引き込まれ方は強烈だったが、転送自体はいつも通りの感覚だった。
ストックに強制送還しようとしたジュンヤの手をはじくと同時に
全ての感覚がすっと白紙になる。
しかしそれはほんの一瞬だ。まばたきする間もなく五感は元に戻り
それと同時に何かの外壁が視界に入ってきた。
違うと言うならまずそこだろう。
普通まず目に入ってくるのはゆっくりと回転を止めようとするターミナルだ。
ついでに言うと、さっきはじいたはずの手の主が近くに見当たらない。
「・・・よいしょっ・・と、わっ!?
」
げし
しかも状況を確認する間もなく、真上から何者かに頭をふんづけられた。
ダンテは一瞬前へつんのめったが、そこはプロのハンター。
なんとか踏ん張って無様につぶれるのだけは回避した。
おかげで頭をふんづけた張本人は、ダンテの上にすとんと肩車状態になったが。
「あっ!わっ!すいませんすいません!一応足元確認したんだけど!」
「・・・・・・あやまるより降りる方が先だと思うが」
「・・・・・・ごもっともですハイ」
と言うやいなや、上の声の主はダンテの頭をがしと掴み
それを軸にしてくるりと前転し前へ器用に着地した。
出会い頭、悪魔も泣き出すデビルハンターの頭に
二回連続で無礼をはたらいてくれたのは
なんとジュンヤよりさらに若い小柄な人間だった。
白を基準とした何かの制服のような服と黒に近い紺色の髪。
髪が短いので一瞬男かと思ったが、よく見ると多少ながら体格が違う。
つまりそれはようやく性別が判断できるくらい若い少女だった。
「あはは・・・どうもスミマセン」
引きつり笑いをする少女の横で縄がゆらゆらゆれている。
見上げれば開け飛ばされた窓と、そこから出て風にゆれるロープが一本。
そのあまりに典型的な光景にダンテは頭をふまれた事も忘れて苦笑した。
「・・・まぁ詳しくは聞かないが
今度から家出をする時は他人に迷惑をかけずにする事をお勧めするな」
「ち、ちがうもん!家出じゃなくて脱走だもん!」
「同じようなもんだろうが」
「だって・・」
「トリス!どこだトリス!!」
何か言いかけた少女の声は
建物から飛んできた神経質そうな声にかき消された。
「うわ!?もう見つかった!?」
状況から見るにトリスというのはこの少女の名前だろう。
さらに推測すると声の主から逃げる最中
ダンテを踏んで足止めを食らったと、そうゆうことらしい。
「もうネスってばどんどん反応よくなるんだから!」
言うなりトリスという少女は何を思ったのか
横で成り行きを見ていたダンテの手をがしと掴んで走り出す。
「・・お」
「いいから走る!」
抗議は一文字目で却下された。
多少釈然としないものの、よく考えればその場に残って良くて脱走の発見者
悪くて不法侵入者とみなされ、どちらにせよ厄介なことになるのは間違いない。
ダンテはしかたなしに何だかよくわからない少女に連れられて
その場からわけもわからずバタバタと逃走を始めた。
コンパスは有利なのだが少女の足はやたらと速く
ダンテは途中からほぼ本気になって走り
見慣れない道を見知らぬ少女に引きずられてとにかく走った。
そうしてしばらく走っていると、たどり着いたのはどこかの港のような場所だった。
「・・・ふう、危なかった。・・あ、ところでおじさん、どちら様?」
手でハタハタあおぎながら3度目無礼をかましてくれた少女に
ダンテは大人の意地をかき集め、ギリギリで銃に手をかけるのを阻止する。
「・・・・・・オレはまだそんな歳じゃない。ついでにダンテって名前もある」
「あ、そうなんだごめんね。私トリスって言うんだ」
そこらのチンピラくらいなら裸足で逃げ出しそうな目で睨んでみても
