「・・何も黙って帰らなくてもいいじゃないですか。
 声かけてくれればすぐに起きたのに・・」
「寝ている者を起こしてまで話をする行為は、私のポリシーに反する」
「・・いや、すぐそこまで来て無言で帰られるのも怖いんですけど」

多少釈然としないままジュンヤとカルメラは食堂の広いテーブルに向かい合って座り
情報と物資の受け渡しをする。
今回カルメラは数冊の本と食料入れになかった数種類の食品
あといくつかのスクロールを持ってきていた。

だがカルメラは魔法には詳しいはずなのに
どうして魔法の封じられた巻物が必要なのと聞くと
『趣味だ』の一言で返された。

たまに思うのだがこの人はちょっと変わっているというか
魔術師なためか博識な分、どこかちょっとズレている。

「で、整理と陳列はまだ完全じゃありませんけど
 やり方の方はあれでよかったですか?」
「うむ申し分ない。さすがに片手間で片づけるのとはワケが違う。
 頼んでよかった。先に礼を言っておこう、ありがとう」
「そ、そうですか?」

まぁ最初のl状態からすればいくらかマトモになった程度だろうが
そう言われると悪い気はしないし、ちょっと照れる。
ちなみにその件についてまったく無関係なダンテは
まだ突っ伏して寝ていたので放置してきた。

「ただ売却物入れの棚の中に、毒が大量に入っていたようだが・・あれは?」
「う゛・・・すみません。それもう1人の背の高い紅白な人が
 無意識で生産しちゃいまして・・」
「?そうなのか」

調合(錬金術)にそんなスキルあったっけなと思うが
薬類は適当に作って売る事しかしないカルメラはあまり気にしなかった。

「それで、こちらの生活はどうだ。もう慣れたか」
「まだ遠くまで歩き回れるほどじゃないですけれど、なんとかやってます。
 ただもう1人いる大人子供が退屈してて、それが困り事と言えば困り事ですね」
「・・ふむ、なら近辺の簡単な散策でもしてみるか?
 ここは山賊や野盗が少なく、危険な場所もあまりない。
 私はもう珍しくもなくなってしまったが、古い砦や神殿などがある」
「・・そうですね・・」

そう言えばボルテクスが出来上がってからというもの
生き残る事に必死で観光などしたことないし
気分転換という意味ではそれもよさそうだ。

「ただし砦も神殿も内部は山賊などの巣窟になっている。
 剥ぎ取り目的がなければ内部に入るのはすすめないな」
「・・いや普通剥ぎ取り目的って山賊とかがする仕事
 って、まさかカルメラさん・・」
「いや、私も追い剥ぎに興味はないが
 内部の構造とレア物の入った宝箱には興味があるのでな。
 もちろん途中で倒した賊の装備は適度に剥ぐが」
「・・あ、そうですか・・」

そういや昨日売ってきた売り物に
やたら篭手とかブーツが多かったのはそのせいらしい。
胴体部分の鎧がなかったので全部ひんむいてはないのだろうが
賊をしばき返して逆に剥ぎ返すというのも、どっちもどっちな行為な気がする。

だがその背徳的な話はそこだけでは終わらなかった。

「そうだ。賊で思い出したが
 もし野外に出て残された古い宝箱や扉などを発見したら
 鍵がかかっている場合もあるだろうからこれを」

そう言ってカルメラが自分の荷物から出してきたのは
細くて変わった形に曲がった金属の棒の束だ。

それは一見して編み棒のように見えたが
鍵と編み棒は関係ないし、束持っている必要もないはず。

「とりあえず50、いや150個もあれば事足りるか」
「?な、なんでそんなに・・?そもそもこれ、なんですか?」
「?あぁそうか。これは開錠用ピックというピッキング(鍵開け)の道具だ。
 鍵のかかった宝箱、および扉は特種な鍵が必要でなければこれで開く」

盗 賊 やん!!

