もぎょむぎゅぐにもぎぎー
それはそれはもう凄く変な音だった。
どうやったらそんな音が出るんだというくらい。
ミカが一瞬何事かとおびえて身を縮めるが
その音に聞き覚えのあるジュンヤがすっと立ち上がり
そのまま無言で音の元へ足を進める。
そこには思った通り、壁の亀裂にはさまってもがいているマカミがいた。
「・・・何してるマカミ」
アニメの効果音のような音がぴたっとやんだ。
「何ッテ・・・ココカラ入ロウトシテンダヨ」
しかしその横にある窓は、ちょうどマカミが入れるくらい普通に開いている。
おそらく壁からそっと入ってきて2人を驚かす魂胆だったのだろう。
ジュンヤは三角の顔を笑顔でつまんでにょ〜と引き延ばした。
「おどかそうとしたな?」
「ニャーー!?イデデデーー!!」
長い身体が水あげされたウナギのようにバタバタ暴れる。
「・・・じゅ・・・ジュンヤ君、それ何?」
「あ、これ?マカミっていう変な犬」
「コラ誰ガ犬ダ!俺ハ由緒正シイレッキトシタ神ふうへ・・」
何か言いかけた口はむにと指でつままれ閉じられた。
余計な自己主張をしてそれを一々ミカに説明するのも面倒だ。
「ちょっと変わってて口も悪いけど大丈夫、味方だよ」
「・・・そう・・・なんだ」
「さっき壁に出した模様があったろ?あれから出したんだ」
「オゥイ、世間話ハイイカラトットトナントカシロヨ」
「自分で入っておいてよく言うよ」
おそらく壁の隙間から無理矢理入ろうとして下半身がつっかえたのだろう。
ジュンヤは長い胴体を軽く手に巻き付けてぐいーと引っぱった。
結構のびる。
「にギャーー!馬鹿コラモット丁寧ニヤレ!!」
「あ、あのジュンヤ君、痛そうだからもうちょっとゆっくり・・」
「・・・しょうがないなぁ」
ジュンヤは一端手をはなし、軽く拳を作ると
マカミのつまっていた亀裂の横にストレートを一発。
一瞬後、拳を入れた箇所が軽く崩れてマカミはようやく自由になった。
「・・・普通に入ってくればいいのに」
「何言ッテヤガル。ソンナンジャ芸ガネェダロウガ」
「誰かさんみたいな事言うな!」
そう言って鼻先をはじこうとするとマカミはケタケタ笑いながら
ミカにまとわり付くようにしてそれを逃れた。
さっき気づかってくれたので味方だと思ったのだろう。
ミカも最初は驚いていたが、ジュンヤ達の変なやりとりと
この緊張感のない犬が気に入ったのかすぐ警戒心をといてくれ
長い胴体をなでて感触がおもしろいのかくすくす笑っている。
マカミもマカミで人間の女の子が珍しいのか
まれに悪態はつくもののさして嫌がらず大人しく撫でられていた。
ただマカミも彼女の名前を紹介した時一瞬固まったが
ジュンヤの『黙ってろ』という眼光にそれ以上何も言わなかった。
後で何かやらかしそうだが、とりあえず今何か余計な事を言われるよりはマシだろう。
「それで?さっきの連中はまけたのか?」
「一応ソノツモリナンダガ、途中カラ様子ガ妙ダッタンデ適当ニ切り上ゲタ」
「妙?」
「何カデッカイ音ガがんがん響イテヨ。ソコカラ急ニ追ッテクル人数ガ減ッタンダ。
音カラシテアリャ銃ッテヤツカモシレネェナ」
その言葉にジュンヤとミカが同時に反応した。
「それってダンテさんじゃないのか!?」
「インヤ、ソレニシチャ音ガデカスギタ。ソレニナンカ爆発スル音モマジッテタシナ」
「爆発・・?」
それは確かにおかしい。
ダンテは多少属性のついた攻撃はするが
爆発するようなスキルは持っていないはずだ。
では一体誰だろう。
様子からして追っ手を始末しているので
少なくともミカとジュンヤを追い回している連中ではなさそうだが。
・・・ん?
ふとジュンヤは思い出す。
そういえばさっきミカが重火器がどうとか言っていたような気が・・
「えっと・・・ジュンヤ君」
それを裏付けするかのように
ミカがマカミを巻いたままおずおずと手をあげた。
「その人多分・・」
どごん!
