ダンテは最初丁重に・・とまではいかないが正直タツミの提案を断ろうとした。

しかしこのタツミという少年、ぼんやりしていると言うか人の話を聞いていないと言うか
どちらにせよどれだけいいと説明しても首を縦にふらず
最終的には説得に飽きたダンテが根負けしてしまった。

・・・これもアイツの影響か・・・?

ギョロギョロと走る黄色い戦車の上で、装備された機銃にもたれかかりながら
本来1人で仕事をするはずのデビルハンターが
ふて腐れたようなやさぐれたような複雑な気分になる。

当然のことながら戦車は固いので乗り心地は悪いはずなのだが
下が砂なせいかタツミの技術がずば抜けているせいなのか
シートもなにもない鉄の車は案外快適に砂漠の中を走り抜ける。

考えてみれば二本の足でこんな砂漠を歩くよりは
こうして戦車で走った方が遙かに効率がいいだろう。

こんこん

などとぼんやりしながら時々見える建物を見ていると
ふいに操縦席からノックの音がした。

何だと思って前を見ると、前方に何かの人影が見える。

あちらもこっちに気付いたのか手を上げて答えているが
近づくにつれてそれはまた近代でも西部でもない、変わった姿をしている事が分かった。

それは筋骨たくましいアラビア風の男だった。
白いターバンに白いマント、むき出しのその腕は太くてたくましく
長くクセのある髪はあちこち曲がり放題で、腰には同じく曲がった剣をさして
知り合いなのか手をあげながらこちらに向かってまっすぐ歩いてきた。

黄色い戦車がその男の前でゆっくりと止まり、操縦席のハッチが開く。

「こんにちは」
「元気そうだなタツミ。新しい知り合いか?」

頭をのぞかせたタツミに男が手を上げて答える。
無精ヒゲを生やしているが、声色からしてそう歳のいった男ではない。

しかしダンテの経験とカンからしてこの男、かなりの腕を持つようだ。
後からついてきていた2台が同じように停車しそれぞれハッチが開く。

「・・あれ?ラシードのおっさん」
「あぁアンタ、酒場にいないと思ったらこんな所でなにやってんだい?」

どうやらこの男、全員と面識があるらしい。

「いや気分転換と鍛錬もかねて少し南へ歩いていたんだが
 その道中で少し珍しい少年と遭遇してな。
 頼まれ事をされたのでその情報収集もかねて今から戻ろうとしていた」

その途端ダンテの目つきがさっと変わった。

「おい、ちょっといいか?その少年ってのは全身に模様があって
 妙に物腰が丁寧で礼儀正しかったりするのか?」
「・・?あぁ、真っ赤で羽の生えた蛇と一緒に人を捜していると言ったが」

