ドカズボドベぐっしゃ!!
「んぎゃ!?」
真っ赤だった視界が急に通常にもどったかと思えば
ジュンヤはいきなり足からなにかに突っ込んだ。
あわてて手をつきあたりを見回すと、暗くて少しわかりにくいが
そこは使えなくなった家電製品かなにかを捨てるゴミ捨て場所のようだ。
多少固くて痛いがこのくらいで悪魔の身体はびくともしない。
生ゴミの山じゃなくてよかったなどと思いながら足をひっこぬくと
妙な悲鳴がストックまで聞こえたらしく、少しあわてたような声が飛んできた。
o
『主!どうした?!』
「・・・あ、ごめんミカ。ちょっとびっくりしただけ」
もう片足を引き抜きつつざっと見回すと、そこはどこかの路地裏のようだった。
しかし妙なことにカグツチがあるはずの空はやけに暗く
地面にはボルテクスならどこにでも入り込む砂がない。
不思議に思って建物の間から空をよーく見ると
わずかだが、ボルテクスにはあるはずのない星がいくつか見えた。
「・・・・・どこだここ?ボルテクスじゃな・・・」
そこでジュンヤははたと気付いた。
ほんの少し前、一緒にいたはずの男の姿がどこにもない。
「ミカ!ダンテさんそこにいるか!?」
『・・?いや、皆は誰1人欠けていないが、奴だけ見当たらないな』
ということはつまり、ターミナルに引きずり込まれた直後か直前にはぐれ
ここではないどこかに放り出された事になる。
「たっ・・!大変・・!」
がっ! ガタタタ ゴン
あわてて立ち上がろうとした拍子に足を取られてガラクタ山からすべり落ち
落ちた最後に何かのカドで額を強打した。
『主!?』
「・・・・・だ・・・大丈夫・・・・と・・思う・・・」
ケガをしにくいとはいえやはりカドは痛かった。
ストックの仲魔に余計な心配をさせまいと強がりつつ
適当にホコリをはたいて額を押さえ周囲を見回す。
現在地確認のつもりで少し明るい方に歩いてみると
少し開けた場所に出る。
そこにあった世界は、あきらかにボルテクスではなかった。
空に太陽のような月のようなカグツチはなく
あるのは夜空と近代的な高層ビル。
砂の広がる大地のかわりに多くの建造物が建ち並び
その中のいくつかは天まで届きそうなほどの高さを誇っている。
だが不思議なことにその建造物はどれも人の生気を宿しておらず
まるで巨大なオブジェが天に向かってのびているような感覚があった。
「・・・どこだろうここ。東京でもなさそうだ・・・し・・?」
首をかしげていると何やら前方から複数の足音が聞こえてきた。
それは薄暗くてわかりにくいが、複数の人影だった。
それらはジュンヤのかなり手前で驚いたように急停止し
何やらぼそぼそとささやき合っている。
ジュンヤの脳裏に嫌な予感がよぎる。
なにしろ今までありとあらゆる不幸に出くわした不運の人修羅。
こういった場合、次に来るだろう事態はおそらく・・・
ガチャガチャガシャ
「やっぱりかぁーーッ!?」
いっせいに向けられた銃器の音に
ジュンヤはたった今出てきた路地へUターンし、全速力で走り出した。
ダンテが気がついたとき、そこは見知らぬ倉庫の前だった。
ざっとあたりを見回しても、そこはダンテの記憶に存在しない場所なのだが
なぜか初めて来たような気がしないのはなぜだろう。
そういえば・・・と周囲を見回すと、さっきまで一緒にいた雇用主の姿がない。
しかも周囲の様子からしてここはボルテクスでもないようだ。
・・・まぁいい。いなければ探せばいいだけだ。
実の所、こんな事態には結構なれているダンテは
大して心配もせず抜き身のままだったリベリオンを背に戻し・・・
・・・ギ、ギギ・・・
奇妙な音を聞きつけて、柄から離そうとしていた手をピタリと止めた。
音のした方に目を走らせると、その音は実体はまだないが確実にこちらに近づいてくる。
無意識にホルスターに銃があるのを確認し、じっと目をこらしていると
しばらくして路地の間から、音の原因がゆっくりとした足取りで姿を現した。
それはこの暗い中、つばのついた帽子をかぶった1人の男だ。
髪は若干長く、まるで装甲服とスーツをたしたような変わった服装をしている。
ダンテは薄暗い中、その姿に眉をひそめた。
何かがおかしいのだ。
それは一見人の形をしているが、背を丸めるようにゆっくりと歩き
一歩踏み出すごとにギイギイと何かがきしむような不思議な音を立てる。
そして注意すべきはその両手にある大きな銃。
片手に白のライン、もう片方に赤のラインの入った
ダンテの持つ物より一回り大きな銃が、歩くごとに前後へゆれる。
そして一番目を引くのが歩くたび、その背で動く大きな『何か』。
その気配はダンテの経験からして人間の物ではない。
かといって悪魔の物でもなく、ジュンヤのような中身が人間で
身体が悪魔と言うにも説明がつかない。
ならば何者かに操られる人形かとも考えられるが
それにしては存在感と威圧感がありすぎる。
これはまた・・・こんな時にかぎって妙なヤツと出くわしたな。
などと考えるダンテの手には知らずと軽い汗が浮かぶ。
そしてその不思議な男は
しばらくダンテなど見えていないかのように前方をゆっくり横切っていたが
ちょうどダンテと真正面になる位置で
いきなりこちらへ向き直った。
「!」
ガシャ!!