何か言いかけたミカのセリフは、2つ重なった轟音によってさえぎられる。
一方はジュンヤ達の入ってきた扉。
もう一方はその対面にあった扉から。
その2つの扉は同時に蹴り壊され、やはり同時に銃が出てきた。
それぞれの扉には大きな銃を二丁ずつ突き出した男が1人づついて
直線上の対象、つまりジュンヤ達にむかって合計4つの銃を突き付けた。
一方は装飾の激しいスーツに帽子をかぶり、背に何かを背負いミカを凝視している長身の男。
一方は赤いコートに大剣を背負い、視界のすみでジュンヤをとらえている長身の男。
ジュンヤもミカも一方はよく知っているが一方は初対面。
だが今までの会話でおおよその状況は理解できた。
初対面の方はおそらく、今背後にいる人の知り合いだ。
となると、次に起こすべき行動はただ1つ。
偶然にも2人とも性格が似ていたため、それはまったく同時になった。
「ダンテさんストップ!!」
「まってグレイヴ!!」
それぞれがそれぞれに知人の前に立ちふさがり、同じように背後の者をかばう。
その瞬間、銃を持つ男達の間で殺気が半減されたのに
少年少女はそれぞれ必死で気付かなかった。
「・・・えー・・・後の人、ミカさんの探してた人だよね」
「・・・そっちの赤い人も・・・ジュンヤ君の知り合い・・でしょ?」
などと背中越しにひそひそやっていると
かまえた銃をそのままに、まずダンテが口を挟んできた。
「・・少年・・」
しかし言えたのはそこまでだ。
交差していた4つの銃口がいきなり全て別方向に向き・・
ガンガンガンガン!
ドンドンドンドンドン!
今度はためらうことなく、4つの銃口がすべて火を噴いた。
おそらく新しい追っ手が来たのだろう。
4つとはいえ各自結構な改造をされた銃だ。
半端ではない銃声の大ハーモニーにミカが小さく悲鳴を上げる。
「少年!聞きたいことは色々あるが、とりあえずそいつを避難させな!」
「わ・・わかった!」
とは言ったものの出口は両方とも銃撃戦の真っ最中。
となると・・・
ジュンヤは部屋を見回した。
あった。
部屋のすみに申し訳程度にのこっていたハシゴ。
「ミカさん!あれ登って!」
「う・・うん!」
その一瞬後、ダンテ側の銃声が少しだけ止まった。
見るとダンテがものすごーーーく何か言いたそうな顔で器用に銃を撃っている。
ジュンヤは『言うな』と言わんばかりに口をチャックでとじるジェスチャーをすると
銃の音が鳴り響くその場を後に、ミカにつづけてハシゴに手をかけた。
2人がその建物の屋上に上がったのを見計らったかのように
突然下からの銃声が激しくなった。
おそらく2人とも流れ弾の事を配慮していたのだろう。
激しくなった銃声は少しづつ移動し
少なくなったり増えたりしながらそこから離れていく。
時々ちがうものが聞こえてくるものの、その大半はジュンヤとミカのよく知る銃声で
それらはやむことなく鳴り響き、その他の銃声を確実に消化しつつあった。
「「・・・・」」
2人は偵察、というか高みの見物で宙を舞っているマカミを見ながら
何となく気まずそうに顔を見合わせる。
「何か・・・凄い人だよね、お互いに」
「・・・うん、悪い人じゃ・・ないんだけど」
苦笑いをうかべている所を見ると
やはりミカ側のあの男も、ダンテと同系列になる物騒なたぐいらしい。
「グレイヴさん・・だっけ?」
「そう。それは本当の名前じゃないみたいだけど。
ジュンヤ君の方はダンテ・・さん?」
「うん、ちょっと色々あってついてきてもらってる変な人」
「・・変な人なの?」
「悪い人じゃないけどね。とにかく・・なんて言うか変な人なんだ」
「ふふ、なにそれ」
「だって本当にそうとしか言いようがないんだよなぁ」
クスクス笑うミカにジュンヤは苦笑いしながら頭をかいた。
ダンテは仲魔になってそれなりになるが、未だその本質を掴み切れていない魔人だった。
悪魔と人間、半分づつというせいもあるのかもしれないが
彼は本当によくわからない。
時々悪魔のように強く、時々人のように冗談を言い
時々悪魔より無慈悲で、時々ひどく優しかったりする。
他にもう少し言い方があったかもしれないが
今の所、ジュンヤがダンテを説明するなら変な人としか言いようがないのだ。
けれど・・・
「けど・・変な人だけど、悪い人じゃないっていうのは大事だと思う」
「・・・うん。そうね」
などと話している間にも銃声はどんどん数を減らし
もう少しであの物騒な2人分になるだろう。
と思っていたら。
ドガガガガガガーー!!