黒の革手袋がバシンと打ち鳴らされる。

「アイツ!こんな近くに来てやがったか!」
「・・ん?では君が彼の探していた
 赤くて白くて頭の中が万年パラダイスで非常にハタ迷惑なバカハンターなのか?」

一目見て気付かれなかったと言うことは
かなり脚色さまくった特徴で話されていたに違いない。

ダンテは心の中で鉄拳用のグーを握りしめた。

「・・・バカとかなんとかなのはともかく・・・
 そいつはオレの知り合いだ。どこで見かけた?」
「確か・・・レイクブリッジとバトー博士の研究所の間ぐらいだな」

タツミが小型の機械(BSコントローラと言うハンターの機械らしい)を出して操作する。

「・・・ここからだと少し遠い。けど行けない範囲じゃない」

静かな目がラシードと呼ばれるアラビア風の男と
最後尾の戦車上にいたシャーリィを見た。

「シャーリィ、ラシード」
「そういう事ならしょうがないね」

最後尾にいた黒の戦車からシャーリィが降りて
そのかわりにラシードに顎をしゃくる。

「ま、しっかりやんな」
「よかろう」

どうやら案内役としてラシードが同行し、変わりにシャーリィが抜けるらしい。

「じゃあね迷子のハンターさん!そいつ銃を使わないって妙なソルジャーだから
 道案内くらいにしかならないかもしれないけどね!」
「・・相変わらず気の強いことだ」

ちょっと窮屈そうに操縦席に入り込みながらラシードが苦笑する。

この2人、銃と剣というスタイルの違いであまり仲がいいとは言えないが
どちらかと言うとシャーリィがラシードをよく思っていないだけだったりする。

ともかくシャーリィと入れ替えに入ったラシードの先導で
3台の戦車と犬1匹、これにダンテを加えた一行は
広大な砂漠をたった1人の少年を捜しに走りだした。





ギョロギョロと音を立てながら戦車は走る。

ダンテは時々気になって最後尾の黒い戦車のさらに後にいる犬を見た。
しかし最後尾にいるバズーカのような武器を背負った犬は
普通の犬ではないのかきちんと遅れることなく戦車の列についてきていた。

けなげな犬だと思いつつ前に向き直ると
前方に何か変な物が動いているのが見える。

距離をつめてわかったがそれは巨大なヒマワリだ。
その近くにはなぜか地面に突き刺さった砲弾のようなものが2本落ちている。

それはこちらに気付いたようだ。
ゆるゆると動きながらこちらに・・・

ズドーーーン!!

寄ってくるかと思ったが、それより先に落ちていた砲弾がぱたりと倒れ
いきなりど派手に爆発した。

それはヒマワリとその向こうにあった砲弾も巻き込んで結構な爆発になる。

「・・・・・・」

爆風にあおられた事と変な展開にダンテの目が半目になった。

それは後にいたキリヤが頭を出して説明してくれた。

「あぁ、あれソニックヒマワリと不発弾」
「不発弾?」
「ヒマワリはどうでもいいけど不発弾はいつも勝手に爆発するから
 あいつらは別に戦わなくても自分たちで勝手に自滅するんだ」
「・・・・・」

不発弾というものはあんな堂々と落ちている物なのかとダンテは思うが
落ちているもはしょうがないというのがこの世界の妙なところだ。

そうしてそんな光景を何度か見ているうちに
何もない砂漠の真ん中で黄色い戦車が停止し
タツミがBSコントローラを片手に出てくる。

どうやらラシードに言われた位置はこのあたりらしい。

後ろに続いていた戦車が順に停車し、それぞれの操縦者が出てきた。

「どうだおっさん」
「・・・うーむ、位置的にはこのあたりなのだが・・
 もうどこかへ移動してしまったかもしれんな」
「だろうな。おーいタツミ!ここからだと何がある?」