ガシャ!!
合計4つの銃口が真っ向から交差する。
それは仕事上身に付いた動作だ。
それはあちらも同じらしく、一見ショットガンのような大きな銃口が2つ
少し変わった角度でこちらを向いている。
大きさと形からして改造銃かオーダーメイドのどちらかだろう。
銃の一つや二つでどうにかなるダンテではないが
あきらかに普通ではない銃が相手となると話は別だ。
おまけにあの何者ともわからない存在感と無言の威圧感に
ダンテは内心ジュンヤとはぐれたことを後悔した。
しかし
パンパンパン!タタタタタ!
銃を向け合ったまま硬直する2人の沈黙をやぶったのは
ビルの合間から聞こえてきた銃声だった。
ダンテとしてはそれどころではなかったが
帽子の男はそのとたん、まるでダンテに興味を失ったかのようにあっさり銃をおろし
何事もなかったかのように音のした方へ、ギイギィ音を立てながら歩き出した。
そのあまりの引き際のよさにダンテは一瞬あっけにとられるが
そんなことはおかまいなしに、男は続けて発砲音のする方へ消えていく。
その背には複雑な装飾のほどこされた大きな何かが
腕からつながる鎖でぶら下がっているのが見えた。
それは装飾のほどこされたアタッシュケースのようだが
大きさと形からして、一番しっくりくる表現が芸術品のような棺桶。
ダンテは男が完全に見えなくなってから軽くため息をついた。
彼も色々と危険な橋を渡ってきたつもりだったが
悪魔以外でこれほど緊迫したにらみ合いをしたのは初めてかもしれない。
「・・・ここの墓守は、随分と素敵な目をしてやがる」
銃口の向こうにちらりと見えた、例えようのない強烈な目を思い出し
ダンテは2度目のため息を吐き出した。
しかしそんなことをしている間にも、ビルの合間から聞こえる銃声は
右へ左へとまるで逃げるかのように移動している。
今の男が関与しているならあまりかかわりたくはないが
ジュンヤがかかわっている可能性もかなり高い。
「・・・まったく、困ったガキだ」
と言うものの、さして困ったような様子を見せないのがダンテだ。
結局引き金を引けずじまいだった双子の銃をそのままに
ダンテは帽子の男とは別の道を選び、銃声のする方へ向かって走り出した。
ジュンヤには3つほど困ったことがある。
一つは暗くてタトゥーが勝手に発光し、逃げても逃げてもあっさり発見されること。
一つは道がせまいため弾がよけきれず
致命傷にはならないものの、連続で飛んでくる弾がけっこう痛いこと。
一つは相手が人間であるため反撃がためらわれることだ。
『おのれ無礼な輩め!!全員まとめて我が鉄槌のサビにしてくれる!!』
「気持ちはうれしいけどトール、この通路でお前はまず無理だ」
『では私が出よう。翼をたためば槍は使えぬが雷撃は放てる』
「ごめんミカ。それもだめ」
『なぜだ主、相手は明らかな殺意を向けてきているというのに』
走りながらジュンヤはちょっと間を置いて
「・・・相手は・・・人間だからな」
そのとたん、ストックでやきもきしていた仲魔の気配が急におとなしくなる。
彼らは人間ではないが、自分達の主が何を良しとし
何を悪いとしているかを知っているのだ。
それからしばらくストックから声が途絶えたが
少しして、今度は意外な声がジュンヤの耳に入ってきた。
『・・・ッタク、ショウガネエナオ前ハ』
「・・?マカミ?」
そう、それはこんな場面にはいつもストックでケラケラ笑って
後々ジュンヤをからかうはずのマカミだ。
『ショウガネエカラ手伝ッテヤル。出セ』
「・・え?」
『俺ナラソコデモ動ケルシ、目クラマシモデキルダロウガ』
「そうか!」
確かにマカミの大きさならこのせまい路地でも自由がきく。
なおかつマカミの持つスキルには相手を錯乱させたり
回避率や命中率を下げるものがあったはずだ。
よしそれならと走りながらジュンヤは片手を上げ・・・
ドン!!
