幸い骨だらけの洞窟を出たところで道はようやく普通にもどった。
後はあまり集める物もないというので生えていた薬草や木の実をとり
岩の間を抜けて2人はある開けた場所へ出てくる。

「・・・ここは・・・」
「あぁ、あんた達がランポスにたかられてた場所だよ」
「そのわりには随分と静かになったもんだな」
「いたりいなかったりするんだよねアイツら。いるときはいっくら倒しても出てくるけど
 いないときはまったくいないし、いても一回追い払えば出てこないときもあるし」
「そりゃまた随分と気まぐれなトカゲだな」
「パターンさえわかれば大した相手じゃないんだけどね。
 あ、そこの木の実もとれる」
「・・・ついでに言うと、アンタも随分と倹約家だな」
「いや倹約っていうか稼ぐためのコツというか知恵というか・・・」

呆れるダンテをよそにしゃがみこみ
ぶちぶち木の実をむしっていたレイダの動きがピタと止まった。

かと思えばがばといきなり顔を跳ね上げ
今まで見たこともない鋭い表情で周囲を見回し始める。

「・・どうした?」

ダンテの問いにレイダは答えなかった。
今まであっけらかんとしていた分、ダンテにも何か異常が近づいているとわかり
同じように雲の流れる空を見回してみるが、これといって妙なことはない。

強いて言えば風の音が少し強くなったくらいなものだ。

「・・・まずい」

レイダが雲を見上げたままぽつりともらす。

「・・アレが来るかもしれない。さっさと引き上げた方がよさそうだ!」
「・・おいちょっと待て、アレって何だ?」
「いいから早く!」

やはりレイダは何も答えず目の前にあった2メートルほどの段差を飛び降りる。
首をかしげながらもダンテはそれに続いたが
着地して立ち上がったところで、風の音とは別に何かが聞こえ始めた。

それは規則的に空を切り風を起こす、鳥の羽音にも聞こえたが
それは鳥にしてはあまりにも重たげで・・・

「・・やばい!見つかった!!」

今までになくせっぱ詰まったレイダの声に、ダンテが素早くその目線の先を追うと
そこには信じられないほど巨大な鳥がいた。

いや、それは鳥ではない。
片方5メートルはあろうかと思うほどの翼には羽毛がまったくなく
皮膚を伸ばしたかのようなコウモリ状の翼が広がっており
長い尾の先端にはスパイクを固めた、まるで殴りつけるかのようなものがついていて
足には斧のような鋭い爪、全身は赤黒い岩のような甲殻でおおわれていた。

ダンテはそれを何かの絵本で読んだことがある。
それは確か・・・ドラゴンという架空の生き物だったはずだ。

その大きな生き物を見上げていたダンテに、レイダが叫んだ。

「なにぼーっとしてんのバカ!早く逃げるよ!」
「逃げるって・・・あんたハンターなんだろ?」
「確かにハンターだけど、あたしは採取専門みたいなもんだし
 アイツはここらじゃ別格なの!!」

などとやっている間にも赤黒いドラゴンのような生き物は
大きな翼で風を起こしながらゆっくりと降りてくる。

それはとにかく巨大だった。
頭だけでもレイダの身長ほどあり、広げた翼は大型バスを覆い隠しそうなほどだ。

「とにかく逃げるの!アレと戦っていいのは退治依頼があった時か
 アレの身体の一部分がどーーーーしても必要になった時だけ!」
「・・つまりは高級品ってわけか」
「そゆこと!ほら早く・・」

しかしダンテは動かなかった。
不敵な笑みをうかべたまま、無言で背中の剣に手をかける。

「・・・ちょっと、あんたまさか!?」

巨大な生き物が、砂を巻き上げ地面に降り立つ。

「まぁ多少分野は違うが・・・オレも一応、ハンターだからな」


ヴォオオォーーーン!!!


赤黒い竜が吠える。

それはその一帯の生きとし生けるものを震撼させるような凄まじい咆哮で
かなり離れていたダンテ達周辺の空気がビリビリと音を立てて震えた。

そして竜は長い首を振りかぶり、いきなり炎の弾を吐き出してきた。

ドガーン!!