めっちゃサラリと言われたが早い話それはそういうブツだ。
ボルテクスに鍵のかかった宝箱なんかなかったし
鍵をかけるのは盗まれないようにするための処置だというのに
それをわざわざこじ開けるための道具が普通に存在するとは
さすがに道を歩いてるだけで賊に襲われる世界なだけある。

「・・というかカルメラさん、なんでそんなブツをこんなに大量に・・」
「先にことわっておくが私は盗賊ではないし
 鍵も宝箱も犯罪にふれないものを選んで開けている。
 それにそれは壊れやすく難易度の高い鍵には大量に必要になるので
 少し多めに増やしたものだ」
「増やす・・んですか?」

まさかそれも錬金術のたぐいかと思ったが
カルメラは少し考え、荷物の中からなぜかスクロールの束を取り出した。

「そうだな・・これはあまりすすめられた方法ではないのだが
 君達なら上手く使いこなしてくれそうだし、今後必要になるだろう」

そう言ってカルメラは立ち上がり、しゃきんと持っていた剣を抜きはなつ。
え、ちょっっといきなり何する気だとジュンヤは怯むが
テーブルの上にあったブドウを1つ取ったので
別に室内で物騒な事をするつもりではないらしい。

「これはおそらく私しか知らない現象で
 普及してしまうと世界の物価価値を根本から腐らせてしまうものだが
 君達にならおそらく教えても大丈夫だろう」
「??」
「これはある手順を踏むと物を増やす事ができる妙技だ。
 効果のほどは・・実際にやってみた方が早いだろう」

一体何の話だと頭の上に?を散らすジュンヤをよそに
カルメラは何もない場所に向かって剣を振り上げ・・。

(以下ネタバレにつき省略)





慣れない事をして落ちるように寝ていたダンテは
下から聞こえたかすかな音にはたと目を覚ました。

なんの音だと思っているとジュンヤの驚いたような声と、あの女騎士の声がして
それから少し後、また何か音がして今度はどざざと何かが大量に落ちたような音がする。

不思議に思いつつダンテは身を起こして伸びをすると
寝ぐせのついた髪を適当に撫でつけながら下におりてみた。

「では使用後のスクロールは間違えて使わないよう
 念のため攻撃魔法以外のものを置いていこう」
「わ、わかりました・・けど・・不思議極まりない手順と現象ですねこれ」
「私も当初そう思ったが、これがなければ家や屋敷などを短期間で買えなかった。
 つまり『細かいことは気にするな』というやつだ」
「・・便利かつ無責任な言葉ですけど
 でもこれなら物に困る事はなさそ・あ、ダンテさんおはよう」

立ち話をしていたのはこの屋敷の持ち主の騎士様で
なんだかよくわからない事をジュンヤと話し込んでいたが
先にジュンヤがこちらに気付いて声をかけてくる。

その手にあったのは借り物の銀のダガー。
そしてなぜかその足元には大量に散らばったブドウがある。

「・・なんだ、ネズミでも追い回してたのか?それとも強盗の練習か?」
「どっちも違う!カルメラさんにちょっと教えてもらってた事があっただけだ」
「?ブドウの曲芸斬りをか」
「・・近いようでまったく違う。けどもう説明するのがめんどくさい。
 とにかくありがとうございます。しばらくこれで頑張ってみます」
「うん、だがあまり一度に大量にやりすぎないように
 多く必要になるなら10個単位でやるといい。
 あまり大量にやると最悪の場合、世界が止まる可能性がある」
「「・・・・・・・・」」

この人時々さらりと凄い事を口走るが
それが具体的にどういう事かを聞く勇気はまだ2人にない。
ちなみに世界が止まるというのはいわゆるフリーズの事で
こっちでまだセーブをしてないジュンヤが知ったらひっくり返るだろう。

それはともかくダンテも加えての情報交換によると
元の世界へ戻る方法の手がかりについては今半分くらい済んだところで
地図にある西地方と北地方の調査が済んだので
これから残る東側と南側を回ってみるつもりなのだとか。

聞き込みをする場所自体はそう多くないが
距離からすると壮大なその調査内容にジュンヤは申し訳なさげになるが
色々と肩書きの多い不思議な騎士は何でもなさげに肩をすくめた。

「なに、確固たる目的を持って旅をするというのは
 ただ漠然と各地を放浪するよりも有意義なものだ。
 それにデイドラにつながらない異世界というのも興味深いところがある」
「・・でも本とかで確認した限り、あっちもあんまり変わらないかも知れませんよ?」
「だが君達のように戦うことなく私とこうして話をし
 こちらを侵略するでもなく戻る道を探したいと申し出る者もいる。
 私の知るオブリビオンの奥にそのような者はいなかった」

