ジュンヤが簡単に殺されるような悪魔ではないことは、ダンテも十分にわかっている。
ただ自分以外のハンターに標的とされ賞金をかけられたとなると
依頼を受けた身としても相棒としても黙ってはいられない。

ダンテは急いでくれと無理を言ったが
タツミは嫌な顔一つせずうなずき、問題の砂漠まで戦車を全力で走らせてくれた。

相変わらず周りには一面の砂しか見えない。

ボルテクスも同じような物だったが
いくつか違うのは空が閉鎖されていないこと
自分が今人が作り出した戦闘兵器に乗って走っていること
いつも前にいたタトゥーあざやかな背中がないことだ。

考えてみれば薄情な事をした。

いくら似たような世界だからとはいっても
まだ人間が生きている世界で悪魔のジュンヤを放置するなど
自分が悪魔であることを思い知らせるような事なのかもしれない。

砂を含んだ風をまともに受けながらダンテは軽く舌打ちした。

それが聞こえたのかどうかはわからないが
横にあったハッチが開いて穴の下から落ちついたタツミの声がする。

「・・・心配?」

ダンテはそれには答えず苛立つように、鋼鉄の車体をカンと軽く叩いた。

タツミはそれに答えるように黙ってスピードを上げた。

しかし戦車は元々速く走るためのものではないのでそう速くは走れない。
そのかわり時々敵と遭遇する場所を走るにはもってこいの代物だ。

しばらく走っていると前に何か大きな物が見えてくる。
それは砂の舞い上がる風の中、近づいて来るにつれ
ダンテは目が悪くなったのかと何度か目をこするようなものであることが分かった。

それは生足のついた砲塔だ。

黒光りする立派な砲塔に移動用なのか綺麗な生足の生えた変なものが
どしどしとこちらに向かってくる。

バララララララ!!

ダンテの横にあったバルカン砲が火を噴き
そう強くもなかったらしいその変な生き物は一掃された。

「・・・今のは?」
「うろつき徹甲。鉄くずがとれるやつ」

確かにうろついてはいたが・・・なんで砲塔に生足・・・?

この前の自爆砲弾といい巨大ヒマワリといい今の生足といい
この世界の生き物は突然変異なのかギャグなのかよくわからない。

ともかく倒した残骸から鉄くずの元になる大きな塊を回収し
3台の戦車と犬はさらに走る。

ダンテには右も左も砂しか見えず、どこにいるのかサッパリわからなかったが
タツミの戦車は時々進路をずらしながら何かを目指すように
時々遭遇する生足付きの砲台を倒しつつ、砂の上を疾走し続けた。

が。

ギュリリリー!!

「っと!?」

いきなりブレーキをかけられたダンテは慌てて近くにあった機銃にしがみつく。

なんだ敵かと思ったが、それより先にタツミが出てきた。
斜め後ろを走っていたキリヤの戦車とラシードの戦車も慌ててブレーキをかける。

「なんだよ急に!?」
「道でも間違えたか?」

それぞれ顔をのぞかせた2人をよそに
タツミはBSコントローラーを素早く操作し、ほんの少し表情を鋭くする。

付き合いとしては短いが、ダンテはそれが一体何を意味するのか
同じハンターとして薄々ながら感じ取った。

「状況が状況だけにあまり聞きたいとは思わないが・・
 ・・・この先に何がある?」

タツミは持っていた機械をすっと差し出し、その画面を見せてくれた。

映っていたのは大きなハサミを持った一匹の虫だ。

「・・戦車ジゴク。賞金額30000G
 砂の中にもぐって獲物を罠にかける生物系モンスター」

それはアリジゴクという虫の巨大番なのだろう。
戦車とつくからには戦車を食うと推測できるが
戦車が食えるならもちろんその他の物でも食えるはず。

ダンテは目に見えて表情を鋭くし
開いていたハッチの裏をガンと乱暴に叩いた。

「・・行ってくれ」
「・・砂の中に潜られると攻撃が効かないけど」
「かまわん。なんとかする」

可能性は低いがゼロではない。

最悪の場合を考えたら今すぐにでもそいつの腹をかっさばき
中身を確認したいところだが、手配写真に写っていたのはサマエルだ。
そうそういきなり地面に引きずり込まれたりする事はないはず。