キモがすわっているのかはてまた単に脳天気なだけなのか
トリスと名乗った少女はあっさりそれを流してくれた。
「お・・じゃなかった、ダンテさんだっけ。
ここじゃあんまり見ない人だけど・・どこの人?」
「どこと言われても・・・ここがどこかで答えは違ってくるな」
「ここ?ハルシェ湖の港だけど」
さも当然とばかりに言われた地名はダンテのまったく知らないものだ。
「じゃあ言っても無駄かもしれんが、強いて答えるならボルテクスだ」
「・・・ボルてくす?聞いたことないなぁ。
見た感じシルターンともメイトルパとも違う人みたいだし・・・」
やはりどれも聞いたことのない物ばかり。
ダンテとしてはどこにいようがやる事は大して変わらないが
ボルテクスを元に戻そうと走り回っていた相棒はどうなるのだろう。
今まで色々な目にあってきたと話してはいたが
いざこうして離ればなれになり、しかもまったく知らない世界に来たとなると
少し心配になってくる。
ともかくここはどこだかはどうでもいいとして
ダンテの当面の仕事はまずジュンヤの捜索に決定だ。
「ま、いっか。レオルドに聞けば何かわかるかもしれないし」
「?・・その知り合いに聞けばわかるのか?」
「うん、いろんな事を知ってるからもしかしたらだけど・・
あ、来た来たちょうどよかった!レオルド〜!」
そう言って元気に手をふるトリスの視線の先を見て、ダンテは一瞬目を疑った。
見間違いかとも思ったがそれはこちらにまっすぐやって来るし
おまけにダンテを見るなり足を速めたようにも見える。
それは簡単に言うならSF映画でよく見る2足歩行のロボットだった。
形はあまり人には似ておらず、見た感じはブリキのおもちゃを連想させたが
黒のボディーに所々が赤いパーツ、大きさはダンテより二回りほど大きく
武装はしていなかったがきちんと十本ある指先は何かを貫けそうなほどに鋭い。
「・・・?とりす、新シイオ友達デスカ?」
しかしその大きな機体から出てきた声は
合成されてはいるものの、不思議と人の臭いを感じさせるものだった。
「んー・・・友達ってほどじゃないけど、さっき知り合った正体不明な人」
言ってる事は間違っていないが何か引っかかる物言いだ。
「・・おいおい、さっき名乗らなかったか?」
「ここはどこから来たのかわからなかったら、名前があっても正体不明なの。
ちなみにこれが私の友達で護衛獣のレオルド。来たところはロレイラル。
これくらいないとただのはぐれ扱いされて派閥につかまるのがオチだと思う」
「・・・悪いが、知ってる単語がほどんどないんで理解不能だ」
などとやってる2人の前でレオルドと呼ばれているロボットは
ダンテをじーっと凝視して、頭付近で変わった音を立て始めた。
そしてしばらくして・・・
「トリス、分析シテミタノデスガ・・銃器反応、衣服素材ナドカラ測定シテ
れなーど殿ト同ジ世界カラコラレタヨウデス」
「え!?」
トリスはそれを聞いてかなり驚いていたが、ダンテには何のことかさっぱりだ。
「・・・なぁ、悪いがオレはついさっき事故でここへ来たばかりなんで
こっちの常識とかはまったくわからないんだ。よけりゃ簡単に説明してくれ」
トリスとレオルドはかなりの高低差で顔を見合わせた。
この世界では召喚師による召喚術というものが普及しているが
事故で異世界から来たという人間はあまり例がない。
「それにこっちの常識がわかればオレの状況や世界の話も少し話やすくなるだろ」
「・・・んー、それもそうだね」
「デハマズ・・コノ世界りぃんばうむトソレヲ取リ巻ク4ツノ世界ノ解説・・」
「あぁああ!ダメダメダメ!