そう言ってカルメラはどこか別の場所を見るような目をして
誰に言うでもない独り言のような言葉をぽつりともらした。

「できる事なら最良の選択肢を用意してやりたいが・・
 あれと関わるならばそうもいかないだろうな」

その酸いも甘いも噛み分けたような意味深なセリフにジュンヤは首をかしげるが
その時今まで黙っていたダンテがふいに口を開いた。

「騎士様、ここらに歩いて行ける簡単な観光場所はないか?」
「?そうだな・・・」

それは今までの会話からして完全に脱線しているが
カルメラは気にせず地図を広げ、北にあった山のようなしるしを指した。

「探索の必要のない場所という点では、ここから北の雲の頂という場所が最適だ。
 道なりにこのしるしを目指せばたどりつけ・・」

と、言いつつそこを指していたカルメラの動きがなぜか急に止まった。
それは街や砦のしるしとも違う山のようなしるしだが
オブリビオンの門とは違い、そう怪しそうな様子はない。

「・・?どうかしたんですか?」
「・・いや、確か君達はアイレイドの神殿から出てきたのだったな」
「?はぁ、いきなりでびっくりしましたけど」
「なら大丈夫だろう。私も魔術師ギルドの関係で何度か行った事はあるし
 道なりに斜面を登るように歩けばたどり着けるはずだ。
 途中山賊の野営地などもないから、野生動物に気を付けていれば問題ない」

何を一瞬気にしたのかは気になるが、大丈夫だと言うならいいのだろう。
ダンテはあっさりそう判断して持っていたパンを食いちぎった。

「じゃあ行くか。そろそろ外の空気が吸いたくなってきたところだ」
「え、ちょっとダンテさんまた一人でフラフラしたら・・!」
「誰がオレだけで行くなんて言った。オマエも行くんだよ」
「はぃ?!」
「地図にマークを頼む。今から行って夜には帰れるな?」
「そうだな。長居や回り道をしなければ問題ない」
「え!?しかも今の今から!?ちょ、待て!こらー!」
「行ってくる。鍵はかけなくてよかったな」
「?あぁ」

なんとなく傍観していて思わずそう言ったカルメラをよそに
ダンテはずりずりとジュンヤを引きずりながら出て行った。
事情を知らなければ立派な誘拐事件だが
カルメラもあの2人がどんな関係なのかなんとなくわかってきたらしい。

「・・・では私もそろそろ出発するか」

そうして一息ついた騎士は何事もなかったかのように旅支度をまとめ
扉に手をかけ次の目的地を思い浮かべた。





さてダンテの強制連行に最初は抵抗していたジュンヤだったが

屋敷の外に出て人目につくようになると、スキルでぶっ飛ばすワケにもいかず
結局唯一覚えた街の門を出てまんまと外に連れ出されてしまった。

そうして街を出てまず見えたのは
樹齢が数十年以上ありそうな木々の立ち並ぶ広大な森だ。

そこは低い木があまりなく視界がひらけていて鬱蒼とした印象はないが
比較的都会だったスキングラードからファストトラベルで飛んできた2人にとって
その景色は最初の神殿から地上に出た時くらいに刺激的なものだった。

出入口で警備してた衛兵さんに怪しまれないように少し離れた所まで歩き
さっきまで騒いでいたのも忘れて大きな木を2人で見上げる。

「・・おっきいなぁ」
「・・そうだな」
「樹齢何年くらいかな」
「少なくともオマエよりは年上だろうな」
「だよなぁ・・」

この木がまだ小さかった時、ここがどんな場所だったのかはわからないが
この木もそのまわりの木もずっと前からここにあって
長い時間を静かに過ごしてきたのだろう。

そう思うとジュンヤは少し不思議な気分になった。
なにせ自分は短い間にいろいろな事に巻き込まれすぎだ。

いきなり東京の受胎に巻き込まれその後なぜか悪魔になり
たくさんの仲魔ができてダンテに追われていつの間にか仲魔になり
そのダンテのせいでまたこんな事に巻き込まれている。