そう思っても身体が自然と苛立ち
黒のグローブがコツコツと黄色のシャシーにリズムを刻む。

タツミは1つため息をついて車体から出て
後に積んであった装備品からちょっと変わった形の砲台を取り出した。

「キリヤ、ラシード、SE(特殊装備)を地中用に」

その途端、シャシーを叩いていた音がぴたりとやむ。

見下ろした先の少年ハンターは
戦車の後部にあった特殊な砲台を器用に取り替え
視線に気付いたのかダンテの方をふと振り返った。

その表情は相変わらず読みにくいものだったが
それはダンテを見るなり、まぁまかせておけと言わんばかりに
ほんのちょっと微笑んだ・・・ような気がした。

「・・よしと、タツミ!こっちはいいぜ!」
「俺は砲弾が切れ次第白兵戦に切り替えるがいいか?」
「・・うん、オッケ」

それぞれの面々がダンテをよそに準備を終え各自の操縦席に戻っていく。

「こういうものなのだよ。タツミというハンターは」

ラシードが最後にそう言って黒い戦車の操縦席に消えた。

こういうものって・・

この自分の見返りも気にせず
ただ目の前にいる人のために走り回る姿勢はまるで・・・

「・・・まるで誰かさんだな」

エンジンをかけ、砂煙を上げ再び疾走を始めた戦車の上で
その誰かとタツミを照らし合わせたダンテが
ようやくいつもの笑みを浮かべた。




しばらく戦車に揺られていると
問題のそれは殺風景な砂漠のど真ん中にありありと見えてきた。

丸くすり鉢状にくぼんだ砂の穴。
その一番深い中心部分に向かって砂がゆっくりと流れていき
その流れの中に誰かの物だったろう戦車の残骸が
中心に向かって飲み込まれるように流れ落ちていく。

3台の戦車はその穴の縁で止まった。

そしてまずタツミの乗る黄色の戦車メルカーディー(正式名メルカバ)が
穴の中心に向けてレールガンを発射した。

それは見事ど真ん中に着弾したが、それと同時に穴の主に気付かれたのか
砂の流れが一度ピタリとやみ、地面が妙な音を立て始める。

「・・さぁどう出る?」

片手にアイボリー、片手で戦車に装備されている35o機銃に手をかけながら
ダンテは表面上は静かな砂の上をじっと見た。

こういった相手と戦うのは初めてではないが
やはりハンターとしての性分だろうか、戦いにくい相手となるとなぜか楽しい気分になる。

ギュリリリーー!

その時ほとんど音も立てずに紺色の戦車の足元が丸く下へ沈みはじめ
キリヤの操縦するレオバトーが激しい音を立ててそこから退避した。

その直後、穴の中から何かがちらと見える。

全部は見えなかったがそれは手配書と同じ形をした巨大な虫だ。
大きなハサミをもっていて砂と同じような色をしていて
下半身はどうなっているのかわからなかったが
それは巨体にもかかわらず、あっという間に砂の中へ消える。

そういえばダンテも少し前、こんな風に地中にもぐって
這い出て襲いかかってくる虫と戦った事があるが
これはこちらを地面に引きずり込もうとする分少々やっかいだ。

しかしここのハンター達は戦い慣れているのか
無闇に攻撃したりせず、SEという特殊な兵器を使って
地面にミサイルを打ち込んだりレーザーのようなものを発射し
顔を出した瞬間を見逃さず、さらにしょうゆも加わって確実に相手を追いつめていく。

見ていて分かったのだが黒い戦車(正式名マウス、タツミ命名マリス)の動きは
あまり速くないがそのかわり主砲が3本もあるので
標的が出てきた瞬間はそれら全部が火を噴いて大した大音量になる。

そして1番目を引いたのがダンテの乗る黄色の戦車、つまりタツミの戦車だ。
見ていてわかったのだが、ダンテはあまり戦車に詳しくないにしろ
タツミの戦車の動きだけが他の2台に比べて格段にいい。
人1人を上にのせているというのに砂漠の大地を縦横無尽に動き回り
なおかつその振動は上にいるダンテを振り落とさない絶妙なもの。