2人はそれぞれに横に飛んで回避する。

「あんた馬鹿じゃないの!?
 何の準備もなしの行きずりでリオレウスに喧嘩売るなんて正気の沙汰じゃないっての!」
「へぇ?あんなナリのわりには優雅な名前だな」
「優雅なのはアンタの頭ん中よ!!」

などとやっている間にリオレウスと呼ばれる赤黒い竜は
かなりの巨体にもかかわらずダンテに向かって突進してきた。
横へ逃げるには幅がありすぎるのでジャンプでかわし
落ちると同時に体勢をくずしているその背にリベリオンを叩きつける。

ガキン!

しかしその刃は岩のような甲殻を両断できず、音を立ててはじかれた。
ダンテは舌打ちして、振り落とそうと上昇を始めた背中から飛び降り
リオレウスはそのまま上昇して空中で静止したままこちらを睨んでいた。

「なぁ、あいつ皮膚に薄い部分はあるのか?」
「頭と首と腹だって話だけど・・・やっぱりやる気なワケ?」
「せっかくのお誘いだ。断るなんて・・失礼だろ!?」

空中から飛んできた火炎弾をかわしながらダンテは銃を抜き、連続で引き金をしぼる。
しかし剣すら通さなかった甲殻にはあまり効果がないらしく
リオレウスは軽く首をふってさらに上昇し
ダンテ達の周りを旋回するようにして飛び始めた。

「コイツもダメとは・・・ガードの固いお嬢さんだな」
「いっとくけどあいつオスだから」
「・・・そうなのか?」
「メスはまだあたしも見たこと無いけど、もう少し大きくて緑色なんだって」
「・・・・・」

しかもよく見るとそのオスの竜。
レイダには目もくれず、さっきからダンテばかり気にしているようだ。

コートの色が攻撃的なのがいけないのか、レイダより装備が薄いのが原因か
それとも本能的に危険だと判断しているのか。

「・・・ま、女運が悪いのは昔からわかってたがな」

上空を旋回している赤い竜に発砲しつつ
ダンテは別に気にする様子もなく引き金を引き続けた。
大きくて飛ぶ速度も速くないのではずすことはないが
やはりあまり効いている様子はない。

「つーか・・あんたのそれ飛び道具?」
「長年付き合ってる相棒だ。使いごこちは抜群だぜ?
 そういやここの飛び道具は弓矢か投石機でも使うのか?」
「んな原始的な・・。ボウガンとか組み立て式ボウガンとかに調合した弾こめて使うんだ。
 あいつになら水冷弾とかが効くんだろうけど・・って
ぎゃー!!

のんきな会話をしているところにジェット戦闘機より大きな生き物が突っ込んできた。
幸い2人とも反射神経はいいのでよけることができたが
あんな巨体であんなスピードの一撃をうければひとたまりもない。

ダンテはリベリオンを引き抜くと着地で体勢をくずしたリオレウスに走った。
狙うは首か頭。
しかしブレスがくるので正面には立てないだろう。
食らいつこうと伸ばされた頭をすべりこんでかわし、長い首を下から一撃。
手応えはかなり重かったが今度ははじかれなかった。
ならばもう一撃と振りかぶったところで巨大な爪の付いた足がのびてくる。

ガツッ!!

足はかわせたが、続けざまに来た尾はかわしきれず
ガードはしたものの威力を殺せずに剣ごと弾き飛ばされた。

「・・っ」

すぐさま起き上がったが、大きな首が振りかぶられ・・

ドガン!!

転がってよけた後の地面が飛んできた炎によって黒く焼けこげた。

ダンテは以前、この竜と同じくらい巨大な鳥と戦ったことがあるが
それは周囲全体を攻撃範囲として、それに巻き込ませるような戦法をとっていた。

それにくらべてこの竜は確実にこちらを狙ってくる上に
あんな巨体でありながら攻撃範囲、装甲含め接近戦でも死角らしい死角があまりない。

「・・・なるほどな。別格ってのは本当らしい」

これに比べればあの口の裂けた鳥なんぞかわいいもんだ。

そんな事を考える中、リオレウスは再び突進してきた。
今度は右へよける。しかし・・・

「・・!」

攻撃範囲が意外に広く、すれ違いざま巨大な爪がブーツを軽くえぐった。

それでもあれ全体に巻き込まれるよりはマシだろう。
大丈夫、このくらいならかすり傷だと
ダンテは痛む片足を無理矢理ふるいたたせ、体勢をくずしたリオレウスの元へ走る。

しかしリオレウスはそれを予測していたらしい。
むくりと起き上がるのと同時にスパイクのついた長い尾がぶんと音を立てて振られ・・

ガン!!

