軽い浮遊感の後重力が戻ってきて
最初にダンテのブーツの裏が踏みしめたのは
嫌と言うほど踏みなれた砂だった。
しかし足元どころか見渡せば周囲は完全な砂漠状態で
一瞬どこか外にでも放り出されたのかと思ったが
そうでないことは強く吹き付けてきた風によって否定される。
ボルテクスは無風というわけではないが、こんな強い風はない。
しかも地面には雲の影。
上を見上げるとカグツチではない太陽が
少しの熱を放ちつつさんさんと光り輝いていた。
「・・・どこだ?ここは」
何気なく問いかけてみたが、横からあるはずの答えはない。
見ると隣、周囲、上、どこを見てもさっきまでいた少年の姿が見当たらなかった。
ダンテは一瞬しまったなとは思ったが
こんな事は珍しいことでもないだろうと深く考えずに
抜き身だったリベリオンを背に戻す。
彼は仕事で何度かこんな目にあっているが
元に戻れなかったためしは一度もないのでダンテとしては案外気楽だ。
さてどうするかと周りを見回すと、近くに砂にうもれている大きな何かを発見する。
砂を踏みしめながら近寄ってみるとそれはビルの外壁だ。
年代的にはダンテのいたころの物とあまり変わりないが
こんな砂漠の真ん中にビルの外壁だけがうもれているというのも妙な話だ。
状況的にはボルテクスに似ているのだが
最近受胎したボルテクスのビルにしてはえらく年月がたった様子があり
この状態から推測するに、どう見積もってもこんな状態になってから
数10年の年月が過ぎているように見える。
そしてボルテクスと何より最も違うのは、空がまだ閉鎖されておらずに青いこと。
ここがどういった世界でどうなっているのか
説明のできるちゃんとしたガイドがほしいところだが
この古びたビルを見る限り、それも望み薄かもしれないとダンテが思っていると・・・
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
遠くから何か地響きのようなものが近づいてきた。
音の方に目をこらすと、何か黒い固まりのようなものが砂煙をあげつつ
砂漠の上をゆっくりと移動しているのが見える。
ダンテは少し考えてそれに向かって歩き出した。
幸いそれは低速で周囲を巡回しているような動きをしていたため
すぐに追いついたのだが・・・
ぐゴゴゴゴゴゴゴ・・・
それは意外に、いや予想以上に大き・・いや巨大な代物だった。
黒光りする全長はちょっとした競技場ほどあり、高さもちょっとしたビル並に高く
なんでこんなのが動いて移動できるんだと思うほどにデカかった。
それは言うならば砂漠の上を移動する巨大戦艦だ。
長い胴体部分には飛行機の滑走路のようなものがあり、ブリッジと思われる場所付近には
巨大な大砲や大型のマシンガンのようなものがずらりと並んでいて
ダンテですら一瞬物騒だと思えるほどの物々しさだった。
だが見た目は物騒だが、話の通じる人間くらいは乗っているだろうと
ダンテはその戦艦から見える位置に立ち、自然に止まるのを待ってみた。
すると巨大な戦艦はそれに気が付いたのか
ダンテの手前30メートルほどで砂煙を上げて停止してくれる。
が。
ガシャ ガシャ ガシャン
ゴウン ギョロロー
「なッ!!?」
そこに搭載されてあった大砲や機銃、ありとあらゆる全ての銃口が
停止すると同時に全部まとめて、躊躇なくダンテの方に向いた。
ドンドンドン!ガガガン!バラララララララ
ドガーン!チュドーーン!!
大砲、バルカン、ミサイル、考えつく限りのありとあらゆる近代兵器が
これでもかと言わんばかりにいっぺんに発射される。
ダンテはさすがに応戦どころの話ではないので
必死になってそれを避けて避けて避けまくった。
何もたかだか人間1人にこんな集中砲火しなくてもいいだろうと思うが
黒光りする戦艦はまったくもっておかまいなしに撃って撃って撃ちまくってくる。
さすがに頭に来たダンテは銃を抜いたが
あんな戦艦にそんな小さな銃2つや剣1本で相手になるわけがない。
ならば甲板に上がってコクピットを狙いたい所だが
それより早く甲板上の機銃にハチの巣にされる確率の方が高い。
せめて店に置いてきたランチャーがあればな!
