないだろ?」
何しろジュンヤは別に悪いことをしているわけでもないが
襲われることには慣れている。
「固そうだけど物理攻撃は効く?」
「多少固いが俺ほどじゃねぇ!思いきりやれ!」
「わかった、トール!」
「まかせよ!」
呼びかけに応じてトールが鉄槌を振り上げ突進した。
しかし一つ目の大グモはくるりとトールの方を向いたかと思うと
なんとその巨体ではるか上空高くまでジャンプした。
ピイと頭にいたグリフォンが鋭く鳴いたが
トールはその巨体であまり素早くは動けない。
ゴガーーーン!!
ただジャンプしただけかと思ったが大グモの狙いは正確だった。
トールは落ちてきた大グモの下敷きになりジュンヤ達の視界から消えた。
「トール!!」
「あの馬鹿!!」
砂煙の中から大グモが這い出てくる。
その向こうにはトールがうつ伏せに倒れていて
難を逃れたのかグリフォンが心配そうにその上をぐるぐる飛び回っていた。
姿がストックへ戻らなかったなら戦闘不能にはなっていないのだろうが
赤い電撃に照らされる大きな白いマントはピクリとも動かない。
「・・そういやアイツ、動きは遅いが跳躍力だけはあったな。
おいチビ!アイツの狙いは正確だ!出来るだけ地面から離すな!」
「でもやっぱり飛ばれたら?」
「全力でよけろ!!」
「うわっ!!」
などと言う間にも巨大なクモはシャドウの攻撃から逃れて飛んできた。
その巨体に似合わずその動きは正確で
ジュンヤですらかなり意識していないと避けられない。
ジュンヤは一応メディアラハンをかけ倒れたままのトールを回復させ
位置を固定しないように走りながら真空刃を作る。
しかしその大グモ、シャドウからの攻撃を受けながらも
なぜか目線がジュンヤに釘付けだ。
「・・・え?!俺狙いなのか!?」
「そりゃシャドウは元からここにいる悪魔だし
オマエの方がかなり目立ってるからな」
「そういやそ・・・」
がつ! べしゃ!
と、自分の発光しているタトゥーの事を思い出していると
足元にあった大きな瓦礫に足を取られ、ジュンヤはものの見事にすっころび
頭にいたファントムが前へぽてと落ちた。
「何やってんだ馬鹿!!」
「・・ごめん足元暗くて・・」
「謝ってる場合か!!とっとと立って・・」
しかし立って走れという前に、月明かりがふっと何かにさえぎられる。
上を見るといつの間に飛んだのかさっきの大グモ。
よけるにも攻撃するにも間に合わない。
「うおッ!?」
ジュンヤはとっさに目の前にいたファントムをひっつかむと
ちょうど起き上がっていたトールのいる方向へ、ボールよろしくぶん投げた。
べち!!
ズドーーーン!!
ファントムがトールの頭にぶつかったのと同時に
大グモがジュンヤの上に轟音を立てて落ちた。
「・・っ!あんの馬鹿!!」
「主!!」
少しでも走れば直撃くらいは回避できただろうに
ヘンな悪魔はそれをせず、会ったばかりの小さい悪魔を優先させた。
それは悪魔のファントムからすれば理解不能な事この上ないが
今はそれよりもワケの分からない怒りの方が遙かにまさった。
「こんの低級畜生が!!」
もう昔ほどの力もなく、勝てる見込みがなど到底ないのに
ファントムは青かった目を真っ赤にし
全身を自分が溶けそうなほど発熱させ飛び出そうとする。
しかしそれは白い手袋におおわれた巨大な手が壁になった事でさえぎられた。
「待たんか!そんな身でどうするつもりだ!!」
「どうとでもしてやる!!そこをどけデカブツ!!」
「主の行為を無駄にするな!あの程度で主は死なぬ!」
とは言えシャドウが大グモを追い払っても
その場からジュンヤは出てくる気配がない。
トールは念のためメディアラハンを詠唱すると
下にあった瓦礫ごとファントムを拾い上げた。
「・・・少々不本意だが贅沢は言えぬ、手を貸せ!
同じクモならどこを狙えばいいか分かろう」
「あんな低級と一緒にするな!けどクモじゃなくても見ればわかる」
ぱたたとファントムの横にグリフォンが降りてくる。
どうやらこちらも協力してくれるらしい。
「では頼む、失敗は許されんぞ!」
「そっちこそヘマするなよ!」
トールはファントムとグリフォンをまとめて潰さないように握ると
反対の手に鉄槌を構える。
少し離れた距離で大グモを追い回していたシャドウがそれに気付き
標的がこちらに来るように誘導した。
そうして追われていた大グモは正面に見えたトールを見るなり頭を地面に突っ込む。
おそらく正面衝突をせずに岩を投げてくるつもりだ。
「行くぞ!!」
掴んでいたファントム達を上に投げ、トールは走りだした。
だがおそらく距離からしてあちらが岩を投げる方が速い。
しかしそれはトールだけと戦っていたらの話だ。
大グモが岩をくわえて地面から出てくる。
そしてその瞬間。
「くらいやがれ低級!!」
ジュゴーー!!
グリフォンに運ばれていたファントムが落下し
身体を真っ赤に焼いて大グモの1つしかない目に取り付いた。
ゴガァアーーー!!
絶叫と共に投げようとしていた岩がばらけて落ちた。
いや持っていたとしても肝心の目を焼かれていたのでは
もう正確な狙いを付けることはできないだろう。
猛烈に暴れ出した大グモから落ちそうになったファントムを
飛んできたグリフォンが素早く回収する。
シャドウがそれを見計らって大グモの足元の影に素早く潜り込むと
身体を針状に変化させ、上に向かって連続で突き上げた。
しかし大グモはそれでも息絶えずさらに暴れたが
その腕が一本、何か大きなものに掴まれる。
それは間合いを詰めきったトールだ。
「・・先程の礼だ」
巨大なクモは足を引きちぎらんばかりの勢いで地面に引き倒され
「受け取れェ!!」
ゴガーーーーン!!