まるで大砲を連続発射したかのような爆音がして
マカミの飛んでいた付近が花火が暴発したような閃光につつまれた。
マカミは驚いたのか一瞬ふにゃりと落っこちそうになりながら
慌ててこちらに戻ってくる。
「ウヒー〜!アノ黒イ方無茶苦茶シヤガル」
「黒い方って・・・グレイヴっていう人の方か」
「多分応援ヲ呼ボウトシタ奴ラヲマトメテ潰シタンダ。ナカナカ徹底的デヤガル」
しかしそのおかげか、その爆音を最後に騒がしかった銃声もぱったりとやんだ。
どうやらミカ側の人物が全部終わらせてくれたらしい。
「・・もう大丈夫・・かな?」
「・・大丈夫だと思うけど、念のために下を通らない方がいいな。
マカミ、2人のいた所まで飛んで。俺はミカさんを背負っていくから」
「ハイヨ」
ひょろりと飛んでいくマカミを見ながら
ジュンヤはミカに背を向けてかがんだ。
「はい、乗って」
「え?でも・・・」
「いいからいいから。人1人かかえて飛べないほど、ヤワな足してないよ」
ミカはそれでもまだ何か言おうとしたが
「・・・じゃあお願いします」
「りょーかい」
振り向いた金色の目にのっていたほんの少しの寂しそうな気配に
それ以上なにも言わず、細い背中に手をかける。
その時彼の脳裏にあった
悪魔の力を持っていても救う事のできなかった、友や大人達やマネカタ達の姿は
まだしばらくジュンヤの心の中から消える事はないだろう。
だからたった1人でも救うことは
その記憶をひきずるジュンヤにとって唯一の救いだった。
「うはー・・・これはまた・・・」
ミカを背負い、いくつかのビルの隙間を飛び越え
マカミの飛んでいた場所まで来ると
そこだけまるで戦車が暴れたような凄い有様になっていた。
壁という壁に弾痕が散らばり
火の気のありそうな物全てが小さな炎をあげ、火薬の臭いが充満し
壊れる物は全て壊したようなすごい現状にジュンヤは言葉をなくした。
「あ、ジュンヤ君あそこ・・・」
ミカが指したのはそのちょうど中心、何かが残っている場所だった。
いや、それは『何か』ではない。
それは微動だにしなかったが人の形をしている。
シルエットからしてさっき見たミカ側の人物と同じなようだ。
「・・・近づいても大丈夫かな?」
「・・・声をかければ大丈夫だと思うけど・・・」
やはりこれだけ破壊行為をやらかした人物にいきなり近づくのは
知り合いでもちょっとためらわれる。
「・・グレイヴ!」
ミカがかけた声に、今まで動かなかったそれががしゃりと瓦礫を踏んで動いた。
しかしこちらを向いただけで、両手にある銃は動かない。
どうやら大丈夫なようだ。
「・・・マカミ」
「ハイハイ」
言われたマカミが長い身体で2人をまとめてくるみ
そのまま浮力と重力を使うようにしてゆっくり下へおろした。
そうして今度はジュンヤがミカを下におろす。
それでもグレイヴと呼ばれる男は
こちらに駆け寄るわけでもなくまるで石のように動かなかった。
「ごめんなさいグレイヴ。大丈夫だった?」
どう見てもかける言葉が逆なような気もするが
ともかくグレイヴは別に怒るでもなく喜ぶでもなく
何も言わず黙ってミカを凝視していた。
・・かと思うと、その視線がいきなりすうとジュンヤに移動する。
「・・!」
ジュンヤは一瞬ぎくりとした。
帽子で完全に表情は見えないが、その眼光は普通の物ではない。
しかも片方の目は影になってよく見えないが、大きな傷が残っている。
それはダンテと初めて会ったときの目と似ているが
その迫力は桁違い、というか次元まで違いそうだ。
マカミがその異様な気配をかぎ取って頭を低くし、軽く巻き付いてくる。
なるほど、これだけの破壊行為をするだけの事はある。
とジュンヤはどこか冷静に思った。
「あ、それとこの人はジュンヤ君。でそっちの長い子がマカミちゃん。
ちょっと変わってるけど1人で逃げてる間に色々助けてもらったの」