売られたケンカは買う主義なのか、逃げることなど微塵も考えないダンテは
砲撃をやめてゆっくり旋回する戦艦を見据えながら
いちかばちかで装甲の薄そうな所を見極め、両手の銃に魔力をためる。
ドーーーン!!
しかし戦艦がこちらを向く前に
機銃ののっていた甲板付近からいきなり爆発がおこった。
いや、それは爆発ではない。
何かが横から飛んできて甲板に着弾したのだ。
その何かが飛んできた方向を見ると、戦艦とは別の何かが今度は4つ
砂煙を上げてこちらに走ってくるのが見えた。
そのうち3つは近づいて来るにつれてわかったが
それぞれに色も形も違う3台の戦車だった。
1つは空母に向かって走りながら主砲を発射している
なぜかよく目立つ黄色のカラーの戦車。
その後にいた紺色の戦車は軽く機銃を発射した後、こちらに向かって走り
最後尾にいた黒くずんぐりした大きめの戦車は
黄色い戦車と協力して3本もある主砲を使い
戦艦に向かって次々と攻撃を仕掛けていた。
そして残っていたもう1つの影ははなんと犬だ。
中型犬だろうかキツネ色をした柴犬で、背中には大砲のようなものを背負い
大砲を何発か発射してから一瞬戦艦に向かおうとしたが
途中で無謀だと感じたのか足を止め、遠巻きに様子をうかがっている。
その連中は戦艦に攻撃しているので敵ではなさそうだが
一応警戒しながら様子を見ていると、紺色にペイントされた戦車が
ダンテの近くに砂煙を上げて横付けされ、上のハッチがバタンと開いた。
出てきたのは戦車と似た髪の色をした青年だった。
黒のジャケットは何かの作業でもしていたのだろうか、かなり油でよごれてはいるが
目つきが少し鋭い以外はどこにでもいそうな普通の青年だ。
「よ。あんた仕事中か?」
大砲の音が行き交いする中
青年は動じることなくのんきな口調でそんなことを言ってきた。
ダンテは何のことか一瞬わからなかったが
少なくとも悪魔を狩る仕事の途中でないことだけは確かだ。
「いいや。ちょっと出会い頭に吹き飛ばされそうになっただけだが・・」
「なんだ、それならよかったよ。そんじゃよければ乗ってかないか?」
そう言って青年はコンコンとハッチの後を軽く叩く。
なにがよかったのかあまりよく分からないが
これ以上あんな悪魔でもない巨大戦艦と関わるのはさすがにごめんだ。
「お申し出はありがたいが・・あいにくチップの持ち合わせがなくてね」
「別にいいって。どうせ行きずりだしな」
「じゃあお言葉に甘えていいか?」
「かまわないぜ。どうせリーダーの指示だしな。
ただ運転の方はちょっと荒っぽいからしっかり捕まってな」
「OK、助かる」
ダンテが飛び乗ってハッチに捕まるのと同時に
青年はするりと下にあった操縦席に戻り、ハッチを開けたまま戦車を急発進させた。
向こうでは戦艦と戦車二台が激しい砲撃戦を繰り広げていたが
戦艦の方はやはりあの巨体で機動力のある2台を相手にするには無理があるらしく
動きが少しぎこちない。
「タツミ!シャーリィ!終わったぞ!」
操縦席から聞こえてきたその声と同時に2台の戦車が攻撃をやめ
遠巻きに様子をうかがっていた犬と合流してこちらに走ってくる。
しかし不思議なことに黒い戦艦は追ってこなかった。
それどころかこちらに興味を無くしたかのように巨体をぐるりと旋回させ
また悠然と砂の向こうへ砂煙と一緒に走り去っていく。
「・・・なんだアイツ?」
この世界に来たばかりのダンテはわけがわからず
ギョロギョロとキャタピラの音を立てて走る戦車の上で
遠ざかっていく巨大戦艦を見送り1人首をかしげた。
ダンテが戦車にしばらくゆられてたどり着いたのは
まるで西部劇で使われそうな町並みだった。
大地は乾いていて立ち並ぶ家々はよく似た構造をしつつほぼ全部木造。
