2人と一匹が案内されたのは周囲をぐるりと岩に囲まれた広場のような場所だった。
そこには雨をしのぐ簡単なテントと木を組んだ暖炉。
何かを入れる大きな鉄の箱や木箱などがあり
テントの裏には綺麗な池と釣り場用の足場も組まれていて
そこはまさに天然のキャンプ場という感じの場所だった。
しかもまずは腹ごしらえでもしようかと重装備の女レイダ(偽名かもしれないが)
が出してくれたのはマンガに出てきそうな立派な骨付き肉だ。
さすがに生ではなかったが、一抱えありそうなその量と
見た目のワイルドさにジュンヤは1人閉口する。
「あれ?あんたひょっとして草食なわけ?」
「・・い、いやそうゆうわけじゃないんですけど・・」
今まで精々200gステーキしか食べたことがないのに
この何キロあるんだふざけてんのかコラな肉はさすがにどうだか。
横ではフレスベルグがウマイウマイと連呼しながら
クチバシで肉をつつきまくっているが・・
「どうした少年、男ならガツッといけ」
ダンテもまったく躊躇なし。
その外見で骨付き肉をバリバリ食べる一見おかしなビジュアルも
ワイルドという言葉ですんでしまうのがダンテの不思議なところだ。
ジュンヤは少しためらっていたが、思い切って一口かじってみた。
「・・・・」
意外にうまい。
味付けは何もされていないのに
肉のうま味とほどよい臭いが食欲をそそり
しつこくないのでこの量でもなんとか平らげられそうだ。
「どう?いけるでしょ?」
「・・ほんとだ。意外とあっさりしてるというか」
「足りなかったらまだあるよ。生のストックはまだあるし
今日はたまたま焼く道具も持ってきてたから」
「じゃあお言葉に甘えてもう一つオーダーだ」
「ダンテさん!」
ジュンヤは怒鳴ったがレイダは気にもせずに
荷物の中から少し乾燥した生肉を取ってダンテに放り投げた。
「かまわないよ。道具はそこなんだけど使い方わかる?」
そう言って指したのは石のコンロとY字型の棒二本
折りたたみのイスとあと肉を回すレバー1個。
「・・・これは使い方きく方が間違ってるだろ」
「言えてる。じゃあ好きなようにやっといて」
「OK」
ダンテはY字型の棒に肉をセットしレバーを取り付け
たき火から火を取ってきてイスに座り、肉を回しながらあぶり始めた。
さすがにワイルドとかいう言葉で言い訳できないほどにカッコ悪かったが
ダンテの名誉のためにジュンヤは黙っておいてあげた。
「ところで・・レイダさんは何してる人なんですか?」
「あたし?一応ハンターだけど」
「え?」
そういえば・・・
あのランポスとか言う小型恐竜を叩きふせる手際といい
あれだけの大群を道具1つであしらったしのぎ方といい
ダンテと同じハンターであるというなら納得もいく。
「でもハンターって言っても何を狩るハンターですか?」
「何って・・さっき見たでしょ。ああゆう人に害を出す凶暴なのから
食料用の大きいモンスターとか、とにかく一般で手に負えないやつを
いくらかの報酬をもらって一般様にかわって狩るのがお仕事」
「へぇ」
デビルハンターじゃなくてモンスターハンターなのか。
などと思いつつ骨に残っていた肉を食べていたジュンヤの動きがはたと止まる。
「え!?ちょっと待って!じゃあ俺が今食べてるこれって・・!」
「あぁそれ?ここに来るまでに灰色の草食ってた大きいやつ。あれがソレ」
と指をさされつつ事も無げに言われてジュンヤは絶句した。
考えてみればそうである。
こんな巨大な一本骨をした鳥や牛がいるわけない。
それにしてもまさか恐竜の肉を食べることになろうとは・・
悪魔というものはつくづく因果な生き物である。
「でもあたしの場合はどっちかって言うと狩りよりも採取がメインなんだけどね」
「採取?」
「そ。森で薬草やキノコや木の実をとったり
岩山で鉱石を掘ったり川で魚を捕ったり」
「でもレイダさんすごく戦いなれてましたけど」
「そりゃあ森や岩山での採集だって安全なワケじゃないもの。
さっきみたいなランポスやブルファンゴ・・あ、これでっかいブタなんだけど
そんなのと出くわすことだって結構あるし