周りを見回していたタツミが無言でBSコントローラを操作する。

「・・・・」

しかし手が止まってから変な間があく。

ダンテが不思議に思って画面をのぞいてみても
地図らしきものには現在地らしい点と、その付近にある赤い点しかわからない。

だが付き合いの長いキリヤはその妙な沈黙だけで
タツミが何を言わんとしたかが分かったらしい。

「・・・おい、まさか・・・バトー博士のとこかよ!?」

タツミ、今度はあっさりうなずいた。




道中でキリヤがしてくれた話によると
バトー博士というのは辺境に住んでいる戦車作りのプロ、というか博士なのだそうだ。

なんでも友達が少ないからと打った友達募集メールにタツミが引っかかってしまい
なんだかよくわからないうちにタツミだけがトモダチにされてしまったのだとか。

で、その友達のよしみで作成されたのが今キリヤの乗っている紺色の戦車
正式名称レオパルト、タツミ命名レオバトー。

性能は悪くないのだがあの博士の名前が半分入ってるのがちょっと・・
とキリヤはなぜか青汁でも飲んだかのような顔で説明してくれた。

どうしてタツミだけがトモダチで
なぜ半分名前が入っているのが気に入らないのかと聞くと・・・

「・・ま、会ってみれば分かると思う」

と非常に苦い顔で言われ、ダンテは疑問まみれのままで戦車にゆられ
その問題のバトー戦車研究所にたどり着いた。

そこはちょっとした倉庫のような場所で
戦車が入っても楽に動き回れるほどの広さがあり
中には一台のちょっと古めかしいロボットとちょっと変わったじいさんがいた。

ブリキのおもちゃみたいなロボットの方はまぁいいとして
問題なのはじいさんだ。


「ボンクラーーー!!!」


それが戦車から出てきたタツミを見るなりのじいさんの第一声。

しかもそのじいさん、セリフもさることながら外見が凄い。

モアイのような縦長の顔にはナイフのようにとんがったサングラス
針のようにとがったヒゲがびーんと二本だけ突き出し
むき出しの歯は白くてデカくてまるで壁。
派手なアロハシャツに半パンといういでだちで
手足は猿人類のようにやけに長く発達していて
それはもう事情を知らなければ宇宙人か新人類と見違えそうだ。

「久しぶりだねボンクラ!ボンクラ戦車の調子はどう?」
「良好」
「そうかい!いやぁなんせボンクラが設計した戦車だから
 一時はどうなることかと思ったけど・・アレ?」

ダンテは見つかった。
精神的に12のダメージ。

「見ない顔だけどボンクラのトモダチかい?」

ダンテ、ワケも分からずさらに10のダメージ。

「いや、さっき知り合ったばっかりの人」
「ふーん、じゃあボンクラのトモダチってことは僕のトモダチだね」

反論しようとしたダンテをタツミが素早くさえぎった。

ちなみにボンクラというのはタツミのあだ名の話で
別に悪口を連呼しているわけではない。
そして博士本人にも悪口を言っているという自覚も悪気も一切ない。

それはそれでなんだかタチの悪い話だが。

「それよりバトー、ここに誰か訪ねてこなかった?」
「んん?いいや。最近はボンクラ以外はあんまり見かけないよ」

と言うことはジュンヤはこちらに来ていないらしい。
タツミはさらに考えてこんな事を言い出した。

「バトー、僕らが使ってる転送機を異世界用に作り替えることはできるかな」
「んんん?」

これには戦車の中でだんまりを決め込んでいたキリヤが驚き
ラシードはなるほどと車内で1人うなずく。

「おいタツミ!」
「一応」

どがんとハッチを壊すような勢いで出てきたキリヤにもタツミは冷静に対応する。
一応というのは一応話だけでもしてみようという意味だ。

「そりゃあ確かにいい提案だけど・・なにもここで頼まなくてても!」
「ソロモン博士、ヤミクモ博士、グレイ博士、バトー博士。
 可能性が高いのは?」
「うっ・・・」

ダンテにはわからなかったが
その中で物を作る事に一番長けているのがバトーなのだ。
なにしろバトー博士は外見性格はともかくとして
鉄くずから戦車とエンジン主砲その他もろもろを作っている技能がある。