そう思うと自分がやたらと生き急いでいるような気分になり
少ししゅんとしていると後からぽんと頭をはたかれた。

「何ボーっとしてる。まさかこんな近場で満足するつもりか?」
「いや・・そうじゃないけど・・」
「ならさっさと行くぞ。夜になっても星があるから視界はきくが
 オマエが夜出歩くってのマズイだろ」
「?なんで?」
「日のあるうちに帰るのはお子様の常識だ」
「・・・さいですか」

危機管理とかそのあたりの話かと思ったら、そっちの方の話らしい。
そんな調子でズカズカと森の中を歩き出そうとするダンテだったが
ジュンヤがあることを思い出してはっしとその袖を掴む。

「ちょっと待った。それよりダンテさん、ちゃんとあれ着けてるのか?」
「あれ?」
「カルメラさんにもらった探知の篭手!」
「・・あぁ、そういえば忘れてたな。つけろ」
「な、コラ!この不精者!」

ぽいと無造作に渡されたそれにジュンヤは憤慨するが
オマエの方が注意力はあるとか感知した瞬間撃ってもいいなら
とかいう屁理屈で丸め込まれて結局それはジュンヤがしぶしぶ装備することになった。

するとそれは装備したとたん、一瞬だが視界にピンク色のもやがかかり
目の前にいたダンテが熱源探知にかけたような発光をしだした。

ためしに後ろをふり返って門のそばに立っていた衛兵を見ると
やっぱりそこだけが熱をもったようにぼんやり光って見える。

「わ。すごい。あそこの人もちゃんと光って見える」
「・・となるとそれなりの距離で探知できるのか」
「でもそれがダンテさんかどうかまでの見分けまでつかないから
 その距離内でウロウロしょうとか思わないように」

ちっ、察しのいいやつめとか思いつつダンテは歩き出し
そのあとからジュンヤがついてきた。

ダンテは本来束縛されるのは嫌いな方だが
この少年相手だとそんなに悪い気がしない。

理由はいくつかあって、自分でもわかっていない理由もいくつかあるのだが
まぁ理由はどうあれコイツといると
どこにいても楽しくすごせるからいいんだがなと思っていると
ふいに後から袖を引かれた。

「待った。いきなりだけどそっちのしげみ、何かいる。しかも複数」
「いきなり複数か?」
「でもちょっと反応が小さいな、・・あ」

どうしたものかと思って様子を見ていると、それはふいにしげみから飛び出し
トットットと土を蹴る軽い音をたてて逃げていった。
ジュンヤから見ると光っていて少し見えにくかったが、それは鹿だ。
家族なのか群れなのか、3匹いたそれは坂道を跳ねるように走り
森の中へと消えていく。

「・・わ、鹿だ。野生の鹿なんてはじめて見た」
「そう言えば食料の中に鹿肉もあったが、あれがそうか」
「・・たぶんそうだろうけど、生きて動いてるところからそういうのを連想しない」
「だが狩りの原点は元々そういうところからだろ」
「・・ダンテさん、水族館とか牧場に行ったら
 かわいいよりも先に美味そうとか調理法とかが先にくる人だろ」
「?見てもないのによくわかるな」

そういやこの人、出会った当初からそんな感じだったなと思い出しつつ
地図で指定された場所へと向き直り歩き出す。

そこは森の中だったが幸い人が歩くための道があり
舗装はされていなかったが獣道のように荒れてはいなかった。
道は目的地の方向へと続いているので
カルメラの言ったようにこの道を歩いていけばいいらしい。

しかしこんな緑豊かな場所を歩くのは一体いつぶりだろうか。
大きな木を感慨深げに見上げながらジュンヤはそんな事を考えていたが
ふと視線を下へと戻すと、森の中にさっきまでなかった光源が1つあるのに気がついた。

「・・あ、また何かいる。今度は1つだ」
「どこだ?」
「そっちの木のかげ。でも大きめで姿勢が低い・・なんだろ」

無視して行ってしまってもいいが、やっぱりそこに何かいるとなると
正体を確かめたくなるのが人のさがというやつだ。
そーっとなるべく音を立てないように近づいてみると
見えたのは赤っぽい毛皮のようなもの。

