地図上で見るとすぐそこだと思っていたその場所は
結局それなりな坂道をしばらくジグザグ歩くハメになった。

しかしジュンヤは苦に思わなかった。
なにせ歩いていていきなり悪魔に襲われる事はないし
エネミーゲージを気にしながら歩かなくていいし
こっちが気を付けてさえいれば危ない動物にも会わずに済むのだ。

それに周囲にあるのは見慣れた文明の残骸でも
乾いた砂でも所々にあるダメージゾーンでもない。
1つとして同じ形のない、名前も知らない木や植物。
時間がたてばその色をまったく別のものに変える空。
夜に知らない惑星が空に浮いていても
きちんと巡ってくる朝と夜。

「・・・当たりまえにあるものって
 なくなってからすごく大事になるってホントだったんだな」
「?・・何か言ったか?」
「いや、なんでも」

少し前を歩いていたダンテが不思議そうな顔をするが
聞いてなかったということは彼も退屈していないのだろう。
いやもしかすると景色を楽しむよりも先に
目的地につく事を最優先しているだけかもしれないが。

ともかくそうして坂道をもくもくと歩き
山の高い場所まで来たと認識できるようになってから
頂上付近と思わしき場所に白い柱のようなものが見えてきた。

それは元何かの人工物のあった場所なのか
屋根はないが何かを白い柱で囲った場所のように見える。

「・・あ、あれじゃないかな」
「あぁ、そうらし・」

だが同意しかかったダンテのセリフが途中で切れた。

え?まさかまた何かいるのかと思って周囲を確認しても
探知できる範囲に生命反応はない。

じゃあ何だろうと思っていると、目的地らしい場所の手前に
ぽつんとまっ黒いものが落ちているのに気がついた。
岩か木の倒れたやつかと思ったが、それにしてはいやに黒いし・・

と思って目をこらそうとすると
なぜかダンテががしっと顔を正面から掴んできた。
どうやら目隠しをしているらしいが・・。

「?なんだよ」
「・・・アイツ、一瞬ヘンな間があると思ったがこれの事か」
「?なにが」

その手はそう強くなかったので軽く押しのけ
問題の黒い物体に近づいてよく見てみると。

「・・・・・
!!

声も上げられず飛び退いてすっ転びかけたジュンヤを
ダンテが難なく受け止める。

それは人・・とおぼしき黒こげの死体だった。
かなり強力な力で焼かれたのか、性別も種族も年齢もまったくわからず
手足すらも満足に残っていない。
だが顔の部分にかすかに残った目と口だけが
その時起こった衝撃の強さを物語っていた。

「・・・・こっ・・・・これ!?」
「あの騎士様・・・じゃないな。
 だとしたらここへ寄越そうとする時点で趣味が悪すぎる」
「それにしたって・・!こんなのがあるなら事前に言ってくれても!
 ・・あ、でも神殿から出てきたとかなんとか、言ってたよな」
「・・肝心な所に頭の回らない騎士様だ」

長々と登山してきてこんなのとご対面とは嫌な話だが
しかしよく見るとその黒こげ死体の近くに黄色い花束がそっと置かれている。

死体の時間はそれなりに経過しているようだが
その花束はまだ新しいもののようで・・。

「・・カルメラさん、かな」
「だろうな」

こんな所にまで来てこんな事をするのはそれしか考えられない。
だとすると動かすとバラバラになりそうな事を含めて
彼女はこれでこの死体の埋葬は済んだというつもりなのだろう。