それはダンテを直撃する寸前、横から振り下ろされた巨大な斧によって弾かれた。

「だからやめとけっつったのに!!」

さらに飛んできた火炎弾を2人でかわしながらも相変わらずレイダは怒ったまんまだ。

レイダは腕の悪いハンターではないが、リオレウスの強さと厄介さを知っているからこそ
あえて今まで戦うことをしなかったのだ。

「悪いがこれも性分なんでな。・・まぁアンタにはわからんだろうが」

ダンテはそう言いながら、血の流れる足をそのままにリベリオンを構えなおす。

「・・・うん同感。わかるわけない。
 自分から危ない橋喜んで渡ろうとする
バカの事なんか」

バカの部分を強調しながら、レイダは巨大な斧を両手で構えて攻撃態勢をとる。

「でもま、そんなバカに付き合わずにはいられないあたしも・・・
 バカって言ったら
バカなんだけどね!!

レイダが走った。
ダンテも口のはじで笑みを作ったままそれに続く。

リオレウスは一瞬どちらに攻撃するか迷ったが
やはりダンテに首先を向けて・・・


パキン!!


その首が、いきなり地面から突き出た氷の固まりに固定された。

「・・っとと、え?何?」

レイダがたたらを踏んで、ダンテも攻撃を中止する。
こんな芸当をするやつは、おそらくこの世界では一匹しかいない。

「・・・チキンか?!」

ざっと周りを見回すと・・・いた。
リオレウスを挟んだ向こう遠くに見える、大きな鳥と走ってくる小さな人影。

リオレウスは少し慌てたようにぶるぶると氷を払い落とし
新しい侵入者の方へ首をめぐらせる。

「少年!!」

声の聞こえる距離ではなかったがダンテは叫んだ。

ジュンヤは単身戦ができないことはないが
彼の使う技は自らの体力を消費するものが多く
何よりこんな巨大な相手と対峙した経験は浅いはず。

ズシン、  ズシン、

重々しい音を立てながらリオレウスはジュンヤの方へ移動を始める。

ガガガガガガガ!!

ダンテは銃を抜いて巨大な背中にありったけの弾丸を撃ち込んだ。
しかしリオレウスは別に気にする様子もなく尾をぶんと一振りしただけで
ジュンヤとそのわきに降りてきたフレスベルグになおも接近していく。

「・・クソがッ!!」

ダンテは足の傷の事を完全に忘れて走りだそうとしたが
横から伸びてきたレイダの腕に止められた。

「・・ちょっと待って!なんか様子が変だ!」
「・・何?」

そう言われてみると・・・
リオレウスはジュンヤ達がブレスの射程範囲にいるのに
火も吐かず、突進する気配も見せていない。

それどころかジュンヤ達との距離があと10メートルほどの所で
何を思ったのかぴたりと歩みを止めた。

「・・・うそ!なんで?!」

レイダが信じられないといった声を出す中
ダンテは息をのむようにジュンヤ達を見守る。

ジュンヤはフレスベルグと一緒にただその場に立っていただけだったが
リオレウスが歩みを止めたのを見計らって
何か手を広げたり、こちらを指したりとなにやら妙な動きをし始めた。


・・・まさかアイツ、交渉してるのか!?