あれ、まさか・・と思ったらそのまさかだった。
それはこっちに気付くなりどっすどっすと重い音を立て四つ足で走ってきた。

クマ!?
「デカイな、グリズリーか?」

それはそこそこ大きな赤毛のクマだ。
ジュンヤは思わず山でクマに遭遇した時の対処法を思い出してしまうが
しかしこちとら今や3mくらいの悪魔も素手で倒せる立派な悪魔だ。

対処の方法なんかいくらでもあった・・はずなのだが
さすがにいきなりだったし人間だった時のなごりで対応が遅れた。

ダンテは舌打ちして硬直していたジュンヤの前に割り込み
こちらで借りた剣を素早く背中から抜きクマの第一撃を受け流す。
だが流したつもりの一撃が予想外に重い。

動物好きのジュンヤの前であまりやりたくなかったが、正当防衛だ。
ダンテはクマの2撃目を回り込んで回避すると
持っていた剣をかまえなおし一撃。

バチン!

「!?」

しかし普通に斬りつけたそれは妙な手応えと電撃をともない
クマにそれなりなダメージを与える。
ちょっとおどかすだけのつもりだったが、持っていた物が悪かったらしい。

「・・悪く思うな!」

もう手加減は無理だと判断し、ダンテは再度剣を振りかぶり一閃した。

すると力を込めすぎたのか、元々その剣自体が凶悪なのか
2m近くあるクマは電撃をおびながら宙を飛び、どすんと地面に落下して
ジュンヤに見えていた生命反応がすーっと消えてなくなった。

その意味を理解してジュンヤは思わず篭手を握りしめ
ダンテは手にしていた大剣を少し複雑な顔で見下ろした。

・・・さすが、本に載るだけはある。

このなんとか(ウマリル)の持っていた大型の剣。
なんとなく借りてしまったがちょっとばかし威力が強いらしく
悪魔以外で使うには気が引けるなと思いつつダンテはそれを背に戻した。
ジュンヤの方はしばらく呆然としていたが
やがてそろそろと倒れたクマに近づき、その毛並みを恐る恐る撫でる。

それはさっきまで生きて動いて命の光をやどしていたはずなのに
今はピクリとも動かずなんの反応もなしに転がっているばかり。
まだ少し暖かいそれはじきに冷たくなっていき
時間をかけて森の一部として吸収されていくのだろう。

ボルテクスとまったく違うその仕組みと光景に
ジュンヤは久しく忘れていた事を思い出して
動かなくなったその硬い毛並みをそっと撫でた。

「・・・・・ごめんな。気にせず行けばよかったんだよな」

その小さな言葉にダンテの胸の中のかなり奥の方が
針で刺されたようにちくりと痛んだ。

別に悪いことをしたわけではない。
こうしなければいけなかったのは生き物の世界での現実だ。
でもその生き物の中では獰猛な部類になる悪魔の少年は
たまにそこからがつんとはずれて、よせばいいのにこんな事を口にする。

ダンテは頭をバリバリひっかいてからクマの死体を調べると
どさとジュンヤの方に何か重い物を投げよこしてきた。

それはクマの毛皮だ。
重いので全身丸々とまではいかないが売り物として使えるのだろう。
そうしてダンテはまだ何とも言えない顔をしているジュンヤの頭にぼんと手をのせ。

「・・・騎士様が言ってただろ。無駄になるものはないって」

そう言ってぐしゃりと頭を撫でてから背中をばんと叩いてきた。

「次から気を付ければいい。オマエも、オレもな」

顔を上げた時ダンテはもう手を離しこちらに背を向けていたが
そのいつもと違う服にいつもと違う剣を背負ったその背中は
いてくれてよかったと素直に思える、そんな背中をしていた。





幸いな事にそれから後は
クマに遭遇する事もなく平穏無事に森を歩くことができた。
たまに鹿などを見つけることはあったが
それはこちらを感知するとすぐ逃げてくれるので
次に何を倒さなければならないのかとヒヤヒヤしていたジュンヤも
時間がたつにつれ少し余裕をもって歩くことができるようになった。