普段はぼんやりしているように見えても
ダテに凄腕ハンターと賞されてはいないらしい。

しかしいくらかSEで攻撃し、ダンテもアイボリーで時折牽制していると
唐突に周囲が静かになった。
逃げたかおそらくこちらの様子をうかがっているのか・・・。

ダンテは戦車が停止したのを見計らってハッチを叩いた。
少し間をおいてタツミが出てくる。

「逃げたのか?」
「・・逃走防止にレーダーを起動させてあるから・・まだこの近くにいる」
「どうするタツミ?位置がわからないとこっちも手の出しようがないぜ?」

同じように戦車を止めて出てきたキリヤが忌々しそうに広い砂漠を見回す。

向こうは地中で生きてきたのだから
音でもニオイでもこちらの場所を簡単に割り出せるだろうが
こっちは遠くへ行ったかいかないかくらいしか分からない。

「しょうがねぇな、持久戦といくか?」
「・・いいや、手っ取り早い方法が1つあるぜ?」

そう言ってダンテはひょいと黄色い戦車から飛び降り
どこから敵が飛び出してくるか分からない砂の上を平然と歩き出した。

「お、おい!?」
「美味そうなニオイが直接すれば腹も減って出てくるだろ?」
「だからってアンタ・・!」
「心配しなくてもオレもハンターだ」
「でも・・!」
「キリヤ」

まだ何か言おうとするメカニックをタツミが静かに止めた。

「・・まかせてみよう」
「おいタツミ?!」

大きなモンスターと戦うにはどう見ても不釣り合いな銃を器用に回しながら
スタスタと歩いていく後ろ姿を見ながらタツミはつぶやく。

「いいのかよ?」
「・・うん。多分大丈夫」

あの人に似てるから・・・

その後ろ姿はかつてタツミの見た
戦うことをまるで遊ぶかのごとく楽しげにこなした赤い髪の女ハンターとよく似ている。

それに白兵戦に詳しいラシードが戦車から出てこず傍観していると言うことは
まかせても大丈夫だという確信があるのだろう。

そんな中、しばらく砂の上を歩いていたダンテにしょうゆがたたと寄ってきて
お互いがんばろうと言うつもりなのかワンと吠えてダンテから距離をとった。

「・・OK、じゃあ・・始めようか!」

そう言ってダンテはもてあそんでいた銃のグリップを握り
ガシャと顔の高さでかまえた。

それに気付いたのだろうか
静かだった砂の表面が急に不気味な音を立てる。

キリヤがしかたなさそうな顔をして操縦席に戻り
タツミもそれを見届けてからハッチを閉じた。

ズズズズズ・・・

足の下から不気味な振動が伝わってくる。
ダンテは黙って意識を集中し、その出所と向かう先を予測する。

ワン!!

その時離れた所にいたしょうゆが大きく吠えた。

ダンテはすぐさまその場から飛び退き
直後現れた大きな砂の落とし穴の中心に向かって2つの銃の引き金を引いた。

それを合図に3台の戦車が次々とSEを発射する。

かなりの砂煙が上がったが手応えはあった。
ちらと見えたハサミのようなものは奇声を上げ、慌てたように地面へ姿を消し
今度はいくらか深い場所を移動するかのような音を立てて周囲を旋回し始める。

どうやらこちらが手練れと知って警戒しているのだろう。

「・・けどフォークを伸ばさない事にはディナーにありつけないぜ?」

だが攻撃してくる前に穴を作り出す事を逆手に取れば
姿は見えなくても出てくる位置は予測できる。

ダンテは冷静に考え、再びその音の位置を探しにかかった。
今度は少し深くに潜ってしまったようだが
どのみち攻撃するには地面に近づかなければいけないので
その時さえ注意していれば大した相手ではない。

そして予想通り、今度はタツミの戦車の足元が丸くくぼみ出した。

ギャリリリーーー!!

黄色い戦車が素早くバックしてその場から離れ、レールガンの照準を合わせる。

しかし肝心のターゲットは姿を現さず
その直後、今度は黒い戦車の周囲が丸くくぼみだし
それも回避されると今度はしょうゆの方へと穴は移動する。

「・・品定めしてやがる」

さすがに賞金首とあって知能もあるのか、こちらが手練れだと判断したのか
そう易々と顔を見せてくれないらしい。

そうしている間に次はダンテの足元が下へ吸い込まれていく。

ダンテは一瞬飛んで避けようとしたが
これ以上イタチごっこを繰り返すよりもワザと捕まった方が効率が良さそうなので
そのまま銃を下に向け、じっと待つことにする。

上で戦車と戦車のぶつかる固い音がした。
おそらくキリヤあたりが助けに入ろうとしてタツミかラシードに止められたのだろう。

しょうゆもオトリになっているのがわかるのか
うなり声を出してはいるものの手を出してこない。

ダンテの膝が砂にうもれる。


・・・さぁ、どこから来る?