あんなでかくて凶暴なものに会話能力があるとも思えないが
しかし戦いもせずあーだこうだとやっているところを見るとそうとしか考えられない。

だがしばらく見ていると、リオレウスが長い首をぐるりとひねり
いきなりこちらを振り向く。

ダンテとレイダはさっと緊張したが、首はすぐジュンヤの方に戻り
さらに時間が何事もなく経過した。

・・ゴフ

そして赤黒い竜は雄叫びではない、ため息のような低い声を出し
いきなり翼を広げたかと思うと、砂を巻き上げながらゆっくりと上昇しはじめる。

間近にいたフレスベルグが風圧で少し後に流され
ジュンヤがなんとかその場に踏みとどまっている中
巨大な竜は上昇しきって風に乗ると、まるで何事もなかったかのように
悠然と、空の彼方へと飛び去ってしまった。

後に残るのは元通りになった風の音と、少しすればおさまるだろう砂煙のみ。

「・・・うそでしょ」

信じられないといった風にして、まず沈黙を破ったのはレイダだった。

「あいつにちょっかい出して、タダですんだヤツなんていないのに・・・」

砂煙がおさまると、今まで立っていたはずのジュンヤが
力尽きたのかべしゃりと尻餅をつくのが見えた。

ダンテは走りだそうとしたが、今頃傷がうずいてきたのか
踏み出そうとした足が2歩目で止まる。

一体何をしたのか知らないが、助かったのだけは確かだろう。


・・・まったく、大したガキだ。


そんなことを考えながら心配しているのかフレスベルグに
周りをウロウロ飛ばれているジュンヤをながめていると
ひょいと横から緑色の液体が入ったビンが伸びてきた。

「飲む?支給品で悪いけど」
「・・・?」
「傷の応急薬。見た目は不味そうだけど、歩けるくらいにはなると思う」

ダンテは少しその液体とにらめっこしてから、思い切って喉に流し込む。
不味くはなかったがウマくもない。
しかし傷の痛みは不思議なことにすっかり消えてくれた。

「・・・悪いな、色々と」
「ま、結果オーライってことで」

ぺしと肩を叩かれつつダンテは苦笑した。

同じハンターだからこんなやり取りで済むのだろうが
これがジュンヤなら無茶と無謀に激怒され
拳骨の一発や二発が飛んでくるところだろう。

ともかく2人のハンターがジュンヤの所まで来ると
そばにいたフレスベルグがおかえりとばかりにギイと鳴き
ジュンヤがホッとしたような顔を向けてきた。

「・・・大丈夫・・・みたいだね」
「・・・おかげさまでな」

勝てる自信がなかったわけでもないが、やはり結果的には助けられたのだろう。
ダンテは手を差し出して細い身体を地面から引き上げてやった。

「しかしあんなデカブツ相手に交渉とは・・・発想がブっ飛んでるな少年」
「え!?交渉って・・あんたアレと話したの?!」
「・・あ、いや交渉っていうか・・俺が一方的に話しただけなんだけど・・・」

頭をすりつけてくるフレスベルグを撫でながらジュンヤは話し始めた。

「最初は俺も別に交渉するつもりなんてなかったんだ。
 けどあの赤い竜、俺を見たときになんだか『オマエもか』って目をしたから」
「・・何それ??」
「多分あの大きな竜、ダンテさんの事あんまり見かけない
 よそから来た危険なヤツだって思ってたんだ。
 だから現地のレイダさんを無視してダンテさんにばっかり攻撃してたんじゃないかな」

確かにレイダは無駄な戦いを好まないハンターだが
ダンテは言わずもがななハンターだ。

リオレウスはそれを見抜いて自分の領土を侵略されるとでも思ったのだろう。

「だから俺言ってみたんだ。 
 俺達はもうすぐ自分たちの世界へ帰るから怒らないでくれって。
 ダンテさんも悪いヤツじゃないから見逃してくれって」
「・・・それで・・・通じたってわけか?」
「・・・多分」

しかしそれだけではなく、リオレウスはきっとジュンヤの力も計算に入れ
自分にメリットがあるかどうかを考えて立ち去ったのだろう。

それとこの場では誰も気付かなかったがリオレウスが冷気に弱く
冷気をあやつるフレスベルグがいた事も原因の1つだったりするのだが。

「・・・ま、ともかくこれで1つわかった事があるんだけど」

腕を組みながら1人納得したようにうなずくレイダに
2人と1匹の視線が集まる。

「アレを怒らせないためとあんた達とあたしのためにも
 あんた達全員、とっとと帰った方がいいって・こ・と!