と、いっても上の中でひときわ変わっているのも、やはりこのバトー博士なのだが。

とにかく黙り込んだキリヤをよそに
タツミはダンテが事故にあった話とターミナルという物について
ジュンヤの事も含めて簡単に話した。

「ふーん?まぁ確かに偶然の事故ってのは再現できないけど
 転送機の原理はわかってるから応用次第でなんとかなるんじゃない?」
「・・・マジかよ・・・」

返ってきた回答はダンテにとってはありがたいものだったが
なぜかキリヤがげんなりしたような顔になった。

それには気付かず話の間ヒマをもてあまし、倉庫内をうろついていた当事者が
解答だけを聞きつけて戻ってくる。

「なんとかなるのか?」
「うん。元いたところの物とか何か持ってる?」
「むこうの通貨なら確か・・・」

コートのポケットをあさるとジュンヤに渡された
おこづかい(300マッカ)の残りが出てきた。

「これでいいか?」
「うんうん、多分行けると思うよ。ボンクラの協力次第でね」

それがどんな協力なのかは不明だったがタツミは承知したように1つうなずく。

「オッケーボンクラ!それじゃその件はまかしといて!」
「・・・知らねぇぞ俺は」

キリヤのウンザリ加減とこの博士のテンションはともかくとして
帰り道確保の収穫があったのはダンテにとっては嬉しいことだ。

・・・が、しかし、いい話には代価はつきもの。

「そうだ。そんな君にも記念としてあだ名をあげよう。
 せっかく何か作ってあげるんだからそれぐらいしないとね」

ごがんと黒の戦車内で何かずっこける音がし
戦車から半身を出して肘をついていたキリヤがげんと顔面を戦車にぶつける。

「・・いやオレは・・」
「そうだなぁ・・何がいいかなぁ。
 ボンクラにつけそこねたのもいくつかあるし・・・」

ダンテは露骨に嫌そうな顔をするが
断ろうにもキッツい顔の博士はこっちの話も聞かずにつけるき満々。

おまけに大事な物を作ってもらうので下手に断るのも少々まずい。

なんとか言ってくれとダンテはタツミに助けを求めようとしたが
その唯一のトモダチはなぜかちょうど操縦席に入ろうとしている所だった。

「よし、ボンクラにつけそこねたヤツでピッタリのがあるから特別に君にあげよう。
 そのかわり今度から君も僕のこと気さくにバトーってよんでいいから!」
「・・・・そうかい」

まぁ別にあだ名くらい別にいいやとダンテはヤケになった。


「じゃあ後ろ姿が似てるから、君は今からゴキブリだ!」


  
ドン!


その言葉に悪意は一切なかったのだが
間髪入れず銃を向けようとしたダンテは一瞬早く、黄色い戦車に撥ねられた。


・・・あぁなるほど、
罵倒博士ね。


ダンテがそれに気付いたのは、一端町に戻ろうとしていた戦車の上。

やはりタツミは運手技術がいいのか、それとも頑丈な自分の身のおかげか
背骨がちょっとズレたような気がする以外に外傷はほとんどなかった。

しかし人をうまく撥ねる操縦技術というのはどうだろうか。

しかもそれだけ正確に撥ねた直後の言葉が


「ごめん、手がすべった」


ときたもんだ。


・・・そういやストックにも似たようなヤツがいたな、確か。

仲魔で一番人間に近く見えた鬼神の事を思い出しながら
ダンテは戦車の上で寝転がったまま、近づいてくる街をぼんやりと眺めた。




さっきの町とは別の町に戻り、再び酒場で作戦会議をすると
あの変な博士の所で物を作るにはいくらかの鉄くずが必要になるのだそうだ。

それはちょうどラシードがジュンヤに会ったという砂漠に出る敵から取れるので
しばらくはそこで鉄くずを集めつつジュンヤの捜索という事になった。

「しかし・・あんたの相棒ってのは生身で砂漠を歩いてても大丈夫なのか?」
「元々砂漠で強くなったようなヤツだからな。そう簡単にはくたばらないさ」
「うむ。そういえば見た目は年若く見えたが・・
 若いながらもなかなか手練れの目をしていた少年だったな」

そんなつもりはもうないが自分だってもう狩れるかどうかわからないほどに
ジュンヤは見た目に似合わず強力な悪魔として成長している。

しかしダンテがジュンヤに一目置いているのは
あらゆる者を退治してきた悪魔の力ではなく
いくら強くなろうとも失われない、本来はもろいはずの人間の部分だ。

・・・とは言え、その部分のおかげで色々と気を使い、今度も勝手にはぐれた代償として
ターミナルのかわりとなる帰り道の確保をしなければいけなかったりするのだが。


所帯を持った男ってのはこんな気持ちか・・?