レオルドが説明すると話がコッチコチに堅くなるから私が説明したげる!」
そう言ってトリスは適当な棒を拾い上げると地面に何やらガリガリ書いて
この世界とそれに関連する召喚術という術の説明を
ダンテでですら大雑把だと思えるくらい簡単に説明し始めた。
「・・・なるほど。つまりここは4つの世界から
好き勝手に力を拉致できる王様世界ってわけか」
「言い方は最低だけど、まぁそんな感じかな」
「・・・・・・・・」
神聖なお話をウ○コ座りでおもいっきりかいつまんで説明したあげく
同じくウン○座りした長身の赤コート男にミもフタもない言い方をされて
横で突っ立って聞いていたレオルドは、あらゆる意味でもう何も言えなくなった。
「オレ達の世界にも召喚っていう言葉はあったが・・・
ただこっちの場合は1人のマスターを軸にして
その近くにあるストックっていう世界から直接呼び出されてた」
ダンテも棒で地面に適当な図を書いていく。
「元いた世界も種族もバラバラだったが
そいつらはいつでもマスターの呼びかけに応じて対応できる仕組みになってる」
「・・・デハだんて殿ガソノますたーナノデスカ?」
「いや、オレは使役される側でマスター・・といってもまだガキなんだが
そいつとはついさっき、ターミナルっていう移動手段の事故ではぐれた」
ターミナルとターミナルを結んでいた線に×が書かれる。
「え?じゃあそのマスターさん心配してるんじゃない?」
ダンテは地面に書いたマスターという字に○をして考えた。
『ダンテさん。カグツチの塔って666階まであるんだよ』
『・・・何が言いたい少年』
『いやふと思ったんだけどさ、60Fから落ちても平気な魔人は
11.1倍の高さでもやっぱり平気なのかなーーと』
『・・・なに子供みたいな目ぇして恐ろしいこと考えてやがる』
「・・・・さぁな。あいつはオレに関してはタンパクだからな」
「でもずっと一緒にいたんでしょ?」
「あぁ」
トリスはじーーと字面に書かれたダンテの召喚図を見て
何を思ったのかしゅたっと勢いよく立ち上がった。
「探そう。その人」
「?」
「きっと心配してる。普段は関心なくても急にいなくなったら絶対心配する」
それはまるでジュンヤを知っているかのような口ぶりだが
しかしダンテはまだジュンヤの事を人じゃなくて悪魔だとか
実は自分の三倍くらいある奴を素手で殴り倒したり
怒るとビームを出して攻撃してくる奴だとかの説明を何一つしていない。
それでもトリスはかまわずダンテのコートをぐいぐい引っぱった。
「早く探そう、ほんとはレオルドとあかなべに行く予定だったけど予定変更」
「・・お、おい」
「レオルド、レーダーでパッフェルさん探せる?」
「ハイ可能デス」
「じゃあまず情報収集から。ネスには・・・黙っておいた方がいいよね、うん」
「・・おい、ちょっと待ってくれ」
トントン拍子な展開についていけず、ダンテが珍しく待ったをかけたが
なんのスイッチが入ってしまったのかトリスはまったく聞く耳持たず
ちょっと思いもしない事を口にした。
「だって早く探さないと。ダンテさん、そのマスターさんの友達でしょう?」
ダンテは一瞬返答に困った。
他の仲魔連中とジュンヤを見ていると、そんな単語が当てはまらないこともないが
自分とジュンヤにその関係があうかと言われるとちょっと疑問がある。
仲魔、というには忠誠心がたりず
友達、というにも因縁が浅い。
と、なると最も適切な関係は・・・
「・・・いや、友達と言うより・・・相棒だな」
その途端、トリスの表情がせっぱ詰まったようなものに変わった。
「ちょっと!それじゃなおさら悪いじゃない!」
「?何がだ」
「とりあえず繁華街から!レオルドお願い!」
「了解」
「え・・あ・おいコラ!?」
一体何がいけなかったのかはわからないが
すっかりトリスを怒らせたダンテは再び腕をひっつかまれ
女の子なのに結構な力をもつ少女に強制連行の目にあうことになった。
今度つれてこられたのは様々な店が建ち並ぶ繁華街だ。
たくさんの人が行き交う中、レオルドとダンテはそれなりに目立つのだが
ほとんど気にする人間がいないのにダンテは驚く。
そういえば時々すれ違う者の中には服装が明らかに周りと浮いていたり
動物の耳や尾がついていたりと明らかに別世界の住人である者もいくらかいる。
ここは違う世界の住人を呼べるからこそ
異世界の人間もそう珍しい物でもないのだろう。
「・・・この世界じゃ召喚っていうのはポピュラーなものなのか?」
「イエ、召喚術ハとりすノヨウナ召喚師デナケレバ使用ヲ許可サレテイマセン」
前を歩いてきょろきょろしていたトリスのかわりに
隣を歩いていたレオルドが目線を周囲に巡らせながら答えてくれた。
「許可されてない?」
「ハイ、召喚術トハソノ利用価値ユエニ悪用サレルけーすモ少ナクアリマセン」
「・・つまり召喚された奴はそいつの意志にかかわらず
悪用されるケースもある・・・そうゆうことか」
「ソノ通リデス」
・・・アイツが聞いたら自分の事でもないのに怒りそうな話だ。
そんなことを考えながら、ダンテは久しぶりに人通りのある道を歩いた。
そうしているうちに何かを見つけたのか、レオルドの動きががしょんと止まる。
「とりす、反応ガ有リマシタ。右前方150」
「やったラッキー!」
短い単語でやり取りする2人はともかく、ダンテには何のことかさっぱりだったが
言われた方を見ていると、人混みの中を実に器用に走り抜けて来る人影を発見した。
それはウエイトレスのような格好をして長い髪を1つにまとめた女の子だ。
大きなバスケットを手に人の波を右へ左へかわし結構なスピードで移動している。
しかしダンテはふと眉をよせた。
人をかわす動作にしては動きが妙だ。
「パッフェルさーーん!」
だがそんなことはおかまいなしに
トリスはその不思議な人物のものであろう名を呼んだ。
するとその人物はすぐこちらに気付いて
「あららートリスさーん!・・ってまた物騒な人とご一緒で」
と、近くにいたダンテを見るなり
なんだか一発で何もかも見抜いてしまったような事を
実にのんきな口調で言ってくれた。
「うん、でもこの人召喚獣らしくて今マスターさんを探してるの。
パッフェルさんの所に何か情報入ってなかった?」
「ん〜〜私最近お金稼ぎのほうにかたよってましたからねぇ。
私の所より派閥の本部に行った方がいいかもしれませんよ?