これで馬とカウボーイでもいれば完璧に映画の中だったろうが
馬の代わりにあったのはなぜか鉄道の駅だ。
しかもそんな町の中を戦車が通っても誰も気にせず
それどころか建物の中には戦車の入れる大きな入り口や
駅にまで戦車用らしきスロープが当たり前のようにある。
馬の代わりに戦車があり
建物は古めかしいのに鉄道が通っているとういのも少し変わっている。
そんな妙な光景を見ながらダンテは色々と聞きたいことがあったが
戦車の操縦中に話しかけるのも危なそうなので
とりあえず戦車が止まるまで質問を待つことにした。
そうしてしばらく戦車にゆられていると先頭を走っていた黄色い戦車が
町のすみにあった小さい小屋の前で止まる。
それに続けてダンテの乗っていた紺色の戦車
最後尾にいた黒い戦車と犬が止まり・・・
がごん
先頭にいた黄色い戦車のハッチが開き
緑のゴーグルキャップと緑のチョッキを着た少年が出てきた。
「・・・・」
少年が無言でこちらを見る。
その目はやけに静かで落ちついていて
それはまだダンテと出会ったばかりの表情に乏しかったジュンヤを思い出させる。
しかしそんな目の持ち主があんな戦車をあやつって
巨大戦艦と格闘していたのもちょっと変な話だが。
「・・・戦車を乗り回すにしては随分若い少年だな」
「まぁ確かにちょっと変わってるけど、運転はあいつがピカイチだし
一応あんなのでも俺らのリーダーだしな」
よいしょと操縦席から出てきた青年に聞くと、これまた意外な事を聞かされる。
しかも最後尾の黒い戦車から出てきたのは
腰にいくつかの銃をさげた金髪のカウガール風の女だった。
「キリヤ!第二主砲が調子悪いんだ、ちょっと見てくれない!」
「わかった」
西部劇なのか近代なのか一体どっちなんだと思う中
キリヤと呼ばれた青年はスパナ片手に黒い戦車の方へ行き
手慣れた様子で黒い戦車の修理を始める。
カウガールと少年が戦車をあやつり、あんな青年が戦車の整備。
なんだかよくわからない世界観だなとダンテがぼんやりそれを見ていると
ふと下の方から視線を感じた。
顔を向けるとさっきの少年がシッポをふっている犬を足元において
じーーーとこっちを見ている。
ダンテは無言で戦車から飛び降りると
どこかぼーっとしたような目をちょっと身をかがめてのぞき込んで見た。
少年は別に気にもせず・・というか元から何も考えていないのか
特になんのリアクションも見せてこない。
それがまた昔のジュンヤのようでダンテは1人苦笑する。
「アンタがリーダーって事は・・オレを助けるように指示したのもアンタか?」
少年は黙って1つ無言でうなずいた。
「なら礼を言っとくぜ。あんな鉄の塊は専門外だったからな」
少年はちょっと不思議そうに眉を寄せた。
「・・・お兄さん、ソルジャーじゃないの?」
初めて聞いた声はやはりどこかジュンヤを思い出させる穏和なものだ。
しかしソルジャーとは戦うことを専門にした戦士の事で
特定の種族だけを狙って狩るダンテのスタイルとはちょっと違う。
「・・いいや。オレはデビルハンターだ」
背中のリベリオンを指しながら言ってやると
少年は背中の剣とダンテを交互に見て、小型のノートパソコンのような機械を取り出し
何か入力すると画面をこちらに向けてこんな事を言った。
「どっちの?」
小さな画面に映っていたのは、黒くてグロイ何かが混ざりまくった変なものと
かなりぼやけた何かを破壊している人間のシルエット。
「・・・なんだこれは?」
「掃きだめの悪魔と赤い悪魔」
どうやらこの世界には悪魔というのはこんなのしかいないらしい。
考えてみればここと元いたボルテクスとは違うところが多いのだから
ダンテの狩るような悪魔がいないのも当たり前なのだろう。
「・・・ここはオレの知ってる悪魔はいないらしいな」