「きゃ!?」
「わッ!?」
ちょうど十字路にさしかかった所で横から飛び出してきた誰かと衝突した。
ジュンヤは悪魔なのでびくともしなかったが、相手はまともに突き飛ばされ
コンクリートの地面に転がった。
それはジュンヤと歳が同じくらいの少女だ。
しかもダンテに似た髪の色と目の色、さらに服まで赤を強調しており
ジュンヤは一瞬ぎくりとして後ずさったが、すぐ自分の失敗に気付いて手を差し出した。
「ごめん!前見てなかった大丈夫!?」
地面に座り込んでいた少女はうめきつつ何か言おうとする。
しかしその言葉はジュンヤを見るなり小さい悲鳴に変わった。
それもそのはず。
闇に浮かぶ金色の目に、白い肌は恐ろしく規則正しい黒のタトゥー。
それをふちどるエメラルドブルーの部分は薄暗い中
まるで自らを主張するかのように発光している。
ボルテクスではもうなれてしまった身体だが
ジュンヤはその身体がどう見ても普通ではないことを今さら思い出し
出した手をあわてて引っ込めた。
「・・あ!いや・・!これはその!不可抗力っていうか事故っていうか・・・
とにかく俺怪しいけど怪しい奴じゃなくって・・・!」
久しぶりに人間と対面して、ジュンヤは異常状態とは別にパニックになる。
だがそれは少女の背後と自分の背後からやってきた
複数のあわただしい足音によって正気に戻された。
一方は確実に自分を追ってきたものだが
一方は少女を追っているような気配がある。
しかしどちらにせよ、このままではこの子を巻き込む。
こういった状況になると不幸の粗塩にもまれたジュンヤの判断は速い。
ジュンヤは色々あって混乱する少女に再び手を差し出した。
「ごめん!後で説明するから。走れる?」
「・・・え?う・・うん」
「じゃあとりあえず逃げよう!」
目を丸くする少女の答えを待たずに
ジュンヤは少女の手をなかば強引に取って走り出した。
少女はさすがに驚いたようだったが
背後から聞こえてくる多くの足音でそれどころではないと感じたらしい。
引きずるように引いていた手が少しして軽くなった。
なぜか少女と合流してから背後からの銃撃はやんだがまだ安心はできない。
ジュンヤは細い路地を走りながら、T字路になっている突き当たりの壁に意識を集中させ
先程呼びそびれてしまった1つの名を呼んだ。
「マカミ!」
手をふると同時に壁に魔法陣が出た。
「足止め頼む!ただし殺すなよ!」
右と左、どちらに行くか一瞬だけ迷ってそう言い残すと
ジュンヤは驚いたように魔法陣を見る少女の手を引いて右の方へと再び走り出した。
「・・・ヤレヤレ、ウチノ大将ハ優シイネェ」
2人が見えなくなってからひょろりと出てきたマカミは
あきれたようにそんなことを言いつつ、短い前足でポリポリ背中をかく。
そうこうしているうち、すぐ追っ手はやってきた。
問答無用な追っ手はいつのまにかかなりの人数になっていたが
暗い中で不気味に浮遊するマカミのその異様な姿は
それらの足止めをさせるには十分だ。
「・・・マ、俺モ弱イモノイジメハ趣味ジャネエカラナ。
ケド一応邪魔ハサセテモラウゼェ!!」
細い身体がくるりと宙を舞い、追っ手たちが銃をかまえるよりも速く
一見とぼけたマカミの顔から、強烈な色とにおいを持つ霧が吐き出された。
今度聞こえてきたのは銃声ではなく悲鳴だ。
ダンテは少し顔色を変えると、せまい路地を悲鳴の方へ銃を両手に走った。
そこには数人の男達が倒れていた。
身なりや装備からしておそらく裏社会の住人だろう。
それぞれに目や鼻を押さえ床に転がってうめいていて
その周辺には変わった色の霧と集中力をそぐ嫌な臭いが残っていた。
「・・・マフラーか」
かつてこの霧をひっかけられた経験のあるダンテにはすぐわかった。
となると、探す依頼主も確実にこの先にいるだろう。
「当たりだな」
笑みを浮かべてダンテは走り出そうとしたが
その直後、ある音を聞きつけて踏み出しかけたブーツが止まる。
・・・ギ、ギギ・・
それはまだ小さいが、さっき聞いたあの男の音だ。
「・・・こっちも当たりとはな」
どうやらあの得体の知れない男も、同じ物がお目当てらしい。
ダンテは軽く舌打ちすると、倒れた男達にはめもくれず
不気味な音に近づかないようにして暗い路地を走り出した。
