日が昇り周囲がようやく静かになったところで改めてまわりを調べてみると
粉々になった瓦礫の中、なぜか水がたまったような円形に
大きく残っている床の部分が見つかった。

いや、それは残っていたのではなく、床にあった水たまりのような物が
下の床を丸く残していたと言った方が正しいかもしれない。

ともかくその大きな水たまりは瓦礫の中、場違いに不思議な色の表面をしていて
のぞき込むとその中には上にある景色ではなく
どこかでみたような見慣れた光景がうつっていた。

「これ・・・イケブクロのビル前じゃないか!?」
「何?」
「ほら、ガラスとか散らばってるし、火のたかれた階段があるし間違いないよ!」
「うむ・・言われてみれば・・・」
「ありがとうなグリフォン!これでなんとか帰れそうだ!」

トールの頭の上にいた小さい鳥は答えるかのようにピイと鳴き
ぱささと飛んでさっきから黙りこくっているファントムの横に降りた。

どうやらジュンヤ達が元いた場所に帰るのがわかるらしい。
シャドウもなんとなくそれがわかるのか
ちょっと名残惜しそうにジュンヤの足にまとわりつくと
困らせないようにというつもりだろうか、大人しく身を引くようにして
グリフォンの横に腰を下ろした。

「・・ところでみんなはこれからどうするんだ?」
「・・さぁな。上の奴がいなくなった以上、ここに執着する意味はなくなったし
 島を出てどこか遠くへ行ってみるのも悪くねぇ」

それは元悪魔の魔将の考えにしては随分とのんきなものだが
きっとそれはジュンヤに関わってしまった事も関係しているのだろう。

「・・しかしそのような身で海を渡るなど大丈夫なのか?」
「何言ってやがる」

トールの指先くらいもない元魔帝の腹心は
肩をすくめたつもりなのかちょとだけ身体を縮めて広げると。

「俺達を誰だと思ってやがるんだ?」

その自信満々に言われたセリフは今度は一人称ではなく複数形だ。

この崩壊した島でしぶとく生き残って
異世界の変な悪魔と関わった希少な悪魔は
そう簡単にはへこたれたりはしない。

グリフォンが羽を広げてピヨと鳴き
シャドウがシュルルと同意するようにうなった。

ジュンヤは笑ってシャドウを抱きしめグリフォンを撫でると
最後にファントムの小さい前足を軽く握った。

「また・・どこかで会えるといいな」
「・・ふん、馬鹿言え。オマエみたいな変な悪魔とそう遭遇してたまるか」
「ははは。・・あ、そうだトールは何か言うことないか?」
うッ!?い・・いや急に言われてもだな・・・」

いきなり話をふられてトールは困惑する。
なにせこんな場面に遭遇した事など彼としてはあまりない。

「これでお別れなんだから何か言っておかないと後から後悔するぞ」
「・・・うぬぬ」
「言うことがないなら1つ別れの挨拶を教えておこうか?」
「・・挨拶?」
「人差し指出して」
「??」

言われた通りトールが指を出すと
ジュンヤはそれをファントム達の所まで持っていき
それぞれかなり大きさに違いのある前足や羽と触れさせた。

おそらく握手をさせているつもりなのだろうが
どう見てもそれは大きさ的に違いすぎ
握手というより某宇宙人映画のワンシーンのようだ。

「はい、次ファントムさん」

最後にジュンヤはファントムに手を差し出したが
手のひらサイズのクモはちょっとムッとしたように
前足ではなく背中にしまわれていたサソリの尾のようなものをぴょいと振り上げた。

「馬鹿言え!なんでオレがそんなマネしなきゃならん!!」
「あれ?ファントムさんてクモじゃなくてサソリ?」
「どっちでもいいだろうが!!とにかくやなこっ・・おわ!?
「はい、さーよなら三角まーた来て四角
 あーりがとまーたあーえたーらいいねー」

しっぽをつままれ持ち上げられたファントムは、無理矢理トールの指先に乗せられ
困惑するトールを無視し意味不明で即興な歌と一緒に上下に振られた。

人のいいように見えてジュンヤもなかなか強引だ。

地面におろされたファントムはやっぱり怒ったのか
ぷしーと赤くなって小さな口を開いたが
こんな時にまで怒鳴る気にはならなかったのか
開いた口からマッチですったような小さい火を出しただけで黙り込んだ。