「・・・?」
意味が分からないといったふうに少年が首をかしげる。
その様子がなんだかやりづらくて少し困っていると
今度は背後からこんな声が飛んできた。
「あぁ、ちょっと待ってて!これすんだらちゃんと話したげるからさ!」
それはさっき黒い戦車から出てきたカウガールだろう。
その様子からしてこの少年はいっつもこの調子で
残る2人がフォローしていうという構図らしい。
・・・なんだか最近ガキに縁があるみたいだな。
そんな事を考えながら、ダンテは近くにあったキャタピラにもたれかかろうとするが
くい、とその不思議な少年がコートのはじを軽く引っぱった。
何だと思って少年を見ると
その少年は指先でもたれようとした場所をなぞって見せてくれる。
指先にはコートについたら一生とれなくなりそうな戦車油がついていた。
「・・・なるほどな」
感謝のつもりでぽんと頭を叩いてやっても
少年は別に嫌がるでもなく笑うでもなく、普通に布を出して指をふく。
その足元ではキツネ色の中型犬が飽きることなくシッポをふりふり振っていて
見た目にはあんな戦車を戦争さながらに操縦していた少年には見えない。
なんだか掴み所のない妙なガキだな。
それがダンテがこの少年、タツミに持った最初の印象だった。
戦車の修理が終わり、4人と1匹はその町の酒場に来ていた。
そこはやはり古めかしく、ジュークボックスや木造のテーブル
カウンターの奥にはバーテンがいてちょっとした舞台などがついた場所で
ダンテはこういった場所は嫌いではなかったのですぐになじんだ。
無口なリーダーに変わって話をしてくれたキリヤによると
その少年の名はタツミといって、なんとこれでもハンターだというのだ。
しかしこの世界のハンターというのはそう剣や銃での肉体戦をせず
戦車を使って巨大な賞金首を狩ったりモンスターと戦ったりし
あまり制約にとらわれず自由にこの荒野を生きる者達の総称のようなものらしい。
そしてキリヤはその戦車整備をするメカニック。
カウガールはシャーリィと言って戦車よりも肉弾戦を得意とするソルジャーなのだそうだ。
犬はどこかの研究所跡から拾ってきた生体兵器みたいなもので
名前は醤油のシミみたいな色をしてるというタツミの意見から
しょうゆと名付けられたらしい。
「・・・ちょっと変わった少年だな」
「・・・俺もガキの時から付き合いはあるけど未だにそう思う」
「・・・ってか普通わかりやすいようにって理由だけで
自分の戦車をヒヨコみたく黄色に塗るハンターっている?」
などとひそひそ話す3人をよそに、当のタツミは別に気にする様子もなく
便利ナイフでキコキコと何かの缶詰を開けている。
ついでに言うとその黄色い戦車含めて3台共
白と黒の蛇の絡み合ったエンブレムがついている。
理由を聞くと蛇年だからだとか何とか。
「それにしてもあんた、ティアマットと単身戦なんて度胸あるよなぁ」
「ティアマット?」
「さっきのデカイ戦艦だよ。かなり昔に作られたやつなんだけど
主人を亡くした今でもきっちり自動で動いてあのあたりを勝手に巡回してる
結構高い懸賞金がかかってる賞金首だ」
「無人なのか!?」
「そうだよ?・・え?アンタまさか知らなかったのかい?」
さもあっさり言われてダンテは少なからず驚いた。
確かにあんな物が無人のまま武器を満載し砂漠をウロウロしていたら
賞金首にでもなるだろうが、あんな巨大な物が自動で動けるここの文明は
この周辺の建物とのギャップが大きすぎる。
それにあんな武器満載の巨大戦艦を倒せるとも思えないが
しかしこの世界にある戦車を何台か駆使するというのなら
持久戦でなんとかなりそうな気もする。
「そういやさっきから気になってたんだけどさ、アンタどっから来たの?