モンスターそのものから素材を採取する時だってあるからね」
そう言ってレイダは着ていた赤い鎧をコツコツつついた。
「もとはといえばコレだって生きて動いてたんだから」
「え!?」
「赤いのはイャンクックっていう羽の生えたバカでかいトカゲ・・
飛竜って種族の最低ランクのやつから取った甲殻だよ。
兜の方はガレオスって砂の中を移動してた魚もどきから取った素材で
この斧は・・・なんだっけ?なんかの骨だったけど忘れた」
そう言われて見ると・・・赤い鎧にしろ魚のヒレがついた兜にしろ巨大な斧にしろ
どれもどこかに命の名残が残っている。
「・・・それじゃさっきのランポスっていうのも?」
「あぁ。あれも皮とか鱗とか使えるんだけど
あいつら生きがよすぎて倒しちゃうと腐敗がやたらに早くってさ。
あれだけ囲まれると剥いでる暇がないんだよ」
「へぇ・・」
どうやらこの世界の生き物は、たとえ人間に一方的に狩られようとも
その生は後になっても有効に活用されている、そんな摂理があるらしい。
「でも一口にハンターっていっても
そう危険に立ち向かうのが好きな連中ばかりじゃないからね。
あたしみたいに採取ばっかりやってる奴もいれば
やたらと危険な奴に挑みたがるハンターだって結構いる」
「危険って・・・さっきの以外でも危険な奴ってまだいるんですか?」
「そうだね、ブルファンゴもそれなりに危険だけど・・あれは直線上に立たなきゃいいし
この辺で一番危ないヤツっていったら・・・」
・・・
つー〜〜〜ん・・・
話の途中でどこからか鼻をさすような嫌な臭いがただよってきた。
「・・え?何このにおい・・ってダンテさん何やって!?」
「・・・・・こげた」
いつが焼き上がりか見極められなかったらしい。
元生肉だったそれはまんべんなく黒くなった見事なコゲ肉と化していた。
その臭いがキツかったのか
フレスベルグが木の上に避難してギャーギャー鳴いている。
「あっははは!やっぱりやったんだ!それうまくやるにはコツがいるから」
「・・・知っててやらせたのかアンタ」
「ま、それはそれでも食えない事ないからがんばって」
この女、性格はさっぱりしているが確信犯だ。
ダンテはかなりムッとしていたが、そう言われると食わないわけにもいかず
コゲを適当にはらってからかぶりつく。
確かに食えないことはな・・
「・・ゲフッ!」
・・いこともないがコゲが喉にひっかかってムセた。
「ところであんたたちこれからどうすんの?
あたしはもう依頼された物を納品するだけだから
もうちょっと採取してから村に帰るつもりだけど」
そういえば・・すっかり忘れていたが
いつまでもここでのんびりしているわけにはいかない。
と言ってもこんな大自然の中でターミナルがあるようにも思えないが・・
「えっと・・俺達ちょっと事故でここへ来たんです」
「事故?」
「実は・・・」
ジュンヤはダメで元々、信じるとか理解するとかいう話をとりあえず別にして
事のあらましをレイダに全部話してみた。
時々ダンテが咳き込む声がしたが
途中からフレスベルグの声もまじりだしたので半分手伝わせているらしい。
ともかく大体の事情を説明した所でレイダは何かを考えこむようにしたあと
がちゃりと鎧の音を立てて立ち上がった。
「・・・ひょっとしたらだけど・・・あんた達の帰り道があるかもしれない」
「ホントですか!?」
その声に口周りを真っ黒にしていたダンテとフレスベルグが振り返る。
ダメで元々だと思っていたが、やはり言ってみるものだ。
「確信があるわけじゃないけど心当たりがあるんだ。
今からちょっと確かめに行ってくるからここで待っててよ」
「え?でも・・」
そんな何から何まで世話になっておいて
また1人でさっきみたいなトカゲに襲われたらと
ジュンヤは腰を浮かしたが・・・
「いいって。ここを知らないヤツはあまりうろつかない方がいい。
ここの連中は野生むき出しなのばっかりだから
あんたみたいな人の良さそうなのは真っ先に食われちゃうしね」
そう言われるとジュンヤには言い返す言葉がない。