などと考えながらダンテはレイクロックなる飲み物を
会社帰りの哀愁ただよう駄目夫のようにチビチビ喉に流し込む。

ちなみにラシードも同じもの、キリヤはロメロスペシャル
タツミはステロイドサワーをたのみ、タコのくんせいを噛みながらしょうゆと遊んでいる。

ダンテもタツミのつまみを1つつまんでみたが
見た目はともかくなかなかに美味だ。

「よう、あんた飲めるか?」

そうしてタコの足を噛みながらぼんやりしていると
ふいに横から知らない声がかかった。

見るとさっきまで違うテーブルで飲んでいた男が
上機嫌でジョッキ片手にこちらを見下ろしている。

しょうゆと遊んでいたタツミが「・・あ」と言いたげにダンテの方を向くが

「・・・飲めるかって?」

それがどんな意味かも知らずにダンテは不敵に笑う。

「そりゃ飲めなかったらこんな所に来やしないさ」

その途端、見知らぬ男は豪快に笑いカウンターに向かって手を上げた。

「はっは!よっし!じゃあマスター、こっちの方にあれ出してくれ!」
「・・・あれ?」

何か特別メニューでもあるのかと思っていると
タツミがなぜか頭をかきながら立ち上がり
こっちとばかりに手招いてダンテをカウンターに誘導する。

なんだかよく分からないままダンテがカウンターに立つと
横からビンが一本すべってきてパシと手におさまった。

それには白い液体が入っていて、ラベルにはでかでかとMILKと書いてある。

「・・・おい」

これはダンテの流儀で言うなら明らかな挑発だが
睨んだ先のタツミは別に気にもせず、ポケットから時計を出し
カウンターに置きながらこう言った。

「・・ノルマは5本だから」

その時、余計な事にだけは機能するダンテの頭脳(ジュンヤ談)が素早く働いた。

つまり、これは早飲みだ。
タツミの持っている時計の秒針が一周するまでに
出される物5本を飲みきらなければ負けと言うことらしい。

一瞬それがなんでミルクなんだとは思ったが
酒でないのは戦車の普及するこの世界ならではなのと
一応健康に気をつかってのことなのだろう。

ダンテはそう判断するとその身体に優しい液体を一気にあおった。

自然と腰に手がいってしまうのは牛乳の魔力だろうか。

それは難なくカラになった。
すると間髪入れず次のビンがすべってくる。
それも難なくクリア。
しかし次にすべって来たのはちょっと違った形のビンだ。

しかも中身は泡立っていて炭酸臭が鼻に突きささってくる。

「・・なんだコレは」
「ラムネ」

横にいたタツミが簡素な説明をしてくれる。
ちょっと飲んでみると味のないコーラのようだ。

腹の中で牛乳と分離しそうだったが、ダンテはかまわず一気に飲んだ。

「・・・一気飲みするもんじゃないな」

次に来たのはオレンジ色のビン。
今度はオレンジかと思いつつダンテはそれを飲・・・

ブーーーーーッ!!