ジュンヤは走った。とにかく走った。
これは何度かの経験から覚えたことだが
逃げるときは後ろを振り返らないほうが成功率が上がるのだ。
薄暗い路地は人間の目では走りにくいだろうが、悪魔の目にはあまり支障がない。
時折落ちている障害物をかわし、飛び越え
手を引くことで同じように走っている少女にそれを伝えて走る。
ジュンヤは走った。とにかく走った。
何から逃げているのかもわからなくなるほど路地を走りに走り
しばらくして・・・片手がやけに重いのに気がついた。
振り返ると、手を引いていた少女が息切れしている。
そういえばいくら歳は同じように見えても
悪魔と人間では身体の質はあきらかに違うのだ。
「・・あ!ごめん!」
ジュンヤはあわてて急ブレーキをかけると
しっかり握っていた手をはなし、すかさず回復魔法を使おうとした・・・
が、これ以上妙なことをして不審がられるのも何なので
とりあえず息を切らせてへたりこむ少女の前に膝をつき
自然に息がおさまるのを待つことにした。
そして待つことしばし。
「・・・・足・・・速いのね・・・」
何を聞かれるかと緊張していたジュンヤに最初にかけられたのは
そんななんでもない、一般的な言葉だった。
「・・・うん、まぁ・・・色々あって逃げるのには慣れてるから・・・」
返した言葉も今までの騒ぎがまるで嘘のような平和なもので。
「「・・・・」」
ぷっ
出会ってから間もないのに
何かに追われることだけ共通した少年と少女は
どちらともなく吹き出した。
しかしそんな空気を打ち消すかのように
またあのあわただしい足音が遠くからやって来る。
どうやらマカミにまかせたのとは別働隊らしい。
ジュンヤは周りを見回した。
このままでは自分はともかくこの子の体力がもたない。
周囲には相変わらずの路地と人気のない建物ばかり。
ジュンヤはとりあえず近くにあった建物のドアに手をかけた。
鍵はかかっていたが軽くねじって破壊する。
ダンテに教えてもらった物騒な知識がこんな所で役に立つとは。
「・・一端隠れよう。逃げ回っても追いつかれる」
そう言ってドアを開け中に入ると、そこは廃ビルなのか中はがらんとして何もない。
2人は中に入ってドアを閉めると、ドアから死角になる壁の裏に
2人そろって身をひそめた。
しばらくするとドアの前を足音が複数、あわただしく通り過ぎ
バタバタと次第に遠くなっていく。
2人はその音が完全に聞こえなくなるまでじっと息をひそめていたが
何も聞こえなくなった所でようやく顔を見合わせホッと息をついた。
「・・・あの・・・ありがとう」
いくらか戸惑いとためらいがあるようだが
自分がそれほど恐れられていない事にジュンヤは安堵した。
「・・いや、こっちこそごめん。びっくりさせちゃって。
あ、でも俺こんな身体してるけど別に人襲って食べたりしないから」
「・・そうなの?」
「うん。多少は人間離れした事はするけど、それだけは約束する」
ダンテと同じ髪の色をした少女は、ジュンヤの真剣な顔をしばらく凝視していたが
やがて納得したかのように表情をゆるめた。
「うん、わかった。信用する」
「・・え?ホントに?」
「確かにちょっと変わってるけど助けてくれたし、ちゃんと言葉も話も通じるもの。
それに私、いろんな人を見てきたから悪い人かそうでないかの見分けはできるつもり」
「・・・そっ・・かぁ」
額に手を当て、ジュンヤは何とも言えない声を出した。
何しろ悪魔になってからこうやって人間と話をするのも
きちんと認めてもらうのも随分と久しぶりだ。
「・・どうしたの?大丈夫?」
「あ・・うん、平気。ちょっと・・嬉しかっただけだから」
そう言って照れたように笑うジュンヤにつられて少女もくすりと笑った。
今まで気がつかなかったがよく見ると結構かわいいので
暗い中でジュンヤは少し赤くなった。
「じゃあ・・あらためてありがとう。私ミカっていうの」
ぎっく
ジュンヤの肩が身体ごと跳ねた。
「?・・どうしたの?」
「・・・い・・いや、知り合いの人に同じ名前の人がいるから・・・ちょっとびっくりして・・・」
「そうなんだ」
まさか父親のようなゴツイ大天使の愛称と同じだなんて、口が裂けても言えないが。
「・・・えっと・・俺はジュンヤ。ちょっとワケありでこんな身体だけど