ハンターにしちゃ物を知らなすぎるしソルジャーでもメカニックでもないんでしょ?」
くらげスティックという変な名前のつまみでこちらを指しながらシャーリィが聞いてくる。
ちなみにキリヤとダンテが飲んでいるのはフロンティア、シャーリィはクランクシャフト
タツミはウェストゲートという飲み物と一緒にぬめぬめ酢の物という
なんだか見た目も名前も非常に得体が知れない物を食べていて
しょうゆにわんわんグルメなる缶詰をあたえていた。
「どこから・・・というそれ以前に、オレはここがどこだか知らないんだが」
「「は?」」
得体の知れない物を食べながらしょうゆを撫でているタツミをよそに
ダンテはターミナルでの事故のことや、元いたボルテクスの事を簡単に話してみた。
「・・・へぇ、つまり転送事故ってわけ」
「あんなもん俺達しか使わないと思ってたけどなぁ」
「・・・なに?」
意外にすんなり受け入れられた上に
何か気になる言い回しをされダンテは眉をひそめた。
「俺達も時たま街と街を移動する時に各街に設置されてる転送機を使うんだよ。
ただそれも人が作ったもんだからな。完璧安全って保証がない」
「だから使ってる最中に設定した場所とはまったく違う場所に飛ばされる
転送事故ってのがこっちにはまれにだけどあるんだよ。
まぁ幸い転送機自体が壊れなきゃ戻ってこれる話なんだけどさ」
あのターミナルは誰が作った物かは知らないが
やっぱりこの世界と同じく完全に安全というものではなかったのだろう。
いやむしろ原因は完全にダンテにあるのだが。
「でも世界ごと違う場所に飛ばされるなんてなぁ。
どんな装置なのかちょっと見てみたい気もするな」
「アタシはゴメンだね。そんな得体の知れない装置なんか」
「・・なぁ、その転送機でオレのいた世界に戻るってのは可能なのか?」
その問いには機械に詳しいキリヤが答えてくれた。
「その世界がここからどれくらにの距離にあるかとか
場所とかの特定ができれば出来るかもしれねぇけど・・・
なんせ事故の偶然ってやつだからな。そう簡単に再現できるもんじゃないと思うぜ?」
それは希望がまったくない言葉でもなかったが、あまり救いになる言葉でもない。
いやしかしこんなダンテにしてはよくある事だ。
何しろ魔界だの何かの巣だの体内からだのどんなところからでも
1人で戻ってきたではないか。
・・・ん?
ポジティブに考えていたダンテのグラスが口を付けられたまま動きを止める。
何かを忘れているような気がするのだ。
何だったかなと思い出そうとしていると
テーブル上にあったくらげスティックが横から伸びてきた手に一本つままれた。
「ちょっとタツミ、酸っぱいニオイさせてあたしのつまみ取らないでよ」
「ごめん、じゃあこれあげる」
「ヤダいらない」
「しかし前から思ってたけどお前よくそんなの平気で食えるな」
「慣れれば美味しいと思う」
『スコンブ?そんな酸っぱくさいニオイのやつよく食えるな』
『そうかな?俺はそれなりに美味しいと思うけど。保存もきくし』
がたん!!
イスを倒して立ち上がったダンテに3人と1匹の視線が集まる。
「・・・ジーザス」
今まで1人でこんな状況下を乗り切ってきたダンテは
完全に忘れ去っていた相棒のことを思い出して愕然とした。
一方そのジュンヤはというと
ダンテの落ちた砂漠からかなり離れた砂漠を歩いていた。
「なーーーーんにも無いなぁ・・・」
ボルテクスなら部分的に建物が残っていたりするのだが
ここは相当昔に相当な破壊活動があったのか
残っている物と言えば建物の残骸少しとちらちら見える道路の跡のみ。
それで人がいたという事は確認できるが
それ以上の手がかりは見つけることが出来ない。
「しかし手強い悪魔が出てこないのは幸いですね」
少し上の方で偵察してくれていたサマエルはそう言うが
ジュンヤとしては少し疑問が残る。
「でもあれって・・悪魔なのかな?