びしびしびしと順番に指をさされ
1匹は首をかしげ、2人は顔を見合わせて呆気にとられたような顔をし
そして・・・同時に声を立てて笑い出した。





案内されたのはジュンヤが釣りをしていた小川のさらに奥にある
小さな集落のような場所だった。

レイダの話だとそこにいる住民達が
突然できたジュンヤ達の帰り道を気味悪がっていたとの話だが・・・

「うわー!かーわーいいー!!」

そこにいた住民というのが、ダンテの膝くらいまでしかない二足歩行のネコだった。

一応二足歩行とはいえやはり猫背で、歩く姿もどこかぎこちなく
毛並みもネコそのままで言葉もニャーとかミャーしか言えず
背中に小さなリュックを背負い、小さな杖を持っていなければただの変なネコだろう。

「レイダさんレイダさん!これなんて名前なの!?」
「えっと・・白いのがアイルーで黒いのがメラルー・・・・だっけ?」
「へぇーすごいなぁ、かわいいなぁ!」

動物好きなジュンヤはここへ来た目的もころっと忘れて
見た目はシャムやタキシードに見える住人達に、おいでおいでと手招きする。

おいおい、野良ネコ手なずけるんじゃなんだぞとダンテは思ったが
不思議なことにアイルー達はジュンヤの所にわいわい集まってきて
臭いを嗅いだり小さい手で触ったり、おっかなびっくりで引っ込めたりしている。

おそらく全身でほんのり光っているタトゥーが珍しいのだろう。
それといろんなものに好かれるジュンヤの性質もあるのかもしれない。
ダンテの所にも何匹か集まってくるが、やはり配色がキツイのか色が攻撃的なのか
1メートル以内にはよってこなかった。

で、フレスベルグはというと・・・

ニャーニャーミャー
ギャーギャーギャー!


珍しいのか美味しそうなのか、ジュンヤよりも大人気で
最高位の妖獣は小さいネコ達にしこたま追い回されたあげく
バサバサと慌てたように木の上へと避難した。

「はいはい、遊んでないでこっちおいで」

そう言ってレイダが案内してくれたのは
その集落の中心にあった大きな木の下だった。

「みてごらん」

その木の根本には少し大きな水たまりがあった。
しかしその水はほんのり赤く発光していて
中をのぞくとジュンヤ達には見覚えのある円い天井がうつっている。

「これって・・・ターミナル部屋の天井?」
「・・らしいな」

と言うことはこの水たまりは
ドラム缶のようなターミナルの内部につながっているらしい。

「ちらっと様子を見に入ったやつの話によると、灰色の殺風景な部屋に出て
 変な傷がついた床に何かのフタが落ちてたくらいしかなくて
 なんかうす気味悪いからすぐ帰ってきたらしいけどね」
「「・・・・・」」

床に傷があると言うことは、それはおそらくダンテの壊したターミナルの部屋だ。
フタというのはおそらくターミナルのてっぺんのフタみたいなやつの事だろう。

「・・・つまりオレ達が戻ってフタを元に戻せばミッションクリアってワケだな」
「・・・ダンテさん、俺の目ぇ見て話してくれる?
「あ、ちょ・・待て少年ギブギブギブ」

ぐぎぎとダンテの襟をシメるジュンヤを止めもせずにレイダは笑った。

「ははは、まぁ何はともかくよかったじゃない。
 色々あったけど元のサヤに戻れそうで」
「・・あ、すみませんレイダさん。色々お世話になって」

同じハンターでもその扱いは月とすっぽんだ。

「レイダさんはこれからどうするんですか?」
「あたし?あたしは別に今までと変わらないよ。
 魚釣って石掘って、キノコ集めて薬草つんで」
「・・それはハンターと言っていいもんなのか?」
「ダンテさん!」

襟を直しながらぽつりと言ったダンテにジュンヤは怒鳴ったが
レイダはやはり気にせずに笑い飛ばした。

「っははは!違いないね。
 ・・でもさ、あたしもちょっとその採取のスタイルを変えて
 たまには討伐も受けたりしようかなーとか思ってるんだ。
 そこのダンテを見習ってね」