ジュンヤは黙って少しずれていた花束を置き直し
名前も知らないその遺体に手を合わせた。
こちらの宗教が何教なのかはわからないが、要は心がけだ。

「・・?何やってるんだ?」
「お祈りみたいなもの。ちゃんと魂があの世へ迷わず行けますようにって」
「・・・・」

ダンテはそれを黙って見ながらふと思った。
そう言えば自分のもういない身内達は
そんな事をする暇もなくいなくなってしまった気がする。

ダンテからすれば祈ってどうなるものとも思えないが
こうしてほんのひとときでも思ってくれる人がいるというのは
意味があるかどうかを別にして悪い話ではないのだろう。

・・そういや自分が死んだ後の事なんて考えた事もなかったが・・。

オレが死んだら、オマエはどうするか。
オマエが死んだら、オレはどうなるのか。

黙って手を合わせている少年の背中を見ながら
ダンテはそんな事を無意識で考え
すぐ思い直してそれを頭から蹴り飛ばすくらいの勢いで追い出した。

今はそんな事を考える場合でもないだろうし
そんな最悪の事態を考えるなどガラでもないと思ったからだ。
あと少し怖くなったというのもいくらかあったが
そうして簡単なお祈りをすませてからあらためて周囲を見回すと
そこはその黒こげ死体をのぞけば見晴らしのいい場所だった。

延々歩いてきた道を振り返ると、下に見えるのは広く不規則な形をした森。
上を見上げるとどれも違う形をした雲があり
緑の森の先には小さくなったコロールの街が見える。

これがこちらの世界での当たり前だ。
鹿やクマはいるが突然出てくる悪魔がいなくて
オークやトカゲみたいな種族がいても、悪魔につながる種族はいない。

でも自分達は今ここにいて息をして
目を見開いてこの景色をながめている。

ジュンヤはすうと胸一杯に息を吸い込み
ぷはーと思いっきり吐き出した。

「・・不思議だよな。ついこの前まで砂と悪魔の世界にいたのに
 いつの間にか森の中を歩いて山道を登ってこんな所に立ってて
 こうして人のいる街を上から見てる」
「・・・・」
「理由なんてない、まるっきりただの偶然だ。
 東京受胎や俺が悪魔になったのは人為的な事だったけれど
 俺がこっちに来たのはただの偶然で、べつに誰が望んだ事でもない」
「・・つまりそのココロは?」

するとジュンヤは口に手を当てて思い切り叫んだ。

「普通の、俺の、普通ライフ!
 迷惑料とのしつけてかえせーーー!!」

そのぶつけどころのないごもっともな叫びは
ぶつかる場所がなかったのかそのままどこにも跳ね返らず
真っ直ぐ空の彼方へと消えていく。

もちろんそんなの叫んだってどうにかなるわけではないが
ジュンヤはそれでいくらか気がすんだらしく
小さなため息を境にいくらか表情が明るくなった。

「・・よし、ちょっと気が晴れた。俺、まだ大丈夫。元気」
「そんな単純な事で気が晴れるほどお子様でよかったな」
「うっさい元凶!元をたどれば誰のせいだ!」

出した拳はスタイリッシュにかわされたけど
ジュンヤはあまり悔しくなかった。
確かにこんな状況になった大元の原因はダンテだが
こうして無理矢理ながらも外に連れ出し
気分を変えてくれようとしたのもダンテなのだ。

仲魔としてはちょっと異質で、雇ったにしては態度でかくて
どっちかってとこっちが殺されない以外に利益ないようなこの男は
たまにさり気なくこっちに手を差し出してくれる。

出会った当初を思い起こすとロクな思い出しかないダンテだが
こういう所はダンテを完全に嫌いになれない理由の1つだ。

「しかし!それとこれとは別!問!だーーーーい!」
「お、何だ。遊びたいのか?
 よし、退屈してたところだ受けて立つ」
「やかましいわ!サルだって反省するのに
 この期に及んでなんでそんなに楽しそうなんだよアンタは!」

などと山のてっぺんで人気がないのを幸いに
子供みたいなケンカをおっぱじめた2人を
背後にあった黒こげ死体だけが静かに見ていた
・・かどうかは定かではない。





そうして2人でなんとなく山を登り
なんとなく景色を見て発散した日から数日もしないうち
再びカルメラが屋敷へと戻ってきた。

今度の旅と調査は短めだったのか、持ってきた荷物は少なめだったが
強そうで大型の剣を使いこなせるダンテに対し
ジュンヤが銀のダガー1本では心細いだろうとの事で
土産のつもりなのか少し綺麗な弓と矢が手渡された。