さっき言ったように取って食べたりしないから」
「うん、わかった。ジュンヤ君ね」
「歳はそんなに変わらないから呼び捨てでもいいけど」
「いいの。助けてもらったんだからそれくらいさせて?」
「ん・・まぁいいけど」
「じゃあジュンヤ君は私のこと呼び捨てでい・・」
「それはダメ!絶っっ対ダメ!」
「え?どうして?」
首をかしげるミカからジュンヤは微妙に目をそらしつつ。
「・・・・その・・・・呼び捨てにすると・・・同じ名前の人(正しくは大天使)とダブるから
お願いだからさん付けで呼ばせて下さいお願いします後生ですから(息継ぎなし)」
「・・・そんな死にそうな顔しなくても好きに呼んでくれていいのに」
なんだか奇妙な自己紹介だ。
実はこの時ストックにいたミカエルが、ストック深部のピシャーチャの横で
ちょっと赤くなって体育座りしてたのは余談である。
「・・あ、そうだジュンヤ君、私と会うまでに帽子をかぶった背の高い男の人見なかった?」
「え?いや、見てないけど・・・知り合い?」
「うん、ママの古い友達なの。
その人とはぐれたから追われてるみたいなものなんだけどね」
「じゃあボディガードなんだ」
「そんなかんじ・・・かな?」
込み入った事情はよくわからないが、とにかくこの場合その帽子の男を探せば
このミカという少女の安全はいくらか確保できるのだろう。
「その人この近くにいるの?」
「うん。そう遠くまで走れなかったし、あっちも私の事探してくれてると思うから」
「じゃあまずその人を探そう。特徴は?」
「え?でもジュンヤ君・・・」
驚いたような顔をするミカにジュンヤは笑った。
「だってこのまま二人してずっと逃げ回るわけにもいかないだろ?
それに俺と違ってミカさん普通の人間なんだから
銃を持った連中に追い回されてるのをほっとけるわけないじゃないか」
「でも・・・ジュンヤ君まで巻き込んじゃうよ?」
「もうとっくに巻き込まれてるよ。
この目立つ身体と・・・不幸ばっかり呼ぶ体質のおかげでね・・・」
後半のセリフは自分で言っててちょっと凹む。
「・・・それともう一つ、久しぶりに俺ときちんと会話してくれた人だからね」
そう言ってジュンヤはほのかに光る頬のタトゥーを指でなぞった。
それはどう見ても人ではない生き物のはずなのに
ミカには同い年の普通の少年がそこにいるように思えてならなかった。
「・・・うん。ありがとジュンヤ君」
「それはこっちのセリフだよ」
差し出された手は相変わらず自らを主張するように闇の中で発光していたが
握ってみるとその冷たい色に反してその手は意外に暖かかった。
「えっと、じゃあミカさんの探してる人の特徴を聞こうか」
「あ、うん。えーっと・・・とりあえず帽子をかぶってて服は大体が黒。
すごく無口で、背中に棺桶みたいなのを背負ってて
赤と白のラインのある改造拳銃を二丁もってる背の高い・・・」
「ちょ!ちょっと待った!!」
ずらずら出てくる不吉単語の連発にジュンヤは待ったをかけた。
「・・・あの・・・1つ聞いていいかな」
「え?なに?」
「・・・その人、まさかと思うけど・・・笑えるくらい強くて敵には情け容赦なくって
他人の迷惑考えずに弾数無制限で銃をバンバン撃ちまくって
なおかつ人の話を全然聞かない人だったりする?」
「んー・・・私の話はちゃんと聞いてくれるけど大体そんな感じかな。
あ、あと棺桶みたいなのには重火器が搭載されてたりもするけど・・
・・・でもどうしてわかるの?」
DOU RUI だ
やっぱり自分はそれ系統の人と御縁があるらしく
ジュンヤはなんだかちょっぴり悲しくなった。
「・・・・実は・・・俺も似たような人とはぐれたんだ。
見た目はミカさんと同じような髪の色と目の色なんだけど・・・
銃を二丁持ってて敵に容赦なくて、棺桶のかわりに剣を持ってて
相手によってはやたら攻撃的で、人の話も俺の話も聞かないちょっとアレな人で・・・」
「・・・あ、あの・・・大丈夫?どうして死んだ魚みたいな目になるの?」
などとやっているとまた変なやり取りをしていると
入ってきたドア付近から変な音が聞こえてきた。
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