「これはこっちの棚で、これ・・は、そっちに重ねるとして
 これとこれとこれは食料入れ、これは多めにあるから売り物で・・」

などと1人でぶつぶつ言いながら
ジュンヤは本だの巻物だの食料だのという種類バラバラな品物を
所定の位置へと押し込んでいく。

そこはコロールという街にあるカルメラの屋敷だ。
入る時なぜかアーバーウォッチと表示されるそこは
一階が広くて仕切りがない応接間と食堂になっていて
いくつかの戸棚や机、あと低めの本棚などがあって
カルメラはそこへ本などの書物を仕舞ったり陳列したりしていたらしいのだが
さすがに人にわざわざ依頼するだけあって最初その有様はひどかった。

入口を入ってすぐの所にあったごく普通の戸棚には
書物は元より食品、武器、防具、食器、石っぽいのやきちんとした宝石。
とにかく小学生の机の引き出しかと思うくらいにいろんな物が詰め込まれてあって
どうしてそこにそれだけの物が入るんだと不思議に思うくらいだった。

『書物はそちら机へ、食品と食器はそちらに。
 スクロール(巻物)はその樽の中でかまわない。
 食べ物以外の重複物は売りに出すのでそちら側の棚の中に入れておいてくれ。
 あと高値の書物は間違えて売らないよう棚に並べておいてくれると助かる。
 それとこの書物類は時々読むかも知れないのでそちらの棚へ・・』

カルメラの言葉を思い出しながらジュンヤは所定の位置に黙々と品物を入れていく。
入れてあった物は種類も大きさもてんでバラバラだったが
分けて入れるのは別に苦労するような作業ではないし
ジュンヤにとっては綺麗に整頓するのは好きな方だ。

ただスクロールは魔法が閉じこめてある消費アイテムでなので
間違えて出さないように手の届きにくい場所へしっかりと仕舞い込む。

というかそれはしょっぱなダンテがいじって暴発させたので
急遽手の届きにくいそこに入れるハメになってしまった。

幸か不幸か書物にとって絶望的な火炎系ではなかったし
近くにいたカルメラも呪文吸収の装備をしていたのでそう被害はなかったが
とにかく説明をうけている間そこらをクマのようにうろつき
いつの間にか探し当てたスクロールを勝手に暴発させたダンテは
邪魔と馬鹿のレッテルをはられ2階の部屋に蹴りこまれた。

その2階はおもに寝室になっていて
階段をはさんでカルメラの使っている大きめの部屋が1つと
向かい合わせになっている部屋が2つある。

一方は机と出窓のついた大きめの部屋。
一方は窓のない仮眠所みたいな質素な部屋で
ちょうど人数分あってよかったとカルメラは言っていたが
ダンテはどっちの部屋を使っているのだろうと思っ

ドスン

っていると上から何かが落ちたような音がする。
おそらくダンテがベッドでゴロゴロしていて勢い余って落ちた音だろう。

だから俺はいつからあんな大人子供と・・
いや、やめとこう。悩んでもしょうがない。

色々あって適応力がついた頭を切り換え黙々と整理を続けていると
こちらで服をかえた事により、ちょっとラフで剣の趣味がマシになったダンテが
腰をさすりながら階段をおりてきた。

「・・・少年、ヒマだ。外出てもいいか?」
「ダメだ待て!せめてここの棚の片づけが済んでから!」
「別に外に出るくらいオレ1人で問題ないだろ」
「とか自信満々に言ってここ出た直後
 自分がどこから出てきたのか分からなくなって
 街中を散々徘徊したあげく『オレと相棒の愛の巣はどこだ』
 なんて街中の衛兵さんに聞きまくってもれなく全員に顔覚えられた
 今話題のエキセントリックバカはここのこいつだ!!
「一応ちゃんと帰れたんだからそう怒る事でもないだろ」