確かに多少戦闘の心得があるとはいえ
土地慣れしていない者と現地のハンターでは
確実にジュンヤの方が足手まといになるだろう。
「あ、待ってる間ヒマならそこに釣り竿あるから魚でも釣っててよ。
釣り方はわかる?」
「・・え?えぇ、まぁ多分」
「じゃあうまく釣れるかどうかはいいとして適当にやってて。
すぐ戻るから」
そう言い残し鎧姿はがちゃがちゃ音を立てながら
入ってきた入り口から外へ出て行ってしまう。
その背にはやっぱり巨大斧がしまわれているのだが
それでも走る速度が変わらないのはよほどの脚力なのかそうゆう人種なのか
どのみちこの世界の女性というのは色々とたくましいようだ。
「・・・女に見えない女だな」
ようやく片付いたコゲ肉の骨を片手にダンテが小さく笑う。
「それはいいけど・・旧世代のドロボウみたいな口してるから早く拭いたら?」
ジュンヤは否定しない変わりに口の周りを黒くしているダンテへ
ポケットから出したハンカチを差し出した。
それから30分ほどしてレイダは戻ってきた。
「たっだいまー・・ってわぉ、なにやってんのあんた達」
しかし30分程度で何があったのか
そこら中に魚の骨と思われる物が散乱し
池で魚をつっているジュンヤの背後でフレスベルグが釣った魚をつつき
ダンテが少し小型の魚を真顔であぶっていた。
「あ!レイダさんすみません、ちょっとちらかして・・」
「いやそれは別にいいんだけどさ」
「それとレイダさん・・・なんかこの池マグロがつれるんですけど」
「そりゃあつれるよ。ここじゃなくても小川とか洞窟の中とか砂漠でもつれるし」
「・・・・・」
マグロというのはこの世界にもいるようだが
海という概念は存在しないらしい。
しかも今フレスベルグが食べているのはよく太ったアジだ。
「・・あ!やだこれ黄金魚じゃない!これも釣ったの?!」
「え?えぇ、ダンテさんが不味そうだって言って取っておいたんですけど」
「ラッキー!これ食べられないけどいい値で換金できるんだ。
結構レアな魚なんだけどあんたなかなかやるじゃない」
「・・たまたまですよ」
「ビギナーズラックってやつだな」
ぱん!
そう言ってダンテのかじりついた小魚が口の中で破裂した。
「あ、それはじけイワシっていう、死ぬときはじける食えない魚」
「・・・・(口押さえつつ)なんで先に言わない」
「いや食べたらどうなるのかと思って」
実はこの世界のマグロもアジもいまのイワシも
身を食べるのではなくヒレや牙を利用するのだが
一々説明するほどレイダは律儀な性格をしていなかった。
「あぁそれよりさ、あんたたちの帰り道っぽい物見つかったよ」
「え?ホントですか?」
相変わらずさらりと言われた話にジュンヤは一瞬耳をうたがった。
「森の奥に住んでる連中のすみかに変な物ができてね。
それのできた時期があんた達を見つけたのとほぼ同時期なんだ。
それって木の下にあった水たまりなんだけど
水が赤くなって中には筒みたいなのと丸い天井がうつってるんだ」
「筒・・」
「丸い天井・・」
まだアジを食べているフレスベルグをよそに
ジュンヤとダンテはつぶやいた。
「1つ聞くが・・・その筒の側面に文字はあったか?」
「文字?・・・あぁそういや変な模様があったけど、あれって文字なの?」
本来食べるべきではない魚を平らげたダンテが立ち上がり
竿に糸をまいていたジュンヤの背をぼんとはたいた。
「当たりだな。余計な手間がかからなくて何よりだ」
「え?・・う・うん」
確かにそれは元の世界に帰る道のようだが
それにしてもしかし・・・
「あぁそれとさ、その帰り道は自由に使ってかまわないみたいなんだけど
使った後に元に戻しておいてやってくれない?連中が気味悪がっててさ」
「OK。おやすいご用だ」
要するに使った後その道を使えなくすればいい。
そうゆう事はダンテの得意分野だ。
「・・・あのレイダさん1つ聞いていいですか」
「あん?」
「どうして・・・そんなに色々面倒見てくれるんですか?」
レイダとダンテが同じようにきょとんとした顔をした。
「俺達よそ者で、レイダさんが何か得するような事なにもできないのに