「え、あの、でも俺弓矢とか使ったことないんですけど・・」
「簡単だ。まず両方を装備。
 そして矢をつがえ標的を狙い、射る。それだけだ」
「・・いや、まぁ、それはわかるんですけど・・」
「だが手間的に考えて顔からビーム出した方が早k」

と、全部言う前に渾身の力のこもったガチの拳が
隣に座っていたダンテの脇腹にめり込む。

「・・そこの赤いの。この前見たこともう忘れたのか。
 ここはゴツくて妙な事してくる悪魔とかいなくて
 普通の野生動物とかが普通に生きてる場所なんだぞオイ」
「・・いやしかし、強化された銃や何かならともかく
 弓矢の1つや2つで野生のデカイクマをどうにかできると思うか?」
「う、うーん・・」
「やり方によりけりだな。
 弓矢というのは単発での威力は低いが
 相手に気付かれていない状態ならその威力は数倍になり
 大体の相手を一撃でしとめる事ができる」

その説明に妙な体勢で痛さをこらえていたダンテが即座に食い付いた。

「そりゃ美味しい話だな。こっちの定義ではそうなのか?」
「多少人道から外れる行為ではあるが、可能だ。
 世にはこれを極めて無類無傷の強さを手に入れた者もいると聞く。
 どこかで聞いた言い回しで表現するなら『ずっとオレのターン』というやつだ」
「・・なんすかそのおもくそ近代的な言い回しは」

それと同時にそれ、ただの暗殺じゃんとかジュンヤは思うが
自分の魔法は悪魔による対悪魔用という物騒なものなので
ある程度こちら用の武器というのも必要になるだろうし
暗殺なのはともかく弓の使い方も一通り教わっておく事にした。

「でもこれ、綺麗な弓矢ですね。装飾用ですか?」
「いや、エルフが作った軽量のものを選んできた。
 見た目で判断して悪いが、あまり重い物を振り回せるタイプに見えないのでな」
「あはは・・そっすね」

いやソイツその気になれば5mあるヤツとでもタイマンできるぞ
というダンテの無言の視線を睨んで黙らせる。

「ちなみにそれにはまだ何もしていないが、付呪を用いれば威力が倍増し
 矢に毒をぬる事でさらに強力な武器にカスタムすることも・・」
「普通のやつでお願いします!」

地味に容赦ねぇ話からジュンヤは綺麗な弓を遠ざけた。
悪魔の世界で生きるというのも殺伐としていると思っていたが
人の世界でのこういう話も地味に生々しくて怖い。

だが話によると弓矢を渡してきた理由としてはもう一つ。
ネズミやオオカミなどの野生動物は疫病などを持っている場合があるので
なるべくなら接触する前に仕留めた方がいいのだとか。

「え!?ダンテさんこの前ネズミの肉とってたんじゃないか!?」
「直接は接触してないし肉も食ってないから大丈夫だ。
 それより飛びかかられるまで躊躇するオマエの心配が先だろう」
「う・・・」
「ふむ、そのあたりは護衛殿がなんとかしてくれそうだが
 念のため疫病用の薬を置いていこう。
 本来なら教会の祭壇で治す事ができるのだが
 君達の宗派で祈りが通じるかどうかわからないからな」
「あぁ、それなら自信持って言える。絶対む 」

り、と言う前にダンテの横っ腹に肘鉄がめりこむ。
確かにそうかも知れないが、そんなん自信持って言われたくない。

「ところでその・・カルメラさん
 調査の方は何か手がかり的なものは見つかりましたか?