長々説明してずどとデコをつついて強調しても
ダンテの反省色は限りなく無色透明だ。
でももうそのあたりを説教しても無駄そうだしこっちも恥ずかしくなるので
あまり深くは追求はしないでおく。

「・・とにかく、すでに街中で迷子になれる人が外に出るなんてもってのほか。
 せめて街の地形とか施設とかの場所を記憶できるようになってから
 もしくは1人で外に出るなら1日50歩づつくらいの範囲で行動しなさい」
「・・オレはトリか単細胞生物か何かか」
返事をしやがれ俺専用対人地雷
「イエスマスター、スミマセン」

などと額に血管浮かせて首ギリギリしめ上げても仕方がないので
ジュンヤはとりあえずダンテに1つ仕事を与えてみる事にした。

用意する物はカルメラが『時間が余るならこれでも』と置いていった乳鉢。
あれば蒸留器、レトルト、焼炉などの調合器具。
使うのは畑でとっていた作物、花の種や根っこやパン、とにかく色々なものだ。

「・・で、この化学実験セットみたいなので何をしろって?」
「・・わかっちゃいたけどやっぱり聞いてないのな。
 カルメラさんが教えてくれただろ、調合で作る薬品とかの話」

ためしに棚にあった適当な材料を合わせて調合をすると
できたのは細身で綺麗なピンク色のビンだ。
ダンテは聞いてなかったがこの世界で入手する素材のほとんどが
こうした調合道具を使って合わせる事により薬品に加工できるのだそうだ。

「でも薬って言ってもカルメラさんは魔法で代用できるから
 これは売り物専用ってことで効果とかは考えず適当でいいみたいだし
 失敗もないみたいだからダンテさんでも安心。
 その棚から適当に出して適当に調合しておいてくれればそれでいいから」
「・・・・」

なんだかよくわからなそうな顔でダンテは道具を棚横の台に置き
棚から適当な物を出して乳鉢でごりごりやり出した。

まぁ火薬とかの爆発物は作れないみたいだし
すぐ売っちゃうやつだから多少妙な物ができても大丈夫だろうと思って
ジュンヤは自分の仕事に戻ることにした。

荷物の整理は大体すんだのであと残る作業は
指定された高値の本(あまり手に入らないレアものらしい)を
いくつかある本棚につめていくだけだ。

最初はどうしてしまってあるものを並べ直すのかと思ったが
本にも色々と個性があってぶ厚く表紙が豪勢なものもあれば
赤や緑の鮮やかだけどシンプルな表紙をしたものもあり
並べていくと確かに見栄えがして綺麗に見える。

「・・・あ、これはちょっとハマるかも」

配色も考えつつ並べていくが、これがなかなかにむずかしい。
本といっても表紙の色は元よりサイズも分厚さもいろいろあるので
バランスよく詰めていかないと雑に見えるし雪崩をおこす。

「・・ぶ厚いのをはじっこで、小さくて地味なのは下に積み上げでいいかな。
 これはこっちの方がいいって言われてたやつだから・・」
「できたぞ。これでいいのか?」

などと地味な作業に熱中しかけているとダンテが声をかけてきて
出来上がったらしいビンを突き付けてきた。

さすがに爆発とかはしなかったらしく幾分ホッとしたが
突き出されたそれを見たジュンヤはあれ?と思った。

というのも一般的に調合でできるのはピンク色のビンで
飲み薬タイプのやつのはずだ。
しかしダンテの持っているのは緑色のビン。
それは確か武器や矢につける毒性のものだったと聞いている。