そんな警戒をしているとはつゆ知らず、ミカはちょっとのんきな紹介をしてくれた。
「・・どうも」
「・・・・」
ジュンヤは軽く頭をさげたが
軽口のマカミがめずらしく何も言わない。
で、グレイヴの反応はというと・・・
ガシャ
「え?!」
おろしていたはずの銃をいきなり上げた。
ただし銃口が向いたのはジュンヤ達とはまったく別の方向だ。
「・・・少年、面識ができたなら俺も紹介してくれ」
その銃口の向けられた方から、よく知った声がやって来る。
見ると少しすすけたダンテが同じように銃を2つかまえたまま
じりじりとこちらに歩み寄ってきていた。
「ダンテさん!・・・ってどうしたのその有様?」
「・・・ついさっきの爆発見たろ。・・・あれに巻き込まれかけた」
「うわ・・よく生きてたね」
「・・・それが無事再会できた相棒にかける言葉か?」
などと会話する間も4つの銃口はお見合いしっぱなしで危ないことこの上ない。
「とりあえず・・銃しまったら?」
「・・・向こうがそうするならな」
「見た感じとてもしそうにないけど」
「・・・・・」
ダンテはかなり迷ったが、このままでは無駄な睨み合いにしかならないので
しばらく考え、ジュンヤを信じるつもりでようやく銃をホルスターに戻す。
するとグレイヴも案外素直にかまえをとき
背負っていた棺桶にショットガンのような銃を収納した。
まぁとにもかくにも、ようやく物騒な逃走劇は幕を閉じたわけだ。
ダンテが頭の上にのった瓦礫をはたいて落としながら
ジュンヤをざっと見てケガがないのを確認した。
「それで?オマエの方は見た限り無事なんだな」
「うん、色々あったけどなんとかね」
「色々ねぇ・・・」
と何やら意味ありげにミカを見るダンテの足を、ジュンヤはさりげなく踏みつけた。
しかしそれと同時にダンテの腕をがしと掴み
了解もとらずいきなりディアラハンをかける。
光に包まれ、細かい傷と疲労を一瞬で癒された魔人は
一瞬あっけにとられたような顔をし、ぽいと手を放してそっぽを向いた少年に苦笑した。
「・・・可愛くないガキだ」
多少他の仲魔との扱いが違うものの、こんな所はやはりジュンヤだ。
そんな事を考えながら、ダンテは手を伸ばしてジュンヤの頭を乱暴に撫でる。
ジュンヤは色々言いたいことがあったものの
ミカが楽しそうに笑っているので結局なにも言えなくなった。
「ふふ、仲いいねジュンヤ君」
「・・・・・・・時と場合によるけどね」
「なに言ってる。何回も情熱的な出会いをした仲じゃ・・」
ゴう!!
ひょいと身をかわした髪の先ギリギリを、マグマアクシスがかすめていく。
「あれはダンテさんが俺の行く先々で勝手に待ち伏せしてただけだろ!」
「だがそれを知ってでもわざわざオレに会いに来たんだろう?」
「そこ通らないと奥に行けないから仕方なかったんだ!」
「ヤマトナデシコは照れ屋だな」
「使い方がちがう!!」
などと近くを飛んでいたマカミを掴んでびたんと投げつけた所で
ふいに周囲が赤く染まりだした。
いや、正確にはジュンヤとダンテ
胴体をつかまれてもがいているマカミの身体が赤く発光しているのだ。
「え?何!?」
「・・・どうやらお迎えが来たみたいだな」
「お迎えって・・・あ」
ダンテの見上げた先を見ると、そこにはターミナルの端末とも言えるSターミナルが
ジュンヤ達のちょうど真上あたりで静かに浮いていた。
どうやら親ターミナルが弾き飛ばした物を回収に来たらしい。
そのやや小ぶりなターミナルは赤く光りながら静かに回転を始め
2人と一匹の身体を浮き上がら・・・
ぐがば
「ぎわっ!?」
いきなり皮の感触に全身を拘束されたジュンヤが変な悲鳴をあげた。
「ちょッ!なにダンテさん!?」
「こうでもしないとまたはぐれるだろう」
「だったらストックに戻ればいいじゃないか!