食べ物分けてくれたり、帰り道の面倒みてくれたりするのって
何だか・・その・・悪い気がして・・・」
それもそうである。
ジュンヤは人に親切にすることはあってもされたことがあまりない。
それは『オマエなんでそう人がいいんだ?』とダンテが聞くのと同じ事なのだが
殺伐とした世界を歩いてきたジュンヤにはそれに気付くほどの余裕がないのだろう。
レイダは別に気にする様子もなく笑って見せた。
「ははは、まぁそれもそっか。考えてみりゃあんた達仕事の依頼でもないし
手間賃くれるわけでもないしね」
「だったらどうして・・?」
「ん〜〜まぁ楽しいからかな」
「・・・は?」
間抜けな声を出したジュンヤの横でダンテがその意味を察して薄く笑った。
「あたしはね、今までずっと1人でここを歩き回ってきたんだ。
1人で採取して1人で戦って、1人で休んでとにかく1人でね。
そりゃあ街に行ってメンバーを集めれば複数で行動することもできるけど
なんてのか・・・めんどくさくってさ。誰かと一緒にぞろぞろ歩くのって」
それはジュンヤと会う前のダンテの発想と同じだ。
腕のいいハンターはその腕に絶対的な自信を持ち
その反面、他人との行動を不利益とする傾向がある。
「けどあんた達を拾って話をしてると結構楽しいんだよ。
なんて言うか・・・1人じゃ味わえないバカ騒ぎってのかな」
かしゃんと音を立てて赤い小手がジュンヤの頭の上におちる。
「だからこれはその駄賃。
それとまぁ・・・あたしがそうしたいって気分なんだから
あんまり固く考えることないよ」
そう言ってレイダは笑いながら小手に包まれた手をかちかち前後にゆらす。
ダンテにされるのとはまた違う不思議な感触に
ジュンヤは姉でもできてしまったような気持ちになった。
いやしかし。こんないい人に一方的に世話になって
そのまま帰るにはジュンヤの気がおさまらない。
「・・でもやっぱり悪いですよ。お金払うとかじゃなくても
何か俺達に手伝ったり恩返しできることって、少しでもいいからありませんか?」
「ん?う〜ん」
そう真剣な目で言われると、レイダとしても別にいいとは言いづらい。
手伝えることかぁ・・・。
それは別に必要というほどのものではないが
人手があると楽なのは確かだ。
「・・・じゃあ、お願いしようかな」
その言葉にタトゥーの入った少年が表情を明るくし
赤い服の男がやれやれとばかりに肩をすくめ
冷気に包まれた大きな鳥は・・・話の内容についていけなかったのか
テント横の木箱の上でうつらうつらしていた。
ヒュオォォ
オーーー〜〜・・・
砂を含まないさわやかな風が背中とリベリオンを垂直になで上げていく。
その風の音すらなんだか腹立たしくなってきたダンテは
目の前にあるツタの葉を睨みながら。
「・・・少年、オマエはバカだ」
ツタの葉は当然何も言わないが
その言葉が今ここにいない少年に届けばいいと
まるで呪いをかけるような気持ちでダンテはつぶやいた。
「えー?何?なんか言ったー?」
「・・・いいや、なんでも」
真上から聞こえてきた声に相槌をうち
ダンテはともかく気を取り直して上へと登り始める。
ダンテが今いる・・というかへばりついているのは
傾斜90度、ほぼ直角の断崖絶壁だった。
ロッククライミングにでも使えそうな断崖を、そこに生えているツタを頼りに
2人はじりじりと上へ上へと登っていく。
なんでモンスターハンターとデビルハンターがこんな所をよじ登っているかというと
これもレイダの採取の1つなのだそうだ。
世話になった分の恩返しがしたいと言ったジュンヤに
レイダが提案したのが資材の採取。
しかし3人と一匹では少々人数が多いので
レイダは戦いなれしていそうなダンテと一緒に狩りと野外採取。
ジュンヤとフレスベルグは森の奥にある小川で魚釣りを担当することになった。
・・・のだが
ただ採取といってもその内容は意外にハードだ。
まずここへ来るまでにランポスを数体ねじふせて皮や牙をはぎ
ロープもなしでこんな場所を登ってツタの葉にクモの巣など
何に使うかさっぱりわからないものを集め