でも薬はともかく毒の方はそれなりに狙って調合しないと作れないと聞いていたのに
なんでいきなり緑色が出来るのだろう。

「・・ダンテさん、毒キノコとかそういう材料、そこに混ぜたか?」
「いや、そこにあった普通に食える物を適当に合わせただけだ」

そう言えば食料を入れてあったその棚には
間違って食べないようにと毒のありそうな物は入れていなかったはず。

「・・・。材料変えてもう一回」
「?なんでだ」
「・・よくわからないけどイヤな予感がする」

なんだそれはと思いつつ一応毒がない食材などを選んで
乳鉢でごりごりすって適当に焼いてなんたらした結果
できたのはまた緑色のビン。

「・・ダンテさん、それ毒だって認識してやってる?」
「?・・・いや。大体食える物しか入れてないだろ」
「わ、ワンモア!」

今度はそれを意識して毒にならない組み合わせと思いつつ再トライ。
できたビンの色はやっぱり緑色だった。

「・・・ダンテさん、やっぱりわざと・・」
「いや、違う。たまたまだ。こんな事もあるだろ」

さすがにダンテも気持ち悪くなってきたのか
急いで棚から材料を出して再々チャレンジ。
できたビンはまたしても緑だった。

「・・・・・・・・」
「ま・・、や、待て、ただの偶然だ。
 そもそも砕いて混ぜてどうこうするだけで毒だけできるなんておかしいだろ」

無言になったジュンヤをよそにダンテはとにかく毒にならないよう
考えうる限りの配合で細心の注意をはらいつつも
ありったけの組み合わせで調合してみた。

けどそうしてできた大量のビンは
1つ残らず色鮮やかなグリーンだった。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

どっちゃりできた緑色のビンを前に、2人でしばしの無言タイム。

「・・・ゴメン、前言ったこと取り消す」
「は?」
「使えてるよな。魔法」

絶対失敗しないはずの簡単料理を炭化させるかのようなその所行は
わざとでなければ奇跡か神業かそうとしか考えられない。

ダンテは何か言い返そうとひとしきりパントマイムみたいな事をしていたが
しばらくして別方向へ火がついたらしく急に真顔なって手をバキバキならし
食料棚が燃えそうなほどギリギリにらんだ。

「・・よし、こうなれば材料を使い尽くすのが先か
 ビンの色が変わるのが先かチキンレースといこ、うお!?

しかしジュンヤはみなまで聞かず、ダンテを無理矢理かついで二階まで走り
扉を蹴り開けてそれをぺいと中へ放り込んだ。
どばんと閉めた中で抗議の声が聞こえたが無視だ。
やっぱりこの人は人様ん家に入れてはいけないヤツだった。
でもさすがにそのままだと気が引けるしキレて暴れられても困るので

「一段落したら声かけるから。その時に街、一周しような」

と言ったらそれ以後ぱたりと抗議の声はしなくなった。
しかも靴音がしなかったのでそこで座り込んでいるもよう。

これはキリのいい所で中断して一緒に外に出ないと
後々が怖そうだなと思いつつ仕事に戻り、本を手にしながらふと考える。

「・・なぁミカ」
『なんだ』

やっぱりさっきからそこにいたみたいな調子で返ってきた声に
ジュンヤは素朴な疑問を投げかけた。

「ここってもしかして俺とかダンテさんの住みにくい世界・・なのかな」
『主はともかく奴にとって住みよい世界が存在するというなら
 それはそれで恐ろしい気もするが』
「・・・・」

手に持っていた厚めの本がつるっとすべって下に落ち
平積みになっていた本に当たってどささと雪崩をおこす。

ジュンヤはそれ以上何もしゃべらずただ黙々と作業に没頭した。





それから頑張ってなんとか本の整理を大体で終えたジュンヤは
ふて寝していたダンテをたたき起こして街の中を歩くことにした。

そうしてじっくり歩いてみてわかったのだが
ここは以前のスキングラードにあった高い建物は少なく
屋敷の前には広場と大きな木があり道も広く開放感もあって
おちついて見てみるととても住みやすそうな街だった。