あ、あと街の情報なら最近ユエルちゃんの方が詳しいですし」
などと話をしている女子2人をよそにダンテはレオルドに小声で聞いた。
「・・・なぁ、あのウエイトレス・・・」
「ぱっふぇる殿ノコトデスカ?」
「エージェントのたぐいか?」
表情のない頭部が驚いたように音を立ててこっちを向く。
「ヨクオワカリデスネ」
「身のこなしと歩き方とかで何となく・・な」
裏社会を何度か歩いた事があるのでダンテにはわかったが
ということは彼女はここでは情報屋か何かなのだろう。
トリスはしばらくパッフェルと何やら話し込んでいたが
しばらくして何か小さい箱をかかえて戻ってきた。
去りぎわにそのウエイトレス姿のエージェントは
ダンテとレオルドに愛想のいい会釈をして、再び人混みの中へ消えていく。
ダンテはそれに軽く手をあげて答えたが
こっちの情報も変な風に記録されたろうなと心の隅で思った。
「パッフェルさんは空振りだね。次は派閥の本部に行こうか」
「ハバツ?」
「んー・・まぁ詳しいことは歩きながら説明したげる。
ところでさ、パッフェルさんがケーキくれたんだ。
ロールケーキ、イチゴタルト、エクレアどれがいい?」
「イチゴタルト」
ダンテは0.1秒も迷わず即答した。
道すがらで相変わらず非常に簡単な説明を聞いて
3人はトリスが所属するという蒼の派閥の本部前まで来た。
しかし一般人は入れないというので、ダンテとレオルドは表で留守番である。
「「・・・・・」」
そういえば今まで気がつかなかったが、トリスがいないとやたらに静かだ。
「・・・オマエのご主人はいつもあんななのか?」
退屈しのぎに隣に立っていたロボット(ここでは機械兵士というらしい)に声をかけると
赤いツノがついたような頭部が音を立ててこちらを向く。
このレオルドというロボットは見た目は怖いが中身は意外に律儀なようだ。
「アンナ・・トハ?」
「あんな風に人を引きずり回すじゃじゃ馬かって事だ」
黒い機体は少し考えるように頭部付近で小さな音を立てた。
「イエ、オソラクとりすハアナタガますたートイウ人物ト
離レ離レニナッタコトヲ気ニシテイルノデス。
カツテ私ガソウシヨウトシテシマッタ時ノ事ヲ思イ出シテ」
「・・・?」
その意味ありげな言葉に怪訝そうな表情をしたダンテから何を感じ取ったのか
レオルドはさらにこんな言葉を続けた。
「アマリ面白イ話デハアリマセンガ聞キマスカ?」
「・・・そうだな、退屈しのぎになるならな」
「ワカリマシタ、デハ」
軽い音を立ててこちらを向いていた無機質な目が
どこか遠くを見るように向き直る。
不思議な話だがこのロボットはまるで中に誰か入っていそうなほど仕草が人間らしい。
まぁあんなじゃじゃ馬の近くにいたら自然とこうなるんだろう、とダンテは思った。
「私ノ最優先任務ハあるじ殿、ツマリとりすヲ守ルコト。
私ガろれいらるカラ召喚サレタ際ニモ
ソレガマズ第一ノ任務トシテぷろぐらむサレテイマシタ」