するとカルメラは少し妙な表情をして数秒ほど沈黙した。
え、まさか完全にダメだったのかと思ったがそうではないらしい。

「それについてだが・・少しばかり決めかねていてな」
「?何か問題があるとか、むずかしい事ですか?」
「いや、そうではない。調査範囲もまだ残っているし
 まだそれしかないと決まった話ではない。着手する事も簡単だ。
 たがこれは・・私自身の踏ん切りの問題というやつでな」

だが簡単と言うわりにその様子は重たげで
その踏ん切りというのはそれなりに覚悟がいるものなのだろうと推測できた。

「残る数カ所が空振りであれば、残る可能性はデイドラの王子共・・
 いやしかしあれらは落差が激しすぎて信憑性に欠けるし
 だとすると残るはやはりあれということになるが・・」

などと1人ブツクサもらし始めたカルメラにジュンヤは少し申し訳なくなった。

ここで『むずかしいなら無理に探さなくていいですよ』と言えればいいのだろうが
元の世界に帰りたいという気持ちと、ここに永住してもいいという気持ちは
まだジュンヤの中では半々のままだ。

ならここはどう言うべきかと迷っていると
先に結論を出したのはカルメラの方だった。

「・・よし、もう少し時間をくれ。別方向で当たってみる」
「え・・いいんですか?」
「ここまで調べたのなら確固たる結論を出さねば私としても後味が悪い。
 結果がどう出るにせよ、だ」

そう言ってカルメラは荷物をまとめて兜を掴み、慣れた様子で立ち上がった。

「では行ってくる。遅くはならないだろうが後を頼む」
「あ、はい。いってらっしゃい」

もう何度目かになるそのやりとりは
はためから見れば騎士様と召使いの少年のようだ。

もしかすると状況次第ではそれが定位置になるかも知れないが
とにかくカルメラを見送った後、ジュンヤは残された整理用の荷物を見ながら
ぽつりと言い出した。

「・・ダンテさん」
「ん?」
「・・俺、あの人に迷惑かけてるんじゃないかな」
「そうかもしれないが、聞いた様子だとあっちの問題なんだろう?」
「それもあるだろうけど、でもそれって元をたどれば
 俺がどうしたいのかをはっきり決められてないのも原因なんじゃないかな」
「・・オマエ、どうでもいい事をムダに細かく考えるヤツだな」
「考えなきゃいけない事をまるで考えない人に言われると
 無性に腹立つんですけど・・」
「だったらコインで決めてみるか?
 どっちが出ても恨みっこなしの運命の女神様だのみで」
「・・相変わらず人の話聞いてねぇし。
 でも・・コインか・・」

差し出された雇用時のコインを見ながらジュンヤはふと考える。
確かに迷っているのならその方が踏ん切れるかもしれない。
だが今は運の問題だったとしてもどっちの結果が出たとしても
自分で納得ができそうにない。

「・・・やっぱりダメだ。もうちょっと考える」
「・・考えるのが好きなヤツだ。
 まぁいい。幸い時間はあるんだ。好きに考えて好きにすればいい」
「だから元はと言えば誰のせいなん・・」

だ、と言う前に手が伸びてきてなぜか頭を軽く掴まれる。
ジュンヤは瞬時に警戒したがダンテはさして気にした様子もなく。

「まぁオマエが何をどうしたいにしろ、ちゃんと責任とってやるさ」

などと聞きようによっては恥ずかしいセリフをさらりと言ってのけた。

いやホントは元々の原因が言ってる話なので
ここでドヤ顔しつつんな事言われても腹立つだけなのだが
そこだけ言ってればちょっと残念だけど基本いい人なその言葉に
余計なものを追加してしまうのもこの魔人のクセで。

「あぁ、そう言えばそういうのをオマエの年代風になんて言ったか・・
 ・・そうだ、確か『やっちゃった婚』だったか?」

その直後、室内で起こした真空刃によって
せっかく整理した本の半分が棚からぼた落ちし
ぶちぶちと文句を言うダンテと並べ直しの作業をしなければならなくなった。





さて本の整理を終えて再び外歩き、といきたい所だが
まずはこちらの武器に慣れたいという事で弓矢の練習をすることになった。
本当は外でやるものなのだが、巡回してる衛兵さんに当たると一大事なので
ちょっと行儀悪いが室内でリンゴをまとに練習する事にした。