それともう一つ最初気にしていた外見の問題は
ここではあまり意味がない事がわかった。

というのもここで生活しているのはカルメラのブレトンというような
人とほとんど変わらない種族だけではなかったからだ。

「・・・・・・・・」
「ダンテさん、ジロジロ見ない」

そのまんまの肌色で耳のとんがったダークエルフなる種族を
遠慮なしにガン見するダンテの袖を引っぱりつつジュンヤは歩く。

ダンテがやっぱり聞いてなかったカルメラの話によると
この世界には一般的に10種類ほどの種族があり
多くはカルメラのような人に近い姿をしているが
たまにあぁして見ただけですぐわかるような種族もいるのだそうだ。

ダークエルフはその名の通りな肌の色と特徴的な耳の形をしているし
オークなる種族は肌がまともに緑色で顔がゴツくていかついし
カジートという種族は顔がそのまんまライオンで耳や尻尾がついてるし
アルゴニアンというトカゲが服着て歩いてるような種族もこの前見たばっかりで
とにかくそれは良く言って種族多彩でこっちが気にされるほどではなく
悪く言って他が凄いからこっちが目立たねぇというやつだった。

しかし外見うんぬんの事はともかくまずここでするべき事は
ダンテが迷子にならないようにする事だ。

再度言おう。ダンテが迷子にならないようにする事だ。
冗談みたいな話だが実証済みの事実だ。

子と言うにはちょっとでかすぎる気もするが
この自称大人を大人だと思っているとろくな目にあわないのもまた事実。

「で、あれが最初に入ってきた街の入口。像がある方が南側だからな。
 北側の出入り口の方がお屋敷に近いけど
 建物が円状に並んでるから間違って他の所に入らないように。
 はい帰るお屋敷の名前を復唱」
「・・・・アーパーウジ?」
「アーバーウォッチ!わかりにくいけどそれが今住んでる所の名前!
 大きな木の前にあるから最低限それくらい覚えて人に聞こうな!普通に!
 では次、今街のどのあたりにいるかわかりますか?」
「城の裏側か?」
「教会の前通り!見事なまでに真逆じゃないか」

もらった地図を突き出して説明してみるものの
ダンテはどういったわけか地形や地理などが苦手らしく
なかなか街の中の道や構造を覚えることができない。
なんでだと聞いたら『道ってのは悪魔を灰にした後勝手にできる』
とか真顔で言いやがったのでアゴに一発入れておいた。

しかし見慣れない街に来てすぐに場所を覚えられないのはわかるが
せめて自分が寝泊まりしてる所くらいは覚えてもらわないと
また街をウロウロ徘徊して衛兵さんたちに迷惑かけるのも恥ずかしすぎる。
おもにジュンヤの方が。

「だからこっちは西側なんだって。そこに教会あるだろ。
 それがあるときには西側にいるんだって認識しないと」
「・・・・・・」
「・・今隣であくびした人がいた気がするんだけど
 俺の気、の、せ、い、か、な」
「スミマセンふとももつねらないで下さい地味に痛い痛いマジやめろ」