「ボディガードってわけだな」
「ハイ。私ハ彼女ノ隣デズット彼女ヲ守ッテキマシタ。
ソシテ私達機械兵士ハ卓越シタ戦闘能力ヲ持ツト同時ニ
任務遂行ノタメノ様々ナ能力ガ備ワッテイマス」
確かに自分で歩いて話したり考えたりするロボットなのだから
さぞかし色々な能力があるのだろう。
「私ハアル時、トアルろれいらるノ遺産ヲメグリ
とりすノ安全ノ確保トソノ遺産ヲとりすニ残スタメ、アル機能ヲ使オウトシマシタ」
「・・・・・」
「ソレハ確実ニ対象物ヲ撃破スルカワリニ一度シカ使エマセン。
デスガソノ時ノ私ハとりすノタメニ、ドウシテモソノ機能ヲ
使用シナケレバナリマセンデシタ」
ダンテがその意味を察して目を細める。
「・・・自爆か?」
鋼鉄の頭部がうなずくように少し下にかたむいた。
「デスガとりすはソレヲ認メナイト言イ
ソレバカリカ自分ノ身ヲ使ッテマデ私ヲ止メヨウトシマシタ。
友達ヲ犠牲ニシテマデ力ナドイラナイ。友達ハソレホドニ価値ノアルモノダ
機械デアり、兵器デアルハズノ私ニ・・・ソウイッテ下サイマシタ」
付き合いが長いわけではないがあの性格ならやりそうだとダンテは思う。
「ソシテソノ時ハ事ナキヲ得タノデスガ・・・
ヤハリソレマデ護衛ヲシテキタ中デ、一番キツク怒ラレマシタ。
機械ノ身体ダカラトイッテ無茶ヲスルナ。
自分ハソレデ満足カモシレナイガ、残サレタ者ハズット悲シンデイクコトニナル。
ソウ言ッテ・・・痛イデショウニ、とりすハ生身ノ手デ私ヲ叩キマシタ」
「・・・なるほど。それでか」
どうしてトリスが見ず知らずのダンテを
あんなにジュンヤの所に帰したがって走り回るのか、それなら納得がいく。
あの子はずっと一緒だった友達と離れ離れになることが
どれほどのものか知っているから、たとえ他人であってもあぁも真剣になるのだろう。
最初に聞いたこの世界での召喚術というものに
ダンテは正直あまりいい印象をもてなかったが
こんな不思議な信頼関係もあるのかと思うと、そう悪いものにも見えなくなる。
なぜなら・・
「けど・・・叱られようが殴られようが
やっぱりいざって時には身を盾にする覚悟なんだろ?」
「・・エ?」
どうしてわかるんだと言いたげな機械兵士にダンテは喉の奥で笑って見せた。
「自分より他人が傷つくのが嫌で
自分の頑丈さを理由にそうゆう事をするやつを・・オレも1人知ってるんでな」
「おまたせー!」
しばらくしてトリスが建物からぱたぱたと戻ってきた。
「オカエリナサイ。ドウデシタカ?」
「ダメ、空振りだった。アメルに聞けば手っ取り早いんだろうけど
ネスと鉢合わせする可能性もあるから・・」
ビーッ、ビーッ、
突然レオルドから変な音がした。
「とりす、ごーじゃす反応デス」
「えっ!?なんでこんな所で!?」
何やら慌てだしたトリスにダンテはあたりを見回してみるが
別にこれといって変わったものは見当たらない。
しかし・・ゴージャス??
「えぇい!来ちゃったものはしょうがない!