ゲホ!ゴハッ!」

飲んだ瞬間炭酸なんか目じゃないほどの刺激に襲われ
ダンテは飲んだ分全部をスタイリッシュでおもくそ豪快に吹き出した。

「・・ッ!
おい!?
「す」

タツミはまたしてもあっさりした説明をくれたが
だが酢というものは確か調味料であって一気飲みするものではなかったような気が・・・。

と思ってみても時間はどんどん経過していく。

「・・リタイア?」
「・・・誰が!!」

しかしここまで来たらもう意地だ。
ダンテは鼻をつまんで残りの酢を無理矢理喉に流し込み
ズダン!とカラになったビンをカウンターに叩きつけた。

そしてラスト1本。

最後にカウンターをすべって来たのはラムネだった。

多少飲みにくいとはいえ酢よりはマシ。
だが残り時間があまりなかったので気合いをこめて一気にあおる。

後が相当怖そうだが後先を事を考えていてはラストスパートは成り立たない。

ガン!と最後のビンがカウンターをならし、酒場中から歓声が巻き起こった。

「おう!やるなぁ兄ちゃん!」

声をかけてきた男が喜んで手を叩いてくれたが
ダンテはそれに答える余裕も気力もなかった。

ふと見るとシッポを振っているしょうゆを足元に
キリヤとラシードもなんだか複雑そうに祝福してくれている。

どうやら2人ともこのバカげたゲームに付き合わされた経験があるらしい。

「はい」

タツミが口直しのつもりなのかタコのくんせいを差し出してくるが
手を伸ばそうと瞬間、ダンテは胃から逆流してきた炭酸と酢の臭いに
鼻を本気で破壊されそうになった。

ダンテは鼻血が出そうな鼻を押さえつつカウンターにもたれかかり

「・・・・・・マスター・・・ミルク・・・」

冗談でも言いそうもない事を本気で言った。

ダンテはこの時まだ知らなかったが、どうやらダンテはジュンヤと離れてしまうことにより
ジュンヤが持っていた不運体質をそっくりもらってしまうらしい。

木造の渋い酒場のカウンターでタコのくんせいをつまみにミルクを飲みながら
ダンテは自分の前で四苦八苦していたジュンヤを
まだ一日も離れていないのに非常に懐かしく感じていた。





酒場の洗礼を受けた後、四人と一匹はハンターオフィスという
この世界のハンターのギルドのような所によった。

なんでも賞金首のモンスター類を倒した時ここで賞金を受け取り
さらに新しい賞金首の話もここで聞けるらしい。

タツミはあまりそうは見えないが賞金首を30体ほど倒した凄腕ハンターで
ダンテにはただの不思議少年にしか見えないその少年は
知らない間に最近の通り名が死神とまで言われるほどになったとか。

半分あきれたように幼なじみであるというキリヤが話してくれた。

「で?アイツはそんなに強くなってどうするつもりなんだ?」

ソファに座ってまだちょっと調子の悪い腹を押さえつつダンテが聞くと
カウンターで何か話を聞いているタツミを見ながら隣にいたラシードが口を開く。

「・・・おそらくどうする気もないのだろうな。
 あれはあまり考えて行動するタイプではないようだし
 賞金首も倒せるかどうか試して倒せたから倒したようなフシがあるからな」
「・・・おいおい、そんなのが凄腕のハンターなのか?」

タツミが相手をしてくれないのでヒマになって寄ってきたしょうゆの頭を撫でながら
ダンテは横で座って待っている、この世界では珍しいという
白兵戦専門のソルジャーを見て苦笑する。

「そちらの世界のハンターがどのような者かは知らんが
 こちらのハンターは狩猟者であると同時に冒険家という意味も含まれていてな。
 ただただ狩りをする者、さらなる力を求めて荒野をさすらう者
 そしてタツミのようにただ自分の出来ることをしているだけのハンターもいる」

それはどこか、悪魔でありながら無益な戦いを好まない
ジュンヤの考え方に似ているかもしれない。

「・・・ってことは、アンタ達はそのハンターらしくないアイツが
 結構気に入ってたりするのか?」
「よくわかるな?」
「オレの探してる相棒も似たようなヤツだからな」
「成る程」

ダンテの足元で丸くなったしょうゆを見ながら
ラシードは砂漠であった奇妙な少年を思い出し小さく笑う。

ちょうどその時道具の買い出しに行っていたキリヤと
何か話し込んでいたタツミがハンターオフィスから戻ってきた。

キリヤは買い物袋、タツミは真新しい紙を一枚持っている。

「プロテクターの予備買っといたぜ。
 あと頼まれてた扇風機、ネバーランドに送っといた」
「うん、ありがと」

一瞬変な会話がまじったような気がしたがダンテは聞き流す。
それより先にタツミが持っていた紙を差し出してきたからだ。

紙には遠くから撮影したのかかなりボケてはいたが
どこかで見たような翼付きの長い蛇と、それよりかなり小さい人影が写っている。

よーーく目をこらすと小さい方の人影は首の後あたりに突起がついている。

その写真の上にはでっかくWANTEDの文字。

「・・・最近南西で目撃されるようになった正体不明の生き物だって」

その賞金額はまだ大した物ではないが
正体不明とあらば狩りをする者にすれば興味が沸かないわけがない。

ダンテは渾身の力を込め、無言のままそれを握りつぶした。




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