とかやりつつ結局ちゃんと覚えられたのは
街の南北にある出入り口と滞在中の屋敷の場所・・・だけだった。

呆れるくらいに清々しい物覚えレベルだが
下手に場所を覚えて下手に問題を起こされるよりはマシかも知れない。

ともかく日も暮れてきたのでそろそろ屋敷に戻ろうと思ったが
途中の道に雑貨屋があったのを思い出しジュンヤは足を止めた。

「あ、そうだ。そこ雑貨屋さんだったっけ。
 ダンテさん、ちょっとそこで待ってて。行ってくる」
「・・あぁ」

ダンテは一瞬オレも、と言いたくなったが
ジャンクショップのオカママネカタの事を思い出してやっぱりやめた。

そうして店の前で待っている間に周囲を見ていると
宿と酒場が近い場所にあったので、ここで資金面を上手くやれば
そこで一杯くらいやれるかなとダンテはのんきに考える。

というのも実は彼、物覚えが悪いのは半分くらい演技だ。
あぁだこうだと世話をやいてくれるのが面白かったので
ついそんな事をしてしまったが・・

バレたら怒るだろうが。怒るな。
だがアイツの事だから怒ってから呆れて
『しょうもない知恵を駆使すんな!』と怒鳴るくらいで許してくれるだろう。
・・しかし怖い方の怒り方だったらどうするか。
アイツたまに異様な迫力出る時があるからな。
いやいや、でもこれくらいは笑って済ませられるレベルだろう。
最悪ストックに放り込まれて口聞いてくれなくなるか
ゴミを見るかのような冷え切った目で見下されるか総無視されるくらい
・・・・。やっぱ謝ろうか。

とシリアスな顔して情けない事を考えていると
しばらくして店からジュンヤが出てきた。
が、なぜかその表情がさえない。

「?どうした」
「・・いや、売っていいって言われてた物を
 ざっと売ってお金作ってきただけなんだけど・・
 なんというか・・ちょっと・・緊張した」
「?まさか・・オカマだったのか?」
「いや、女の人の服着てたから女の人・・・・だったと思う。
 ・・トカゲ・・・さん、だったからわかりにくいけど・・」
「・・・・・」

その後、その店の店主はトカゲ(こっちではアルゴニアンというらしい)の女性で
同じトカゲの娘さんがいるとか知るまでそう時間はかからなかったが
とにかく街の地形の把握や店の営業時間などを調べ
必要ないけど酒や食料で晩ご飯を終えたら
やっぱり必要ないけどあとは寝るだけだ。

人通りが少ないから外に出ようというダンテの意見は
人が少なかったら何するつもりだという話で却下された。
ジュンヤも少しくらいは外に、と思いはするが
まだよくわかっていない世界の夜を歩くのには抵抗がある。

で、夜の時間をつぶすにあたって部屋割りをしなければならないのだが
最初2つある寝室のうち大きい方をダンテにゆずろうとしたが
壁際にベッドがある方がいいとの事でダンテは小さい方の部屋を選んだ。
たぶん最初広い方のベッドを使っていたがヒマしてバカして転がり落ちたので
壁際にベッドがある方がよくなったのだろう。

そんなわけでジュンヤは今大きい方の部屋にあった窓際の机で本を読んでいる。
それは整理の合間に読みたい物があれば好きにしてくれてかまわないと言われたので
分かりやすそうなやつをわけて取っておいたのだ。

こちらの文字など読めないかと思っていたが
言い回しや内容にちょっと首をかしげる所はあっても読む分には問題なし。
時々ぶ厚さのわりに短い内容の本などもあったがジュンヤはあまり気にせずに
室内の明かりと窓から差し込んでくる星の明かりをたよりに
それらを黙々と読み進めていく。

「・・・おい」
「・・・・・」
「・・・おい、相棒」
「・・へ?」

ふいの呼びかけにそちらを見ると一体いつからそこにいたのか
ダンテが部屋の入口にもたれてこっちを見ていた。
そう言えばここにはドアがないのでノックができないし
遮断する物が何もないので中の様子はつつぬけだ。

「・・あ、ゴメン。なに?」
「何読んでるんだ」
「整理してる合間にとっておいた本。
 聞いてなかっただろうけど興味があれば読んでいいって言われてた」
「・・・・・」

ダンテは無言で歩み寄ってくると机の上に積んであった本のタイトルをざっと見た。
悲運の騎士、デイドラ全書、子供向けアヌの伝記
呪文の手引き、大いなる天空、ペリナルの歌全8巻などなど
そしてジュンヤが今読んでいるものにはオブリビオンについてとある。

「読んだ方がよさそうなのと簡単そうなの、あと挿絵のあったやつだけだけどな。
 あんまりカルメラさんに頼り切りってのも情けないし
 こっちの知識を少しくらいつけてても損はなさそうだし」
「・・この8つもある長ったらしいやつも今日中に読むつもりか?」
「いやそれは最後の時間があいた時用のつもり。
 ちなみにそれ、たぶん本人じゃないんだろうけどカルメラさんがいた」
「・・?」