ダンテは銃を構えたまま冷静に待った。
腰まで砂につかったがそれでも待った。

とにかく相手の位置を割り出さないと銃弾は当てられない。

構えていた腕も砂に沈む。けれどダンテは動じない。
この銃は特別製だ。その気になれば水中だろうが砂の中だろうが発砲できる。

とにかく位置だ。
足を一本食われてもいい。
どこにいるかだけが分かれば勝つ自信は十分にあった。

そうこうしている内にダンテは首まで砂につかってしまう。

それでもダンテは待った。
息が出来なくなっても、相手の体内に取り込まれても
いつもダンテは確実に勝利してきた。

それにまだこちらには奥の手がある。

いついかなる状況でも希望を捨てないのがダンテの強さの秘訣だ。

そしてダンテはとうとう顔まで砂の中に飲み込まれ・・・

がっ!

しかしその瞬間、何かに襟首をひっ掴まれたかと思うと
急激な上昇感と一緒に、砂が入らないようにと閉じていた視界に
いきなり風が吹き付けた。

ダンテは何だと思って閉じていた目を開けた。


その瞬間

何かとすれ違いざまに目が合う。


それは金色だった。

しかもただの金色ではない。

それはいつもは落ちついたグレーの色をしているのに
戦闘時や感情が高ぶった時などに変化するのか
時々その色合いを変える不思議な金色だ。

いつだったかハチミツ色で甘そうだと冗談で言ったら
本人やその場にいた連中全員から総攻撃を受け、さすがにあせった事がある。

とにかくその因縁の金色の目は、空中でダンテとほんの一瞬目を合わせたかと思うと
ダンテの代わりに下にあった穴へずぼんと消えた。

そしてその直後


スバーーーン!!


大音響と共に周囲の砂が一瞬爆弾でも落としたかのように浮き上がり
今の今まで姿が見えなかった巨大な虫を地面に弾き出す。

この世界のハンター達はその機会を見逃さなかった。

地上に叩き出されてもがく巨大な虫に向かって
ありとあらゆる砲弾や弾丸が3台の戦車から発車され
それにしょうゆのバズーカも加わって結構な総攻撃になる。

ダンテはそれを少し上からただ見ていた。
あぁなってしまうともう自分の出る幕ではないだろう。


ぺっ

「・・おっと!」

しかしぼんやりしているといきなり掴まれていた襟首がぽいと放り出され
ダンテは少し体勢を崩しながら地面に着地する。

自分を砂の中から引きずり出し、あの物騒な爆弾を投下しただろう赤い邪神は
そのまま爆弾投下地点に向かって落とした物を回収に行く。


「・・・考える言い訳が増えちまった」


砂だらけになった身体を見下ろして、ダンテは困ったように頭をボリボリかいた。





「よいのですかジュンヤ様?やはり魔石だけでも使用しておくべきでは・・・」
「いいよ別に。あれくらいじゃ体力使った内に入らない。
 それよりも先にやっておく事があるし」

大きな邪神を従えて、しばらく見なかったものの見慣れた少年が
身体についた砂を軽くはたきつつこっちへやって来た。

着ている物が元から少ないので向こうはそれですむが
ダンテの方はコートやブーツの隙間から砂が入り込んでそこそこ不快だ。

けれど今はそんな事より
向こうから歩いてくる少年の機嫌の方がダンテにとっては大問題だ。

表情がわかるくらいにまで接近してくると
穏やかだったその目にはすっと静かな怒りの火がともる。


・・・あ、やっぱり怒ってやがる。


ダンテは内心で頭を抱えた。

ジュンヤは仲魔と馬鹿なケンカした時や笑えない冗談をやらかした時などは
スキル攻撃1つくれればそれで納めてくれるが
自分の身が危険になる行動をとった仲魔には静かに、しかしとても真剣に怒ってくる。