俺にはでっかいヒマワリとミサイルに見えたんだけど」
実はさっきから2人はたまに変な物に襲われていた。
それはジュンヤの言った通りの巨大なヒマワリと地面に刺さったミサイルで
それは襲いかかってくるかと思った矢先、なぜかミサイルが勝手に爆発し
ヒマワリを勝手に巻き込んで終わるという、非常によくわからい戦闘・・
というより遭遇ばかり続けていた。
「ヒマワリの方は突然変異のたぐいでしょうが
ミサイルの方はかつてこの地で残った不発弾の残骸でしょう」
「え?じゃああれって誰かが意図的に操作してるんじゃないのか?」
「意図的にするなら我々も巻き込んでいるはずですし
時限式にしては外見の構造が単純でしたから」
「・・・でもやっぱり変な不発弾だな。思いっきり見えてるし
あんなちょっと動かしたら倒れるような微妙な刺さり方してるしさ」
「それは私も疑問に思うところですが・・・何分ここはボルテクスではないのですから
私達の世界の常識はあまり通用しないのでしょう」
「・・かもな」
それにしても・・・あの問題児・・・
とジュンヤはここにいないダンテに向かって憤慨する。
ストックに入れようとするのを拒んだあげく勝手にはぐれるなど一体どうゆうつもりなのか。
しかもこんなボルテクスではないがボルテクスによく似た世界ではぐれるなど
お得意のジョークなのか偶然なのか、どちらにせよ非常に迷惑極まりない。
見つけたらどんな攻撃をしてやろうかと殺意はつもるが
とにかく攻撃方法を考える前に本人を見つけない事にはどうにもならない。
「・・あれ?」
そう思いながら広い砂漠を見回していると
ふとかなり遠くだったが何か動いている物を発見した。
今度は巨大なヒマワリでもミサイルでもない。
多少大がらでアラビア風の衣装を着ているきちんとした人間だ。
ジュンヤは少し迷った。
何しろ自分はこんな身体なので普通にここはどこかと質問をして
ちゃんと答えてくれるかどうかは少し疑問だ。
だからといってこのままあてもなく広い砂漠を歩くより
多少なりとも情報は必要になってくる。
「・・・よし」
ダメで元々。
むしろダメな方が多いけど、何もしないよりはマシだと
ジュンヤは腹をくくってサマエルに待機を命じ、その人影に向かって歩き出した。
「あぁ!?本気かあんた!?」
「残念ながら冗談を言うほど今のオレには余裕がなくてな」
「たった1人をこの広い土地で!?
そりゃ砂漠で一個の弾を見つけるのと同じじゃないの!?」
「わかっちゃいるがやらないといけない事なんでな」
交互にとんでくる声に冷静な対処をしながら
ダンテはシャーリィに借りた道具で久しぶりに手入れをした銃を
カチャカチャと器用に組み立てていく。
仲魔がついているからのたれ死ぬ可能性がないにしろ
事故の原因になった上に勝手なことをして勝手にはぐれた事については
そりゃあもうもの凄く怒っているに違いない。
「アイツはナリは小さいが目立つ。どうとでもしてやるさ」
「それにしたって無茶だろ!?冷静に考えろよ!」
整備の終わった銃をホルスターに戻し
グラスに残っていたものを一気にあおって、ダンテは笑って見せた。
「これでも表で便利屋やってた身だ。・・・世話になったな」
ともかく一刻も早く合流しないと、どんな報復が待っているかわからない。
ジュンヤの身よりも自分の心配をしつつ立ち上がろうとしたダンテだったが・・
横からひょいと腕を掴まれ、思わぬ力でどすんとイスに逆戻りした。
見るとそれは今の今までほとんど会話に参加していないタツミだった。
その表情はやはりぼんやりしているというか何も考えてないというか
とにかく何を言わんとしているかまったくわからず、ダンテは軽く困惑する。
するとタツミはぽいといきなり掴んでいた腕を放して
ズズーとまるでお茶のように残っていた液体を飲み干し・・・
「・・砲弾補充してから行こうか」
と何のことかさっぱり分からないことをつぶやいた。
しかしキリヤとシャーリィにはそれが何を意味するかわかったらしい。
「・・・おいおい、まぁたかよ」
「ま、タツミらしいといえばタツミらしいけどさ」
それぞれ呆れたり笑ったりと反応は様々。
そして問題のタツミは席を立つと黙って酒場の入り口まで行き
駆け寄ってきたしょうゆを足元に置いて、何か促すようにこちらを見た。
意味を計りかねて疑問符を飛ばしまくるダンテの肩をキリヤがぽんと叩く。
「一緒に探してくれるってさ。あんたの相棒」
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