なんだそりゃと思いつつ言われた本を手にとって開いてみると
確かに挿絵のところにあの鎧の騎士様らしき人がいて
金色のなんかごてごてしい奴と戦っている。

おそらくそれがウマリルとかいうやつでダンテが今借りている剣の主なのだろう。
それがどんな奴でどんな話があるのかはちょっと気になるが
8巻もあるものを読破する気はカケラもないので
あとでダイジェスト版で聞こうとダンテはズボラな事を考えた。

「で、オマエ今日は眠らないつもりか?」
「読み疲れたら寝るつもりだけど、前にぐっすり寝たから大丈夫だと思う。
 それよりダンテさんこそ半分人間なんだから
 ちゃんと寝れる時に寝ておいた方がいいんじゃないか?」

しかしそうは言われても年上かつ大人の立場上
勉強してる子供を置いて先に寝れるほどダンテは図太くない。

ガキのくせに余計な所で大人びてるヤツだなと思いつつ
ダンテは机の上にあった小さめの本をふんづかむと
どすりとベッドに腰掛けて本を読む体勢をとるのでジュンヤは目を白黒させた。

「え、ちょっと何やって・・」
「付き合う」
「はい??」
「邪魔しないなら別に良いだろ」
「・・?いいけど・・でもダンテさん、寝なくていいのか?」
「生憎とそんな気分じゃなくてな」
「・・・ふーん」

なんだか昼寝を拒否る子供みたいなセリフだったが
ちょっかい出してくる様子も暴れる様子もないので
ジュンヤはそれ以上追求せず手持ちの続きを読み進めることにした。

でも少したってから気になって横目でダンテを盗み見ると
むずかしい顔をして足を組み小さな本にじっと目を通している。
本のタイトルが『錬金術の基礎』だったのがちょっと笑えるが
とにかくダンテはそうして黙ってじっとしていれば普通にかっこいいおじ
・・いやいやお兄さんだ。

でも数秒もたたないうちにその眉間に深いシワが寄りだしたので
この調子だと5分ももたずに放り出しそうだなと思いつつジュンヤは読書を再開した。
幸いダンテが邪魔せず大人しくしていてくれたので
それ以後は何事もなくしおりも使わずに数冊読めた。

でも最近本なんてまったく読んでいなかったので
眠気は来ずとも目の方が疲れてしまった。

ちょっと休憩しようと思ってふと横を見ると
腰掛けていたはずのダンテがいつの間にかベッドにつっぷし
死んではいないだろうが屍(しかばね)みたいになっていた。
たぶん彼なりにがんばって努力はしたのだろうが
根気とか退屈とかめんどくささが重なって眠気様に負けたのだろう。

早い話が寝おちというやつだろうがその気持ちはよくわかるので
ジュンヤはこっそり笑いながら席を立つと
起こさないようにその手から本を取り上げベッドサイドの棚に置き
結局ダンテが寝るはずだった小さい方の部屋に行って今日はもう眠ることにした。

あまり使わない部分が疲労したせいか、それとも心配事がいくつか減ったせいか
今度はそう時間もたたずにすぐ眠ることができた。




さてそれから数時間後のAMの4時くらい。
寝ていたジュンヤは下から聞こえてきたある音で目がぼんやりさめた。

ゴッゴッゴッゴッゴ  

それは固い物が石畳を歩く音だ。
でもダンテの歩調にしては間隔が短く音も固いし
ここに入ってこれる可能性からしておそらく・・。

きい バタン ゴッゴッゴ

「・・・・・」

ゴッゴッゴ きい バタン

「えわああ!カルメラさん無言で去らないでぇええ!!」

普通にUターンしドアを閉めて遠ざかろうとするその音に
ジュンヤは転がり落ちるくらいの勢いで飛び起きた。






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