そうして余裕ができたところでもう1つできるようになったのが
薬に使う素材集めだ。

森の中や道ばたに生えている草花やキノコは
以前カルメラがオーガから歯を取ったのと同じくどれも薬品の材料になる。
話によると植物はとってもしばらくするとまた生えてくるというので
道すがら植物採集もかねて歩くことになった。

「蜜に、根っこ、こっちは種か。植物によって使える部位が違うんだな」
「相棒、こいつも使えそうだ」

そう言いながらダンテが差し出してきたのは何かの肉だ。
こぶし大ほどあるそれはどう見ても植物からとれる物ではないので
ジュンヤは不思議に思いつつ、そして嫌な予感もさせつつ一応聞いてみた。

「?・・なにそれ」
「ネズミの肉」
「ぎゃ!」

思わず飛び退いたジュンヤにダンテが少しムッとする。
しかしいきなりそんなの出してきたら誰だってビックリするだろう。

「ちょっと待て!なんでいきなり森の中でネズミの肉が取れるんだよ!」
「オマエが草花に夢中になってフラフラしてる間に
 しげみから飛びかかってきたのを仕留めたんだ。
 見た目はドブネズミだったが犬くらいはあったな」
「・・それ、ホントにネズミなのか?」
「表記はネズミの肉になってるからそうなんだろ。見るか?死体」
「いやいいです!いりません!結構です!でも回収します!」

ちょっとばかし複雑だったが、さっきのクマと同様とった命は使わないと失礼なので
一応受け取って仕舞い込もうとする。が、その前に1つ。

「・・でもこれってカテゴリとしてはそのまま食べるか
 薬の材料になるかのどっちかなんだよな」
「・・だろうな」
「食品衛生上あんまり使いたくないってのは・・ぜいたくかな」
「食わないなら売りにでも出せばいい。
 それに薬剤にするにしたって毒の材料にしかならないんだからな」
「あ、開き直った」

その直後、ダンテがすねた顔して尻にグーを入れてきたので
その場で軽くもめたりもめなかったりしたが
とにかく物を集めたり動物をやりすごしたりしながら2人は色彩豊かな森を歩き
しばらくして森は途切れ岩の多い坂道になった。
少し急だったが道はそのまま斜面の上へと続いている。

そこからはあまり集める物もないので2人は黙って歩いた。
だが歩いても歩いても道は終わらない。

それに最初に気付いたのはジュンヤで、次に気付いたのはダンテだった。

というのも街を出てからそれなりに歩いているはずなのだが
街から近いと思っていた目的地になかなかたどり着けない。

カルメラに指定された場所は地図から見て街からそう遠くはない。
方向はあっているし道なりにも歩いている。
でもなかなかたどり着けないのだ。

「・・・なぁ、ダンテさん」
「言いたい事はなんとなく察しがつくが、なんだ」
「着かない・・よな」
「そうだな」

そう言いながらさくさくと土を踏みしめて歩くことさらに数分。
時々地図で現在地を確認してみるが
多少近づいた様子はあってもまだそこにたどり着く気配がない。

「・・おかしいな。方角も道もこっちであってるはずなのに」
「近づいては・・いるんだがな」
「えっと、こう来てこう歩いてこう登って・・」

そしてこの時、地図を見ながら来た道を確認していたジュンヤが
ある事に気付いて顔を引きつらせた。

「・・ダンテさん」
「ん?」
「今・・気がついたんだけど、そこってすっっごく高いところにあって
 たどり着くまでにものすごく坂道の回り道になる・・・とかじゃないか?」
「・・・・」

そう言えば目的地名は『雲の頂』で、しるしの形は山の形をしているし
よーく見るとその周辺の地形はちくちくした山脈のような描かれ方をしている。
つまりそこから推測するに、それは雲の上にあるくらいな
山のてっぺんみたいな場所の事を指してるんじゃないだろうか。

2人は地図をのぞき込んだまましばらく沈黙し。

「・・まぁ今さら引き返すのも間抜けだから、行こっか」
「・・そうだな」

結構男らしくあきらめをつけ、黙って道なりに歩き出した。





省略したのはアイテム増殖の裏技です。
ゲームバランスがアレになる可能性があるそうなので
それでも大丈夫という人だけ探してみましょう。

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