弓矢というのは原始的な飛び道具だ。
よって元々近代の世を生きていたジュンヤにはてんで縁のないシロモノで
こんなの扱えるのかと最初は心配したのだが
いざ使ってみると扱いはそう難しいものでもなかった。
だがそれが数メートル先のリンゴを射抜くとなれば話は別だ。

ひゅん カツン

「もう少し左」
「・・・・・」

キリリ・・  ひゅん カコン

「おしい、かすった」
「むむ・・」

キリ・・ ひゅん ダン!ぼて

背後の石壁にばかり当たっていた矢が
ようやく樽の上に置いたリンゴを貫通する。
初めてにしては上出来な結果だろうが
ダンテの意見はハンターという職業もあってシビアだった。

「ビンゴ。だが動いてるヤツに当てるとなると問題外だな」
「・・・・」
「あとこれが当たったら痛いだろうなとか思うのもナシだ」
「・・・うぅ、お見通し」
「あのな、大体悪魔と戦って殴りつけたり丸焼きにするのとこれとどう違う」
「・・だってこれ刺さるし死体は残るし
 元々ここにいる生き物を殺す事になっちゃうわけだし・・」
「・・・・・」

まだそんな事言ってるのかこのお人好し。
あのタンパクな騎士様をちょっとは見習・・と思いかけてダンテは黙った。

出会い頭に敵の急所を正確に射抜いたり
ゾンビも死体も平気のへいちゃらだとか言うなら
そんなのもうジュンヤではない。

「・・カルメラさんは簡単そうにやってたんだけどなぁ・・。
 いざ自分で使って弓を引くとか狙うとなると・・」
「それは慣れと場数、あと待ち伏せ技術もあっての事だろうな」
「待ち伏せ?」
「オマエは気付いてなかったろうが
 あの騎士様、無意識で足音を軽減する歩き方をしてた。
 あんな装備をして必要がなさそうなくせに、だ」
「・・そうなのか?」
「相手に気付かれないで射るとかって話からして
 アイツはもうそれを習得してるんだろう。
 冒険者っていう職業には詳しくないが
 一人であらゆる事を色々やってるのは確からしいし」
「・・・・」

いろいろお世話になってる分際で悪いのだが
騎士で魔術師で家何個ももってて山賊を返り討ちにして剥ぎ返して
草花から薬も調合して暗殺もできるって
一体アンタなんなんだよとか思いたくなる。

「・・エーとデスね。
 この世界で生きていくには、それくらい必要って事じゃないすカね
 矢が数本ささっても平気とか死体ゴロゴロもダイジョウブとか」
「・・相棒、しっかりしろ。顔が一昔前のマネキンみたいだぞ」

まぁ家が欲しくて大金が必要とか
危険な場所に頭をつっこもうとさえしなければ
そんな物騒な技術は必要ないのだろうが
こちらはこちらでボルテクス以上にシビアな部分があるらしい。

「・・うぅ、それにしても迷う。
 こっちは悪魔に襲われないけど色々とリアルだし
 あっちは歩いてるだけで悪魔に襲われるし味方少ないし」
「欠点から考えるから迷うんじゃないか?
 こっちは交渉なんてまだるっこしいものがなくて
 あっちはフラついてるだけでいろんな悪魔が狩り放題だ」
「・・・だからダンテさんと俺の感性はまったくもって違うんだってば。
 そもそも雇用前に俺狩ろうとしてたのが自分だって自覚ある?」
「少年、今日は肉が食いたい。
 できれば原型そのままじゃない調理したヤツ」
「・・相変わらず人の話きいてねぇし要求が子供だしもう・・
 えぇいもういい!じゃあ使えそうな食材買ってこい!
 ただし余計な物買うな寄り道すんな衛兵さんに不審がられるな
 問題起こすな迷子にもなるな街から出るな!」
「・・やたらに複雑な子供扱いだな。まぁいい。
 ピザとコーラと酒を買えるだけのありったけだな」