何度か登ってきた岩を降りたかと思うとまたいくつかの岩を道具もなしに登って
今度はピッケルを使って鉱石を採掘する。
そしてまた岩をよじ登って何かの洞窟に入り
またランポスと戦闘をしつつ皮や鱗をはいで洞窟内を探索する。
しかもその洞窟、何かの巣なのか
中は何かの骨と何かの残骸と何かの異臭が充満し
死体を残さない悪魔がかわいく思えてくるほど、それはそれは悲惨な状況だった。
「・・・聞くだけムダだろうが・・・確認のつもりで1つ聞いていいか?」
「ん〜?」
何かの骨がつもりにつもった場所を引っかき回しながら
レイダは気のない返事をする。
「・・・あんた、いつもコレを1人でやってるのか?」
「そりゃあ1人でやるしかないじゃない・・・ってお!鱗発見!」
そう言って骨の中から引きずり出した何かの鱗は
さっきそこらにあった何かのフンから手でほじりだしたのと同じ物だった。
コイツ絶対女じゃないとか思うのと一緒に
コイツ人間なのかなという疑問まで持ち始めたダンテだった。
サラサラサラサラ
一方ジュンヤは森の奥にある小川で1人釣り糸をたれていた。
川と言ってもそれは水の通り道くらいの小さなもので
一番深い所でもジュンヤの膝くらいしかない。
トプン
軽い音を立ててうきが沈む。
「・・・よっと!」
さっと引き上げると少し細めの魚が釣れた。
それは食用でサシミウオという魚らしい。
刺身にするとおいしい魚なのかな。
そんなことを考えながらジュンヤは針を取って
川のはじを石で囲んだ魚入れにそれを放り投げた。
その中には・・やはり川でとれるにはおかしいアジやマグロ
大きなアロワナまでひしめいている。
つっこみ所は色々あるが、恐竜がいるんだからこれくらい別にいいかと
ジュンヤは気にすることを放棄した。
「ジュンヤジュンヤ!」
近くの滝の中で何かをつついていたフレスベルグが
バサバサと音を立て、そばにあった横倒しになった木の上まで降りてくる。
滝の上で鉱石をほじっていた口には
白い石や黒い石がいくつかくわえられていた。
「えっと・・この白いのが大地の結晶で、こっちの黒いのは鉄鉱石だっけ」
教えてもらった名前と見分け方を思い出しながら
それを袋につめていく。
「ジュンヤこれはこれは?」
「あ、これは普通の石。はずれだよ」
キャッチアンドリリースのつもりでそれは近くに放り投げた。
フレスベルグは目がいいのか運がいいのか
最後の鉄鉱石をつめると袋はもう一杯に近い。
「石類はこのくらいでいいかな。
フレス、掘るのはもういいからそこの石の下からミミズ・・・
いや、こんなやつがいるから取ってきてくれ」
「わかったわかった!ミミズミズミズミズ!」
「ミミズだよ」
その時、笑いながら針にエサをつけ、投げようとしたジュンヤの周囲が
風の音と共に一瞬影がさしたようにふっと暗くなる。
「?」
何かと思って見上げようとすると同時にびゅうと風が鳴り
木々の隙間からちらりと何かとがったものが通過していくのが見え
ゴウ!
「・・っ!?」
その直後、それを追うかのような強烈な空気の渦に森全体があおられた。
しかししばらくすると空は何事もなかったかのように静まりかえり
後には小川の流れる音と、木の葉がゆれるわずかな音のみ。
「・・・今の・・・」
それは飛行機が通り過ぎる現象に似ていたが
エンジン音もプロペラの音もしなかったし鳥・・・にしても風圧が大きすぎた。
それに何だろう。
あの最後に見たとがった物は。
鳥の羽ではない。一瞬だったが・・・あれは何かのトゲのようだった。
ジュンヤは空を見上げたまま立ちつくす。
アレが何だったのかはわからないが
進行方向には確かダンテ達の向かった岩山があったはず。
ふと見るとフレスベルグも木にとまったまま空を見上げていた。
心なしその表情がけわしいように思える。
「・・フレス」
主の声に妖獣は視線を戻し
その目が何を言わんとしているかを察して
ギイと一声、短く鳴いた。
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