「それじゃあみんなありがとう。俺達帰るよ」

ホントはみんな一緒に連れて行きたいけど
青い空がある世界に生息している悪魔達を
わざわざ閉鎖空間へ連れて行くには抵抗がある。

それに何よりこちらの世界のルールを乱すようなことを
東京とトウキョウを経験しているジュンヤはしたくなかった。

「・・おい、オマエはそっちに戻って何をする気なんだ?」

すっかり習慣になってしまったのか
トールの肩に登ろうとしていたジュンヤは振り返る。

「俺?俺は・・・なくしたものを元に戻したいだけだよ」
「?・・それだけか?」
「うん、それだけ」

悪魔だったら何かを支配するとか
何かを征服するとかもうちょっと欲の効いた事をいうだろうに。

ファントムはシッポでぽりぽりと頭をかいた。

「・・・オマエやっぱりヘンな奴だな」
「時々言われるよ」
「・・では主、そろそろ行くか」

ジュンヤを乗せたトールが大きな水たまりの前に立つ。

「それじゃみんな、元気で!」
「達者でな」

グリフォンがピーと鳴いてシャドウがシャーと吠えるが
ファントムは黙ったまま青い目でこっちを見るだけだ。

大きな足が不思議な色をした水に沈む。
幸いそれはいきなり沈んだりはせず、ゆっくりと沈むように送り出してくれる。

「・・おいチビ!」
「え?」

しかしあと半分で沈みきると言うところで
ファントムが急に声を上げた。

「俺はオマエの事、嫌いじゃないぜ!」

後ろを向いていたトールが何を言い出すのかとジュンヤごと振り返る。
だが元のサイズからすればかなりちっこいクモは気にせず


「坊やは嫌いだけどなッ!!」


と意味不明の事を捨て台詞に怒鳴って
かっと威嚇するように爪の付いた前足を広げた。

それはジュンヤには何を意味するのかわからなかった。

しかしその意味を問いかける間もなく
瓦礫の島の悪魔達はジュンヤとトールの視界から完全に消えてしまった。




ズシーーーン!!

「うぬっ!」
「おっとと!」

ビルの屋上ほどではないがちょっと高いところから地面に落とされ
体勢を崩したトールの肩でジュンヤは少しよろけ
慌てたように伸びてきた手によって支えられる。

「大丈夫か主?」
「平気平気。こんなのいつもの事だ」

そう言って周りを見ると
少し視点は高くなっているがそこはイケブクロのビルの前
ダンテと初めて会った階段の一番下の方だ。

上を見上げると青い空はなく、この世界での太陽になるカグツチが照っている。

「・・戻ってきたな」
「・・うむ、そのようだ」

さっきまでいた場所もここも崩壊しているのには変わりないが
やはり青い空があるのとないのとでは随分と雰囲気が違って見えた。

そう言えば簡単に元に戻すとは言ってしまったが
世界を元に戻して空を元に戻すというのは、そう簡単にできることなのだろうか。

「・・なぁトール」
「?」

トールの頭が少しだけ、上を見上げたままのジュンヤの方を向く。

「この空が元通りに青くなったら・・またあの3体と会えるかな」

何気ないがちょっと難しい問いにトールは黙り込んだ。

ボルテクスはそう大きくはないが
青い空の世界というのはそれこそここの何万倍もある。
しかもあんな名前も場所も知らない島で会った小さい悪魔に
もう一度会う可能性など広大な砂漠で一個の石を探すくらいに難しい。

『会えるさ。オマエがそう望むならな』

しかし答えをくれたのはトールではない。
ストックで謹慎させていたはずのダンテだ。

「・・え?俺が?」
『そうだ。オマエはいつもそうやって来ただろう』

姿の見えないダンテはその時からかうような口調をせず
どこか思い出を語るようにこんな言葉を続けた。

『元ただの人間のクセに、ただ元の世界を返して欲しくてこんな世界を歩き回って
 ただ真実を知りたくて、ただ先に進みたくて、魔人どもやオレを乗り越えていった。
 それはオマエがそうしたいと望まなければできなかった芸当だろう?』

そう言ってダンテはストックの中でふっと笑ったような気配をさせる。

『それにな、悪魔ってのはしぶといんだぜ?
 デビルハンターのオレが言うんだ。間違いない』

あの島で細々と生き残っていたファントムもグリフォンもシャドウも
たくさん沸いて出てきたあの悪魔達も
そしてこの世界で生きているジュンヤもダンテも仲魔達も
人間にくらべて悪魔というのはそう簡単にいなくなったりはしないものだ。

だからこの閉鎖された世界を元に戻す事ができたなら
いつかどこかでまたあの悪魔達に会うかもしれない。


望めば何だって出来る 


それは昔好きだった映画の言葉の1つだ。


「・・・そうだね。可能性はゼロじゃない」
「主?」

ストックからの声が聞こえないトールが
不思議そうにジュンヤの方を見上げた。

「それじゃあまず手始めにこの世界を元に戻さないとな」
「・・て・・手始めなのか?」
「あ、ゴメンゴメン。それじゃとりあえずって事で」
「・・・・・・」

どっちにしろスケールのでかい事を平気で言ってのける主の性格は
大らかなのか大雑把なのか天然なのか。

そんな会話を聞きつつダンテはふと笑みをもらす。


今は黙っておくつもりだが、いつか話をしてやろう。


そんな事を考えながら
かつてあの島でチビとも坊やとも言われたデビルハンターは


「・・上等だぜバケモノ」


最後に言われた言葉の返事を聞こえるはずもないのにつぶやき
ストックの中でごろりと横になり、1人静かに目を伏せた。











父でブレイド狩りしつつ書いた妄想爆発初代編でした。
腹心2人は人語話しててなんか憎めないし、ネコは探さないと見つからなかったけど
仲魔にすると楽しそうなので思いつくまま書きたくった結果がコレ。
やっぱ暗い話を楽しい方にねじ曲げるのは楽しいなぁ。
いつかここの3匹とはどっかで再会できたらいいなと思ってたり。

ちなみに最後の映画のネタ、誰か知ってる人いるでしょうか。
出来るかどうかは別として勇気の出る名台詞だと私は思います。

もどる