数秒後。
おでこに買い物メモを貼られ最低限のお金だけ持たされたダンテは
屋敷の玄関から豪快に蹴り出された。

もちろんさっきのやりとりの半分以上は冗談だ。
そうでもしないと環境を大幅かつ強制的に変えられている
あの少年の中身がもたないだろう。

・・とは言え、この手がいつまで通じるか。

あの騎士様が帰り道を探してくれるのが先か
アイツが自分なりに結論を出すのが先か
どっちも上手い具合に噛み合ってくれればいいが・・。

そう思いながらダンテは靴あとのついた尻をはたきつつ
人通りの少なくなり出した通りを一人で歩き出した。




それからの数日間はどちらかというと平凡なものだった。

せめて人様に迷惑がかからないようにと人家のない街の西側を歩き回り
野原で草花を集め、たまにかかってくる野生動物をかわしたり倒したりし
薬の材料を集めたり毛皮をとって資金にする。

ダンテは最初ちょっと退屈そうにしていたが
ジュンヤが弓を覚えて上達していくのが面白いのか
途中からは文句も言わず大人しく付き合ってくれている。

だがジュンヤはふとした拍子に思うのだ。

その気になれば弓矢など使わずとも
街1つくらいはふき飛ばせるバケモノが
人里離れた場所で何をしているのだろう。

見回せば周りにあるのは悪魔とは何の関係もない
自然や野生動物や雲の流れる大きな空。

砂と悪魔とマガツヒで構成されたボルテクスで適応したこの身は
はたしてこのままここにいてもいいのだろうか。
望んで存在していたボルテクスではないが、いざそこから放り出されてしまうと
不自由がないとはいえ精神的に不安になる。

・・あ、でもいつでもどこでもどんな時も
生活サイクルが変わらない人もいるにはいるよな。

と思って後を振り返ると・・・いない。
さっきまでそこにいたはずの生体反応がなくなっている。

うわぁ!ほんのちょっと目を離したすきに!?

と思ってあわてて周囲を見回すと
少し離れた場所で複数の生体反応がなぜか列になっており
右へ左へウロチョロと走り回っているのが見えた。

見るとその先頭は馬に乗った一般人(後に新聞の配達人とわかる)。
その後にはそれを追う野生のオオカミ。その横さらにオオカミ。
その後にはクマがいて、そのさらに後をダンテが走っていた。

先頭のはまず間違いなく後のオオカミから逃げているのだろう。
そのオオカミが背後のクマから逃げているのかどうかは不明だが
問題なのは最後尾のダンテだ。

ダンテがその先頭の人を助けようとしているのか
なんか面白そうなのでついて走っているだけなのか知らないが
あの様子だとどれかが止まってどれかの餌食になるまで
延々と終わりそうも・・
と思ってるとダンテの後にさらにオオカミが追加された。

「あーもう!面倒だからもうツッコまないけど止まれそこの
 いや!中途半端に止まったらマズそうだから
 ダンテさんだけ止まれー!」

しかしその奇妙な行列は速度が速くて声がとどかず
結局声がとどく範囲まで走って追いつき
その間に別のオオカミに見つかっていたりして
その後ジュンヤ(だけ)は散々な目にあったとげっそりするハメになる。

世界が変わり環境や状況も変わりはしたが
しんなり考えているヒマはなさそうである。







最後のはコロールの西側を歩いてた時の実話。
他の土地で見た事もありますがこの配達人
めっちゃいい馬に乗ってるのかおそろしく速くてなっかなか追いつけない。
でも追いつけたとしても大体後味悪い事になっていそうなので
見かけても『がんばってね』とエールを送るだけにするのも可。


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