背中になる部分に物凄い音を立てて鉄槌が振り下ろされた。
その強烈な衝撃は大グモの巨体だけでは止まりきらずに
下にあった地面をも叩き割る。
今度はさすがに声を出す器官さえも潰されたのか
大グモは悲鳴も上げずに大きく一度痙攣すると
鉄槌を身体の中心に突き立てられたまま動かなくなった。
グリフォンがトールの頭にファントムごととまり
シャドウも変形をといて元の獣の形に戻りトールの横に油断無くついた。
もう少し他の仲魔がいれば話は早かったのかもしれないが
召喚主がやられてしまっていてはそうも言っていられない。
けれどこんなヘンな連中だけど、にわか仕込みの仲魔だけど
やっぱりジュンヤの近くにいるとなぜか不思議と悪魔同士で連携ができてしまう。
それはトールがジュンヤの仲魔になってからわかった利点の1つだ。
「今までの主への無礼は感心せぬが・・協力は感謝する」
「・・・勝手に言ってろ。・・オマエもまぁ・・よくやったとは思うがな」
つんつんと爪で下にある頭をつつきつつ
ファントムはちょっと照れたのか小声で言う。
トールは咳払いを1つすると何も言わずに歩き出した。
しかしこっちもこっちで照れたのか歩き方が手足同時だ。
そんなトールの足元をシャドウがついて歩き
さっきジュンヤが潰されたあたりへ・・・
メギギ
だがいくらか歩いたところで背後から何か変な音がする。
驚いて振り返るとさっき動かなくなったはずの大グモが
ぎこちないながらも身を起こしているではないか。
「チ!仕留めそこねたか!」
「おのれ往生際の悪い!」
頭上でグリフォンがピーと鳴き、シャドウが形を変えようと身を丸くする。
しかし大グモは最後に残った力を振り絞り、さっきと同じような大ジャンプをした。
ただ目が潰されているのでもう落下地点はトール達のいる場所ではない。
クモの作る影の先にあったのはトール達のさらに先、ジュンヤのいた場所だ。
「しまった!!」
「チビ!!」
トールが慌てて走り出したが到底追いつけるはずもない。
シャドウが身体を槍状に変えて迎撃しようとし、グリフォンが苦し紛れに電撃を放ったが
どれもあの巨体を止めるにはいたらない。
しかしその巨体はジュンヤのいる場所に到達する事はなかった。
ガゥン!!!
それはまるで何かの力を蓄えて一気に放ったような銃声だった。
青白い光を放つその弾丸は
突然ジュンヤのいたすぐ上の虚空から発射されたかと思うと
空中にあった大グモの巨体をまっすぐに貫通し
その身を土や岩、さらにいくつかの赤い宝石へと変える。
それが1つ目のクモ型悪魔、サイクロプスの最後だった。
しかしファントムはいきなり別の箇所から助けがあった事より
もっと別のことに1人驚愕していた。
あの虚空から放たれた銃声と光る銃弾。
多少威力が増し、銃声の音も少し質が変わっていたが
あんな弾を発射するのはそう多くはいないはず。
「主!!」
まさかまさかと思うファントムを乗せたままトールが走り寄ると
ジュンヤは気を失っていたのか、ちょうど目を覚まして起き上がった所だった。
「・・・?あれ?何がどうなったんだ?」
「・・よかった。無事であったか」
「・・あ、トール。さっきのクモは・・おわっと!」
急いできたトールの頭からショックで固まったファントムがぽろっと落ちてきて
ジュンヤは慌ててそれを両手で受け止める。
「先程のクモなら今消滅した。・・・少々手こずったが」
「・・そっか。・・ゴメン、俺だけ寝てたみたいで」
「いやなに、主のおらぬ戦いもよい修行の内だ」
そう言って表情はわからないが声色が楽しそうなトールの頭の上で
グリフォンがピイと同意するかのように鳴き
シャドウが座ったままゆるりとシッポを振った。
ただファントムだけは・・
なぜかジュンヤの手の上でプラモデルのように固まったまんま。
「・・?おーい、ファントムさん。どうしたんだよ」
あれはさすがに見間違いようがない。
しかしあの銃の持ち主はもうここからとっくに脱出しているはず。
「・・おぅい、ファントムさんてば」
それがなんで今頃、こんな変な悪魔のそばで
しかも悪魔を守るような事を・・・
「・・・・・ファントム・・ちゃん?」
「誰がファントムちゃんだゴラ!!」
まだ自分が大きかった頃、誰かにされたように足をつつかれて
焔の魔将はぶしーと蒸気を出し、ぴょーんと飛び上がって怒鳴った。
「・・なんだ、聞こえてるじゃないか」
「俺は地獄耳なんだよ!!それより今の撤回しろチビ!!」
「うーん、サイズ的にはそれでもいいと思うんだけどな」
「いいワケあるか馬鹿!!俺様を誰だと思ってやがる!!」
「こら貴様!!いい加減にその態度を改めんか!!」
「やかましいデカブツ!!おいコラグリフォン!
オマエもそんな所であくびするな!くつろぐな!!」
そんな騒ぎの中、シャドウが何かに気付いて
すっとトールの影の中に滑り込む。
騒いでいる連中は気がつかなかったが
いつのまにか出てきた綺麗な朝日が
海の向こうからひょっこりと顔をのぞかせていた。
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