ちょっとガマンね!」
と、言うが早いか、トリスはダンテを近くにあった地区共用の大きなゴミ箱の前に立たせ
女の子とは思えない力でどがんと長身の魔人をその中に蹴りこみ
すごい勢いでフタをした。
その間約2秒。
さすがに臭いがキツイのでダンテは出ようとしたが
フタはガチンという金属音にはばまれる。
おそらくレオルドが押さえているのだろう。
一体なんなんだオマエらと思う中、外からはこんな会話が聞こえてきた。
「あ、こんにちはーケルマさん偶然ですね!」
「コンニチハ」
「・・あら、あなた達がこんな所にいるなんて珍しいですわね」
「えへ、ちょっと調べもので」
「そうですの。わたくしはてっきりまた勉強をサボって逃げ出したのかと思いましたわ」
「むっ・・・そうゆうケルマさんはまたカザミネさんに逃げられでもしたの?」
「おだまり!発育途中のお子様が大人の恋路に口をはさむなんて百年早くてよ!」
「・・・図星なんだ」
「・・・ソノヨウデ」
「きぃー!!そこをおどき!わたくしはあなた達と違って忙しくってよ!」
そんな声と高らかな靴音を最後に外が急に静かになり
がこんとフタが開いてトリスとレオルドがのぞき込んできた。
「もーいいよダンテさん」
「・・・・」
ダンテはムッとしながらも非難しなかった。
声と状況からして何となくやっかいごとに巻き込まれそうな気がしたからだ。
「ごめんね。あの人とかかわると色々ややこしくなっちゃうから」
「・・・いい、もう何も言うな」
というか、オマエらに関わったこと自体が一番やっかいだという言葉を飲み込んで
ダンテは一刻も早くこの世界から脱出する事を心で願った。
次に3人がやってきたのは、再開発地域という作りかけの建物が並ぶ場所だ。
トリスの話によると今度探しているユエルという人物が
だいたいここで遊んでいると言うのだが・・・
「どうレオルド、見つけられそう?」
「・・?オカシイデスネ、コノ区画ノ磁場ダケガヤケニ乱レテイテ
レーダーデノ認識ガデキナクナッテマス。
動体反応ナラナントカ可能デスガ・・・」
「じゃあそれでいこう。どのみち他にあてもないしね」
「了解デス」
そんなやり取りをしている2人の後から、コートをバタバタはたいて
なんとかゴミ臭さを落とそうと努力しているダンテがついてくる。
「おーいユエルーー!いないのーー!?」
「・・・で?今度は何を探してるんだ?」
「ユエルっていうオルフル・・じゃわかんないか。
人間に犬の耳とシッポをつけた感じの女の子。
召喚師じゃないけどいろんな所を歩き回ってるから
何か変わった事があったら知ってるはずなんだけど・・・」
その時一番前を歩いていたレオルドが足を止めた。
「・・・とりす」
「え?あ・・・」
見ると作りかけの建物の影から、何かがこっちを用心深くのぞいている。
それは人なのだが頭に犬のような三角耳がついていて
同じ色のシッポが後でゆれている。
どうやらそれが探していたユエルという子のようだ。
「・・ユエルどうしたの?」
しかしユエルという子は建物の影からじーとこちらを見るばかりで
近寄ってきそうな気配がない。
「・・・あ、そっか。あの子人見知りしたんだっけ。
ダンテさんごめん、ちょっと離れててくれる?」
「わかったわかった」
ゴミ箱に蹴りこまれるよりはマシだとダンテは素直に従った。
すると用心深く様子をうかがっていたユエルは
たーっと走りだして来てトリスにしがみつく。
「・・トリス、あの変なのなに?」
「ん?うん、ちょっと迷子な人で召喚獣。
召喚されたんじゃなくて事故でマスターとはぐれたって言ってた」
「え?アレもはぐれたの?」
「アレ・・も?」
その言葉にユエルは一瞬しまったという顔をしたが
やはり自分を助けてくれた恩人に嘘をつくことはできないのか
先をうながすようなトリスの視線に耐えかね、ぽつりとぽつりと話し出した。
「・・・あのね、ユエル変なの拾ったの。ここで遊んでたら落ちてきて
ユエルびっくりしたけど、それちょっと変わってるだけであんまり怖くないの」
「・・変なのって何?物?人?」
「ううん、よくわかんない。でもそれ自分のこと悪魔だって」
「・・あく!」
この世界で悪魔と言えばあまり良い印象がない。
さっと緊張するトリスにユエルはあわてて・・・
「あ、違う!それ悪くないの!ユエルのこと食べたりしないって言ったし
ツノ触っても怒らなかったし、ユエルのこと騙したみたいな悪い奴じゃないもん!」
警戒心が強いユエルがここまで他人をかばうことは珍しい。
一体そんな悪魔とはどんな悪魔だと思っていると・・・。
「・・とりす、マタ動体反応デス!後方30」
「え?!」
あわててそちらに目をやると、それはまさにダンテを置いてきた方向だ。
ちょうどその時ダンテもその気配に気付いて銃に手をのばしていたが
銃に手が触れる寸前、それと偶然目があった。
立てかけてあった資材からこちらをこっそりのぞき見て
驚いたように丸くなった目は、見間違えるはずのない金色の目をしていた。
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