なんで抱きつい・・ってギャー!!
変なとこさわんな!!」
「・・小うるさいガキだな。おいマフラー」
「ヘイヨ」
なんだかやたらに息のあったやり取りをして
マカミはジュンヤをダンテごとぐるぐる巻きにして離れないようにがっちり固定した。
この1人と一匹は性格が似ているせいか、変なことでは息があう。
などとやっている間にも小さなターミナルは少しづつ回転速度を増し
妙なだんごになってしまった2人と一匹を浮きあげる力も強くなっていく。
「ジュンヤ君!」
視界が赤くなり地面が遠ざかっていく中、下の方でミカが手をふるのが見えた。
大体の状況でジュンヤ達が元いた場所に帰るのが、なんとなくわかっているのだろう。
ジュンヤはなんとか片手をマカミとダンテの間から引き抜き
「ミカさん!ありがと!」
もう会えないだろうけど、久しぶりに人間として接してくれた少女に
ありったけの感謝を込めて手を振った。
ミカは相変わらず微動だにせずこちらを見上げているだけのグレイヴの横で
走り出そうとするのを我慢するかのように口の前で輪を作って叫んだ。
「それ私のセリフだよ!色々助けてくれたじゃない!」
「ちがうよ!助けてもらったのは俺も同じだから!」
周囲が赤く染まり、さらにターミナルの回転が速くなる。
きっともう会うこともないだろう。
けれど会うことはなくても、今までバタバタ一緒に逃げ回った事も
一緒に笑ったことも話をしたことも、この時の記憶もきっと消えることはない。
「私!忘れないから!ジュンヤ君達のこと忘れないから!!」
「俺だって!忘れろっていっても忘れないから!!」
その直後、下にあったミカとグレイヴの姿が
赤いフィルムごしのようにかすみ、外部からの音が完全に聞こえなくなった。
それでもミカはまだ何か言っていた。
ジュンヤは聞こえないのを承知でそれに答えようとしたが
いきなり背後からがしと頭を掴まれる。
「少年、いい別れってのはこうするんだぜ」
そう言ってダンテがやって見せた手の形は
確かに言葉がなくても気持ちが伝わるものだ。
ジュンヤはあぁなるほどそうかと笑うと
横にいたマカミが自分もしたいとぺちぺち頬をはたいてきた。
確かにそれはマカミの手ではちょっとやりにくい。
ジュンヤはマカミの前足の指を何本か握らせて、それらしい形を作ってやった。
「・・ダンテさん、変なところで頭いいね」
ゴン
無言で繰り出された頭突きは結構いい音がしたが
その音はやはり外には届かなかった。
上空に浮かんだドラム缶のような物から文字が浮かび上がる。
その文字と赤い光にくるまれて消えていくおかしな連中
不思議な模様の少年、二丁拳銃の男、平たい犬
それらみんなが消える間際のほんの一瞬
力強く親指をたてて笑ったのを
ミカとグレイヴは確かに見た。
「・・・行っちゃったね」
全て元通りになった夜空を見ながらぽつりともらしても
グレイヴはただ視線を妙な連中の消えた場所へ置いたまま、何も言わなかった。
彼が無口なのはよく知っている事なのでミカもあまり気にすることはない。
「・・・誰にも信じてもらえないだろうけど、それでもいいよね」
寡黙な破壊者はやはり何も言わず、上を見上げていた視線を定位置に戻した。
そして・・
・・ギギ・ギィ
無言のまま、彼特有の音をきしませ
まるで何事もなかったかのようにその場に背を向ける。
ただその振り返る一瞬、殺戮兵器を扱う白手袋におおわれた大きな手が
ポン、とひとつだけ
少女の頭をかすめていった。
ミカは笑って、その棺桶の背負われた大きな背を追う。
「グレイヴも・・・忘れないよね」
その問いに、やはり答えはない。
しかし男は答える変わりにすうと手を伸ばし
帽子をほんの少しだけ、まるで肯定するように深くかぶり直した。
さて、これどれだけ知ってる人いるだろうかな話でした。
書き出してみると結構色々共通してて面白かった。
特にミカとか書いてる最中に気付いてマジでびっくりしたし。
ちなみにこれゲームの他にもマンガとかビデオとかあるらしいんですが
よくわからんのでゲームの印象だけで書かせてもらいました。
なのでグレイヴは無台詞です。
もどる