ダンテがそれを最初に見たのはケルベロスが怒られていた時の事だ。

その時はあのどう猛な番犬が身体を丸くし
耳をふせつつシッポも丸め、くどくどクドクド叱られるのを
横から楽しく拝見していただけだったが・・
それがいざ自分の身に来た時
なぜあの大きな番犬が身を小さくして大人しくしていたのか
ダンテは身をもって知ることになったものだ。

とにかく真剣なのだ。

怒鳴り声1つ攻撃1つよこしてこないのに
ただこちらをじっと見据え、少しづつ少しづつ静かな怒りを淡々と言葉に乗せてくる。
それはまだ年端もいかない少年だというのに
まるで母親に叱られている気分に似ていて
ダンテはあれほど心底勘弁してくれと思ったことは
おそらく母がいなくなった以来おそらくない。

それが優しさと思いやりから来るのはわかっている。
けれどそれは同時に今は亡き母にも酷似しているので
悪魔も泣き出すハンターもこればかりはどうにもならない。

それがあれだけの数の悪魔を従える力というかカリスマの元なのだろうが
とにかくダンテはそのジュンヤの真剣にこちらを怒ってくる部分は苦手だった。

そうこうしているうちにジュンヤはダンテの目の前まで来ると
腰に手を当て無言で仁王立ちになる。

ダンテとしてはあれでもちゃんと勝算があった・・と言いたいところだが
そんな言い訳はこの状態のジュンヤに通用しないのは実証済みだ。

ダンテはこれ以上ないくらいげんなりした気分でリベリオンを横に突き立て
その場にどっかと座り込み、どうにでもしやがれとばかりな体勢をとった。

しかしその時ふと何かの気配が横につく。

見るといつの間にかしょうゆが横でお座りをしていて
ぱたぱたと元気にシッポを振っているではないか。

おいおい、まさか一緒に怒られる気かとダンテは思ったが
その目はどちらかというと『遊んで遊んで』という時の犬特有の目だ。

そう言えばジュンヤはいろんなものに好かれるので
初対面の犬にもやっぱりなつかれ・・・

と、再びジュンヤを見ると
なぜかその表情はさっきとガラリと一変し
さっきまで怒っていた目がなんだかひどく驚いたように開いている。

なんだ、犬が珍しいのかと思っていると、ジュンヤは何を思ったのかそっと身をかがめ
しょうゆに向かっておいでおいでとばかりに手を差し出す。

するとダンテの横でシッポを振っていたしょうゆは
やった!とばかりにたーっと走り、何のためらいもなくジュンヤに飛びついて
丸っこいシッポをふりふりじゃれつきだした。

「うわ!はは!よせよせ!俺砂だらけ・・はははくすぐった!」

さっきの鋭い表情はどこへやら。
ジュンヤは時々しょうゆの背負ったバズーカに当たりながらも
砂の上を転がってしょうゆのシミ色の犬ときゃあきゃあ騒ぐ。

「あの・・・」
「・・・・・・沈んでた一面が出てきたんだろ」

今までこんな主を見たことがないのか
状況がよく飲み込めず不思議そうにするサマエルの問いかけに
ダンテが立ち上がってリベリオンを背に戻しつつ
説教がうやむやになったことに心底ホッとしつつそんな事を言った。

この時2人は知らなかったがジュンヤは動物が好きで
その中でも特に好きなのがこの柴犬だったりする。

そんな様子を後始末を終えて戻ってきていた3人が
少し遠くの戦車上から複雑そうに見守った。

「・・・なぁ、あれも一応賞金首なんだろ?」

紺色の戦車から顔を出し、だらけたように肘をついていたキリヤが聞くと
黄色い戦車の上でBSコントローラーを開いていたタツミは
遠くに見える犬と模様のある少年を見て

「・・動物になつかれる人に悪い人はいないよ」

などと凄腕ハンターらしからぬ事を言ったままキーを操作し
黒い戦車の上に立っていたラシードを苦笑させ、キリヤの頭をばりばりかきむしらせた。

そしてタツミは最後のキーをぽんと操作し、それを閉じる。

タツミがどのような手回しをしたのかはわからないが
戦車ジゴクが賞金首から外れたのと同じくして
それ以降、ハンターオフィスにジュンヤ達の情報が流れることはなかった。








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