そう言ってパチンとウインクしたレイダに
ダンテが軽く口笛を吹き、ジュンヤの顔色が青く変わる。

ダメダメダメダメダメ絶っっ対ダメ!!こんな人見習っちゃダメ!!
 こんなの見習ってたら命も魔石も反魂香もいくつあっても足りやしない!!」
「ははは、まぁそこら辺は自分の技量とちゃんと相談するから
 そんな心配しなくっていいよジュンヤ」
「でもレイダさ・・・」

何か言いかけたジュンヤの動きがはたと止まる。

そういえば・・・
今までずっと2人のことをあんたで通してきたレイダが
今初めて、2人のことを名前で呼んだ。

「・・・ほらほら早く行きな。あんまりまごまごしてるとまたアイツが来るよ」
「え、あ・・はい!」

照れ隠しなのかレイダはそう言いいながらジュンヤの背を軽く押す。
ジュンヤはまず木の上に避難していたフレスベルグを呼んだ。

「じゃ、フレスも元気でね。取って羽むしられて食われないようにね」
「元気元気!オレ元気!!」

意味が分かっているのかいないのか
フレスベルグはぽんと置かれた手に頭をぐりぐりすりつけた後
ギイと一声レイダに向かって挨拶するかのように鳴いてから
羽をたたんで赤い水たまりに飛び込んだ。

「えっと、じゃあレイダさん、色々お世話になりました」
「いいっていいって。あたしも色々勉強させられたしね」
「あ、それとくれぐれもダンテさんを見習ったりしないように。
 命が足りないのはもちろんだけど何より人間性がうたがわれ
ッ!!

ドボン!!

横から飛んできた黒いブーツに、ジュンヤは文字通り蹴り落とされた。

「じゃあな平和主義ハンターさん。
 オレのことはともかくいいハンターになることを祈ってるぜ」
「・・あ、ちょい待ち」

踵を返して水たまりの前に立ったダンテをレイダは止める。

ダンテは振り返ったが、やはり同じハンターとしてのカンか
何も言わないうちから彼女が何を言おうとしているかがすぐにわかったらしい。

「心配するな。あぁいったお人好しの手を血に染めないようにするのも
 ハンターの仕事の1つ、だろ?」

レイダはふっと笑い、手を片方上げた。

パン!

小手とグローブが乾いた音を立てる。

ダンテはその手で軽い投げキスをよこし
コートを翻すと足元の水たまりに飛び込んでいった。

そしてしばらく後、赤く光っていた水は消え、元の青い水たまりに戻る。

ニャーニャーと住人達が集まってきた。
その内の一匹がありがとうというつもりなのか手を出してきて
レイダはそれを握ってから兜を指先で軽く持ち上げた。

「・・・さて、と」

もう大丈夫だろうなと水たまりをつついているアイルー達をよそに
レイダは1人集落を後にした。

集落を出てすぐの小川に置いてあった、ジュンヤ達の集めてくれた資材を背負い
森の中をいつも通り、1人で歩く。

背中の袋はさすがに複数で集めただけあってそれなりに重かったが
それはきっと、人手と思い出の重みなのだろう。


レイダは統一性のないおかしな面々を思い出して1人笑った。


「・・・それじゃああたしも、たまにはハンターしてみようかな」


その内の1人、楽しそうに巨大な竜に飛びかかっていき
それでいて1人の少年を守ろうとした男を思い出しながら
レイダは袋を背負いなおす。



それからしばらく後、その近辺で巨大な斧を背負い
多様な道具を駆使し、依頼を受けて竜を狩る女ハンターの噂が流れ始めるのだが・・

その噂はやはりボルテクスには届くはずもなく
噂は広大な大自然をただ静かに

風に乗って走るだけだった。









なんかやたら長くなってしまったモンハンGでした。
だってプレイしながら書いてたもんだから感情移入バリバリで。
ちなみにレイダという名前はどっかの映画の題から。
性格とスタイルは筆者とちょっと似てるかもしれません。
あと装備は頭足をガレオス、腕胴腰をクック
武器を作りやすくて威力のあったブロードボーンアクスで固めてました。

ちなみにこれ書いてる時点でリオレウスとはタイマン中。
つーかあんな大怪獣1人で倒すにゃ無理だっての。

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